Coolier - 新生・東方創想話

よみこぁ

2006/09/10 17:37:39
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 毎度のごとく、紅魔館にて。


「うわーん、パチュリー様ー、ごめんなさいー」
 と、恥も外聞もなく泣きじゃくる紅魔館着やせ属性ナンバー1の彼女の言葉に、ここ、ヴワル図書館の主は、はぁ、とため息をついた。
「これで、図書館破りの回数、三桁行ったかしら」
「……正確には百十二回目ですぅ……」
「……あなた、数えてたの?」
 あきれながらも、やはりため息を消すことが出来ないのは、いつもいつも一番の被害を受ける魔女。
「……全く。魔理沙の窃盗癖はどうにかならないものかしら」
 そうつぶやき、ごっそりと本が抜け落ちた本棚の一角を見つめるパチュリー・ノーレッジ(百歳+謎ヶ月)だった。

 
 ここ、ヴワル図書館を土足で踏み荒らすものを、パチュリーは許しはしない。なんと言っても、彼女は知識の探求者だ。日がな一日、本と共に戯れるのを至上の楽しみとする彼女にとって、本は何よりも大切なもの。昔風に言うのなら、『本は友達』といったところだろう。
 そんな彼女であるからして、ほんの管理には人一倍気を遣っている。しかし、そんな彼女の苦労を無にするものが、昨今になって現れているのだ。
 その人物の名前は、霧雨魔理沙。
 彼女という人間を端的に評価するのなら、非常な努力家である。古の知識を紐解き、探求し、究めようとする、言うなればパチュリーの同業者に近いものがある。そう言う姿勢には非常に感心することこの上ないのだが、問題はその次だ。彼女、何というか……盗癖があるのである。と言っても、こっそりと本を盗んでいくのではない。まだそっちの方が、なんぼかかわいげがある。彼女は、堂々と紅魔館の入り口を実力突破し、図書館に押し入り、何としても本を盗み出されまいと奮闘するこちらをあざ笑うように大切な本達を強奪していくのである。その時、決まって彼女が言うのは「盗むわけじゃない。借りるだけだ。私が死ぬまでな」という、半ば慣例化した決め台詞。
 してみると、彼女には本を返す意思があるのだ。それはそれで結構なことだが、問題はその期間。
「人間なんてものは、せいぜい長生きしても七~八十年。私たちにとって見れば、確かに一瞬にも近い刹那の時間だけどね」
 はぁ、とパチュリーはため息。
 しかし、だからといってそんな長い期間、本を持ち出されてはかなわない。こちらも、彼女が持って行った本を必要とする時があるし、それでなくともここに置いてある本は保存状態に気を遣っているものばかり。あんな、ゴミためとサウナが同居したようなところに置いておいたら、間違いなく一発でダメになる。手元に戻ってきた時にはぼろぼろのゴミ同然という状態では意味がないのだ。
 司書として雇っている――その経緯は、今のところ、誰にも明かしてないのだが――、現在、涙くんさようならまでまだまだ時間のかかりそうな赤い髪の少女、小悪魔も必死に司書としての役目をこなしているというのに、その苦労を無にするような暴挙を働く輩にはほとほと困り果てている。
「あの癖さえなければ、友人として迎え入れてあげても構わないのに」
 と、言っているのだが、当人はその言葉に全く耳を貸さない。半分以上、この紅魔館の分厚い警備を破ることを楽しみにしているような節すらある。困ったものだわ、と最近ではついてもついても嗄れなくなってしまったため息をまた一つ。
「悔しいです……私、悔しいです、パチュリー様!」
「そうね、私もよ。
 こうなったら、次回から、図書館の被害を多少顧みない程度の魔法でお帰り願うしかないかもね」
「それはダメです!」
 半ば以上、本気で言ったパチュリーの言葉に、全力で小悪魔が否定を述べる。
「そんな……ここにある本は、いわば、私たちの子供にも等しいんですよ!? 図書館という空気を満たす本の気配、紙の香り、インクの匂い! その何もかもがこの図書館には必要不可欠なんです!」
「ええ、それはその通り。だけど、これまでと同じ方法では彼女を止められないわ」
「そういう妥協論はいりません!」
 涙を拭いて、小悪魔が立ち上がった。目の中に炎が燃えている。
「誰よりも本を愛するものとして、魔理沙さんの暴挙を、これ以上野放しにしてはおけません!」
「毎度、同じこと言ってるわね。あなた。まぁ、その意見には私も極めて賛成だけれど」
「……私、頑張ります」
「ええ、頑張って。私も……」
「これまでやってきたことがダメなら、私も、奥義を尽くすのみです!」
「奥義?」
 元々、細い目を――本の読み過ぎで、多少、視力が落ちているのだろう。現に、普段のパチュリーはメガネっ娘属性である――さらに細くして、訝しげに訊ねる彼女。はい、と小悪魔は大きくうなずいた。
「普通の手段でダメなら、この私が、魔界で何と呼ばれていたか、それをお教えするのみです!」
「……なんて呼ばれていたの? あなた」
「それは、後ほどお教えいたします。
 つきましては、パチュリー様。お手伝いをお願いしたく思います」
「え、ええ……それは構わないけれど……」
「……ありがとうございます。封印していた我が奥義、今、それを見せる時が来ました……そうですね、先生……」
 先生って誰だ、と内心でツッコミを入れて。
 あさっての方向向いて、何やら覚悟を決めている小悪魔に、わずか以上の不安を感じるパチュリーだった。


 そして、それから数日後。
「おーっす、中国ー」
 そんな言葉をぬけぬけと口にして、空から舞い降りてくるのは厚顔無恥と傍若無人の塊、黒白魔法使いの窃盗常習犯だった。
「中国じゃなくて美鈴です」
 憮然とした態度で、それに言い返す。
 紅魔館の門を守って、はてどれくらいの時が過ぎただろうな、とこの頃、首をかしげることも多くなった彼女の言葉に、「んなもん、どっちだって一緒じゃないか」と容赦ないセリフをぶちまけて、魔理沙は箒から飛び降りる。
「なぁ、どうしたんだ?」
「何がですか?」
「いやな、今日はここに来るまで、お前さん方の歓迎を何一つ受けなかったからさ」
 魔理沙の来襲は、紅魔館にとっては特Aクラスの災害である。いきなり現れ、館をめちゃくちゃにしてあっという間に去っていくその様は、どこぞの大怪獣と一緒だ。だから、紅魔館の守りを預かるもの達は、皆、何としても彼女にお帰り願おうと全力で応戦するのだが、その奮戦かなわず、ということの方が圧倒的に多いのである。
 さて、その警備を担当しているのが、ここに立つ紅美鈴。普段なら、ここで、挨拶代わりに蹴りの一発でも飛んでくるところなのだが、
「知りませんよ。そんなの」
「は?」
 愛想のない返事をされるだけだった。
「何だかよくわかりませんけど、小悪魔さんが、今回、魔理沙さんが来たら素直にお通ししてください、って。私たちは断ったんですけどね。パチュリー様の後押しがあるのなら従わずにはいられない、というところです」
「小悪魔が、ねぇ」
 何だろうか、と首をかしげる。
 だが、考えていたのも一瞬のことだ。ま、いいか、という結論にたどり着いた彼女は、再び箒へと飛び乗ってふわりと浮かび上がる。
「それならいつも通り、いつもの仕事をやらせてもらうだけだぜ」
「窃盗が仕事だなんて、よっぽど、後ろ暗い人生送ってるんですね」
「はっはっは。そいつは褒め言葉だぜ」
 こっちの皮肉など、全く通用しなかった。どれだけ面の皮が厚いんだ、と半ば以上、蔑みの視線を向ける美鈴を無視して、魔理沙は飛んでいく。
 大きな赤い屋敷の門をくぐり、いつものルートを通って図書館へ。
「今日は何を借りるかなー」
 鼻歌交じりに言いながら、彼女は図書館の扉をくぐる。途端、しんと静まりかえった薄暗い静寂が彼女を迎え入れてくれた。
「おーい、小悪魔ー、パチュリー。来てやったぞー。
 感謝の証として、茶の一杯でも用意してくれー」
 どこまでも自分勝手な発言をしながら、彼女はふわふわと飛んでいく。その動きは大胆に見えて、実はかなり慎重だ。あちこちに油断なく視線を配り、気配を探り、何かがあれば即座に反応できる体勢を整えて進む彼女には一分の隙もない。
 だが、そんな彼女の警戒を嘲笑うかのように、図書館の中は静かだった。
「おーい、どうなってんだー? 誰か……」
 そこで、彼女の言葉がとぎれる。
 本棚と本棚の間の薄暗い空間から、一条の閃光が飛来した。彼女はそれを、わずかに顔を動かす程度で回避する。
「……ふん。真っ向勝負で勝てないから闇討ち不意打ちに切り替えました、ってか? そう言う判断は嫌いじゃないぜ。
 これからどうしてくれるんだ? え、小悪魔!」
 言葉の後。
 ふわり、と空に浮かび上がってくる影一つ。
「へっへ、あんな攻撃で、この霧雨魔理沙さんを落とそうなんて百年早いぜ?」
「そうでしょうね。あれで落ちてくれるなら、こちらも楽だった、程度ですから」
「けっ、言ってくれるじゃないか。
 それで? 今度はどんな歓迎をしてくれるってんだ?」
「魔理沙さん。悪いことは言いません。これまで盗んでいった本の数々、今日を限りに耳をそろえて返してください」
 おっと、と彼女はわずかにのけぞった。
 普段の小悪魔らしからぬ雰囲気を、目の前の相手は漂わせている。得体の知れない何かを感じ、魔理沙の警戒の気配が強くなる。
「盗んだわけじゃない。借りただけだ」
「返す意思がないのなら、それは窃盗と何にも変わりません」
「返すって言ってるだろ。私が死んだ後に」
「そこまでこちらは待てません」
「何でだよ。お前達、悪魔やら魔女やらにとっちゃ、人間の一生なんてろうそくと一緒じゃないか。ろうそくが燃え尽きる程度の時間を待つことも出来ないのか?」
「私たちは待つことは出来ます。ですが、本は待てません。
 ほんの一年、ほんの一ヶ月でも環境が変わればダメになる本だってたくさんあるんです。あの子達を慈しむのなら、それ相応の対処が必要。魔理沙さん、それくらい、あなただってわかるでしょう?」
「わかるね。だから、私なりに、きちんと気を遣って保管している」
「信じられません。この目で見ましたしね」
「で? どうするんだ?」
「お返しください。これは最後通告です」
 最後通告ときたもんだ。
 小悪魔の一言に苦笑を浮かべ、彼女は肩をすくめる。目深にかぶった帽子のつばを少し上げ、そこから覗く視線を相手に向ける。
「いやだと言ったら?」
「実力行使です」
「面白いじゃないか。いっつもいっつも、私に負けてぴーぴー泣いてるお前が、さて、一体どんな実力を見せてくれるのかね?」
「本を返してはくれないんですね?」
「ああ」
「……わかりました。
 魔理沙さん、残念です。私は、あなたのこと、嫌いではありません。あなたもまた、私と一緒で本の使徒だと思っています。今でも。本のことを大切に思い、愛し、慈しみ、何よりも掛け替えのないものとしている――そう信じています。
 でも、だからこそ、同じ道を歩むことを選んだ友人として、私はあなたの間違いを正さなくてはならない」
「ご託はいいんだよ」
 ぴしゃりと、魔理沙は言う。
「気に入らないならかかってこい」
「はい」
 返答は、たった一言。それと同時に、小悪魔が動いた。
「さぁて、何秒持ちこたえてくれるんだ!?」
 その動きにあわせるように、魔理沙が色鮮やかな星弾を放ち、逃げる小悪魔にあわせて牽制のレーザーを放つ。
 彼女は、それをきわどい動きでよけていた。魔理沙が本気で直撃させるつもりで放っていないため、何とかよけている程度の動きだ。魔理沙が本気なら、もう戦いは終わっているだろう。両者の実力の開きが垣間見える瞬間である。
 その刹那、小悪魔が振り返って攻撃を放ってくる。
「はっ! 結局、いつも通りの目くらましじゃねぇか!」
 大弾と、その陰に隠れるようにして撃ち出されるくない弾。それを、魔理沙はあっさりとよけると、戦うのも飽きたとばかりに片手を振り上げる。
「とっとと落ちろ!」
 放たれる、特大のマジックミサイルが小悪魔を直撃し、爆音と煙を巻き上げる。
 相手からの反撃はない。倒せたものと思い、魔理沙は面白くなさそうに踵を返す。
 ――しかし。
「どこへ行かれるんですか?」
「……何?」
 煙の向こうから、小悪魔の声がした。
 煙が晴れる。その向こうに現れるのは、傷一つ負っていない小悪魔の姿。彼女は、片手に何やら持っている。一見して、それは盾に見えた。
「なるほどね。よけられないから攻撃を受け止める、か。悪くない発想だぜ」
 だが、次は耐えられるかな? と不敵に笑い、魔理沙が第二射を放つべく、左手を振り上げる。
「魔理沙さん」
「あん?」
「あなたに、私を倒すことは出来ません」
「そう言うこと、みんな言うんだよ。弱い奴はな」
「本当ですよ。
 だって――」
 小悪魔の目が見開かれる。普段の、おっとりほんわりした目元ではなく、その目尻はシャープにつり上がり、ぎらぎらと輝く邪視が魔理沙を見据えていた。ぞくっ、と背筋を震わせ、魔理沙が慌てて距離を取る。
「私とて悪魔の端くれ。人間ごときに後れは取りません」
「……言ってくれるじゃないか。
 なら、見せてもらおうか。お前の本気ってやつを。いつも通りのワンパターンじゃなくてよ」
「ええ、そのつもりです。
 私には、加護がある」
「何?」
「見せてあげます、私の力!」
 すかさず、ずばっ、と服の――なぜか胸元から一枚のスペルカードを取り出す小悪魔。その仕草に魔理沙に若干以上の殺気が宿ったが、小悪魔はそれを気にしている様子はない。
 取り出したカードを片手に、彼女は宣言する。
「紙符! 『操りペーパー』!」
「何だと?」
 その言葉と共にカードが光を放ち、姿を消し。
 ――そして、静寂がやってくる。
「……何だ? はったりかよ」
 名前から察するに、あの厄介なメイド長の技をパクったものだとばかり思っていたのだが、案に相違して何かが起きる様子はない。ナイフも飛んでこなければ、それと用途が似たくないが飛んでくることもない。静かなものだ。
「……ま、いいや。今度こそ本当に終わりだぜ、小悪魔!」
「魔理沙さん。あなたは信じますか?」
「お前と禅問答するつもりはないんだよ!」
 特大のマジックナパームが放たれる。それは、速度は遅いながらも、一直線に小悪魔へと飛んでいく。彼女によける様子はない。
「紙の加護を」
 その言葉と同時。
「何ぃっ!?」
 突如として、彼女の視界を、さっと何かが横切った。
 何だ!? その視線がそれを追いかける。同時に、轟音。
「私の魔法が!?」
 今のが、魔理沙の一撃を撃墜したらしい。爆発と同時に煙が辺りに立ちこめる。ちっ、と彼女は舌打ちした。力を絞ったつもりだったが、その程度が不完全だったらしい。爆煙に辺りが包まれ、全く視界がきかないのだ。
 これをチャンスと思い、小悪魔は攻撃を仕掛けてくるだろう。彼女が卑怯な手を使うような性格ではないとわかっているのだが、あの見境のない、ある意味では追いつめられた口調からは、それを完全肯定できる要素はない。現に、最初に彼女は不意打ちを仕掛けてきたのだから。
 油断せず、辺りを見回す。
「気配……!」
 言うが早いか、回避行動。後ろから飛んできた何かが魔理沙の肌をかすめていく。
「速い……! 何っ!?」
 続けて、二発目、三発目が連続で襲いかかる。
「全方位弾幕!? くそっ、あいつ、いつのまにこんな技を覚えたんだ!」
 罵り、必死に攻撃を回避する。
 だが、放たれる攻撃そのものを視認するのが難しく、加えて異常なほどの速度でそれが飛んでくる。当然、それを完全回避することは出来ず、かすり、それに伴う傷が増えてくる。
「くそったれ!」
 呪いの言葉を吐いて、彼女は自分の真下に向かってマジックナパームを放った。床へと着弾したそれが爆発と同時に爆風を巻き上げ、辺りの煙を一気に吹き散らす。
「面白い技を覚えたじゃないか、小悪魔」
 悠然と、腕組みしたままそこに佇む小悪魔に、肌や服のあちこちを切り裂かれた魔理沙が不敵な笑みを向ける。
「だけどな、世の中、小手先の技術をぶちのめす方法ってのがあるんだ」
「マスタースパークですか? そんなものを撃てば、あなたが持ち出そうとしている本がどうなるかくらいわかりますよね?」
「そんなバカな真似はしないぜ。だが、ちっとばかり、痛い程度じゃすまないぜ!」
 取り出したカードを宣言し、彼女の指先が小悪魔を示す。
「てめえみたいな奴にはお仕置きが必要だ!
 いけっ! ミルキーウェイ!」
 天の川の名前を冠した、無数の星弾の流れが小悪魔に向かって突き進む。今度も、彼女はよけるような素振りを見せていない。魔理沙を侮っているのか、あるいは、自分に絶対の自信があるのか。
 ――どちらにせよ、魔理沙には関係ない。些少のことなら自分の力でねじ伏せる。そうやって、彼女は己の力を示してきたのだから。よけないのならば、ケガ程度ではすまない攻撃を放つのもその理由の一つだ。
 警告はしない。よけないのならまともにくらっちまえ。
 彼女は小さな笑みを浮かべる。そして、小悪魔は小さく、声を上げる。
「この程度ですか」
「何だと!?」
 魔理沙が激昂する叫びと、
「ペーパーシールド!」
 小悪魔の声とは一緒だった。
 途端、ざあっ、という音が響き渡る。何事かとそれを察した次の瞬間、魔理沙は信じられないものを見た。
「んな……!?」
 無数に漂う白いもの。それは間違いなく、紙だった。本の紙片だ。
 それらが小悪魔に向かって集まって、あっという間に一枚の盾を作り上げた。魔理沙の放った星の流れは、その紙の盾に当たってあさっての方向へと弾かれていく。
「何じゃそりゃあ!?」
「見ての通りです」
「いやそうじゃなくて! 何で本!? 何で紙!? そんなもので私の魔法は防がれるのか!?」
「私の力を甘く見ないでください!」
 動揺して声を上げる(当たり前だが)魔理沙を一喝する。直後、横手から飛んできた一発が魔理沙の頭を直撃した。飛んできたのは、紙の塊。だが、その時の音は、まるで百トンハンマーが不埒な男を直撃したのに等しい。
「あだだだだだっ!?」
 頭を押さえて悲鳴を上げる魔理沙。
 そんな彼女を、哀れみのこもった眼差しで見つめながら、小悪魔は言う。
「私の魔界での通り名をお教えしましょう」
「いやそういうんじゃなくて! お前、何か変だなー、って思わないの!?」
「『紙の加護を受けた情熱漫画家こぁちゃん』! それが私の、魔界での名前ですっ!」
「うわかっこわるっ!」
「何とでも言いなさい。ですが、私の力は本物です。
 私の力を受けた紙は、ただのA4用紙でもメイド長のナイフを弾き、美鈴さんの蹴りを受け止めます。そして、魔理沙さん。ここがどこだかわかりますね?」
 そう。ここは――、
「ここはヴワル図書館。本の一冊一冊、ページの一つにすら魔力のこもった本達が暮らす場所――」
「って、ちょっと待て!?」
「さあ、行ってください! 皆さんっ!」
「うわわわわわわっ!?」 
 小悪魔の言葉に従い、ざあっ、と本が、紙が、一斉に魔理沙に襲いかかる。
 その有様は、白い雪崩に彼女が呑み込まれていくのを想像させるほどすさまじい。
「あいだだだだだっ! 痛い痛い痛いっ! 痛いってマジで!」
「さあ、魔理沙さん、こちらに答えなさい!
 本を返すか! 本を返さずに死ぬ(ほど後悔する)か! リターン・オア・ダイ!? リタァァァァン・オア・ダァァァァァァイッ!!」
「痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 本返すっ! 返しますからこれ何とかしてよぉぉぉぉぉっ!」

 勝者 小悪魔
(ある意味)負け犬 魔理沙



「勝ちました! 私、勝ちましたよ、パチュリー様!」
「え、ええ……見させてもらったわ……」
 その後。
 泣きながら、魔理沙が今まで強奪していった本を返しに来て、『小悪魔さん、ごめんなさい。もう二度と、本を盗んだりしません』の念書まで書かされた後。
 笑顔満面の小悪魔の言葉に、パチュリーは、そして、『面白いものが見られるかも』という友人の言葉にうきうきして現れたレミリアは、そろって顔を引きつらせていた。
「やっぱり、本は最強ですね!」
「……ねぇ、パチェ」
「……何かしら、レミィ」
「わたし達ってさ……もしかして、とんでもない奴を司書にしてるんじゃないの……?」
「そ、そうかも……」
 ありがとうございます、本の皆さん、と一冊一冊、丁寧になでなでしている小悪魔に沈黙する二人。
 あの戦いは、確かにすさまじかった。まるで、本が意思を持っているかのように魔理沙に襲いかかっていたのだから。しかも、ページ一枚一枚の威力と来たら。
 ついでに言えば、魔理沙の攻撃をことごとく受け止める紙の盾もすさまじい。「もしかして、わたしのグングニルとかパチェのロイヤルフレアも通じないんじゃないの?」とは、それを観戦していたレミリアの言葉である。
「私、これからも頑張って本を守りますね!」
「え……ええ……そうしてくれるとありがたいわ……」
「が、頑張りなさい……応援するわ」
「はい!」
 ――ちょっと、レミィ。あなた何とか言いなさいよ。
 ――言えるわけないじゃない。あの攻撃、よけられる自信がないわよ。パチェが言えばいいじゃない、あなた、あの子の雇い主でしょ。
 ――それはそうだけど、世の中には臨機応変って言う言葉があるのよ!
 ――だって、あれどう見たっておかしいじゃない! 何よ、あの攻撃力と防御力!
 ――っていうか、あんな隠し技があるなんて誰も予想しないわよ!
 ――明らかに紅魔館のヒエラルキーやばいじゃない! 責任取りなさいよ、パチェ!
 ……と、アイコンタクトで意思疎通しあう二人に、小悪魔は首をかしげる。
「どうなされたんですか?」
「い、いいえ! 何でもないわ!」
「そ、そう! 何でもないわよ!」
 おほほほほほ、と引きつり笑いを重ねる二人。小悪魔は、元から他人を疑うと言うことを知らないのか、『そうですか』と笑顔を見せる。
 ――と、『あ』という顔をしてパチュリーを振り返った。
「あの、パチュリー様」
「な、何かしら」
「このカード、パチュリー様が預かってください。必要に応じて、私に渡してくださいね」
「え……ええ……大切にさせて頂くわ……」
「あと、やっぱり使用に当たってはこれをつけないとダメですね」
 そう言って、胸元から取り出したのは、メガネ。黒縁フレームのそれを顔にかけて、ふぅ、と息をつく。
「やっぱり落ち着きますねぇ。私も、さっきはちょっと熱くなりすぎました」
「そ、そう……」
「じゃ、私、本の手入れに戻りますから」
 ぺこりと頭を下げて、鼻歌交じりに歩いていく小悪魔。
 その後ろ姿を見送り、レミリアとパチュリーの二人はつぶやく。
「……レミィ、あの子、もしかしてイギリス生まれかしら?」
「多分ね……」
 ――と。


 ちなみに、その後、パチュリーが小悪魔から渡されたカードをこっそり使ってみたのだが、全く何の反応もなかったということだけを付け加えておこう。
 小悪魔曰く、「紙の加護がないと使えませんよ」とのことだった。
こぁ合同本ゲット記念。いや、北国は入荷が遅い&数が少なくて(以下略)
ついでに言えば、図書館コンビは着やせ&メガネっ娘属性。これは揺らぐことのないマイジャスティス。


誰かがこのネタを考えつくと思っていた。
考えついたのでやってみた。
特に後悔はしていないかもしれない。
haruka
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コメント



0.4050簡易評価
13.80月影 夜葬削除
小悪魔が彼女にしか見えなくなった。
タイトルの意味はそういう事か!
16.90名前が無い程度の能力削除
Return or Die吹いた。

これは素敵なよみこぁ・リードマン。
25.60名前が無い程度の能力削除
ああそれで「よみこぁ」。
27.90名前が無い程度の能力削除
どう見てもCV:三浦理恵子です。本当にありがとうございました。
29.100名前が無い程度の能力削除
タイトルの意味合いはわからないがこぁかっこいい。

こぁ素敵よー
33.20名前が無い程度の能力削除
パクリ乙
37.80名前が無い程度の能力削除
強ぇw
44.無評価名前が無い程度の能力削除
ザ・ペェパァァアアア!
45.60名前が存在しない程度の能力削除
紙の加護www
54.80削除
確かにあんたにとっちゃあ最高の職場環境だろうけどさぁ・・・
なにしとんねんリードマン!!wwwwwwwww
61.20名前が無い程度の能力削除
面白いけど前に門板で似たようなのみたしなぁ
72.無評価名前が無い程度の能力削除
苦言になります。
最近の氏のSSは中身が感じられず、どうにも張り子に見えてしまうのです。今回のSSはその最たるものだと思いました。
ノリは変わらないし、文章に何か問題があるわけでは無いのですが。
氏自身の幻想郷が感じられない……と書くと大袈裟になってしまいますが、有り体に言えば東方以外からの借り物ネタに頼りすぎではないかと。残念でなりません。

haruka氏、ひいてはこのSSを楽しく読まれた方には不快な思いをさせてしまうコメントだとは思いますが、いち読者の率直な感想と言う事でご容赦頂ければ幸いです。
76.無評価名前が無い程度の能力削除
パロディーならパロディーでもっとはっちゃければ
楽しく読めたかも知れませんが
これではなんというか、ただのパクリ呼ばわりも無理も無いかなと。
77.30SSを読む程度の能力削除
ネーミングセンスがなぁ…
90.100en削除
これは素敵な大英図書館w

Read or Dead ですねー