Coolier - 新生・東方創想話

真っ紅なアンテルカレール【BGN】

2006/12/02 09:02:25
最終更新
サイズ
8.67KB
ページ数
1
閲覧数
720
評価数
3/47
POINT
2360
Rate
9.94



【真っ紅なアンテルカレール(追憶技工):BGN】



――――――――嘘ばっかり






【BGN-断片集-】


人の心は複雑怪奇よ。博麗の巫女でも、この怪異は解けない。


掃いても掃いても葉の片づかない季節も、そろそろ終盤に差し掛かっている。だから落ちる葉の量も半端無い。焼く芋でもあれば手の動きも全く変わってくるのにと思いながらも、他にすることなんてないから黙って掃いている。先ほどまで真っ昼間から酒をあおいでいた鬼も、ここに来てようやく手伝おうという気になったのか、「あつまれー、あつまれー」と手をかざしている。

「ねえ、ちょっと疑問に思ったんだけど」
「うん?」
「その力って、手から出てるわけ?」

所謂ハンドパワー?と首を傾げると、「ううん。ただのポーズ。意味はない」と返ってきた。ようするに、二人とも暇なのだ。
と、意味のないポーズをとりながら葉を集めていた鬼は、何かに気づいたように首を捻らせた。

「霊夢」
「なによ」
「来たよ」
「そう。って誰が?」
「誰だと思う?」
「魔理沙…じゃない気がするわね」

からんと。久々につっかけた下駄がなる。なんとなくで、その方角を見た。

「…ああ」

凝らした眼が、ほんの少しだけ馴染んだ。

「なんだ。やっぱり大丈夫なんじゃない」

ふうんと一つ頷いて、つまらなそうにぽつり感想を漏らす。それから手から箒を離すと、お湯を沸かそうと屋内に向かった。近くの木に寄っ掛かるように置き去りにされた竹箒。その箒でせっかく集めた葉が飛ばされていく。けれど、霊夢はもうそんなことを気にもしないで、消えてしまった火を点けようと忙しそうにしているだけだった。
鬼はそんな巫女を見送って、次に吹いた風で姿を消した。自分が、向かってくる影に好かれていないことを知っていたから。

さらざら、からかしゃ、くるさら、くしゃり、と。

枯れ葉落ち葉が風に吹かれる。

やがてその風に乗るように、一つの影と、二つの小さな影が境内に降り立った。

七色の人形遣いと、その人形が二体。



秋の終わり近く、とある一日だった。









【暗転】

お久しぶり

と、アリス・マーガトロイドは言った。

相変わらず暇そうね

とも言った。言って、軽く口元だけで微笑った。

それはなんてことのない挨拶で、アリスはそれ以外の意味を込めるつもりはないようだった。だから霊夢もなんてことない返事として、「そうでもないわ」と二回返した。実際、そうでもないのだ。妖怪にとって一ヶ月も二ヶ月も大した時間ではないし、霊夢はそんな奴らとの交流がほとんどなのだから、それを基準にして考えれば、「そうでもないわ」という返事は妥当だった。そして霊夢は博麗の巫女で、今日も巫女の仕事は一応こなしているし、これが日常なのだから、やはり相対的に見てこの状態は「そうでもないわ」なのだ。

そんなようなことを、ぼんやりと霊夢は考えた。


「伝言を受けてね。あなたに糖分を届けに来たわ」
「伝言?」

何のことだろうか。

「スキマサービス。って言っても、たぶんあなた専用なんでしょうけど」

はい、と布で覆われたバスケットを差し出される。結構の量があるが、まさか全部くれるつもりなのだろうか。大変結構な話だが、さて中身はなんだろう。日保ちするものなのだろうか。

「なんか、凄い甘い匂いがするわね」
「え?ふとりたいんでしょ?」

なるほど、あの時か。

「全部残さずしっかりきっちり食べてね」

受け取ったそれは、思った以上にずしりとした手応えがあった。











【暗転】


「紫」

短い言葉に、空気が歪む音がする。

「あんた、嘘ついたでしょ」
「別に騙してなんていませんわ」
「相も変わらず世は事も無しみたいだけど」
「いつ世も同じ春の宵―――本当かしらね」
「なんにせよ、季節は毎年廻って来るわ」

霊夢の言葉に、紫はそうねと頷いた。

「私は何も騙ってなんていないの」
「結局、何があったのよ?」
「なにかいろいろ危なかったんだけどね、結局は何も問題は無かったわ。何もなかったわけじゃないけど。でもまぁ、ハッピーエンドならどうでもいいことよね」
「それ、四方山話?」
「幻想郷の話。私の子どもたちは元気だわ」
「前から思っていたんだけど、紫っていくつなの」
「女性に歳を訊くなんて、とんでもない巫女ね」
「あんた達妖怪は、歳はむしろ自慢になるのかと思ってた」

レミリアとか、そんな感じだし。博麗の巫女の言葉に、けれど年齢不詳の隙間妖怪は、綺麗に笑って何も言わなかった。












【暗転】



――――――――嘘ばっかり








【暗転】


あんまり天気が良かったから、なんて素敵な理由なら、まだ悔やみようがあったのに。

薪集めに神社を出た霊夢は、偶然見つけたその光景に視線を落として、さてどうしたものかと思案した。だいたい死後半日と言ったところだろう。形だけでも弔いの一つや二つあげても別に構わないが、それよりも身元の確認を急ぐべきだろうか。昼間でも気温はそうそう上がらない季節だが、やはり葬儀のことを考えるなら一刻も早い方がいい。
そうと決まればと骸を簡単な結界で覆い、霊夢はとりあえず最寄りの村へと歩を定める。ここいらは木々の密集が尋常じゃないので、樹冠のとぎれる青を探して少し移動しようと歩き出した。

しかしまぁ、運のない。仏は頭部を主に破損していて、力任せに殴られたり、引っ掻かれたような痕が幾つもあった。腹部からの出血も多そうだったが、妖怪にしては攻撃が不様過ぎるし、五体はほぼ失っておらず、食い散らかされた形跡もない。時期からして、大方熊にでも――――――――

「ん?」

歩き出して数歩のところに、何かが転がっていた。何だろうと、妙に惹かれるものがあって手を伸ばした。拾い上げると手の中で転がり、音がした。

それは銅鈴だった。

「ああ、熊よけの。でもおかしいわね。持ってたのに襲われたってこと?」

今年の山は実りが悪いのだろうか。山が不作だと、里は豊作だという。冬を目前にして腹を空かせた熊は、いつもよりも気性が荒い。もとよりすすんで人を襲うような真似はしないが、鉢合わせると攻撃を仕掛けてくる。考えてみれば、向こうも必死なのだ。腹部の傷は、一応食せるかどうか試したのだろう。合わなかったようだが。

「ま、形見になるかもしれないし、持っていきましょうか」

袂に落として、霊夢は今度こそ村を目指して浮かんだ。












【ノイズキャンセルキャンセル】


――――――――霊夢あなたの勘は、何かを教えてくれたかしら

――――――――そうね、あなたはきっとかまわない

――――――――知り合いの誰が困っていても、それが幻想郷そのものに関わらないのなら、貴女の勘は動かない

――――――――それが博麗の巫女、博麗霊夢。無重力のあなた

――――――――でも全てが終わったとき、何人かは永遠に会えないかもしれない



「なにが、よ」



                                   嘘ばっかり










【暗転】


でも、あなたはもう、人間じゃないわ


その囁きが、何故かはっきりと聞こえた。









【暗転】


秋の終わり、神社では宴会が催された。

霊夢はいつものようにはしゃぐこともなく、かといって話を求められる限りは言葉を返した。それは、いつもの光景だった。それでもあえていつもと違う点を探してあげるならば、今回は大分参加者が多いということだろうか。いつもは軟禁状態のフランまでいる。あれだけ迷惑をかけておいて、幹事の魔理沙は得な性格のようだ。

紫は。

杯を重ねながら、霊夢はふと思い出した。紫は、「会えなくなるかもしれない」と言ったのだ。死ぬとは、そう言えば一度も言っていない。しかも、「何人かは」と言った。それはつまり、一人かもしれないし、二人かもしれない。もっと多いのかもしれない。何にせよ、誰も欠けていない。

欠けている、か。

その線引きを行うのは、誰なのだろうか。今まで来た者が、線の内側にいるのだろうか。それならば、その線の内側とはなんなのか。欠けているなんて、まるで完全があるみたいな表現だ。線引き。線引き、か。

「霊夢?」
「ん。ちょっと酔いを醒ましてくるわ」

そう言い残して、縁側に出た。夜風が冷たい。

――――――――ああ、宴会したいなぁ

やったではないか。これで、満足でしょうに。

――――――――これが終わったら、みんなで騒ごうかね

騒いでいた。楽しそうだった。今も、きっと騒いでいるのだろう。

――――――――宴会は、みんなでやんなくちゃね

だから、みんなとはどこまでが

「紫」

短い言葉に、空気が歪む音がする。

「いるんでしょう?」
「ふふ。そういうところは、巫女なのね」

相変わらず勘のいいこと

スキマ妖怪は笑った。

「近いうちに、眠るんでしょ?」
「ええ。今夜にでも」
「そう」
「何か用でもあった?」
「妖怪に用なんてないわ」
「そうだったわね」
「異変の犯人以外は」
「そうそう、じゃあ私に用はないわね」


「紫」

最初から酔ってはいない博麗の巫女は、境界を操る妖怪に問うた。


「私って、そんなに――――――――」



  さらざら、からかしゃ、くるさら、くしゃり、と。

  枯れ葉落ち葉が風に吹かれる。



問いを受けた妖怪は、緩やかに目を細めた。



「それは、誰に」
「勘よ」



一呼吸もなく返った言葉に、くるりと傘を回した。





――――――――嘘ばっかり



――――――――嘘ばっかり









【暗転と反転】



【転換と変換】













【BGN】


耳の中には、まだあの音が生きている。

なんどもなんども繰り返した。
手を止めてしまえば、恐ろしい何かに気づいてしまいそうで。
恐ろしい何かに、壊れてしまいそうで。
なんどもなんども繰り返した。
その度に、もう聞こえないはずのその声が、肌を撫でて、耳に食い込んで染みついた。
なんどもなんども繰り返した。
念入りに念入りに繰り返した。
その度に、唇から意図しない言葉が漏れてゆく。
悪いのは、自分じゃない。
自分のはずがない。

すべては、この化け物が悪いのです。


あの夜、か細いその声に耳を閉ざして、私は何度も手を振り上げた。


すべては、この化け物が悪いのです。

すべては、この化け物が悪いのです。



耳の中には、まだあの音が生きている。





















事実は分割され、物語は秘匿される。

こちら、歪な夜の星空観測倶楽部です

何となく話を年越しさせたくなくて、我ながら師走ってしまう(そんな動詞はきっと無い)今日この頃です。それどころかハロウィンやったんだからクリスマスもとか、裏ルート第二弾を書こうとしている愚か者です。止めましたけど。早いです。思いついてから5分後に、自分は数代に遡れるほどのクリスチャンの家の末裔だということを思い出し、己の不徳さに深く恥じ入りました。いえ、洗礼は受けてませんが。

などということはどうでもいいのでありまして、ようは無駄に頑張って書いてますという、それだけの話です。

寒い季節になったなぁ…


追記 一部、誤字修正しました

>いつもながら、ペース速いですねー。
>今回は何話構成なんでしょうか。
>評価は全部読み終わってからにしますね。
何話になるかは、私自身まだわかっておりません。だいたいの話が決まっても、組み合わせ方は何パターンも考えられますし、ここはいらないとか、ここはもっと詳しくとかやってると、増えたり減ったりしています。

>霊夢がメインの話は初めてなような
>いつか他のキャラがメインな話もあるのかな?
>ここのSSの影響でアリスを好きになったものとしては今後が非常に楽しみだ…
この【BGN】はChildhood's end【BGN】の続きにあたるのです。他のキャラは、永遠亭の秋がまるっきり手つかずだったり。冒頭とラストは決まってるのに、間が書けない。これはやや暗い話ですけど、予定では書きます。
あと、アリスを好きなったとか、ちょっと嬉しいです。そうそう、可哀相なキャラ扱いされてる子のイメージを向上させるのも目標でした。確か、このままではギャグでのマイナスイメージがデフォルトで固定されそうな部分を払拭しようとか、そんな無謀かつ尊大な計画だったような…

歪な夜の星空観察倶楽部
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2110簡易評価
22.無評価名前が無い程度の能力削除
いつもながら、ペース速いですねー。
今回は何話構成なんでしょうか。
評価は全部読み終わってからにしますね。

あと、誤字報告です
>「全部残さずしっかしきっちり食べてね」
⇒「全部残さずしっかりきっちり食べてね」
29.90名前が無い程度の能力削除
霊夢がメインの話は初めてなような
いつか他のキャラがメインな話もあるのかな?
ここのSSの影響でアリスを好きになったものとしては今後が非常に楽しみだ…
36.80名前が無い程度の能力削除
う。クリスマスの話が読みたい・・w
39.80煌庫削除
何時の間にか巫女と隙間の話しに?
こっちはこっちで何やら不穏当な気配が。