Coolier - 新生・東方創想話

私を生き埋めにして立ち去って

2006/06/22 11:55:24
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 広い空間がある。
 紅魔館地下にある、もうほとんど使われていない部屋だ。
 普段光の灯らぬその地下の一室に、今は光が灯っていた。
 本来程よい光を放つようにされていたランプは何年も、否、何十年も使われていないために埃が積もり、それは弱くなっている。
 積もった埃を軽く払う程度の事でもすればいいのだろうが、現在の状況はと言えばそれをする事すら億劫な気分にさせるもの。
 天井、壁、床。ぐるりと部屋を見渡せば半壊状態で、地下だと言うのに夜空が見える始末だ。

 薄明るい黄色い光をかき消し、強烈な光が残った壁を、天井を、床を、白く染めた。
 同時、響くのは高く可愛らしい少女の声。
 しかしそれは、通常その少女を知る者にとって破壊の宣告にも等しいものだ。

「まーすーたーぁー」

 ……どこかから黒髪を金髪に変化させた連中でもやってきそうな発音と構え。
 まぁ、その少女……魔理沙も金髪なのだが、別に変化させたわけではない。

「スッ、パッアアアァァァアァーク!」

 気合一閃。
 とんでもないエネルギーを誇る白い閃光が、目標であるこれでもかと言わんばかりに積み重なった瓦礫の山へと向かう。
 空気を震わせ、穿ち、何もかもを貫いて進む、恋の魔砲。

 轟音が空間を支配し、鼓膜を刺激する。
 崩壊した箇所から際限なく音が外へと漏れて行くが、音がなくなる事はない。
 その様子を見ていた霊夢と咲夜は顔を顰め、耳を塞いだ。
 それでもなお大音量で届く音をうざったいと思いながらも、その発生源である瓦礫の山からは目をそむける事はしない。
 ミニ八卦炉から漏れる過剰な熱と自身の魔力の消費がスペルと連動してエネルギーの放出に抑制をかけ始める。
 これ以上は危険、魔理沙はそう判断して攻撃を止め、息を吐く。

「あー、ダメだったぜー」

 笑顔を浮かべながら、小走りで霊夢と咲夜のもとへ。
 と、霊夢が叫んだ。

「魔理沙!」
「なんだ?」
「こっち来るな!」
「……」
「こっち見んな!!」
「なんでだよー、私は行くzへぶぁ!?」

 歩を進め、何かにぶち当たった。
 尻餅をつき、鼻を押さえながら立ち上がる。
 目を凝らし、何に当たったのかを理解する。
 霊夢の張った結界だ。

 霊夢に文句を言おうとし、口を開いた瞬間。
 背後からピチュン!と音が響いた。
 円錐の形をした岩が瓦礫から出てきて、攻撃。

「えーと」

 魔理沙は振り向き、少し焼けた帽子の鍔をいじってからようやく現在の状況を理解し、冷や汗を浮かべた。
 それでも冷静にマジックミサイルを放ち、迎撃。
 へへーん、やったぜ、などと楽観した途端。
 今度は右左両側から同じ攻撃。
 きょろきょろと周りを見ると、10近い円錐の岩が浮いていて、その先端が照準を合わせるように魔理沙に向けられていた。


 オールレンジ攻撃が、開始される。


 「ひゃうわわー」などと悲鳴を上げながら逃げ惑う魔理沙を見ながら嘆息した後、霊夢は咲夜を見る。
 その後で今度は咲夜の視線の向けられた方向……瓦礫の山を見た。
 どうにもこうにも、一体全体紅魔館はどうなっているのか。
 とんでもない硬度と防御力を持ち、攻撃したら勝手に攻撃し返してくるって、どんな床だったのか、天井だったのか、壁だったのか。
 そもそもそんなものが何故崩れたのか。
 しかしながら考えてなどいられない。
 今は何が何でもアレを撤去しなければならないのだ。

 その視線の先の瓦礫の山。
 そこには……霊夢にとって1ヶ月分の食料が、埋まっていた。





 じゃなくて紅魔館の当主たるレミリアが生き埋めになっていた。





―― 私を生き埋めにして立ち去らんで助けんかい! ――





 まずはレミリアが生き埋めになった経緯を説明せねばなるまい。

 さて、事の発端とはいつも突然である。
 紅魔館はその居住人数から、内部では毎日何かとあるもの。
 例えば魔理沙が紅魔館の平穏な日常の壊すものであっても、その『毎日何かと』はもはやあって然るべき事であり、問題ではない。
 あるメイドが実は男だったとかいう噂が流れるのもひと月にひとつやふたつではない。
 さてはて妖怪が多いから、相手もいないのに『産まれる! 産まれちゃう!』なんて言いながら急に全身を緑色に変色させて口から卵を産む奴もいる。
 前述の通りである。これらの出来事には全く以って問題はない。

 ただし平穏な日常とて、お嬢様の威厳が薄れたかのように軽い雰囲気になっているのは少しばかりいただけない。
 して、レミリアは威厳を取り戻すべく、また、霊夢の心をゲットすべく咲夜を呼び出した。 
 そして自らの威厳・カリスマ・その他諸々向上のために三日三晩適度に睡眠はとりつつ割とアバウトに漫画など読みながら考えた事を実行に移すために、口を開くのである。

「咲夜、私は今から寝るわ」

 コケた。
 真面目な空気でいつになく真剣な顔をしながらだったもんだからさぞかし素晴らしい事を言ってくださるのだろうと期待して目を輝かせていた咲夜が、素でコケた。
 寝ているレミリアも勿論可愛い、それは誰も否定しない。
 だが、だがしかしである。
 ――難しい事を一生懸命にやって失敗してさくやぁ、とか涙目で見てきてそれでもうんしょうんしょ頑張ってやり通すお嬢様がハァハァハァハァ可愛いのに!
 思考がズレ過ぎているが顔に出してさえいなければこういうのは概ね問題はない。

「咲夜、どうしたの? コケたかと思ったら突然顔を紅潮させながら息を荒くしたりして」

 でも顔に出ていたので問題だらけだった。
 おほん、と咳払いをして咲夜は平静を取り戻す。

「……お嬢様。ご起床なさったばかりで寝てしまうのは……二度寝は、紅魔館の主として不健康な生活にも程があると思いますが」
「咲夜違うの違うの咲夜」
「では何なんです?」
「私は寝る事で、悪魔として、そして吸血鬼として、何よりこの紅魔館の頂点に君臨する者としての素晴らしさをアピールしようと思うの」

 一体全体何なんだと。
 何故寝る事でそんな事をアピールしたくなるのかと。
 割と本気で紅魔館辞めようかと思う咲夜。
 ――そして一般人として住み着いておぜうさまと蜜月の関係をムフフフフ。
 続いた思考がやけに色々とアレだが辞めると言う事自体が実行に移されないので実現する可能性はないに等しい。

「……それで、お嬢様は一体何をしたいのでしょうか?」

 遠慮しまくって聞いても進展しないような気がしたので、多少キツイながらもストレートに。

「……寝るのは、棺桶でよ」
「はい?」
「だから、棺桶なのよ」
「はぁ、そうですか」
「棺桶なのー!」

 手足をバタバタさせておねだりして来る当主様。
 これでは威厳も何もあったもんじゃない。

「……でもまた何で棺桶なんです?」

 確か以前……紆余曲折あって咲夜が紅魔館に勤め始めた頃だったか、アレは死人が入るものだの気が滅入るだの狭いだのふわふわしてないだの発音がカラオケみたいでネタにしてみんなに苛められそうだから嫌だの言っていたはずだ。

「分かってないわね、咲夜」

 そりゃ分かってないから聞いてるんですよ、などと無粋な突っ込みはしない。
 主に対して失礼でもある。言ってくれるのを待てばいいのだ。

「分かってないわ、咲夜」

 しないったらしない。

「本当、分かってない」

 しないったらしないったらしないのだ。

「…………」
「…………」

 訪れる沈黙。
 それを破る事無くレミリアは腰掛けていたソファから背中を離し、ベッドに寝転んで枕に顔を埋める。
 そして、伏せたまま呟く。

「咲夜が『分からないから聞いてるんだ』って突っ込んでくれない」

 ――どうしろと。
 結構マジで泣きそうな顔をしたレミリアに萌えながら溜息を吐いた。


  *


 地下の一室にて棺桶の中でレミリアが眠ったのを確認し、咲夜は自室に戻ってきた。
 いつの間に用意していたのか通常よりは三回りほど大きい棺桶だったり、中がやたらにふわふわだったり、色々言いたい事はあったがそれも堪えた。
 ……そんなこんなで咲夜にとっては降って湧いた限りなく休暇に近いお勤め日である。
 普段ならばレミリアが起きている時間帯、けれどそのレミリアがのび太くんヨロシクな高速度で二度寝を開始してしまっているのだ。
 基本、咲夜がレミリアと共に過ごす間は館内の事は補佐役に任せっきりなため、今はやる事がない。

「……ま、たまにはゆっくりと休むのも悪くはないかもね」

 呟き、ベッドに倒れ込む。
 布団の柔らかな肌触りに身を埋め、枕には顔を埋める。
 ひんやりとした感触が気持ち良いと感じる。
 昼頃に太陽の光を取り込み、ふわりとして温かみも帯びている、そんな冷やかさ。

「はぁー……」

 漏れる、半ば恍惚とした溜息に含まれるのは疲れ。
 咲夜とて、人間である。
 レミリアに仕えるようになってからは夜中心の生活ではあるが、やはり夜眠れるに越した事はない。
 慣れたとは言っても根本にある欲求とでも言うのだろうか。
 24時間である1日に対して、25時間と言われる人間の体内時計。
 久しく、朝日を以ってしてその体内時計の調整をする事が出来そうだった。
 完全で瀟洒、故にそれを保つべくこの程度の隙は許されても良いだろう。

 そんな自己への言い訳を終えると、咲夜は意識を深い闇へと潜らせるため、まずは浅い眠りに入り……



「妹様ー! フランドールさまぁ! やめてくださいー!」



 爆音、及びそれと共に聞こえたメイドの悲鳴染みた静止の声は咲夜の鼓膜を震わせ脳に情報を伝達し、意識にかかり始めていた安らぎと言う名の闇を取り払った。
 続いて聞こえたのはもはや悲鳴染みた静止の声などではなく、確かな悲鳴。
 先行して響き、その悲鳴を引き出しているのはフランドールの声だ。
 ――何をやってるのかしら、妹様は。

「ざけんなよ、コラ」

 必死にフランドールを止めようとするメイドたちの援護に向かうべく起き上がった咲夜。
 建前と本音が逆になってしまっていたが誰にも聞かれていないのでモウマンタイ。
 何となくぐい、と伸びをすると同時、ドアが吹っ飛んだ。
 伸びをせず部屋を出ようとしていたら間違いなくドアごと吹っ飛んでいただろう。
 なかなか怖い。人生スリルショックサスペンス。何か違う。

「さて」

 ドアのなくなった入り口から廊下へ出、まずは状況を確認する。
 複数人のメイドにより、簡易の空間操作は完了、弾幕ごっこをするだけの空間は確保出来ている。
 即座に空間操作を行い、固定。損傷率はまだそう高くなく、今のままなら戻した時は掃除程度で済むだろう。
 問題なのは……、これ以降をどう静めるか、であるが。

「妹様! 何があったんですか!? 咲夜ですよー!」

 声かけ。
 なんだこれ、思うかもしれないが何も考えず迎撃に出るよりはまぁ、賢いし平和的だ。
 実は普段ならこれで抑えられる確率も割かし高い。

「咲夜ぁ!」

 フランドールが咲夜の名を叫び、見た。
 ……と言うよりは、睨んだ。
 あれ、と思う間もなく咲夜は本能的に横に跳躍。
 元居た位置には一発の、牽制程度であろうが、弾が着弾している。

「どうしたんですかー!」

 今度はナイフを持ちながら。
 勝てるとは思っていないが、それは1人での場合だ。
 既に周囲は遠巻きにメイド隊が包囲。
 さらにその外郭には美鈴はじめ打たれ強さもとい撃たれ強さだけなら吸血鬼たるレミリアに勝るとも劣らない門番隊が配置されている。
 無論、門番隊は門の警備もあるため美鈴を除けば攻撃力は主力クラスのそれではないが。
 しかしレミリアやフランドール、霊夢や魔理沙には劣るとは言えど、妖怪も、咲夜を筆頭として数少ない人間のメイド・門番も決して弱くはない。
 弱ければこんなところでメイドやら門番をやっていられるはずもないのだ。
 つまりは、数が多ければフランドール相手でも何とか出来なくもないのである。

「咲夜ぁー!」

 叫ぶだけで暴れている理由などを喋ろうとはしない。
 聞こえていないのだろうか、と咲夜は思う。
 攻撃は止んだもののこれでは進展しないからちょっと困り物である。
 どうやら咲夜が何かやらかしたようなのだが、残念ながら咲夜には覚えが無かった。

「妹様! 聞こえてますかー!?」
「聞こえてるけどー!?」

 声は届いていたらしい。

「ではー!」

 今までより大きな声で。
 空間操作で広がった廊下でも、全体に響き渡る、そんな声で。

「ピーッ、という発信音の後でご用件をお話し下さい!」

 メイド隊の約3分の1がずっこけたその様は後の紅魔館にも語り継がれる事となったのだが、余談。
 にしてもピーッ、という発信音のあと用件を言わない人が多いのは何でだろう。
 でも考えてもどうにもならない事である。

「わかった!!」

 わかったのかよ!と度胸のあるメイド(約5名)が突っ込んで吹っ飛んだが気にしている場合ではない。
 ただこの瞬間メイドたち、及び飛んでくるメイドを見て門番隊が理解した現状は。

 ――……突っ込んだら突っ込み返される……!

 突っ込みに突っ込みで返すのは何とも反則気味だがここ幻想郷において常識は通用しない。

「ピーッ!」

 何か魔法や機械の類を使うのではなく、咲夜が自ら言った。
 「メイド長萌えー!」とか言いながら倒れたメイド(約8名)や鼻血を吹き出したメイド(約12名)が居たが彼女らを戦闘区域から運び出す暇などありはしない。
 運び出そうとした者も居たが全メイド及び全門番が美鈴の指示によって警戒態勢を維持。
 普段はヘタレているのになかなか大したものである。

「私ねー!」
「はいー!」
「咲夜に憧れてたのー!」
「光栄ですー!」

 咲夜の何に憧れてたのかはわからない、が。どうやらそう言う事らしい。
 しかしこれでは暴れる理由にはなっていない。

「美鈴みたいにやたら大きくて頭馬鹿っぽく見られるの嫌だしー!」
「はいー!?」

 何の事だろうか。身長の事だろうか。
 「馬鹿……馬鹿……私は馬鹿じゃないよぉ!」と言いながら美鈴が泣き始めたがスルー。

「霊夢とか魔理沙みたいにおっぱい薄いのも嫌だしー!」

 どうやらおっぱ……胸の話だったらしい。
 本人たちの前でこの声量で言ったら弾幕ごっこだの能力だの関係なく惨劇が起こりそうである。

「だから咲夜くらいの大きさのおっぱいになれたらなーって思ってた!」
「はぁ、そうですか!」

 にしてもお子様はめっちゃナチュラルにおっぱいおっぱい連呼出来るからなかなか羨ましいものだ。
 じゃなくて、連呼してくるからなかなか面白いものだ。あれ、ん?

「でもねー!」

 でも、何かあるらしい。
 やっぱり大きい方がいいとか言うのだろうか。
 それはそれでちょっと悲しいな、と思う咲夜。

「一昨日紅茶持って来てくれたメイドと話しててね!」
「何かありましたかー!?」

 ちなみに一昨日フランドールのところに紅茶を持って行ったメイドは昨日辞表を出している。
 初めて行ったから何かあったのでは、とメイドたちは思っていたのだが、本当に何かあったようだ。
 まぁ、辞表は咲夜がその場でさも当然のように破り捨てたが。

「『あははは、妹様ぁ。メイド長は胸パッドでかなり誤魔化してますよぉ』って言ってた!」

 声色まで真似て見せる。それもかなり上手い。
 妹様にこんな隠れた才能があったなんて!と手を合わせて感動する一同。
 ……が、これ、ぶっちゃけ現実逃避である。
 逃避から戻ったら戻ったで、あぁ、こりゃ酷い。辞表出すのも無理ないわな、と一同納得。
 直後には既に咲夜の足元でその件のメイドが蟹のように泡を吹きながら気絶しており、
 「痛い痛い……でも快感、アッハハハ」などと呻いている。マゾらしい。

「咲夜は私を騙した!」
「いえ、妹様。私はパッドではありません!」

 アイドントユーズおっぱいパッド。
 この場にいる誰もが見苦しい嘘を、と思ったが誰も言えはしない。
 数の問題ではどうにも出来ない事がこの世というか幻想郷にはある。
 「雷符『サンダーボルト』!」とか言い出して全滅させられる可能性もゼロではないのだ。

「嘘だッ!!!」
「嘘ではありません!」
「でも、だって、信用出来ないよ!」
「してください!」

 出来ないのも無理はない。
 つい少し前まで絶対的に信じていた存在が否定されたのだ。
 真偽を確かめなくては納得いくまいて。
 だから出てきたのだろうが、いきなり暴れるあたりはやはりお子様である。

「咲夜お願いだから本当の事を言って!」
「違う! 違いますから! 本当に!」

 いやいやと首を振る咲夜。何かと限界が近いっぽい。
 と、フランドールが高く飛翔し、周りを見渡す。
 暴れた事は、結果的にフランドールにとってありがたい事となった。
 こうして大量のメイドと門番が集まったのだから、そう。

「みんなー! 咲夜はパッドなのー!? 違うのー!?」

 質問。多数決。これ最強。
 フランドールもどうしてなかなか丸くなったものである。
 が、この質問に全員が「ひぃー!」とか言いながら涙を浮かべたのは言うまでもない。
 中には「お母さんごめんなさいお父さんごめんなさいまだ見ぬ旦那様ごめんなさい私ここで死にます」などと諦めの早い者も出てきた。
 さて、難しい質問だ。誰もが真実を知っていて、しかし知らぬフリをしているモノ。
 素直に答えればこの場で鉄拳制裁が下る事は間違いない、が、しかしである。
 もし嘘をついてそれがばれれば……、後が怖い。何をされるかわかったものではない。
 『紅魔館定期リストラ大会~クビになるのは誰だ!?~』の優勝者筆頭候補になる可能性も十二分にあるだろう。

 グッ、と100の顔が動き、200の目玉が咲夜の方を見る。
 「言うなよてめぇら」ってな目で睨まれる。弾幕ごっこどころか弾幕戦争でも起こりそうだ。
 咲夜……恐ろしい子!

 グッ、と100の顔が動き、200の目玉がフランドールの方を見る。
 「本当の事を言ってよー?」的な目をしつつ指を唇に当てながら視線を返してくる。
 嘘をついたら後が怖いとか言う以前にこんな小動物っぽくて純真な瞳に嘘なんてつきたくない。

 グッ、と99の顔が動き、198の目玉が美鈴の方を見る。

「って、あれ!? みんなどうして私の方見てるのかな!? かな!?」
「隊長! 私たち平門番には決断する事の出来ない大きな問題です! 是非とも隊長のご英断を!」
「そうです美鈴門番隊長! 私たち平メイドが決めるなんて恐れ多くてとても出来ません!」
「ちょっと待てあんたらああぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!」

 それらしい言い訳を並べてはいるが。
 どう考えても美鈴ひとりに押し付けようとしています。
 本当にありがとうございました。

「冷静にみんなで考えれば打開策もあるはずよ! だから!!」
「「美鈴!」」
「はい!」
「「門番隊隊長、紅 美鈴!!」」
「はい!!」
「「ここにいる全員の総意としてあなたが答えなさい!!!」」
「うわーん!!」

 フランドールと咲夜、2人しての指名。
 これではもう逃げようもない。
 あはは、と冷や汗と無理矢理作った笑みを同時に浮かべ、きょろきょろと周りを窺う。
 前方にはメイド隊、後方には美鈴が主導してかき集めた門番隊が展開。やはり逃げ道は、ない。
 よもや部下たる平メイドと自ら募った精鋭がこのような形で敵に回るとは、さすがの美鈴も思いもしなかっただろう。
 ってゆーか思いたくなかった。

「…………」

 ごくり、唾を飲む。
 どちらに転んでもそう良い事にはなりそうにない、が、どちらかを選ばなくてはならない。
 さすがに美鈴をクビにはしないだろうが、『ドキッ! 水着だらけの紅魔館人事異動水泳大会~たゆんもぺたんもあるよ!~』で過酷なペナルティを課される事はあり得る。
 そうなると降格は免れないだろう。
 ならば……、

「咲夜さんは凄く形が良くて!」

 おおっ!と誰もが驚嘆した。
 「隊長は……言うぞ!」そんな声と、期待に満ちた視線とが飛んでくる。
 こら隅っこのメイドと門番、哀れむような目をしない。

「とってもいい胸をしていると思います!」

 会場……じゃなくて、空間操作によって広がった廊下でフランドールを抑えるべく集まっていた人員が、沸いた。

「隊長……胸パッドかどうか答えてませんよ?」

 ざわざわざわざわ……。
 イマイチ空気の読めていない、新人門番。
 誤魔化そうとしていたのに、見事失敗に終わってしまう。

「え、えっと、咲夜さんはその!」

 ごしゃあ。同時、美鈴が吹っ飛ばされた。

「めいりん!」
「咲夜さん、えっと、私は、本当が嘘に変わる世界はあると思います! 夢があるから強くなるんですよ!」
「何が言いたいのかわかるようでわからない! ちゃんと答えないとこれからはあなたの事を!」
「ちゅ、中国はやめてください中国は!」
「『だっちゅーの!』と呼ぶわよ!」
「よくわかんないけどそれはそれでなんか嫌あああぁぁああ!!!!」
「お黙り!!」

 ぐにゃあ。
 揉まれる。あ、もう駄目だこれ。
 と、思われた矢先である。

「あああああ!!!」
「美鈴?」
「揉んだね! 親父にも揉まれた事ないのに!!」

 そりゃ親父に揉まれたら色々困るだろう、とは誰も突っ込まなかった。
 それほどまでに美鈴の表情は怒りを含んでいたのだ。
 誰もが思った。今の美鈴隊長ならメイド長も倒せる、と。

「この胸パッドがああぁああぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「んだとこらおっぱいの化身がああああぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

 誰もが思った。今のメイド長ならお嬢様も倒せる、と。
 そして次の瞬間には美鈴は床に伏せっていた。
 ただ単に気絶させられただけではない。
 空間操作によって遙か高くにある天井。それに穴が開いている。
 一回天井よりも高く舞い上がって、落ちてきたのだ。

「さ、咲夜……」

 時間が動き始めて咲夜が最初に見たのは、茫然自失としたフランドールの姿。
 そこにいつもの覇気はなく、しかし憧れを打ち砕かれた夢見る子供の怒りが確かに感じ取れた。

「妹様」

 ニコッ。

「今のは美鈴の戯言ですので、気にしてはいけません」

 その笑顔はフランドールにさえ恐怖を与え。
 その目にはグングニルでさえ相殺しそうな鋭さを。
 しかしそこはフランドール、僅かに恐怖を覚えても、決して怯みはしなかった。
 そして何より、伝わる恐怖が咲夜の言う事が嘘だと語っている。
 だから。許すわけには、いかないと。

「咲夜ぁー!」

 お前がニ○ルを殺した! とでも言わんばかりの勢いで咲夜に迫るフランドール。
 空から地へと。圧倒的な力が殺到する。

「妹様ぁー!」

 対する咲夜は地から空へ。圧倒的な力を迎え撃つべく放たれるは、ナイフを握った右手。
 魔杖の一振り。それは魔法を使っているわけでもない、ただ武器を振るうだけの攻撃。
 だが、咲夜はそれをナイフ1本で見事受け止める。
 が、吸血鬼と人間。その身体能力の差は如何ともし難いほどに大きく、そして埋めようがない。
 魔杖が振り抜かれ、咲夜が吹っ飛ばされる。
 床が砕け、破片が舞い、粉塵が視界を遮った。

「メイド長っ! 援護を!!」
「やめなさいっ!」

 援護へ向かおうとしたメイドを止める先輩メイド。
 同時に目の前に弾幕が降り注ぎ、粉塵を吹き飛ばして代わりに視界を埋め尽くす。
 着弾の後、再び舞い上がる粉塵。
 そこから姿を現したのは衣服を乱れさせながらも、かすり傷程度しか負っていない咲夜であった。
 その表情、笑顔の奥に潜むのは底知れぬ恐怖。
 汚れてすらいない胸部付近は一体何なのか。そんなに守りたいのか。
 メイドたちも、門番たちも動けない。ただただ状況を見守る事しか出来ない。
 元よりあるフランドールへの恐怖心と、咲夜の笑顔が全ての者の身体を萎縮させてしまっている。
 嗚呼、おっぱいがここまで人を本気にさせ、戦慄させる存在だったなんて。おっぱい。

「妹様。あまりはしゃぎ過ぎますと、咲夜はお仕置きをしなくてはいけなくなります」
「ふん。咲夜が私に勝てる? 第一、咲夜が私を騙したのがそもそもの始まりじゃない」
「わたし は むねぱっど では ないと いっている」
「っ!?」

 咲夜の言葉が終わったと認識した瞬間、首筋をナイフが掠めた。
 否、確実に当てに来ている。
 フランドールが本能的に後ろへ動いたために掠めるに留まっただけだ。
 首に一撃貰った所で決して致命傷にはならないが、夜とは言えど今日は月の光もそう明るくはない。
 出来れば、深手は負いたくないのだ。

「Move!(動け!)」

 咲夜の声に呼応し、フランドールの背後をナイフによって形成された弾幕が襲う。
 え、と声を漏らし振り返るフランドール。
 弾幕を展開し、相殺。それが出来なかった分は魔杖を振るい叩き落とす。

「本命はこいつね!?」

 一点、他よりも輝く箇所。
 6本の純銀製のナイフ。
 そいつを見つけると他のナイフは無視し、それだけを確実に落とす事に集中する。
 掠るナイフも、刺さるナイフも全て無視。だが、純銀製は全て落とした。

 再び咲夜の方を振り向くと、ナイフを振り下ろさんとしている。

「そんな簡単にぃ!」
「くっ!?」

 が、靴底が咲夜の顔目掛けて飛んでくる。
 至近へ迫っていたがために『時間を止めるための時間』を確保出来ない。
 咲夜は刺さったナイフが与える痛みで動きが鈍ると読んでいたのだが、むしろ逆。

 『憧れていた咲夜のおっぱいが偽物だった』

 その怒りと咲夜から受けた攻撃は、フランドールの動きに鋭さを与えたのだ。
 何とか回避行動を行い、しかし避け切れず肩へ衝撃を受け、咲夜が地へと堕ちて行く。
 だがギリギリで踏みとどまり、滞空。

「壊れろ!」

 揺れていた視界が安定し、咲夜が見たのは開いた手を握り拳に変えたフランドール。
 さすがにレミリアが最も信頼を置く従者を殺す事はしないだろうが、それでも深手を負わすつもりではあるだろう。
 破壊の波動が見えるようなそんな錯覚と共に咲夜の

「……がっ!?」

 胸パッドが壊れた。パラパラと肌蹴たメイド服の隙間から散ってゆく美しき形を保っていたもの。
 天井や壁の破片とは違い儚さを見せ分かたれるその全て。

「あ、あれれ?」

 フランドールからすれば、かなり外した。
 僅かに走り始めていた痛みのせいで狙いがずれたのか。
 続けて攻撃をしようとするが、もう遅かった。
 瞬間感じたのは今までの物を圧倒的に上回る恐怖。
 眼下のメイドや門番は悲鳴を上げ外へと出て行く。
 本来の出入り口は塞がり、中には壁を破壊して出て行こうとする者までいる有様だ。

「え、えっと。さく、や?」
「ふ、ふふ。やってくれましたね、妹様」

 あははははは、と。
 人のものとは思えない、否、妖怪の頂点に君臨しせり吸血鬼たるフランドールにも到底考えられぬ、理解出来ぬ音で響く笑い声。
 それはもちろん咲夜のもので。

「妹様、お仕置きです」
「な、なによ!?」

 本能的に感じる恐怖を押さえ込み、矜持を以ってして抵抗しようとするフランドール。
 何かもうおっぱいおっぱいだ。ではなく、いっぱいいっぱいだ。

「咲夜なんて……咲夜なんて……!」

 私より弱いくせに、とは言えなかった。
 これほどの恐怖を前にしてなお、その言葉を発する事は出来なかったのだ。
 涙が瞳を潤す、泣きたくなる。魔理沙に頬擦りして頭撫でて貰って「怖くない、怖くないからな」とか言って欲しい。
 だが、ここで何も言わないのはフランドールにとって許される事ではなかった。

 そして、フランドールは。

「咲夜なんて私よりおっぱい小さいんだきっと…………!!!!!」

 んなこたぁない。




「フンニャラゴオオオオォォォオォォォオォオオ!!!!!!!」




 もはや意味不明。咲夜の逆鱗に触れてしまった言葉の残響と共にフランドールは撃墜され。
 咲夜の周囲半径80mの範囲が、紅魔館から削げとられたのであった。


  *


「とまぁ、以上がお嬢様が生き埋めになった経緯よ。妹様にも困ったものだわ」

 かくして状況は冒頭へと繋がる。

「って、ちょっと待て! 長すぎるとかそれはもう置いといてどう考えてもお前が元凶だろ!
 呼びに来た時フランが暴れてみたいに言ってなかったか!?」

 まぁ、そんな感じ。
 霊夢にせよ魔理沙にせよ即了承したわけではなく、霊夢は食料1ヶ月分、魔理沙は図書館の魔導書を5冊という条件で受けたのだが。

「妹様にも困ったものだわ」
「それと、生きようぜ! 偽者なんて殻は被らずに私たちと一緒に貧乳としてぶべごばらぐっ!!??」

 魔理沙が吹っ飛んだ。理由は言うまでもない。

「あなたたちと一緒にしないで。あなたたちとこの件に関して馴れ合うほど私は小さくはないわ」
「……説明が後になったのはまぁ、いいとして。あれだけのメイドがいるんだから全員でかかれば何とかなるんじゃないの?」
「霊夢、あなたも見たでしょう? あの変な円錐のはね、攻撃が強力であればあるほど数を増すみたいなの。
 確かに全員総攻撃をすればある程度は崩れたけど、怪我人続出よ」
「ぱ、ぱちゅりぃは、ど」
「……無理して喋らないでも、魔理沙。パチュリー様なら今日は超絶体調が悪くて使えないわ」
「でも、マスタースパークの系列でもダメとなると、どうすればいいやらね」

 霊夢が肩を竦めながらそんな事を言う。
 が、事実だ。いくらガチで勝負すれば霊夢の方が魔理沙より強いとは言え、今回の攻撃目標は基本的には動かない。
 となれば、単純に最大攻撃力では上回る魔理沙が一番、瓦礫の山を崩壊させるにはいいはずなのだ。
 しかしそれでもまともに切り崩せず反撃されてしまう。
 ちなみにフランドールはどっかのメイド長が撃墜したために治療中。

「よっしゃ! 良い方法を思いついたぜ!」

 いつの間にやら完全復活魔理沙。

「霊夢、今すぐ脱げ! 脱ぐんだぎがぶらべぼどっ!!!???」

 しかし即時に吹っ飛ばされた。

「あんたの脳みそは虫でも沸いてるのか。それかスカスカなのか」
「いや、私の脳は超正常だざ、ぐふっ」

 何やらレミリアが喜びそうな色の物を垂れ落としながらも魔理沙。
 なかなかどうしてしぶとい。

「じゃあ驚異的に汚れてるのねきっと。今すぐ脳をゆすげ」
「そのネタ分かる人はあんまりいないんじゃないかしら」
「いやそういうの別にどうでも良いし」

 それで、と呆れたように言ってから霊夢は魔理沙を見やる。

「なに、一応どういう理由でそんな戯言を口走ったのかは聞いてあげるわ」
「最初から聞いてくれるとありがたか……私は、もうだめ。任せたぜれいぐほっ!?」
「マジで昇天させるわよ、あぁん?」

 凄みのある目で魔理沙を踏みつけ、言い放つ。
 素で怖い。
 しかしまぁ考えれば考えるほど脅威の瓦礫だ、と霊夢は思う。
 防御力高いわ攻撃してくるわで、なんだこれ、さすが吸血鬼の館とでも言えばいいのか。
 しかも円錐の攻撃兵器は10につき3程度の割合でやたらビュンビュン曲がるレーザーを放つうえに追尾機能付き。
 それなんてレクイエムもどき?
 もうなんでもありかい。こんな館の当主だなんてレミリアあんた凄いよ。
 まぁ、その当主は今現在、瓦礫の下に埋もれているのだが。

「霊夢を脱がせと風が私に優しく囁く……」
「うっさいだまれ」
「ふっ」

 がしっ、と魔理沙が霊夢の踵落としを受け止めた。
 笑みを浮かべながら魔理沙が反撃に出

「ぐびにがらっ!!!!???」

 られなかった。咲夜の回し蹴りが炸裂したのだ。

「さ、さくや、何故」
「……いや。何か関西の血が話を面白い方に転がせと囁いて」
「それどう考えても咲夜違いだからね。何の事かよくわからないけど」

 それにこの咲夜は関西出身なわけないし。
 と、背後から足音。ドアは粉々に砕けているのでそんなものを開く音はない。
 3人が振り向き、見る。そこにいるのは。

「……全く、騒がしいったらないわね」
「あれ? パチュリー様。ご体調の方は大丈夫なんですか?」
「あぁ、その件ね。それなら気にしないで」

 パチュリーは右手の親指を立て、清々しい笑顔になり、

「 全 然 無 理 」
「「「じゃあ出てくんなよ紫もやし」」」

 吐血。

「とは言っても、最愛の友人であるレミィが生き埋めになっているのをただ黙って見ているわけには行かないわ。
 私には聞こえるの。『パチェ助けてパチェー私逝っちゃう逝っちゃうあはーん』という助けを求めるレミィの声が」
「妄想乙」
「魔理沙。後で話があるわ。主に拳で語る話し合い。ぐぼっ」
「『普通の吐血使い』が何言ってやがる。無理だぜ、そんなの」

 何その新しい職業。
 と、パチュリーは笑い、後ろを見る。
 そこにはいつの間にやら、小悪魔が。

「小悪魔、頼んだわよ」
「はい、パチュリー様」
「いや待て他力本願かよ」
「魔理沙。後で話があるわ。主に指先と股で語る話し合い。てへっ♪」
「キャラ違うキャラ違う。あと絶対嫌だ」
「真面目に言うと、あの娘は私の従者だもの。なら、あの娘の力は私の力よ」

 ナチュラルに吐血しているあたりはもう何と言っていいやら。
 吐血しても倒れないところを見るに、変な部分が強くなっているようだ。

「しかしパチュリー様。私や大勢のメイド、魔理沙ですら壊せなかったものを……」
「小悪魔が出来るのかしらね」

 躊躇い、言葉を切った咲夜の代わりに霊夢が言う。
 そう、誰がどう考えても無理っぽい。

「大丈夫よ。ね? 小悪魔」
「はい……パチュリー様、『アレ』の許可を」
「えぇ、いいわよ。許可しましょう」

 場が、静まり返る。
 普段からは想像も出来ないような目つきになり、小悪魔が神経を集中させる。

「咲夜さん、ナイフを一本。貸して頂けますか?」
「え、えぇ。構わないわよ」

 咲夜からナイフを受け取り、それを持った方の腕を伸ばす。
 そのしっかりと磨かれたナイフに映るのは自らの眼。
 再度神経を集中させ、小悪魔は覚醒する。

「こああああ!!」

 ……する?

「我! こぁー! 也!」

 空気がざわめく。
 ピリピリと緊張し、空間を萎縮させるかのように。
 床は揺れ、部屋の全てを振動させる。

「我! 萌え! 也!」

 色々と危ない。
 何がってホント色々。

「我……最強なり!」

 空気は荒れるかのように渦巻き、その場に風を吹かす。
 粉々になった石が舞い上がり散って行く。

「パチュリー……」
「なに、魔理沙」
「ダメだろ、これ」
「OKOK」

 OKらしい。

「けど、あれは本当に小悪魔なんですか? パチュリー様」
「いえ……違うわね」
「違うのかよ!」
「ごふっ!? な、ナイスツッコミ……ぐほがはっ!!」

 咲夜の激しい突っ込みに豪快に血を吐くパチュリー。
 人間ならそろそろ病院行きだがそこはどっこい、生粋の魔女である。
 割と大丈夫。

「あれは、そう。言うなれば『こぁクマー』。その力は赤くないけど通常の3倍。いえ、それ以上。
 瞬間的な攻撃力でマスタースパークや妹様を上回るのみならず、総合力でさえ一時的になら霊夢、博麗の巫女たるあなたをも越えるわ」
「く……! 突っ込みどころ満載なんだろうけど空気が真面目すぎて突っ込めないぜ……!」
「でも、そんなのがあるなら何で私が初めて来た時に使わなかったのよ」
「危険を伴う上に、非常に致命的な弱点も持ち合わせているんですよ、霊夢さん」

 霊夢の疑問に答えたのは小悪魔……否、こぁクマー自身。
 その雰囲気は先程までとは違い、下手にかかれば数秒で倒されそうな気がしてくるものであった。
 いつもの姿と変わらない、しかし背後にあるオーラにはつぶらな瞳のクマっぽいものが見えなくもなかったりとか。

「致命的って……小悪魔、じゃなかった。こぁクマー、あなた」
「大丈夫ですよ、咲夜さん。今なら、その致命的な弱点を突かれる事はないでしょう」

 あと面倒くさいのでいちいち言い直さないでもいいです、と続けた後、小悪魔、ではなくこぁクマーは瓦礫へと近づく。
 警戒態勢に入るかのように飛び出してくる円錐の攻撃兵器。
 それを一瞥すると、こぁクマーが動いた。
 速すぎる動きは霞んで見える。
 その速さのまま失速などする事もせず動き、次々に円錐のを叩き落としていく。
 速い、が、小回りもいいあたりは元が『小』悪魔ゆえか。

「こあああああ!!」

 気合を入れる声である、一応。

「こあぁぁああぁ!!!」

 轟音と共に、全ての円錐のが叩き落とされた。
 しかし何か妙な魔法でもかかっているのか、いくら壊してもまた出てくるゆえに油断は出来ない。

「こあらっち!!!!」

 もう何が何だか分からない上にふざけてるとしか思えないが、こぁクマー本人は至って真面目である。
 真面目なのだ。

「こあーあーこあっ、こあこあこああこあっこっこあー!!!!」

 次はあの瓦礫っ、お嬢様今お助けしますー!
 とか言ってるのかもしれない。よく分かんね。

「こあー!!!」

 こぁクマーの弾幕によって崩れる瓦礫。
 パラパラと舞う破片を次の弾幕が無き物にしていくその様は圧倒されるものがある。
 破壊の力が空間を支配する。あれがあの小悪魔だったと、誰が信じられようか。

「こあーはっはっはっはぁー! こあ、こあこあっこー!」

 私に勝てる奴なんてこの世にいねーよ! うぇ、はっはっはー!
 とかそう言う事は言っていないと信じたい、が。
 こぁクマーの表情はまさに弱者を屠る強者のそれであった。
 弾幕も終わり、しかし瓦礫はまだその全てが崩れたわけではない。
 攻撃力はそこそこでしかないが、防御力は思ったよりもかなり高いようだ。

「……アレでも、ダメですか」

 攻撃を止めたこぁクマーは軽く落ち込む。
 やはり私では、とそんな悲観……しかし。
 後ろを見ると、期待するかのように見ている霊夢、咲夜、魔理沙。
 そしてそろそろ限界が近いのか白目剥きながらも何とか立っているパチュリー。

「まだだ……まだ終わらんよ!」

 私がやらなければ、そう思い気合を入れなおすこぁクマー。
 と、何やら妙なスイッチが瓦礫の前に現れた。
 何故かは分からない、だがそこにスイッチっぽいものがある事だけは確か。
 ――……一体何に使うんでしょうか?
 考える。が、結論は出ない。だが何にせよ。

「……押したい」

 そんな欲望。そうだ、アレを押せば瓦礫はなくなる、そんな気がする。

「こ、こぁクマー!」
「わかっています、アレは罠ですよね、パチュリー様」

 目を瞑り、精神を研ぎ澄ます。
 そう、先ほどまでのように弾幕で瓦礫を崩していればいいのだ。

「そんな餌に私は釣られない」ポチッ、ドカーン!「クマー!!」

 割と危なげな雰囲気を醸し出しながら派手に散って行くこぁクマーだったもの。
 そこに残ったのは黒焦げになって気絶している、小悪魔だったりとかどうとか。
 釣り針の付いた糸を口に咥えているのは気のせいだと思う。

「……文章での説明はおろか改行やスペースを入れる暇すら与えないなんて、何て速さなの」
「パチュリーが何を言ってるのか私には理解出来ないんだが」
「気にしないで、大した事じゃないから」
「パチュリー様。もしかして、致命的な弱点って」
「アレを使った小悪魔は、罠にかかりやすくなるの。何故かはわからないけれど」
「……で、次の策はあるの? 大図書館さん」

 半ば皮肉るようにパチュリーに問うたのは霊夢。
 顎に手を当て、考え込むパチュリー。
 その手が口から漏れる血で赤く染まって行くがそれはスルー。
 何か赤色以外、具体的には緑とか七色とか出てきたけどそれもスルー。

「ってスルーするなスルーするな! なんなのよこれ!」
「パチュリー大丈夫か!? っていうか一体何を吐いてるんだお前!」
「ちょ! くさっ、臭いわよこれ!」
「ほんとだっ、くさい、くさい!」

 パチュリーの口から出てきた、自らの常識においては明らかに血ではないものを見て動揺する霊夢と魔理沙。
 倒れてしまったパチュリーの周りには様々な色の液体の混ざり、池のようになっている。

「……何をそんなに騒ぐ必要があるのよ」

 が、咲夜はそんなもの当たり前だと言わんばかりに2人を冷めた目で見た。

「だってお前! これ、明らかに血じゃないぜ!? 臭いし!」
「落ち着きなさい。魔理沙、あなたパチュリー様を何だと思ってるの」
「な、なにってその……えっと、パチュリーは私の……その」
「魔女ね、魔女」

 顔を赤くして俯いてしまった魔理沙の代わりにフガフガしながら答えたのは霊夢。
 青色の洗濯バサミで鼻を挟んでいる巫女の姿はなかなか見れるものではないだろう。
 それ以前にどこからとり出したのかよくわからない。

「そう、魔女ね。パチュリー様は人間じゃないの、よ・う・か・い。別に血が赤く無かろうが変ではないのよ」
「そ、そーなのかー!? れ、霊夢! 妖怪退治を生業としているっぽい気がしなくもないような感じの貧乏な巫女さんから一言どうぞ!」
「……今までどいつもこいつも血も出ないくらいボロボロにしてきたから、妖怪の血なんてまともに見た事無かったわ……」
「それはそれでどうかと思います! では現場のアリスさんどうぞ! 別地区のリグルの触覚さんとの通信も繋がっています!」
「再び落ち着きなさい。魔理沙、現場はここよ。誰とも通信繋がって無いから。
 あと霊夢。その洗濯バサミは後でもとあった場所に戻しておいて。どうするつもりだったの」

 パクったものだったようだ。

「ひとつくらい、いいじゃないの」
「それとね、今日のはまだ良い方なのよ?」

 口答えしたら無視された。

「悪い時なんてこう、口の中で紫色のヘドロっぽい生き物を作るんだから」
「……洗濯バサミ……」
「口から出すのか!」
「それだけじゃお腹とかで作ってから出してるみたいじゃない。口で作って口から出すのよ」
「…………洗濯バサミッ…………!」
「想像すると凄くショッキングな映像だな!」
「そうね、私は結構慣れたけど」
「洗濯バサミーッ!」

 徹底的に無視された。
 ふと、未だ瓦礫に埋まっているレミリアを助けるべくここに集まった人物を見渡す咲夜。
 貧乏巫女にボケまくってる魔法使い。
 倒れているパチュリーと未だに瓦礫付近で気絶している黒こげ状態の小悪魔。
 咲夜はそれを見た後で眉をひそめ、呟く。

「さて、それはそうとどうしたものかしらね」

 それは諦めを多量に含んだ呟きだ。
 こいつらでお嬢様を助けられるのだろうか、と。
 そもそも私は何故こいつらを頼ったのか、と。

「夢想封印・マスタースパーク・殺人ドール・パチュリー砲・こぁサーブの波状攻撃とかどうだ?」
「人間大砲ならぬ妖怪大砲ね!」

 何故か楽しそうな霊夢。
 洗濯バサミの方は諦めたようだ。
 しかしながら、どうにも娯楽扱いしてる感が否めない。

「ところで、こぁサーブって何」

 ケラケラと楽しそうに笑う霊夢と魔理沙に、咲夜が冷静に突っ込んだ。

「夢想封印・マスタースパーク・殺人ドールが交差する場所にパチュリーを撃ち込んで爆発させ、その勢いで小悪魔に凄まじい回転を加えるんだ」
「割と普通に嘘よね」
「かなり普通に嘘だぜ」

 どうやら言ってみただけだったらしい。
 溜息。
 とりあえず霊夢と魔理沙にはお引取り願おう、そう思い口を開き

「ねぇ、私ふと思ったんだけどさ」

 ……かけたところで、霊夢が何か思いついたようだ。
 フゴ、と妙な息を吐いた後で鼻を挟んでいた洗濯バサミを取り、続ける。

「あれさ、あの円錐の。こっちが攻撃したら、向こうも攻撃してくるんでしょ?」
「そうね、何度も確認したわよ。攻撃しない限りは、どれだけ近づいても何もして来ない」
「ならさ」
「なら、なに?」
「攻撃しないで普通に瓦礫の撤去作業でもやればいいんじゃないの?」

 右手の人差し指を咲夜に向け、可愛らしく笑いながら霊夢が告げた。


  *


 紅魔館修復作業中のメイドと門警備の門番を除いた全ての者が集められ、作業は開始された。
 しかし、しかしである。
 多い。というかなくならない。
 いや、確実に減ってはいるのだが、どこからか新しいのでも沸いて出てきているのか労力の割には全然減らない。
 下手をすれば数年かかってしまうのでは、とも思わせるほどだ。
 それでも皆、自らの尊敬する夜の王であり紅魔館の当主であるレミリアを救おうと頑張っていた。
 霊夢が円錐兵器の穴に気付いた頃にはまだ少し頭を見せた程度だった太陽は頂点などとうの昔に越え、沈み始めている。

 ぱたり、と霊夢が倒れた。

 突然の出来事であった。
 あの博麗の巫女である霊夢が食料のために必死にレミリアを助けようとし、そして倒れた。
 メイドのひとりが駆け寄り、首を横に振りながら咲夜に報告する。

「……バスト80を越える夢を果たす事無く巫女はこの世を去りました」

 直後このメイドがこの世とあの世の境界をさ迷う為に意識を失い、霊夢が復活した。

「まだ、やれるわよ」
「霊夢、いいから休みなさい。何なら帰ってもいいわよ。あなただって人間なんだから、体力がもたないでしょう」

 咲夜は時間を止めて休んでいるが霊夢は違う。
 そんな事が出来るはずもなく、休みなしで何時間も撤去作業をしているのだ。
 魔理沙はとっくに魔導書を諦め、帰宅していると言うのに。

「今、ぶっ潰れてもいい。1ヵ月後に生きている事が大事だ」

 そこまで貧困していたとは。
 皆が哀れみ、中にはポケットに入っていたチョコやクッキーをとり出す者まで居る。
 博麗の巫女にではなく、必死に生きる少女に出来る限りの事をしたいと。

「霊夢。……食料1ヵ月分、あげるわ。ここまで協力してくれたんだもの。だから、帰りなさい」

 そっと涙を拭う咲夜の姿は優しさで溢れていたと、それを見ていたメイドが後に語っている。

「ありがとう……。それと、ごめん、なさい」

 僅かに涙を浮かべながら、俯く霊夢。
 咲夜の優しさに涙し、レミリアを助けられなかった自分を情けなく思う、弱々しい少女の姿。
 夕日はそんな霊夢を慰めるかのように美しく輝いていた。

「さぁ、みんな」

 咲夜がメイドと門番の目を自分に向けさせるため、呼びかける。
 この状況を打開すべく、皆の士気を上げるべく。
 穏やかな、しかし迷いが無い事を感じさせるよく通る声で言うのであった。










「明日からこの紅魔館の当主は妹様よ!!」



咲夜さん諦めるなよ諦めるなよ咲夜さん。

絵板でこぁクマーを見た事を思い出し、釣られるこぁクマーが書きたくなったので書き途中の話に加えてみたりしました。
どうかなぁー。

では、今回はこのあたりで。
お読みくださった方、ありがとうございました。
翔菜
bekky_182@hotmail.com
http://www.little-wing.org/
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コメント



0.5250簡易評価
3.70おやつ削除
しかし新当主の妹様は、咲夜への信頼を著しく欠いてるような……w
4.80名前が無い程度の能力削除
解決してねーw
5.90幻想と空想の混ぜ人削除
実質当主はサクたんか
7.70思想の狼削除
捨てんなぁぁぁーーーーっ!!
8.100SETH削除
う 埋まってモータルコンバット!!!(涙
13.100某中将削除
ただひたすらに突っ走り続けたその姿勢に負けた(笑)
19.100月影 夜葬削除
小悪魔ナイス!

咲夜さんちょっと待てぇぇぇ!
27.70変身D削除
この紅魔館はもうダメだ(w
で、一見冷静なように見えて実は咲夜さんが一番ぶっ壊れていたと言うオチですね?(死
28.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんひでぇwww
30.無評価悠祈文夢削除
あんたって人はーっ!!w
31.80悠祈文夢削除
点数入れ忘れ _| ̄|○
32.100ぐい井戸・御簾田削除
オチが凄絶w
38.100削除
こんな作品に100点をクマー!!
39.100CCCC削除
お、オチが脈絡ねぇぇぇぇぇ!!www
44.70名前が無い程度の能力削除
>バスト80を越える夢を果たす事無く巫女はこの世を去りました
全米が泣いた。
58.80名も無き猫削除
待てやこrあぁぁぁぁぁ!?
60.90無銘削除
なにこの清朝末期の傀儡政権
あとだっちゅーのが向こうにあるということはあれは幻想になったのか
65.100印度削除
鵜堂刃衛の懐かしさに涙が止まらない。
69.60aki削除
フランドールを当主ですか。
あー、なんと言いますか、こう、
『翌日にでも必死こいてレミリア救出に向かう皆の姿が見えるようですよ』。

霊夢に渡された食料一ヶ月分って、『人間用の』ですよね…?
85.100煌庫削除
お嬢様・・・・・あんなことさえ言わなければ・・・・・
88.100名前が無い程度の能力削除
こんな作品に100点を入れこぁー!!!
95.100名前が無い程度の能力削除
あきらめたぁぁぁぁぁぁっ!!!
咲夜さん、きっとすげえいい笑顔で言っていたと思う……(w
103.100絵描人削除
ちょっと待てえええぇぇぇぇっっ!!w
104.90名前なんか無い程度の能力削除
釣られるこぁクマー最高w
112.100名前が無い程度の能力削除
最後で吹いたw
咲夜さんあきらめるなぁぁぁぁぁ!!

妹様が当主になったら、咲夜さんは降格ですねw
113.90乳脂固形分削除
すっごいふきました
115.90無を有に変える程度の能力削除
諦めんなー!!
135.100名前が無い程度の能力削除
オチわろたwwwwwwww