Coolier - 新生・東方創想話

気まぐれの裏ごし

2007/01/05 03:11:18
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 このお話しは作品集その36「シェフの気まぐれ退屈しのぎ」の裏側です。
 そちらを見ていないと意味不明なので、くれぐれもお気をつけください。













 風はやみ、竹藪に刹那の沈黙が訪れた。
 その沈黙の最中、慧音は誰が有能な上司に選ばれるのだろうなと、他愛もない事を考えていた。自分の書いたことを思い出し、慧音はふっと笑うと再び歩みを進め始める。
「いずれにしても、私には関係の話だ」
 開票後の四人の顔を思い浮かべながら、慧音は軽い足取りで永遠亭を後にした。





 姫様の「誰が一番有能な上司かしら」発言から数十分経った頃。因幡てゐは自室で悶々と悩んでいた。
 てゐは永遠亭内での自分の評価をよく理解していた。
 口でこそ、自分は他の三人には劣らないと言っていたが真っ赤な真っ赤な嘘である。
 姫は何もしない人だが、その代わりに悪評も立たない。普通は何もしなければ怠惰だ、怠慢だと不満もあがるのだが、こと相手が姫になると途端に仕方ないかという空気になる。
 数多の物語のお姫様がそうであるように、姫とは働かないものだと相場で決まっている。もっとも、そう思っているのは下っ端の兎達だけであり、永琳やウドンゲは姫に「自分で動け」とよく怒鳴っている。
 害こそないのでてゐは文句を口に出さないが、重いニンジンを運んでいる最中に、寝癖をつけながらまだ眠いと言ってる姫と出会うと軽く殺意を覚えたこともしばしばだ。害がないからといって、無害だとは限らない。
 とはいえ、選挙で投票権があるのは下っ端の兎達。ウドンゲも永琳も自分も有能な上司ではないと思った兎の殆どは、なんとなく姫に投票するのではないだろうか。
「消去法とはいえ、そういった兎も多いはず。なんとかしないと」
 姫だけではない。ウドンゲもあれでなかなか強力な敵である。
 有事の際には頼りないように見えるが、あれで中々頼もしい一面を持っている。それでいて気が利くのだから、兎達の一部にファン倶楽部があるという話も頷ける。
 しかも、ウドンゲには時折みせるドジな一面もある。しっかりしているように見えて、軽いミスならよくやっている。つい先日など、盛大にこけて惜しげもなく縞柄の秘宝をご開帳していた。
 一部のファンはそこが良いと言うのだが、てゐにはイマイチ理解できない。それよりも、罠にかかって涙ぐんでいる時の方がよっぽどグッとくるものがある。根っからのSだった。
「なんにしろ、ファン倶楽部っていう固定票があるのは痛いよねぇ。なんとかしないと」
 そして最後に控えるのが永遠亭の裏ボスとも誉れ高い八意永琳だ。
 普段こそ冷たい印象のある永琳だが、いざという時に頼ってしまうのは間違いなく永琳である。
 妖しげな薬を作っているという黒い噂こそあれ、その技術で多くの人や妖怪や兎を助けているのもまた事実なのだ。実績に関していえば、永琳以上に有能な上司などいないだろう。
 現に、てゐも有能な上司と言われて思いついたのは永琳の姿である。
「最有力候補ね、なんとかしないと」
 対して、自分。
 日頃から仕事はしているものの、むしろ合間をぬっての罠製作や詐欺行為の方に力を入れている。
 それが永琳の薬のように他人の役に立ってくれれば良いのだが、いかんせん仲間の兎や暇な人妖が引っ掛かる程度だ。極稀に来襲してくる黒い魔法使いを撃墜することもあるのだが、永遠亭内での被害状況を鑑みるにチャラというよりかはむしろマイナスだ。
 わかっているものの、これはもう性分なので止めることはできない。
「……なんとかしないと」
 危機感だけはこれ以上ないくらいにあるのだが、どうにも対策が思いつかない。
 せいぜい出来ることといえば、選挙用に作った板の名札を首からぶらさげて自分をアピールするぐらいである。
 正攻法だ。いたって正攻法だ。
「そんなの私らしくないし、それじゃ勝てる見込みもないし。う~ん、どうしたもんかなぁ」」
 畳の上に寝転がり天井を見上げた。そこに対策が書いてあるかのように、天井の板目を凝視するてゐ。
 しかし、いくらそうやって眺めていたところで事態が好転することはない。
 どんなに頑張ったところで、今更自分の評価をうなぎ上りにすることなど、できやしないのだ。逆ならまだしも。
「ん? 逆ならまだしも……」
 ふと、ある閃きが脳裏によぎった。
「そうか、自分を上げることが出来ないなら他人の評価を落とせばいいんだ。なんだ、こんな簡単なことに気づかなかったなんて、いやぁ私もまだまだ甘いなぁ」
 解決策を思いついたことで、てゐの顔には自然と極上の笑みが浮かぶ。問題はどうやってだが、この領域はてゐの領域。
 人を幸せにする兎はしかし、人を不幸にする方法も熟知していたのだ。





 永遠亭内ろ地区清掃担当の兎の証言
「ええ、最初は何かの芝居かと思ってたの。それほどにどす黒い笑いだったから。獲物を追い詰める時の人間の息遣いにも似てたなぁ。思わず毛が逆立ったのを覚えてる」
「え? 誰の笑い声が確かめたか? 少し怖かったけど、ちゃんと確かめた。てゐ様の部屋でした。それでようやく納得できたんだよ、ああてゐ様かと」
「別に普段からそういう笑いをしているわけではないんですけど、何となくてゐ様ならそういう笑いをするかなって思って。あっ、これは記事にしないでね。ばれたらトンでもない目に遭うんで」
                      (選挙管理委員会記録係 射命丸 文)





 てゐが黒い笑いをあげてから数時間後。慧音が退出した東屋の中で、輝夜は一人お茶をすすっていた。
「それで、あなたも投票してくれるのかしら?」
 室内には誰もいない。狭い離れだけに、隠れられる空間も殆どない。
 それでも、輝夜はまるで室内に誰かいるかのように話しかける。
「部外者でも歓迎するわ。投票する気があるなら適当に紙を貰って好きな名前を書くといいわ。勿論、私の名前を書いてくれるにこしたことはないけど」
 それでも反応がないので、やがて仕方ないという風に輝夜は名前を呼んだ。
「いい加減でてきたら、八雲紫」
「驚いたわ、気づいてたのね」
 虚空に一文字の切れ目が出来たと思ったら、そこから一人の女性が顔をのぞかせた。いつもは捉えどころのない表情をしているのに、今日は珍しいことに驚いた顔をしている。
「驚いたのはこっちよ。本当にいるとは思わなかった。適当に誰かいるかなって呼んでみただけなのに」
「……嘘だとしても大したものよ」
 幻想郷広しと言えども、紫の表情を多彩にしてくれるのは片手で数えるほどしかいない。輝夜はその数少ない片手の中の人間であった。
「それで、あなたは投票してくれないのかしら?」
「残念ながら。私は管理する側よ、投票する権利はないわ」
「珍しい。烏天狗だけじゃなくてあなたも管理側に回るだなんて。ひょっとしてあの魔法使いも来ているのかしら」
 輝夜は魔理沙の事を気に入っている節がある。極稀に、その名前を口にすることがあるのだ。その頻度は永遠亭外では妹紅の次に当たる。
 退屈させない人間は好きだ、という理由らしいのだが真偽の程は本人以外は誰も知らない。
「今回の部外者は私と烏天狗の彼女だけよ。ただ、慧音は投票していったようだけどね」
「それは何よりだわ」
 彼女とは楽しい会話をすることができた。印象という一面から考えるなら、まず自分の名前を書いたことは間違いない。
 その考え自体が間違いなのだが、指摘する者はおらず輝夜が気づくことはなかった。
「ところで、あなたはここに何の用かしら? 退屈しのぎをするのは好きだけど、されるのは迷惑よ」
 余裕ある者のみが浮かべることのできる独特の微笑で、輝夜はそう言った。
 紫は気分を害された様子もなく、空中の切れ目の中から何かを取り出す。
 茶色の皮で黄金色の実を覆ったそれは、食欲をわかせる仄かな匂いを狭い室内に充満させた。
「焼き芋?」
「あなたの分よ。害のある毒は入っていないから、食べるといいわ」
「妖しい言い回しね」
「驚かせた罰よ」
 焼き芋を手渡される。
 からかいの言葉をぶつける紫から目をそらし、輝夜は木の格子越しに外を見つめた。遠くの方で、時計も持っていないのに兎達が慌ただしく走り回っている。
「なんにせよ、退屈しないのなら構わないわ」
 紫は含み笑いを浮かべながら「得意分野よ」と誇るでもなく言った。





  選挙管理委員会副委員長の証言
「もちろん反対しました。部外者を入れるのが嫌だったというより、相手が相手だったんで。まぁ、最終的にはごり押しで委員に入ってきたんですけど」
「ただ、入ってからは特に何をするでもなかったんで一安心しました。多分、管理委員というシステムの中から選挙を見たかったんじゃないかと思います」
「唯一、気になることと言えば焼き芋を持っていたことでしょうか。どこからというより、何で持ってたんでしょうね。小腹が空いた時の非常食なんでしょうか?」
                      (選挙管理委員会記録係 射命丸 文)





 輝夜と紫が出会う数十分前のこと。
 玄関でウドンゲは、恥ずかしそうに頬を染める慧音を思い出し、思わず吹き出していた。
 知的な彼女が困ったように迷う姿というのは、想像以上に笑いのツボを刺激する。ギャップというやつだろうか。
「クスッ、師匠に言ったら慧音さんは怒るかなぁ」
 慧音からもらった焼き芋を抱えながら永琳の部屋へと向かう。適当に部屋の中にでも置いておけばよかったのに、わざわざウドンゲに手渡すあたりに慧音の心配りが感じられる。
 せめて、その一割だけでも他の三人が持っていれば。具体的にはてゐとか。てゐとか。
 礼儀正しく正直なてゐの姿を思い浮かべ、ウドンゲは背筋が震えるのを感じた。悪い子ではないが、今までが今までだけに急にまっすぐに向かってこられると何の罠かと勘ぐってしまう。
 狼少年は村人に信じてもらえないことを悲しんでいたが、てゐならどさくさに紛れて羊を自分の物にしかねない。そして、狼の群にやられたと思いこむ村人達をそれみたことかとあざ笑うタイプだ。
 重ね重ね言うが、悪い子ではないのだ。本当に悪い子というのは、永琳や輝夜のような……
 そんな考えていると、ふいに背後に気配を感じた。
 振り返ってみる。しかし、そこには長い廊下が広がるばかりで誰も姿もない。
 不思議に思いながら顔を戻すと、奇妙なことに焼き芋の数が少しだけ減っていた。
「あれ? えっと……あれ?」
 あたりを見回すが、当然のごとく床に焼き芋は落ちていない。
 蒸発したわけでもあるまいし、焼き芋がいきなり消えるなんてことがあっていいはずがない。例え幻想郷であろうともだ。
「変だな、どこいったんだろ?」
 清掃担当がさぼっているせいで、床には多少のホコリが積もっている。しかし、それだけ。何度見ても、どの角度から見ても焼き芋の影も形も見あたらない。
 ひょっとしたら何か変な空間に吸い込まれたのか。なくもない結論へと強引に結びつけ、仕方なくウドンゲは再び歩き始める。
 首は傾げながらも、足は永琳の部屋へと向かっていた。




 選挙管理委員会監視係の匿名希望の証言
「焼き芋なら藍が作ってくれるし、別に特別食べたかったわけじゃないわ。現に私は一欠片も食べてないし。ただ月の兎をからかってみたくなっただけよ」
「人が神隠しにあえば誰かが気づく。でも、物が神隠しにあっても誰も気づかない。大抵は紛失したと思うでしょうね。本当は別の世界へ行っているかもしれないのに」
「人も物も心でさえも、神隠しは消してしまう。理由? 私は管理委員会の妖怪だから神隠しの理由なんか知らないけど、退屈しのぎなんじゃないかしら。それこそ、ここの暇人のように」
                      (選挙管理委員会記録係 射命丸 文)





 集中しているときの永琳の耳は、多くの雑音を通さない。目はひたすらに対象へと向かい、精神も究極の刀のごとく研ぎ澄まされる。
 たかが遊びの選挙活動とはいえ、負けるのも癪だった。強さや可愛さであれば、一歩ひいて輝夜を上に立たせることだってしただろう。もっとも、輝夜はそれを嫌がるだろうが。
 ただ、有能さを競うとなれば話は別だ。ここで頂点に立った人妖は、有事の際に頼るべき人妖である。それは永琳でなくてはならなかった。
 姫では統率はとれないし、ウドンゲやてゐでは頼りない。いざという時のことを考えれば、それは永琳でなくてはならなかった。そうでなければ、指揮系統に乱れが生じる。
 逆に考えれば、これは良い機会である。輝夜が意図して言ったとは思えないが、これで一般兎達がどう思っているのか自然に聞くことができた。
 ならば、永琳にできるのは勝利を勝ち取ることのみ。
 ニンジン畑の拡張問題、亭内の改装作業、防衛設備等々。永琳は次から次へと、問題を解決する案をいくつも書面に起こしていた。
 これだけの実績があれば、兎達も永琳の有能さを認めざるをえまい。
 もちろん、それと平行しててゐの妨害工作にも対処していた。結果、永琳と輝夜に関するてゐからの妨害工作は見事に失敗した。
 ある程度の作業を終え、永琳はようやく一息つくことができた。肩をほぐすように叩きながら、すっかり冷めたお茶をすする。
「はぁ、甘い物が欲しいわね」
 あると思っての言葉ではなかったが、ふと首を回してみると部屋の入り口に焼き芋が置かれていた。本当に甘い物が出現し、少し驚いた永琳だったが、すぐさま焼き芋に飛びついた。
 皮をむき、中から現れた宝石よりも価値のある実にほおばりつく。
「う~ん、誰かは知らないけど気が利くじゃない」
 満足そうに顔をほころばせ、永琳は再び焼き芋に口をつけた。





 ウドンゲを影ながら見守る会会長の証言
「確かに、永琳様の部屋に鈴仙様が入っていくところを見たわ。でも、何をしてたかまではわからないけど」
「それよりも、あの噂って本当なのかしら。あなたなら噂とか、そういうのに詳しいんじゃない。なにか聞いてないの?」
「えっ、どんな噂かって、まさか知らないの? ここだけの話なんだけど、実は鈴仙様は縞パンじゃなくてノ(以下 ウドンゲ氏の乱入により聞き取り不可能)」
                     (選挙管理委員会記録係 射命丸 文)





「……永琳様でしょ、私の妨害してたのは」
「あら、聞けばそれほど大した噂じゃなかったけど……そうよ。ところで、焼き芋をくれたのはウドンゲ?」
「慧音さんからのもらい物です。もう、姫様は守るくせに私は守ってくれないなんて薄情ですよ、師匠。なんか皆の目は鋭くなるし、本当に怖かったんですから」
「主人の特権よ、イナバ。諦めなさい。時に、そのスカートの下は本当にノ……」
「うわぁー! うわぁー! 聞こえないぃぃぃ!」
 兎達は投票を終えてから数十分後、四人は再び居間へと集まっていた。開票の結果を聞く為である。
 四人の他には記録係の文と、いつのまにか監視係から開票係へとジョブチェンジした紫の姿があった。
「静かになさい。結果が聞きたくないなら、この結果は私の胸の中にだけ仕舞っておくけど」
「狡いですよ、私にも教えてください」
 紫の柔らかい一喝と文の懇願の声に、四人は仕方なく口を閉ざす。誰しもが結果は気になるのだ。
「それじゃあいいかしら。第八十六回、永遠亭で一番有能な上司は誰だ選手権の結果を発表させてもらうわよ」
「えっ、そんなに伝統ある行事だったんですか?」
 流れを止める文に、紫は不満そうな顔を向ける。
「勢いよ、勢い。こういうのは無駄に回数が多いほど良いんだから。それより流れを止めないでちょうだい」
 しきり直し、紫が再び口を開く。
「じらすのももったいないし、早速結果を発表しようかしら。まずは第三位」
 さも当然のように三位から発表しようとする紫に、ウドンゲが待ったをかけた。
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり三位って、普通は四位から発表するものでしょうが」
「それじゃあ面白くないわ。四位は最後に発表することにしましょう」
 つまり、最後に残るのは一位と四位。優勝かドベの二者択一。確かに盛り上がることは盛り上がるが、当事者達からしてみればたまったものではない。
 四人が四人とも、紫に向かって恨みがましい視線を向ける。
 そんな視線なんてなんのその、紫は気にした風もなく蕩々と喋り続ける。
「さて、それじゃあ第三位。二十七票獲得したのは……」
 場に嫌な緊張感とむずがゆい静寂が満ちた。
「因幡てゐ」
「ブーブー! 不正だ! 賄賂だ! やり直しを要求する!」
 要求したいのはこっちの方だと、心の中でウドンゲはため息をつく。一日前に戻れるボタンがあれば、今なら連射するだろう。間違いなく。
「負け兎の鳴き声は無視するとして、次は第二位の発表よ。五十一票も獲得したのは……」
 静寂の中にてゐの不満そうな声が響く。
 紫の瞳が怪しく輝いた。
「蓬莱山輝夜」
「……あら、そう」
 口調こそ潔いが、顔は不満だと如実に物語っていた。
 視線を向けられているわけでもないのに、ウドンゲは殺気らしき気配を向けられている気がした。被害妄想ならよいのだが。不安になる。
「残るは私とウドンゲの二人だけね」
 自分か永琳の二択だったら、間違いなく永琳を選ぶ。結果を聞くまでもなく、ウドンゲは己の敗北を感じ取っていた。
「最後は一位の発表よ。百十六票を獲得して栄光ある優勝を手にしたのは……」
 てゐのブーイングと輝夜のため息が静寂をうち破る。
 そして――
「八意永琳」
「まぁ、当然ね」
 やはりか。ウドンゲの心中を、その言葉が埋め尽くす。
 しかし、紫はその後に驚くべき言葉を付け足した。
「それと鈴仙・優曇華院・イナバ」
「……はぁ?」
 ここで呼ばれるべきか、優勝したものの名前。だとしたら、自分の名前も呼ばれるのはおかしいのではないか。
 そういった思いが口から漏れだす。
 周りの皆も、眉をひそめて楽しそうな紫を見た。
「つまり票数が同じだったの。だから、優勝者は二人。多分、月の兎に関してはあの噂が追い風になったんでしょうね」
 悪評にしかならないと思っていた醜聞。それがまさか、自分を優勝に導こうとは。
 そんな感慨に浸る間もなく、ウドンゲの脳裏に一つの疑問がよぎる。それは他の三人も同様で、代表してウドンゲが疑問を口に出した。
「だったら、四位は誰なんです?」
 紫は意味ありげな笑いを浮かべたかと思うと、一枚の紙切れを宙に投げて、虚空にできた空間の中へと入っていった。
「それは誰かさんの投票用紙よ。四位は一票しかなかったら、それで答えを確認してちょうだい」
 そう言い残し、空間の切れ目が糸で縫うように閉じていく。ひらひらと木の葉のように舞い落ちる紙を永琳がつかみ、他の連中にも見えるように広げた。
 紙には達筆な字でただ一言。

『該当者なし』

 と書かれていた。





 有効票最後の一枚について詳しい半獣の証言
「私は思ったことを素直にそのまま書いただけだ。有能な上司など、彼女らにはふさわしくない言葉だろ。面白い上司ではあるがな」
「私の答えに怒っていた? まぁ、そうだろうな。予想はしていた。え、既にここに向かってる?」
「仕方ない、今日は紅魔館に行ってほとぼりが冷めるのを待つことにしよう。ああ、済まないがそう妹紅に伝えておいてくれないか……って、もう来――」
                     (選挙管理委員会記録係 射命丸 文)
 舞台裏、あるいは後日談。それとも結果発表と呼ぶべきでしょうか。
 投票結果が知りたい人がいたようだったので、四苦八苦しながら書いてみました。四人の結果は後付けですけど、慧音の投票は最初から考えていたのでそこら辺は楽でしたが。
 多分、自分も投票をしたならば慧音と同じ事を書くと思います。

 ちなみに、紅魔館で同じ事をしたら圧倒的多数で咲夜さんの一人勝ち。パチュリーにも一票入ってようですが、まぁ誰かは言わずもがな。お嬢様は幼いという理由で零票。美鈴は棄権しましとさ。
八重結界
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