Coolier - 新生・東方創想話

必殺輝夜ブリーカー

2007/01/22 01:08:08
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 ……まぶしい。障子を突き抜けた日の光が私の顔を照らす。
 そのまぶしさに私は眠りを覚ます。
 私の名前は蓬莱山輝夜。フリーの蓬莱人よ。
 布団から抜け出し、障子を開けて外を見る。
 外はもうすでに日が高く昇っていて青空が広がっている。もう10時ごろといったところか。
 外はいい天気だ。こんな日に、私がすることは決まっている。
 寝よう。
 一瞬で決断し私は何事もなかったように布団に潜り込んだ。
 外がいい天気だろうが知ったことか。そんなもんは見飽きた。
 天気ごときに私の一日が邪魔されてたまるか。
 私は暖かい布団で温まる。このまだ意識がはっきりしない中寝るのが一番いいんだって。
 ああ・・・・・・幸せ。
 そんな幸せをぶち壊すダラズがやってきた。
「姫様ー、いいかげん起きてくださいよー」
 制服うさぎが覇気のない声で私を起こそうとする。
 空気の読めない奴め。相手をして目が覚めちゃったら幸せ半減じゃないか。
「ひーめーさーまー!」
 空気読めない鈴仙が私の布団を引っぺがそうとする。
 私はすぐに布団の中から鈴仙を蹴っ飛ばし邪魔者を排除した。
 私はまた布団を頭までかぶりなおした。
 しっかしそれにしても暑いな。ちょっと汗までかいてきた。布団かぶりすぎかな。
 それに、まぶしい。まぶしすぎる。私の部屋のなかは日の光に満ち溢れていた。
 目があけていられない。ほんとに日の光は嫌になる。宇宙の法則でも乱れたんだろうか。
「ってそんなわけないだろ!常識的に考えて!」
 私はこの異常な状態を一刻も早く解決し幸せを得るため起き上がり、日のさす障子の方向を向いた。
 なにか、光るものがこちらに突っ込んでくる。
 なんだろう、あれ?彗星かな?いや、彗星はもっとぶわーって・・・・・・
「元気かニートォ!!!」
 私が阿呆なことを考えてる間に、彗星13号(仮名)は火の鳥を背負ったまま障子を蹴破って私の部屋になだれ込んできた。
 炎と熱風が私の部屋に吹き込む。
「甘い!畳返し!」
 私はとっさに足元の畳を強く叩きひっくり返し畳を壁にして炎を防ごうとした。
 どこからかギャー!という鈴仙の悲鳴が聞こえた。まだいたのか。本当に空気の読めないやつめ。
 私が余所見をやめてまた前を見ると畳がすっかり燃えている。
 あ、そっか、畳って燃えるもんね。私も炎に包まれた。
「ぎゃー!!!」
「あっはっは、朝から元気だねえ輝夜!」
 コメット13号(仮名)が私の傍で爆笑している。
「ふん、起き攻めに成功したぐらいで図に乗るな!」
「立ち回りでも圧倒してやろうか?食らえ!フジヤマ……」
「何事ですか!」
 妹紅が発火しようとしたその時、永琳が勢い良く襖をあけて私の部屋に入ってきた。
「ちいっもう来やがったか!」
 メテオ13号(学名)はすぐに体を反転、迷うことなく外へ撤退の道を選んだ。
「逃がすか!追うわよ永琳!」
 私はすぐさまそとへ駆け出そうとする。
「お待ちください姫様」
 永琳の冷たい声が私の背中に浴びせられる。あれ?怒ってる?
「この部屋の惨状はどうしたというのです?」
 私は部屋を見渡す。
 畳張りのきれいな和室は畳はすべて焦げ、掛け軸は焼け落ち、炭だらけの真っ黒い部屋と化していた。
 後は、焼きうどんがあるぐらいか。どうでもいいけど。
「あ……えーっと……急に妹紅が飛んで来たので……」
「妹紅が飛んでこようとボールが飛んで来ようとちゃんと処理してもらわないと困ります!」
「あー、2Pカラーってことで駄目かな?ほら、黒だし!強そうじゃん!」
「……」
 あ、とうとう返事が返ってこない。こりゃまずい。
「はい、すいません。片付けます」
「よろしい」
 永琳は微笑むと満足したように自分の研究室へ帰っていった。
 しかたないので屋敷の兎達を呼び寄せ、畳、障子を張り替えさせ部屋を掃除させ、焦げた鈴仙を庭に投げ捨てさせた。
 兎達によって、私の後始末もある程度の形にはなった。
 あー疲れた。なんにもやってないけど。
 よし、妹紅を追いかけよう。しかしもう昼前になってしまった。
 永琳は……どうしようか。さっき怒らせてしまったし、仕方ない、私一人で行くとするか。
[妹紅で遊ぶ][永琳を怒らせない]両方やらなくちゃいけないのが私の辛いところだな。






 私は竹林の奥の、もう何回やってきたかわからない妹紅のボロ家にやってきた。
 まあ、ボロいのは毎回私達が壊すからなんだけどね。
 私は近くに半獣がいないことを確認すると、勢い良く引き戸を開け家の中に突撃した。
「あの世で私にわび続けろ妹紅ォォォ!!!」
 探すまでもなく妹紅は玄関にいた。
「うっさい邪魔だぁぁぁぁぁ!!!」
 んでもっていきなり蹴られた。
「もう少し宿敵のライバルとの邂逅を楽しんだらどうなのよ?回想シーン含めて2時間ほど」
「悪いが私は出かけるんで急いでるんだ。邂逅シーンは大人の都合でカットだ。とっととやられてくれるか?」
「ふん、そう簡単にやられないわよ!食らえ難題その一、龍の頸の玉!」
 私は手始めに簡単なスペルを放つ。
「インペリシャブルシューティング」
「いきなりラストスペルかよぉぉぉ!ふげっ」
 妹紅の血も涙も無い攻撃に私のチンケな弾幕はかき消され、私はカリスマもへったくれも無い声を出して吹っ飛んだ。
「くっそう……難題その二、仏の御石の鉢!」
「いんぺりしゃぶるしゅーてぃんぐ」
「またラストスペルだなんて……あんたって人はぁぁぁ!!!」
 私はもはやかませ犬みたいなセリフを吐きながらぶっ飛んだ。
「なんでいきなり最強技使うんだよ!お約束ってもんがあるでしょ!」
 妹紅は両手をあげるとやれやれと言ったように首を振って答えた。
「ん、ああ、1から108まで律儀に順番に技出してるぐらいなら最初から108の力で戦えってけーねが言ってた」
「あんの牛がぁ……余計な入れ知恵しやがって……もう怒った!奥義!蓬莱の樹海!」
 私は持てる力全てを使い最大限の弾幕を張った。どっかの都会派魔法使いみたいに手加減なんかしない。
 ただ、目の前のもんぺを吹っ飛ばすことだけを考えた。ん?いやキレてないっすよ。私キレさせたらたいしたもんっすよ。
 しかし、妹紅はそれをなんなくかわした。
「はっはっは!甘いあまーい!今の輝夜、お前に足りないものそれは!情熱思想理念胸身長頭脳気品カリスマ出番優雅さ勤勉さ!
そして何よりもっ!速さが足りないっ!!!」
「カリスマは関係ないだろうがぁぁぁぁぁ!!!」
 私はムキになって妹紅に弾幕を張り続ける。
「ニートのお前には分かるまい!この私の体を通して出るこのパワーが!」
 妹紅は弾幕を掻い潜ると跳躍し、私の後ろを取った。
「し、しまった!」
 私は死亡フラグ確定なセリフを吐き振り向こうとしたが遅かった。
 妹紅は背中から私の腹に両手を回し……
「妹紅ブリーカー!!!死ねぇっ!!!」
 思い切り締め上げた。
「うげっ」
 私は思わず膝を突く。
「ほら、今日も私の勝ちだ。満足したなら私はもう行くぞ」
「ふっふっふ……私を倒しても必ずや第二第三の輝夜がお前を襲うだろう……」
「まだ元気そうだな。もういっちょ、妹紅ブリーカー!!!」
「ぐはっ……」
 私の意識は闇に落ちた。寝るなら布団の中が良かったなあ。えーりん連れてくればよかった。





「ん……」
 私は全身に痛みを感じながら目を覚ました。地べたで寝ることなんか慣れてないっての。
 どのぐらいの時間がたったのだろうか。まだ日が昇っていることからたいした時間は経っていないようだった。
 しかたがない、今日は帰ろうかなあ。
 そのとき、ぐー、とお腹がなった。
 そういや、昼ごはん食べてきてないんだった。お腹空いたな。
 ここから永遠亭まではまだ少し距離がある。
 私は里で少し食事を取っていくことにした。
 こんなときのために多少のお金はがま口に入れて持ち歩いている。
 まあ、えーりんに念のためといって無理やり持たされただけなんだけどね。
 まさか役に立つとは。ありがとーえーりん。


 妹紅の家から里まで徒歩10分。
 昔は竹林の奥深くでひきこもってたみたいだけど最近里によく出かけるみたいで引っ越したらしい。
 こんな近くに住むなら里に住めばいいのに、あのひねくれものめ。
 でも里に住まれたらもう妹紅の家で暴れられないな。やっぱ里なんか行くんじゃねえ。
 里に着いた私は、とりあえず適当な食事を取れる場所を探し、歩き回った。
 すると、なにやら魚を焼く良い匂いがしてきた。
 その匂いは近くにある食堂から流れてくるようだ。
 私はその匂いに釣られてふらふらとその店に入っていった。
 ええい、意地汚いんじゃない、私の美食を求める本能が体を勝手に動かすのよ。
「いらっしゃいませー!」
 案内の娘が元気よく挨拶し、私を席に誘導してくれた。
「ご注文はどれになさいますか?」
「そうね・・・・・・この流れてくる良い匂いはなんなの?」
「これでございますか、これは本日の蒲焼定食の鰻の匂いですね」
「へー、そうなの。おいしそうね。じゃあその蒲焼定食をお願いするわ」
「はい、かしこまりました!蒲焼定食一つ!」
 娘は元気よく確認すると厨房へ引っ込んでいった。
 元気なのはいいが定職定職連呼しないでくれ。心が痛む。
 私はぼけーっといかに昼寝を快適にするかを考えていたところ、娘が蒲焼定食を運んできた。
「はい、こちらになります!」
「はひっ!?」
 娘の元気の良い声に驚き私はすっとんきょうな声を上げてしまった。あぁ恥ずかしい。
 それにしても作るの早いな。良い仕事してるじゃないか板前。
 鰻の良い匂いが私の鼻腔を刺激する。ああもう我慢ができない。
 私はいてもたってもいられず、たれのかかった鰻をご飯に乗せ、口に運んだ。
「こ、これは……!」
 ありえない。おいしすぎる。これまで永遠を生きて私が食べてきたものはなんだったのか。
 目からうろこが落ちるようだった。
 鰻の質、焼き加減、たれ、そしてそれにあうようなご飯の固さ。
 全てが調整されつくし、その調和が奇跡を起こしている。
 たかが蒲焼と侮るなかれ。
 おいしい蒲焼を作るためには串打ち三年裂き八年、焼きは一生と言われるまで長く弛まぬ修練が必要なのだ。
 この蒲焼のここまでの熟練具合……まるで永遠を生きてきたかのようだ。
 私は瞬く間に完食してしまった。
 ここまで蒲焼を作るものとはいったい誰なのか。
 私は気になってしょうがなく、うつわ片手に娘の制止を振り切って厨房に乗り込んだ。
「この蒲焼を作ったのは誰だぁっ!!」
「ちょっと困りますよお客さぁぁ!?」
 なんと、厨房の中で素っ頓狂な声を出した阿呆はご存知もんぺこと妹紅だった。
「おい、妹紅こんなとこでなにやってんのよ。割烹着なんか着ちゃって」
「それはこっちのセリフだ!私はここの厨房で料理番してるんだよ。お前こそ何やってんだ!」
 え?なんか言った?私はここで料理番をしてるって?アーアーキコエナーイ。
「……ってことはこの蒲焼作ったの妹紅?」
「ああ、そうだよ」
「嘘だっ!!!!!!!」
 もうブチ切れましたよ、ええ。読んでる小説のネタバレされたくらいむかついた。
「インド人嘘つかないアルよ」
 妹紅がいけしゃあしゃあと答える。
 お前はどこの人だ。
「とにかく!お前にこんな料理作れるはずがあるかっ!!」
「ふん、嫉妬か。醜いな」
 ニヤリと笑う妹紅。
「この程度の料理……、いや!これ以上の料理私なら簡単に作れるわ!」
 やっちまったよ私のお家芸適当なはったり。料理なんか最後に作ったのいつだったか。
 助けてえーりんえもーん。
「ほう……言うじゃないか。なら、どっちの料理が上か勝負しようじゃないか」
「いいわ!受けてたつわよ!」
「よし、勝負の日は一週間後、私の次の休みの日な」
「え。いや、もうちょっと後のほうがいいんじゃない?百年後とか」
「何言ってんだ。この程度の料理簡単に作れるんだろ?勝負と連打は早ければ早いほうがいいってけーねが言ってた」
「く……わかったわよ。首を洗って待ってなさい!」
 私は急いで帰ろうとした。帰って秒速16連射の練習……じゃなくてえーりんに泣きつかないと。
「あ、そうだ輝夜。いいこと教えてやろう。ニートが鰻の蒲焼を食べるとな、鼻の頭に血管が浮き出るんだぜ?」
 私は鼻の頭を触って確認してみる。
「何よ、浮き出ないじゃない。嘘っぱち」
「あっはっは!もちろん嘘だ。だがマヌケは見つかったようだな!」
 妹紅が爆笑している。
 私は妹紅の脛を思い切り蹴飛ばし、涙目の妹紅をおいて永遠亭へ急いだ。
 あ、勘定払ってないや。まあいいや、妹紅のツケで。





 私は永遠亭に帰るとすぐに、永琳の部屋へ一目散に向かった。
 永琳の研究室の扉を少しだけそっと開け、中を覗き見る。永琳いるかな。
 中を見ると、永琳は忙しそうにネギをくるくると振り回していた。
 天才の考えることはよくわからない。まあいい、ともかくいるみたいだ。
 私は扉を開き中に入る。
「ねえ永」
「誰だっ!!![葱符]長ネギオブグングニルァ!!」
 永琳は振り向くと手に持ったネギをものすごい勢いで投げつけてきた。
 どごぉぉんという爆音と共にネギはコンクリートを砕き私の顔の横の壁に突き刺さった。
 ほんとにこれネギかよ。
「外したかっ!!ならば続いて[葱符]葱色の幻想郷!!!」
「ちょ、ちょっと待って永琳!!!」
 大量のネギを引っつかんだ永琳を慌てて止める。
 なんて危ない奴なんだ・・・・・・。
 ねえエーミン。こっちむくな。
「ん、なんだ姫じゃありませんか。どうしました?」
「いやー、妹紅と料理で勝負することになっちゃってさ。助けてほしいなー、なんて。
 食べた者を操る薬とか妹紅を毒殺する薬とか作ってくれない?あ、一日で料理の達人になる薬とかでもいいわよ」
 永琳はにっこりと微笑むと答えた。
「お断りします」
「へ……?」
 予想外の答えを返されて私は戸惑った。
「姫はいつも私に頼ってばっかりで情けなくないんですか?」
「それは……」
「妹紅と[勝負]をする以上姫も実力で戦うべきではないんですか?」
「い、いつも助けてくれたじゃない!」
「最近の姫は他力本願過ぎます。部屋の片付けも兎達にやらせたのでしょう?」
「ううう……」
「とにかく、私は姫のお助けはできません。これも姫のためです」
「わかったわよっ!私一人で勝ってみせるわよ!」
「ええ、頑張ってください。応援しています」
「応援してくれるなら……ちょっとこれ貸してねー」
 私は永琳の本棚から適当に料理に使えそうな本を引っ張り出す。
「ちょっと姫、困ります!」
「永琳に鉄鍋の輝夜とまで呼ばれた私の料理を見せてあげるわ!」
 私は本をまとめる。
「もってかないでー」
「それじゃ、永琳借りていくからー!」
 私は本を抱えて永琳の研究室から駆け出す。
「葱色マジック!!!」
 部屋を出る際に私の横の壁にネギが突き刺さった気もしたが、きっと気のせいだろう。


 私は部屋に帰ると借りてきた本を広げ物色し始めた。
 適当に一冊を手にとって開いてみる。
 これは小説のようだ。いきなりはずれか。とりあえず、私は文字に目を走らせた。
「そう…そのまま飲み込んで……私のレーヴァテイン……」
 私は慌てて本を閉じると遠くに投げた。
 前言撤回、あれは小説なんかじゃない、もっとおぞましい何かだ。
 とりあえず、なかったことに。
 私は気を取り直して次の一冊を手に取る。
「料理勝負とは死狂いなり」
 死狂いとはなんだかわからないが、とりあえず今度は料理の本のようだ。
 私は安心してページを開いた。
「なになに……料理勝負はお互いの料理が完成し、その出来で勝負が決まる。
ならば相手の料理が完成する前に相手を倒してしまえばこっちの完全勝利!そう、殺ってしまえ!SATSUGAIせよ!SATSUGAIせよ!」
 なんつー本だ。
 しかし素晴らしい考えだ。心に留めておこう。
 だが残念なことに、この本にも肝心のレシピは載っていないようだ。
 私は次の本を手に取る。
「食の千年帝国」
 またうさんくさい本だな。
 永琳は普通の本持ってないんだろうか。
「成功を呼ぶコンソメスープの作り方……これだ!」
 どうも読んで見ると簡単な調理方法のようだ。
 よし、これを作ることにしよう。なんか効果もあるみたいだし妹紅の鼻を明かしてやろう。
 しかし、色々な材料が必要なようだ。兎達に集めさせるとしよう。隠し味は・・・・・・永琳の研究室から失敬するとしよう。
 取るんじゃない、借りるだけだ。私が死んだら返すぜ。
 そんな魔法使いの都合の良い言葉が頭に浮かんだ。
 私はすぐに、コンソメスープ作りの準備に入った。
「まず、必要な物は……」
 私は必要なものをリストアップする。
「鴨肉、チコリ、アスパラガス、ヴィネガー、各種ハーブスパイス12種類、ボルト酒……」
「コカイン、ヘロイン、モルヒネ、アンフェタミン、ステロイド系テストステロン、その他微量物質数十種類……」
 私は材料一覧を書き終えると、その後に後書きがあるのを見つけた。
「なお、この料理の安全性は保障しないものとし、この料理によるいかなるトラブルも当方はまったく関知しないので自己責任で作ること。別名ドーピングコンソメスープ」
 私は材料一覧を書き終えたが、何も見つけなかった。
 何も見なかったともさ。





 ……まぶしい。障子を突き抜けた日の光が私の顔を照らす。
 そのまぶしさに私は眠りを覚ます。
 私の名前は「フジヤマボルケイノ108式ィ!!!」
 ああ!熱い!私の体が燃えてしまう!
 ざんねん!わたしのぼうけんはここでおわってしまった!
「いつもうちの妹紅が世話になってすまないな」
「いえいえ、うちの姫こそ妹紅にいつも遊んでもらって……」
 遠くで慧音と永琳の話す声が聞こえる。
 あんたらは小学生の親か。
「ほら輝夜ー早く起きろよー」
「バーロー!!こういうのはプロローグが大事なのよ!邪魔するな!」
 私は枕元で私を覗き込む妹紅に向かって叫ぶ。
「ともかく、せっかくきたんだ。そろそろ起きてくれ」
 慧音までやってきた。
「わかったわよー」
 私は渋々承諾する。
「駄目だよ慧音!こいつ絶対二度寝するよ!」
「まあまあ、私達はあっちの居間の方で待たせていただくとしようじゃないか」
 慧音が渋る妹紅を無理やり居間へ引っ張っていった。
 助かった。
 寝るとしよう。
 私はすぐに横になり掛け布団に手を伸ばす。
 そこであるべき場所に掛け布団が無いことに気がついた。
 さっきの炎で焼かれたか。
 私は嫌々起きることにした。
 私が着替えて居間へ向かうと、妹紅達は兎達に囲まれ楽しそうに雑談していた。
 鈴仙や因幡までその輪に加わっている。いかん、それは孔明の罠だ。
「凄い!カグヤが立った!」
 私を発見した妹紅が目をまん丸にして驚く。
「当たり前でしょ、私がこの世で一番嫌いなものは二度寝とニートなの」
「あーあ、駄目だ。まだ寝てやがる」
 妹紅が大きくため息を吐く。
 私は走りこむと妹紅に飛び蹴りを食らわせ吹っ飛ばした。
 私が妹紅に追撃のフライングボディープレスをしかけ、それを妹紅がサマーソルトで迎撃し
お互いがつかみ合ったところで慧音による仲裁が入った。
「お楽しみのところすまないが、今日の料理勝負は3回勝負ってことでいいのだな?」
「え!?そんなの聞いてない!」
 コンソメスープしか準備してないって。
「何言ってんだ輝夜。そこは不文律のお約束ってやつだろ。お約束を操る程度の能力を持つ輝夜が泣いて呆れるな」
 ちょっと待て、私がそんな能力をいつ持った。
 しかし、お約束と言われるとコテコテ好きな私は弱い。
 この都合のいい展開が神の見えざる手ということだろうか。
 ともかく、料理勝負の火蓋は切って落とされた。


 永遠亭じゅうの兎達が厨房に集まった。
 いくら小柄の兎達とはいえ、永琳達を入れれば100人以上になるのに、それを収納してもまだスペースがあるとはさすが永遠亭、
100人入ってもなんともないぜ。
「では、第一回永遠亭料理勝負、[料理は数だよ兄貴!]を開始するよ!」
 因幡による司会進行が行われる。
「まずは赤コーナー!ある時は名家のお嬢様、ある時は炎の格闘家!はたしてお前は誰なんだァー!」
 妹紅にスポットライトが当たる。
「私か!?私はな……ただの健康マニアの焼き鳥やさんよォ!」
「赤コーナー!藤原妹紅!!!」
 妹紅がポーズを決めるとワーッと大歓声が上がる。
 いつの間にこんなに人気になってたんだ、お前。
「続いて……白コーナー!ご存知、姫!」
 簡単すぎる紹介が終わると私にスポットライトが当たる。
 ぱちぱちとまばらな拍手が鳴る。鈴仙拍手してないな。後で覚えてなさい。
「なんで妹紅ばっかりそんな大歓迎なのよ!」
「それは……やっぱり人気の差じゃないか?」
「うるさいこの健康オタク!」
「不健康そうだからやめてくれ」
 兎達の中から「だって姫様珍しくないし」とか声が聞こえた。
 まあ、それはそうだね。





 round1
「1戦目の審査員はこの私、因幡てゐが担当させていただきます。なお、私はただの料理に興味はありません。
美味、珍味、その他めずらしい料理に当てはまる料理があったら私のところに持ってきなさい!以上!」
 因幡の奴、偉そうに。
「そうそう、言い忘れてました。審査員の言うことは絶対ですのでそのつもりで~」
 因幡がてへっと大事なことをさりげなく言う。
 危ない危ない、もう少しで因幡におたまを投げつけるところだった。
 まあいい、私のドーピング……もとい美味しいコンソメスープで天に送ってあげるとしよう。
「珍味ねえ……」
 妹紅はそう呟くと冷蔵庫からグロテスクな大型の魚を取り出すと、フックで釣るし、手際よくさばきはじめた。
「妹紅ー、そのグロテスクな物体は何?」
 私はその奇妙な魚が気になって妹紅に尋ねる。
「これはな、アンコウだ」
「アンコウって何?」
「あ、姫。私知ってますよ」
 因幡がやってくる。
「アンコウとはですね、砂漠に住んでる人食い魚で、成長すると体長30メートルにもなり、なんと目からビームも撃てるんですよ!」
なんだか永琳の肩が震えている。
「えぇぇぇ!?妹紅知ってた!?」
「そ、そんな恐ろしい物だったなんて……慧音!本当なの!?」
「ああ、その通りだ。悪い子を食べてしまうらしいぞ」
 慧音が真面目な顔をして頷く。
 永琳が吹き出した。おかしな永琳。
 なるほど、アンコウか。夜道で会ったら用心ね。
「そういえば輝夜。なんであんたは調理を開始しないのよ」
 アンコウをあらかた解体し終わった妹紅が私に尋ねる。
「教えてあげるわ。私のコンソメスープの作り方にあった手順はこれだけ。数え切れない食材・薬物もとい隠し味を精密なバランスで配合し!
特殊な味付けを施して煮込むこと七日七晩!つまりそういうことよ」
「おいおい!まさかこれから一週間かける気なのか!?」
「そんな野暮なことはしないわ。これを見なさい!」
 私は隠してあった鍋を取り出す。
「完成品はこちらになりますってやつね」
 私はあの日、永遠亭に帰るとすぐに製作を開始していたのだ。
「ここで作らないのって反則じゃないのか?」
「あんたは3分クッキングにもそうやってケチをつけるって言うの?あの時間の限界にチャレンジした勇者達に!」
「くっ、それもそうだな」
 妹紅はあっさりと引き下がった。
 なるほど、屁理屈も言ってみるものだ。
「ほらほら、早く作っちゃいなさいよ」
 私は妹紅が屁理屈に気がつく前に焚きつけて話題を逸らした。
「わかってるよ!」
 妹紅はアンコウの肝臓を取り出すと、蒸し始めた。
 私は暇なので、さっき私に拍手してなかった鈴仙をいじめることにした。
「よし、完成だ!」
 私が鈴仙に逆エビ固めをしていると妹紅が叫んだ。
「よし、双方とも完成ね!」
 因幡によるアナウンスが入る。
 いよいよ、決戦開始だ。
「まずは赤コーナー、藤原妹紅選手から!さて、この料理は?」
「これはな、アンコウの肝臓、通称アンキモだ。居酒屋で出るような簡単な物だが、他所ではフォワグラよりも素晴らしい珍味として好評だ。わ さび醤油をつけて食べるといい」
「なるほどね、じゃあ頂くわ」
 因幡がアンキモを口に運ぶと兎達からてゐ様ずるいー、とブーイングが上がった。
 安心しなさい、私の料理はみんなの分があるから。
「なるほど、洋食のような脂っこさがなくすっきりしていて、且つ私にとっては珍しい食べ物ね。いい物を知ったわ。見事でした」
 てゐがまんざらでもなさそうな顔をしている。
 まずいな。だが私がこの静寂を破ってみせる!
「続いて白コーナー、蓬莱山輝夜選手!さて白コーナーの料理は?」
「見なさいこのコンソメスープを!こんどはみんなの分もあるわよ!」
 私が色、匂いともにおいしそうなコンソメスープを取り出すと、兎達から歓声が上がった。
 ふふん、どんなもんだい。
「さ、因幡。早く食べて頂戴」
 私はスープをすくうと盛りつけ、因幡に押し付けた。
 しかし因幡は天性の危機回避能力でそのピンチを凌いだ。
「う……。あ、鈴仙!おいしそうだよ!ちょっと味見してもいいよ!」
 因幡は皿を鈴仙に押し付けた。
「わぁー確かにおいしそうだね。でもいいの?てゐちゃん審査員なのに」
「いいからいいから!味見してごらん!」
「じゃあお言葉に甘えて……」
 鈴仙がグッっとスープを飲み込む。
「ゲボッ……!」
 鈴仙が嫌な声を出しながら倒れた。
 青い顔をして動かない。
 私の鍋に群がっていた兎達がサーっと散っていく。
「えーと、KO一本勝ち?」
「んなわけあるか!」
「この勝負、赤コーナー藤原選手の勝利とします!」
 てゐによる判定が下される。
 おかしい、飲むと全身が筋肉むきむきになるはずだったんだけど・・・・・・どこかで間違えたんだろうか。



 round2
「さて、困ったな。第二試合の審査員は鈴仙がやる予定だったんだ」
 慧音が困った顔で説明する。
 名誉の戦死を遂げた鈴仙は永琳に医務室に連れられていった。
「しかたがないから私が審査員をやろうか?」
 慧音が提案する。
「待ていっ!!!!!」
 その瞬間、厨房に叫び声が響いた。
「誰なの!?」
「貴様らに食わせる飯は無いっ!!!」
 叫び声とともに厨房に紅白の影が突っ込んできた。
 しかし飛び込んできた紅白の巫女は兎達に囲まれるとボコボコにされあっという間に捕まった。
「お腹さえ空いてなければ……」
「で、何しにきたわけ?」
 私は縛られた阿呆巫女に問いかける。
「ここならタダでご飯が食べられるって聞いて……」
 霊夢がうなだれる。
「輝夜、妹紅。霊夢に審査員をやらせてあげてくれ。あまりに不憫すぎる」
 慧音がほろりと涙を流す。
「ありがとう慧音!私は肉がいいわ!肉が食べたいの!」
 霊夢が元気を取り戻す。
 こうして、二戦目のお題は肉料理となった。
 どうしよう、私は肉料理なんか知らない。
 仕方が無いので牛肉の塊をまな板の上に乗せ、包丁を振り下ろしてみる。
 ガッという小さな音と共に私の包丁の刃は1cmも肉を切ることができずに止められてしまう。
 反動で手が痛む。
 駄目だ、キャベツみたいに簡単に真っ二つにはならない。
 絶望して妹紅を見るとなにやら小さな肉をいじくりまわしている。
 何をやっているのかはわからないが、妹紅はやるべきことが分かっているようだ。
 不味い、このままでは二連敗で負けてしまう。
 何か逆転の手立てを考えなくては……。
 その時、逆転の秘策を閃いた。
 これが、私のたった一つのさえたやりかた。
 そう!相手が料理を完成させる前に殺ってしまえ!
「料理はこぶしだぁぁぁぁ!!」
 私は雄たけびを上げ妹紅に突進した。
 しかし妹紅はくるりと体を反転させると、私が妹紅に触れる前に手に持った包丁を私ののど元に突きつける。
「頼むから、手が空いてないときに邪魔しないでくれ。危ないから」
 至極まっとうなことを言われ、私の奇襲は出鼻を挫かれ失敗に終わった。
 どうしよう。どうする、どうするよ私!?
 しかし選ぶ選択肢なんか無いみたいだった。
「遅い!遅い!遅い!早く食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろォ!!」
「でたぁ~!霊夢さんの一秒に十回食わせろ発言だぁ~!」
 馬鹿巫女がなにやら騒いでいる。兎達もはしゃぐんじゃないの。
 しかたない、私は肉の塊を切ることをあきらめ、適当にそのまま焼いてみることにした。
 まあ、なんとかなるでしょ。
「よし、双方共に料理が完成したみたいだね!これより審査に入るよ!」
 因幡によるアナウンスが入る。
「まずは赤コーナー!」
 妹紅が薄い黒色をした小さな肉を差し出す。
「これは、牛肉のなかでも最高品であるフィレ肉の、さらに最高級品であるシャトーブリアンを厳選したミディアムステーキだ。
 味は保障する。存分に味わってくれ」
 その形、色、匂いいずれもすばらしいステーキを見て兎達が歓声を上げる。
「ブラボー、おおブラボー!」
 いいなー、私も食べたい。
 皿が霊夢の前に運ばれる。
「肉だぁぁぁ!!!」
 霊夢は肉を切り分けることもなく一口で食べてしまい、一瞬で完食してしまった。
「ん、おいしい」
 そのあまりに乱暴な食べ方にみなが声を失う。
 「……さて!続いて白コーナー!」
 因幡が無理やり場をつなげる。
 私は焼いた肉の塊を出す。
「語ることなんてないわ。全てはこの料理が語ってくれるわ」
 なんのことはない、自分でもなんだか分かっていないのだ、喋ることが無いだけだ。
 私が出した肉は量こそは多いものの、切り分けずに適当に焼いただけなので一部は焦げすぎて炭化しており、
 かとおもえば上部にはまったく火が通ってなかったり酷い出来であった。
 それを見た兎達がどよめく。
「ミンチよりひでえ……」
「だがそれがいい」
「さすが姫!私達に出来ない料理を平然と作ってみせるッ!そこに痺れる!憧れるゥ!」
 褒めてるんだか馬鹿にしてるんだかはっきりしなさい。
 皿が霊夢の目の前に運ばれる。
「肉だぁぁぁ!!!」
 とてもじゃないがあまり食べたくはない肉の塊に霊夢がむしゃぶりつく。
 そして瞬く間に山のようにあった肉が無くなり完食してしまった。
「いやー食べた食べた。んじゃ帰るわ」
「ちょっと待って!審査員でしょ!」
 私は慌てて引き止める。
「そういえばそうだったわね。勝者は……」
 私と妹紅はごくりと息を飲む。
「輝夜の料理!」
「な、なんであんな肉の塊が勝つんだよ!」
 妹紅が当然異議を唱える。
「簡単なことよ。量が多かった」
「はっはっは、甘いな妹紅!食べる相手をよく見るんだね!」
「お前のは絶対偶然だぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ともあれ、これで1対1。
 勝負は次の試合で決まる。




 final round
「最終戦の審査員は、この私、八意永琳が担当させていただきます。なお、私は他の場所でも食べられるようなおいしいだけの料理は所望しません。私が食べたいのは、この場でしか食べられない物です。その意味を考えて料理をお願いします」
 永琳によるラストオーダーが入る。
 さて、今度は料理の指定まで無いときた。
 いったいどうしようか。
 おいしいものに興味は無い、か……。
 そうだな、カップ麺でも作ろうか。
 簡単だし私にもできる。
 私はやかんに水を入れ火で熱し、その間にどれを作るか選ぶことにした。
「うーん、カップヌードル、UFO、ペヤング、どれにしようか。永琳宇宙人だしUFOでいいかな」
 ま、私も月人なんだが。
 そんなことをしてるとどうもチリチリと背中が熱い。
 背中だからやかんの熱気ではない。
 後ろを振り返ると、妹紅が炎の羽を背中に展開したまま焼き鳥を焼いていた。
 焼き鳥を焼いてるのはいいんだがその炎の羽が私に当たっている。
「おい妹紅。ちょっと炎の羽当たってるんだけど」
「当ててんだよ」
 OK、その喧嘩買った。
 私はビビンバ皿ことブディストダイアモンドを掴むと投げつけた。
 しかしその直球は妹紅に難なくキャッチされ、剛速球となって帰ってきた。
「げっ……」
 回避不能。避けられない死。
 投げ返されたブディストダイアモンドは私の頭部に直撃した。
 ゴシカァンと言う打撲音をみずから聞いたのを最後に、私の意識はぷっつりと途切れた。
 お父さんお父さん、魔界神が私を追ってくるよ!
 安心しなさい、それは風に揺れるタダのアホ毛だ。
「……や、……ぐや!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
 私は急に目を覚まし体を起こすと、私を覗き込んでいた妹紅に頭突きを決める結果となった。
 危ない危ない、もう少しでボーダーオブライフを越えるところだった。
 それにしてもなにか恐ろしい物に追いかけられたような……?
「悪いな輝夜、少しやりすぎた」
 妹紅が珍しく素直に謝ってきた。
「いや、気にしないで……んっ!?」
「ど、どうした輝夜!」
「いや、なんでもないわ……」
 そうか、そうだったのか。
 今理解した。
 私は分かったよ!永琳が言った言葉の意味、頭ではなく心で理解したっ!!
 永琳に喜んでもらえるものってなんだろう。
 やっぱりこれかな。
 私は私を撲殺し損ねたブディストダイアモンドを手に取る。
 私は私が最後に作る料理を決めた。
 作り方、どうやるんだったっけ。私はもやしやほうれん草を刻みながら必死に昔を思い出そうとする。
 確か……こうやったはず。私はかすかな記憶を頼りに牛のひき肉を炒める。
 昔はあんなにもいっぱい永琳と一緒に作った料理だったというのにこんなにも記憶が薄れているなんて情けない。
 いつからだろう、私が寝てばかりになったのは。いつからだろう、永琳が私に微笑みしか向けてくれなくなったのは。
 ねえ永琳、私もたまには、かっこいいところ見せてもいいでしょう?そんなことを思いながら、
 私は個々に刻んだもやしやほうれん草を炒めひき肉と混ぜ合わせた。
「双方共に最後の料理が完成したね!最後の判定を開始するよ!」
 ……。
「まずは赤コーナー!藤原選手!」
「私が永琳の為に作った料理はこれだ」
 妹紅が焼きたてのいい匂いをさせた焼き鳥を差し出す。
「お客さんのために作ること数百年。焼き鳥屋妹紅のできる最高のおもてなしだよ」
 永琳がその焼き鳥を口に運ぶ。
「さすが妹紅、あなたは料理人にとって一番大事な物がちゃんとわかっているみたいですね。
ただ、その気持ちはいつか薄れ失ってしまいやすいものです。いつもでもその気持ちを忘れないでくださいね」
 ……。
「続いて白コーナー!蓬莱山選手!」
 私はそっと不恰好なビビンバを取り出す。
 ひき肉はうまく切れずにボロボロ、野菜も長さがまちまちで炒めすぎてコゲたものまである。
 見た目はお世辞にもいいものとは言えない。
 それでも、真面目に永琳のことを考え、ためを思って作ったものだ。
「永琳、いつもありがとう」
 今度は、本当に他に語るべき言葉はなかった。
 私が永遠亭で永琳と共に暮らすようになってばかりいたころ、ふさぎがちだった私を誘って永琳が一緒に作ってくれた思い出の料理。
 いつからか、私はそんな永琳の好意を当然の物としか見なくなっていた。
 料理は心か、そんな言葉もあったっけ。
 所詮気休めに過ぎないと思っていたが、確かに今は気持ちいい。
 このままもし負けてしまっても、もう悔いは無い。
 確かに機械的に作られたものを食べても喜びは無いだろう。
 思えば私が里で食べた蒲焼に感動したのも妹紅がお客さんに向けた想いに感動したのかもしれない。
 永琳がビビンバを口にする。
「姫」
 永琳がこちらを見つめる。
「姫の想い、確かに受け取りましたよ」
 永琳が、にっこりと、笑った。
「さあ、最終ラウンド、その判定は!?」
「引き分けとします」
「えぇぇぇぇ!?」
 因幡が驚きの声を上げた。
「私の為に込められた想いに、優劣をつけることは出来ません。この試合、引き分けとします!」
「な、なんと!最終ラウンドの判定は引き分けです!よって、1-1より、第一回永遠亭料理勝負、
[料理は数だよ兄貴!]は勝者無し、引き分けとします!」
 妹紅との勝負は引き分けに終わった。
 でも、そんなことはどうでもいいや。
 よかった、永琳やっと笑ってくれた。

















 ……まぶしい。竹林の隙間を抜けた月の光が私たちの顔を照らす。
 私は妹紅を永遠亭外の夜の竹林に連れ出していた。
 私と妹紅は夜の林道を歩く。
「いったいなんなんだよ輝夜」
「二人っきりで反省会でもどう?なんてね」
「反省会、ね。まあ、正直ここまでやるとは思ってなかったよ」
「どういうことよ」
「絶対永琳に頼ってイカサマしてくるかなー、と思ってた。でも、ちゃんと真っ向勝負で挑んできた。
正直、ちょっとだけ見直したよ。ちょっとだけね」
 妹紅が顔をそっぽに向けて返事をする。
「そんなこと言ったら妹紅、あなただって。最終試合で私を炎の羽であぶってきたの、考えがあったんでしょ?」
「な、何の話だ?」
「アレは、私が適当にカップ麺を作るのを止めるためでしょ?私が永琳に完全に見捨てられないように」
「ははは、そんなわけないよ。私はただ輝夜の邪魔をしてやろうと思っただけだ」
「嘘。妹紅は料理の途中で邪魔してくることなんてそれまで絶対になかった。
私がちょっかい出しても、料理中だけは絶対真剣にやってた。なのに、あんなことしてくるってことは……」
「……」
「ありがとう、感謝してるわよ」
「だから私は何も知らん!」
 妹紅が顔を赤くして否定する。
「まったく、素直じゃないんだから」
 私はそう言うと体を寄せ妹紅にくっつき寄りかかる。
「か、か、かぐやぁ!は、離れろ!」
 妹紅が顔を真っ赤にして叫ぶ。
 しかし私は無視してくっつき続ける。
「……いい月ね。いつまでもこうしていたいと思わない?」
「あ、あ、あうう……」
 妹紅が何かしゃべろうとしているのだが、言葉になっていない。
 もう、耳まで真っ赤だ。
 私は妹紅の顔に顔を近づけると、そっとささやいた。
「ね、妹紅。ちょっとだけ、目をつぶって……」
「!!!!!!」
 やはり妹紅の言葉は言葉にならない。
 妹紅はぐっと力いっぱい目をつぶると、がちがちに固まっている。
 少し、力みすぎだろう。
 私は妹紅が目をつぶったのを確認するとそっと背後に回った。
「輝夜?」
 何も起こらないことをおかしく思ったのか、妹紅が目をつぶったまま私の名を呼ぶ。
 私はその問いに答えず、妹紅の後ろに立つと、背中から腹に手を回し、抱きつく形になる。
「や、やっぱりだめだよ輝夜!」
 妹紅が涙目でこちらを振り向こうとする。
 だが甘い。お前には早さが足りない。
 私は腹に回した両手に渾身の力を入れ、締め上げた。
「輝夜ブリーカー!!!!!!死ねぇっ!!!!!!!!」
 今回は譲るけど、次こそは圧勝してあげるから。
 永夜の戦いは、終わらない。








ま さ に 外 道



こんにちは、特技はロイヤルフレアのカンナです。
ちっ、運がよかったな。今日は喘息でスペルが唱えられないや。
今回は、前回の作品でご指摘いただいた、ネタの詰め込みすぎ、描写の少なさ、
話のグダグダ感を改良し、読みやすさ重視で書いてみましたがいかがだったでしょうか。
いずれにしろ、まだまだ修行中の身ですので、まだまだ精進しないと。
今回のテーマは伝説の迷作クッキングファイター好……ではなくどっちの料理ショーです。
でも、料理シーンより殴り合ってるシーンのほうが長かったりします。
そして、輝夜が改心して頑張る話かと思いきや、ほとんど頑張ってません。
最後まで外道なままです。哀れ妹紅。

2/12 一部修正しました。
カンナ
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コメント



0.5930簡易評価
1.90卯月由羽削除
ネタ仕込みすぎwwww
4.80名前が無い程度の能力削除
まさに外道!!だが、そこに痺れる!憧れるゥ!
6.90名前が無い程度の能力削除
鉄鍋とか若干マニアックなネタまでw
10.100名前が無い程度の能力削除
オチに吹いたww
17.100草な木削除
あ・ん・た・は・最・高・だ!!
20.90ぐい井戸・御簾田削除
シブいねぇ…もこたん、全くシブいぜ。
27.80A削除
これは良いパーンサロイドですね。
30.90名前が無い程度の能力削除
料理ネタだけにたくさんネタを仕込みましたってことか。
35.無評価名前が無い程度の能力削除
これはいいニートもんぺですね
39.90名前が無い程度の能力削除
いい仕込みと熟成加減で御座居ました。
堪能。
40.90名前が無い程度の能力削除
前回って知らないのでよくわかりませんが、読みやすかったです。ただネタの詰め込みすぎは解消されたというよりは両立できたと言った方がいいような…w
44.100猫の転がる頃に削除
>だが甘い。お前には早さが足りない。
外道過ぎるゥー!そこに痺れる憧れるゥー!GJゥー!
46.100名前が無い程度の能力削除
>ねえエーミン。こっちむくな
なんというネタ…見ただけで鼻水噴いてしまった。これは間違いなくスレ一つ立てられる威力
48.100SETH削除
アンキモアンキモアンキモw
51.無評価名前が無い程度の能力削除
ネタがタイムリーすぎるwwwwwwwwwww
52.90蝦蟇口咬平削除
う~ん、ネタが数え切れない
53.60名前が無い程度の能力削除
こんなとこでスト冷房様が拝めるとは
68.無評価U.N.オーエン削除
お父さんお父さん、魔界神が私を追ってくるよ!
安心しなさい、それは風に揺れるタダのアホ毛だ。

・・・おかしい、どこかで聞いたことのあるこのフレーズ。そう、あれは中学生の時・・・・・


思い出したぁ!!音楽の授業で魔王を聞いたときだぁ!


・・・驚きました。流石です。
69.100U.N.オーエン削除
ごめんなさい、点数入れ忘れてました。
75.100名前が無い程度の能力削除
一発でファンになったwww
80.100名前が無い程度の能力削除
もう、お腹が痛い・・・! 最後のブリーカーは死ぬかと思った!!
90.100最後がイイ削除
最後がイイ
95.100名前が無い程度の能力削除
ネタの数々に笑い転げた。マジ最高
101.100名前が無い程度の能力削除
ネタの多さにふいたwwwww
しかしこういうほのぼの馬鹿な姫様は素敵です
106.100名前が無い程度の能力削除
やってくれるぜコノヤロウwwww
108.100名前が無い程度の能力削除
これだけのネタを最後までだれずに書ききってるのに感動した
後ラストサイコーですわ
123.100名前が無い程度の能力削除
ネタがwww
コノヤロウwww不死身はネタ満載なのかww
131.100名前が無い程度の能力削除
このテンポの速さとネタの質の高さは異常
感動成分もツボりました。
135.100名前が無い程度の能力削除
盛大に吹いたwwww
137.90名前が無い程度の能力削除
ネタが・・・数え切れません・・・
141.100名前が無い程度の能力削除
最後まですんなり読めました。
…にしても、やはり霊夢はこういう役回りなんですね。
142.80名前が無い程度の能力削除
台無しだ!(褒め言葉)
143.90bobu削除
ギャグで笑わせてもらいつつもこれは良いもこてると思ってたのに最後のブリーカーで良い意味で台無しwww
144.20あをぢる削除
時間の限界を超えた者達わろたw