Coolier - 新生・東方創想話

博麗神社のひょこひょこばあさん。

2007/01/01 07:46:37
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博麗神社のひょこひょこばあさん。


ちょっと気になったのだが。星が本当に円いのだとしたなら、囲いのこちら側とあちら側、どちらが外でどちらが内なのだろうね。



 急須を手に取る、茶を注ぐ。適当に持ってきた湯呑のうちへ。急須を置き、湯飲みをつかみ、ほんの僅か口にする。正しく座するは神社の縁側、わたし独り。時刻は朝の務めを終えたあと、普段どおりにお茶を飲むころ。
 博麗神社はいつもと変わらず、朝の務めも変わらず、飲んだ茶の味もいつもと何ら変わりは無かった。強いて言えば昨日とは使っている湯呑が違っているということ。或いは昨日と同じかもしれない。しかし、どうでもいい。特に気に入っているものはなし、茶が飲めるのならご飯用の碗でも良いのだ。
「今日も平和ね。60年周期の異変以来、特に事件が起こっているわけなし、天気もいいし。これで賽銭が集まれば文句なしなのだけど」
 流石にそれは都合が良すぎるだろう。こんな世界の果てと中心になぞ、好きこのんでやって来る「人間」は少ない。だがそれでも奇妙な縁に引かれて、神なき社をおとなう「輩」は少なくない。
「退屈ね………」
 更にはここ最近、足繁く鳥居をくぐる者がいる。彼女も退屈なのかもしれない。この凪の如き季節が。
 茶を飲む。ほっと、一息。

 それに合わせて、風が凪いだ。

 茶を飲むころからそんな気がしていた。突き抜けるように高い青を見上げた。そこには、晴れ晴れとも黒々とも取れる笑みを浮かべた「予感」が、箒にまたがって飛んでいた。

「よう、今日も素敵な巫女さんと遊びに来てやったぜ」

 黒のエプロンドレス、黒の三角帽子、気風の良い笑顔。スカートを抑えているのはドロワーズを見られない様にしているのだろうが、彼女は知っているのだろうか? 隠そうとしているそれは、もともとは覗き防止用の下着、てことは見られて当然のもの。それを隠そうなど本末転倒である。
「お早う。今日こそ賽銭を持ってきたんでしょうね?」
「あん? こーりんとこの変な箱じゃあるまいし、金を入れなきゃ相手もしてくれないのか、ここの巫女さんは」
「巫女が相手にするのは神様と賽銭を入れてくれる人だけよ」
「ならいいだろ、私の相手しろよ。どっちもここには居ないんだし」
「失礼ね。どっちも居なきゃこんなところ、とっくに朽ちて無くなっているわよ」
 いやまあ、確かに賽銭箱は長い間チャリンという小気味の良い音は立てていないが。しかしそこは否定をせねば、巫女など形無しである。
 いよっと一声、魔女が降り立つ。先の“鳥居をくぐる”云々は訂正しなきゃならない。ここにくぐらずに飛び越える不届き者が居る。まったく。
「さあさあ、早く遊ぼうぜ。人生なんてメメント・モリなんだからさ」
「それ、なんか使い方が違うと思うんだけど」
 いつも強引にわたしを急かす彼女は、非常に直線的な性格だ。急須や湯呑を片付けないと壊されてしまうのは目に見えている。そう警戒したわたしがわたしなりに急いで片付けているというのに。
「!」
 閃く。ささやき、瞬間、わたしは虚へと躍り出る。
 ぼうむっ、と眼下で魔女の放ったポーションが炸裂する。パッと見たところ縁側は半壊、急須と湯呑は見るまでもなく全壊だ。

 まあ、いいか。特にお気に入りというわけではなかったし。

「ちょっと! 片付けるくらいの時間はいいじゃない!!」
「いんや、駄目だね」
 ひらりと宙に舞う幼き魔女は、いとも容易くわたしの背後を取ってしまう。流石は幻想郷きってのスピードスター、しかし空で背後を取られてもたいしたことはない。全方位360度、逃げ道などいくらでも。
「あの日から、あの日から何度だって言っているだろう? 命短しナニせよ乙女、って」
 至近距離から迫る星屑のミサイル。札・払いの棒を駆使してそれらを外し、いなし、かわして行く。雲ひとつ無い空をわたしたちは縦横無尽に廻る。最小限の機動で回避、彼女へと距離を詰める。が、弾幕の向こうで魔女は次の布石を打っていた。

東天より射す陽光を背に、それに劣らない光を掌に構える魔法少女が見えた。煌く恋の符、其の名は。
「私がお前に・・・・・・・・やるって!」



 ○月×△日、午後。幻想郷の外れ、博麗神社にて謎の大発光現象が目撃された。その情報をいち早く得た私はこれぞブン屋の面目躍如ぞと現場へ急行。それが起こったであろう神社の境内にて、老婆の遺体を発見した。
 私はこの事件の真実を明かすべく、博麗神社の捜査、彼女の友人を名乗る人物の聞き込みを開始した。



 急須を手に取る、茶を注ぐ。適当に持ってきた湯呑のうちへ。急須を置き、湯飲みをつかみ、ほんの僅か口にする。正しく座するは神社の縁側、わたし独り。既に中天に太陽が昇り、掃除を終えたわたしは空腹を紛らわすために煎餅も用意した。
 普段と変わらぬ神社の務め、何時だったか誰だったか、よくも飽きぬものだとからかわれた。仕方が無い、ここを取り仕切るのはわたし一人、放っておいては朽ちるばかり。飽きるも飽きぬもないのである。
 わたしがやらねば誰もやらない。只それだけのこと。

 ほぼ垂直に降りてくる光が心地よい縁側。今日の煎餅は濡れたように湿気ている。放っておいたわけではない、元からそういった食べ物らしい。
「………もにゅ。悪くは無いけど、歯に詰まるわね」
 それにパリッと気持ちよく割れてくれないと、どうにも煎餅を食べた気になれない。これなら確かに口内が荒れる心配は無いが。
 まあ、いい。さっさと食べてしまおう。急須とかを壊されてもこちらが困るし。
 おそらく、或いは確実に彼女がやってくるだろうから。

 かくして、予想の通りに魔女はやってきた。

「よう、なんだか変な物を食べてるじゃないか。私にも一口と言わず一枚かませろよ」
「その言い方は変だと思うわ。第一もう食べちゃったわよ」
 今日の彼女は奇妙な格好をしていた。黒に白のストライプが入ったジャケットとスラックス。ワイシャツにしっかりネクタイを締めている。彼女の良く伸びた手足に良く似合っているが、何故黒の三角帽と箒を持っているのだろう? なにやら片手に真っ赤な布の塊を持っているし。
「それで、今日は賽銭を持ってきたの」
 急須・お茶請けはとっくに片付けた。さてさて、今日は一体どのようにするのだろう?
「いんや、持ってきたのはこいつだぜ。神様じゃなくてお前に供え物だ。ありがたく受け取ってくれ」
 そう言うと彼女はわたしの前に立ち、その赤い布を大きく広げた。彼女の身長は縁側に座るわたしを大きく上回っており、その布を丸で覆いかぶせるようにして、わたしの首周りに巻きつけるのは容易いことだった。
「………なにこれ?」
 その使用方法は防寒具のそれに酷似していたが、如何せん造りが大雑把過ぎた。毛糸の密度はところどころによって違うし、端は適当に編んであるから今にもほつれそうだった。
「どうだ、改心の出来だろう?」
「………いや、だから、ナニこれ?」
「なに? 判らないだと? お前のんびり日の光を浴びすぎたな、頭が沸騰しているぞ。
 これはな、マフラーだ」
 やはりか。しかしそれにしては。
「大きすぎ、巻きすぎ、肩こりそう」
「いいじゃないか、防寒性はばっちり実験済みだぜ。ほら、巫女服の色にまで考慮したんだぞ?」
「はあ、それで真っ赤なのね。けど………」
 背中へと伸びている、マフラーと名づけられたものを手繰り寄せる。そこには赤地にオレンジで
「for Reimu」
 とポップな文字で綴られていた。まったく、ここまでするならチャンと全部作って欲しいものだ。
「なんだか恥ずかしいんだけど」
「そりゃそうだ。これはそういうマジックアイテムなんだから。霧雨謹製の一品だ。もちろんその手抜きっぽいのは手抜きじゃないぞ。初めて作った感を出すための趣向だ」
 あはははと妙に嬉しそうに笑う魔女。わたしはため息一つ、けどどうにかコレを着こなそうと色々と弄ってみる。
 うん、まあ、わたしの身体のサイズだと逆に似合っているかもしれない。ともすると端が地面につきそうだけど。
「さて、渡すものも渡したし、そろそろ始めるか」
 そういうと妙齢の魔女は箒を手に取り、片手で風車のようにくるくると回した。今日は乗らないらしい。
「3本勝負の2本先取り。どうだ?」
「負けたらお昼ご飯を用意しなさいよ。カロリー消費分は」
「おう、それでもいい、ぜっ!!」

 ごおうっと、爆風と魔女が眼前に。

「!」
 箒を片手でつかみ、その推進力でロケットダッシュ。打ち抜くように拳が迫る。
 がりっ、と嫌な音と共にわたしは地面へ転がる。直撃はさけたが。
「おっ、早速一本か?」
 魔女の嬉々とした声。長い手足、重い一撃。確かに歯を一本持っていかれたが。
「冗談、せいぜい有効よ」
 お払い棒を走らせる。くるくると回りながら魔女の足元へ。あっさりと宙へ逃れる魔女を、幻想空想穴を使い追いかける。零コンマだけ彼女を上回る機動力で、背後を取る。
「おっ?」
 消えたわたしの動きを読んだか、魔女は振り返る前には伝家の宝刀を抜いていた。熱風と浮かび上がる魔方陣・ミニ八卦炉。
 わたしは構わず式と識をくみ上げる。放つは幻想の砲弾、妙なる珠。
 
 「マスター」「夢想」
 「妙珠」「スパーク」

 太陽に負けない幻想の光が、境内を美しく照らし出した。



 彼は私にこのように語った。
「君ほどの見識を持った妖怪なら、博麗大結界は知っているね? 僕らの楽園・苦界を形成する大きな囲い庭。あらゆるものを受け入れる幻想郷だが、そうなってくるといずれは完全なる混沌に至るのは、必然だ。秩序をもたない世界はやがて、その器をも壊してしまう。
 ならそうならぬよう調整をする者が、調停する規律たる者が必要となってくる。結果的に大結界を創った博麗の一族がそれを担ってここまでやってきた。幻想郷を支える柱、しかし幻想郷という世界が存在する時間と、博麗当主が生きて結界を支える時間には、余りにも差がある。博麗の血が絶える可能性だって在るわけだしね。
 早い段階で彼ら・彼女らはそれを危惧していた。妖怪は人を食い、人に狩られるもの。人は妖怪に食われ、妖怪を退治するもの。その大前提がある以上は人間が結界を維持しなければならない。さて、どうしたものだろうと試行錯誤を繰り返して3代目。偶然にも彼らはその解決策を手に入れたんだ」



 急須を手に取る、茶を注ぐ。適当に持ってきた湯呑のうちへ。急須を置き、湯飲みをつかみ、ほんの僅か口にする。正しく座するは神社の縁側、わたし独り。
 冷たい清水で雑巾がけをするには、そろそろ辛い季節だ。少しかじかむ指先に、湯呑越しの茶の温かさが染みた。今日は徹底的な神社の掃除を敢行したのだ、午後はのんびり過ごそう。茶請けにはドラ焼きを用意した。
 が、
「………出がらしにも程があるわ。淹れ直してきましょう」
 台所で熱いお湯の支度をする。茶葉を捨て、急須をさっと水洗い、真新しい茶葉を適量放り込む。薬缶の中を覗き込み、湯の温度を目測する。熱すぎず、かといってぬるくも無く。適温と思われるほどに気泡が上がったら、急須に手早く湯を注ぐ。
 茶を蒸らすのんびりとした時間、ふとみるとわたしのものではない、非常にファンシーなティーカップが2客。少し考え、わたしは1客だけそれを縁側に持っていった。もとより茶はいつも多めに作ってある。一人増えても増えなくても変わらない、と。
 美味く蒸らした茶とティーカップを盆にのせて縁側に行けば、

 既に老婆が最後のドラ焼きを食べた瞬間だった。

「………」
「………うん? ありがとう、霊夢。晴れた空には茶が美味いな、と思っていたところなんだ」
 にやりと、黒い和服をまとう老婆。
「………そろそろ怒っても良い頃合かしら?」
「冗談だよ。ほれ」
 老婆は茶請けの上の何かをつまむ仕草をみせ、ひょいと摘み上げた。瞬間、そこには一つだけ減ってはいたが、わたしのドラ焼きが乗っていた。
「動転しすぎだよ、霊夢。こんなちゃちな魔法にひっかかるなんて」
 奇妙なスカーフをひらひらさせながら、老婆はけらけらと笑った。対象物を被せるだけで見えなくするようなマジックアイテムなのだろう。正直、悔しい。
「はあ、まったく。そんな悪戯に魔法を使うんだから性質が悪い」
「そんなの、今更だろうに」
「とにかく、ほら」
 ティーカップに緑茶を注いで、老婆に手渡す。交差するわたしの小さな手、対称的なしわくちゃの彼女の手。
「おい、これを持ってきてくれたのは嬉しいんだけどね。なんでお前は湯呑なのさ」
「いいじゃない、緑茶にはコレよ」
「違う! 折角私がペアで飲めるようにとあげたのに、なんで私の分しか持ってこないんだお前は」
「どうでもいいことじゃないの」
「………はあ、まだまだ判ってないんだね」
 老婆が物憂げにため息をつく。わたしは気にせず緑茶を飲む。うん、美味い。きっと彼女のティーカップにも同じ美味さが注がれているはずだ。
 ふと、気になって聞いてみる。何時だったか、彼女が言っていた計画を。
「詳しくはわすれちゃったけど、貴女以前に一大魔法を組み上げるとかなんとか、言ってたわよね。アレ、結局どうなったの?」
「現在進行中。さっきはすわ完成かと思ったけど、早とちりだった」
「そう。まあ、怪しい実験は程ほどにしなさいよ」
 その後はただひたすらに沈黙。二人とものんびり縁側でお茶を飲み、食い、たまにぽつりと共通の知り合いを話題に出す。
 そろそろ日が傾き始めたころ。
「さて、長居をしたし、そろそろ森に帰るか」
「そう」
 矍鑠とした様子で立ち上がり、箒をつかんで帽子を被る。はっきり言って似合ってはいない。箒は既に何代目の道具なのかは定かではないし、帽子に至っては所々繕い直した跡がある。変わらない、或いは代わろうとしないもの。
「と、だ。其の前に。霊夢、構えろよ」
 鳥居の外まで見送ろうとしていると、途端に老婆が振り返る。左手には愛用の箒、右手には既に輝き始めた小さな八卦炉。斜陽の光が彼女の陰影を際立たせる。
 幻想郷に名を知らしめた、黒き魔女。老いても猶その圧力は減ずることはなかった。
「しようが無いわね。今日は一度っきりよ」
 懐より、取って置きの符を取り出す。構える符は神技に通ずる一枚。
 大丈夫、いつでも受け止めてあげるから。
「かかってきなさい!」
「そうこなくちゃ!」
 魔女も魅了してやまない恋の閃きを、わたしは鬼をも縛る結界で力強く受け止めた。



「博麗霊夢。捨てられた子供を何の因果か、先代博麗当主は引き取った。気づいていたのか、いや、気づいてはいなかったろう。彼女の真の能力を。
 あらゆるものに縛られない、あらゆるものを受け入れる。どんな重力も圧力も脅しも意味が無い。そう、“降り積もる時間の重みでさえも”彼女を捉えることはできない。
 彼女こそは永遠の巫女。永遠に揺るがぬ規律。博麗の一族が3代に渡って求め、終ぞ手に入らなかった至高の少女。
 ここからは僕の推測だけど。いくつかの点で幻想郷に良く似た、言い換えるなら世界から祝福されたかのような捨て子は、きっと“幻想郷自身”が………」



 急須を手に取る、茶を注ぐ。適当に持ってきたティーカップのうちへ。しかしその次に失敗した。取っ手が妙に小さな造りをしていたお陰で、指先からポロリとカップを落としてしまった。
 かしゃん。落ちた向きが良かったのか、欠けたのは掴みにくい取っ手だけだった。
「まったく、慣れない物は使うものじゃないわね」
 しかしこれなら手掴みにして、湯呑のように使えるではないか。運が良い。さて、片付けようかと腰を上げたところで、既に日が山端にかかった真っ赤な夕暮れ刻に、珍しい客が階段を登ってくるのが見えた。
「あら、霖之助じゃない」
 知人の中では珍しい眼鏡をつけている青年は、相変わらず人間離れした雰囲気を纏っている。姿かたちは全く変わることは無い奇妙な人物。
「どうしたの? 最近は賽銭の実入りが少ないから、お金と言われても出せないわよ」
「いつも賽銭はないくせに」
「失礼ね」
「まあ、その話は何時でもいいんだ。いや、本当は良くないんだけど。今日はそれよりも渡し物が優先なんだよ」
「渡し物?」
 霖之助は懐をごそごぞと漁り、目当てのものを何でもないような仕草でほいと渡してきた。
「?………!」



「けどそのことを知った魔理沙は納得が出来なかった様だ。『私がどうにかしてやるよ』と啖呵を切って飛び出してしまったんだ。彼女がやろうとしているのは、単身世界そのものに挑むということなのにね」



 日暮れの刻、境内に独り立つ。世界は赤く燃えていた。空を見上げる。少しずつ厚い雲が増えてきているようで、もう少しすると斜陽すら遮りそうだった。
 見下ろす、自分の右手に託されたものを。霖之助が大切な魔女に送った小さな奇跡・ミニ八卦炉。これがここにあるという意味を。
「………そう。けど、貴女が逝くにはあの雲が邪魔かもね」
 折角だ、綺麗な空を見せてやろう。やったことも無いことを、何でもないように私は選択する。

 大きく呼吸する。八卦炉を構える。いつもの何倍も何十倍も精神を集中させる。けど応えない。それでもいい。
「……さ」
 優しく、甘く、八卦炉にささやくと。
「!」
 山一つ焦がしつくすほどの熱量が、わたしの眼前に生まれた!
 巫山戯ている。彼女はこれほどの熱量を操っていたのか? 髪が少し焦げた。逆巻く風に瞼を閉じそうになる。しかしそれでもまだ足りない。あの雲を、空を、月をも突き抜けてコレを届かせるには。
「…り…」
 囁く。何度も何度も。囁き続ける。その度にまるで八卦炉は歓喜にむせび泣くように回転を上げてゆく。あああ、これならば。

「っっっ!!」

 にっくき貴女に、狙いを定めて。

「あああああああああ!!」

 放つは恋の最後のキラメキ。  【ファイナル・スパーク】









 魔砲は成った。真直ぐに伸びる巨光は雲をなぎ払い、空には赤い果実がぽっかりと浮かんでいた。ごうごうと耳鳴りが酷かったが、気分は悪くは無かった。こんなにも気分が高揚するのは本当に久しい。魂まで飛び抜けそうな脱力感。
「どうよ、もうこれっきりよ」
 火傷だらけの掌に、内から弾ける様に壊れたミニ八卦炉。眩暈のするほど緻密で繊細な高等式、その残骸を眺めた。もう、これが動くことは無い。
 ぼんやりとそれを眺めていると、その中に一つ、明らかな異物があった。仕掛けに組み込まれている感はない、単なる一枚の紙。
「?」
 灼ける痛みをこらえて、その紙を摘み取る。
何かのメモのようだ。あの破壊にで残っているとは。
 そこには
「ありがとな」
 とだけ殴り書いてあった。
 それは、
 本当に、
 それだけなのに。

 私の咽喉と口が決壊した。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~………………」

 それは単なる声帯の振動。それは単なる音の連続。無為なる叫び、あるいは誰かの名前だったような気がした。
 もはやココロに従わないオトは少しずつ消えていった。胸の内は凪いでいた。なのに、何故だか頬が熱くて冷たい。
 気になって手を伸ばせば、わたしはぼろぼろと泣いていた。もう口といい眼といい、わたしの穴から勝手に出てくるなと言いたい。

 そして気が付く。手がまるで、彼女のように皺だらけになっていることに。肉は縮み、棒のような手足になっていることに。
「………なんだ、わたし、本当は」
 滑稽な感じだが、悪くなかった。かつて無いほど身体が重く、考えるよりも簡単に行えた空中浮遊さえ、出来なくなっていた。重力に、老いに、思いに捉えられていた。

「ああ、うん。けど」
 本当に、悪くなかった。日が沈んでいたけど、身体は冷たいけど、こんなにも頬が熱くて気持ちよい。
「コレが○って呼んでいいのか判らないけど、いいよそれで」
 最後に見た景色、それは。



「というわけで、彼女は魔理沙の所為で、といったら語感が悪いけど、逃れていた天寿をまっとうしたわけだ。一度何かに囚われてしまえば、地に落ちるは道理。次々と圧し掛かるあらゆる力・時間に身体は耐え切れなくなったわけだ」
 しかしこれでは大結界を維持する永久機関がなくなったということですよね。なら、今後の幻想郷はどうなるのでしょう? 私は聞いてみた。
「どうにもならない、どうにかなるよ。僕の推論が正しければ、また結界世界自身が、新しい担い手を生み出して世に送るだろう。それまではどこかのスキマ妖怪が頑張ってくれるさ。世界にだって在ろうとする意思はあってもいいしね。大切なものはいつかは壊れるし、本当にかけがえの無いものでも何処かに替わりは存在するさ」
 どうも、アリガトウございました。
「どういたしまして」



「お前に魔法をかけてやるよ」
 開口一番に魔理沙が叫んだ。全く持ってわけがわからない。
「トラブルに巻き込まれない魔法なら、かけてもいいわよ」
「違う。それは違う。お前が勝手に首を突っ込むだけだろう?」
「それでなんなのよ一体」
「お前は軽くて冷たい人間だからな。お前に恋のマホウをかけてやろう」
「………どうやってかけるのよ」
「さあね、それはこれから見つけるし、これから長い時間でお前にかけるよ。で、かかったところでフッてやる」
「あんたに恋をするのかい」
「悪くないだろう?」
 わたしは、馬鹿なことをいってるんじゃないと、笑ってやった。



[A Perfect Day for FinalSpark]

[しろ正宗:いや、本当にすみません]

タイトルまで変えてしまいました、というかまあ伝わっていなかったのですが。
しろです。狗を呼ぶように発音してくれれば結構です。

結局魔理沙は何時だって勇者のような気がします。
しろ正宗
http://exaudi-nos.hp.infoseek.co.jp/
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コメント



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15.無評価名前が無い程度の能力削除
何故か右端で折り返されてないために横スクロールしなくてはならなくなってて、読む気が起こりません
19.100 削除
なんか泣きそうになった。
呪いを解く王子様役の魔理沙がかっこよすぎる。