Coolier - 新生・東方創想話

しはす

2006/12/22 02:14:42
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外は雪が降ってて、とても寒い。
いい加減、作業部屋にも暖房入れませんか。

ごりごりごりごり。
薬研で薬草を磨り潰す。
地味に力いるから、この作業結構疲れるのよね。

「忙しい」
「へ?あ、はい、忙しいですね」

年末の永遠亭は忙しい。
紅魔館とか白玉楼とかは知らないけど、永遠亭は薬の販売とかで生計を立てている。
一年中人里とかに需要があるけど、年末は特に多い。
酔い止めとか。
そんな倒れるまで飲まなきゃいいのに……と思わなくもない。

「忙しい」
「はぁ。でも姫と妹紅の殺し合いの後処理よりは平和な分いいじゃないですか……」

いろいろ飛び散るから、人里外れとか竹林でやられると結構スプラッタ。
赤い竹。
しかも斑。
緑に赤って目が疲れる。
元から私の目は赤いけど。

「忙しいわ、うどんげ」
「忙しいのは私もですけど……」
「いそがしぃーわーいそがしぃー」
「し、師匠?」

師匠の様子がおかしい。
無表情のままで、作業の手も止まっていなかったから、単なる愚痴か何かだと最初は思っていた。
師匠は確か、伝票の整理なんかをしてたはず。
はずなんだけど。
今は何か、メモに絵っぽいものを描いてる。
師匠なんですかそれは。
もしかして兎ですか。
私には鵺にしか見えません。
でもいくら忙しいとしても、師匠は仕事のときは真面目そのもので、こんなことはしなかったはず。
いや、してても私が気づかなかっただけかもしれないけど。

師匠は相変わらず「忙しい、忙しい」と連呼している。
もしかしたら連日の、製薬→人里に売りに行くという作業のせいかもしれない。
付き人は私だったりてゐだったり極々々々々稀に姫だったりするけど、師匠はほぼ休みなし。
蓬莱人でも、疲労だけは蓄積する。
でも死なない。
あぁ、この忙殺期間が終わったら、思いっきり師孝行をしようと思った。
そんな言葉があるかは、知らないけど。

そんな矢先。

「うどんげ、休憩にしましょうか」
「え、あ、はい」

師匠が休憩の提案をした。
あぁ良かった。
やっぱり疲れがたまってただけで、いつもの師匠なんだ。
私は安心しました。
良かったです。

「じゃあ私、お茶淹れてきますね」
「お願いね」

戸を開けると、外でした。
じゃなくって縁側。
雪がいつの間にか降っていて、結構なつもり具合。
夏場は戸を開けて涼を取ったりするけれど、冬場は結構寒い。
だから暖房器具をお願いします。
小型の火鉢でもいいんで………。

「師匠、雪降ってますよ」
「え?雪?」
「はい、それなりに積もってます」
「雪……積もってる……」
「どうかしましたか?」

雪掻きとか心配してるのかもしれない。
うちは兎という労働力があるから、人海戦術で大丈夫だけど。
もうてゐ辺りは、その辺で雪合戦くらいしてそうな気がする。
氷を詰めるのは、危険すぎるからやめたほうがいいと思う。

「雪ね……」
「はい、雪です」

冬の妖怪も、そろそろ本領発揮ですかね。



ドンッ



「おわぁ!」

押された。
もちろん後ろから。
冷えた床とキスをした。
人型とはまだだけど、地面とか床となら結構な経験が…………関係ない!
打った鼻が結構痛い。

「し、師匠!何をするんですか!」

顔を起こすと、そこには全力疾走をする師匠の姿。
あのスリットもないスカートで、どうやったらあの速度が出るのか。
もしかしたら、地面を走る速度を計測したら天狗よりも速い、いや最速か?
とりあえず、全力を以って追うことに。

「あははははは!!!!」

なんか笑い声上げてるし。
ご乱心ですか、ご乱心ですね?
出会え出会え!
まぁ誰も出てこないんけど!
君子危うきに近寄らず主義、永遠亭。
君子いたっけ。

「とぅっ!」

師匠、突然横に飛ぶ。
そのまま塀の向こうへ。
あの人、こんな身体能力高かったっけ?!
師匠が塀の向こうに消えていく!



めぎっ



なんか鈍い音がした。
……。
雪が綺麗だなぁ。
かまくら作って、中で酒とか飲みたいなぁ。
玄関まで、息を整えながらゆっくり歩く。
今日の夕飯は何かなぁ。
おでんがいいなぁ。
そうだ、屋台に行こう。

玄関で靴を履いて、外へ。
左、何もなし。
一面白い銀世界。
正面、竹林の中に何個かもこもこした物が見える。
多分うちの兎だろう。
右。
えーと、右。
ちらっ
直立するシルエットが視界の端に。
まぁ、頭から地面に突き立った師匠だった。
垂直、これでもかというくらい、地面に垂直に突き立っている。
雪の白に、黒と赤の衣装が妙に映えている。
生剣・八意。
………強そうには思えない!
知力+∞
でも使いたいとは思わない。
放置するわけにもいかないので、どうにか抜いて室内へ。
硬直してたから、とても持ちづらかった。




師匠の寝室に師匠を寝かせて、ぼーっとしてたら姫が来た。

「あらイナバ」
「句読点がないと別の単語にしか聞こえません」

というか名前で呼んでください。
この姫、兎一緒くたにして全員「イナバ」だからなぁ。
間違っちゃいないんだけど。

「永琳死ぬところ久々に見たわー」
「私は初めてだと思います」
「毎度死ぬ前に奇行に走るのよね」
「今回は文字通りでしたよ……」

もういろんな許容範囲を超えそう。
本当に初めて見たよ、あんな師匠。

「毎年この時期が忙しいのもあるけど……人里まで薬売り歩くなんて、最近始めたことだから」

疲れが本当にたまってたんでしょう、と姫は言った。
本当に躁の騒霊に中てられたようだった。
姫も大人しいというか、慎ましさも滲ませてるのに結構アッパーだしなぁ。

「私も手伝えば少しは楽になるんでしょうけど」
「わかってるなら手伝ってください」
「え、なんで?」
「なんでって……」
「姫なのに」
「………」

月の博物館の時くらいの気合を、今ここで活かしてください。
ぜひ!是非に!

「ま、明日まで寝てれば直ると思うわよ?精神的に」
「精神的にですか」
「休暇が生えたとでも思えばいいじゃない」
「生え……?」
「里の薬売りはイナバ達が総出で行って押し売りすればいいしね」
「ハクタクに殺されます」
「じゃあハクタクに手伝ってもらいなさいな」

あのハクタクは人のためにすることなら、多少嫌な顔をしつつもしっかり協力してくれる。
姫を敵視してるのは、ハクタクじゃなくて焼き鳥だし。

「じゃあ、てゐでも連れて里に下りてきます。用があればその辺の兎に」
「お土産よろしくねー」

この時期に土産とか無いよ……。
今日の薬剤は少な目になっちゃうかなぁ。

「師匠のことよろしくお願いします、姫」
「よろしく任されたわ」

私は襖を閉めた。
よし、てゐを探すとしよう。




イナバが襖から遠く離れていったのを直感で感じ取る。
まぁ月のイナバは、わざわざ去った振りをするほど黒くないはずだ。

「……永琳、イナバは行ったわよ」
「……芝居を打たせて申し訳ありません」

永琳が起き上がろうとするのを、私は遮る。

「疲れてるのは本当なんだから、そのまま寝てなさい」
「でも、まだ今月分の調合が」
「寝てなさい」
「……はい」

渋々と、永琳は再び床についた。
全くこの従者は、主人と弟子とその他のために気を張りすぎる。
医者の不養生で、どうやって病人を治すというのだ。

「イナバだって多少なら診療もできるんでしょ?一応、あなたの弟子なんだから」
「まぁ、そうですけど」
「永琳の狸寝入りは見抜けなかったようだけど」
「未熟者ですから」
「そうね」

未熟っていうことは、まだ成長できるということ。
もう熟れも朽ちもしない私達から見れば、どんなに羨ましいことか。

「あのー……」
「ん?」

音も立てずに開いた背後の襖の間から、何匹かの小さいイナバが覗き込んでいた。
永琳は速攻で狸寝入り。

「どうしたの、あなた達」
「永琳さま、大丈夫ですか?」

襖をさらに開けると、廊下にはさらに十匹ほどのイナバがいた。
全員不安な表情をしている。

「疲れが出ただけよ。何より私と永琳と妹紅に限っては、殺したって死なないから安心しなさい」
「本当ですか?」
「んー。水の換えとか、御粥とか作ってあげたりするともっと早く直るかもしれないわ」

その言葉に、イナバ達は顔を輝かせて散っていった。
可愛い奴らめ。

「幸せ者ねぇ」
「姫もですよ?」
「そうかしら?」
「そうですよ。いつも鈴仙達は私達の家族です」
「じゃあ幸せね」
「はい」

永琳は、また目を閉じた。
今度は本当に寝るつもりなんだろう。
なるべく音を立てないようにして、部屋から出た。
丁度そこに、月のイナバと嘘つきイナバ。

「あ、姫」
「これからかしら?」
「はい」

嘘つきイナバは、いつもの賽銭箱に「料金箱」という紙を貼り付けている。
要領がいい。
ネコババは、しないだろうけど。
多分。

「師匠は寝たんですか?」
「あら、気づいてたの?」
「呼吸のリズムがちょっと意図的でしたから」
「ふーん」
「姫は?」
「寝てるの邪魔するのもアレだから、夕餉の準備でも手伝おうと思ってね」
「珍しいですね」
「そうかしら?」
「はい」

互いに小さく笑って、イナバ達は玄関に、私は台所に。
今日は何を作ろうか。
体の温まるおでんにでもしようか。



師匠って死んだとこ見たこと無いなぁ。
という妄想の元にギャグ一辺倒で書こうと思ったらなにやらアットホームになってしまいました。
な、何を言ってるかわからねーと思うが(ry
師匠ファンの方ごめんなさい。


現実はノロウリィスが跋扈していますが、ここに訪れる皆様が体調を崩されませんように。
それでは、よいお年を。
小宵
http://www.geocities.jp/snowtic_road/
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コメント



0.2100簡易評価
4.90素敵でお腹いっぱい夢いっぱい削除
よかった
変に笑わせようとするよりきれいと思います。
師孝行と書いて親孝行と読ませるとか
9.100名前が無い程度の能力削除
そういえば永琳が死ぬ話ってあんまり見たことないような
それはそれとしてとても綺麗な話だったと思います
永遠亭のアットホームな話って本当に良いよなぁ
10.70てきさすまっく削除
ああ、いいんじゃないですかこの雰囲気。
確かに永琳が死ぬ話はあまり無いですね~。
鼠さんの話のショック死はいろんな意味で衝撃的でした・・・。
12.90CODEX削除
なまけん(推測)やごころ噴いたw
師匠ファンだけどこんな師匠も大好きですわ♪
21.70名前が無い程度の能力削除
やはり走るのかえーりんよ
23.80名前が無い程度の能力削除
師走のえーりん、良きかな良きかな。
33.70名前が無い程度の能力削除
こう、なんというか、牧歌的ですねぇw
38.無評価小宵削除
今考えると、師匠って輝夜をかばってーとかの方が似合うと思う。

>>素敵でお腹いっぱいさん
笑わせるというよりどこか飛んでいってしまったお話。
笑わせようとつまらなくなるのも仕様ですかね?
うどんげは類まれなる孝行者だと思うんですが。

>>名無しさん1
本当に不老不死なのか分からないくらい死なない師匠。
永遠亭の家族度はメーターを振り切っている。

>>てきさすまっくさん
雰囲気だけで生きる奴・小宵です。
師匠は実際、体調管理だけは完璧だと思うんですよね。
隙も無いからまず死なない。

>>CODEXさん
元ネタはエクスカリバー。
聖(生)剣・ヤゴコロ。
      _,...,_  
    !"〈╋〉`!
    ゝ-─-イ  
     |(・)。(・)| ( ) 
      |ヾ三ヲ└'ノ
    .|     l

>>名無しさん2
走りますえーりん。
亜光速で。

>>名無しさん3
師走のえーりんなのか、えーりんの師走なのか。
しかし、どっちでも問題は無い。

>>名無しさん4
めぎっ のあたりは猟奇的だったと思います。
師匠だけ。
53.80名前が無い程度の能力削除
えーりん、演技にしてもその異常っぷりは、いくらなんでも…w
いい話にまとまりましたが前半の印象が強すぎるwえーりんこわいwww