Coolier - 新生・東方創想話

わたし

2006/08/10 10:07:29
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 ごぷ、と口から血が零れ落ちる。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 精神を蝕み、心を侵す狂気が私の中で荒れ狂う。
 
 「く……ぁ」
 
 肉体が次第に崩壊を始めていくのを感じながら、意識を強引に保つ。
 胸にぽっかりと開いた穴から中身がゆっくりと流れ出すのを感じるのはこれで何度目だろうか。
 いつも。
 そう、いつもの事だ。
 
 死なないのに痛い。
 死ねないのに痛い。
 
 昔に一度だけ聞いたことがある。
 痛みとは肉体が命の危機に晒されている時に送る合図なのだと。
 だとすれば、何故。
 私の体はこれほどまでに痛みを発するのだろうか。
 
 『私』は死なない。
 死ぬ事はない。
 けれど、痛みは感じる。
 だとすれば、私の体は悲鳴をあげているのだろう。
 この痛みから逃れる様にと。
 だとすれば、私の体は要求しているのだろう。
 もう二度とこんな事はするなと。
 だとすれば、私の体は願っているのだろう。
 無駄な事はしないでくれと。

 
 上から誰かが私を見下ろしていた。
 殆ど動かない体で無理矢理にその者と目を合わせる。
 いつもの言葉が上から降って来る。
 
 「貴方は、死にたいのかしら?」

 それは単純な問いかけ。
 銀髪の女性は文字通りに瞬き一つする間に私を殺す。
 正確に言うと、死ぬ直前の状態に追いやる。
 だから、私が何故こんなことをしているのか本当に理解できないのだろう。
 私は死ぬ。
 けれど、『私』は死なない。
 けれど、『私』は死ねない。
 死ねない体にしておいて一体何を言っているのだろう。
 あまりにも馬鹿らしくて笑いたくなるが、体はそんな簡単な命令すらもご丁寧に拒否してくれる。
 
 死とは終わりであり、始まりだ。
 全ての者には死があるからこそ生がある。
 終わりが無ければ始まりもまた無い。
 
 だとすれば、『私』とは一体何なのだろうか。
 
 「相変わらず、良く分からないわね。貴方は何がしたいの?」

 首を軽く振りながら彼女は私に向かって問いかける。
 その歩みはゆっくりで、警戒する様子も全く無い。
 警戒する必要もないと分かっているのだろう。
 だから、ゆっくりと彼女は私に歩み寄る。

 その問いに私は答えない。
 いや、答えられない。
 輝夜を殺す。
 それが無意味なのだという事は分かっている。
 彼女も『私』と同じ。だとすれば一体その行為は何を為そうとしているというのだろう。
 それ以前に、輝夜に毛一本の傷すらも与えられた事は無い。
 この数年、輝夜の姿をまともに見たことすらない。
 
 けれど。
 私の中にはまだ輝夜を見つけたときの激情が残っている。
 それは狂喜だったのか狂気だったのか。
 気が付いたら、私は走り出していた。
 声をあらん限りに張り上げ。
 輝夜を殺すためにあの時持っていた短刀を握り締め。
 何も考えずに走り出し。
 あっさりと胸を貫かれて地面へと倒れ臥した。
 
 それが始まり。
 そして、『私』には終わりが無い。

 だとすれば、何故始まりがあったのだろう。
 『私』は終わらない存在だ。
 だとすれば、始まる事は無い筈だ。
 『私』は終われない存在だ。
 
 終わりが無い故に始まりが無い。
 それを『私』は受け入れていた。
 けれど、体は痛む。
 心が軋む。
 何かが私の周りで起こるたびに私は何かを感じる。
 もしかすると、『私』はその問いをずっと探しているのかもしれない。
 
 「相変わらず何も言おうとしないのね。」

 ごぷ、と口から再び血があふれ出す。
 こんな状態で喋れるものか。
 相変わらず彼女の考えている事は良く分からない。
 
 「じゃあ、死になさい。」

 彼女は弓を私へと向ける。
 狙うは額。
 その矢は一瞬で私の意識を奪うだろう。
 彼女は私を見つめてくる。
 私はその瞳をじっと見つめ返す。
 
 そして、矢が放たれ。
 痛みを感じるまでも無く私は再び死んだ。
 












 ゆさゆさ。
 ゆさゆさ。
 体が誰かに揺り動かされているのを感じて私はゆっくりと目を開ける。
 初めに目に飛び込んでくるものは長い黒髪。
 ぼやけた視界に映し出されるのは整った顔立ちと真紅の瞳。
 いつも一人きりで山を歩いている少女。
 私はいつものごとくその少女に見つかり、いつの間にか作り直されていた体をゆっくりと起こす。

 「また、殺されたの?」
 「ふん、そんなのあんたには関係ない事でしょうが。」
 「……ごめんなさい。」

 おずおずと聞いてくる少女に向かって私は辛辣な言葉を投げ返す。
 その少女はゆっくりと目を伏せ、俯いた。
 その表情を見て、仕草をみて私は無性にやるせない気持ちになる。 
 分かっている。こんなのは八つ当たりだ。
 
 「で」
 「……?」
 「いつもみたいに持ってきてくれたんじゃないの?」

 そっぽを向いたままそう言うと、その少女は心の底から嬉しそうに笑って、胸元に持っていた服を私に手渡してくれる。
 それを受け取りながら私はとても嫌な気持ちになった。
 何故こんな気のいい少女が忌み嫌われているのか。
 村では彼女に誰一人として話しかけようとしないらしい。
 両親ですら、彼女を疎んでいると彼女は言っていた。
 少女に背を向けて、穴が開いてさらに血まみれになっている服を脱ぎ、新しく持ってきてもらった服を着る。
 
 「いつも持ってきてもらって大丈夫なの?」
 「大丈夫。文句を言われたことは一度も無いから。」

 微笑む少女を横目に見ながら内心で小さく溜息を付く。
それは文句を言われないのではなく、言えないのではないかと私は思ったが、黙ってる事にした。
 少女が気づいていないのであればそのままにしておいたほうがいいだろうし、気づいているのだとすれば私に気を使っているという事になるのだろう。
 だとすればわざわざそれを指摘する理由もないし、私にとっても楽が出来る事は喜ばしい事の筈だ。

 蓬莱の薬を飲んで、不死になった私は始めて世間という物を知った。
 私も疎まれてはいたとは言っても自分がそれでも籠の中の鳥だったのだという事を知ったのだった。
 その日から十年以上の月日が過ぎた。
 その頃には私の家族と呼ばれるような存在は一人として居なくなっていた。
 残っていた財産も底を尽き、住む所すら無くなってしまっていた。
一人で生活をするようになって、初めに思ったのはどうやってお金を稼げばいいのだろうかという事だった。
 一体何をすれば良いのかさっぱり分からなくて。
 お腹がすいても誰も食べるものを持ってきてくれず。
 服が汚れても誰も洗ってくれず。
 雨露を凌ぐために屋根の下に居たら追い出されて。
 もしも、あの時私を知っていた彼に会えなかったら一体どうなっていたのだろうか、と今でも思う。
 私は望まれた子ではなかった。
 だからこそ、私にとって知り合いと呼べる人達は殆どいなかった。
 けれども、偶然その時の私は彼の名前を覚えていた。
 私が彼を呼び止めると、もう名前も思い出せない彼は私の事を私の娘だと勘違いした様だった。
 当然の事だろう。十以上も年も姿が変わらない人間等いるはずも無いのだから。
 だから、私は名前を偽ってその時は暮らしていた。
 その名前を呼ばれるたびに、私が『私』で無い様な気がしてならなくて。
 何度も私は自分の名前を叫びたくなった。
 けれど、私は恐れていた。
 この生活が壊れる事を。
 私はやっと知ったのだ。
 失ってから始めて分かるという言葉の意味を。

 輝夜はあの時、何を考えていたのだろうか。
 月へ帰ると言っていたにも関わらず地上に残り。
 自分を育ててくれた両親に蓬莱の薬をそっと置いて去ったその時には。
 そして、今はどう思っているのだろうか。

 私はそこで必死に仕事を覚えた。
 「仕事なんかする必要が無い、そんなのは下々の者がする事だ」と言い張る名前も覚えていない彼に無理矢理に頼み込み、私は様々な事を教わった。
 だって、わかっていたから。
 私がずっとここに居られる筈も無いという事は。
 そして、すぐにその時はやってきた。
 それは私の思っていた形とは違ったけれど。
 『私』がまた一人になるという意味では全く同じ事だった。
 
 
 
 「……で?」
 「?」
 「今日も偶然ここに来て私を見つけたの?」
 
 目の前の少女がはっきりと頷く。それを見て自分も小さく頷いた。

 「じゃあ早く帰りな、もう夜も遅いんだし。用事が無いなら帰った方が良い」

 その言葉を聞いて少女は少し驚いた様だった。
 少しだけ眉を上げ、何度か目をしばたたかせながら少しだけ首を傾げた。
 いつもであれば物を貰うお礼に他愛の無い話や昔の話をするのだが、今日はどうしてもそんな気に慣れなかった。
 あの銀髪の女性に言われた言葉が耳に残っていて。

 「ごめん。今日はちょっとね……」
 「ううん、別に良いよ。私は偶然来ただけなんだから。」

 それだけ言うと少女は微笑んだ顔のままくるりと背を向けると一言の挨拶も無く立ち去っていった。
 これはいつもの事。
 少女は私を見つける事を何故か偶然と言い張って聞かない。
 その割には『いつも』『また』『今日も』等といった再度物事が繰り返される時に使われる言葉には反応するつもりは無いらしかった。
 その辺りは相変わらず良く分からない。
 
 草がガサガサと音を立てる。
 その物音が次第に遠ざかっていくのを座り込んだまま聞きながら、月を見上げる。
 知らず知らずの内に先ほど死ぬ前に銀髪の女性が私に向けて聞いた言葉を、はっきりと働いていない頭が何度も繰り返していた。
 彼女は言っていた。
 
 『貴方は死にたいのかしら?』

 私は死にたいのか。
 分からない。『私』は死にたいのか死にたくないのか。
 取りあえず今分かっている事は死ねないという事だ。
 この身が何度滅びようとも『私』という存在は死なない。
 私が何度悲鳴を上げようとも『私』という存在は死なない。
 今分かっているのはそれだけだ。
 この言葉は当然の如く、私の頭にこびりついている。
 でも。
 もっと頭に残っているのは―――

 彼女はこうも言っていた。
 
 『貴方は何がしたいの?』

 『私』は何をしたいのか。
 さっぱり分からない。
 『私』は死なないのだ。何かを為す事に意味があるのだろうか。
 いつか聞いたことがある。人は死ぬからこそ何かを為そうとするのだと。
 生きていた証を残すために、私はここにいたと誰か一人にでも主張するために一生を生きるのだと。
 だとすれば、私はどうなのだろう。
 死なない『私』という存在はどうなのだろう。

 当然の如く、答えは出ない。
 それでも頭は回り続ける。
 思考を止めようとしても止まらない。
 全身の力を抜き、草の上へと身を横たえる。
 今日は月がはっきりと見える。だから雨が降る事は無いだろうという事を考えながら、全身の力を抜き、目を閉じた。
  
 
 眠りに落ちてゆく寸前、何故かおかしな光景が脳裏に浮かんだ。
 微笑んでいる少女の向こうに、大きな桜の木が見えた。
 桜の花びらが吹雪の様に乱舞していた。
 その少女の表情はいつもの様に嬉しそうなのに。
 何故かとても悲しそうな表情だな、と私は思った。







 /     2




 気が付いたら既に太陽は高い位置にあった。
 いくら草を下に敷いているとはいっても地面の上に寝ている事には変わりが無いわけで、体の節々が痛い。
 まあ、だからといって『私』にとってなにか不都合があるわけでもない。
 どうせこんな痛みは少しすれば治るのだし、もしも治らなかったとしてもこの痛みは数日中には私の体ごと消えてなくなっているだろう。
 
 ふん、と軽く鼻から息を出す。
 口元は自嘲の笑みを浮かべている。
 自分が何をしたいのか、何をしているのかも分からないのに私は律儀に彼女の元へと向かおうとする。
 まるで何かに引き付けられているかのように。
 自分が死ぬと分かっているにも関わらず私は彼女の元へと向かう。
 まるで虫けらの様に。
 誘引されて自ら食べられに行く哀れな昆虫の様に。

 「さて、今日はどうするかな……」

 誰に言うでもなく小さく呟く。
 したいことはない。
 するべきこともない。
 それでも体は私に対して空腹を訴えていた。
 はぁ。と小さく溜息を付く。
 辺りを見回してみると彼女が置いていった籠が置かれていた。中を覗きこんでみると案の定握り飯が中に入っていた。
 昔は知らなかったのだけれど、米という物は高級な食材だったらしい。それを毎回持ってきてくれるのだから、彼女の家は相当な物なのだろう。
 私はどうでもいい事を考えながら籠の内側に手を伸ばす。
 あまり綺麗に包まれていない所を見ると、やはりこれは彼女の手作りなのだろう。

 「あの子も、なにがしたいんだかね」
 
 自分自身へ問いかけても勿論答えなんか返ってこない。
 分からない相手に聞いたところで当然何も分からないのだから。
 地面に座り込んでゆっくりと味を確かめながらゆっくりと握り飯を頬張る。
 どこをかじっても塩の味がしない所を見ると、今日はうっかり混ぜ忘れたのだろうか。もしかしたら塩が無くなっていて混ぜることが出来なかっただけなのかもしれない。
 
 「ほんと、こんな私に付き合っていて何が楽しいんだか」

 私は彼女に対して何の見返りも与えていない。
 色々な話をするのは単なる気まぐれだ。積極的に何かをしているわけではない。
 だからいつ彼女が来なくなってもおかしくは無い筈だ。
 もしかすれば今日来なくなるのかもしれないし、明日来なくなるのかもしれない。
 まあ、どちらにせよいつかは来なくなるのだろう。
 『私』は死なず、彼女は死ぬのだから。
 それが単純に遅いか早いかの違いがあるだけで。
 本質的な所には何の違いも無いのだ。『私』はいつまで経っても一人なのだから。

 身分。
 そういえば、こんな存在になる前は私はそんな事を考えていたのだった。
 そんなものはいつか消えてなくなってしまう物なのだけれど。それでも、今しか生きることの無い人間にとってはとても大事な物である事は確かだ。
 『私』が昔そう考えていたように。
 だからこそ下賎な女に尊敬、いや半ば崇拝していた父が誑かされしかも良いようにあしらわれて行方不明になったあの日、『私』は彼女に何かをしようという事を決意した。
 殺そうとまで考えていたのかは良く分からない。
 他人を殺すと口でははっきりと言えてもそう簡単に実行できる物ではない。
 だから、私はあの時単純に復讐をしようと考えていたのだと思う。
 あの女に身の程を知らせてやろう、と。 

 でも、その結果はこれで。
 結局の所なにも知らなかったのは『私』の方だった。
 
 無知は罪。
 無垢な赤子には贖うべき物も無ければ、贖うべき理由も存在しない。
 何も知らないのだから、罪など存在のしようも無いのだ。
 けれど、知っているべきこと。知らなくてはいけない事を知らないのは罪だ。
 何も知る事が出来ないのと、何も知らないのは似ているようで全く違う。
 それは本人にとってみては同じで。
 本質的にも同じではあるのかもしれないのだけれど。
 それでも、それだからこそ―――
 
 「ったく、らしくない事ばっかり考えてるね」

 はぁ、と大きく息を吐き出しながら私は草の上に再度寝転んだ。
 ふと目を横に向けるとバッタがピョンと跳ねて近くの草から遠くへと飛んでいくのが見えた。足場にされ、ゆらゆらと微かに揺れている草を何の気無しに見つめる。
 それを見ながら思う。
 私は彼女の事をどう考えているのだろうか。
 よくよく考えてみなくても、私に関わる理由なんて全く思いつかない。
 彼女は私の事をどう考えているのだろう。
 そして、私は彼女の事をどう考えているのだろう。
 
 私は彼女の事をなんとも思っていない筈だ。
 何故か理由は良く分からないが、様々な物を持ってきてくれる便利な存在だと思っている。
 彼女が居れば服を手に入れる手間も省けるし、食事を探す手間も省ける。
 愚痴を聞いてくれる相手にもなる。
 寂しさを紛らわせる相手にもなる。
 彼女も、私のことをそうやって見ているのだろうか。
 自分にとっての何かになる便利な存在として。
 そういえば、彼女と始めて会話した時から疑問に思っていた事もある。
 それについては彼女は何も言おうとしないし、私もそれについて何かを言うつもりも無い。
 でもそれが気にならないと言えば嘘になる。
 私にとってはそれは本当の事で、紛れも無い真実なのだけれど、それを実感する事が出来ない彼女にとってみればまるで物語の中の出来事のように思えてしまうのではないだろうか。
 だとすれば、何故彼女は。

 
 私が何度死んでも生き返ると言っても驚かなかったんだろう?











 /   3



 


 身体に力が入らず、私は木に体重をかける様な形で地面へと座り込んだ。
 千切れとんだ右腕からは止め処なく真っ赤な血液が流れ出していて、ゆっくりとだが確実に地面に紅い絵の具を塗りたくっていた。
 ある男は涙で絵を描いたというが、私は血で絵を書けるだろう。いや、この量では無理だろうか。多すぎる上に止まらない。
 例え書いたとしてもすぐにでも上書きされてしまう事だろう。
  
 「あ、く……」

 痛い、痛い、痛い。
 壊れているのは右腕だけだというのに今にも狂ってしまいそうなぐらいに痛い。
 残った左手で必死に右手を押さえても何も変わらない。
 手当てという言葉は文字通りに手を当てる事を意味していたらしいのだけれど、そんなことでは気休めにもならないぐらいに私は壊れてしまっているらしい。
 忙、としてきた頭を気持ちだけで何とか繋ぎとめる。意識は時間が経つにしたがって朦朧としてくるにも関わらず、身体の痛みはさらに激しくなる。

 また今日も何も起こらない。
 いつもと変わらない一日。
 私が何を考えても、何をしても彼女はいつものように私を見つけ、一撃で致命傷を与えてくる。
 それでいて、私を一瞬では殺そうとしないのだ。毎日のように私を痛みで苦しめ、苦しみぬかせてから私が死ぬ寸前になって現れ、とどめの一撃を放つ。
 だとすれば、彼女はもうすぐ私の前に現れるのだろう。
 いつものごとく、無警戒に見える歩みで。

 「う、あっ……」

 だからこそ、私は 歯を折れよとばかりに噛み締め、傷口を自らえぐってまで意識をはっきりさせる。
 今までに一度も私は彼女に傷をつけた事はない。
 何も変わらない。
 だからこそ、私は彼女をなんとかして傷つけようとする。
 けれど私が使うことが出来る時間全てをそれに費やしても、どうしようも無いのだ。
 私が考える事等お見通しとばかりにあっさりと全てを見破るのだ。
 だから、今日私がやろうとしている事もばれているのかもしれない。
 いや、ばれているのだろう。
 けれど、私は―――

 三歩、二歩、一歩。
 
 彼女が私の目の前に止まる。
 私が彼女を見つめると、彼女も私を見下ろして来た。
 既に目は殆ど見えず、かろうじて輪郭が見えるぐらいだったが、私がやろうとしていることには支障が無いだろう。
 おおまかな位置と、タイミングさえ間違っていなければ当たるはずだ。
 
 零。

 私の壊れた体がはじけ飛ぶかのように跳ね上がる。
 彼女の足が私の血溜まりに踏み込んだ瞬間、私の左手は右腕の中に仕込んであった短刀を自分の身体ごと彼女に向かって叩きつけていた。
 次の瞬間、私の左腕が半ばから千切れ飛んでいた。
 いつの間にか真上から落ちてきていた光が肘の辺りで私の左腕を貫き、それから一瞬遅れて私に対して疼きを与える。
 その時には既に痛覚は麻痺していた。
 身体が私が生き延びる可能性を完全に無いと判断したのだろう。
 左腕が痺れているような感覚と右腕が冷めていく感覚だけが私の中に残り、その他の全てが両腕に開いた穴から紅い液体と一緒に流れ出していく。
 
 気が付いたら私は月を眺めていた。

 地面に力なく横たわりながら、明るさから考えてもうすぐ満月なのだろうな、とどうでも良いことを考える。
 また失敗だった。これで一体何度目になるのだろうか。
 『私』は死なない。
 死が無ければ始まりも無い。
 だとすれば、この結果もずっと同じなのだろうか。
 何をしても無駄なのは私がここで負けて死ぬことが初めから決まっているからだというのだろうか。
 だとすれば、私が死にに来るのもそれが理由なのだろうか。
 私がここで死ぬということは、既に定められた事項なのだろうか。
 不意に視界が闇に覆われた。
 銀髪の女性が私の事を見下ろしてくる。
 ぼやけた視界は輪郭しか捉えられて居なかった。
 が。
 何故か今日の彼女はいつもとは少し違う気がした。
 理由は分からない。感じただけなのだから。
 いつも、私は輝夜を殺すためにここへと訪れる。
 それなのに出てくるのはこの銀髪の女性。
 そして、文字通りに一矢も報いる事が出来ずに死ぬ。
 私は一体何をしているのだろうか。
 
 「死になさい」

 声が上から降って来る。

 ああ、また私は死ぬのか。
 キリキリと弓が軋む音を立てる。

 (ああ、それにしても―――)

 ヒュン、と風が切るような音がして。
 私の意識はそこで切れた。
 





 私が次に気が付いた時にはもう日が高く上っていた。
 いつのまにか身体の上にかけられていた茣蓙をはらいのける。
 よくよく考えて見なくてもこれを私の上に乗せたのは彼女だろう。その証拠に服が籠に入ったまま頭の上に置かれていた。
 それにしても、何で茣蓙なのだろう。
 そんな物をかけられたらまるで……

 「はは、っ」

 寝転んだまま小さく笑う。
 まるでもなにも、その通りじゃないか。

 あの子も粋な事をしてくれるものだ。






 /     4





 ゆっくりと両手で草を掻き分けながら緩やかな山道を適当に下る。
 いま私がいる山には崖というものはなかった。だから、何も考えずに山を下り続ける。方角があっていなくても目標となるものが何もなくても下にさえ下りればいつか麓にはたどり着ける。その後は街道を見つけるなり適当に歩き回るなりして目的地へとたどり着けば良い。誰かが居れば話を聞いてもいいし、誰もいなかったとしてもすぐに見つかるだろう。
 と、思っていたのだけれど。

 ホーホー、と梟が無く声が聞こえ始めたのを皮切りに、私は地面へと座り込んだ。「はぁ、」と大きく息を吐き出しながら大仰に肩を落とす。
 
 「やっと、着いた……」

 既に太陽は沈んでいて、空には月が昇っている時刻だ。夜空の殆どを雲が覆っているせいで雲間から降り注ぐ月光が闇に慣れた私の瞳には光の柱の様に見えていた。
 それを頼りにゆっくりと村の中へと歩を進めてゆく。
 
 当然のごとく、人が居ない。
 遠くに明かりがついた家が一つだけ見えるのだけれど、それを除けば光という物が存在しなかった。
 私が昔住んでいた家は夜になっても灯りが煌々と付けられていた。世話になっていた名前も覚えていない彼の家も同じように。
 だとすれば、唯一灯りのついているあの家が彼女の住んでいる屋敷なのだろう。今すぐにそこへ向かってもよかったのだが、もしかしたら今彼女は居ないかもしれない。いつもであればこのぐらいの時刻に私は殺されている。だとすれば、彼女は私がまた死んでいると思って色々と用意をしているのかもしれない。
 そういえば、今日は何故彼女は私が起きるまで待っていなかったのだろうか。私を起こそうとしなかったのだろうか。
 いままで彼女が私の所へと訪れた時には絶対にそうしていたというのに。

 「気を、使われたかな」

 小さく、口の中だけで呟く。昨日あんな物言いをしたせいで彼女は私の事を放っておこうと考えたのかもしれないと、何となくそう思った。

 ゆっくりと、村から離れる。
 その辺りで寝ても良かったのだけれど、さすがに良く知らない人達に寝顔を見られるのは嫌だった。
 だから私は森の中へと歩を進め、寝る場所をどこの辺りにしようかとまで考えた所で不意に生臭い匂いを感じて辺りを見回した。

 「野犬……?」

 闇夜の中、十以上の瞳が私を睨みつけていた。
 グルルルル、と低い唸り声がいつのまにか私を取り囲んでいたのに今更ながらに気づき、チッと軽く舌打ちをする。
 そういえば、何故かわたしはあそこに居た時に野犬に襲われた事は無かったな、とどうでもいいことを考える。よくよく考えてみると、あそこに居た間には人を襲うような動物はおろか、小さな野生動物にすら出会う事が出来ていなかった。いるのといえばせいぜい昆虫程度だったきがする。
 だが、そんなことは今は関係がない。 

 唸り声が四方八方から聞こえる。
 瞳たちが私の方へとゆっくりとにじり寄ってくる。

 「く、っ」

 前へは行けない。後ろにも下がれない。
 私は、また何も出来ない。
 ならば、せめて。
 祝いとしてもらい、結果として父親の形見となってしまった短刀を懐からゆっくりと取り出す。
 震える身体を鼓舞し、気迫だけは負けないように、とその瞳を睨み返す。

 不意に音が消えた。

 ザッと背後で土を蹴る音が聞こえ、反射的に短刀を振り回していた。
 鈍い手ごたえはあった。けれど、短刀が刺さるのを感じるのと同時に私は影に力ずくで地面へと押し倒された。肉を切り裂かれ、血を撒き散らしながら野犬が私へとのしかかる。刺し貫いた傷口からは血が流れ落ち、私の服をまだら模様へと染め上げる。
 刹那、私を押し倒していた野犬が私の喉元へと牙を付き立てた。

 「―――――」

 いつもの感覚。終わり無く続く痛みがまた私を襲う。周りに居た野犬達も我先にと私の身体へと食らいつこうと近寄ってくる。
 弱肉強食。
 弱い物は食われ、強い物は食べる。つまり、私は野犬よりも弱いということになるのだろうか。

 「く、あ。ああああああっ!」

 喉から血を撒き散らしながら絶叫と共に右手で野犬に再度短刀を野犬の首筋へと突き刺す。ギャン、という声が聞こえて私を押さえつける力が弱まった所でそのまま一気に短刀を押し込む。一瞬野犬の身体が震えたかとおもうと、突然力を失ってソレは私の上へと倒れこんできた。力なく私にのしかかる肉塊を一息に横に投げ捨てる。
 それを見て周りの野犬達が一瞬立ち止まり、再び唸り声をあげ始める。

 私はゆっくりと立ち上がった。
 喉から流れ出している血は止まらない。
 服は私と野犬から流れ落ちた血で真紅に染まり始めている。
 
 私はまた死ぬのだろう。この首筋にくわえられた傷は致命傷だ。
 ぎり、と歯を食いしばる。
 私はまた死ぬのだろう。
 何もしなくとも血が流れ出してゆくだけで人は死ぬのだから。

 放って置くと倒れてしまいそうな身体に鞭打ち、無理矢理に前傾姿勢を取る。
 最後の力を振り絞って野犬の群れに対して捨て身の突貫を開始する。

 (ああ、それにしても――――)

 野犬の群れが私に襲い掛かる。短刀は一本。牙は百本。何の力も無い私に勝てる道理等無い。
 それでも、私は戦う。殺されれば死ぬ野犬と違って。
 『私』は死なないのだから。

 ヒュン、と風を切るような音と共に短刀が振られた。
 最後の力を振り絞ったそれは容易く避けられ、反対に短刀を振ったせいでバランスを崩した私に野犬が襲い掛かる。
 一方的な殺し。それが当然の事。
 その時扱う事の出来る力に差があれば戦う前から勝負がついている。
 
 初めに腕を食いちぎられた。次に腿。お腹はその次で、その後に胸。
 頭がそのまま残っている限り私の意識は失われない。

 私は死ぬ。
 いつも通りに。
 経過はどうであれ、終わりは同じ。

 だから。



 (――――私は、弱いな。)


 
 いつも、死ぬ前に頭に浮かぶ言葉は変わらない。

 

 




  /     5






 いつも通り、私は目を覚ます。服は血だらけで穴だらけ。そこら中に狼の毛がくっついていて気持ち悪い事この上ない。
 今日目が覚めたのはごつごつした岩場の上。確か狼に襲われた場所は森の近くだったから誰かが私をここまで運んできたのだろう。

 「ああ、起きたんだ」

 不意に後ろから声が聞こえてきて私は反射的に後ろへと振り向いた。けれどそこには誰もおらず、巨大な岩が鎮座しているだけだった。空耳かと思い左右を軽く見回していると、上からくすくすと笑い声が聞こえてきてあわてて上へと首を巡らせる。
 丈が8尺を越えるのではないかと思われる岩の上に座っておかしそうに笑っている少女は若葉色の服を身に纏っていた。年のころは十に行くか行かないかという所だろうか。私の背丈よりも頭一つ分ぐらい低いように思われた。
 その少女は愛らしく整った顔立ちをしていた。けれど、私を驚かせたのは髪の色だった。
 長い金色の髪と同じ色をした瞳。普通であればありえない特異な色をもった少女が私を見下ろしながら微笑んでいた。

 「無理しちゃ駄目だよ。死んじゃったら終わりなんだから」
 「……君が私をここまで?」
 「うん、そうだよ」
 
 そこで私は少しだけ逡巡すると口を開いた。
 普通の少女であれば私をひとりでここまで運ぶなんてありえないし、そもそも髪や瞳があんな色になることなどありえないだろう。
 長い生を持っている自分ですら始めて見るものがあることは勿論認める。けれど、あれはさすがに無いのではないだろうか。

 「……ちょっと聞いていいかな」
 「なあに?」
 「君はさ、人間じゃないの?」

 その言葉に少女は苦笑する。

 「やっぱり、わかっちゃう?」
 「まあ、その髪の色だとね。」
 「そっかー。相手が人間じゃなくてもばれちゃうんじゃ駄目だねえ」
 「……人間じゃない?」

 その言葉に少女はきょとんとした表情を見せた。
 首を傾げながら私が言った言葉を吟味していた様に見えたけれど、結局何も思いつかなかったのか私の方へと再び視線を戻す。
 
 「あれ、だって人間じゃないんでしょ」
 「私は……」
 「だって人間があれだけの傷から自然に治癒するなんてありえないじゃない。私を騙そうったって駄目なんだから」

 少女がぶらぶらと岩の上で楽しそうに両足を振っているのを見ながら思う。ああ、そうだ。確かに彼女の言うとおり。
 人間ならば、あれだけの傷を受ければ間違いなく死ぬ。

 「ところで、いい?」
 「……何?」
 「何でさ、わざわざあんな所に行ったの?」
 「わざわざって?」
 「もー、分かって言ってるんでしょ。狼の縄張りになんでわざわざ入ったのかってこと。あそこが狼の群れの縄張りだって事にまさか気づいていなかったなんて言わせないよ?」
 「…………」
 
 私がその言葉に黙っていると、少女は首をがくりと落としながら大きく溜息を付いた。
 
 「ねえ、貴方って何歳なの?」
 「歳なんて覚えてない」
 「……結構歳を取っているって事?」
 「まあ、ね」

 その言葉に少女はふうん、と何かを考えるような様子を見せた。

 「まさかと思うんだけどさ、力を失ったなんて事は無いよね?」
 「なんでそんなことを聞くの」
 「だってさ。本能が知らせてくれない?普通危険な相手が居たら分かるでしょ。だったら昔力が強くてあの程度の相手じゃ何も感じられないようになっちゃったのかなーって」
 「ふん、まさか。私はずっと人間だよ」

 瞬間、ぞくりと背筋が総毛だった。
 昨日の野犬の時は何も感じなかったのに、この少女はやばいと本能が警鐘を鳴らす。
 いつのまにか細くなっていた黄金色の瞳から目が離せなくなる。
 身体が少しも動かせなくなり、瞬きすら出来なくなった。
 
 「人間、ねえ……」

 声を出そうにもまともに息が出来ない。
 銀髪の女性と対峙していた時にも初めの内はこれと同じ感覚を得ていた。そう考えると慣れているのだろう。自分では足元にも及ばない相手と争うという事は。 戦いではなく一方的に殺される相手といつも向かい合っているのであれば、脅威に対しての感性が麻痺してしまっても当然かもしれない。

 「ねえねえ、はっきり答えてよ。どうなのかな。貴方が人間じゃないって思ってたから助けてあげたんだけど、普通じゃない人間だっていうなら」

 何も答えられない私に少女がゆっくりと近づいてくる。
 少女が私の顎を掴み、無理矢理に上へと向かせた。自ら淡い光を放つ人間ではありえない瞳に見つめられる。
 私はこの子に敵わない。何をしているわけでもないのに、私はそう感じていた。
 その瞳に見つめられていただけで指一つ動かせなかった。
 少女がゆっくりと口を開く。

 「うふふ、冗談。私は人間なんて食べないよ」

 途端、すっと全身から力が抜け、私は地面へと崩れ落ちた。
 仰向けになって空を見上げている私の視界に少女の顔が映し出される。

 「変なのに食べられちゃ駄目だよ?」

 あっさりと。
 その言葉を最後に少女は私の視界から消え去った。
 


 一刻程経っただろうか、私はゆっくりと身を起こした。ここに居ても仕方が無いし、そもそもの目的は彼女に会いに行くという事だった筈だ。立ち上がり、そこではたと気が付く。こんな服で私は村へといくつもりだったのだろうか。
 血まみれでそこら中に穴が開き、今更ながらに気が付いたのだが右の乳房が完全に見えてしまう状態にさえなっていた。

 「…………」

 自分の身体には勿論傷は残っていない。けれど、こんな状態で村になどいけるはずも無い。彼女と会う前はいつもそれを意識していた。けれど、いつのまにか私はその事が当たり前になってしまっていたらしい。

 「……明日でも、いいか」

 いつも自分が寝ている場所、そこを目指して私はゆっくりと歩き始める。






   /     6







 「おはよう、今日は死ななかったんだ?」
 「ああ、おはよう」

 今朝、気が付くと彼女が直ぐ横に座っていた。
 たった二日開けただけだというのに、何となく私には懐かしい感じがして、素直に挨拶をしていた。
 いつもであれば悪態の一つでも返すというのに、何故か今日の私はそういう気分になれなかった。
 何故だろう。
 つい先ほどまで見ていた夢のせいだろうか。

 
 夢の中、私は空を飛んでいた。
 確か広大な竹林の上だったと思う。
 羽ばたきもせず、風も受けず、只空を舞っていた。
 私が何となく下を見下ろすと、誰かが空を見上げていた。
 
 見覚えのある背丈。
 見覚えのある姿。
 見覚えのある顔。

 地面から空を見上げていたのは私だった。
 だとすると。
 今空を飛んでいるのは誰なのだろうか。
 地面に立つ私を見下ろしているのは誰なのだろうか。


 そこで、夢は終わる。
 彼女の声で無理矢理に目覚めさせられたわけではなく、気が付いたら私は目が覚めていた。

 「どうしたの?」

 にこにこと笑いながら彼女が私に話しかけてくる。
 いつもと全く変わらない表情。私がどんな対応をしても、どんな反応をしても何も変わらない。
 
 「いや、別に何でもないさ」

 そう。
 なんでもない。
 只の、夢だ。

 服や食べ物のお礼の他愛もない話を私達は続ける。
 話すのは私。相槌を打つのは彼女。
 私が覚えている事、思い出したことを適当に話す。
 彼女はその話で思ったことを簡単に述べる。
 私達の関係とは一体何なのだろう。
 彼女は私の事をどう思っているのだろう。
 私は彼女の事をどう思っているのだろう。
 分からないまま、私達は話し続ける。

 別れ際、彼女が少し寂しそうにこう言った。
 「私、もうすぐ来れなくなるの」
 その理由を私が問うと、彼女は曖昧な笑みを浮かべながらこう言った。
 「私、もうすぐ死ぬから」
 それは死ねない私に対する嫌味かと言ったら彼女は小さく首を振るだけで何も答えなかった。

 
 夜になって。
 私が輝夜の元へと向かうと、やはり銀髪の女性が現れた。どうやって嗅ぎつけているのかは良く分からないのだが、いつもこの場所に来ると律儀に私の前に立ち塞がってくれる。一日ぐらいは休んでくれたっていいじゃないか。

 「あら、今日は来たのね」

 軽く眉を上げる銀髪の女性。用があるのは輝夜で、彼女では無いというのに。

 「はん、別にいつだろうと同じだろうよ」
 「まあそれはそうなのだけどね」

 私の軽口にも彼女はそう言って彼女は軽く肩を竦めるだけだった。
 
 「で、今日は一体何をしに来たの?」
 「ふん。そんなの知った事だろうに」
 「相変わらず良く分からない子ね。本当に何がしたいのかしら、貴方は」

 何がしたい。
 そんなの決まっている。復讐だ。
 輝夜を殺す。輝夜を殺す。輝夜を殺す。
 私の父を殺し、私をこんな身体にしてくれた輝夜を殺す。
 私の今の目的は、それだけだ。

 「それで、どうするのかしら」

 銀髪の彼女が私から視線を外し、背負っていた弓を無造作に左手で持った。瞬間、私は彼女の左腕を切りつける。
 しかし彼女は私の動きを読んでいたかのように弓で短刀を弾き、私の体勢を崩させるとそのままぬき手で私の喉を潰してきた。

 「か、はっ……」

 息が出来なくなり、とっさに後ろに下がろうとした所を弓で側頭部を強打され、そのまま地面に突っ伏す。
 たった数秒の攻防。いや、攻防とも言えない。私は只あしらわれているだけ。
 
 「本当に、何がしたいの。貴方」
 「わ、たし……は……」

 気管がつぶされているせいでまともに声が出ない。
 見下ろしてくる銀髪の女性。
 地面に突っ伏している私。
 
 いつも変わらない。
 いつも。
 いつも。
 いつも。

 何も、変わらない。
 
 「は、はっ……」

 不意に笑いがこみ上げてくる。
 
 「く、は……ははっ」

 理由は分からない。
 でも、単純に笑いたかった。

 「は……はっ」

 息もろくにできないのに。
 呼吸が苦しいのに笑う。

 「あ、は……ははっ……」

 地面に突っ伏して。
 他人に見下ろされながら。

 「はは、……は……っ」

 私は笑い続ける。


 そして、それを彼女はじっと眺め続けていた。






 気が付いたとき、もう彼女は居なかった。
 止めを刺さない理由など分かりきっている。
 どちらでも同じだからだ。
 せいぜい違うとすれば、服に穴が開くか開かないか。
 私が抵抗すれば殺すし、私が何もしなければ殺さずに去ってゆくだけ。
 そう、いつもの事。
 私も、彼女も変わらない。







 





   /     7







 あれはいつの事だったのだろうか。一本の見事な桜の木を見た記憶がある。
 もう記憶がごちゃ混ぜで、昔の事は昔の事としか思い出すことが出来ない。
 建築物があれば大体の時代は分かる。
 でも、風景や景色となるともうどうしようもないのだ。
 指針となるような物が何もないのだから。

 記憶も物と同じように風化する。
 生きていないものでも風化する。
 
 だとすれば『私』という存在もいつか風化して消えて無くなるだろうか。
 

 コンコン、と門を叩く。
 それは両開きで、内側から閂がかかっている様だった。押しても何かがつっかえる様な感触があり、全く開こうとしてくれなかった。
 それは大きな門。私の身長の数倍の高さまであり、それは見るからに頑丈そうな代物だった。
 私は彼女に会いに着ただけ。
 単純にこの辺りで一番大きな家、もとい、この村唯一の大きな家を訪れたのだった。本当に彼女がここに住んでいるのかも分からないし、そもそもここには誰も住んでいない可能性だってあるのだ。見るからに豪華なこの家だって誰かの別荘という可能性だってある。
 
 返事が無い。
 だから、またコンコン、と数回門を叩く。
 諦めて帰ろうか、それとも他の誰かに聞いた方がいいのか、とまで考えた所で内側からゴトリという音が聞こえてきた。少したってからギィ、という音がしてとびらがゆっくりと開いた。先ほど聞こえた音は閂を外した音なのだろうな、と私は思った。

 「何方でしょうか……」
 「あ、えっと……」

 そういえば、私は彼女の名前も知らなければ、私の名前を教えた事も無かった。ちょっと考えて当たり障りの無い言葉で彼女の事を尋ねる。

 「えっと。この家に私と同じぐらいの背丈で、同じぐらいの年頃の女の子は居ませんでしょうか。もし居るとすれば私が良くお世話になっている子だと思うんですが……」

 そこまで言って、内心で辟易する。私と同じぐらいの年頃だなんて、そんな子いるはずもないだろうに。
 けれど、私の言葉にその女性は少し驚いたような表情を見せた後、少し何かを思案する様な様子を見せた。

 「あ、居なければいいんです。ここの家に居ると知っているわけでは無いんですし。」

 困ったような表情をする女性に背を向け、足を一歩踏み出そうとしたその時、背後から声が聞こえて私は後ろへと振り返った。

 「貴方は……」
 「え?」
 
 そこでまた女性は口を噤んでしまった。
 私が彼女の方へと向き直っても、彼女は私と目を合わせずに俯いているだけだった。

 「貴方は、お嬢様の御名前をご存知ですか?」
 「いえ、知りませんけど。それが何か?」
 「そう、ですか……」

 明らかに落胆した様子を見せる女性に、私は首をかしげる事しか出来なかった。
 一体名前が何だと言うんだろう。

 「失礼致しました。お嬢様は今お客様とお話中ですので、暫しお待ち下さい。もし宜しければ―――」
 「いえ、大丈夫です。その辺りで時間を潰させて貰いますから。いつも世話になってるんですし」
 「そうですか。わかりました。お嬢様にその旨お伝えしておきます」

 そう言ってその女性は深々と頭を下げた。


 一刻程経った頃だろうか、彼女が早足でやってきた。手にはいつもの様に籠を持っている。なかには恐らく食べ物でも入っているのだろう。 今朝は彼女は来なかった。もしかするともう二度と会えないのではないかとも思ったのだが、よくよく考えてみると数日間彼女が来なかった事も今までにはあった。
 
 「ごめんなさい、遅くなりました」
 「ん、ああ。別にいいけどさ」
 「お腹すいたでしょう、どうぞ」
 
 そう言いながら彼女が案の定籠の中から握り飯を取り出し、私に手渡してくれた。
 そして、そのまま岩の上に座る。
 
 「めずらしいね、私の隣に座るだなんて」
 「そう、だったかな?」
 「そうだね。いつもだったら私の正面に座ってる」
 「そっかぁ」

 そう言うと彼女は黙り込んでしまった。二人とも何も話さない。握り飯は二人とも手に持ったまま、口をつけようとしなかった。私はなんとなく居心地が悪くなって頬を掻いたりしていたものの、一向に彼女が喋り出そうとしないところを見て、何でもいいから話しかけてみようと思い、口を開く。

 「あ、あのさ」

 その言葉に彼女は顔だけ私の方に向けた。
 そして、私は驚いた。
 彼女が笑っていなかった。
 いつでも、私が始めて会った時からずっと彼女は笑みを絶やしていなかったのに。

 「あ、え、っと……」
 「どうしたの?」

 それに気が付いていないのか、彼女は普段と同じ様子で話しかけてくる。
 何故かその表情を見ているのが嫌で、私は彼女から目を逸らしたままで無理矢理話しを続けた。

 「いや、さ。いつか疎まれているって言ってたけどそんな事無いんじゃないのかな、って思ってさ」
 「どうして?」
 「今日だって客が来てたみたいだし、あの私を対応してくれた人だって、さ……」
 
 言葉が力なく消える。
 彼女がどんな顔をしているのか見たく無かった。

 「き、気のせいじゃないのかな。疎まれているなんて。私みたいに変な身体じゃないんだし……」
 「だったら……」
 「……え?」
 「だったら、よかったんだけどね」

 音も無く、彼女が岩の上から立ち上がる。

 「ごめんなさい、また……」

 ぺこり、と一礼をして彼女は立ち去ってしまった。
 後に残された私はその後姿を呆然と見送る事しか出来なかった。 


 何をするでもなく、草の上に寝転がりながら空を見る。
 月は既に地平線の下へと潜ってしまっているので、今日は星明りだけが辺りを照らしていた。
 
 「ん……」

 辺りを見回しても何も見えない。
 闇夜に目が慣れているにもかかわらず、辺りの木々ですらおぼろげにしか輪郭が掴めない。
 伸ばした手の指すらもはっきりと見ることが出来ない。
 
 「死ぬ、か」

 彼女は自分がもうすぐ死ぬと言っていた。
 理由は何なのだろう。
 彼女の歳で老衰という事はありえないだろう。
 彼女は病に侵されているといわれても信じられないだろう。
 彼女が誰かに殺されるとしても、それを自分で知る事は出来ないだろう。
 
 分かっていることは一つだけ。
 彼女が死ねば。
 私はもう二度と彼女と会うことは無くなるのだ。
 そう、ただそれだけの事。
 私は今までに幾多も数多も経験し、通過して来た出来事。
 私は誰かと出合ったその時から別れの事を考える。
 相手が生きているうちに分かれるのだとしても。
 相手が死んでから分かれるのだとしても。
 私が一人になる事には変わりが無い。

 「ったく、もう。私も本当に……」

 懲りない。
 誰かと親しくすればこうなる事ぐらい分かってるのに。表面上は悪態をついていても、私は誰かに寄り添おうとしてしまう。
 そんな事をしても、結局の所別れが辛くなるだけだというのに。
 
 こればかりは何度経験しても慣れない。
 いや、永遠に慣れる事は無いだろう。
 私が変わらない存在だとしても。
 相手は変わる存在なのだから。
 私は同じ相手と二度と会うことは無い。
 だから、そもそも慣れる事は無いのだ。
 経験とは一度でも同じ体験をしないと身につかない物なのだから。

 「ふ、う……」

 何も見えないまま、輝夜が住んでいるであろう方角に目を向ける。
 輝夜。
 私をこんな身体にした憎むべき存在。
 私と同じ、蓬莱人。
 
 終わらない存在。
 始まらない存在。
 死なない存在。
 生きていない存在。
 
 死とは何なのだろう。
 肉体が死ぬ事?
 精神が死ぬ事?
 魂が滅びる事?
 全て消える事?
 
 『私』は死なない。
 輝夜も死なない。
 
 だとすれば、一体私は何をしようとしているのだろう。
 
 『私』も輝夜も終わらない存在。
 『私』も輝夜も始まらない存在。
 
 だとすれば、何故私は輝夜を未だに恨んでいるのだろうか。
 
 『私』も輝夜も死なない存在。
 『私』も輝夜も生きていない存在。

 だとすれば。私は一体どうすればいいのだろう。


 そもそも、生きるというのは何なんだろう。
 死ぬということについては明確だ。
 終わるという事。
 それ以降この世で何も為し得なくなるという事。

 だとすれば、生きるという事は何なのだろう。
 生が死の反意語であるとすれば、何かを為すという事が生きているという事になるのだろうか。
 『私』は死なない。
 では、生きていないというのは何なのだろう。
 何も為しえない事が死ぬという事。何かを為すという事が生きるという事。

 『私』は、何かを為しているのだろうか。
 『私』は、何かを為しうる存在なのだろうか。

 『私』は生きたいのだろうか。
 『私』は死にたいのだろうか。

 私には、それすらも分からないのだ。






   /     8







 生きるという事は苦しむという事。
 遥か昔、誰かがそんな事を言っていた気がする。
 それは私がまだ普通の人間だった頃の記憶だったと思う。
 誰が言った言葉だったか、思い出すことは出来ないけれど。
 私が普通の人間だった頃の記憶なんてもう殆ど残っていない。
 砕け散った思い出のカケラがそこら中に散らばっている感じで。
 私はピースを無くしてしまったパズルを一生懸命に組み立てようとしている。
 ああ、なんて無様。
 いつまで経っても完成する事なんてありえないのに。

 
 半分眠った様な意識のまま、私は目を覚ます。
 今日も彼女は居なかった。それを知って落胆する自分が嫌になる。
 太陽は既に空高くへと上っていて、もう日が昇ってからかなりの時が経っているのに今更ながら気づいた。
 普段の私はこんな時間まで寝ている事は無いのに、今日は一体どうしたというのだろう。頭の近くに置かれていた籠から服を丁寧に取り出した時、一枚の紙がはらりと地面に落ちた。それをゆっくりと私は拾い上げる。

 表を見ても裏を見ても、宛名も差出人も書いていなかった。
 書いてあったのは短い文が三つ。

 『突然でごめんなさい
  もう来れなくなります
  今までありがとうございました』

 ただ、それだけだった。
 
 それを読んで、私はどう思ったのだろうか。
 よく、自分でも分からない。
 別れが来るなんて分かっている。
 それが唐突な物なのだとも、よく知っている。
 
 気が付いたら、私の手の中の手紙が握りつぶされていた。

 分かっている。
 私は彼女になにもしてあげていない。
 彼女の事を知ろうともしなかった。
 私の事を話そうともしなかった。
 だから、彼女は何も言わずに私の所から去って行った。
 
 これで終わり。
 彼女は死に、『私』は死なない。
 長いようで短いようで。
 思い出と言えるほどの思いでも無い私達の関係はこれで終わり。
 
 楽しかったのだろうか。
 彼女と話せて。
 嬉しかったのだろうか。
 私を普通に扱ってくれて。
 好いていたのだろうか。
 自分の事を普通ではないと言っていた彼女を。

 考える。
 彼女が持ってきたのであろう、籠を見つめながら。
 私は、何も言っていない。
 彼女にお礼も、別れも告げていない。
 
 だから、すっと私は立ち上がった。
 名も知らぬ彼女に会いに行くために。
 例え彼女がそれを望んでいないのだとしても。 
 それが私のわがままに過ぎなくとも。


 




 気が付いたら、私はだたっぴろい草原に一人で立ち尽くしていた。
 ここがどこなのか、良く分からない。私は確かに村に向かっていた筈なのに。
 見覚えの無い場所。そもそも、ここまで広い草原が近くにあったら私も知っている筈だ。
 
 遠くで何かが朧に輝いていた。

 桜。
 一目見ただけで、そうだと分かる。
 今はまだ春ではないというのに桜花をその身に纏いっていた。 
 どれだけ大きいのだろう。これだけの距離を経てなお、その威容に圧倒される。
 そして、吸い寄せられる。私はあそこへ行きたいと。
 知らず知らずのうちに、私は一歩を踏み出していた。
 私の意志とは別の何かが私を前へと進ませる。

 けれど、数歩歩いた所でその歩みは終わる。
 
 「こんばんは」

 あの、金色の髪と瞳を持った少女がそこに佇んでいた。

 「良い夜だと思わない? こんな夜はのんびりしているのが良いと思うんだけどな」

 私の方へと視線を向けず、空をじっと見つめる。

 「なんでわざわざ来たの。手紙、読んだんでしょ?」

 表情は暗さと相まって少女が桜の輝きを背に背負っているので良く分からない。

 「なあ」
 「なあに?」
 「彼女は、なんで私のところに来れなくなるのか知っているのか?」
 「死ぬから」

 素っ気無い言葉。
 
 「じゃあ、彼女はなんで死ぬのか知っているのか?」
 「知ってる。でも教えない。教えてはいけないと言われているから何も言えない。それ以前に、私はあなたの事が嫌いだから、教えてあげない」
 「……そうか。なら―――」

 瞬間、背筋にゾクっと薄ら寒い物が流れ込んでくる。

 「通さないよ」

 いつの間にか私の方を向いていた少女の瞳が細くなっていた。
 
 「通さない。絶対に、通さない。邪魔はさせない」

 次第に、周囲の気温が上がってゆく。炎の球が数個宙に浮かび、辺りを煌々と照らし出す。

 「それでも通るって言ったら?」
 「殺す」

 簡潔な言葉。
 
 「身の程もしらないで、生意気な口をきくな! 何も出来ないくせに、何も知らないくせに」
 「……」
 「そう、何も。私程度すら打ち破れないあんたに何かを望む資格なんて無い! 何もしようとしなかったくせに今更になって!」
 「はは……」
 「何がおかしい」
 「いや、同じような事を何度か言われていてね……」
 「そうだろうね。あんたを見ていたらそう言いたくなる。自分が傷つきたくないから何もしない。自分が嫌な思いをしたくないから何もしない。全部逃げているだけじゃないか。それでいて何かを望むっていうのかあんたは!」
 
 本当に、今更だ。
 彼女が死ぬと聞いて、彼女のためでなく自分のためにここに来た。
 納得したかっただけ。彼女が死ぬのが嫌なのではなく、この出来事を後になって自分に言い訳が出来るオモイデにしたかっただけ。
 『私はこれだけやったのだ。だから、私は後悔する必要なんて無い』
 そう、ただそれだけのこと。
 そんな私に確かに彼女に会う資格なんて無いだろう。
 でも、それでも私は彼女に会いたい。
 それは本心からの想い。
 
 「会いに、行く」
 
 炎に照らしだされている少女の顔が無表情になるのを私の目が捉えた。
 少女が右手を上げると、今までに倍する数の炎の玉が周囲に出現する。 

 「一歩でもこちらへと近づいてみろ、次の瞬間には命が無いものと思え!」
 「はは、私の命を? そんなの軽い脅しにしかならないね」
 
 私は死ぬ。けれど、『私』は死なない。
 だからこそ、勝てないであろう相手とでも私は戦える。
 でも、今ここで死ぬわけにはいかない。彼女に会えなくなってしまうのだから。 
 
 懐から短刀を取り出し、右手に持つ。
 何度死んでも、気が付くといつも私の傍にこの短刀はあった。
 遥か昔、私が蓬莱の薬を奪った時に輝夜を育てた夫妻を殺めた短刀。
 私の父からの唯一の贈り物。
 それを握り締め、右足を軽く後ろに引く。
 私と少女の間は10メートル程度。周囲には炎の玉。
 私はそんな異能は使えず、さらに武器はこの小さな短刀一つ。
 恐らくは、少女は身体能力だけでも私を遥かに凌ぐのだろう。

 絶望的な力の差。
 戦う前から勝負がついていると言っても過言ではない。
 勿論、『私』は死なない。
 けれど、今の私にそれは全く関係が無い。
 何故か、彼女があの桜の下にいるのは分かっていた。
 だから前へと進み、彼女と会う。それを為すためには私は死ねない。
 死んでも良いとは思わない。

 今、私は生きているのだろうか。

 「通して、貰う」

 始めて少女と出会った時は、一歩も動く事が出来なかった。
 けれど、今は動く事が出来る。何故だかなんて勿論分からない。
 一歩目から全力。後のことなんて考えない。
 私が右足で地面を蹴るのと同時、少女は宣言通りに私へと火の球を投げつける。
 勿論、私の視覚では捉えきれない。
 けれど。
 
 左足で地面を思いっきり蹴り、転がりながら横へと避ける。
 正直に真正面から私を狙っていた二つの火の玉は地面へと落ち、大地を燃え上がらせた。
 
 「ふ、っ」

 転がったその勢いのまま立ち上がり、再び少女を睨みつける。
 まさか避けられるとは思っていなかったのか、二発目を放つ事なく少女は私の方を睨んでいた。

 「よく、避けたね」
 「目では捉えられない攻撃には慣れているからね」

 勿論、こんな程度じゃあの銀髪の女性には手も足も出ない。
 例え避けに徹したとしても一撃で私は殺されるだろう。
 少女との距離はこれで8メートル。後数回これを繰り返せば手が届く。

 「そう、じゃあ本気で行くから。避けてみてよ。死ぬまでずっと」

 火の玉が次々と私へと襲い掛かる。
 けれど、当たらない。視認も出来ない速度である事には変わりが無い。
 でも、それは単調だった。全てが直線の軌道で撃ち出される。
 牽制も無ければ、不意打ちも無い。最短距離で、最速で私の方へと打ち下ろされる。
 一発直撃すれば終わり。私は為すすべ無く骨まで燃やし尽くされる事だろう。
 少女が手を振るたびに新しい火球が生み出され、手を振り下ろすとそれが発射される。

 「ははっ、その程度か?」
 「逃げ回るだけの羽虫が偉そうにっ!」

 少女が手を振り下ろし、私が横へと飛び退く。
 それを何度も繰り返す内に、私と少女の距離は次第に狭まる。
 初めは10メートル。今は5メートル。
 けれど、それに応じて少女の放つ弾幕は激しくなってゆく。
 
 風を切る音と共に至近を火球が通り抜ける。
 とっさに横へと飛ぶが、間に合わずに左腕の外側を燃やされた。表面が爛れ、肉が焼ける嫌な匂いが鼻に障る。

 「く、っ」

 痛い、痛い、痛い。
 いつもとは少し違った感覚。
 左腕の表面に針が刺さっているような違和感。
 右手で左腕を押さえたくなるのを必死に我慢し、少女の方を睨みつける。
  
 「なんだ、私が一歩でも前へと進んだら殺すんじゃなかったのか?」
 「うるさいっ、黙れ!」
 「いやだね。言う事を聞く理由なんてどこにもないさ。それともなんだ、言う事を聞けば私の邪魔をせずに通してくれるとでも言うのか?」
 
 少女は私の事を睨み返す。
 憎悪を隠すことなく表情で表し、視線はそれだけで人を殺せそうなほどに鋭い。

 「私を通せ。さもなくば、殺してでも行かせて貰う」
 
 私と彼女の距離は既に三メートル。
 左腕は殆ど動かない。
 ずっと息を止めて運動していたせいで、呼吸が荒い。
 避ける事は出来る。でも、勝てるとは思わない。
 けれど、死んでも良いとは思わない。
 彼女に会う。そして、話をしたい。
 その為には、なんとかしてここを生きて通り抜けなければならない。

 「邪魔をしないで欲しい。私は彼女と話をしたいだけなんだ」

 少女の顔が歪む。
 悲しそうに、悔しそうに。

 「……なんで」

 少女がゆっくりと宙に浮く。
 視線は私から離さない。
 
 「……何で」

 少女の全身がゆっくりと炎に包まれてゆく。

 「何でそれをもっと早くあの人に言わなかったんだあああああああああっ!?」
 
 次第に大きくなる火の玉を見て私はまるで太陽が落ちてきたようだな、と頭のどこかで思った。
 ここに立っているだけで息がまともに出来ない。
 焼けた空気を吸い込むだけで、肺が激しく痛む。

 ああ、無理だ。と私は頭のどこかで思った。
 また私は死ぬ。いつもと同じように。
 あんなものにどうやって対抗すればいいのだろう。
 何もされなくとも、そこにただあるというだけで私を殺しうる。

 はは、と口から笑いが漏れていた。
 火球が次第に私の方へと落ちてくる。
 私の事を焼き尽くそうと、私という存在を消し去ろうと、落ちてくる。
 そんなことをしても、私はここから立ち去るつもりなんて無いのに。
 
 一歩一歩、ゆっくりと前へと進む。
 上を向くと、火の玉が空を埋め尽くしているように見えた。

 私は馬鹿だな、と心の中で呟く。
 少女の言うとおり、もう少し早く動き始めていれば、何かが変わっていたのかも知れない。

 その結果がこれ。
 本当に自分が嫌になる。

 「………言い残す事は何かないの?」
 「言ったら彼女に伝えてくれるのかい?」
 
 私の答えに対して少女は無言。
 でも、何であの子は私に対してあんなに怒っているのだろうか。それがどうしても理解出来ない。
 勿論聞いたところで答えてくれることは無いだろう。
 それでも。
 私は少女に聞いてみたかった。

 友人が死ぬから?
 自分では止められないから?
 私ならば止められると思っていたから?
 
 だとしたら、何故だろう。
 少女は一体私に対して、何を見たのだろう。

 「これで最後。引く気はないの? 貴方を殺したらあの人が悲しむから。例えこの光景を見ていなかったとしても、絶対にあの人は気づくから」
 「…………」
 「だから、引いて」

 輻射熱だけで身体が溶けそうだ。
 服が所々焦げ始めている。
 釜茹での刑を受けた罪人はこんな気分なのだろうか。
 
 少女は、何を望んでいるのだろう。
 私には分からない。
 でも、私が今やりたい事は一つだけ。やるべき事も一つだけ。
 自分のために、彼女の元へ行くこと。
 それが結果として何をもたらすかなんて分からない。
 そもそも、このままではたどり着けないだろう。
 でも、もしも。
 私が彼女の元へたどり着けたら、彼女に何を言うのだろう。
 そして、彼女は私の言葉に対して何を返すのだろう。

 「…………断る」
 
 何度も、何度も繰り返されたこのやりとり。
 少女は私を殺すと言い、私は前へ進むと言い続ける。
 でも、もうこれも終わり。
 既に熱を帯びた私の身体は次第に機能を失ってゆく。
 
 (私は彼女に会うんだ)
 
 息が出来ない。
 吸い込んだ空気が肺を焼く。

 (私は彼女に会って)

 膝ががくりと折れる。

 (一言でいいから)

 力なく、地面に倒れふす。

 (言いたかった)

 太陽が落ちてくる。
 私の身体の上に。





























 少女が泣いていた。
 私の亡骸の隣で泣いていた。
 
 




 それを、『私』がじっと見つめていた。

























 あぁ。
 だから生きることは苦しむ事なんだろう。
 確かに私は今苦しんでいる。熱に、火傷に、生に、死に、名も知らぬ彼女に、復讐に、輝夜に、あの白髪の女性に、全てに。

 死なない体は生きているのか。
 生きない心は死んでいるのか。
 私の意識は深く闇に飲まれ、何も考えられなくなっていく。
 また、私はいつものように死んで、いつものように生きるのだろう。

 私の体はがらんどう。
 私の心もがらんどう。

 金髪の彼女が私を見下ろしている。
 彼女の作り出した太陽は何処にも無く、それは同時に炭となった私の身体と同義。
 そういえば、少女の名前も私は知らない。どうでもいい思考が停滞気味に垂れ流される。

 今度は。今度こそは……

 今度こそ?
 今度こそ何をすると言うのか。
 私は何がしたいのかわからなくて、それでも毎晩通いつめる先には黒い髪のアイツを殺すんだという意識だけは消えない。

 
 








 ―――――わたしは。












 今のままじゃ駄目だ、あの銀髪の彼女に殺されるだけだ。
 ならば何が必要なのだろう。

 そうだ、力が足りない。
 そうだ、命が足りない。
 そうだ、心が足りない。

 そうだ、何もかもが足りない。




 
 
 (………ごめんなさい)

 聞こえるはずの無い声が聞こえる。
 聞きなれた、やわらかな彼女の声が聞こえる。

 駄目だ。
 君はそっちに行っては行けない。
 私はずっと死なない。そっちにはいけない。
 また君は一人きりになってしまう。


 私は、君に死んで欲しくない。
 君に、自ら命を捨てて欲しくない。
 自ら望んで再び孤独にその身を浸して欲しくない。




 だから。
 



 





 










 ―――――わたしは、強くなりたい。




















 そう強く願った瞬間。
 
 ふわり、と。

 体が宙に浮かんだ様な感覚が私を襲った。



















 /     9







 


 私は私の亡骸を見下ろしていた。
 焼け焦げた大地。
 そして、その横で声も無く泣いている一人の少女。
 それを眼下に見下ろしながら私は更に高く空へと舞い上がる。

 景色が見える。
 ありえる筈の無い、知りうるはずの無い景色が見える。
 だとすればこれはやはり自分の視界ではないのだろう。
 
泣いているという自覚は無いのに頬に何か冷たいものが流れ落ちる感覚があった。

 巨大な一本の桜。
 いつか夢の中で見たのと同じもの。
 そして、そこに夢の中と同じように彼女の姿が見えた。

 彼女が、誰かと話している。
 その相手の姿は輝きに隠されて良く分からない。

 純白の花をその身に纏い、その桜花一枚一枚が光を放っていた。
 それは、まるで最後の命を燃やし尽くすかの様に。
 魂を砕き、辺りに散らしているかの様に。
 自らを削り落としながらその輝きを放っているように私には感じられた。 
 


 





 不意に言葉が頭に響く。
 声ではない。思考の中に直接言葉が刻み込まれる感じだった。
 その言葉自体は理解することができなかった。けれど、その言葉がどういう意味を持っているのかは理解する事ができた。


 ―――――力が欲しいの?


 誰かがわたしに問いかける。


 ―――――力が、必要なの?


 誰かがわたしに問いかける。


 ―――ああ。力が欲しい。
 

 自らの望みを叶えられる力が。
 何も出来ない自分に絶望しなくてすむだけの力が。
 未来を切り開いていけるだけの力が。
 

 ―――――力。それを手に入れて貴方はどうしたいの?


 どうしたい。
 そんなのは決まっている。

 力がなければ、何も出来ない。
 力がなければ、何も為せない。
 わたしの人生はずっと翻弄されっぱなし。
 私は望まれないのに生まれ、望まれないのに生かされた。
 
 そして、私は望んでいないのに蓬莱人になった。 


 ―――――望みを叶えて。それで貴方はどうするの?


 どうする。どうする。
 さあ、どうしたいんだろう。
 そう言われてみてはたと我に返る。


 ―――――貴方は何を望んでいるの?
 

 望みを叶えて。何かを成し遂げて。
 けれど、それはいつか終わり、また新しい何かが始まる。
 そしてその中に私の居場所は無いだろう。
 でも、それでも。私は自らの力の無さに絶望はしたくない。


 ―――――貴方は、死にたいの?


 私は死にたいのだろか。
 何度も、何度もそれは考えた。
 けれどその答えは出ない。
 出来ないことを考えても、意味が無いと思ってしまうから。


 ―――――どうして? それは貴方が蓬莱人だから?


 そうだね。私は蓬莱人だから。
 だから、死ねないし死なない。
 終わらないから始まらない。
 どんな傷を受けても。どんな痛みをこの身に抱いても。
 わたしは何度でも蘇る。


 ―――――蓬莱人だと死なないの?


 多分そうなんじゃないだろうか。それは私の場合だけれど。
 自分以外の蓬莱人を良く知っているわけではない。
 銀髪の彼女。そして、輝夜。彼女たちも私と同じなのだろうか。


 ―――――でも、私は死ぬよ。


 そりゃあ、君は誰だか知らないけど。
 不思議な力を持っているのは分かるよ。でも、それでも君はわたしとは違うでしょう?



 ―――――私も、終わらないよ。でもね、私は死ぬんだよ。


 それは、どういう意味?
 良く理解が出来ない。
 死ぬのに、終わらない。
 どういう意味なのだろう。


 ―――――貴方も死んでいるの。貴方はそれに気が付いていないだけ。


 嘘だ。だって、私は何をされても蘇る。
 だとすれば、それは死なないという事では無いのだろうか。


 ―――――人もね。終わらないの。永遠に輪廻を繰り返す。それは終わらないという事。


 終わらないという事と、死なないという事は違う。
 永遠の魂の輪廻を比喩に出されたとしても、私はそれを受け入れられない。
 だって、私は殺されたら元の姿のまま蘇り、その時の事も覚えているのだから。
 

 ―――――ねえ。死ぬってどういう事だと思う?


 ……分からない。
 何度自問自答をしてもその答えは出ない。


 ―――――じゃあ聞くよ。じゃあ何で貴方は自分が死なないって思うの?


 だって、私は。


 ―――――死ぬという事を理解していないのに、自分が死なないって思い込んでいるだけなのかな?


 …………そうなのかもしれないね。

 死ぬとは何だろう。
 私にはそれが分からない。
 一度でも経験しないと人間は本質的にそれを理解することは出来ない。

 上辺だけの言葉で表現する事は容易い。
 理解したつもりになる事はもっと容易い。

 人は良く分からないものに理由をつけてきた。
 幽霊然り、妖怪然り。
 空想上の産物を、幻想上の産物を。
 口で語り継ぎ、文字として形に遺し。
そしてそれは死に関しても同じ。
 現実に存在する『人間』の目から見た終わりを『死』という言葉で表現しているにすぎない。
 一度も実際に体感した人が居ない出来事が言葉として残されているだけ。
 けれども事実として死は存在し、死を迎えた人間はそこで終わる。
 だから、私の問いに答えられる者は永遠に存在しない。
 半死から舞い戻って来た人間が居たとしても、その人の体験した事は死では無い。
 終わりこそが死であり、その過程は別のものであるのだから。


 ―――――ねえ。


 何?


 ―――――貴方は彼女に会いたいの?


 ……そうなんじゃないかな。
 でも、今でもそれは良く分からない。
 只の意地だったんだろうか。少女が私を殺そうとしても前へ前へと進み続けたのは。
 それとも、何か他の考えが私の中にあったのだろうか。

 言葉が響くたびに何かが頭の中でひっかかる。
 

 ―――――だったら、どうしてわざわざ来たの?



 どうして。どうして。
 その言葉が何度も頭の中で反響する。



 ―――――貴方はここにくる必要なんて無かったんじゃないの?


 そうかもしれない。
 結局私が来た事では何も変わらなかった。
 あと少しで少女を打ち倒すことが出来た。
 でも、それは何の意味も無い事。
 少女を打ち倒したからといって何が変わるわけでもないのに。
 もしかしたらそれによって彼女が悲しむだけだったかもしれないのに。
 

 ―――――ねえ。貴方は彼女のことをどう思っていたの?


 分からない。
 でも、一緒に居るのが嫌では無かった。




 不意に、どこかの歯車が噛み合う音が聞こえた気がした。


 ―――――分かった? 貴方の望み。


 わたし一人ではどうしても見つけられなかった答え。
 それが、何故かすんなりと言葉になった。

 ああ、そうか。
 私は彼女に一言聞きたかったんだ。
 何故自ら死を望むのか。
 だから私は彼女に会いたいと思った。
 生きたくないと思うのは何故なのか聞きたかった。
 

 ―――――これはあくまでも私の考え。正解なんて無いの。私にとって死というのは区切り。


 正解なんて無い。
 私もそれには同感だ。
 何年、何十年、何百年と同じ事を考えているにも関わらずその答えはでない。
 いつか聞いてみたい気がする。
 どれだけの時間をかけて心のそこからそうだと思えるその答えを出したのか。


 ―――――終わりなき永劫の中の束の間の休息。それが私にとっての死。でも。


 でも、何だろう。
 誰かが少しの間口ごもる。




 再び、遠くで桜が舞い散るのが見えた。
 純白の花びらが風に舞い、まるで踊っているかのようにその桜を取り囲む。


 ―――――彼女は、死を望んでいる訳じゃないよ。


 え………?
 どういうことだろう。
 その言葉の意味が分からない。


 ―――――彼女はね、終わりを望んでいる。そこで全てが止まる停滞を望んでいる。


 彼女は死を望んでいない。けれど、人間の終わりと死は同義。
 だったら、終わりたいと願う彼女が死を望むのは当然のことではないのか。


 ―――――だからね、あの子は怒っていたの。そんな事を望ませてしまった貴方を。


 ………私が?
 私がそれを望ませた?


 ―――――もしかしたら彼女は貴方に殺して欲しかったのかもしれないわね。


 私が、彼女を?
 何で。どうして。


 ―――――さあ、分からない。私は神様という空想の産物では無いから。確証なんて無いわ。


 ………。

 もう行っていいの?


 ―――――私に断る必要なんてある?


 それも、そうか。


 ―――――ねえ。


 何?


 ―――――今でも、力が欲しい?



 そうだね。
 私は強くなりたい。
 望みを叶えるために。


 


 そして、わたしが私として生きるために。






 






 /     10









 私の亡骸を中心に炎が生まれる。
 

 それはまるで竜巻の様に。
 辺りを飲み込みながら天へと立ち昇って行く。

 けれど、それは焼き尽くし殺すための炎ではない。
 荒々しい生を象徴する情熱としての炎。
 傍らに立ち尽くしていた少女を毛の先ほども燃やすことは無い。

 それは産声。
 世界を待望する心の叫び。

 それは歓喜。
 この世に生きることを体一杯に表現し。

 それは演舞。
 天へと昇っていった炎が荘厳な鳥の姿となり顕現する。

 それは火の鳥。
 古より火の山に住んでいると言われている不死鳥。
 死するごとに何度でも蘇り、その生き血を飲んだものまでも不死にすると言われている生きる伝説。

 
 甲高い鳴き声が辺りに響き渡る。
 そしてゆっくりと火の鳥は一つの姿をとりながら地面へと舞い降りる。

 その姿は私と同じもの。
 姿形は言うまでも無く、来ている服までもが私と同一。

 地面へと舞い降りたもう一人の私はゆっくりと私が死んだ場所へと歩み寄る。


 ―――――覚えていないわよね。もう一人の私。


 誰に届ける訳でも無い言葉。
 それがゆっくりと辺りに伝わってゆく。


 ―――――生とは何か。死とは何か。それを私に教えてくれたのは貴方だったのよ?


 炎が『私』を形作る。そして、その私がゆっくりと目を開ける。


 ―――――だから私はこの姿を取っているの。ねえ、覚えていないわよね?


 私にはその『声』が聞こえない。
 でも、火の粉を散らしながら見つめ返してくるもう一人の私が何かを伝えようとしているのは感じられた。


 ―――――だからこの命、貴方へ貸してあげる。いつかこの命を貴方が返してくれればいい。


 そして、もう一人の私は地面に落ちていた短刀をゆっくりと首元へと持っていった。
 
 死のうとしている。私はもう一人の私の姿を見てそう思った。
 けれども、止めるつもりは無い。
 なんでもう一人の私がそんな事を使用としているのかは予想がついたから。


 ―――――私は終わらないよ。だから、貴方が必要なくなったときにこの命を返してくれればいいの。


 す、っと滑り込むように短刀がもう一人の私の胸元に吸い込まれる。


 ―――――今から私の力は貴女のもの。


 そこからあふれ出した血が私へと降り注ぎ、それをゆっくりと私は飲み込んだ。


 ―――――私はずっと貴方の望みが叶うことを願っているから。


 ボッ、という音と共にもう一人の私の姿が火の粉となり辺りへと散っていった。


 ―――――またいつか、会えるといいね。



 あっけなくも、それで終わり。
 無限の生と無限の死を内包する者にとっては一度の死など何ら強調する必要は無い。
 後に残されたのは私と少女。
 今目の前で起こったことを信じられないといった風に呆然と立ちすくんでいる。

 「通して、貰うよ」

 ゆっくりと立ち上がりながら少女に対してそう言う。
 
 「どうして……」

 少女の口から微かに言葉が零れ落ちる。
 その言葉に私は軽く目を閉じ、そして再び開く。

 「私はさ、諦めないよ」

 ぽん、と蹲って体を震わせている少女の頭の上に軽く手を載せた。

 「ねえ、彼女はどこ?」
 
 聞かなくとも、大体の見当はついている。
 さっきのやりとりが夢でないのであれば彼女の居場所は桜の下。
 
 「………」

 無言で指差した先は暗黒。
 月の光すら届かない漆黒の場所。
 微かな輝きは逆の方向から届いていた。

 「分かった」

 ふわり、と自分の体が宙に浮かぶ感覚を得ながら空へと舞い上がる。
 飛び方なんて知らないはずなのに不思議と私は夜空を翔けていた。
 月明かりすらも届かない闇の中、私は同じ方向へと飛翔する。
 自分がどこにいるのかも分からない。方向があっているのかも分からない。
 力を込める。
 望みを叶えるための力を望む。
 私の体が次第に輝きを増し、この身は炎で包まれる。
 その炎はすぐに一対の翼となって私の背後で力強く羽ばたいた。

 闇を照らす光。
 退魔の力を持った聖炎。

 その輝きに誘き出され数多の妖怪が襲い掛かってくるがそれを一瞥も無く焼き払う。


 




 途端、視界が光に包まれた。






 








 /     11












 彼女が遠くに立っている。
 その眼前には桜。
 威容は遠くから見てこそ分かるというものだろう。
 その姿はまるで城。
 一体どれだけの年月をかければあれだけに成長出来るというのだろうか。

 私は更に速度を上げる。
 彼女に会うために。
 彼女に一言言うために。

 私は生きる。
 私は生きている。
 それを彼女に伝えたかった。

 素直になって始めて分かる。
 そう、私は彼女といるのが楽しかったのだろう。
 彼女と話をするのが嬉しかったのだろう。

 彼女の笑顔を見ているのが好きだった。
 彼女の声を聞くのが好きだった。
 彼女に話をするのが好きだった。
 それは彼女も同じだったのだろうか。
 それも彼女に尋ねてみたい。

 始めは一言話すつもりだけだった。
 でも、今は彼女と沢山話がしたい。
 彼女に死んでもらいたくない。
 彼女に生きていてもらいたい。
 今なら彼女に心の底からそう言えるだろう。

 そうだ。名前を聞こう。
 まだ彼女の名前も知らない。
 それに、私の名前も教えてあげよう。
 一体何年名乗ってないのだろう。
 そう考えると不思議と口元が緩む。

 深紅の翼が夜空を舞う。
 幻想の様に輝く純白の桜の周りを深紅の翼をその身に纏った少女が舞い踊る。


 そして、私が彼女に声をかけようと大きく息を吸い込んだその時







































 ガツン、と私は何かにぶつかり地面へと叩き落された。






































 「………え?」

 何が起こったのか理解できない。
 何も無い筈だった。
 何も起きない筈だった。

 今まさに私は彼女に声をかけようとしていて。
 彼女に自分の名前を教えようとしていて。
 そして彼女に自殺を思いとどまらせようとしていて。

 「………っ」

 慌てて起き上がり再び前へと進もうとしたその時、やはり見えない壁の様な物に前進を遮られる。

 「嘘、だ……っ」

 飛び上がり、何度も何度も前へと進もうとするが爪の先程も前に進むことが出来ない。

 「そんな、だって……、だって!」

 見えている。彼女がそこに見えているんだ。
 声をかければ届きそうな程に。
 彼女が何をしているのかですらはっきりと見えているのに。

 「何でだ、何でなんだよ!」

 手の中に生み出した人の体を丸ごと飲み込むほどの大きさを持った炎を力の限り壁へと叩き付ける。
 けれども、やはりそれも見えない壁にぶつかると弾け飛ぶ様に消し飛んでいた。

 「私はここにいる、ここに居るんだ! 聞こえないのか!?」

 力の限り声を張り上げる。けれど、彼女がこちらへと気が付く様子は無かった。
 私の方を見ながら、私に気がつかずに微笑んでいるだけで。

 「悪かったよ。私が悪かったんだ。もっと早く話をするべきだった。君が笑っていなかったあの日に何で私は……っ!」

 力いっぱい壁を殴り続ける。
 ボキリという嫌な音を立てて拳が砕け、手の甲から折れた骨が突き破り顔を出すがそんなものおかまいなしに殴り続ける。

 彼女が一瞬目を閉じた。
 桜の花が彼女の近くへと寄ってくる。

 いや、あれは花ではないのだろうか。
 淡く輝く球が宙に浮かんでいた。
 
 「――――――――――」

 彼女が口を開き、何か小さく言葉を発する。
 それに呼応するかのようにそれらは再び辺りへと散ってゆく。

 その光が去った後、いつの間にか誰かが彼女の傍に立っていた。
 この位置からでは後姿しか見えていない。

 「――――――――――」
 「――――――――――」
 「――――――――――」

 一言二言、二人が何かを話した様に私から見えた。
 そして、短刀が彼女へと渡される。

 「ああ………」

 口から言葉にならない音が漏れる。
 彼女が死んでしまう。
 私はここに居るのに。
 彼女が見えているのに。
 何の話も出来ず。
 何の願いも遂げられず。
 そして彼女は絶望の中死んでゆく。


 力が、欲しかった。
 全てを成し遂げられる程の力が。


 「あ、ああああああああああああああ」
 
 彼女がいつの間にか短刀を手に持っていた。
 そしてそれをゆっくりと首元へと持ってゆく。

 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっっっ!!!!」
 
 叫ぶ。
 心の底から叫ぶ。
 魂を揺り動かす程に叫ぶ。
 
 力が、力が欲しい。
 全てを打ち破るほどの力が。
 願いを遂げられるほどの力が。

 力が欲しい。
 力が欲しい。
 
 今この場で彼女と会えるだけの力が。




 瞬間、空間そのものが砕け散った。
 世界という枠すらも焼き尽くし、全てを乗り越えたその身は一直線に彼女の元へとひた走る。

 ああ、これで彼女に会える。彼女と話せる。
 あの笑みを浮かべながら、やわらかな声で話す彼女と。
 もうあんな顔をしなくていいんだと言ってあげたい。
 私は君の友達なんだと言ってあげたい。
 なんで疎まれているのかをちゃんと聞いてそれを一緒に解決してあげたい。

 それはもう目前の筈だった。


 けれど。


 トス、という軽い音が何故か私の耳に響いた。
 世界が何故かゆっくりと動き出す。
 光の玉の動きが緩慢になり、そして次第に止まってゆく数が増え始める。
 桜の輝きが次第に朧な物となってゆく。

 飛んでいる筈なのに、前へと進んでいる筈なのに。
 少しも彼女の元へと近づかない。
 どれだけ速度を上げても。
 どれだけ力を込めても。
 彼女はどんどんと遠くなるばかり。
 
 あと少し、あと少しなんだ。
 そうだ。君も蓬莱人になればいいんだ。
 そうすればずっと一緒に居られるのに。
 なんでそれに早く気が付かなかったんだろう。
 大丈夫。私は今生きているよ。
 蓬莱人になっても大丈夫だってちゃんと教えて上げられるよ。

 だから、だからさ―――――


 ゆっくりと崩れ落ちてゆく彼女。
 その口元に浮かんでいる物は笑みだろうか。
 いつも浮かべていたものとは少し違う、達成感を内包した力強い笑み。
 彼女を誰かが抱きとめる。そしてそのまま景色は動かない。

 けれど。
 次第にその姿は遠のき。
 やがて消えていった。


 「嘘、だ……」


 再び漆黒に支配されたその空間の中。


 「嘘だああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 
 私の叫び声だけが延々と響き渡っていた。
















 /     12












 「はははっ、それにしてもあんたも飽きないねっ!」

 生み出すのは火球。それを散弾状に打ち出しながらそんな言葉を発する。
 口元に浮かんでいるのは獰猛な笑み。

 「それはお互い様でしょう? 貴方が何度も何度も永遠亭に襲撃をかけてくるから私としても放っておく事が出来ないんじゃないの。いい加減にしれくれないかしら」
 「はっ、そんなの知ったことか。いいね、襲撃が迷惑をかけるという事ならばこれからは積極的に行かせて貰うとするか……っと」
 
 輝夜が使ったスペルカード、難題「仏の御石の鉢」から放たれたレーザーを身を翻して受ける。もちろんあんなもの1発くらったところで死にはしないがまあそれはそれ。痛いよりは痛くない方が良いに決まっている。慧音から聞いた話ではどうも外界には痛いのが好きという変人もいるらしいのだけれど、別に自分はそんな趣味は無いので今はそれは関係が無い。
 いつものように不意打ち気味で始まったこの戦いももう大詰め。既にお互いに数度のリザレクションを繰り返し、そろそろ疲れが見え始める頃。一度ブン屋にスッパ抜かれてからというものの、この竹林で戦闘をする時には出来るだけ炎弾を使わないようにはしている。まあ、あくまでも出来るだけの範囲であって別に消し止めれば問題は無いだろうから使うときには積極的に使うのだけれど。

 「いい加減に死になさいよ。ほら、ほら、ほらっ!」
 「なんだその弾は。そんなものに当たってられるか!」

 難題「燕の子安貝 -永命線- 」。雨の様に降り注ぐレーザーとそれと同時に放たれる星弾を下に下にと移動しながら避け続ける。何度も戦ったことのある相手だから手の内は読みつくしてはいる上にどちらかというと輝夜は直情的な性格だから次に何をするのかが分かりやすい。

 「ははっ、避けてみろ!」

 不死「火の鳥 -鳳翼天翔- 」
 
 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 下から上を狙う状況。これなら思う存分炎が使える。勿論宣言をするタイミングは輝夜のスペルカードが切れるその瞬間。
 今日私がスペルカードを使っていなかったのを良いことに輝夜は隙の大きな攻撃、つまりはスペルカードを乱発していた。普段であればカウンター、もしくは相殺するためにスペルカードを使用するのが定石であるのだけれど、既に何発も撃ってしまっているこの状況ではそれも難しい。

 炎の鳥が飛ぶ。
 夜空に赤い軌跡を残し、火の粉を舞い散らせながら夜空を駆け抜ける。

 ぜはぁ、ぜはぁ、と肩で息をしながらなんとか全部の火の鳥を避けきった輝夜の後ろを取る。勿論炎の翼は消してある。

 「ど、どうよ妹紅。全部避けきったわ……」

 トン、と頸の辺りを叩く。
 不死とは言ってもそれはあくまで不死なだけであって、輝夜も人間だ。
 月から来たとか言っていたがそれも眉唾物。実際に自分が見たわけではないのだから信じるつもりは無い。
 それに本当に月に人が住んでいるのであっても再び目の前で伸びている奴と同じような傍迷惑な奴が幻想郷に増えるのはまっぴらごめんだ。こんな奴は一人っきりで十分。

 気を失ってぐったりしている輝夜をぽい、と無造作に投げ捨てる。当然こんな高さ、森に生えている木々が小さく見える程の高さから投げ落とされれば死ぬだろうが、別に死んだところでそれはそれ。憤怒の表情で襲い掛かってくるのがオチという物だろう。
 でも、私は輝夜がそうならないことは良く知っている。

 森の影から一人の銀髪の女性が現れたかと思うと輝夜を抱きとめ、速度を殺しながらゆっくりと地面へと降り立った。しばらくの間その女性は私のことをじっと見つめていたのだけれど、ぺこりと軽く一例をするとその場から立ち去っていった。

 「は、っ」

 軽く肩を竦めながら息を吐く。
 永遠亭に襲撃に行けば迎撃として出てくる彼女だがこの場所で戦いをする限りにおいては決して手を出すことは無い。
 何らかのポリシーでもあるのかと思うのだが結局聞けず仕舞い。まあ、別にそんなことはどうでもいいという部類に入るから機会があっても私が忘れてしまっているだけなんだけれど。

 「さあて、帰るかねぇ」
 
 ゆっくりと地上に降りながらふと昔のことを思い出す。
 彼女は今一体どうしているのだろうか。
 終わりたいと願っていた彼女は今どうしているのだろうか。
 やはり輪廻の輪の中から逃れられず、今どこかで生きているのだろうか。
 それとも、何らかの方法で終わる事が出来たのだろうか。

 トン、と地面に降り立つと背後から心配するような声が聞こえ、私はそちらへと振り向く。
 案の定そこにいるのは世話焼きなおせっかいな半獣。
 人が大好きでそのせいで私の世話をも焼いてくれている変わり者。

 怒ったような表情で睨んでくる彼女をはいはい、と片手であしらう。
 勝ったんだからいいじゃないか。別に私は死んだって死なないんだし。
 いや、違うか。あれ、違わないか?
 まあそれはともかくとして、一応彼女を礼儀として食事に誘う。
 理由はどうあれ私のことを心配して様子を見に来てくれたんだからそれなりの事をするのが人として当然の事だろう。
 後ろからぶつぶつと文句を言いながらついてくる半獣をちらりと横目で見ながらゆっくりと歩を進める。


 今の私が彼女に会っていれば彼女を変えることは出来ただろうか。
 たまにそう考える。
 今の私が彼女に会っていれば彼女は何を望んでいただろうか。
 でも、それは詮無きこと。

 「ねえ慧音」
 「なんだ?」

 ぴたりと立ち止まり、私は顔をそちらへと向けずに声をかける。

 「ううん。なんでもない」
 「……そうか。まあ、それならそれでいいんだが」

 不思議そうに首をかしげるその姿を横目で見ながら私は微かに笑う。
 
 過去が変わらないのは分かっている。
 もしもの話をしても意味が無いのは分かっている。

 だから、これから、いつか彼女の様な子に会ったら言ってみたいと思う。
 
 そのときになるまで私が何を言うのかは私にも分からない。
 でも、きっと何かひとつぐらいは言ってあげられるだろう。
 
 「慧音、先に行くよ?」

 宙へと飛び上がり、自分の家を目指す。
 慌てて慧音が後ろからついてくるが、私は速度を更に上げる。

 こんなちょっとしたことでも私は楽しめる。
 今でも勿論輝夜は憎い。でも、死ぬことは無い。
 殺しあうことが日常なんて他の人から見れば奇異に映るだろうし、私もそうだと思う。
 でも私たちは死なないんだ。
 まあ、この先は考えたくないからあえて考えないようにしているのだけれど。






 そうだね、今だったらあの時の銀髪の女性の問いに答えられるだろうか。



 私は、生きている。
 そして、私はこのまま生き続けたい。
 だから私は死を望むことなんて無い。



 



 どこかに居るのか居ないのか。
 良く分からない彼女にそう心の中で呟いた。












 /     0













 ―――――ふうん、妹紅って言うんだ。


 ああ。それがどうかしたのか?


 ―――――ううん。別に? 只単に変わった名前だなぁ、って思っただけ。


 まあ、それはそうさ。私が自分に付けた名前だからね。

 ―――――自分で自分に?


 そう。私が自ら名づけた。


 ―――――変なの。何でそんなことするの?


 私はもう人間じゃないから。


 ―――――人間じゃないって?


 私は蓬莱人なんだよ。ずっと死ぬことのない、永遠に生き続ける蓬莱人。


 ―――――なあんだ。私と一緒だね?


 一緒?君も蓬莱の薬を飲んだの?


 ―――――ううん。私は生まれつき。


 生まれつき?


 ―――――そう。私は人間じゃないから。今日も誰かの夢の中に遊びに来てるだけ。


 夢、これは夢なの?


 ―――――そうよ。束の間の夢。起きたら忘れてしまう夢。


 忘れるんだ。


 ―――――うん。忘れちゃう。たまに覚えている人もいるみたいだけど。


 そっか。


 ―――――どうしたの?


 ううん。君は私が作り出した幻想じゃないかな、って思っただけなんだ。


 ―――――どうして?


 だって二人とも不老不死なんて都合がよすぎるじゃないか。


 ―――――あははっ、それはそうかも知れないね。


 笑い事じゃないってば。


 ―――――ごめんごめん。でもさ、不死って誰もが望む事でしょう?


 そう、なのかな。


 ―――――そうだよ。皆私の命を狙うんだもん。


 なんで?


 ―――――火の鳥の生き血は不老不死の薬だって。


 そうなの?


 ―――――うーん、擬似的な物かな。本当に不老不死になるわけじゃないから。


 へぇ。


 ―――――私も首を切り落とされれば死ぬんだよ。そしてそこから皆血を抜くの。


 うわ、なんかあんまり想像したくない光景だね。


 ―――――痛いのよ、本当に。


 はは、そんなところまで私と一緒だ。


 ―――――ねえ。


 ん?


 ―――――貴方は死にたいと思う?


 うーん、思わないかなぁ。


 ―――――どうして? 生きているのが嫌にならないの?


 だってさ、やらなきゃいけないことがあるんだ。


 ―――――そうなんだ。


 うん。生きているのは苦しいんだけど。でも、それでもこれだけは成し遂げたいんだ。


 ―――――苦しいのに?

  
 苦しいのに。


 ―――――……そっか。ありがとう。

 
 何が?


 ―――――ううん。こっちの話。もう一度言うね、ありがとう。


 だから、何が?


 ―――――気にしなくていいの、私の話。


 変なの。


 ―――――ねえ、これは単純な質問。


 何?


 ―――――貴方は今力が欲しい?


 ……いや、別に今は必要じゃないかな。


 ―――――そっか。じゃあまたいつか会えるのを楽しみにしているね。約束だよ?


 私は覚えていないんだろうけどね。


 ―――――大丈夫。私は絶対忘れないから。だから、またね。






 















 それは、いつか遠い過去の日の出来事。






















 (End)






長い話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました(ぺこり)

一部の人には分かって頂けたと思いますが、この作品は一度作品集25で途中までの話を前編としてクーリエに投下したものです。それに加筆修正を加え、全編を纏めて今回投稿させて頂きました。(25の方は削除済みです)

異様に難産だったこの作品。少しは楽しんで頂けましたでしょうか。一つでも心に残った何かがあれば幸いです。
昔からこういったタイプの作品を書くのが好きで何度か書いていたのですが、今回はその中でも特に長くなった一品となってしまいました。

あとがきはこの程度で終わらせていただきます。何か気が付いたことがあれば一文でも書いていたら嬉しく思います。

PS. 作品を書き上げるに当たって絶大な助力をして頂いた河瀬氏に感謝を。
まんぼう
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コメント



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19.20名前が無い程度の能力削除
心理描写がちょっと多すぎるかも。好みの問題かもしれませんが。