Coolier - 新生・東方創想話

『セラギネラ』 第一話 その2

2006/11/21 09:34:32
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 前述の通り紅魔館の庭の作業小屋は元々は庭仕事の道具があるだけだった
が、今では布団も水瓶もかまどまである紅美鈴の第二の部屋だった。
「まぁったくお前らときたらろくなことをしないわねえ。少しは反省しなさいよ」
板敷きの床の間にルーミアとチルノの二人を正座させて、美鈴は説教を垂れた。
二人ともしょっちゅう捕まるので今では正座にも慣れてしまっていた。
「えーでもー、花畑の上でごろごろ転がるの楽しいよー?」
「そーだそーだ。あんたもやってみればすぐ分かるわよ!」
「その花を育ててるのは私なの!!あんた達に潰されたり萎れさせられたり凍
らされたりする為に育ててるんじゃないの! 何度言ったらわかるんだ」門番は
二人の闖入者の脳天に手刀を叩き込んだ。おっそろしく良い音が二つ同時に
響いた。

 もう何度ついたか分からないため息をついて、美鈴は小屋の奥の方に置いた
つづらからビー玉の入った袋を持ってきて、ついでにかまどから薪の燃えさし
を一つ拾い上げた。薪で土間に適当な大きさの円をひとつ描いて、その中に袋
のビー玉を撒いた。赤い色のものと青い色のものを5個ずつまとめて後は袋に
しまい直すと、二人に向かってそれを指差した。
「私は疲れたんで寝るから大人しくそれで遊んでなさい。二人とも自分の色の
ビー玉を丸の中に並べて、順番に指で弾いて相手の色のにぶつけて丸の外に
出すの。先に相手のビー玉を全部丸の外に出した方の勝ち。分かりやすいだ
ろう?言っとくけど妖力は使ったら駄目よ。小屋が壊れるから」そう言い捨てて
彼女はふすまの奥からせんべい布団を引っ張り出してきて床の間に敷くとさっさ
と寝入った。
「やるかー」
「やるわよ!」宵闇の妖怪と氷の妖精は正座を解いて素早く土間に下りると、
それぞれ赤と青のガラス球を円の中の思い思いの位置に並べた。草相撲で
勝ったルーミアが先攻になり、二人は猫が獲物を狙うような低い姿勢になって
お互いの持ち玉をじぃっと睨みつけては交互に指で弾いていった。二人とも
ビー玉がぶつかり合うたびに大声をあげたが、美鈴はよほど眠かったのか昼
まで全く目を覚まさなかった。

 太陽が空の真上にさしかかった頃に、美鈴は目を覚ました。寝起きはよい
方なのでさっと起きて布団をたたむと押入れに放り込んだ。見れば土間では
ルーミアとチルノがまだ勝負を続けていた。
「おう、やってるわね。勝負はどんなもんよ」
「あたいの73勝72敗よ!凄いでしょ!!」むしろその勝負回数が凄かった。
「うやっ!」ルーミアの弾いた赤いビー玉がチルノの青いビー玉を円の外に
押し出して、勝負は73勝73敗となった。
「なにーっ、もういっぺん勝負よ!!」
「かもんかもーん」
「・・・お前たち、そろそろお腹空かないか?」美鈴がそう聞くと二人とも即座に
「「空いた」」と答えた。

 皮をむいたドングリを重曹を加えて水で煮ること数回、アクを抜いてから布
袋に流し入れて上から木槌で叩いて潰し、口の開いた鉢にあけて砂糖と片栗
粉を入れて練ってから丸めて蒸篭に入れて蒸して団子にした。同時に皮を
剥いて内臓を抜いたカエルの干物を七輪でタレをつけて焼く。
「うちのメイド長がまた意外とケチでねぇ、食料庫に保存のきく料理を作り貯め
てるくせにやれ「ベーコンが買えなかったから当分無しね」だの「出汁をとった
干し魚も結構いけるわね」だの、おかげでこっちはサンドイッチの具まで減らさ
れて散々よ」大麦の粉で作ったビスケットに食料庫からかっぱらってきた薔薇
の花びらのジャム(材料は美鈴が庭で育てている)を塗って齧りながら、彼女は
子供相手に職場の同僚の陰口をたたいた。勿論二人とも食べるのに忙しくて
まるで聞いていない。
 ドングリもカエルもこの二人が持ってきたもので、二人ともおよそ調理などと
は無縁の食生活だったのが、此処に来ればまがりなりにも料理っぽい姿になっ
て出てくるのが面白くて、たまにやって来ては作れとせっつくのである。
「ああそうだ、お前らの知り合いに確かリグルが居たでしょ。今度畑の受粉の
手伝いさせるから一緒に連れてきてよ。蜜蜂でも操ればすぐの筈だから」
「(もぐもぐ)ぞーなのがー?」
「熱ッ!このお団子まだ食べられないの!?」
「・・・まあ、よろしく頼むよ」

 食休みで大人しくしている二人をおいて、美鈴は再度部屋の奥まで行って
今度は作り付けの棚から月琴を持ち出してきた。
 紅魔館には専属の楽師などはいない。当主のレミリア・スカーレットだけは
ピアノにオルガン、バイオリンとフルートを演奏できたが、よほど機嫌の良い
時でもない限りわざわざ他人に聞かせたりはしなかった。メイド長の十六夜
咲夜、レミリアの客人パチュリー・ノーレッジ、それにレミリアの妹であるフラン
ドール・スカーレットに至るまで誰一人まともに楽器に触れたことも無い。例
外的に美鈴だけがこの大陸渡りの楽器を申し訳程度に奏でることが出来た
が、月琴などというものにそうそう関心を示す者も居らず、宝の持ち腐れに
なっていた。
「またそれかー」ルーミアが喜んでいるのか嫌がっているのかよく分からない
口調で言った。
「あたいにもペンペンやらせなさいよ」チルノには月琴の音がペンペンに聞
こえる様だった。いずれにせよ聴衆には恵まれないさだめらしい。
「・・・あー、前回は『橋の上から汽車に桜草の花をまく姉弟の話』だったかな。
じゃあ今日は『荒地を数十年かけて花咲く野に変えた、折れた魔剣の話』に
するか・・・」適当にでっちあげた話を弾き語りし始めると、二人ともやっと神妙
な顔つきで聞き入るのだった。

 夕陽が幻想郷を紅に染め出す頃、ルーミアとチルノを帰して美鈴は館に
戻った。門番の勤めの時間になる前に厨房に顔を出してメイド長に夕食を
貰うのである。

「あら美鈴、その楽器久しぶりに見たわ」菜ばしで鍋の中身をつっついて
いた咲夜に言われて、彼女は自分がうっかり肩から月琴を提げたままだっ
た事に気付いた。
「おっと失礼。後でしまってきますよ。今日の夕食は何です?」
「蒸したジャガイモと血入りソーセージよ。スープは人参。ああそうそう、食
べる前に図書館までパチュリー様の分を持っていって頂戴」メイド長の言葉
に門番は露骨にいやーな顔をした。
「あそこは方向感覚が狂うから嫌いなんですよ。司書さんにでも持ってって
もらえばいいじゃないですか」
「喘息の調子がひどいらしくて側についてるのよ。窓から入っていいから
持っていってよ」パチュリーは喘息持ちだった。
 美鈴は渋々食器棚から小皿とスープ鉢、それにお盆を取り出して咲夜に
渡した。彼女がよそった料理をお盆に載せ、ついでにパン籠からバターロ
ールをいくつかとリンゴ酒を取ってそのまま厨房の窓から館の外に出、図書
館の丸い天窓の所まで飛んでいった。月琴も肩から提げっ放しだった。
 今回は『戦わなかったり』の方の話でした。次はまた『戦ったり』の方に
戻るのではないかと思います。

 月琴とはヨコハマ買出し紀行でアルファさんが弾いていたアレのことです。
演奏やら調理やらは適当に後付けした設定です。面倒見が良い悪いというのも
筆者の希望的観測というやつです。「こんなのは美鈴じゃない」と気を悪く
された方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。
マムドルチァ
[email protected]
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コメント



0.1220簡易評価
23.50名前が無い程度の能力削除
こういう美鈴も有りだと思います。
二次創作の影響で美鈴は誰が相手でも敬語もしくは丁寧語しか使わない印象を持たれている場合が多いので、そちらで違和感を覚える人はいるかもしれませんが。
(私は美鈴も相手によってフランクになったりすると思ってる派なので、全く違和は感じませんでした)
25.無評価マムドルチァ削除
口調に関しましては美鈴に限らずどのキャラクターも割ところころと変わっている気も
しないではないのですが、流石に誰に対しても丁寧口調というのでは慇懃無礼な
印象になってしまう恐れがあると感じました。それでも口調にまとまりがないのはやはり
違和感を覚える元だとは思いますので、出来る限り上手な使い分けを表現するよう
に心がけたいと思います。
28.無評価kagely削除
レミリアが楽器が演奏出来るというのが面白いなと想いました
私個人はどんな設定でも違和感を覚える事は無いんですけどねぇ(逆に言えば、批評が出来ない
そのレミリアの楽器の話から美鈴の楽器の話に上手く繋がっていると想います