ここは博麗神社。
昼夜を問わず妖怪やら魔法使いやらその他変態やらが訪ねてくる神社である。
今の季節は夏らしく、蝉が境内の木にとまって鳴いている。
「は~、あっついわね~…」
この神社の巫女である博麗霊夢がつぶやいた。冬でも腋を隠さないそのこだわりの巫女服は夏は涼しそうであるが、やはり暑いときは暑いらしい。
特に暑い時だと『はいてない+まいてない』な時があるとの噂だが、真偽は定かでない。
「そうよね~…ほんと夏は憂鬱よ」
氷の妖精、チルノがそれに答えた。やはり氷の妖精は暑さに弱いらしい。夏でもきちんと活動している分、どこぞの冬の妖怪よりはマシらしいが。
「って何であんたがここにいるのよ」
「夏だから湖にいろんな妖怪や変態が押し寄せたから、こっちにきたのよ」
「あの『変態』どもがこっちに来ないのは珍しいわね」
ある特定の同姓にやたら好かれ、しかもやたら激しく異常に迫られる霊夢(と、ついでに魔理沙)にとっては、『変態』という言葉はもはや日常のものであった。
あるときは空から、あるときはスキマから、時には地面から沸いて出てくることさえある。
まあ、同姓を好いたり好かれたりは幻想郷では彼女らに限った話ではないのだが、霊夢に迫る『変態』は特に常軌を逸している。
だが、あいにく彼女にその気(け)はなかった。かといって、好きな異性がいるかといえば、そんなことはない。
そもそも知り合いは女性ばかりで、神社への参拝も年中無休で無い。よってほとんど異性とは顔を合わさない。
顔を合わせることのある異性はこーりんぐらいだが、こーりんもまた厄介な性格であるため、少なくとも恋愛感情を抱かれることは考えにくい。
もしかしたらそのうち霊夢もその気に目覚めるかもしれない。それを期待して、昨日も『変態』たちに激しく迫られたが、それはまた別の話。
「勝手に神社で涼まないでよ。せめて賽銭ぐらいしなさい」
「あたいお金持ってないもん」
「なら帰って」
「あ、ひどーい、せっかくかき氷作ってあげようと思ったのに」
「じゃあ頂こうかしら」
「ふんだ、もうあげないよ!」
「え~…」
帰れとか言っているが、霊夢は別に嫌そうではない。
こうしてみると二人は結構仲がよさそうであり、実際結構よい。
チルノは『バカ』『⑨』などと呼ばれているものの、前述の『変態』に比べればかなりまともなほうである。ただ、バカでいっぱいいっぱいなだけなのだ。
あと何年かして成長すれば、うどんげや中国に匹敵するほどのまともな少女になるかもしれない。
…まあ、所詮はチルノなので、何年たってもそのまんまかもしれないが。
それはともかく、このように仲がいいと、変な関係が囁かれるが、前述の通り霊夢にはその気はない。
「あ、そうだ!」
霊夢は何かを閃いたのか、手のひらをぽんとたたいた。
「なに?どうしたの?」
「え~い!」
霊夢はいきなりチルノに抱きついた。というより、押し倒した。
「わっ!?な、なにするのさ!」
「あ~♪やっぱり冷たくて気持ちいい~♪」
しつこいようだが、霊夢にはその気はない。ただ単に氷の妖精であるチルノに抱きついて涼みたかっただけなのだ。
だが、傍目から見れば完全に霊夢がチルノに襲い掛かったように見えるわけで。
「よう、霊…」
運悪く、霊夢の友人である魔法使い、霧雨魔理沙に見られてしまった。
「…ああ、悪い。邪魔した」
魔理沙は自称『普通の魔法使い』だし、霊夢とも普通の友人なので、別段騒ぎ立てるようなことはせず、ただ気まずそうに引き返そうとした。
「あら、魔理沙。来てたの?」
「まりさーっ!たすけろーっ!」
霊夢はチルノに抱きつきながら何事もないかのように普通に応対する。チルノはただ助けを求める。
「いや、なんとなく来ただけなんだ、邪魔したな。」
その姿を見て、やはりそういうことなのかと判断した魔理沙は、やはり帰ろうとした。
「その服じゃ暑いでしょ。一緒にどう?」
「やーめーろー!あついー!」
霊夢はあくまで普通に応対する。それはそうである。霊夢にしてみれば、氷の塊に抱きついているのと感覚的には変わりはないのだから。
「…暑い?…ああ、なるほどな…」
「?どうしたのよ、魔理沙?」
「…いや、なんでもない」
霊夢の言葉で、魔理沙はようやく状況を正しく把握することができた。
魔理沙は勝手に、この二人は変なことをしてるんだと思っていたので、少し顔を赤らめている。
しかし霊夢は、それを夏の暑さかなにかの所為だと思っているらしく、何の疑問も抱いていない。
「…まあ、せっかくだから私も涼ませてもらうぜ」
「やめろってばー!あついー!」
チルノは相変わらず叫んでいるが、霊夢のほうが力は強く、まったく動けないでいる。
「お~、こりゃ確かに涼しいな!」
「でしょ?」
「あたいはあついってばー!」
言うまでもないだろうが、この二人の姿は傍目からはチルノに二人がかりで襲い掛かっているようにしか見えない。
この姿を見られれば、誤解を招くのは必至であろう。
「霊夢~、遊びに…」
見られてしまった。それも、前述の『変態』の一人、アリス・マーガトロイドに。
とはいっても、霊夢たちにはそうは思われてはいない。アリスはそう表立って霊夢に迫っては来ていないからだ。
霊夢は基本的にそういうのには鈍感なので、他の『変態』ほど激しく迫らない限りその想いに気がつかないのだ。
…まぁ、裏では他の『変態』に勝るとも劣らない、とてもこの全年齢対象のSSには書けないようなことをしているのだが。
しかも、困ったことにこの想いは魔理沙にも及んでいるのである。魔理沙も鈍感なので気づいてはいないが。
「っきゃぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!」
文章にすれば、上のような沢山の感嘆符が付くであろうほどの大きな叫び声が、博麗神社の境内に響き渡った。
「どうしたのよ、アリス?」
「あー…」
氷に抱きついているような感覚の霊夢の頭には疑問符が浮かぶばかりだが、
同じ誤解をした魔理沙にはアリスにこの状況をどう思われたかよく分かった。
「あのなぁアリス、これはだな…」
魔理沙は弁解しようとしたが、その声はアリスには届いていなかった。
「れ…霊夢と魔理沙にそんな趣味があったなんて…知らなかったわ…いつも近くにいるのに…
でもそれだったらもっともっと私とかにいろいろあったりしてもいいんじゃない?
まさかあの⑨にあって私にないものがあるというのかしら…
でもあの⑨の力なんて私の力の一割四分三厘(アリス曰く、氷の妖精は青一色らしい)にも満たないはず…
はっ!まさか霊夢や魔理沙はロリコンなのかしら…」
アリスは、すさまじい早口でぶつぶつと独り言を言った。
魔法使いはスペルを唱えるためか皆早口なのだが、今のアリスの早口は常軌を逸している。
「…お~い、アリス~?」
「どうしたのかしら、アリス…」
「暑さでおかしくなったみたいね」
「なにを言ってるのかしら、早口すぎて聞き取れないわ」
霊夢やチルノはもちろん、アリスの想いまでは知らない魔理沙も含め、その場にいるアリス以外の全員の頭に疑問符が浮かんでいた。
それと、おかしいのは元からであるが、そんなこと彼女たちが知る由もない。
「…でもこれはむしろチャンスかもしれないわ…
ここで霊夢と魔理沙のロリコンを治してさらにあの⑨にせめてどっちか片方だけでも諦めさせれば…
…いや、何を言っているの私は…片方だけだなんて消極的な事を…両方奪い取ればいいじゃない…ころしてでもうばいとる…」
アリスの話すスピードは実はものすごい速度でしゃべっている某サッカー漫画の実況並の速度まで加速した。
「いったいどうしちゃったのさアリス?」
チルノがアリスに話しかけたとき、
「そこの⑨!私と勝負しなさい!」
いきなり ここだけ言われた。
「な…なんだかよく分からないけど、勝負なら受けて立つわ!」
勝負を挑まれる筋合いなどチルノからすればないはずなのだが、チルノは乗り気のようである。
「でも、どうやって勝負するんだ?」
「もちろん弾幕よ!」
アリスはもうすでに弾幕を打つ用意ができているようだ。『弾幕』に『ごっこ』がついていないあたり、殺る気マンマンである。
チルノも、それを見て弾幕を構える。
「ちょっと待ったーっ!」
だが、霊夢が横槍を入れた。
「な、何よ!?」
「とめないで霊夢!私は、私は…」
「あなたたち、神社を壊す気!?」
「あ、それもそうか…」
「だったらクイズで勝負だっ!」
「誰が出すのよ」
「……」
「じゃあさ、妖夢のあの二本の刀を借りて勝負とかどう?」
「え?」
「あ、いいわね。それ採用。」
「じゃあ、早速いこうぜ!」
「え、ちょっと、勝手に決めないでよ!」
★★★
「駄目です」
あっさりと断られた。
当然である。何といっても楼観剣は妖怪が鍛えた斬れぬものなどあんまりない刀である。
妖夢が簡単に貸すわけもなく、第一危険だ。今のアリスなら、本気でチルノを真っ二つにしかねない。
時間がたち少々正気を取り戻しつつあるとはいえ、まだまだ殺る気マンマンなのだ。
ついでに言うと、白楼剣と楼観剣では長さも用途もまるで違うため勝負にならない。
「ええ~、やっぱ駄目?」
「何といわれようと、この刀は貸せません!」
「けちー」
「ケチとかそういうレベルの問題ではありません!」
チルノたちはそのあたりを理解していないようである。楼観剣の切れ味をなめすぎだ。
斬れないものは少ししかないというとなんだか大したことはなさそうな雰囲気があるが、逆に言えば大体のものは切り裂いてしまうのである。
もし『少し』が『わが主』に置き換えられるならば、物理的には『無い』と言い切っても問題は無いかもしれない。ただ、妖夢の後ろのほうの木の陰で主人が泣くぐらいで。
また、蒟蒻は斬れないとの噂もあるが、真偽は定かでない。
「どうしたの、騒がしいわね…あら?霊夢じゃない。魔理沙も」
声の主は、この白玉楼の主であり、妖夢の主人である西行寺幽々子だった。
「ちょうどよかったわ。今ちょうどお茶の時間なんだけど、一緒にどうかしら?」
お茶の時間…と幽々子は言うが、その食事量は一般的な幽霊の夕食を軽く数倍上回る。
夕食の食事量同士を比べようものなら、それはもう一般的な幽霊の食事量など幽々子の足元にも及ばない。
そんなに食べて太らないのかという疑問の声もたまに聞こえるが、確かに彼女の体にはその大食により脂肪が蓄積されている。
しかし、もう察した方も多いと思うが、その大部分は胸にいっているのである。
こうして、幽々子は日々胸部の脂肪と霊夢をはじめとする貧乳組のコンプレックスを増大させているのだ。
…なお、幽霊に脂肪がつくのかという突っ込みは却下の方向で。
「いいわね、いただこうかしら。」
幽々子の背後には異様な量のお茶菓子が山のように積んであるが、誰も驚きはしない。
霊夢や魔理沙がはじめて幽々子と敵としてでなく会ったときはさすがの彼女たちも驚いたが、すぐ慣れた。
「せっかくだからいただくが…あのお茶菓子の0.何%が私たちのものになるんだろうな?」
最初から小数点以下で数えるあたり、よく分かっている。
「あら、0%よ。お客さま用のは別に用意するわ。」
「…ってことは、全部食べるのね。相変わらずの食欲ね。」
「勘違いしないで、あれは一皿目よ」
…わけでもないようだ。やはり幽々子の食欲は魔理沙たちの理解の範疇を超えている。
「白玉楼の西行寺幽々子…噂以上ね。大食いに関してはあたいじゃ勝ち目無いわ…勝つ気も無いけど。」
「それ以外でもチルノじゃ勝てないわよ」
「なにィ!!」
お気づきの方もいるかもしれないが、さっきからアリスが出てきていない。いるにはいるし、発言もしているのだが、霊夢たちには届いていない。
幽々子が出てきたあたりから、勝負のことと一緒にアリスの存在までなかったことにされている。
部屋の中に入り、妖夢がお茶菓子の準備をしに行った頃合で魔理沙が気がつき、お茶会に引っ張り込んだが、
やはり勝負のことは完全に無かったことにされている。
こうしてお茶会は始まった…のだが、なぜか飲み会になっていた。
お茶とお酒をすりかえられたのか、アルコールとノンアルコールの境界をいじられたのか、どちらにしろスキマ妖怪八雲紫の仕業と思われる。
彼女はとんでもない力を持ってるのに大体はどうでもいいことに使うのだ。
ちなみに、白玉楼の台所には麦茶も置いてあるのだが、お約束通りめんつゆにすりかえられていた。
それはともかく、彼女たちの飲み会なんて、とんでもない被害が発生しそうだと思われるが、
今回は魔理沙が酔ってマスタースパークをぶっ放したり(しかしチルノに直撃し被害は押入れとその中身ぐらいで済んだ)、
幽々子が酔って…なのかそれとも故意なのかは知らないがチルノを食べてしまいそうになったり、
幽々子が火照った体(性的な意味でなく)を冷ますためにチルノに抱きついたせいで危うくチルノが楼観剣の錆になりかけたりと、
とにかくチルノばかりがひどい目にあった程度で、彼女たちの飲み会としては奇跡的に少ない被害でお開きになった。
…ちなみに、めんつゆの被害にあったのは魔理沙だった。
「まったく、何でお茶会が飲み会になるのよ…」
「いいじゃないか、楽しかったんだからさ」
「その通りよ。またいらっしゃい。お茶会でも飲み会でも、歓迎するわ」
「飲み会は遠慮するわ。今回はたまたま被害が少なかったけど、このメンバーじゃなにが起こるかわからないわよ?
…それはともかく、チルノ大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ~…酔って頭はくらくらするしマスタースパークで黒こげになるし他にもいろいろあったし…」
「あー、あれは悪かった…」
「くそー、この借りは絶対返してやるんだからね!」
こうして彼女らは白玉楼を後にした。
★★★
「さて…明日もよろしくね、チルノ♪」
「よろしく頼むぜ」
霊夢たちはまたチルノに抱きついて涼むつもりらしい。霊夢はともかく魔理沙、懲りない女である。
「やだよ!夏の間は絶対行かないもん!」
「秋や冬は行くのか?」
「う……そ、そうよ!冬に行ってあんたたちを寒がらせてやるんだから!」
「えー、私はチルノが来てくれないほうが辛いけどな~?」
「……そ、そう…なの…?なら、その言葉…後悔させてやる~!」
「…いっちまったぜ。あいつ、顔赤かったけど…大丈夫か?『変態』の仲間入りしたりしないよな?」
「大丈夫よ、いくらチルノでもそのぐらいは分かってるはずよ」
「いや、バカをなめないほうがいいぜ?」
「…まあ、仮にそうなってもきっとどこぞの吸血鬼とかよりはマシよ。じゃ、またね」
「ああ、また明日行くぜ」
「…何しに来るのよ」
「暇つぶし」
霊夢は呆れながら魔理沙と分かれ、神社へと帰った。
神社には何者かが侵入していたが、霊夢が目当てなので何も盗られてはいない。というかそもそも盗る物なんてほとんどない。
いつものことなので特に気にせず、霊夢は眠りについた。
★★★
翌日。例によって魔理沙が神社へやってきた。
「予告どおり来てやったぜ、霊夢」
「来なくていいのに…」
「まあそういうなって。…お、あいつも来たぞ」
魔理沙が鳥居の方を指差す。そこには例の氷精の姿が。
「あたいも予告どおり来たよ!昨日の言葉、後悔させてやる!」
「へぇ、どうやって?」
「弾幕ごっこよ!毎日挑んでやるんだから!」
「望むところよ。…確実にそっちが先にバテるんだろうけどね」
「なにィ!!」
今日も平和な幻想郷。そして、博麗神社。
なんだかんだいっても、友人が来たときの霊夢は嬉しそうである。
それはもう、鈍感な魔理沙でも分かるほどに。…バカなチルノは気づいていないようだが。
以前はあまり他人に興味なさそうな霊夢だったが、いろいろなものに触れて変わりつつあるようだ。
魔理沙は、そのことが友人としてとても嬉しかった。
氷の妖精と仲良く喧嘩している友人をしばらく眺め、それからそこに加わっていった。
「なあ、弾幕ごっこなんかしたら神社壊れてしまうんじゃなかったのか?」
「…あ」
「なら神社の外でやるわよ!」
「望むところよ!」
「私も加勢するぜ」
「ちょっと!それは卑怯!」
END
「…ん?私達…何か忘れてないか?」
「え?何かしら…」
「まあ、忘れてるってことはどうでもいいことなのよ。あたいもどうでもいいことはすぐ忘れちゃうもん」
「それはあんただけよ。…でもまぁ、そうかもね」
その『忘れもの』は白玉楼にいた。
それは昨晩の出来事だった。
「…幽々子様、この方はどうしましょう?」
「あらあら、酔いつぶれちゃったのね。じゃあ泊めてあげなさい」
「それが…ここにはほとんど泊まりのお客様がいらっしゃらないので…先ほど魔理沙に焼かれた押入れの中にしかお客さま用の布団が無いんです」
「あら、そうなの?どうしましょう…
あ、そうだ、私の布団に寝かせてあげましょう!」
「え?じゃあ幽々子様はどうなさるんですか?」
「そうね…妖夢と寝ようかしら」
「え!?」
「赤くならなくても大丈夫よ、性的な意味じゃないから」
「そういう問題じゃないです!(性的な意味って何!?)主人と同じ布団で寝るだなんて…そんなこと…」
「いいじゃないのよぅ~」
…結局、アリスは妖夢と同じ布団で寝ることになった。
そして翌朝。
「ん…ふぁ…あれ?ここはどこ?」
アリスは周囲を見渡す。少なくとも、自分の家ではないことは分かった。
和風の家屋で、自分が布団で寝ていたことも分かった。
そして隣には…妖夢が寝ている。
「ーッッ!!??」
声にならない叫び。
「え…え…えぇぇえ!?私…なんで妖夢と、一緒に…たしか、昨日は…お茶会と称した宴会で…酔いつぶれて…
ってことは私、妖夢と…そんな…最初は好きな人とって決めてたのに…そう…霊夢…魔理沙…
でも…はじめてを奪われたからには責任を取ってお嫁にもらってもらわないと…
そうね…挙式はどこがいいかしら…やっぱり神社ね…霊夢はあんまり仕事をしないからやってくれるか心配だけど…
いえ、きっとやってくれるはずよ、それより旅行はどこにしようかしら…
あのスキマ妖怪に頼んで幻想郷の外へ行くとか?本で読んだ南の島とか…きれいな高原もいいわね…」
例によって、ものすごい早口。これが魔法を使う時に出せれば、努力しだいで最強クラスの魔法使いになれるだろう。
なんといっても、どんな魔法もほとんど無詠唱に等しい早さで唱えられるのだから。だが、生憎この早口はこういう状況でしか出ない。
「ふぁ…あ、おはようございますアリスさん」
あれこれ考えているうちに妖夢は目覚めた。そして、
「どーなの妖夢!?南の島に行くの!?高原に行くの!?」
もちろん唐突にここだけ言われた。
その後白玉楼ではアリスを鎮め誤解を解くのに大変だったらしい…
今度こそEND。
昼夜を問わず妖怪やら魔法使いやらその他変態やらが訪ねてくる神社である。
今の季節は夏らしく、蝉が境内の木にとまって鳴いている。
「は~、あっついわね~…」
この神社の巫女である博麗霊夢がつぶやいた。冬でも腋を隠さないそのこだわりの巫女服は夏は涼しそうであるが、やはり暑いときは暑いらしい。
特に暑い時だと『はいてない+まいてない』な時があるとの噂だが、真偽は定かでない。
「そうよね~…ほんと夏は憂鬱よ」
氷の妖精、チルノがそれに答えた。やはり氷の妖精は暑さに弱いらしい。夏でもきちんと活動している分、どこぞの冬の妖怪よりはマシらしいが。
「って何であんたがここにいるのよ」
「夏だから湖にいろんな妖怪や変態が押し寄せたから、こっちにきたのよ」
「あの『変態』どもがこっちに来ないのは珍しいわね」
ある特定の同姓にやたら好かれ、しかもやたら激しく異常に迫られる霊夢(と、ついでに魔理沙)にとっては、『変態』という言葉はもはや日常のものであった。
あるときは空から、あるときはスキマから、時には地面から沸いて出てくることさえある。
まあ、同姓を好いたり好かれたりは幻想郷では彼女らに限った話ではないのだが、霊夢に迫る『変態』は特に常軌を逸している。
だが、あいにく彼女にその気(け)はなかった。かといって、好きな異性がいるかといえば、そんなことはない。
そもそも知り合いは女性ばかりで、神社への参拝も年中無休で無い。よってほとんど異性とは顔を合わさない。
顔を合わせることのある異性はこーりんぐらいだが、こーりんもまた厄介な性格であるため、少なくとも恋愛感情を抱かれることは考えにくい。
もしかしたらそのうち霊夢もその気に目覚めるかもしれない。それを期待して、昨日も『変態』たちに激しく迫られたが、それはまた別の話。
「勝手に神社で涼まないでよ。せめて賽銭ぐらいしなさい」
「あたいお金持ってないもん」
「なら帰って」
「あ、ひどーい、せっかくかき氷作ってあげようと思ったのに」
「じゃあ頂こうかしら」
「ふんだ、もうあげないよ!」
「え~…」
帰れとか言っているが、霊夢は別に嫌そうではない。
こうしてみると二人は結構仲がよさそうであり、実際結構よい。
チルノは『バカ』『⑨』などと呼ばれているものの、前述の『変態』に比べればかなりまともなほうである。ただ、バカでいっぱいいっぱいなだけなのだ。
あと何年かして成長すれば、うどんげや中国に匹敵するほどのまともな少女になるかもしれない。
…まあ、所詮はチルノなので、何年たってもそのまんまかもしれないが。
それはともかく、このように仲がいいと、変な関係が囁かれるが、前述の通り霊夢にはその気はない。
「あ、そうだ!」
霊夢は何かを閃いたのか、手のひらをぽんとたたいた。
「なに?どうしたの?」
「え~い!」
霊夢はいきなりチルノに抱きついた。というより、押し倒した。
「わっ!?な、なにするのさ!」
「あ~♪やっぱり冷たくて気持ちいい~♪」
しつこいようだが、霊夢にはその気はない。ただ単に氷の妖精であるチルノに抱きついて涼みたかっただけなのだ。
だが、傍目から見れば完全に霊夢がチルノに襲い掛かったように見えるわけで。
「よう、霊…」
運悪く、霊夢の友人である魔法使い、霧雨魔理沙に見られてしまった。
「…ああ、悪い。邪魔した」
魔理沙は自称『普通の魔法使い』だし、霊夢とも普通の友人なので、別段騒ぎ立てるようなことはせず、ただ気まずそうに引き返そうとした。
「あら、魔理沙。来てたの?」
「まりさーっ!たすけろーっ!」
霊夢はチルノに抱きつきながら何事もないかのように普通に応対する。チルノはただ助けを求める。
「いや、なんとなく来ただけなんだ、邪魔したな。」
その姿を見て、やはりそういうことなのかと判断した魔理沙は、やはり帰ろうとした。
「その服じゃ暑いでしょ。一緒にどう?」
「やーめーろー!あついー!」
霊夢はあくまで普通に応対する。それはそうである。霊夢にしてみれば、氷の塊に抱きついているのと感覚的には変わりはないのだから。
「…暑い?…ああ、なるほどな…」
「?どうしたのよ、魔理沙?」
「…いや、なんでもない」
霊夢の言葉で、魔理沙はようやく状況を正しく把握することができた。
魔理沙は勝手に、この二人は変なことをしてるんだと思っていたので、少し顔を赤らめている。
しかし霊夢は、それを夏の暑さかなにかの所為だと思っているらしく、何の疑問も抱いていない。
「…まあ、せっかくだから私も涼ませてもらうぜ」
「やめろってばー!あついー!」
チルノは相変わらず叫んでいるが、霊夢のほうが力は強く、まったく動けないでいる。
「お~、こりゃ確かに涼しいな!」
「でしょ?」
「あたいはあついってばー!」
言うまでもないだろうが、この二人の姿は傍目からはチルノに二人がかりで襲い掛かっているようにしか見えない。
この姿を見られれば、誤解を招くのは必至であろう。
「霊夢~、遊びに…」
見られてしまった。それも、前述の『変態』の一人、アリス・マーガトロイドに。
とはいっても、霊夢たちにはそうは思われてはいない。アリスはそう表立って霊夢に迫っては来ていないからだ。
霊夢は基本的にそういうのには鈍感なので、他の『変態』ほど激しく迫らない限りその想いに気がつかないのだ。
…まぁ、裏では他の『変態』に勝るとも劣らない、とてもこの全年齢対象のSSには書けないようなことをしているのだが。
しかも、困ったことにこの想いは魔理沙にも及んでいるのである。魔理沙も鈍感なので気づいてはいないが。
「っきゃぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!」
文章にすれば、上のような沢山の感嘆符が付くであろうほどの大きな叫び声が、博麗神社の境内に響き渡った。
「どうしたのよ、アリス?」
「あー…」
氷に抱きついているような感覚の霊夢の頭には疑問符が浮かぶばかりだが、
同じ誤解をした魔理沙にはアリスにこの状況をどう思われたかよく分かった。
「あのなぁアリス、これはだな…」
魔理沙は弁解しようとしたが、その声はアリスには届いていなかった。
「れ…霊夢と魔理沙にそんな趣味があったなんて…知らなかったわ…いつも近くにいるのに…
でもそれだったらもっともっと私とかにいろいろあったりしてもいいんじゃない?
まさかあの⑨にあって私にないものがあるというのかしら…
でもあの⑨の力なんて私の力の一割四分三厘(アリス曰く、氷の妖精は青一色らしい)にも満たないはず…
はっ!まさか霊夢や魔理沙はロリコンなのかしら…」
アリスは、すさまじい早口でぶつぶつと独り言を言った。
魔法使いはスペルを唱えるためか皆早口なのだが、今のアリスの早口は常軌を逸している。
「…お~い、アリス~?」
「どうしたのかしら、アリス…」
「暑さでおかしくなったみたいね」
「なにを言ってるのかしら、早口すぎて聞き取れないわ」
霊夢やチルノはもちろん、アリスの想いまでは知らない魔理沙も含め、その場にいるアリス以外の全員の頭に疑問符が浮かんでいた。
それと、おかしいのは元からであるが、そんなこと彼女たちが知る由もない。
「…でもこれはむしろチャンスかもしれないわ…
ここで霊夢と魔理沙のロリコンを治してさらにあの⑨にせめてどっちか片方だけでも諦めさせれば…
…いや、何を言っているの私は…片方だけだなんて消極的な事を…両方奪い取ればいいじゃない…ころしてでもうばいとる…」
アリスの話すスピードは実はものすごい速度でしゃべっている某サッカー漫画の実況並の速度まで加速した。
「いったいどうしちゃったのさアリス?」
チルノがアリスに話しかけたとき、
「そこの⑨!私と勝負しなさい!」
いきなり ここだけ言われた。
「な…なんだかよく分からないけど、勝負なら受けて立つわ!」
勝負を挑まれる筋合いなどチルノからすればないはずなのだが、チルノは乗り気のようである。
「でも、どうやって勝負するんだ?」
「もちろん弾幕よ!」
アリスはもうすでに弾幕を打つ用意ができているようだ。『弾幕』に『ごっこ』がついていないあたり、殺る気マンマンである。
チルノも、それを見て弾幕を構える。
「ちょっと待ったーっ!」
だが、霊夢が横槍を入れた。
「な、何よ!?」
「とめないで霊夢!私は、私は…」
「あなたたち、神社を壊す気!?」
「あ、それもそうか…」
「だったらクイズで勝負だっ!」
「誰が出すのよ」
「……」
「じゃあさ、妖夢のあの二本の刀を借りて勝負とかどう?」
「え?」
「あ、いいわね。それ採用。」
「じゃあ、早速いこうぜ!」
「え、ちょっと、勝手に決めないでよ!」
★★★
「駄目です」
あっさりと断られた。
当然である。何といっても楼観剣は妖怪が鍛えた斬れぬものなどあんまりない刀である。
妖夢が簡単に貸すわけもなく、第一危険だ。今のアリスなら、本気でチルノを真っ二つにしかねない。
時間がたち少々正気を取り戻しつつあるとはいえ、まだまだ殺る気マンマンなのだ。
ついでに言うと、白楼剣と楼観剣では長さも用途もまるで違うため勝負にならない。
「ええ~、やっぱ駄目?」
「何といわれようと、この刀は貸せません!」
「けちー」
「ケチとかそういうレベルの問題ではありません!」
チルノたちはそのあたりを理解していないようである。楼観剣の切れ味をなめすぎだ。
斬れないものは少ししかないというとなんだか大したことはなさそうな雰囲気があるが、逆に言えば大体のものは切り裂いてしまうのである。
もし『少し』が『わが主』に置き換えられるならば、物理的には『無い』と言い切っても問題は無いかもしれない。ただ、妖夢の後ろのほうの木の陰で主人が泣くぐらいで。
また、蒟蒻は斬れないとの噂もあるが、真偽は定かでない。
「どうしたの、騒がしいわね…あら?霊夢じゃない。魔理沙も」
声の主は、この白玉楼の主であり、妖夢の主人である西行寺幽々子だった。
「ちょうどよかったわ。今ちょうどお茶の時間なんだけど、一緒にどうかしら?」
お茶の時間…と幽々子は言うが、その食事量は一般的な幽霊の夕食を軽く数倍上回る。
夕食の食事量同士を比べようものなら、それはもう一般的な幽霊の食事量など幽々子の足元にも及ばない。
そんなに食べて太らないのかという疑問の声もたまに聞こえるが、確かに彼女の体にはその大食により脂肪が蓄積されている。
しかし、もう察した方も多いと思うが、その大部分は胸にいっているのである。
こうして、幽々子は日々胸部の脂肪と霊夢をはじめとする貧乳組のコンプレックスを増大させているのだ。
…なお、幽霊に脂肪がつくのかという突っ込みは却下の方向で。
「いいわね、いただこうかしら。」
幽々子の背後には異様な量のお茶菓子が山のように積んであるが、誰も驚きはしない。
霊夢や魔理沙がはじめて幽々子と敵としてでなく会ったときはさすがの彼女たちも驚いたが、すぐ慣れた。
「せっかくだからいただくが…あのお茶菓子の0.何%が私たちのものになるんだろうな?」
最初から小数点以下で数えるあたり、よく分かっている。
「あら、0%よ。お客さま用のは別に用意するわ。」
「…ってことは、全部食べるのね。相変わらずの食欲ね。」
「勘違いしないで、あれは一皿目よ」
…わけでもないようだ。やはり幽々子の食欲は魔理沙たちの理解の範疇を超えている。
「白玉楼の西行寺幽々子…噂以上ね。大食いに関してはあたいじゃ勝ち目無いわ…勝つ気も無いけど。」
「それ以外でもチルノじゃ勝てないわよ」
「なにィ!!」
お気づきの方もいるかもしれないが、さっきからアリスが出てきていない。いるにはいるし、発言もしているのだが、霊夢たちには届いていない。
幽々子が出てきたあたりから、勝負のことと一緒にアリスの存在までなかったことにされている。
部屋の中に入り、妖夢がお茶菓子の準備をしに行った頃合で魔理沙が気がつき、お茶会に引っ張り込んだが、
やはり勝負のことは完全に無かったことにされている。
こうしてお茶会は始まった…のだが、なぜか飲み会になっていた。
お茶とお酒をすりかえられたのか、アルコールとノンアルコールの境界をいじられたのか、どちらにしろスキマ妖怪八雲紫の仕業と思われる。
彼女はとんでもない力を持ってるのに大体はどうでもいいことに使うのだ。
ちなみに、白玉楼の台所には麦茶も置いてあるのだが、お約束通りめんつゆにすりかえられていた。
それはともかく、彼女たちの飲み会なんて、とんでもない被害が発生しそうだと思われるが、
今回は魔理沙が酔ってマスタースパークをぶっ放したり(しかしチルノに直撃し被害は押入れとその中身ぐらいで済んだ)、
幽々子が酔って…なのかそれとも故意なのかは知らないがチルノを食べてしまいそうになったり、
幽々子が火照った体(性的な意味でなく)を冷ますためにチルノに抱きついたせいで危うくチルノが楼観剣の錆になりかけたりと、
とにかくチルノばかりがひどい目にあった程度で、彼女たちの飲み会としては奇跡的に少ない被害でお開きになった。
…ちなみに、めんつゆの被害にあったのは魔理沙だった。
「まったく、何でお茶会が飲み会になるのよ…」
「いいじゃないか、楽しかったんだからさ」
「その通りよ。またいらっしゃい。お茶会でも飲み会でも、歓迎するわ」
「飲み会は遠慮するわ。今回はたまたま被害が少なかったけど、このメンバーじゃなにが起こるかわからないわよ?
…それはともかく、チルノ大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ~…酔って頭はくらくらするしマスタースパークで黒こげになるし他にもいろいろあったし…」
「あー、あれは悪かった…」
「くそー、この借りは絶対返してやるんだからね!」
こうして彼女らは白玉楼を後にした。
★★★
「さて…明日もよろしくね、チルノ♪」
「よろしく頼むぜ」
霊夢たちはまたチルノに抱きついて涼むつもりらしい。霊夢はともかく魔理沙、懲りない女である。
「やだよ!夏の間は絶対行かないもん!」
「秋や冬は行くのか?」
「う……そ、そうよ!冬に行ってあんたたちを寒がらせてやるんだから!」
「えー、私はチルノが来てくれないほうが辛いけどな~?」
「……そ、そう…なの…?なら、その言葉…後悔させてやる~!」
「…いっちまったぜ。あいつ、顔赤かったけど…大丈夫か?『変態』の仲間入りしたりしないよな?」
「大丈夫よ、いくらチルノでもそのぐらいは分かってるはずよ」
「いや、バカをなめないほうがいいぜ?」
「…まあ、仮にそうなってもきっとどこぞの吸血鬼とかよりはマシよ。じゃ、またね」
「ああ、また明日行くぜ」
「…何しに来るのよ」
「暇つぶし」
霊夢は呆れながら魔理沙と分かれ、神社へと帰った。
神社には何者かが侵入していたが、霊夢が目当てなので何も盗られてはいない。というかそもそも盗る物なんてほとんどない。
いつものことなので特に気にせず、霊夢は眠りについた。
★★★
翌日。例によって魔理沙が神社へやってきた。
「予告どおり来てやったぜ、霊夢」
「来なくていいのに…」
「まあそういうなって。…お、あいつも来たぞ」
魔理沙が鳥居の方を指差す。そこには例の氷精の姿が。
「あたいも予告どおり来たよ!昨日の言葉、後悔させてやる!」
「へぇ、どうやって?」
「弾幕ごっこよ!毎日挑んでやるんだから!」
「望むところよ。…確実にそっちが先にバテるんだろうけどね」
「なにィ!!」
今日も平和な幻想郷。そして、博麗神社。
なんだかんだいっても、友人が来たときの霊夢は嬉しそうである。
それはもう、鈍感な魔理沙でも分かるほどに。…バカなチルノは気づいていないようだが。
以前はあまり他人に興味なさそうな霊夢だったが、いろいろなものに触れて変わりつつあるようだ。
魔理沙は、そのことが友人としてとても嬉しかった。
氷の妖精と仲良く喧嘩している友人をしばらく眺め、それからそこに加わっていった。
「なあ、弾幕ごっこなんかしたら神社壊れてしまうんじゃなかったのか?」
「…あ」
「なら神社の外でやるわよ!」
「望むところよ!」
「私も加勢するぜ」
「ちょっと!それは卑怯!」
END
「…ん?私達…何か忘れてないか?」
「え?何かしら…」
「まあ、忘れてるってことはどうでもいいことなのよ。あたいもどうでもいいことはすぐ忘れちゃうもん」
「それはあんただけよ。…でもまぁ、そうかもね」
その『忘れもの』は白玉楼にいた。
それは昨晩の出来事だった。
「…幽々子様、この方はどうしましょう?」
「あらあら、酔いつぶれちゃったのね。じゃあ泊めてあげなさい」
「それが…ここにはほとんど泊まりのお客様がいらっしゃらないので…先ほど魔理沙に焼かれた押入れの中にしかお客さま用の布団が無いんです」
「あら、そうなの?どうしましょう…
あ、そうだ、私の布団に寝かせてあげましょう!」
「え?じゃあ幽々子様はどうなさるんですか?」
「そうね…妖夢と寝ようかしら」
「え!?」
「赤くならなくても大丈夫よ、性的な意味じゃないから」
「そういう問題じゃないです!(性的な意味って何!?)主人と同じ布団で寝るだなんて…そんなこと…」
「いいじゃないのよぅ~」
…結局、アリスは妖夢と同じ布団で寝ることになった。
そして翌朝。
「ん…ふぁ…あれ?ここはどこ?」
アリスは周囲を見渡す。少なくとも、自分の家ではないことは分かった。
和風の家屋で、自分が布団で寝ていたことも分かった。
そして隣には…妖夢が寝ている。
「ーッッ!!??」
声にならない叫び。
「え…え…えぇぇえ!?私…なんで妖夢と、一緒に…たしか、昨日は…お茶会と称した宴会で…酔いつぶれて…
ってことは私、妖夢と…そんな…最初は好きな人とって決めてたのに…そう…霊夢…魔理沙…
でも…はじめてを奪われたからには責任を取ってお嫁にもらってもらわないと…
そうね…挙式はどこがいいかしら…やっぱり神社ね…霊夢はあんまり仕事をしないからやってくれるか心配だけど…
いえ、きっとやってくれるはずよ、それより旅行はどこにしようかしら…
あのスキマ妖怪に頼んで幻想郷の外へ行くとか?本で読んだ南の島とか…きれいな高原もいいわね…」
例によって、ものすごい早口。これが魔法を使う時に出せれば、努力しだいで最強クラスの魔法使いになれるだろう。
なんといっても、どんな魔法もほとんど無詠唱に等しい早さで唱えられるのだから。だが、生憎この早口はこういう状況でしか出ない。
「ふぁ…あ、おはようございますアリスさん」
あれこれ考えているうちに妖夢は目覚めた。そして、
「どーなの妖夢!?南の島に行くの!?高原に行くの!?」
もちろん唐突にここだけ言われた。
その後白玉楼ではアリスを鎮め誤解を解くのに大変だったらしい…
今度こそEND。
なんて思いましたがより一層ねじ曲がっちゃいそうですね。
脳内で魔理沙がめんつゆを飲んで豪快に吹き出す様子を思い浮かべて楽しむことにします。
アリスの放置っぷりと結論だけ相手にたたきつけるあたりがツボでした。
そして寒い日が続く中、思いっきり夏全開のSSを投下するあたりに意気込みを感じました。
いやあ実際チルノで涼をとるシーンでは鳥肌が…。
チルノが可愛いですね。