Coolier - 新生・東方創想話

剣の重み

2006/12/20 03:28:49
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「どうも騒がしいと思ったら生きた人間だったのね」
結界を乗り越え冥界に乗り込んできたのは、たった一人の女だった。
いや、女というにはあまりに幼い。少女と形容するのがふさわしいか。
その赤と白の服装から、この少女は巫女だろうか。
こちらが構えると、巫女は私目掛けて針を投げつけてきた。
私はそれを楼観剣で弾くと、刀身を直線に構え殺到し、すれ違いざまに巫女の脇腹を狙った。
しかし、私の手の中には手ごたえは残らなかった。
巫女は軽く体を捻り、紙一重で避けていた。
目の前で、当たったら軽い怪我では済まされない真剣が襲ってきているというのに、巫女の表情に恐れはなかった。
むしろ、微笑さえ浮かべている。
この巫女には、感情というものがないのだろうか。
こちらに攻撃を加えるときでさえも、怒気がまったく感じられない。
そう、この巫女は何一つ感情を表に出さずに戦っている。故に私は彼女の動きを読むことがまったくできないのだ。
この巫女は宙に浮いている、私はそう思った。周りに何が起ころうとも、彼女は何一つ変化することは無い。周りから干渉をまったく受けていないのだ。
戦いにくい相手だ・・・私は苦笑する。恐怖で縛り付けてくる相手よりも、殺気を剥き出しにしてくる相手よりも、戦いにくい。
なぜなら彼女はあくまで自分のテンポで戦っている。あくまで優雅に、舞うかのように。
彼女の無機質かつ正確な攻撃は、いつしか私の体力を奪っていた。
当たりこそしていないものの、その絶え間ない正確な射撃は私に回避を強要し、私の戦闘力を奪おうとしていた。
まるで、それこそが目的かのように。
私は、この不利な状況を打開するため、捨て身の作戦に出た。
半霊に目くらましの弾幕を撃たせ、弾幕を盾に距離を一気に詰める。
彼女は最低限の動きで避けると、こちらに退魔のお札を投げつけた。
私はそれを無視して剣の攻撃可能範囲まで距離をつめた。お札が当たった左肩が、右足が、焼けるように痛み足はもつれそうになる。
しかし、再び剣の間合いに入れてしまった時点で私の勝ちだ。私は持てる最後の力を振り絞り、袈裟懸けに斬りつけた。
しかし、私の勝利の確信は打ち砕かれた。私の全力で振り下ろした剣は彼女のお払い棒でなぎ払われ、弾き飛ばされてしまった。
「夢想封印」
彼女のつぶやきを聞くとともに、私は腹部に強い衝撃を感じ、私の意識は遠ざかっていった・・・・・・


「幽々子様!?」
私は目を覚ますと、体の痛みを押し、幽々子様を探した。
冥界の長い階段を登りきると、そこに私の主人は倒れていた。
西行妖と、散ったその花びらの中で安らかな顔で。
「幽々子様!幽々子様!」
「んー、ようむ?」
「良かった、幽々子様・・・・・・死んじゃったかと思って」
「ほらほら、泣かないの。安心しなさい、私は死なないから。ごめんねようむ、負けちゃって。せっかく集めた春、とられちゃってごめんなさいね」
「そんな・・・・・・私は幽々子様が無事ならそれだけで・・・・・・」
「ほらほらようむ。そんなに怪我しちゃって。本当にありがとう。さあ、白玉楼に帰りましょう?貴方の傷も手当しないとね」
「はい、戻りましょう」
私は、幽々子様を守ることが出来なかった。自分の力の無さが不甲斐ない。
このままではいけない、全てを倒す力が欲しいーー




私は今日も剣を振る。全ての敵を打ち砕く事のできる最強の刃になれるように。
あれから1ヶ月。紫様によって結界は修復され、何事もない平和な日々が続き、私は幽々子様と幸せな毎日を過ごしている。
しかし、本当にこの毎日に甘んじていていいのだろうか。また、何か事件があった時私は幽々子様を守れるのだろうか。
私はーーこのままではいけない。
「幽々子様、少しだけ、我慢しててくださいね。貴方の従者は必ず立派になって帰ってきます」



ー幕間1-
私が目を覚ますと、いつも駆けつけてくる小さい従者の姿がなかった。
「ようむーどこー?」
食卓まで行ってみると、1通の書置きがあった。
「なになに?自らを鍛えなおすため修行してきます、と。修行?ほんとにあの子は頑張り屋さんねー
ところで、私のご飯は?」




私はとりあえず下界に降りたが、特に目的地は無かった。
ただ、決意が固まった時に動かないと、決意が鈍りそうで怖かったのだ。
とりあえず、師匠が使っていたという岩山でも目指そうか、そう考えていたところ、叫び声が聞こえた。
「そこのお嬢さん!早く逃げるんだ!」
額から血を流した男が鴉天狗のような妖怪に追われ、逃げていた。
しかし、その妖怪は幻想郷で圧倒的な力を持つ鴉天狗にはとても及ばぬ妖力のようで、
身を守るために恐れられている鴉天狗に化けているのだろうと思われた。
しかしそんな低級妖怪とは言え、人間には荷が重いようだった。
男は額の傷が深いようで、動きが鈍くなっていた。このままでは危ない。
「お助けします!」
私は妖怪を迎え撃ち、追い払ってやろうと峰で軽く打とうとした。
しかし、低級妖怪とみて慢心し、手を緩めたのが災いした。
妖怪は瞬時に加速し私の剣をすり抜け、男に食らいつこうとしていた。
私は反射的に返す刃で妖怪を狙い、
真っ二つにした。
「グギャアァァァァァァァァァァァァ」
凄まじい断末魔をあげると、妖怪は血を噴射し倒れた。
「あ・・・・・・」
私は返り血を浴びながら呆然としていた。
こんなにあっけなく死んでしまうなんて。
私は実戦は巫女と戦ったのが初めてだった。
平和な冥界において、師匠と手合わせするぐらいしか戦闘経験がなかった。
巫女に一太刀も浴びせられなかったのは幸運だったのか不幸だったのか。
「ありがとうお嬢さん!」
男が何か言っている。
しかし私の耳には何も届かない。
もうぴくりとも動かない妖怪を見て、私は取り返しのつかないことをしてしまった思いで一杯だった。
私は心神喪失のまま、男の言われるままに男の村に向かうこととなった。

村では私は男の命の恩人として歓迎された。衣服の血を落とし、体を洗ったが体に浴びた血の感触が消えることはなかった。
祝宴が開かれ、豪華な料理が振舞われたが、真っ二つにしたシーンが脳裏に浮かび、食欲は出なかった。
私はそんな思いを引きずりながら村で数日を過ごしていた。



ー幕間2-
今日も、私の従者は帰ってきていないようだ。
「ようむったら頑張ってるわねー私に似たのかしら?
それにしてもお腹空いたー早くご飯ー」




私は、世話になった村を出て今度こそ修行して邪念を払うため、岩山を目指していた。
すると、狭い林道で私を呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢さん、また会ったね」
先日私が助けた男とその仲間らしき人達がやってくる。
良かった、元気そうだ、傷一つなく。
そう、傷一つなく。
その違和感に気がついた時には遅かった。
私の右肩を激痛が襲った。
そう、頭にあんな大怪我をしていたのだ、簡単に治るはずはない。
色々なことを考えすぎて、上の空になっていたらしい。
もう一つ私が失念していたこと。それは私が殺した妖怪は化けることができるのだった。
こいつらはあの妖怪の敵討ちだろうか。
こいつらは妖気を隠すことができない。なのに気がつかないなんて今日の私は本当にどうかしている。
最初は3匹程度だった妖怪達は7匹ほどに増えていて、まだ2匹ほど茂みに隠れているようだ。
みな、一様に私に向けて剥き出しの殺意を放っている。
私は切り裂かれた右肩を庇いつつ、急ぎ右に跳躍し妖怪と距離をとる。
師匠に叩き込まれた体術はしっかりと活きているようだ。私は2撃目を食らうことなく妖怪から離れる事に成功した。
しかし、彼らは私を逃がしてくれるつもりは無いようだった。完全に包囲されている。
私は仕方なく痛む肩を我慢して楼観剣を握った。
妖怪が戦法も何も無く、ただ殺意だけにしたがって突撃してくる。
敵は死を恐れず、怒りに身を任せているため動きが鋭く、全身全霊を持って攻撃に特化、ただ私を殺すことのみを目的としていた。
とはいえ、所詮低級妖怪、怒ろうが数が多かろうが恐れるものではない、簡単に倒せるものだ。倒せるはずだった。
「嫌だ・・・・・・もう殺したくない・・・・・・」
私は、またあの生き物を斬る感触を、返り血を浴びる感触を、二度と味わいたくなかった。
殺してしまう恐怖から、私は剣を思い切り振ることができなかった。
怪我をした体で、相手を傷つけずに戦おうだなんて、ましてや覚悟ができておらず迷いのある私が、覚悟の出来ている相手を倒そうだなんて、甘すぎた。
妖怪の鋭い突きが私の腹部を抉ろうとする。私は転がってかわしたが、脇腹を少しかすった。
押されていた。妖怪の突きをかわしただけで全身にどっと汗が吹き出し、口が渇きはじめていた。
地面を踏む足元が心もとない。剣を持つ手が震える。
(私は・・・・・・恐怖している?)
殺気が怖くないだなんて大嘘だった。
師匠の出す殺気は凄まじいものだったが、所詮本気ではなかった。
こいつらの出す殺気は本気であり、哀れみなんか少しも無い、憎しみからくる殺意であった。
負けたら殺される、そのことが私を恐怖で縛ろうとしていた。
思考中も妖怪達の攻撃は止まない。私はただ怯える子供のように剣を振り回し敵の攻撃を必死に避けていた。
妖怪の爪を避けようと後ろに跳躍しようとしたとき、背中に硬い物が当たるのを感じた。
木だ。十分な後退が出来なかった私は、妖怪の爪を脇腹に直撃させてしまう。
「あぐっ!」
私は激痛にうめき声をあげる。妖怪達は動きが止まった私を取り囲み、仇討ちの喜びに下卑た笑い声をあげている。
私は目の前に迫った死に恐怖していた。思えば、私は生まれた時から冥界にいて、死についてもっとも身近な世界にいながら不死者に囲まれ死からもっとも離れた生活を送っていたのだった。
体が震える。嫌だ、死にたくない。目から熱いものが流れる。死ぬのは嫌だ。恐怖から目を瞑りそうになる。嫌だ、帰りたい。
妖怪が笑いながら私を突き刺しに突進してくる。
「私は死にたくない!」
私の最後の理性は弾けて消えた。
突進してくる妖怪の脳天を突き、串刺しにする。
妖怪達の笑い声が止んだ。
妖怪達は私を包囲し、一斉に攻撃を開始した。
私は突進してくる妖怪に向かって走りこみ、左胴をすれ違いざまに深ぶかと斬った。
妖怪達は白刃を恐れていなかった。刀の下をかいくぐると爪を振るい左右にすり抜けてくる。
妖怪の爪が肩に当たる。その隙に切り捨てる。第2波を蹴り飛ばし、第3波をなぎ払う。
その隙を狙って後ろから来る妖怪を、振り向かずに逆手に刀を持ち替え突いた。背中に熱いものがかかる。確かに倒したようだ。
何も考える必要はない。全ては体が覚えている。我が身を守る術を、我が主人を守る術を。
また1体、また1体と切り捨てる。傷ついた傷も、もう気にならない。
妖怪達は戦意を喪失していた。やぶれかぶれに突撃してくる妖怪を危なげなく切り捨てると、最後の1匹が逃げ出した。
「待て!」
私はそれを追い、背中から刀を突き刺し止めを刺した。
「はぁ・・・はぁ・・・」
私は乱れた息を整え、落ち着こうとした。
落ち着いた私の目に映ったのは真っ赤に染まった己の身と、数々の無残な人間の死体であった。
「な・・・・・・!!?」
力無き妖怪の最後の復讐、それは相手に消えない心の傷を与えることであった。
彼らは死にゆくなかで最後の力を振り絞り、村の人間に姿を変えたのであった。
その中には私が助けた男の姿を真似た物もあった。
「私はやってない・・・・・・!」
そのおぞましい物から目を背けたくとも、満身創痍である私はその血溜まりの中に倒れるしかなかった。


・・・・・・どれぐらい時間がたったのだろうか。気を失っていた私にはわからない。
私は人の声で目を覚ました。
「人が死んでるぞ!」
「無残に切り裂かれてやがる・・・・・・」
「こいつなんて背中から刺されてやがる・・・・・・逃げる中襲うなんて人じゃないぜ」
「凶器は刀だな、この傷は」
「村の・・・・・・人?」
私は朦朧とする意識で体を起こす。
「おお、恩人さん!大丈夫かあんた血まみれだが・・・・・・しっかりしろ!今助けてやる!」
村人達が私に向かって駆け寄ってくる。ああ・・・・・・助かった・・・・・・。
村人達がふと足を止める。
「おい恩人さん・・・・・・あんた、その刀は?」
私は、血塗れの刀を握り締めていた。
「ち、違うんですこれは!」
「ひ、人殺し!」
「騙してたんだな!?」
「早く村の若い奴ら呼んで来い!」
「聞いてください!」
「だまれ人殺し!」
村人達は私に石を投げつけた。
(私はまたしても許されないことをしてしまったの?)
私は傷ついた体を押して逃げはじめる。
石が体に当たる。
肩が痛い。腕が痛い。足が痛い。心が痛い。

私は、日が暮れたころ、木陰に隠れ村人達をやり過ごすことができた。
念のため、人の来ない森の奥に入って傷ついた体を癒すことにした。
夜、多数の気配を感じ跳ね起きた。多くの妖怪が私を食料にしようと狙っているようだ。
どうやら私に安息は訪れないらしい。
私はもう迷わない。刀を手に妖怪達を迎え撃った。








ー幕間3ー
「妖夢?」
いつものように私が目を覚ますと、慣れた我が従者の放つ純真な気は穢れた邪気となっていた。
「・・・・・・仕方ない、これ以上放っておくわけには・・・・・・」
妖夢は命を奪う衝動にとりつかれている。
死に誘うということは簡単にしていい事ではない。
私は、時々夢を見ていた。
自分と同じ、物を死に誘う少女の夢。
簡単に死に誘える能力を持ってしまったが故の葛藤。
そしてその能力を疎んじたが故の悲しい決断。
妖夢に彼女と同じ事を繰り返させてはいけない、私はただそれだけを願って暴走する従者を探した。







私が自らの従者を探すことは簡単だった。
いや、我が従者だったもの、と言ったほうがいいのかもしれない。
妖夢は、見境無しに妖怪を切り殺す幽鬼と成り果てていた。
「あ、幽々子様!見てください、私強くなりましたよ!」
「妖夢!!!」
「みんな簡単に死んでいくんですよ!!本当に・・・・・・どうしてこんな簡単に・・・・・・」
錯乱している?まだ妖夢には正気が残っているのか?
「みんな死んじゃうんだ!!!」
妖夢は半幽霊とはいえ、半分はただの人間だ。邪気の強い妖怪の血を浴びすぎて、
魂を穢されてしまったようだ。血液とはその生き物の生命の源。
その生き物の意思や魂を含んでいるといってもいい。古来から血の穢れは畏れられ、神聖な場所には近づけさせないようにしてきた。
それだけ血の穢れは畏れられてきたのだ。
「幽々子様も私が殺してあげます!」
妖夢がそう叫ぶと、勢い良く斬りかかってきた。
その斬撃にはもう躊躇いはなかった。
楼観剣の切っ先が私の袖を切り裂く。
迷いがなくなり、斬ることに抵抗がなくなった妖夢の剣捌きは、いつも白玉楼で見る稽古のものをはるかに上回っていた。
もともと妖夢の剣の才能は素晴らしいものだった。しかし、妖夢の温厚な性格と、無意識に相手を傷つけたくないと思う想いが、その強さを邪魔していた。
力のみを求め、躊躇いをなくした今、妖夢の強さを邪魔する物はなにも無かった。
妖夢の剣がうなりをあげて上段から落ちてくる。
私はそれを紙一重でかわす。返す刃で私の胴体を狙う刃を手に霊力を集中し弾き返す。
「幽々子様ったら私に素手で勝つ気ですか?」
確かに今の妖夢を素手で倒すのは不可能だろう。小柄な体のどこからこんな力が出ているのだろうと思うぐらい、妖夢の動きは俊敏にして豪胆であった。
私の死に誘う能力を使えば倒す事は簡単だ。しかしそれは許されないし妖夢の魂は永遠に救われない。
(せめて動きを止めることさえできれば・・・・・・)
私は、妖夢の機動力を奪うため、妖夢の足元に避けることの出来ないほどの広範囲、高密度の弾幕を張り、動きを止めようとした。
しかし、そんな考えは甘かった。妖夢は弾幕なんか無かったかのように、足の痛みなぞ無いかのように距離を詰め、私の懐に潜り込んだ。
妖夢が楼観剣の柄で私のみぞおちを突く。躊躇いの無いその一撃は、私に抉るような痛みを与える。
吐きそうになる。膝をつきそうになる。それでも、私は怯まなかった。懐に入った妖夢の襟を掴み引き寄せると、腰に乗せ勢い良く地面に叩きつけた。
しかし妖夢は受身をとるとすぐに私から距離をとり体制を立て直した。
地面は石畳ではないとはいえ、硬い土だ。致命傷にはならないとはいえ、相当なダメージがあったはず。
なのに妖夢は何事も無かったかのように攻撃態勢に入る。満身創痍の体を引きずって。
なにが、彼女にここまでさせるのだろうか。
妖夢が、再び殺到する。疾風のような一撃を上段から振り下ろしてくる。
私はそれを横に踏み出し避け、その勢いのまま身体を反転させ妖夢の胴に鋭い回し蹴りを加えた。
今度も確かに直撃した手ごたえがあった。妖忌、妖夢から叩き込まれた武術は無駄では無かった。
妖夢の荒い、乱れた息遣いが聞こえる。妖夢は再び連撃を加えてきたが、そこには以前のキレはもうすでになかった。
鋭さを失った剣先をかわすことは造作もなかった。妖夢の、傷だらけで休息もとれていない体はもう限界を超えていた。
妖夢の剣はもう落ち着きを失っていた。いや、最初から無かったのかもしれない。野獣のような強烈な一撃を、ただ目の前の相手に振るうだけだ。
その一撃は確かに強い。しかし、それは妖夢が剣の重みに負け、剣に振り回されている結果だ。
剣を正しく扱うためには、確かに技術も必要だ。しかし、それ以上に自分の持つ力の意味、そして自分の力が与える結果を理解しなくてはいけない。
妖夢の未だ幼い心に、その現実は辛すぎた。
(妖忌・・・・・・どうしていってしまったの?妖夢は確かに剣の腕は免許皆伝かもしれない。でも、精神面はまだまだ未熟。あなたの存在が必要だと言うのにーー)
「私は・・・・・・もう負けられないんだ!幽々子様を守る為に!」
妖夢が叫び走り寄る。
あぁ・・・・・・そうだったのか。この未熟な従者が力を求めた理由。血に穢れ、血に溺れてしまった理由。
傷つきながらも戦う理由。そして、正気を失っても勝利に固執する理由。
純真な従者をここまで追い詰めてしまったのは、私のせいだったのだ。
(ごめんなさい、妖夢。私は主人失格ね・・・・・・。せめて、私の手で止めてあげるから・・・・・・!!)
走り寄る妖夢が一瞬止まる。その一瞬の動きの変化を気にした私には、隙ができてしまった。
妖夢が動作無しで白楼剣を鋭く私の顔面目掛けて投げつけてきた。
虚を突かれた私は、顔を背けて避けるしかなかった。しかし避け終わった時は既に第二波が来ていた。
楼観剣の鞘が私の足を刈るように低く飛んできていた。回避が間に合わなかった私は、鞘の直撃をすねに受け、転倒してしまった。
顔を上げた時、まさに最後の一撃を加えようとする従者の、澄んだ目と目が合ったーー




私の頭の中はかつてないほど透き通っていた。ただ、目の前の相手を、最愛の主人を、他の者に殺される前に自らの手で殺さなくてはいけないと。
なぜだかはわからない。ただ、そうしないといけない気がして、それだけを考えていた。
私は、幽々子様の確実な一撃一撃に体力を削られていた。もうすぐ私は動けなくなるだろう。
そうなる前に、私は一計を案じた。
左手に白楼剣を隠し持ち幽々子様と距離を詰める。
幽々子様の戦法はカウンター主体だ。よって、動きが変われば隙ができる。
私は突然前進を止める。案の定、一瞬の隙ができた。
その隙に隠し持った白楼剣を顔面目掛けて投げつける。
しかし、これは本命ではない。注意を白楼剣に向かせている間に、同時に楼観剣の鞘を視界外である低空に投げつける。
やはり、白楼剣はかわされてしまう。しかし、計画通り幽々子様は鞘に気づくのが遅れた。
しかし、これも本命ではない。当たろうが当たるまいがいいのだ。体制をくずし、気を引ければ。
鞘をも囮に私は突進する。鞘に足をとられ、幽々子様は転倒した。
全ては、終わった。私は転倒している幽々子様目掛けて、渾身の突きを繰り出した。
ふと、その時、顔を上げた幽々子様の、赤くて深い・・・・・・まるで血桜のような瞳と、目が合った。
「あ・・・・・・」
私はいったいなにをしているのだろう。
しかし、体は止まらない。止めることはできない。
なぜなら、私の体が一番こうすることを求めているから。更なる血を、更なる殺戮を求めているから。
私の剣は、私の一番大事な人の、胸を深く貫いたーー






私の手の中に、確かな感触が残る。私があれほど恐れていた、しかしもう慣れてしまった、相手を壊す感触。
私は、何がやりたかったのだ?守りたかった人を殺して・・・・・・
「殺して・・・・・・しまった?」
なぜ幽々子様を殺そうとしていたのだろう。
しかし、そんなことはもはやどうでもいい。
残ったのは、私が幽々子様を突き殺してしまったという事実だけ。
涙が、止まらない。堰を切ったように溢れる。
頭の中が真っ白になる。
「ようやく捕まえた」
それは、聞きなれた
「安心しなさい」
穏やかな
「私は死なないから」
私の愛する、主人のいつもの声だった。






とどめの一撃。私はただこれがくるのを待っていた。
妖夢がいくら早くても、距離をとるのがうまくても、私から逃れることのできない瞬間。
決定的なダメージを与えるため、突きがくる瞬間。
私を刺した瞬間、妖夢には決定的な隙ができる。
「安心しなさい。私は死なないから」
私は、いつか、泣きじゃくる健気な少女に言ったその言葉を呟き、
最愛の従者に渾身の当身を食らわせた。
少女の体が、崩れ落ちた。
これで、あの夢の中の少女も喜んでくれただろうかーー





妖夢を白玉楼へ連れ帰り、紫に妖夢の魂の穢れを浄化してもらう。
これで、血の穢れによって妖夢が暴走することは無い。しかし、この先は妖夢の問題だ。
妖夢はまもなく目覚めるだろう。そして、自分がやってしまったことを思い出すだろう。
多くの妖怪を見境無く斬った現実を。
もしかしたら、罪の意識に押し潰され、狂ってしまうかもしれない。
忘れさせてやれればどんなに楽だろうか。しかし、剣を振るったものはその力の引き起こした結果から目を背けてはいけない。
ねえ妖夢。貴方が奪った命はもう戻らない。でも、その事を忘れては駄目。
相手の命の重みを知り、罪と向かい合い、罪を背負って生きなくてはならない。それは、力持つ者の責任。
「・・・・・・んっ」
妖夢が目を覚ましたようだ。彼女がこれから受け止める現実は彼女にとってとても厳しい物になるだろう。
私は何もできないが、ただ傍にいてやろうと思う。小さな剣士が罪に押し潰されないように、業に負けないように願って。



















「ねえ妖夢。どうして命を奪ってはいけないかわかる?」
「命は大切だからですか?」
「ならどうして無抵抗な相手を殺すのは駄目で自分を殺そうとする相手を殺すのは許されるの?」
「それは・・・・・・」
「この答えは、自分で見つけること。自分の剣の重みは、自分で理解しなさい。」
かつて死を自在に操る少女が見つけた答え。この未熟な剣士が見つけることができるのは、いつの日になるだろう。
近い日に見つかるかもしれない。遠い日に見つかるかもしれない。
それでも私は信じている。彼女ならその答えを見つけてくれると。






私は今日も剣を振る。見つからない答えを探して。そして主人を守る最強の盾となれるように。
人を守るということは人を攻撃するよりもはるかに勇気が、力が、覚悟が必要なんだろう。守るために矢面に立ち、代わりに手を汚す覚悟が。

初めまして又はこんにちは。カンナです。
今回はギャグ抜きです。前二作を読んでくださった方は驚かれたかもしれません。
表で巫女や魔法使いがのんびりお茶を飲む傍ら裏で里を人食い妖怪から守るために里の守り人が必死に戦う。
そんな失われた弱肉強食がある殺伐とした幻想郷なら美鈴や妖夢ら守り人がやむなく相手を殺めることもあったのかな、と。
カンナ
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コメント



0.780簡易評価
16.50名前が無い程度の能力削除
ちょっと展開が急過ぎるかな、と。情景描写とかが欲しいかも。話は好きですよ

今後に期待してます

偉そうだぞ、オレ