Coolier - 新生・東方創想話

紅い夢

2006/08/12 02:27:06
最終更新
サイズ
17.72KB
ページ数
1
閲覧数
577
評価数
2/16
POINT
530
Rate
6.53
注:超長いです。

「奇術、エターナルミーク!」
高速の弾幕で壁ごと寝所を貫く。
蜂の巣になるまで撃ち続けた後、両手にナイフを構えたままゆっくりと踏み入れる。
足元は既にボロボロで酷い有様だが、メイド服に身を包んだ従者は足音一つ立てずに完璧な姿勢で歩を進めていた。
あまりにも堂々と入ってきた侵入者に対して、紅い影が声をかける。
「ずいぶんな寝起きの挨拶ね。」
「無理にお起きにならなくてもよろしかったのに。直ぐにまた眠ることになりますから。」
足を止めて、ナイフを弄びながら紅い悪魔を睨みつける。
あれだけ撃ち込んだにもかかわらず、毛筋一本乱れてはいない。
「ま、そんなとこでしょうね、レミリア・スカーレットならば。」
その名を呼ばれた悪魔の目がスッと細められる。
「そう言うあなたは私を愉しませられるのかしら、人間さん?」
「簡単な手品でよろしければ、いくらでも。」
深々と礼をしながら答えるのに合わせて、周囲の空間を埋め尽くすかのように大量のナイフが出現する。
それぞれのナイフは金剛石をも貫かんばかりの勢いを持ったまま、空間に固定されていた。
「これで全力? ”あの時”と大差ないように思えるけどね。物足りなくなりそうで心配だわ。」
自分の眼前に固定されたソレを、両手でさするように弄びながら答える悪魔。
「ご心配なく、出し惜しみをするつもりはありませんわ。」
その目が紅く染まると同時に、今度は館全体を取り巻くように無数のナイフが出現する。
「これはまた……。皆殺しにでもするつもりかしら?」
そう言いながらもナイフの密林を嬉しそうに跳ね回った後、天井近くのナイフに腰掛ける。
「使用人達には暇を出しておきました。門番以外ですが。」
「ふーん、だったら手加減は不要ね。」
「早速ですが、始めさせていただきます。ミステリアスジャック!」
ナイフが全方向から悪魔に殺到、その勢いと密度によって紅魔館の本館が轟音とともに全壊する。
避ける余地など存在しない、無慈悲な弾幕。だが、立ち込める粉塵から屋根へと飛び出したメイドは
迷うことなく夜空を見上げた。そう、輝く月の方角を。
「力で括った状態でなければ無駄ね。」
そこにはあったはずの月が消えていた。いや、無数の黒い影が月を隠しているのだ。
やがて影は一つの姿へと収束していく。
黒い翼、紅くて長い爪、輝く牙、禍々しくも美しい夜の王。
対するは、銀の髪、紅い瞳、輝く刃、霧に幻と消えた殺人鬼。

「「こんなに月も紅いから・・・」」

その先の言葉を告げることなく、戦いは始まった。



「おかしいわね・・・」
「おかしいぜ・・・」
幻想郷の空を紅白の巫女と白黒の魔法使いが疾駆していた。もうかれこれ数刻は飛んでいる。
だが、いくら飛んでも紅魔館は近づいてこない、同じところを廻っているような錯覚に陥る。
「やれやれ・・・・・・」
違和感が再び襲ってきた瞬間を待って、魔理沙と一瞬視線を合わせる。
「夢想封印!」
唐突にスペルカードを放つと
「マスタースパーク!」
霊力が中空に収束するやいなや、間髪いれずその地点を巨大な光の柱が貫いた。

しかし、天まで届くかと思われた光の奔流は突然何かにぶつかったように拡散していく。
「もー、いきなりなにすんのよ~」
寝ぼけたような声とともに2体の怪異が扇の影から姿を現す。
すきま妖怪・八雲 紫と冥界の姫・西行寺 幽々子だ。
「こんなことができるのはあんたたちぐらいだもの、この程度でどうにかなるタマじゃないでしょ。」
「マスタースパークを”この程度”はひどくないか?」
「ちょっとした悪ふざけじゃないの」
いつも通りのふざけた口調で話しながらも、霊夢の前に幽々子、魔理沙の前に紫がそれぞれ立ちはだかる。
「・・・なにがあっても通さないつもりね」
「最悪の組み合わせだぜ」
境界を自在に操る紫に対抗できるのは同種の力を持った霊夢だけだろう。
直線的な魔理沙の攻撃ではすきまに阻まれ捉えることすら難しい。
逆に動きこそ緩慢なものの圧倒的な防御力と撃たれ強さを誇る幽々子に対して霊夢では直接的な火力が足りなさ過ぎる。
彼女達クラスの存在に時間稼ぎに徹せられたのでは、突破は難しいだろう。
「なぜ私たちの邪魔をする、紅魔館でなにが起こっているの?」
「なんのことかしら? 紅魔館がどうかしたの? いつも通り人間をからかって遊んでいるだけよ。人を化かすのが妖怪の理というものでしょう?」
いつも以上に白々しい回答に辟易とする、この2体が一緒に行動していてなにかを企んでいなかったことなど殆どない。
ましてや従者も連れずに現れるなど、それ自体が非常事態であることの証明のようなものだ。
「この2人相手に回りくどい手口は無意味だぜ。」
痺れを切らした魔理沙が前に出てくる。
「紅魔館でレミリアと戦ってるのは誰だ、って聞いてるんだ。気配がでか過ぎて幻想郷中が震えあがってるぜ。」
明らかに全力で戦っている気配が充満していた。紅い悪魔の放つ妖気が強すぎて気分が悪くなる者もいるぐらいだ。
しかも、この状態が既に数刻は続いている。
全力を出したレミリアとこれほど長時間戦えるものは幻想郷にも数える程しかいない。
そして、そのうち4人はこの場に集っているのだ。
それ以外に思いつく範囲の中では、妖夢では力不足だし萃香は神社で昼寝中だった。
閻魔や死神、永遠亭の連中にしてもわざわざ自分から出向いて戦うタイプではない。
「藍でも送り込んだんじゃないでしょうね。」
「まさか、やるにしても一人でいかせたりはしないわ。」
それもそうだ、そもそも紅魔館には門番も従者もいる。
レミリアとのタイマンが成立すること自体がおかしい。
「姉妹喧嘩でもしてるんじゃないの~?」
「それはないな、永遠の夜と孤独を生きる吸血鬼だからこそ、あの2人が本気でやりあうはずがない。」
「かといって、パチュリーではこんなに長時間戦えないし、中国じゃなおのこと瞬殺されるわ。」
「なら、どっかの馬鹿が久しぶりに出てきて喧嘩を売ったとか、それとも全く別の来訪者か・・・」
紫の目がスッと細められ、深くて暗い侮蔑を含んだ色に変わる。
「そこまでわかっていながら・・・、私を馬鹿にしているの?
それとも気づいていないフリをしているのかしらね?」
凄まじい威圧感に総毛立つとともに、ずっと感じていた嫌な予感が膨れ上がる。
簡単な消去法だ、伝わってくるのは”レミリアの妖気だけ”。
相手の妖気も霊力も感じられない。
ならば相手は結界の能力を持っているのかよほど特殊な力の持ち主か、さもなくば人間・・・。
そして、それが出来る人間はこの場に3人と彼の地に1人。
「それこそあり得ないぜ!」
最初から分かっていたのかもしれない、考えないように思考の外に追い出していたのかもしれない。
「あいつはレミリアが死ねと言ったら死にかねない奴だ、
戦うどころか刃を向けることだって考えられない!」
しかし、紫からも幽々子からも返答はなかった。
2人と2体の間に冷たい境界が描かれる。
やがて諦めたかのように紫が口を開いた。
「あの子は少し聡すぎるのよ。それに外の世界に長くいすぎた。」
「どういうこと?」
「どちらにせよアレはあの子のものよ。外様が手を出す問題じゃないわ。」
軽くはぐらかすと、紫は話を打ち切った。

今まで通りに在り続けるには条件が多すぎるのよ、本人も時間の問題だって気づいてる。
この子たちまでどうにかなるとは思わないけど、余計な影響を受けて欲しくないのよね。
と言っても、もう遅いか・・・。
霊夢が本気になる前に決着が着いてくれると助かるんだけど。



頭痛が酷い、視界が歪んで吐き気が止まらない。
明らかに能力の使いすぎだった。
”時間を操る程度の能力”
並の相手ならばそれこそ1秒とかからないばずの能力だった。
それが眼前の悪魔には通用しない。
いや、相手やその周囲の時間は確かに何度も停止していた。
なのにナイフがその悪魔を捕らえることは決してないのだ。
「時の止まった空間に運命を流し込んでいるのか…」
凍りついた空間を”少しずつ変化する”という運命で支配し、”時間”の代わりに”運命”を流すことによって、
”あたかも連続した時空間”であるかのように見せている。
運命を視て、運命を支配して、運命を創る。レミリアだけに可能な所業だ。
いまや、2人が戦うこの空間自体が時間と運命によって数十もの瞬間に切り刻まれていた。

そしてまた、自分に向かって殺到してくる無数の不可視の運命たち。
一度でもこれに捕まればもはや抗いようのないことは明白だった。
運命と自分との間に無限大の時間と無限遠の距離を全力で創り続けながら戦う。
「急がないと・・・」
運命が到達するか自分が力尽きるか、いずれにせよ時間の問題だった。



「彩光乱舞!」
光彩の竜巻がもう一人の悪魔の行く手を遮る。
だが、次の瞬間には輝く魔杖によって両断されていた。
竜巻から弾き出された緑色の影は、壁に叩きつけられる寸前でかろうじて受身を取っていた。
「美鈴!邪魔をしないで!」
フランドール・スカーレットが叫ぶ。
「行ってどうするつもりなんですか!」
なんとか立ち上がり構えをとりつつ叫び返す。
「決まってるわ!人間の分際でお姉様に逆らったゴミを破壊してやるのよ。」
その発せられる甲高い声自体が大小の弾へと変化し、反響するように包み込んでくる。
「駄目ですって!相手は咲夜さんなんですよ!?」
「どっちの味方をしてるのよ!あなたは紅魔館に仕える門番でしょ?どかないなら、容赦はしないんだから!」
「も~、聞き分けのない!」
両の掌に気を集中して防御に徹する。
破壊力は凄まじいものの”粗い”攻撃ばかりなら捌ききれないことはない。
耐えてさえいれば、短気なフランは必ず隙を見せるはずだった。
その瞬間を見逃すわけにはいかない。
「えーい!スターボウ・・・」
その翼から七色の輝きが生まれ、視界を埋め尽くす。
「来た!」
光弾が襲い掛かる寸前、引き潮のように逆巻くその一瞬を逃さず反射的に間合いを詰める。
「ごめんなさい!崩山彩極砲!」
確かな手ごたえ、フランドールの小さな体がはじけ飛ぶ。
これで、しばらくは動けないはずだった。

が、突然フランの体が霞んだかと思うと美鈴の両脇と背後に別の3体のフランが現れる。
フォーオブアカインド・・・。
「そんなぁ!」
覚悟を決めて全身に気を巡らせるが、間違いなく必至だった。
「切り刻んであげるわ!」
フランの歪んだ笑顔と美鈴を囲むように現れた刃が迫るその瞬間!

「エメラルド・・・メガリス」
緑色の光が美鈴ごと周囲を押し流した。
いつのまに現れたのか、音も気配もなく紫色の影が滲み出て壁際に流れついた美鈴を見下ろしながら声をかける。
「一人で妹様の相手なんて、死ぬ気?」
「助かったというか、助かってないというか、とりあえずありがとうございますパチュリー様」
既に瀕死かと思われたが、意外に頑丈な門番だった。
「頼むわよ、一人じゃ私も長くはもたないんだから。」
「・・・弾除けですか。」
「パチュリー、あなたまで邪魔するの?
それでもお姉様のともだち?」
再び一体に戻ったフランは相当頭にきているようだった。
「”親友”よ」
軽く訂正しながら、手に持ったいつもより分厚い本を開く。
「だからこそ、ここを通すわけにはいかないの。」



「!」
「!」
無数のナイフを繰り出すも、一瞬にして叩き落される。
どれほど投げても、どれだけ挑んでも届かない。
その優雅さ、その威厳、そしてその禍々しさ。
普段もそうだが、本気を出した時の凄絶なまでの美しさに圧倒される。
「やはり、この方は・・・」
幼い少女の風貌をしているにもかかわらず、大上段に立って見下ろすその姿を”ふさわしい”と感じてしまう。
「スカーレットシュート!」
逡巡しそうになった瞬間、頬を掠めて飛ぶ弾幕が意識を覚醒させる。
「くっ、レミリア!レミリア・スカーレット!」
再び”その名”を叫び、心を奮い立たせる。
そう、私の力の前では時間も空間も関係ない、たどり着けない場所などありはしないのだ。
「ふん、そろそろ飽きてきたな。退屈だぞ、人間!」
「それは失礼しましたわね。」
まだ、運命による直接支配は受けていないはずだ。
といっても、相手はこちらの能力、癖、弱点にいたるまで全てを熟知している。
繰り出す攻撃は全て先読みされて無効化されていた。
なんとかして意表を衝かなければ勝ち目はない。
「あの頃の私になくて、今の私にあるもの・・・」
幻想郷での記憶が脳裏を駆け巡る。
・・・あまりにも奇想天外で無茶な思い出ばかりが出てきて、思わず苦笑する。
「といっても、あんまり使えるのないのよね、みなさん人外ばっかりだし。
とりあえず・・・、奇術!エターナルミーク!」
縦横無尽に高速の弾幕を放つ。
「はっ、馬鹿の一つ覚えが!」
もはや余裕で避ける紅い悪魔。
しかし、弾幕のうちの一発が二人の間に死角を作った瞬間。
「人鬼!未来永劫斬!」
「!」
反射的に受けようとしたレミリアの右手に、予想を遥かに超えた重さがかかる。

確かな手応え。血の香りに恍惚としながら確信と共に振り返る。

が、その目に映ったのは、落とされたはずの右腕もほぼ再生し吐息もかかろうか
という距離まで詰め寄った悪魔の姿だった。
「初撃にエターナルミークを使うべきではなかったわね。
あなたが、”馬鹿”でないことも、考えもなく同じ技を2度使うような真似をしないことも、私はよく知っている。」
「くっ!」
咄嗟にガードしようとするが、分不相応な技を放った右腕は既に言うことを聞かず、両足も動かない。
「これでおしまい。」
時を止めるまもなく・・・、白磁の腕が腹を貫通する。
熱いものが広がっていく感触、衝撃に意識が遠のく。
かろうじて残った左腕を己を貫いた腕に絡ませ、搾り出すように呟く。
「ミス・・・ディレクション・・・」
瞬間、二人を包む空間が悲鳴を上げて軋み始め、やがて甲高い音と共に”裏返った”。
先ほど外側へ向かって放たれたはずの大量の弾幕が、その速度のまま内側に到達し二人を包み込む。
「秘技、殺人ドール」
真紅に染まった二つの視線がぶつかり合う、そこには恐れも迷いもない。
「ははっ、いい度胸だ! 夢を抱いたまま死ぬがいい、紅色の幻想郷!」
内から外、外から内、2条の螺旋が交錯する。



「やってくれる、満月の夜でなければ危なかったわ。」
二人の体は既にボロボロで、紅い絨毯を敷かれた同じ大地の上に落ちていた。
いや、正確に言うならば”倒れている”のは一人だけだった。
全身を穴だらけにされつつも、不死者の王はその両足で立っていた。
腹部に空いた大穴を手で押さえながら静かに告げる。
「だが、これが限界だ。”殺人”程度では悪魔は殺せない。」
足を引き摺りながらも従者の側へと歩を進めていく。

だが、突然その動きが止まる。
手足の時が止まったかのように動かない。
「くっ、力が纏まらない。」
流石にこの状態では振りほどくことはできなかった。
しかし、体を縫い止めるその力は既に微弱で、再生さえ終われば抜けるのは容易いだろう。
「ふん、この程度で私をどうにかできるとでも?」
「思っておりませんわ。でも、私が息絶えるまでの時間ぐらいは稼げます。」

「…………そう。ならばこの勝負は私の負けということね、咲夜。」
「ありがとうございます、レミリアお嬢様。」
「まったく、こんなに散らかしてくれて、片付けが大変だわ。」
「……」

「まったく……本当に愚かな人間……」
いつもなら帽子があったはずの場所に手をやり呟いた。



深いため息をついた後、そのまま帽子を外して視線を上げる。
見上げた先にあるのは寝室の窓、そして紅く染まった満月。

「また外れか・・・」

”運命視”の能力。しかしその力を持ってしても自分自身に関わる運命を、ましてや遠い未来まで覗くことは困難だ。
しかし、満月の夜、その能力が最大になる時ならば不可能ではない。
不可能ではないが・・・

「痛っ、段々無茶っぷりがエスカレートしているような気がするな」

その全身は見下ろすのが嫌になるほどズタズタになっていた。
傷はみるみるうちに回復していくが、疲労の度合いは限界を超えている。
現在から遥か未来にまで至る自身の運命を辿るにあたって、普段使っているような”客観視”は使えない。
運命を観測すること自体が自身の運命に直接的な影響を与えてしまうのだ。
見終わった瞬間に運命は大きく違うものに変質してしまっている。
近い未来ならば誤差の範囲だろうが、遠い未来では意味がない。
だから運命視へ自身を没入させて、主観視として未来を辿る。
そのため、運命視の中の自分は半ば現実だと信じて行動しているし、間違って運命の中で死を迎えようものなら現実の魂も砕けてしまうだろう。
狂気に囚われることも、どこかで自身の滅びにたどり着いてしまうことも回数を重ねていればいずれ起こって不思議はない。
あまりにも危険であることはわかっている。
だからパチュリーにも秘密にしているのだ。

だがそれでも、レミリアは満月の晩が来るたびにこれを行うのが習慣となっていた。
”あの人間”に興味を持った時からずっとだ。
もはや何回挑んだかも覚えていないし、その目的も最初の頃とは違うものになっている。

「私に挑むケースが7割を越えたな。
あとは老衰、戦死あたりが主因か・・・そういえば博霊大結界自体に勝負を挑むパターンもあったっけ。」

毎度毎度、理由も結果も異なるものになるのが希望であり、厄介であるとも言える。
だがそれでもレミリアの力で辿りつけぬほど遠くまで行き着いたことがないのも事実だった。

「私の元を去ったり、現界に復帰したり、自害するパターンを全く見なくなったのはいい傾向だが・・・」

人間は脆くて儚い生き物だ。
いつその瞬間がやってきても不思議ではない。
いつまでこんなことをしていられるかもわからないのだ。
急がなくてはならない。
それに・・・

もう完全に再生した右手に目をやり、その後、壁の一点を静かに見つめる。
そこにはなにも無い。
「あの瞬間を毎度味わうというのもな・・・」



最初は人間がどのようにくたばるかを知りたかっただけだった。

次は、その瞬間に自分が何かを感じるのか。どのような感情を得るのかに興味があっただけだった。

自分に挑んでくることが多いと知った後は快楽目当てだった。
自分を慕う者、自分が良く知る者、そしてそれなりに強者。
それと全力で殺しあう快感。加減も遠慮もいらない。
全ての感情と力をぶつけてくる相手を存分に眺め、味わい、弄び、自分の手で殺せる。何度だって殺せる。
相手の必死の瞳に浮かぶのは、愛憎か嫉妬か哀しみかそれとも覚悟か。
禁断で背徳で甘美で、気も狂わんばかりの凄まじい快楽。

だが、時が過ぎるうちにまた別の様相を呈してくる。
そう、何度見ても結末は変わらない。
いつかは確実に訪れるその瞬間。それは避けられ得ぬ運命だという確信。
やがて未来行は予行演習へと近づいていく。
”その瞬間”自分は心を保てるだろうか、主として理想的な振る舞いができるだろうか、
彼女の意思を守れるだろうか、・・・彼女の血を吸わずにいられるだろうか?

そしてある時ふと気づいた。いつしか自分が一つの運命を探していたことに。
そう、「彼女が自分から血を吸ってくれと願ってくる運命」を。
それと同時にもう一つの真実にも気が付いた。
それは、「いままで見た数多の運命の中で、どれ一つとして彼女はそれを願わなかった」ということ。

最初にこみ上げてきた感情は羞恥だった。
彼女は諦めてもいないし恐れてもいない、ただ覚悟だけがそこにある。
従者であり儚い人間にその覚悟があるのに対して、主である自分はなんと情けないのだと。
いや、人間なればこその決意かもしれないが、ならば尚更それに答えねばなるまい。
主が従者に劣るなどということはあってはならないのだ。
そして彼女を誇りに思う気持ちと共に、その彼女が主と仰ぐ自分に対する自信が蘇ってくる。
そうだ、私はレミリア・スカーレット。500年を生きる悪魔にして運命を支配するもの。
私の思い通りにならないものなど存在しない。
そして、あの娘は私の所有物であり全ては私のものだ。
生も死も、たとえ”運命”や”時間”が相手だとしても彼女をくれてやるつもりはない。
私の許可なくいかなる物もその瞳に映ることは許さず、風すら触れることがあってはならない。
歳月も彼女から何かを奪うことはできず、
彼女が死なねばならぬというなら、それは私自らの手によって与えられるものでなくてはならない、
が、そんなことはさせない。
そう決意した瞬間に覚悟と力が漲ってくる。


運 命 が 変 わ っ た よ う な 気 が し た。




廊下から咲夜が近づいてくる気配がする。
傷は既に完治しているので、呼吸と衣服を整えた後窓辺に腰掛けて月光を浴びる。

ノックの音
「おはようございます、お嬢様。」
「おはよう、咲夜。」
いつもと変わらない咲夜の姿。

「?」

しげしげと見つめるレミリアを、不思議な顔をして見返す咲夜。
小首を傾げるその様子を見て気持ちを新たにする。

人間のままで共に永遠を生きるなんて、矛盾しているし馬鹿げている。
対象時間を無限に考えるなら彼女に限らず自分が滅びる確率だって100%だ。
だが、そんなことは関係ない。

「必ず見つけてみせる、そして一度見つけたなら逃しはしない。」
「??」

「朝食は皆と一緒に取るわ、用意してちょうだい。」
「はい、かしこまりました。」

いつも通りの光景。いつも通りの会話。
自然と笑みが浮かぶ。

「ああ、それから・・・」
「?」

「不忠者の門番は次の満月まで食事抜き」
「???!」



運命を操る私と時間を操るあなた。
これ以上の組み合わせなんて無いと思わない?
日和った!日和りやがったよこいつ!

えーと、はじめましてです。
友人と「最後の瞬間が来たとして、レミリア様は咲夜の血を吸うのか吸わないのか」という話でもめましてw
私は「レミリア様は吸いにいく(いって欲しい)、そして咲夜は吸わせない」派
なのでこんなんなっちゃいましたー。
最初は咲夜さんが死んだ後のレミリア様の話だったのですが、
無理です、俺には咲夜さんを殺すなんてできないーーー(いや、殺してるし

色んな意味でごめんなさい。
過去の作品に全部目を通したわけじゃないので、被ってないといいな。
CAFE
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.460簡易評価
4.50名前が無い程度の能力削除
良い作品なのですが改行が少なく咲夜がレミリアに刃を向ける理由がわからなかったです。
あとがきを二度ほど読みかえしようやく理解できる。
レミリアの望みの描写はとてもじんときましたので、これからも期待させていただきます!
7.20名乗らない削除
なんで紫と幽々子が協力したのかと、その後について全く書かれていないし、レミリア個人の話なら途中の展開は要らない。あと段落とかタメとか微妙なのでここに限らずもっと多くの作品を読んで演出とか見た方がよい。
超長い>この程度なら長くない。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
少し不条理な点もありますが、文章はよく書けていると思います。
>「人鬼!未来永劫斬!」
妖夢の助太刀かと思ってしまいました。咲夜が「未来永劫斬」を使えるのは一体どうしてでしょう。
>覚悟を決めて全身に気を巡らせるが、間違いなく必至だった。
「必至」は必死の誤字ですかね。
13.無評価CAFE削除
読んでいただけた人がいるという事実に感動しております。
突っ込み等々ありがとうございます。
みなさんの投稿作品など、もっと沢山読んで勉強してまいります。