Coolier - 新生・東方創想話

When Darkness Falls

2006/09/16 08:05:16
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 1/

 風の鳴る声さえ聴こえない、静謐の夜。紅魔館を覆う闇もまた、静かに色濃い。
 咲夜の差し出した極上の紅茶の香りを楽しんで、レミリアは右手を上げた。
 以心伝心に、従者は短く頷いて部屋を辞する。
 人の気配が失せた暗闇の中で、物憂げな吐息が零れた。
 憂いは、空からやってくる。
 今夜は久方ぶりの満月、吸血鬼にとっては、最も危うく心昂ぶる夜だ。
 誘惑に心を許せば、超越者は血に飢えた破壊者に堕する。
 レミリアでさえ、疼くような高揚が理性の片隅から消えないでいた。
 だから――あの子は、きっとこの悩ましい夜に、我慢ができなくなるだろう。
 ここにはいない二人目の吸血鬼、血を分けた妹を思って、レミリアは憂う。
 なにかが起きる。不吉で、血腥く、危険ななにかが。
「ふぅ――」
 今夜はきっと、永く狂おしい夜になるだろう。
 自分にも、妹にも。
 けれど、すべてを受け入れる。そう決めて、今夜を迎えたのだから。
「――来たか」
 紅魔館を刺激した僅かな振動を、レミリアの鼓膜は見逃さない。
 深く昏い地の底で、凶悪な気配が蠢いた。
 それは蛇のように土を這い、一直線に地上を目がけて這い出してくる。
 刻一刻と我が身へ迫る影をよそに、レミリアは漸くカップに口をつける。
 血の香りと色を纏った紅茶が飲み干され、白い陶器がかちゃり、と乾いた音を立
てて皿の上に収った。厳めしい大時計が、零時を告げる鐘を響かせる。
 そうして虚空を見上げたレミリアは、いつしか音もなく天井に張りついていた妹
と視線を合わせた。
 なんとも奇妙な、真夜中の対面が始まる。
「いい月夜ね、お姉様。こんなに素敵な夜だから、お外へ遊びに行ってもいいでし
ょう?」
 逆さにぶら下がったまま、フランドールは甘ったるい声で語りかける。
 この少女が滅多に見せることのない、緩んで依存しきった声音は、血を分けた姉
と妹の距離感ゆえだろうか。
 だが、爛々と喜色に輝く紅い瞳に、レミリアは不安の的中を悟った。
 すっかりアテられているといったところか。
「そのおねだりは聞き飽きたわ。答えはノー、よ。行き先は、お外じゃなくお部屋」
 妹の相手も慣れたもので、あしらう声には容赦も素っ気もない。
 つれなく流されたフランドールの怒りも、わかろうものだ。
 案の定、真っ赤な頬を膨らませ、翼を激しく怒らせて、不満を顕わにした。
「あの牢屋みたいな部屋は、もう飽き飽き! まんまるお月様とか、真夜中の幻想
郷とか、新しい景色が見たいの!」
 フランドールという少女は、内に浮かんだ衝動を一切押さえ込もうとせず、積極
的に外界へとぶちまける。
 それは美点でもあるが、今夜に限って言えば明確な欠点だ。
 レミリアは溜息の後、紅く澄んだ瞳に怒気を纏わせた。
「聞き分けのない妹は嫌いよ、フラン」
「聞き分けのない姉も嫌いよ、お姉様」
 空気をびりびりと震わせるほどの威圧にも、フランドールは怯まない。
 むしろ楽しむように、小莫迦にした声でにやつきながら応じた。
 静かに、しかし確実に、真夜中の紅魔館で緊張が高まっていく。
「「嫌いで結構」」
 僅かのズレもなく一つに重なった声で、姉妹は互いを否定した。
 妖気に慣れない者がその場にいたなら、息苦しさに昏倒してしまっただろう。
 淡い狂気を滲ませた二人の紅瞳が、暗闇の中で鬼火のように光る。
 やや苛立ちを帯びた声で、レミリアは重ねて妹を制した。
「大人しく、お部屋に戻りなさい」
「戻らない。こんなに月が綺麗な夜だもの。私、お外へ行くわ!」
「だからよ。今夜の月は完全、あまりに綺麗過ぎる。未熟な貴女は、この光の下で
自分を抑えられない。うきうきして飛び出してきたのが、いい証拠だわ」
 レミリアの声が、いよいよ露骨な嘲りを帯び始めた。
 曲がりなりにもフランドールを見ていた瞳も、興味をなくしたように空っぽのテ
ィーカップへと移される。
「騒ぎを起こして追い返されて、結局はまた地下暮らしが関の山。それより、素直
に戻って正式な誘いを待ちなさい」
 そのまま目も合わせず、短く言い放つ。
 無機質で一方的な言葉は、フランドールの機嫌を傾けるのに充分すぎた。
 ――どうせ、誘ってくれるつもりなんてないくせに。
「――嫌よ。私は、今行きたいんだから。お姉様の許可なんか、要らないわ」
 外に行きたいのは確かだ。けれど、フランドールを突き動かしたのは、敵愾心と
も言える程のレミリアに対する憤りだった。
 ハイハイ言う事聞いてなんかやるものか。
 その澄ました顔に、醜い皹を穿ってやる。
 そう強く決めて、怒りを声に乗せた。
 果たしてレミリアは、再び天井の妹に視線を戻す。
 より一層の倦怠と、砥がれた怒気を双眸に乗せて。
「もう一度だけ言うわ、フラン。戻される前に、黙って部屋に戻りなさい」
 言葉は既に言の刃と化している。
 秘めるのは要求ではなく、脅迫だ。
 部屋に戻れ。さもなくば――
「ひっ――」
 しゃくりあげるように喉を鳴らして、フランドールは密やかな快楽に浸る。
 “さもなくば”の先を想像して、喉から喜悦の笑みが零れた。
 戻らなかったら、どうしてくれるというんだろう。
 頬を打つ? 
 爪を突き立てる? 
 それとも、スペルを浴びせてくれるの?
 だが、それは全部こちらからすることだ。
 ――決めた。今夜は、このひとと遊ぼう。
「戻せるもんなら、戻してみなよ」
 ぎょろりと紅い目を見開いて、フランドールは道化のように舌を出して嗤う。
 粘りつくような飴色の嘲弄が、無音の館にざわざわと浸透したその刹那。
 紅魔館の内側で、眩いばかりの閃光が膨らんで弾けた。
 永く熱い夜の始まりを告げる、一撃目の弾幕(ファースト・ブリット)が放たれ
た。


 2/

 冠した名を顕すかのように、紅魔館が、紅く燃え上がる。 
 レミリアの放った弾幕が、縦横無尽に踊りながらフランドールを襲う。
「あはははは! お姉様がキレたっ! 淑女のくせに、はしたないんだぁ!」
 牙を剥く紅蓮に些かも怯まず、むしろ幼い顔を爛々と輝かせ、フランドールも迎
撃の一手を放った。無作為に奔放に飛び出した魔弾はテーブルクロスを引き裂き、
椅子をボールのように弾き飛ばして、レミリアの弾幕に突撃する。
 色濃い闇に覆われていた館は、二人の吸血鬼が生み出す激しい閃光で瞬く間に静
寂を失ってしまった。幻想郷でも指折りの妖怪二人が切っ先をぶつけ合えば、さし
もの紅魔館も澄ましてはいられない。
「決めた! もうあんな部屋には、絶対戻らないんだから。絶対っ!」
 フランドールが力任せに五指を振るうと、新たな弾の嵐が館を食い荒らした。
 豪奢なテーブルが真ん中からへし折られ、几帳面に並べられていたティーカップ
が暴風に舞う。
「むぅっ……!」
 レミリアも表情険しく、反撃に転じる。
 向かい来る弾幕を交差して貫いた紅い雨は、危うく宙を舞う茶器たちを掠め、涼
風のように叩いて床へと静かに落とす。
 降り立ったカップには、さしたる傷も罅割れも見当たらない。
 精密射撃の切れ味を持ちながら、紅魔館の主が放つ弾幕は、しかし小さな住人達
を柔らかく守っていた。
「カ・カ・カカカカッ!」
 対してフランドールは、そんな些事を気にもかけない。
 お気に入りのカップだろうが、座り心地の好きだった咲夜お手製の椅子掛けだろ
うが、壊すとなれば一切の容赦はない。
 繊細なまでの庇護と、強烈無比の破壊とが、飛び交う凶弾の隙間で繰り返される。
 だが、二人は未だにその牙を突き立ててはいない。
 無垢な姿に隠した極上の薔薇の棘を、敵の脾腹に打ち込む機会を待っている。
 縦横無尽に飛び交う光が地を削り、壁を引き裂いて、紅魔館が甲高い悲鳴を上げ
始める。拮抗する戦況を見据え、ついにレミリアが一手を投じた。
「はぁっ……!」
 羽根を開いて天井に舞い、旋回しながらスペルを宣誓する。
 同時に舌を鳴らした。褥を、我が手で傷つけることになろうとは。
 だが、仕方あるまい。
 聞き分けのない者には、千本の針を飲ませてでも理屈を教えねばならない。
「食らえっ……!」
 レミリアの声とともに、スペルが顕界した。
 霊力で編まれた銀のナイフが、主と同じ紅色の流星を従え、フランドールへと降
り注ぐ。鋭い弧を描き、天を埋め尽くして降り注ぐ弾幕に、逃げ場はない。
 だが、不可避の地獄の中心にありながら、悪魔の少女は確かに嗤った。
 万歳をするように両手を振り上げ、
「――ひひっ!」
 そして、無造作に虚空を握った。
 それだけの動作で、フランドールを食い尽くそうとしていた無数の弾幕が、ぼろ
ぼろと灰のように掻き消えてしまった。
 存在の“芯”を、悪魔の能力に握り壊されたのだ。
 灰燼となって散る弾幕の骸を浴び、フランドールは妖艶に唇を歪ませる。
「温(ヌル)い!」
「“壊し”たかッ……!」
 フランドールの細い腕は、この世のありとあらゆるものを芥のように破壊する。
 敵は血を分けた妹であると同時に、最強の破壊者。
 レミリアは生唾を飲み込んで喉を潤し、次なる弾幕を頭に巡らせた。
 生半の弾では、この埒は開けられない。
 如何する――?
「きゃは、ハハハ、あハぁははははっ!  ねぇ、抱いて? お姉様っ!」
 思案の間を与えず、フランドールが突進を開始した。
 軽いマラソン気分で飛び出しても、吸血鬼が地を蹴れば突風が巻き起こる。
 全力で疾駆したならば、それは人間大の台風だ。
 未だ館内を荒れ狂う弾幕も、自らを巨大な弾丸と化したフランドールを阻むこと
はできない。吸血鬼の強靭な脚は、レミリアとの距離を瞬く間に消滅させた。
 一足さえ不要の決死の間合いに、弾幕もスペルも割り込む暇はない。
 霊力を滾らせた手刀が、音速の槍となって心臓へと迫る。
「――フン」
「あっ!」
 だが、胸を貫くかに見えた腕は、同じく名状し難い速度で突き出されたレミリア
の腕に、きつく握り止められた。ぎりぎりと、二つの筋肉が緊張する。
 これは、吸血鬼同士の戦いだ。
 人の埒を越えた能力を備えているのは、フランドールばかりではない。
「あぐぅっ……!」
 レミリアが低く唸ると、握り締めた手首がめきめきと軋み始める。
 痛みに悶える妹を、怒りに紅く燃えたレミリアの眼が穿った。
「いいでしょう。そんなにお外が恋しいなら――」
 レミリアを覆う闇の霊力が、ガソリンのように肉体を駆け巡り、吸血鬼の暴力を
さらに増幅させる。右手一つでフランドールの身体を手首から持ち上げ、
「出してあげるわ!」
 そのまま、頭上を目掛けて砲丸のように放り投げた。
 空気を捻じりながら、フランドールの矮躯が矢の勢いで館へと突き刺さる。
「ぐぅ、っ――!」
 吸血鬼の住処である紅魔館は、真っ当な建物に比べれば遥かに頑丈に作られてい
る。それこそ、ちょっとやそっとの弾幕ごっこには十分に耐えられる。
 だが、その堅牢な城を危うくするほどの戦いが、今まさに起こっているのだ。
 めきめきと軋む天井が、断末魔の声を上げて、ついに破砕する。
「きゃうっ、ああっ……!」
 投げ飛ばされたフランドールは館を突き破り、満月を臨む夜空へと錐揉みながら
吹き飛んでいった。館の中を荒らしていた轟音も、諸共に吐き出されたようだ。
「お嬢様! 今の音は、まさか……!」
 入れ替わるようにして、血相を変えた咲夜が部屋に飛び込んでくる。
「あっ――」
 変わり果てた部屋を眼にして、従者はなにが起きたかを即座に理解した。
 否、咲夜もまたレミリアの啓示によって、今夜という日があることを知っていた。
 この破壊劇も、彼女の主にしてみれば、掌の中の出来事だ。
「真逆も真芯もないわ。咲夜の仕事は後始末。そう言った筈。これは、姉妹の問題」
 咲夜に視線を合わせず、レミリアは大穴から射し込む月の光に目を細めた。
 夜は、まだ始まっていない。
 そう、完全に満ちた月の下でこそ、吸血鬼の時間は動き出すのだ。
「ここでおとなしくしてなさい。いいわね?」
「……畏まって、おります」
 深く一礼しながら、咲夜の指先は微かに震えていた。
 信頼していないのではない。恐怖する必要はないはずだ。
 咲夜にとって、レミリア・スカーレットとは運命そのものだから。
 なにかを信じる信じない、そんな言葉で語れるほど容易い存在ではない。
「――っ」
 それでも、今夜の戦いにだけは一抹の不安を拭い去れない。
 フランドールの能力は、幻想郷さえも撼すほどの破滅の剣。
 もしも。どんなに些細なIFでも、もう一度自分をこの声が呼んでくれなかった
ら――そう思うと、咲夜は怖くて堪らない。
 絶対に、それを表に出したりはしないけれど。
「あ……」
 俯き加減では非礼になろうと、背けていた顔を主に戻した、その時。
 運命が、咲夜に微笑んだ。
 震える指を見つめて、レミリアは少しだけ唇を緩めたのだ。
 仕草に含まれた意味は捉えきれなかったが、それだけで身体に火が灯った。
 咲夜の乱れていた心が、救われる。
 吸血鬼は鋭く地を蹴り、風を纏って頭上の大穴へと跳んでいった。
 夜空に融けていく翼の紅を眼に焼きつけ、咲夜は陰鬱な思考を切り捨てる。
 自分の使命は後始末。どんな形であれ、カタがつかねば始まらない。
 今はただ見守るだけだ。幻想郷に輝く、二つの極星の戦いを。


 3/

 月への通り道のように開けた大穴を、レミリアが駆け抜ける。
 ちりちりと降り注ぐ満月の光が、熱を持った身体へと沁みこんでいく。
 満月の夜は心が昂ぶる。だから、そこにまた恍惚を重ねるべきではない。
 特に、命を懸けた狩りなどという、麻薬的な快楽は拙い。
 快楽という酸は、理性と肉体を繋ぐ鎖を容易く溶かしてしまうから。
 ――あの子の鎖は、もう溶けているだろうか。
 己の中にもかかりかけた甘い靄を振り払い、レミリアは屋根を蹴って夜空へと飛
び出した。
「う――!?」
 不意を打って、血腥い風が吹きつける。
 死角から、鋭い五つの爪がレミリアの顔面へ襲い掛かった。
 出口に潜んだフランドールの、辛辣なる奇襲だ。
「く……!」
 レミリアは思い切り首を捻り、身体をまるごと横へ逃がして、凶悪な一撃をやり
過ごす。逃げ切れず、人差し指の爪に掻かれた頬が、熱い痛みを発する。
 先手を許した不覚に、短く舌打ちをして襲撃者を睨みつけた。
「可愛い妹を投げ飛ばすなんて、まったく酷いお姉様だわ」
 満天の月の下、真紅に染まったフランドールの瞳は、最早隠しきれないほどの色
濃い狂気に彩られていた。鎖は、どろどろに溶けてしまったようだ。
 言葉の通じる時間は終わった。あとは、原始的に語るしかない。
「いいえ、まだまだ序の口よ。それに、貴女が望んだことでしょ?」
 どこか喜色を交えながら、レミリアは狂喜する妹を見据えた。
 空の闇を包み込むように、両手を大きく広げ、声を鳴らす。
「貴女の挑発に乗ってあげるわ。タイムリミットは夜明けまで。495年の憂さ晴
らしに――この胸、貸してあげる」
 頬の傷から染みた鮮血を舐め、レミリアは妖しく笑った。
 噴出す妖気を開戦の証と受け取って、フランドールが愉悦に咽び震える。
「素敵っ……! その鳩胸、ひしゃげるまで潰してやる!」
 はしたないくらいに全身を振り乱して、先に空を蹴ったのはフランドールだ。
 両の爪を盲滅法に振り回し、技術というには程遠い野性で果敢に格闘戦を挑む。
 対して、レミリアの動作はいかにも堂に入っていた。
 繰り出される斬撃に手首を割り込ませ、掌で受け、巧みに衝撃を逃がしている。
「ひしゃげる、ね」
 小さく呟きながら、斜めに倒した身体を一気に前へ進ませた。
 弾幕の遣り取りのみならず、近接戦闘においてもレミリア・スカーレットは卓越
した強者だった。
 間合いを離そうとするフランドールの追撃も、空を切るばかり。
 フランドールが圧倒的な精度の差を悟った時には、既に懐への侵入を許してしま
っている。レミリアの突き出した足が虚空を抉り、右拳が唸りを上げて走った。
「が……ッ!」
 めり、と生々しい異音を響かせ、大砲のようなアッパーカットが胸骨へと突き刺
さった。胸から背までを貫通する衝撃に、フランドールの上体が揺らいで折れる。
「で? 鳩胸というのは、この貧弱な奴がそう?」
 拳を更に抉りこみながら、レミリアが涼やかに囁いた。
 少女は夜魔の王。舐めた真似には、舌を噛み千切ることで返礼とする。
 たとえ、それが血を分けた妹の仕業であろうとも。
 フランドールの唇から紅いものが漏れ、腕が力を失う。
 だがそれでも、勝気な笑みだけは絶やさなかった。
「……いいえ、お姉様。貴女のその、愛すべき平坦ですわ」
 垂れ下がった手が、レミリアの幼い胸元をゆらりと示す。
 その指と指の間で、スペルカードが魔力の輝きを放った。
「――!?」
 背後に寒気を覚えて、レミリアは勘に任せて前方へと飛翔する。
 その背中を、あわやの間合いで巨大な刃が通り過ぎた。
 半歩遅れたら、フランドールの召喚した“時計”に、自慢の翼と胴を輪切りにさ
れていただろう。
「ちっ……!」
 回避動作に混ぜて、レミリアは霊力をナイフに変えて後方へ投射する。
 それも、再び吹き荒れた視えない破壊の嵐によって根こそぎに掻き消された。
 フランドールの感じる恍惚が、破壊の力を魔剣の如くに冴え渡らせる。
「脆い脆い脆いっ! そんなんじゃ、全然ぞくぞくしないわ! もっと楽しませて
よ、お姉様っ!」
 溌剌とした声には、攻撃のダメージなどまるで見えない。
 際限なく膨張する興奮に浮かされ、痛みも忘れて弾幕に興じている。
「さあ――来いっ!」
 声に合わせて、フランドールと一緒に踊っていた奇妙な杖が“混ぜろ”といわん
ばかりに主の手に飛び込む。同時に時計が消滅し、新たなスペルが発動した。
 空に座する満月さえも焦がすような、爆発的な閃光がレミリアの瞼を焦がす。
「……レーヴァテインか!」
 生ける炎が飴のように踊って、フランドールの杖に凝っていく。
 スペルを見極め、レミリアの全身に寒気が走る。だが、怯む暇などない。
「くっ……!」
 即座に反撃のスペルを選択し、最速で構成を開始した。
 ちらちらと視界に覗く炎の眩さが、神経をごっそりと削る。
 ――間に合うか? 否、追い越さなければ、あの炎に焼かれて幕だ。 
 通常、後手に発動したスペルが先手を追い越して完成することは有り得ない。
 しかし、今夜は満月。吸血鬼がその能力の極地に達する時間だ。
 雷鳴の速度と極細を通す精度を併せ持つ今のレミリアなら、その運命さえも或い
は捻じ曲げられるかもしれない。
 スペルの制御においては、レミリアに一日の長がある。後の先の一刹那を奪える
突破口は、その一点のみ。
 否、そもそも一日などとは人間並の尺度。
 化物ならば、一秒を先んじれば大概の片はつけられる。
 掴め、その瞬を。地獄に垂れる一筋の糸を。
「グングニル――!」
 フランドールが炎の魔杖を振るうよりも僅かに速く、レミリアの手が確かな質量
を感覚する。それを握り締め、迷いなく投擲した。
「おぉぉぉぉぉっ……!」
 標的を貫くまで停まることのない、神速の槍が闇に吼えた。
 スペルを展開中のフランドールに、魔杖を振り切る時間はない。
 直撃を確信し、精神集中の疲労(ドレイン)を受け容れかけて。
「――なにっ!?」
 レミリアは、そこで漸くすべてを理解した。
 なにもかもが、遅すぎたのだと。
「既に、起動、している……っ!?」
 レーヴァテインは、フランドールの胸の中で弓のようにその身を撓らせ、グング
ニルを待ち構えていた。
 ――なんのために?
 雷鳴のような轟音が、二つのスペルの衝突を告げる。
 空気が振動し、フランドールを貫こうと神槍が紅い牙を剥く。
 だが、押し切れない。吸血鬼の腕力で限界まで反り返され、恐るべき反作用を蓄
えた魔杖は、推進力を根こそぎに受け止めてしまう。
 溜めに溜め込んだ力が、決壊する。
 その瞬間、真紅の槍は向きを変え、唸りを上げて主へと跳ね返された。
「馬……っ!」
「ヒャハハッ、杭のお返し……!」
 フランドールの狂った嬌声が、真夜中の幻想郷に木霊する。
 レミリアは、動けない。グングニルに込めた威力は、そのまま反動となって術者
に圧し掛かっていた。風を裂いて迫る切っ先に、紅い瞳が見開かれる。
 そして、血のように紅い槍は、己を生んだ主の腹へ、深々と突き刺さった。
「グ……ぁっ!」
 下腹を焼く熱い痛みに、レミリアの身体が折れ曲がる。両手に捕えられても槍の
勢いは衰えず、徐々に腹の中を突き進んでいく。
「クハハハハハハッ!」
 豪奢なドレスを真紅に染めて悶えるレミリアへ、猛烈な速度で迫る影。
 鮮血に頬を上気させたフランドールが、抱きつくようにその懐へ飛び込む。
 無論、狙いは抱擁などではなく――辛辣無比の駄目押しだ。
 振り上げた拳が、微塵の狂いもなく槍の柄に叩きこまれる。
「ぐぅっ!」
 紅い穂先が、レミリアの抵抗を押し切って柔らかい肉を食い破る。
「ブチ抜けっ――!」
 グングニルが血に濡れた指を滑り、一気に歩を進める。
 ぐぶ、と生々しい音を立て、紅い杭がレミリアを貫通する。
「ぁ……っ!」
 大量の鮮血を吐き出し、切ない悲鳴を上げて、レミリアが身体をくの字に折り曲
げた。勝利を確信したフランドールの唇が、裂けるように歪む。
 だが――
「なにっ!?」
 唐突に、異変がフランドールを襲った。
 串刺しのレミリアを眺めようとした瞳が、高速で蠢く黒い壁に閉ざされる。
 瀬戸際で、完全に敵を見失った。
「こ、これはっ……!」
 きぃきぃと甲高く叫ぶ黒塗りの津波は、空を覆いつくすような蝙蝠の大群だった。
 羽音と咆哮の大合唱で、鼓膜が不快に掻き乱される。
 振り払おうにも数が多すぎた。
 腕を振り回している間に、蝙蝠の編隊は肩や耳を擦り、通り過ぎていく。
 瞼を裂こうと迫る牙や爪を、腕を交差してどうにか阻む。
「チィィっ、小賢しいっ……!」
 怒りも顕わに毒づくフランドールの足が、完全に止まった。
 それを待っていたかのように、フランドールの背に群れた蝙蝠の間から、二本の
白い腕がぬらりと伸びる。
「ぅく――ぁっ!?」
 背後から凄まじい力で首を圧迫され、フランドールは目を見開いて振り返った。
 ――そして、見た。
 幾千幾万の蝙蝠が集い、再び象っていく悪魔の姿を。
 緩やかに開かれていくその瞳に、断末魔の血を想わせる真紅が光るのを。
「……っ!」
 見慣れているはずの血の紅。 だが、フランドールはこの時紛れもなく、その色
に震え上がるほどの恐怖を覚えた。
 本能が“死”への明確な警鐘を鳴らす。
「う、う、ッ……!」
 フランドールは寒気に浮かされ、拘束を逃れようと身体を必死に暴れさせる。
 その耳元で、ぞっとするほど冷たい宣誓が聴こえた。
「――スカーレットデビル」
 スペルが発動し、姉妹の周囲の熱が一瞬で奪われる。奪われた熱量はレミリアの
霊力と結合し、あらゆるものを焼き尽くす紅い妖気のマグマに変わった。
 怒涛を纏って吹き上げる猛熱が、フランドールの五体を瞬く間に包み込む。
「ギャアアアアアアアアアアッ!」
 痛みと表現するのも馬鹿馬鹿しい衝撃が、手を、足を、腹を、顔を蝕んでいく。
 髪の毛や服が焦げ、翼がぶすぶすと燻った悲鳴を上げる。
「あ、ああ、ああぁあぁぁぁぁっ!」
 フランドールは狂おしく絶叫しながら手足を振るう。
 だが、きつく爪を立てられ、どうしてもレミリアから逃れられない。
 術者自身を地獄の炎に晒しながらも、レミリアは捕えた手足を逃さなかった。
 同じように五体を溶かされ、体内に灼熱を送り込まれながら、微動だにしない。
 凍てつくような紅い目で、フランドールを貫いている。
 眼を合わせているだけで押し潰されそうな気がして、フランドールは必死に視線
を逃した。有りっ丈の力で腕の拘束を押し返し、僅かに緩みを作り出す。
「ぎぃっ……!」
 その隙を逃さず、フランドールも自らを蝙蝠群に変えて炎を逃れる。
 逃げたかったのは、身を焼かれる痛みの所為ばかりではない。
 背から心臓を透かされるようなあの紅い瞳に、心底肝を冷やされたのだ。
「ヒッ……!」
 蝙蝠の群れを二つに裂いて、突風を引き連れたレミリアの魔爪が空を凪ぐ。
 数匹が襤褸のようにズタズタになって絶命し、幻痛でフランドールを苛んだ。
 風に乗っても、翼を振っても、背中のプレッシャーを振り切れない。
 紅の悪魔は、手を休めることなく執拗に追ってくる。
「しつこいっ……!」
 新たな攻撃を浴びる前に、とうとうフランドールは人の姿へと身を戻した。
 変化を解いて人の形を選んだのは、逃げ切れないと悟ったからだった。
「このっ……」
 反撃しようとした腕を、弾幕が弾く。
 硬直を逃さず、風を斬ったレミリアの蹴りが顎を跳ね上げた。
 仰け反った腹を、足を、頬を、新たな弾幕が殴りつける。
「が、っう……! な、なんなの、これっ……!」
 頭が混乱する。
 反撃が出来ないどころではない。身動き一つさえ許されない。
 降り注ぐレミリアの猛攻が、これまでとは比較にならないほどに鋭いのだ。
 起死回生のスペルを、割り込ませる暇がない。威力を載せた肉弾攻撃が生む僅か
な隙さえ、時間差で織り込まれた弾幕が塞いでしまう。
 今や、フランドールは檻に囚われた獣同然だった。
「……クソ! クソ! クソォォッ!」
 自暴自棄気味に爪で凪ぎ、当てずっぽうに弾幕を放つ。
 だが、あらゆる攻撃が届かない。
 今も目の前にいるはずのレミリアを、どんなに手を伸ばしても捕えられない。
 遠い。眼に見えるこのひとが、遠すぎる。
「きゃっ……!」
 どうにかレミリアを追いかけようとする両目を、熱い光が強かに焼く。
 それが新たなスペルの発動を告げる閃光と知った時には、旋風を纏って飛び込ん
できたレミリアの両足が、フランドールのはらわたへと突き刺さった。
 レミリアの下肢は巨大な剣と化して、悪辣にフランドールの臓腑を抉る。
「ぐ――」
 意識が眩む。大きな手に引き摺られるように、身体が地上へと吸い込まれる。
「う――あっ……!」
 満足な悲鳴も上げられないまま、フランドールは轟音とともに固い大地へ突き刺
さった。衝撃はそれでも死に絶えずに、五体を深い地の底へ縫いつける。
 身体の芯までを痛みに抉られながら、漸くフランドールは理解した。
 繰り出されるすべての攻撃が、明確な殺意を孕んだ一撃だった。
 レミリアは、間違いなく自分を殺そうとしている。
 その現実を突きつけられ、ぞっと身体が固まった。
「嘘でしょ……おねえ、さま」
 引き攣った笑みを浮かべながら、自由の利かない身体に震えが走る。
 それだけはない、と、勝手に思い込んでいたのかもしれない。
 取り返しのつかない一線だけは、いつまでも守っていられるのだと。
 それらが、すべて願望に過ぎないのだとしたら?
 なんだか、急に辺りが寒くなった。痛みよりも、刺すような凍えが止まらない。
「――え?」
 霞んだ眼を空に向けて、凍りつく。
 五体を地面に減り込ませたフランドールへ向けて、
 まだ起き上がってもいない妹へ向けて、
 レミリアは容赦なく神槍を打ち下ろしたのだ。
「ひっ……!」
 必殺の一撃が、音速でフランドールの喉元へと迫る。
 抑えきれない恐怖に駆られ、フランドールは祈るようにスペルを唱えた。
「波紋よ、防げっ……!」
 主の声に応え、幾層にも重なって広がる弾幕の波紋が顕現する。
 天から降り注いだ神槍が、甲高い雄叫びとともに分厚い弾の壁に食らいつく。
 火花を散らす二つのスペルは、一見互角の均衡を保っているように見えた。
 だが――
「や……やだっ……!」
 グングニルは、その力を失ってはいない。
 時折猛るように刀身を震わせて、じわじわと波紋を削り進んでいた。
 毒牙を光らせ、緩慢に迫る毒蛇のように。
「あぁ……」
 ――スペルが、怖い。お姉様が、怖い。
 生まれて初めての衝撃を二つ同時に浴びせられ、フランドールの内側に亀裂が走
った。泣き出したいくらいの心許なさに、喉が震える。
 敷き詰められた波紋が、主の変化を察知して歪に乱れ始める。
 最早、スペルは少女を守る盾の用を成していなかった。
 皹だらけの薄壁が、二撃目の投擲を受けて、フランドールの前で粉々に砕け散っ
た。血の色をした刃が、脇腹へ根元まで減り込む。
「……っ、あ、アあぁぁぁぁぁあァ……!」
 折れた心は、痛みに耐えることさえ出来なかった。
 髪を振り乱し、大粒の涙をこぼして、フランドールが苦痛に絶叫する。
 だが、それは戦いの終わりを意味するものではない。レミリアはスペルを途切れ
させることなく、フランドールの両肩に更に二本の槍を穿った。
「――――」
 それで遂に幕が下りた。フランドールは全身の感覚が失せるのを感じながら、手
足を痙攣させてクレーターの底に横たわった。
 寝転んだ地面が血に染まっていく。身体のあちこちに、大穴が空いている。
 だからだろうか、泣きたくなるくらいに寒かった。
 ――強い。お姉様って、こんなに、強かったの……?
 閉じかけた瞳で、フランドールは夜空に泰然と佇むレミリアの姿を見上げた。
 あの紅い瞳が、退屈そうに見下ろしている。
「……あれぇ……?」
 違う。退屈じゃない。あの目は、満たされなくて拗ねている時の目だ。
 朧にそう感じた時、久方ぶりにレミリアがその唇を動かした。
「意気地がないわね。おまえの鬱屈はこんなもの? もっと叫んでごらん。
 涙を漏らして、喉を枯らして、腹の底から抉り出しなさい。そのために、土の底
から這い出したんじゃないのかい?」
 やっぱり、怒っている。
 ぎらぎらと瞳に力を滾らせたまま、やり場のない感情を持て余している。
 これだけメチャクチャにしておいて、まだ足りないのだろうか。
 それは多分、本気だからだ。
 どこか戯れて甘えていた自分と違って、常に全力を叩きつけていた。
 だからこそ、響かない手応えに憤っているのだろう。
「ああ……」
 フランドールが小さく呻いて、かすれた喉に夜気を吸い込む。
 そうだ。満月を感じて、月を見たくなって堪らずに飛び出した。
でも、瞼の下で思い浮かべた月には、一緒にこのひとが映っていたんだ。
 こんなに月の似合う、凛々しい女性をフランドールは他に知らない。
 だから、月の下で会えたら、言葉を交わせたら、きっと素敵だろうと思った。
 本当に会いたかったのは、話をしたかったのは月じゃない。
 ――お姉様だ。
「言いたいことがあるんだろう? とっくり聞いてやるよ。さあ、這い蹲ってない
でかかっておいで。今夜は姉妹水入らずよ」
 男勝りの気風で、満ちた月よりも眩しく笑って見せる。なんて凛々しい。
 鞭打たれる声に、本当に這っているのが恥ずかしくなってくる。
 フランドールの死にかけの身体に、なにかが新たに灯った。
「爪も牙も、私と同じ紅い眼も。飾りなんかじゃないんだろう? しょぼくれてる
なよ。この面に――そいつを立ててみろっ!」
 言うだけ言って、レミリアは三度(みたび)の槍を放った。
 手足もろくに動かず、五感も塞がりかけたフランドールに、全力の槍を振るった。
 それは、認めているということ。
 どんなに傷ついても、手を抜いたり見下したりしない。肉の一片、魂の一欠まで
も大切に真剣に叩き潰す。それは残酷じゃなく、とても嬉しい関係だ。
「お……ねえ、さまっ……」
 ――ああ、こんなにも私を見ていてくれる人に、私はまだなにも話していない。
「わたし――」
 ――気持ちに応えないまま、ぶつけないまま、目を閉じたくない!
「――フラン!」
 レミリアの霊力を浴びて、渾身の神槍がフランドールへと降り注ぐ。
 空が落ちてくる。このまま目を閉じて押し潰されたら、楽になれるだろう。
 ――だが、そんなラストは御免だ。
「そんなもの――」
 伏せられかけていた瞳が、レミリアにも負けない紅い炎を宿す。
 グングニルに貫かれ、ゴムのように垂れ下がっていた右腕が、勝手に空を掴む。
 まだ、終幕はお呼びじゃない。そんなストーリーなんか――
「壊してやるっ!」
 血に濡れた腕が、暗闇を裂いて舞い降りたグングニルを受け止める。
 硝子を砕くような甲高いソプラノが空に鳴き、丑三刻の空が点滅する。
 そして――495年分の波紋さえも食い破った槍が、道程半ばに動きを止めた。
「っ……く、うぅ、あぁっ……!」
 傷口から紅い飛沫を吹き上げながら、フランドールは無意識に咆哮した。
 ぼろぼろの右腕から、天雷のように迫るグングニルへ破壊の力が注がれる。
 フランドールの命を穿とうとしていた神槍が、その先端から削れるようにして消
滅していく。少女の震える腕は、まだ死に屈してはいない。
「ああっ……!」
 右手で徐々に槍を砕きながら、フランドールの左手から、一粒だけの魔弾が飛び
出した。流れ星が、音速で空を上っていく。
「む……っ!?」
 魔弾はレミリアの頬へと突き刺さり、月と並んでいた身体をぐらりと傾ける。
 打たれた場所から熱く弾ける、芯の篭った弾だった。
 へなちょこなんかじゃない。フランドールの弾幕は、まだ死んでいない。
「……そうよ。そうでなくっちゃ、貴女は」
 頬を腫らして、大魔術の連打による疲労を色濃く浮かべながら、それでもレミリ
アの笑顔は美しさを損なわない。むしろ、一際に輝いている。
 ――そうだ。たかだか数本の槍を身体にブチ込まれた程度で尻尾を垂れるなんて、
まるで似合わない。
 可愛いフランドール、おまえは。もっと、もっと、もっと!
 世界が壊れるくらいに、形振りも体面も構わずに暴れていいんだ。
 それでなにが起きたとしても、責任なんてすべて私が取ってやるから。
「お姉様……!」
 グングニルの威力を壊し尽くしたフランドールが、ぎらぎらした瞳で天のレミリ
アを振り仰ぐ。双眸に輝く紅は、生き延びるのに必死で、抗うことに必死で。
 心の隙間を冒そうとする満月の誘惑なんて、何処かに消し飛んでいた。
 その目、吸血鬼だけが宿す紅色の目。
 この世に一つだけの、自分と同じ光を持つ瞳。
 その輝きを、レミリア・スカーレットは見たかった。
 ――私を呼んだな。呼んだなら、何処にだって飛んでいってやる。
 幼女のような無邪気な笑顔で、レミリアは風を切って大地へと舞い降りる。
 そうして両手を広げ、相対する者を受け容れた。
「来いっ!」
 眼に見える場所に、手の届く場所に、レミリアがいる。
 今度こそは、ちゃんと目を見て、身体を合わせて、沢山の言葉を交わそう。
 強く誓って、フランドールは走り出した。
「うわぁぁぁぁぁぁっ……!」
 霊力は欠乏寸前、身体にはあちこち風穴が開いて、悲鳴の代わりに激痛で訴える。
 それでも身体は動く。空っぽになってはいない。諦めるにはまだ早すぎる。
 だから、軋む右腕を限界まで振り絞って、踏み込みとともにレミリアの顔面へ固
めた拳を打ち込んだ。
 体重を乗せた一撃がレミリアに触れた瞬間――炸裂音とともに、細い首が異常な
角度まで反り曲がった。
「ご、っ……!」
 口から濃厚な血を吐き出しながら、異様な衝撃にレミリアが眼を見開く。
 頭の奥底まで染み渡るこれは――霊力の衝撃だ。
 そして、瞬時にレミリアは理解した。
 フランドールがこの土壇場で選択した、思いもよらない弾幕の使い道を。
 通常、弾幕は放出した霊力を弾の形に象り、それをスペルというパターンに載せ
て相手に発射する。
 だが、フランドールは弾を作らなかった。霊力を体内で練り上げ、手足に集束し
て、インパクトと同時に爆発させる。これによって、物理攻撃に弾幕の直撃にも匹
敵する破壊力を搭載した。
「……考えたな!」
 これならば、最小限の霊力で最大の攻撃力を作り出すことができる。
 しかし、それはレミリアとて同じこと。
 反らされた首ごと上体をバネにして、竜巻のような平手を頬に返した。
 乾いた高音が鳴り、頬を張られたフランドールの首が激しく横に捻った。
「あぅっ……!」
 熱い痛みが頭の芯まで突き抜け、口内に広がった鉄の味に、フランドールの目尻
に涙の粒が浮かぶ。
「ひ……ぐっ、うぁぁぁぁっ――!」
 心の堰が切れそうになるのを堪えて、フランドールは更に拳を振るった。
 新たな爆発音が生まれ、仰け反ったレミリアの顔から血飛沫が跳ねる。
「ぐう……っ!」
 攻撃したフランドールの手も、ぐらつくレミリアの手も、石榴のように内から砕
けて、真っ赤な血に塗れている。傷口からは、細身の白い骨までが覗いていた。
 霊撃を直接攻撃に載せれば、確実に命中させることが可能になる。だが同時に、
その破壊力は自分自身にも十全で跳ね返る。
「グ……ふ、くぁぁっ……!」
 体勢を立て直すのももどかしく、レミリアが大胆に振り上げた脚でフランドール
の首を刈る。着弾とともに爆裂する、詠唱不要のスカーレットシュート。
 無数の弾幕を撃ち交わすよりも確実に、そして加速度的に、二人の吸血鬼が命を
梳っていく。
 致命の打撃を互いに繰り返し、身体は歪み、鮮血は湯水のように地へ染み込む。
 それでも、二人はただの一打すら避けようとはしない。
 敢えて直撃を受けながら、渾身の直撃で返礼する。
 ――勿体無くて、避けられないのだ。
「クッ……クク、クククッ」
「あはは、ははは、はははははは!」
 傷つけば傷つくほどに悪魔の翼は猛るように震え、少女達の笑顔は凄絶なまでの
美しさを帯びる。刻一刻と命を削り合いながら、吸血鬼の姉妹は深い歓喜の中に包
まれている。
 運命によって背中合わせの関係を余儀なくされた姉と妹。
 姉は自ら閉ざした壁の向こうに妹を想い、
 妹は闇の中で姉の姿を浮かべ、夢を見た。
 振り返ることはできないまま、二人は手探りでずっと互いを求めていた。
 声を弾ませ、話をしたかった。
 手で触れて、そこに確かにあるのだと感じたかった。
 それが今、やっと叶った。だから、痛くたって停まらない。
「はぁ……っ!」
 フランドールが低く唸って脇腹に拳を突き刺せば、
「ぐ……あっ!」
 肋骨を軋ませながら、レミリアの手刀が鎌のようにフランドールの胸を打った。
 打撃が打撃を呼び、夜明け前の空に吹き上げる鮮血から、霊力の残り香が漂う。
 それを霞のように吸いながら、声にならないものを手足に乗せて訴え続ける。
 脳天から走った痺れが足を縺れさせても、歯を食い縛って耐えた。
 見ていたいから。濃密な血のカーテンの向こうに輝く、褪せない紅色を。
「――、っ」
 暴風雨のような打撃戦の中、レミリアの紅い瞳が幽かな曇りを帯びた。
 溜まりに溜まった消耗のツケ、満月の齎す魔力の恩恵を受けても追いつかないほ
どのスペルの連打が、レミリアの意識を僅かに断絶させる。
「お姉様ぁっ……!」
 硬直とともに前のめりになった胸を見逃さず、フランドールの突き出した鉄拳が
打ち抜いた。紅い翼がびくん、と痙攣して、レミリアの矮躯が吹き飛ぶ。
「ぐ、ふ――ァッ……!」
 半ば気絶していた肉体が、鮮烈過ぎる痛みで覚醒する。
 胸に風穴を開けられた気分だ。殺す気で殴ったんじゃないか。
 ――それはそれで、上等。
 吐き出した大量の血を、レミリアは濡れた舌先で紅のように唇へ塗りたくった。
 萎えた翼に喝を入れ、主の意に逆らって後ろへ吹き飛ぶ身体を食い止める。
 ――後退? 冗談じゃない。この場面で、脚が後ろを向いてどうする。
 受け止めなくてどうする。せっかく、あいつがその気になってるのに。
「く……」
 地面を踏みしめ、ぼやけた視界に舌打ちを一つ。
 瞼をそそのかす眩暈を振り切って、野性的に髪を掻き揚げる。
「疲労(おまえ)は黙っていろ。私は今、一番大事な意地を張ってる!」
 誰より厳しく己に言い放ち、心を洗う。
 そうして自然に笑みを浮かべたら、もう瞼は緩まない。
 このまま駆け抜ける。目の前に迫った夜明けよりも速く、結末へ。
「さあ――」
 満面の月を背に、レミリアが夜空へと舞い上がる。
 その手に霊力を纏った符が煌くのを、フランドールは見逃さない。
「スペルカード!? まだ、そんな力が……」
 フランドールの驚愕も無理からぬこと、レミリアは既に限界を遥かに超えてスペ
ルを連発している。レミリア本人でさえ、これ以上はないと思っていた。
 だが、ズタズタの手足で地に根を張っている妹の姿を見れば、“もう駄目だ”な
んて言葉は消え失せる。
 ――私は、誰だ? あいつの、フランドールの姉だろう?
 そんなあいつの前で、退けない一線というのがあるじゃないか。
「スカーレットデスティニー……!」
 レミリアは胸に手を当て、身体に残ったなけなしの魔力をカードに注ぎ込む。
 鍵を差し込んで、運命という名の炎の渦を身に纏う。
 一足速い夜明けのように、紅く燃え盛る十字架が闇を切り裂いて現れた。
 濁流となって吹き上げる炎が、高熱と閃光で満身創痍のフランドールを苛む。
「う……くぅっ」
 限界を超えているのは、フランドールも同じだ。
 スペルの干渉が引き起こす歪みから来る突風にすら、吹き飛ばされそうになる。
 それでも、今だけは情けない姿なんて見せたくない。
 だから、どんな嵐が来たって、この脚を張り続ける。
 視界を遮る紅蓮の炎越しに、フランドールは姉の姿を必死に求めた。
 見上げた視線の先で――脅威が、もう一弾膨れ上がった。
「――&、デーモンロードクレイドル!」
 爆炎に包まれながら、レミリアの身体が空中で激しく回転を始める。
 空に生まれた紅い竜巻は、激しく胎動しながら地上のフランドールへと狙いを定
めた。紅い眼と眼が出会った瞬間、フランドールに戦慄が走る。
「さあ、運命が加速していくよ。おまえはどうする? どうするんだい?」
 愉しむようなレミリアの声に、背筋がぞっと凍てつく。
 同時に、身体の奥から湧き上がるものがある。
「――わかってるわ、お姉様」
 今、こうしている間にも世界は流転し、運命は駆け足で歩いていく。
 ぼさっとするな。出遅れるな。そう言ってくれている。
 標的を確実に抹殺し、自分さえも死の危険に投じる究極の二重弾幕。
 極めつけの遣り方で試されて、必ず乗り越えてくると信頼されて。
 これで応えないなら、この手は、この足は。
 フランドール・スカーレットは、何のために今、ここにあるのかわからない。
 手を伸ばす。迫り来る最後の一撃に、反撃の狙いを定める。
 行け、残った力の限りに。あのひとの妹であるという誇りを胸に。
「この手に砕けないものはない。たかが運命、壊して潰して塗り替えてやる!」
「ならば、挑みなさい!」
 高らかに吼え、レミリアが紅の魔弾と化して地上に吸い込まれていく。
 フランドールは傷ついた右腕を左腕で支え、彗星のように空気を灼いて襲い来る
レミリアに身構えた。
 目は閉じないまま、深呼吸を、ひとつ。
「ふぅ……っ!」
 頭を真っ白にして、両足で思いっきり大地を蹴った。
 自分も同じ紅い彗星になって、伸ばした手でチカラの限りに跳ね返す。
 “運命なんか追い越していけ”と、言ってくれたから。
「「貫け――!」」
 フランドールが無意識に纏った霊気も、紅い十字の形を描いた。
 二つの十字架が、夜空で剣のように噛み合い、互いに歪みながら拮抗する。
 魂まで溶かすような紅い熱の中で、姉妹は額を突き合わせ、真っ直ぐに互いを瞳
に映した。
 ――負けるなよ。
 ――負けないよ。
 それだけ眼と眼で語らって、
 二つの紅球は、同時に大爆発を起こした。
 地上に咲いた燃えるような光の花に、この時ばかりは満月さえも褪せた。
 ――血色の戦いの終結を継げるに相応しい花だった。


 4/

 激しい光が収まった後、危うくふらつきながらも両足で地に立ったのはレミリア
だった。フランドールは四肢を脱力させ、奇しくもレミリアの胸に抱かれるように
力尽きている。
 翼の宝石も、次々に光を失って項垂れた。霊力が完全に底をついた証だ。
 疲労に流されるまま眠りに落ちかけたフランドールの視界に、いきなりレミリア
がアップで迫ってくる。
「うわぁ!」
「どう、すっきりした?」
「ん? あー、あ、うん、なんか、ムラムラは消えた……」
 半歩先にぱらいそが見えるような酷い状態だが、頭の中だけは不思議なくらいに
澄んでいる。
 ――いや、不思議なことはないか。
 あんなに暴れて、あんなに話して、今はこうして抱いてもらっているんだから。
「そう。じゃあ、帰って寝ましょうか」
「えっ? あ、あの、お姉様」
「なに?」
「あの……帰って、いいの?」
 恐る恐る訪ねるフランドールに、レミリアは心底呆れたような表情を返す。
「自分の家に変えるのに、なんの理由が要るのかしら?」
「……だって、聞き分けのない妹は嫌いだって……言ったわ」
 本当は、このまま一緒に帰ってしまいたい。
 でも、あれだけ啖呵を切って、服も肌もぼろぼろにして、今更お咎め無しで許し
てもらうのも出来すぎている気がした。
 一番悪い自分が、一番良い目を見るなんて不条理じゃないか。
 平手でも小言でも、気の済むまでするくらいが筋だろう。
「ええ、嫌いね。でも、頭が冷えたなら、今は言うことを聞けるでしょう?」
「あ――は、はいっ! でも、本当に怒ってない……?」
 先程までの喧騒が嘘のようにしおらしくなるフランドール。
 言葉を待つように見開かれたその瞳――は無視して、その上のおでこに。
 レミリアは、思いっきり自分の額をごちんと食らわせた。
「いたぁっ!」
「いつまでも済んだことでゴネない。姉っていうのはね、妹の癇癪くらいまるごと
受け止められなきゃ、務まらないの」
 自分もやっぱり痛かったのだろう、赤くなった額を擦りながら、レミリアはつつ
ましい胸を張って逞しく笑った。
「ま、正直感心してますわよ。私をこんなにしてくれた、腕白な我が妹にね」
「ぁっ……!」
 ――許す許さないの話じゃない。
 このひとは最初から全部わかっていて、最後まで全部受け止めると決めてたんだ。
 私の身勝手な体当たりを、両手を広げて、体を張って受け容れてくれたんだ。
 ――敵わないや。
「お姉様……ありがとう。だい、す、きっ……」
 包まれていると知って、一人じゃないと知って、フランドールの中で最後の糸が
途切れた。そのまま気を失って、ふらつくまま背中から倒れこむ。
「っと……!」
 レミリアは慌てて身を乗り出し、くずおれたフランドールを抱き止める。
 ふと、妹の姿を見たその顔がなんともいえず複雑に歪む。
「……薄気味悪い気絶の仕方するんじゃないの。死体を抱いてる気分だわ」
 両手両足を投げ出して、笑い顔のまま失神したフランドールは、なるほど眠り姫
には程遠い。どっちかといえば変死体だった。
 苦笑しながらも、レミリアの腕は弛んだ身体をいとおしむように包み込む。
 漸く静けさを取り戻した夜の中に、深い溜息が漏れた。
「運命は、変わったのかしらね。どうやら、相討ちみたい――」
 フランドールを抱いたまま、レミリアの背が大きく後ろへ傾いた。
 見えない手で地面に引き寄せられる身体を、温もりを持った二つの手が現れて支
えた。
 ――いいタイミング。実に瀟洒だ。
「やあ、咲夜。出迎えご苦労ね」
「ご苦労様は私の台詞ですわ。見てるこっちがはらはらしました」
「相変わらず態度の悪い従者だ……おっ?」
 レミリアは咲夜に支えられたまま身体を起こそうとしたが、意思に反して肉体が
まるで動かない。むしろ、肉体が意思を受けつけていない。
 機能が、ほとんど停止しかけている。
 つまりは、それだけしてやられたということだ。
「はぁ……きつかった。なんとか面目を保てたわ」
「信じてましたよ、私は」
「嘘つけ。なんだあの見送り前の顔は」
「あー! やっぱり見てたんですかー!」
「見てたわよ。咲夜が口先だけじゃなく、どれくらい私を信頼してるのか、確かめ
るのにね。ええ、よくわかったわ」
「ぱっと見で自己完結しないでくださいって! 私はですね、お嬢様がすたこら飛
んでいった後に、ちゃーんと信じて見上げてたんですから!」
「感動のシーンだけど、その口で説明されると褪せるわねぇ」
 間近に顔を寄せながら、レミリアはにやけ顔で、咲夜は必死の形相で弾丸のよう
に言葉を交わす。死線を越えても、こんなところでまで弾幕ごっこだ。
 いつものように咲夜をからかい続けたい気もするが、眠気がきつくなってきた。
「流石に堪えたわ……そろそろ、落ちるとするよ」
「はい。今夜は本当に、お疲れ様でした。後は任せて、お休みください」
「ええ、そうさせてもらう。おやすみなさい、咲夜」
 安心しきって、レミリアは静かに眼を伏せる。
 程なく、咲夜の胸の中で二つの寝息が寄り添って生まれた。


 5/

 僅かに寂光の差す紅魔館の一室は、館を滑る幼い主達の寝室。
 そこに寄り添って眠る二人の少女を、二つの視線が見つめている。
 咲夜と、こっそり成り行きを見守っていた美鈴だ。
「ああ……お嬢様と妹様が一緒に寝てらっしゃるなんて、何百年ぶりのことかな。
 咲夜さん、私、感激です」
「これで二人ともボロクソでなければなお感激なんだけど……まあ、あれはあれで
いいのかしらね。しかし、妖怪の愛情って激しいわねぇ」
「いやー、今夜のは、妖怪から言わせてもらっても相当激しい部類に入ると思いま
すよ。お嬢様の背水の陣なんて、初めて見ました」
「結果があれなら、逃げ道を断った甲斐もあったんじゃないかしら?」
 咲夜が指差す先に、小さな手と手が互いをぎゅっと絡ませている。
 背中合わせだった二つの手は、やっと探し物を見つけられたようだ。
「妖怪ってものに、ちょっと憧れちゃったわ。人の身を捨てる気はないけどね」
「残念っ。でも、それでこそ咲夜さんです」
「誉め言葉と受け取っておくわね。さて――それじゃ行きますか、人間狩りに」
 音を立てないようにそっと扉を閉ざして、咲夜は美鈴に視線で促した。
「はい。お嬢様と妹様に、新鮮な鮮血(あさごはん)を取りに行きましょう。でも、
来るでしょうね、紅白とか白黒のお邪魔虫が」
「押し退けていくわよ」
「そうですね、今日は誰が来たって通しません。私が盾になりますから」
 咲夜はスカートの内側からナイフを光らせ、美鈴は力こぶを作って猛る。
 一秒だってじっとしていられない。
 新鮮な血を集めたら、夜明けまでに総動員で朝食の準備。
 今日は紅魔館フルメンバーで、最高の朝を楽しむのだから。
「その意気よ。頼りにしてるわ、門番さん」
「お任せください。じゃ、参りましょうか、給仕長」
 力強い足取りで、二人は薄まり始めた闇へと飛び込んでいった。
 もうすぐ夜が明けて、新しい朝が始まる。
 昨日までとは少し違う新しい運命の中で、少女達はどんな花を咲かせるのか。
 それは誰にもわからないけれど、きっと素敵な紅い花だろう――。

                                【FIN】
御拝読ありがとう御座いました。
当作品は自分が05年の冬コミにて初めて製作した無料配布本に掲載したものです。
先日行われた紅月ノ宴にてありがたくも在庫が消滅いたしましたので、この機に
投稿という形でこの場を借りて公開させていただきました。
相変わらずな内容ですが、古くは最萌2の頃から一度やってみたかった構図なのでした。
吸血鬼で姉妹喧嘩! 血が燃えるぜ! 吸血鬼だけに!
やっぱり血縁はいいです。KILLSWITCH ENGAGEも良いです。
たまには違う毛色のお話も書いてみたいような気もしますが、
結局のところ“好き”で突っ走ってしまう傾向です。
こんな自分で良かったら、また覗いてやってくださいませ。
白主星
[email protected]
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コメント



0.1070簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
これはいいガチバトルですね
11.80名前が無い程度の能力削除
まさに拳で語り合う
15.70変身D削除
弾幕ごっこ以上の伸るか反るかの真剣勝負、お見事でした(礼
26.無評価どどど削除
そろそろ姉妹喧嘩に飽きてきた奴一名・・・・・・