Coolier - 新生・東方創想話

最強兵器(後編)

2007/01/17 04:31:02
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注意:この作品は前に提出した「最強兵器(前編)」の続きとなっております。
この小説を読む前に前編を読んでいただきたいと思います。







 決戦の朝を迎えた。天もこの動乱を察知したのか、
朝から雪がこんこんと降り注ぎ、外は極寒の世界に包まれた。
魔理沙は指をバキボキと鳴らすと目を強く閉じた。
「みんな…死ぬなよ!絶対にここに帰って来ようぜ!」
パチュリーは両手に息を吹きかけながら頷く。
アリスも人形達に防寒着を着せながら目線で決意を示す。
霊夢は静かに瞑想。精神を極限まで研ぎ澄まし、決戦に備えていた。
4人はとりあえず陥落した八雲家と白玉楼の調査を行う調査班と、
まだ陥落していない永遠亭と紅魔館に危機を知らせる班に分かれることにした。
「パチュリーは八雲一家に行って。魔理沙は紅魔館、アリスは永遠亭、私は白玉楼に向うわ。
敵に出会ったら全力で逃げて。恐らく一対一で勝てる相手では無いわ。自分の命を第一に考えて行動して。
最悪…紅魔館と永遠亭の陥落も致し方無いかも…。」
ここでアリスがとある事に気付いた。
「チルノはどうするの?」
「紅魔館に行く途中に魔理沙に調査してもらうわ。」
アリスは目を大きく見開き霊夢に掴みかかると、怒りに満ち溢れた声色で霊夢に叫んだ。
「なによそれ!魔理沙だけ倍危険じゃない!」
「そうね。でもだれかがやらなければならない。場所は5に対して人は4しか居ないしね。」
「な…なら私が!私が紅魔館に…」
パン!
アリスの頬を霊夢は平手で殴った。そして極めて冷たい声でアリスの目を見つめながら言った。
まるで絶対零度。心すら殺した巫女の瞳にアリスは恐怖を覚えた。
「紅魔館に入り浸っている魔理沙の代わりが貴方に務まる?
魔理沙しか居ないのよ。自己犠牲は結構だけど…、それで私達が負けてしまっては
意味が無いわ。」
アリスはゆっくり霊夢から手を離した。そしてブルブルと震えながらやり処の無い怒りに耐える。
「アリス、心配するな。私は負けない。」
魔理沙の笑顔。彼女は自分の胸をドンと叩くとアリスの頬を両手で優しく包み込み、
俯いていたアリスの顔を上げた。
「この戦いが終わったら、お茶会をしよう。二人っきりでな。二人でゆっくり勝利を祝おうぜ。」
その言葉を聞いてパチュリーは一瞬何かを言いかけたが、悲しい目を隠すように視線を伏せた。

魔理沙は私よりアリスの方が好きなんだ。ずっと解っていたつもりだった。
それでも何時か自分の思いが届き、魔理沙が振り向いてくれる時がきっと来てくれる。
そう信じていた。パチュリーはこっそりと涙を流した。


さて、場所は変わって八雲一家。
「藍様~今日は寒いですねぇ。」
橙はもうどっぷりとコタツに体を埋めていた。コタツが在っても寒いようだ。
対して藍も普段のきっちりとした雰囲気は完全に無くなり、
ボサボサの頭と腑抜けた表情でコタツに潜り込んでいた。
「う~ん。こうなったら全部の扉を閉め切って火鉢を8個くらい配置しよう。
とってもあったかいぞ!」
「わぁ~流石藍様頭いい~。」
橙が意識がフワフワした様子で嬉しそうにそう言った。藍も満足そうに頷くと、
コタツから出ないように努力して開け放っていた窓を閉め、急いでコタツに潜り込む。
そこで暖かさをチャージした後、意を決してコタツから飛び出し、大急ぎで火鉢を取りに行った。
そして家中の火鉢を全て部屋に配置し、その全てをガンガンに燃やした藍は、
満足そうにうんうんと頷くと、コタツに潜り込んだ。
「さぁ~これで暖かくなるぞ~。」
藍がにっこり笑う。
「わ~い藍様ありがとうございます~。」
橙の満面の笑みに藍は大満足だった。
しかし彼女のコタツによってどろどろにされた頭脳は、
主である紫がここ最近全く帰ってこないことと、
密閉された部屋で大量の火鉢を火力全開で焚いた場合に起こる障害を完全に忘れていた。

 白玉楼では恐ろしい事態が起こっていた。
「はぁ~極楽極楽~。」
「ええ、コタツとはすばらしいですね小町。私も今日始めて体験しましたが
なんと便利な器具なのでしょうか。」
「すばらしいですね~四季様。」
最近妖夢の姿を見ないので心配になった小町がまずコタツに捕まり、
次に、小町のサボリを咎めに来た四季がコタツに囚われた。
ちなみに妖夢の方はミカンしか食べていない影響で、体力は大幅に削られていた。
ぷっくりとしていた健康的な頬は無残にこけ、目の下には大きなクマが浮かんでいた。
「た…助けて…ここから…出して…。」
やっと自分がコタツの魔力に囚われていたことに気付いた妖夢だったがもう遅い。
気付いた時にはすでに彼女にコタツから脱出する体力は残されていなかった。
「それにしても今日は寒いですね。」
「じゃあ何時もみたいに全裸で抱き合います?」
ペチン
四季がすました顔で小町の頭を叩く。
「人様の家でやっては失礼です。小町、窓を閉め切ってありったけの火鉢を部屋に置きなさい。」
「あーなるほど、それだとあったかいですよね!」
その会話を聞いた妖夢は大きく目を見開き、全力を振り絞って起き上がった。
ダメだ、コイツら何故私が窓を開けていたか知らない。火鉢の構造は全幻想郷一緒だ。
炭を燃やしてその熱で暖を取る。その燃えた炭から毒が出るのだ。
その毒は無味無臭で突然意識を失わせ、死に至らしめる。
「だ…だめ…だめなのぉ…。」
妖夢は気力を振り絞って二人に訴えた。
「閉めちゃらめ…火鉢一杯…だめらの…。」
その会話を聞いて小町は首を捻った。
「なんで?あったかいよ?」
「火鉢一杯だと…いっちゃうのぉ…」
「なるほど。」
四季は大きく頷くと、ボロボロの妖夢の両肩をがっしりと掴んで、大きく頷いた。
「貴方の火鉢に対する倒錯趣味は誰にも言いません!私達も見て見ぬ振りをします!
だから暖を取らせて頂きますね!」
妖夢は何かを言おうとしたが、もう力が出ない。幽々子様助けて。
妖夢は意識を失った。途切れかけた意識の妖夢が最後に見たのは、
大量の火鉢をキャンプファイヤーのように燃やし始めた二人だった。

 パチュリーは扉を開けた。途端に襲ってくる熱気。中に入ったパチュリーは開けた雨戸を閉めた。
何時ものクセだ。きっちりとした性格の彼女は開けた扉は閉めるというクセが身についていた。
大量に配置された火鉢の明かりの中浮かび上がっていたのはコタツの周りでぐったりと倒れている藍と橙。
「!!!二人とも!」
パチュリーはまず藍に駆け寄った。パチュリーは大きな声を振り絞り藍の名前を呼ぶ。
「藍!藍!しっかり!何があったの!?」
パチュリーの必死の呼びかけに藍はうっすらと目を開け、
クスクスと笑うとパチュリーの頬に手を当てる。
「あはは…面目ない…私は…もうだめだ…ここから…逃げろ…パチュ…リ…」
コトッ
藍の手が力を失った。パチュリーは何かを言おうとした。
しかし次の瞬間、意識は深い闇の中に落ちた。


 紅魔館はこの寒い中、恐らく幻想郷で一番暖か、いや甘ったるかった。
大広間の暖炉の火力は普通だったが、なにやら甘い香りと、セッケンの香り、
汗の匂いやら、ワインの匂いやら。もう色々な匂いが混ざり合っていた。
「お姉さま~。ん~。」
「うふふ、もう甘えん坊ねフランドールは。ほら…いらっしゃい。」
フランドールとレミリアがお互いの手足を絡めながら濃厚なフレンチキスをする。
二人の舌が絡み合い、歯がカチカチと触れ合う。
30秒程の長いディープキスを終えた二人は、キャッキャと嬌声を上げながら
ソファーで絡み合い始めた。いやもうロリコン必見の状況だ。
さてその状況を微笑を浮かべながら眺めるのは十六夜咲夜。彼女は取って置きのワイン
「シャイニング・ブラッディー・ティアーズ」(税込価格コイン11枚)を
ワイングラスに注ぎ、ちびりちびりと味わっていた。
そして咲夜の身体に体重をかけて、とろんとした瞳で咲夜に擦り寄る美鈴。
彼女の理性はアルコールとこの甘い雰囲気、そして咲夜と一緒に居る事によって崩壊寸前だ。
咲夜は美鈴のアゴをそっとなでる。
「あふっ」
美鈴がもだえる。咲夜は妖艶な笑みを浮かべると美鈴の瞳を覗き込んだ。
「美鈴。今日はゆっくり休んで。大丈夫、強力なトラップを仕掛けておいたわ。
誰も…そうたとえ霧雨魔理沙でさえ抜ける事は不可能。」
どうやら咲夜は美鈴と甘いひと時を過ごすために、潜在能力を大きく超える
強力なトラップの開発に成功したようだ。女の執念は恐ろしい。
「ほら…美鈴。貴方にもワインを飲ませてあげるわ。」
そう言って咲夜はワインを口に含む。美鈴は目を閉じて口を開ける。
咲夜が美鈴の口に自分の口のワインを流し込んだ。もちろん半分くらいのワインは美鈴の顔を汚した。
「あ…あっ…。ありがとうございます咲夜さん。」
「あらあら美鈴、こんなに汚して…。悪い子ね。」
咲夜が美鈴の顔を優しく支えると、顔に付いたワインをその舌で舐め取り始めた。
「あぅ…咲夜さん。あ…うぁ…。そんな…嫌ぁ…。」
「あら…でもこの味は嘘をついている味よ?嘘は良く無いわ美鈴。」
咲夜が美鈴の両手を掴んで動けないようにした。酒に酔って弱体化した美鈴に抵抗するすべは無かった。
レミリアがそんな二人の状況を見ながらクスクスと微笑む。
「あら、あっちも素敵な状況ね。」
レミリアの両手が引かれる。寝転んだフランドールが蕩けた表情で姉を導く。
「ねえお姉さま。もっと…もっと…。」
「うふふ、分かってるわフラン。今日は寒いわ。ゆっくり…そう…ゆっくり遊びましょう。」
レミリアはフランドールに引かれるままソファーに倒れこんだ。

 さてそんな倒錯世界の外、紅魔館の畔。霧雨魔理沙はズタボロになっていた。
百戦錬磨の魔理沙ですらあのトラップは1ミリたりとも進めなかった。
ナイフで全身を切り裂かれ、最後は灼熱の炎が魔理沙を紅魔館から湖の畔まで吹き飛ばした。
「ぐぅああああ。なんでこんな日に限ってトラップの出来がマエストロ級なんだ…。」
身体が上手く動かない。なんとか這い蹲りながら、何故かぽつんと存在しているかまくらまでたどり着いた。
「うぉあ…チルノ…。」
そこには全身を縛られ、布団で覆われ、コタツに入れられているチルノが居た。
魔理沙は目を覆いたくなった。氷の妖精に対してこれは拷問だ。
魔理沙は残った力を振り絞ってチルノを助け出し、縄を解いた。
「チルノ…!チルノ…。」
チルノは反応しない。魔理沙はフラフラと立ち上がるとチルノを抱き上げ、
倒れそうになる身体をなんとか支え、湖の畔までたどり着いた。
「しっかりしろチルノ!」
今日が寒くて本当に良かった。魔理沙はそう思った。彼女はチルノを湖に浸した。
しばらくするとチルノはうめき声を上げて目を覚ました。
「あ…魔理沙…私…私…。」
泣きながら魔理沙に抱きつくチルノ。魔理沙はそんなチルノを優しく抱きしめると、
母親のように頭を優しく撫でた。
「何があった…チルノ。」
そう尋ねる魔理沙にチルノは何か言おうと口を開いたが、その表情は一瞬で恐怖に代わった。
「あ…あああ…あああ…!」
目を見開き魔理沙の後ろを指差すチルノ。魔理沙が後ろを振り向こうとした瞬間。
ゴスン!
魔理沙の頭部に鋭い痛みが襲った。ズタボロの魔理沙にその衝撃は彼女の意識を失わせるには十分だった。
「危なかったねチルノちゃん。大丈夫?さぁコタツにもどりましょ?ほらミカンもあるよ?」
そう言って、先ほど魔理沙をノックアウトしたミカンの箱を抱えてにっこり笑った大妖精。
もう一度言っておく。大妖精は本当に好意からチルノにコタツでミカンの素晴らしさを教えようとしている。
純粋にチルノに暖かいという事のすばらしさを知ってもらい、他の妖精達と仲良くなって欲しい。
そんな必死の思いが大妖精を突き動かしているのだ。
「ひぃいいいいい!」
チルノは逃げた。多分速度はどこぞの新聞記者を超えているだろう。
チルノは最後の希望を求めてレティを探し始めた。

永遠亭でも大した成果は上げられなかった。アリスはトボトボと集合場所である霧雨魔理沙邸に戻った。
集合時間を大きく遅れてしまった。みんな怒ってるだろうな。アリスはそう思った。
そして霧雨魔理沙邸の扉の前に立った時、彼女は絶望した。
霊夢しかいない。彼女はぐったりと倒れた妖夢と小町と四季を霧雨邸に入れている途中だった。
霊夢はアリスに気付くと、無言で中に入るように目線で知らせた。その目に光っているのは涙。
泣いていた。表情を崩さずに、悲しみを必死に堪えて。アリスはその場にへたり込んだ。
そして、くるりと家から背を向けた。
「私…行ってくる。パチュリーと…魔理沙を…探してくる。」
霊夢は何か言おうとした、しかしアリスの瞳を見て息を呑み、その先の言葉を発する事が出来なくなった。
アリスの目に涙は枯れ果てたらしい。悲しい瞳でアリスは笑っていた。
「みんな…友達だもん…。友達を私は放って置けない。」
霊夢は一言だけ言った。
「死なないでよ?」
アリスは頷くとまずは紅魔館の方向へ向った。霊夢はアリスが見えなくなるまでその姿を見送ると、
扉を閉めた。
ガチャン
霊夢の頭にふと嫌な考えが浮かんだ。
「次はアリスかも。」
その考えを霊夢は全力で振り払った。そんなはずは無い。
霊夢はとりあえず一番衰弱している妖夢に水を飲ませ、魔理沙の薬品棚から多分気付け薬だと思われる液体を
妖夢の喉に流し込んだ。
数分後、効果は抜群だったらしく、妖夢は薄く目を開け、にっこり笑った。
「あ、霊夢さん。」
霊夢は胸をなでおろすと、にっこり笑い、何があったかを尋ねた。妖夢はありのままを話した。
「いえ、コタツに入ってミカンを食べていたら、どうでもよくなってしまいまして、
恥ずかしながら家事もまったくやっていませんでした。そして気付いた頃には身体を動かす力も…。
そして小町さんと四季様がやってきて、密閉した部屋で火鉢をガンガン焚いて…。あの状況です。」
霊夢はしばらく信じられないと言った表情を浮かべると、一転して高らかに笑った。
「あーっはっはっは!な~んだそういうこと?」
そういえば紫が言っていたではないか。「コタツでミカン」と。
「そーか、なら話は早いわ。確かにコタツでミカンの魔力は恐ろしいわね。
でもその魔力を振り払う手段がある。」
「本当ですか…。」
「ええ、伊達に私もコタツを持って無いわ。コタツでミカンを打ち倒す兵器。それは…」
そう言って霊夢は辺りをきょろきょろ。何かを探しているようだ。
「えっと、ちょっと待ってて?探してくるから。」
ちょっと拍子抜けした妖夢はカクっと俯いた。霊夢はアレを探しに向った。
コタツでミカンを打ち破るアレを。

 アリスは笑っていた。
「あははは、そういうこと?」
「本当に下らない結末だったな。」
ボロボロの魔理沙も笑っていた。パチュリーもクスクス笑っていた。
「いや~申し訳ない。火鉢で練炭の恐怖を忘れていたよ。それにこんなものまで用意してもらって。」
お風呂に入ってすっきりした藍が座敷に座って恥ずかしそうに頭を掻いた。
 まず紅魔館の湖の畔で魔理沙を発見したアリスは、半狂乱になった。しかし魔理沙が
「紅魔館のトラップにやられた。」という言葉。そこでアリスは、魔理沙を背負って八雲一家へ。
緊張の面持ちで扉を開けると、なんとパチュリー共々藍と橙が倒れている。
ここでアリスは閉め切った部屋と大量の火鉢から一酸化炭素中毒に思い当たった。
ちょっと前にあまりの友達の少なさに練炭自殺を決行して失敗した経験が、異変解決の大きな鍵となった。
そこで藍を叩き起こして事情を聞くと、藍は恥ずかしそうに
「コタツが気持ち良くて出れなくなってしまった。家事もまったくやっていなかった。
ああそういえば紫様は!」
と今になってやっと紫の不在に気付いた。

さてそんな5人の中心には囲炉裏。そこではグツグツと鍋が煮え、おいしそうな香りを放っていた。
「コタツでミカンも良いが、やっぱり鍋が一番あったまるぜ?」
魔理沙特製のキノコ鍋。身体の芯から温まるその料理を藍も橙もおいしそうに食べる。
「はふはふ。藍さまお鍋って良いですね~。」
「そうだな。コタツでミカンより身体が温まるし。なにより健康的だ。」
二人の幸せそうな表情を見て魔理沙は満足げだ。
さてアリスとパチュリーは並んで鍋を食べていた。パチュリーがチラリとアリスを見る。
「何よ。」
アリスが眉を潜める。パチュリーはしばらく神妙な顔でアリスの顔を見ていたが
クスリと笑うと白菜を食べながら指摘した。
「口の周りにネギ付いてるわよ。」
「うっ。」
ゴシゴシ。
アリスは真っ赤になって口の端を拭った。
パチュリーが言いたかった事は違った。言いかけた敗北宣言。
あの時魔理沙を心配したアリス。私にはそんな事考え付かなかった。
あの時完全に敗北を感じた。
「はぁ…。おいしいわ。」
パチュリーは溜息を吐いて鍋を食べた。

博麗神社前。レティは泣いていた。
「チルノちゃあああああああああああん!」
「レティいいいいいいいいい!」
チルノも泣いていた。あの後全力で逃げたチルノは最後の望みをかけてここにやってきた。
すると瀕死の紫と幽々子、そして縁側で泣き疲れて眠っているレティを発見したのだ。
「魔理沙が助けてくれたの。怖かったよー。」
ガバッ
もう二度と離すかと言う勢いでチルノはレティに抱きついた。
「そう…よかったわね!もう大丈夫よ。ここ最近暖かくて私が動けなかったけど今日は寒いわ。
大妖精に負けるはずは無いわ。」
そう言って勇ましく立ち上がったレティにチルノは言った。
「でも大妖精も私のためを思って。だから…。」
あそこまでの拷問を受けながら大妖精をかばうチルノ。本当に良い子だ。
レティはにっこり笑って頷いた。
「わかってるわ。だから私が悪役になるわ。」
それに呼応するように、上空から大妖精が舞い降りた。大妖精はレティを睨み付けるとビシっとレティを指差した。
「レティ=ホワイトロック!今日こそチルノちゃんを貴方の魔の手から救ってみせる。」
レティは笑うと右手を突き出した。
「愚かな愚かな大妖精ちゃん。この寒さで私に勝てると思うのかしら?チルノちゃんは私のもの。
おとなしくお帰りなさい!」
「くぅ…」
大妖精は一歩引いた。圧倒的な力の差を感じたのだ。大妖精は涙を流すと後ろを振り向いた。
「チルノちゃん!きっと!きっと助けてあげるからね!」
大妖精は悔しそうに涙を拭くと空の彼方へ消えていった。
「悪い事…しちゃったかも。」
レティが悲しそうに笑った。チルノは首を横に振る。
「大丈夫。明日遊びに行ってあげるから。」
「チルノちゃんは優しいわね。」
二人は寄り添って寒空を見上げ、笑いあった。


 チルノ達が立ち去り、神社は夜となった。空腹で瀕死の二人が目を覚ますと笑い声が聞こえる。
楽しそうで暖かい笑い声。混濁する意識を何とか鮮明にした紫が見た光景。
それは楽しそうに鍋を食べる少女達だった。
「藍!橙!」
紫がフラフラと二人の下へ歩み寄る。藍は紫をいたわるように座らせると、鍋から具を取り、
箸と共に紫に差し出した。
「紫様申し訳ありません。私は式神として失格です。」
紫はにっこり笑うと藍にもたれかかると、力なく笑った。
「いいえ。私にも責任があるわ。それより、箸も持つ力も残っていないの…食べさせて頂戴。」
「分かりました。」
藍はチクワを箸で掴み、フーフーと息を吹きかけると紫に食べさせた。
紫はゆっくりと咀嚼し、幸せそうに溜息を吐いた。
「はぁ…幸せだわ。」

 幽々子はものすごい速度ですき焼きを食べていた。その横で必死に土下座を続ける妖夢。
「申し訳ありません幽々様!私が至らないばかりに!どんな罰でも甘んじて受けます!」
幽々子は箸を止めると首を横に振る。彼女は妖夢を罰する気など無い。
「違うわ妖夢。全部、貴方を管理してあげられなかった私の責任。貴方は悪く無いわ。
今回の事件は全て私が悪かったの。だからあの空腹は私への罰。ほら、妖夢も食べなさい。」
幽々子は優しい笑顔で妖夢に箸と取り皿を渡した。妖夢は涙を流して感動した。
「幽々子様…。」
「良いのよ妖夢。もう良いの。ほら…おいしいわよ?」
「はい…!」
妖夢はすき焼きを口に入れた。
「おいしいでしょ?」
「しょっぱいです…しょっぱいです幽々子様。」
ぼたぼたと涙を流しながら妖夢はすき焼きを口に運んだ。それを幽々子は幸せそうな顔で眺めていた。

霊夢の言った対抗手段。それは「鍋」だ。
暖かな鍋。それは外部から暖かさを与えるコタツとは対照的な、内部からの暖かさ。
そしてみんなで食べる幸せ、満腹感という相乗効果で寒さなど吹き飛んでしまう。
まさに今回の騒動を解決する最強兵器だ。
アリスとパチュリーが並んで仲良く鍋を食べている。魔理沙はそんな様子を笑いながら見つめる。
四季と小町も、藍も橙も、妖夢も幽々子も、霊夢も紫も、みんなみんな鍋で暖かで、
そして幸せなひと時を過ごした。

 その後幻想郷ではコタツの売れ行きは下がり、その代わり土鍋の売り上げが急に伸びたと、
真冬にもかかわらず褌一丁で軽やかに文の取材に答えた男性店主の話が新聞に載った。

『終わり』

複雑にからみあった勘違い。そして一気に解決に向っていく大騒動。
みなさまここまで読んで抱きましてありがとうございました。

いろんな意味で紅魔館が大変な事になっていますが、
彼女達は幸せ一杯なので問題ないでしょう。

感想、指摘などを頂ければよろしくお願いいたします。
腐姫
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コメント



0.2140簡易評価
1.80SETH削除
>「友達の少なさに練炭自殺をした経験が、異変解決の大きな鍵となった」
あ・・・・アリス・・・wwww
2.100名前が無い程度の能力削除
>貴方の火鉢に対する倒錯趣味は誰にも言いません!
映姫サマかおす全開ぶっちぎるぜ!
そして、褌 一 丁(へいおまち
7.80名前が無い程度の能力削除
>じゃあ何時もみたいに全裸で抱き合います?

俺 も 混 ぜ ろ
11.100名前が無い程度の能力削除
>この戦いが終わったら、お茶会をしよう。二人っきりでな。二人でゆっくり勝利を祝おうぜ。
さりげなく死亡フラグを立てる魔理沙の心意気に惚れそうです
28.80蝦蟇口咬平削除
あ、鍋食べたい、と思わせるこの作品は良いですね
ただ、>褌一丁で軽やかに文の取材に答えた男性店主。で萎えました
普通にその姿でインタビューかよ!乾布摩擦中?
31.70名前が無い程度の能力削除
大学入って二回目の冬。
あいかわらず、私の暖気のもとはPCの排熱と炬燵だけですが何か(ぇ
34.90名前が無い程度の能力削除
妖夢がエロく感じたのは・・・気のせいだ、きっと。
39.70名前が無い程度の能力削除
紅魔館のカオスっぷりにw
40.90名前が無い程度の能力削除
異変解決の大きな鍵クソワラタ
43.70削除
鍋を囲んだある種爽やかな団欒と、どう見ても境界踏み越えてる紅魔館の狂乱。なんというカオス。
46.無評価名前が無い程度の能力削除
投げっぱなしのお話がもう何ともいい感じ
47.100夜の夢削除
紅魔館は不可侵領域
48.80名前が無い程度の能力削除
チルノちゃん、良かった良かった。