Coolier - 新生・東方創想話

秋に桜が咲いたなら

2006/11/13 07:56:29
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 木々は紅く染まり始め、幻想郷にも秋が訪れた。

 今日は秋晴れのいい天気でさわやかな風が吹いている。こんな日は外で日向ぼっこするのが最高だと思う。

 冥界の住人、西行寺 幽々子と、その従者、魂魄 妖夢の二人も現世(げんせ)に訪れて幻想郷の秋を満喫していた。二人は草原に寝そべり空を眺めていた。

「うーん、気持ちいい風が吹いているわねぇ。」

 青い着物を着た女性、幽々子がつぶやいた。

「そうですねぇ。気持ちがいいですぅ。」

 隣に寝転んでいる、緑色の服を着た少女、妖夢が答えた。

 まだ午前中だというのに、睡魔が襲ってくる。妖夢はついうとうとしてしまった。

「………あう?………。」

 なんだか鼻がむずむずする。何かが鼻の上に乗っかっているような…。

「は、はくしょん!」

 妖夢は思い切りくしゃみをしてしまった。

「あうう…。」

 妖夢は起き上がると、ポケットからちり紙を取り出して鼻水を拭く。

「あら、妖夢。風邪かしら?」

 幽々子も起き上がって話しかけてきた。

「いえ、違いますよ。なんだか鼻がむずむずして………あれ?」

「どうかしたの?」

 妖夢は自分の服にくっ付いている妙な物を見つけた。いや、それ自体は珍しくもなんともない。だが、今ここにあるのは妙だった。妖夢はそれを指でつまみあげた。

「桜の花びらですね。」

「桜?」

 幽々子も覗き込む。

 確かに桜の花びらである。淡い桃色をしており、今、散ったばかりのように思えた。

「本当に桜ね。今の時期に見るのは珍しいわ。秋に咲く桜もあるのね。」

 幽々子が感心したかのように言う。

「いえ、これはソメイヨシノですよ。春にしか咲かない桜です。」

 庭師を務めている妖夢が答えた。

「そうなの?それじゃなんで花びらがあるのかしら?」

「さあ…。」

 妖夢は立ち上がると周囲を見渡した。しかし、周りに見えるのは紅葉の始まった木々ばかり。桜の木は見当たらなかった。

「風に飛ばされてきたのでしょうか。」

 風上を見る。そちらには林道が見える。さらに先には小高い丘が見えた。

「妖夢、あっちには何があるの?」

「さあ…私も現世にはあまり詳しくありませんので。」

「そう。なら行ってみましょうか。」

 幽々子が立ち上がった。

「え?幽々子様、行ってみようって…。」

「もしかしたら、秋に咲く桜が見られるかもしれないじゃないの。」

 幽々子は妖夢の返事も待たずに歩きだした。

「あ、幽々子様、待ってくださいよ。」

 妖夢もあわてて歩き出した。



 草原を抜けて小道に入る。先には林道が見える。風は間違いなくその方角からふいていた。

「ねえ、妖夢。」

 隣を歩く幽々子が話しかけてきた。

「なんですか。」

「もし本当に桜が咲いていたりしたら、どんな桜が咲いているとあなたは思う?」

「え?どんな桜って、普通の桜じゃないんですか?」

 妖夢は幽々子の質問の意味が分からなかった。

「そうじゃないわ。言い方が悪かったわね。秋に咲く桜があるとしたら、それはどんな桜なのかしら。桜の気持ちになって考えてみて頂戴。」

「桜の気持ちですか…。」

 妖夢はしばらく考えると、こう答えた。

「その桜はまだ子供なんですよ。早く大きくなって、きれいな花を咲かせたいっていつも思っているんです。そしてやっと大人になって花を咲かせられるようになったら、あわてすぎちゃって、春が来る前に花を咲かせちゃったんです。」

「ふふ、妖夢らしいかわいい答えね。素敵な答えよ。」

「そ、そうですか。」

 褒められて妖夢はちょっと照れた。

「それじゃ、幽々子様はどう思うんですか?」

「ふふ、私はこう思うわ。その桜はちょっと意地悪なの。秋に桜が咲いたらみんなは驚くわ。みんなが驚くのを見て楽しんでいるの。」

「へぇ、おもしろいです。」

 話をしながら歩いていくと林道の中に入っていく。林道も紅葉が進んでいて紅く染まってきていた。桜の木もあるのだが、咲いてはいなかった。

「桜は咲いていませんね。」

「そうね、もっと先なのだと思うわ。」

 林道をしばらく進むと、音楽が聞こえてきた。バイオリンの音だろうか。柔らかに聞こえる音楽は、紅葉の林道に良く合っている。

 さらに進むと演奏者に出会った。黒い服を着た女性がバイオリンを弾いていた。ゆっくりと絃を弾く姿は紅葉の中にとけ込んでいきそうだった。

 二人は足を止めて演奏に聞き入った。女性の演奏はしばらく続いた。

 ぱちぱちぱち。

「素敵な演奏ね。」

 女性の演奏が終わると、幽々子と妖夢は拍手をした。

「あら?誰かと思えば西行寺のお嬢様ではありませんか。」

「お久しぶりね、ルナサ・プリズムリバー。」

「ええ、お久しぶりです。」

 ルナサと呼ばれた女性は幽々子に頭を下げた。

「今日はお一人?妹さんたちはいないのかしら?」

「はい。今日は一人です。たまには一人で練習してみるのもいいかと思いまして。そうしたらこんなところに来てしまいました。」

 ルナサは答えた。

 彼女は三人姉妹の長女で、普段は三人で演奏会を開いているのだ。

「そうね、この紅葉の中ならば、あなた一人の方が合っているわ。」

「はは、妹たちはやかましいのが好きですからね。」

 ふふふ、と幽々子は笑う。

「それにしてもお二人はなぜこんな場所へ?もみじ狩りですか?」

「いいえ、桜を探しに来たのよ。」

「桜ですか?」

「ええ。妖夢。」

「はい。こんなものを見つけたんですよ。」

 妖夢は、ポケットからハンカチに挟んでおいた桜の花びらを取り出す。ルナサにそれを見せて、事情を話した。

「なるほど、秋に桜が咲くとは。聞いたことがありませんね。残念ですが私は桜が咲いているのは見ていませんよ。」

「そうですか。」

 妖夢は桜の花びらをポケットにしまいこむ。

「でも、本当に桜が咲いていたら素敵ですね。どんな桜が咲いているのでしょうか。」

「ルナサ。秋に咲く桜はどんな桜だと思うかしら。あなたの考えを聞かせて欲しいの。」

 幽々子はさっきと同じ質問をルナサにもした。

「そうですね…。」

 ルナサはしばらく考えてから答えた。

「その桜はすごく目立ちたがりです。春に咲いてもたくさんの桜の中に埋もれてしまいます。でも秋にぽつんと咲けば、みんなが注目してくれますから。」

「あら、普段は控え目なあなたらしくない答えね。」

「いいえ、私も目立ちたがりなのですよ。妹たちの方がさらに目立ちたがりなので私は霞んでしまいますが。」

「うふふ。そうなのね。素敵な答えをありがとう。」

「いえいえ。お二人は桜を探すのですか?」

「ええ、見つけられたらいいと思っているわ。」

「そうですか。見つかるといいですね。」

「そう願っているわ。さあ、妖夢行きましょうか。」

「はい、幽々子様。ルナサさん、失礼致します。」

「ごきげんようルナサ。また会いましょう。」

「はい、また会いましょう。」

 二人はルナサに別れを告げると林道を進んだ。

 バイオリンの音色がまた聞こえてきた。



 林道を抜けて行くと、人里が見えてきた。その先には丘が見える。風はそちらからふいてきている。

「幽々子様、人間達の里がありますよ。どうするのですか?」

「どうするのって、咲いている桜を探すのよ。無ければ通り過ぎるだけでしょう。」

「いや、確かにそうなのですけれど…。」

 妖夢は口を濁す。

 本来、冥界の住人である二人は頻繁に人間達に触れるべきではない。生者と死者が交わると混乱を招きやすいのだ。妖夢はそれを懸念しているのだ。まあ、そんなことは気にもとめない人間も幻想郷にはけっこういるのだが。

 そんな妖夢の心配など気にもせず、幽々子は里の方へと向かう。妖夢もしぶしぶついていく。

 まもなく里の入り口に差し掛かろうとしたときだった。不意に上空から声が掛けられた。

「待て、そこの亡霊達。」

 上を見上げるとそこには二人の女性がいた。

「あ、上白沢 慧音に藤原 妹紅…。」

 二人とも知った顔だった。上白沢 慧音は半人半獣の妖怪である。藤原 妹紅は人間ではあるが、蓬莱人と呼ばれる不老不死の人間なのだ。

 二人は妖夢達の前に降り立った。

「あら、お久しぶりね。一昨年の肝試し以来かしら。」

 幽々子は普段の調子で話しかける。

「お前たち、人間の里に何をしに来た。返答しだいではただじゃおかない。」

 慧音は腕組みをしてこちらを睨み付ける。妹紅も一緒に睨んでいる。

「もう、人が挨拶をしているのにひどいわぁ。別に悪いことをしにきたわけじゃないわよ、ねえ妖夢。」

「はい、お二人とも話を聞いてください。」

 妖夢は桜の花びらを見せながら二人に事情を説明した。

「へぇ、秋に咲く桜とはね。きれいじゃないの。」

「妹紅、亡霊達の話を鵜呑みにするな。」

 妖夢の説明に興味を持ったのは妹紅だ。慧音はまだ信用してくれない。

「ひどいわぁ、人が一生懸命話しているのに信用してくれないなんて。しくしく…。」

「そのうそ泣きが信用できないのだ。」

「…それもそうね。」

 けろっとする幽々子である。

「でも、本当のことよ。私たちはただの通りすがりよ。人を襲ったりしないわ。」

「本当か?」

「本当よ。」

「…妹紅、どう思う?」

 慧音は妹紅に話しかける…はずだったが、妹紅は妖夢と熱心に話し込んでいてこっちの話など聞いていなかった。

「くんくん…本当ね、この花びらからは微かに香りがする。間違いなく桜の香り。」

「そうでしょう、だから今散ったばかりのはずなんです。」

「秋に咲く桜ね…。紅葉の中に一本だけ咲く桜色の花。すごく素敵…。ん?慧音、呼んだ?」

「いや…もういい。」

 慧音は肩を落とした。

「まあいい。とりあえずは信用しよう。」

「それならいいわ。ところでお二人とも、咲いている桜は見なかったかしら?」

 幽々子の質問に二人は首を横に振った。

「私は見ていないわ。」

「私もだ。私達は朝から里の見回りをしているが、少なくとも里には無かった。」

 二人は答えた。

「そう、残念ね。もっと先かしら。」

「そうですね、先ですよ。」

「お前たち里を抜けるつもりか?」

慧音が尋ねてきた。

「もちろんそうよ。」

「それなら里の出口まで案内しよう。着いてきてくれ。」

 慧音は空に飛び上がった。

「あら、エスコートしてくれるのね。ありがたいわ。」

 幽々子も空に飛び上がる。妖夢と妹紅も後に続いた。

 四人の眼下には里の風景が広がる。収穫の時期ともあり、人々は田や畑で仕事をしている。その景色は紅色と黄色で染まっている。

「お二人さん、ちょっといいかしら。」

 幽々子が慧音と妹紅に声を掛けた。

「なんだ?」

「なにかしら?」

「もし、秋に桜が咲いたなら、その桜はどんな桜なのだと思う?考えを聞かせて欲しいの。」

 幽々子はまた同じ質問をした。

「どういう意味かしら?」

「こんな変わった時期に咲くのはどんな変わり者なのかしら、と言う事よ。」

「うーん…。」

 二人はしばらく考えた。まずは慧音が答えた。

「そうだな、その桜はもう寿命なんだろう。老衰でもう冬は越せない。だから最後に花を咲かせたのではないかな。」

「なるほど。妖夢とはまるで反対ね。あなたらしい堅実で良い答えよ。」

「どういう意味だそれは?」

「あのですね…。」

 妖夢は自分の答えを慧音に聞かせた。

「あはは、お譲ちゃんらしいかわいい答えだね。慧音は堅いから渋い答えなのね。」

「妹紅、うるさい。そういう妹紅はどう思うのだ?」

「私?そりゃね、その桜はすごく強いのよ。季節なんか関係なく花を咲かせられるぐらいに。きっと幻想郷でもトップクラスの強さね。」

「妹紅の答えはすごく乱暴な気がするが。」

「なによー。」

「ふふ、お二人ともすごく素敵な答え。そう思わない妖夢。」

「はい、すごく素敵です。」

「い、いや…。」

「うん、ありがと。」

 ちょっとてれる慧音と、素直に返す妹紅であった。

 そうこうしている内に里の反対側にたどり着いた。

「エスコートしてくれてありがとう、慧音。」

「いや、別にいいさ。」

 また風がふいてきた。やはり丘からふいてきている。

「桜を探すのか。」

「ええ、探すわ。」

「そうか。見つかるといいがな。」

「そうね。妖夢ー、行くわよー。」

 妹紅と話をしていた妖夢が振り返る。

「はい、今行きます。妹紅さん、ありがとうございます。」

「いいよ、気にしないで。もし、桜が咲いていたら教えてね。私も見に行くわ。」

「はい。それではまた。」

 妹紅に礼をすると、妖夢は幽々子の元へ駆け出した。



 風のふいてくる丘に向かって歩く。丘には木は生えていないが、草花はたくさん咲いている。その花達もすでに秋の花である。

 しばらくして丘の頂上にたどり着く。風が強いかと思っていたが、そんなことはなく、やわらかい風がふいていた。

「うわぁ、すごい景色。」

 妖夢は感嘆の声を上げた。

丘から見下ろす景色は紅く染まっていた。通ってきた林道も里も紅葉で染まり、所々にだけ緑と茶色があるだけである。

めったに見ることのない景色に妖夢は見入っていた。冥界にも四季はあるが、現世ほどの変化はない。現世には生(せい)がはっきりと見えるのだ。

「ふふ。そんなに気に入ったの、妖夢。」

「はい、すごく。」

「それなら、ここで休憩しましょうか。」

 幽々子はその場に腰を下ろした。

「はい、ありがとうございます。」

 妖夢も隣に腰を下ろした。

 幽々子も景色を眺める。本当にいい景色だと思う。冥界の住人となってからもう久しいが、これほどの景色はなかなか見たことがない。まだ自分が生きていた頃、こんな景色を見たのだろうか。いくら考えても生前の記憶は蘇らない。

「幽々子様。これをどうぞ。」

 妖夢が袋を手渡してきた。

「なに?これ?」

 袋を開けて中身を取り出す。中に入っていたのは、笹の葉に包んだおむすびだった。

「妖夢、お弁当なんて持ってきていたの?」

「さっき、妹紅さんがくれたんです。二人で食べるといいって。」

 妖夢も同じ包みを手に持っていた。

 太陽を見上げると、すでに南中を過ぎて西に傾きだしていた。

「あら、もうこんな時間なのね。気が付かなかったわ。」

「そうですよ。さあ、いただきましょうよ。」

「そうね。いただきます。」

 景色を眺めながらおむすびを食べた。たぶん妹紅が作ったのだろう、少々形がいびつだ。味はなかなかのものだが。

 おむすびを食べ終わった後も、二人は景色を眺めていた。

「………ん?」

 妖夢は何かに気づいた。すばやく空に飛び上がると、右手で空をつかむ。

「妖夢、どうしたの?」

 妖夢は幽々子の隣に下りてきた。握っていた右手のこぶしを開くと幽々子へと見せる。

「また桜の花びらです。」

「本当ね。」

 妖夢は風上の方を見る。丘を下るとしばらく平原が続く。その先には深い森が見える。どこを見渡しても桜の花は咲いていなかった。

「いったいどこから飛んでくるのでしょうか…。」

 妖夢がつぶやく。

 幽々子が立ち上がった。

「妖夢、あの森まで行ってみましょう。」

「あの森、ですか。」

「ええ。きっとあそこに桜が咲いていると思うの。」

 幽々子は歩き出す。妖夢も続いた。



 丘を下って平原へと出る。平原の草花も秋の色に染まっている。

 妖夢は歩きながら空を見上げていた。また桜の花びらが飛んでこないかと見ていた。しかし花びらは飛んでこなかった。いつの間にか風も止まっている。

「桜、咲いていませんね。」

「そうね、もう少し行ってみましょう。」

 周囲の紅が少しずつ濃くなってきた。太陽が西の空に沈もうとしている。夕焼けの紅が世界をもっと紅く染めていく。

 二人は森の入り口へとたどり着いた。

 森の木々は紅葉と夕日で真紅に染まる。

「幽々子様、どうしましょう。もう日が暮れてしまいます。」

「そうね、今日はあきらめて帰ったほうがいいかしらね。」

 二人はもりの入り口で立ち止まった。

 すると、突然上から声が聞こえた。

「もうしばらくいたら良いわ。もっときれいな紅葉が見れるもの。」

 声を掛けられて二人は上を見た。すると、木の枝の上に女性が腰掛けていた。

「あなたは、風見 幽香さん。」

「妖夢、知っているの?」

「はい。以前、花の異変の時に知り合ったんです。」

 幽香と呼ばれた女性は、木の上から飛び降りるとふわりと着地した。

 彼女はチェックの上着に同色のスカート、そして同じチェック柄の日傘を持っていた。紅葉の中にとけ込んでしまいそうだった。

「お久しぶりね、妖夢さん。そしてはじめまして、冥界のお嬢様。風見 幽香と申します。」

 幽香はスカートの端を少し持ち上げて優雅に礼をした。

「これはご丁寧に。冥界の白玉楼の主、西行寺 幽々子です。よろしくお願いしますわ。」

 幽々子も深々と頭を下げた。

「こちらこそ。それにしても不思議ですわ。こんなところで冥界の方々とお会いするなんて。またなにか異変がおこったのかしら。」

「いいえ。私達は桜を探しに来たのですよ。」

「桜?秋桜(コスモス)のことかしら?」

「いいえ、春に咲く桜ですわ。風に舞う花びらを追ってここまで来ましたのよ。」

「桜の花びらが?それは変ですわ。今の季節に桜が花をつけるなんて。ここしばらくは花の異変も起こっていませんから、ありえませんわ。」

「ずいぶんはっきりと断言しますわね。根拠があるんですの?」

「これでも『四季のフラワーマスター』と呼ばれていますので。」

 幽香は自信を持って言った。

「で、でも桜の花びらを見つけたんです。これを見てください。」

 妖夢がポケットから桜の花びらを取り出そうとした。

「あ、あれ?ない、ない。確かにハンカチに挟んでおいたのに。」

 ハンカチを振るったり、ポケットを探ったりしても、花びらは出てこなかった。

「どこにいったのかな…。ちゃ、ちゃんとあったんです。桜の花びらが…。」

 必死に説明をする妖夢。

「本当よ。私もみたわ。桜の花びらを。」

 幽々子も告げる。

「ふふ。私は信じないとは言っていませんわ。あなた達がみたなら、それは間違いなく桜の花びら。でも、おそらくそれは幻想。」

「幻想?どういう意味なの?」

「花も生きている。花にも想いがある。花を咲かせることでその想いを伝えようとするの。その桜は何かを伝えたかった。その想いを幻想にのせて飛ばしたの。花びらという形に変えてね。」

「なるほど、それで幻想なのね。」

「幻想、なんですか。」

 幽々子にはなんとなく分かった。ある意味自分たちも幻想なのだ。死しても人のカタチを取るのは想いがあるからなのだ。想いがなければ人のカタチを取る必要はない。いや、想いが強すぎたからこそ人のカタチを取ってしまったのかもしれない。

「あ、もうすぐね。」

 幽香が言った。

「ん?なにかしら?」

「あなた達も一緒にどう?凄いものが見れるわよ。」

 幽香はふわりと飛び上がった。幽々子と妖夢も続く。

 幽香が森の方を振り向く。幽々子と妖夢も振り向く。

「「うわぁ」」

 幽々子と妖夢はそろって声を上げた。

 そこには夕日で真っ赤に染まる森があった。もみじの紅とイチョウの黄色を夕日の赤が染め上げる。

「どうかしら。私はこの森が見たかったのよ。」

「………。」

「………。」

 声が出なかった。なんと表現したらいいのか分からなかった。

 しばらく見つめていると、少しずつ黒が増えてきた。夕日が地平線に沈もうとしているのだ。

「さてと。」

 幽香は日傘を広げると、後ろを向いた。

「もう行くの?」

 幽々子が尋ねる。

「ええ、日が沈めば、花も眠るわ。私も眠る。」

「そう。すばらしいものを見せてもらったわ。ありがとう。」

「いいえ。それじゃ。」

 幽香は去ろうとした。

「あ、待ってください幽香さん。」

 幽香を呼び止めたのは、紅葉に見入っていた妖夢だった。

「なにかしら?」

 幽香は振り返る。

「幽香さんは、桜がどんな想いで花びらを飛ばしたと思いますか?」

 妖夢は今まで出会った人達にしてきた質問をした。

「そうね。その桜は、花を咲かせるのが大好きなのよ。誰かに見てもらいたいとか、注目されたいとか、そんなの関係ない。ただ花を咲かせたかった。でも今は咲くことが出来ない、だから幻想に想いをのせたの。そう思うわ。」

「幽香さん…。」

「それじゃ、またどこかで会いましょう。」

 幽香は飛び去っていった。

 妖夢は彼女の背中をずっと見ていた。

「妖夢、私たちも帰りましょう。」

「はい。」

 幽々子は森に背を向けて飛んだ。妖夢も後に続く。

「今日は素敵なものをたくさん見れたわ。良い一日だったわ。」

 幽々子は満足そうに言った。

「ええ、良い一日でした。」

 妖夢はもう一度森を振り返った。

 すでに日は沈み、森は黒く染まっている。やはり桜は咲いていなかった。

「どうかしたの、妖夢?」

「…なんだか、すごく桜の花が見たくなりました。」

「あら、気が早いわよ。これから冬が来るというのに。」

「ええ。春まで待ちますよ。満開の桜が咲き誇るまで。」

 妖夢は暗くなった空を見上げた。


 続けて投稿させていただきます、ドライブです。
 この作品も、自分のHPに掲載させているものです。今のところ、自分の作品の中では良いほうです。
 あっさりまとめてみようと思って書きましたら、なんだかキャラの性格まであっさりしてしまった感じになってしまいました。違和感が少しあります。
 こんな作品ですが、読んでくださった皆様、ありがとうございます。
ドライブ
[email protected]
http://homepage2.nifty.com/noranekolibrary/
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コメント



0.1000簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
静かで柔らかい情景が鮮明に浮かんできました。
咲けぬ花の思いを乗せた、儚いけれど美しい幻想。
こんな幻ならいつかは見てみたいものです。
15.70名前が無い程度の能力削除
確かにあっさりとしてますが、前作に比べずいぶんとキャラがなじんでいるかと。
違和感もないではないですがなかなかよい雰囲気で映像も綺麗です。
16.100名前が無い程度の能力削除
二人が異変の元を探しながら、
散歩を楽しんでる絵が見えてきました。
いいですね~。まったり。
22.80削除
あ、鼻先に桜のにおいがして来た。
25.100時空や空間を翔る程度の能力削除
「優れた美人」「純潔」「精神美」「淡泊」
(シダレザクラ)「優美」
(ヤマザクラ)「あなたにほほえむ」

さくらの花言葉です、
私としては「マヤザクラ」が好かったかな。
27.無評価レフトッ!削除
温暖k《黙れっ!》・・・・・・