Coolier - 新生・東方創想話

境郷

2006/06/19 18:12:06
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*軽めの警告。
 本SSは八雲さんちの紫さんの話ですが、
 舞台設定がほぼ幻想郷からはみ出てしまっているため、弱オリキャラ警報を発報します。
 そのことをご了承いただいた上で、では、どうぞ
 長いのでお茶かお茶菓子、もしくは両方があると良いかもしれません。






































 境郷 ~ The Border Land ... or ?




八雲紫、と言えば、幻想郷での人口からすると知らぬ者の方がおそらく多かろう。

だが、とかく力ある存在、人間もしくは人間以外、にとってみれば、

コレほどウサン臭いことで知られる妖怪もいない。

やれ足が臭いだの、グータラゴールキーパーだの、年齢詐称だの、一日40時間睡眠だの、

はたまた『壁に耳あり障子に目あり、天井裏に天狗アリ、そこらの隙間にスキマあり』

などとまことしやかに囁かれる、幻想郷ノゾキ巨頭の一角とまで言われていたりもする。

もちろん、それらの多くは事実無根というわけでは、なかった。











しかし、持ちたる力は強大無双。

亡霊の嬢も、花咲か妖怪も、紅い館の吸血鬼も、月の姫も、天狗も、鬼も、夜摩天でさえも、

時と場合と運と都合によっては彼女に道を譲る。

彼女が、いかな手段を用いようと絶対に、最終的に敵わない存在は唯一つ。










それは、彼女が愛してやまない幻想郷が、その理によって彼女を「懲らしめ」に来る、人間。

妖怪が襲うものであり、同時に妖怪を退治する、人間。

そんな人間が、彼女は大好きだった。









しかし、或る日、珍しくお天道様が低い時間に寝床から這い出した彼女は、ふと気まぐれに―――







理の外へ、抜け出そうと、思った。














 境郷 ~ The Border Land ... or ?












青い空を、見上げている。

良く澄んだ、五月晴れの、実にいい青空だった。

適当なスキマにするりと入り込んだ紫は、まず目に入ってきた光景を、そう評した。

雲ひとつない青空。

むしろ憎ったらしい位にひらけた、広い、広い空。

だが、彼女がその空を良いと感じたのは、もう一つの理由が大きかった。

いつも見ている、幻想郷の空と、決定的に違うその一点。

いつもどこかしらで弾幕が交錯、毛玉が墜落し、妖精が行き交うあの空と。

そして、彼女と、かつての人々が望み、彼女が愛し、

そして同時に心底憎んだ自らを理の内に縛ろうとするそれ。

地平から天頂まで、いずれに向けた眼にも必ず映る、大結界が存在しない空だった。





「……ふふふふふ」





知らず知らず、笑いがこぼれた。

嗚呼、何て自由。何て解放感!




「ふふふふふはははははははは、あははははははははははははははははは!!!!!!」




止まらない衝動は哄笑へとシフトし、しばし一人、空で腹を抱えた。

蒼い、青い、碧い空の下。

このまま笑い続ければ、青色の向こう、漆黒広がる無限の世界に届くだろうか。

そんな思考が頭をよぎって、よぎったことさえ可笑しくて、さらに笑った。

もとより、スキマ、境界を己が力の領域とする八雲紫に、理など不要である。

理の内と外を操るも自在なら、捕らわれ、縛られるなど、酔狂を通り越して道化に等しい。

彼女が力だけの、僅かな意志に付随した巨大な力に個を特定されるのなら、とうの昔に逃げ出していたろう。

だが、彼女にはもはや計量することも無意味なほどの時間と、記憶と、そして理性と情動があって、
それが彼女を今の位置におさめ続けていた。

それらの、境界を定めることが可能である以前に限りなく、そう、ナンセンスな不可分の要素。

自分をある意味において規定し、縛り付けるそれを、彼女はとても、大嫌いだった。

けれどもそれ以上に、縛り付けてなお、穏やかな日々と、退屈しない日々を同時に与えてくれるそれらを、

彼女はとても、大好きなのだ。








「はははははは……はぁ、たまにはいいわね、こういうのも」




上を向いて、笑ったままの姿勢で呟いた。

どのくらいの時間だっただろうか、気付けば低かった太陽が、徐々に自己主張を強める時間に差し掛かっていた。


「さて、どうしようかしら。
 ……適当に人をおどかすのもいいわね、それとも、だれか攫ってみましょうか。
 目の前の現実に無意識に依存しきってる愚か者に、世界を在り様を見せてやるもの面白そうね」


いくつか思いついてくる楽しみをこともなげに並べながら、スキマから出した上半身をよいしょとひねり、

眼下に広がる光景をとりあえず眺めようとして―――――


「………………………………あら?」


紫は己が目を―――このスキマ妖怪にしては久方ぶりに訪れた珍事として―――疑った。

が、一瞬見開いた目は、まばたき一回の後に細められ、ほんの少し前までの緩やかな光から一変し、剣呑な火をともしはじめる。


「…………これは、何の冗談かしら?」


声ももはや笑っていない。

どころか、既にかざした両腕を中心として複雑な法陣が展開。

まやかしならばその境界を、結界ならばその結び目を、ひといきであるべき姿へと引き戻すはずの力。

暴力的なまでの波動が見える範囲の全てに作用し、揺さぶり、暴露せんと荒れ狂ったが、

放たれた力はしかし、むなしく全てを素通りしていった。


「………………どういうこと?」


呆けたような言葉が口をついて出、彼女の意識の中では、ここにあるはずのない光景を、ただ眺めている。

彼女がいつも、騒がしい空に開いた小窓から眺めていたのと同じ光景。

妖怪が日々跋扈し、人を襲い、人に退治される、彼女が愛してやまない、小さな理想郷。

見慣れた幻想郷が、そこにあった。





















周囲を山に囲まれ、川というにもやや無理のありそうな何本かのせせらぎにかこまれ、

気休め程度の平地に寄り添うようにして立ち並ぶ家々。

その周りに田畑が或いは稜線に沿って高く、或いは降るせせらぎと共に低く、家々の周りを囲っている。

少し離れた小高い丘には、集落を見守るように質素な家が一軒だけ建ち、

遠くの、山の影に隠れるようにあるのは湖で、中央には古い館を抱いた島が浮かんでいた。

湖面は凪のようでいて、しかしその内に潜むものに従うかのごとく、静謐の内に威厳をたたえている。

かと思えば鬱蒼とした森が周囲に多彩な花畑を伴って複雑怪奇な植生を視界の一角で主張し、

誰が建てたのか、酔狂にも森の主張ぎりぎりの所に一軒の、比較的大きな木造家屋。

さらに一方では広大な竹林が種種雑多な気配を匂わせつつもひっそりと鎮座し、

遠くの山はまだ雪をかぶって白く冬の気配を残している。

そして、彼女の目は意識するまでもなく、

人里の一角から、普段はほとんど人が通らぬであろう、

もはや獣道というにも周囲から侵食されすぎた細い、細い道を辿っていた。

やがて道は先のものと様相を異にする霊験たる森へと入り、

太陽をやや左手に見つつ、未申の方角へと徐々にその高度を上げていって――――







「……………………」


「あのさー、いーかげんに我にかえるとかしてくれないと困るんだけど?」


視界を塞いだ相手を、紫は、じっと見つめた。

白い上着に、膝丈までの、若干中途半端な長さのズボン。

やや短めの緑色の髪に、そこからぴょこんと飛び出た二本の『触角』と、

そして何より、それなりの高度に浮いている自分と同じ程度の高さに居ることが、

目の前の『彼女』がとりあえず人間ではないと告げていた。


「……くくくくっ」

「な、何よ?」


口をついて出た笑い、それを見て気味悪そうに身構える目の前のフトドキな蟲妖怪に対し―――


「そう、そうだったのね……」

「ちょっ、だから何!?」


紫は黒い笑みを浮かべつつ、両手をぬうと差し出して―――


「おらぁーこんにゃろちくしょーちょっとびっくりっていうかどきどきっていうかはらはらしちまったじゃねーかてめー!!!!!!」

「ふぁかららんんあっていうのふぁー!!??」


思いっきり、そのほっぺたを引っ張った。

やわらかかった。とても。













「はぁ……まったく不覚だわ。
 狐にでも……は、ないわね、狸にでも化かされたのかしら、それとも白昼夢?
 ねえ、そこのあなたはどう思う?」

「い、いきなり人のほっぺをつねっておいてそれー!?」


妖怪少女必死の抗議、涙目になっているところから察するに、かなり痛かったらしい。

怒りのためか、あるいは引っ張られたためか、紅く染まった頬を押さえてる様はそれなりに可憐に見えなくもない。


「うん、そうね。
 今日はちょっと早起きし過ぎたし、たった15時間しか寝てなかったら、
 そりゃあ誰だって白昼夢の百や二百見るわよね。
 うん、そういうことにしときましょうか。あなたもいいわね」

「勝手に自己完結した上に拒否権なし!?
 てゆうか15時間睡眠って不足なわけ!?」

「当たり前よ」

「うわこいつすっごい自信マンマンに答えやがったよ!
 世の中には満足に睡眠もとれず働いて過労死したり自殺したりしてる人が大勢居るんだぞ!?」

「やっぱり外の世界は駄目ねぇ。
 ちょっと年をとると思考の硬直する人間が多すぎるわ」

「ちょっとあんた、それは一生懸命働いてる人たちにひどすぎ……って、
 え……、今なんて……外? 外って言った??」

「そう、外よ。
 私にとっては、ね」


苦笑している口元を隠すように扇子を広げた。

何の事はない、よく似ているが、しかし、落ち着いてから注意してじっくりよく見ればまったく違う。

並んでいる家々はいずれも『外』の世界でここ3、40年程度の間に建てられたものだし、

家の影になって良く見えないが、車と思しきものも2、3ある。道も一部は無粋なアスファルトだ。

湖の島にある館は、昔はこのあたり一帯の主要な病院か何かだったらしいが、

利用する人間がいなくなったからか、木造の、幅の広い建物は幽霊屋敷と言っていい程ぼろぼろになっている。

森の傍の一軒家も、丘の上のも似たようなもので、竹林も中に建物があるようには見えない。

目の前の少女にしても、年格好こそ比較的近いが、顔や体全体の丸みなどから、

やや年を経た、少女から少しずつ抜け出そうとしている兆しが感じられなくもなく、

紫の知っている『彼女』とは別人、もとい別人妖だった。

そして、何より―――


「…………まぁ、そうよね」


先ほど中断した視線の先、人里離れ、様相だけならば鎮守と呼んで遜色ない森に囲まれた小高い丘。

その上にあるのは、色褪せ傾いた鳥居と、朽ちた社殿だけだった。

確かにそう、位置関係そのものはとてもよく似ている。だが、それだけだ。

空を飛び交う弾幕も、毛玉も、妖精も、人間も妖怪も魔法使いもメイドも鬼も吸血鬼も魔女も閻魔も天狗も店主も、そして巫女もいなければ、

紫を苛立たせ、安心させる結界もなかった。

そう、ここは―――


「幻想郷では、ない」

「へ?」

「何でもないわ。
 ただ、ちょっとだけ……そう、ほんのちょっとだけ、知ってる場所に似てたのよ」

「ふーん……そーなのかー」


紫の周りを警戒するように、或いは値踏みするように回りつつ、少女が言った。

足に泥がついているところから見るに、畑仕事の途中で飛び出してきたのかもしれない。

……畑仕事?


「ねぇ、ちょっとあなた」

「ん、何?」

「ここで何してるの?」

「何って……突然変なのが出てきたから飛んできたんだけど?」

「変なのって……ああ」


確かに、いまだ宙に浮いているのはスキマから出た上半身のみ、

それでいて先刻の探査というかむしろ術破りというかそのあたりの力を盛大にぶっ放したのだから、

はたからすれば変に見えなくもなかろう。そこそこに。


「そうじゃなくてねぇ、私が聞きたいのは……」


言いながら、首を捻って下を見てみた。

再確認の意味も込めてささやかな集落を一望すると、田畑のそこかしこに人影が突っ立っている。

どうも彼らにとっては容易ならざる事態らしく、皆が皆動きを止めてこちらを見ているのは、この高度からでもすぐに分かった。

これも違うわねと、少しの安心と落胆を混合して紫は思った。

幻想郷なら、先刻のごとき行いを里の上空でやれば、1分と経たず里の守護を自認し、また頼られてもいる『彼女』がすっ飛んでくるだろうし、

時と場合と都合によっては他の人間または人間以外がやってくる可能性も充分にある。

それが分かっているから、『里』の人間は基本的に、自分達の領域外の空で行われる妖怪たちの所業に関しては無関心に近い。

せいぜい空を見上げて『今日も空が騒がしいですなー』とか『明日の弾幕確率は60パーセントらしいよ』とか言ったりする程度だろう。


「あなた……人間と一緒に畑仕事を?」

「うん? そうだけど、どうかしたの?」


しごく不思議そうに聞き返されてしまった。

確かに、人間達とある意味において共生する妖怪がいないわけではない……が、

畑仕事を手伝う蟲妖怪とくると、紫にとっても馴染みがない。

そんな風に考える紫の顔がよほど奇妙なものに見えたのか、目の前の彼女は少しむっとしたように続けた。


「あのねぇ、この時期は手が足りないから、誰だって手伝うものなのよ?
 それが蟲でも鳥でも、とにかく人間以外の手だってかり出さないとなかなか終わらないんだから」

「……あら?」


三度、今度はスキマから身を乗り出すように……実際乗り出して、下を見る。

なるほど、少女の言葉どおり、突っ立ってこちらを見上げている人間達に混じって、

その間を忙しく走り回ったり、或いは子供達を集めたりしつつ、割と油断なくこちらをうかがっているのがちらほら。

一見して人間以外と判るものもいれば、そうでない者もいる。

違うのは、ほとんどが驚きと不安で占められる人間の視線と別に、畏怖と、反発と、そして少しの憧憬。


「ふぅん……意外といるわね。
 外でこれだけ萃まって暮らしてることなんて、もうとっくの昔になくなったと思ってたけど」

「ちょっと前までは、みんなばらばらだったんだけどね」


と言う少女。

察するに、彼女がどうやら妖怪たちのまとめ役と言っていいのだろう。

珍しいことも、あるものだった。

だが、それだけだ。

先程までの、困惑しつつもどこかで「まさか」と感じていた心が、冷めていた。

所詮、外の世界の人間が、どこかから又聞きした幻想郷に憧れて始めた真似事だろう。

付き合わされる妖怪たちには気の毒だが、長くはもつまい。


「……そう」


ぱちん、と扇を閉じた。

もはやここに居続ける道理もなかった。

既にこの国から、あの結界のごとき巨大な結び目を創る力など失われている。

であれば、ここのごとき空間はいずれ『外』に侵食され、酔狂として弄ばれ、忘れ去られていくのが関の山だ。

潮時だと、感じた。


「ごめんなさいね、邪魔したわ。
 それじゃ」

「ちょーっと待ちなさい」


スキマに入ろうとしたところ、ぐわし、という感じで行動が遅滞する。

振り向くまでもない、蟲少女がいつの間にか至近にいて、その腕はしっかと紫の肩を掴んでいた。


「…………」

「…………」

「ごめんなさいね、邪魔したわ。
 それじゃ」

「ちょーっと待ちなさい」ぐわし。


今度は両肩を掴まれた。むう、華奢なくせに意外とパワフルな奴め。


「…………」

「…………」

「ごめんなさいね、邪魔したわ。
 それじゃ」

「ちょーっと待ちなさい」ごす。

「~~~~~~~~~~~~~っ!」


さすがに三本目の腕はあるまいと、三度同じ試みを繰り返した紫の後頭部、

艶やかな金の髪が流れるそこに、実に正確に、蟲少女の頭突きが炸裂していた。

痛みで出来た若干の間の後、観念して振り返る。


「……だから、何よ。
 お騒がせしたのは悪いけれど、もう帰るからいいじゃない」

「良くない。
 あんたが派手なのをかましてくれたせいで作業が遅れちゃってるの。
 悪いと思うなら、ちょうどいいから手伝って」

「そんなに長い時間じゃないでしょう。
 少し頑張れば取り戻せるわよ」

「……ほんとに、そう思ってるの?」

「は?」

「ほら」


す、と少女が天を示した。

既に中天を過ぎ、午後の営業に入った太陽がにこやかに照らしかけていた。

こちらに来たばかりの時は、まだもっと低かったはずだが……。


「……あら?」

「さあ」


意外に長い間呆けていたことを紫が実感するより早く、

少女がぐいと手をひき、ついでずるりとスキマから下半身がのぞく。


「大人しく手伝ってくれるわよね」

「…………」


紫は、観念してスキマから残る足をよいせと引っ張り出した。































「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「はいご苦労様」


畳の上、うつ伏せになって唸る紫の前に湯飲みが置かれた。

茶かと思ったが、鼻腔をくすぐる香りはやや趣が異なる。


「疲労回復の薬湯よ。
 身体を動かした後に飲んでおくと効くわ。
 明日筋肉痛でばたんきゅーなんて嫌でしょ」

「……そうね」


ずるずると畳の上を這って湯飲みに到達。

寝転んだままずぞぞと中身をすすった。

濃厚な香りに反して舌ざわりそのものは淡白で、喉から胃へ、通っていったところから涼しげな感覚が広がる。


「……いい味ね」

「でしょ?」


自慢げに笑う少女。


「それにしても、あなた意外と頑張ったわね。
 グータラっぽいからもっと早くギブアップするかと思ってたけど」

「ふふ、これでも真面目なのよ、私」

「ふーん」

「……もっと感動してくれないと私悲しくて泣いちゃう」

「畳汚さないでね」

「ぐっすん」


すねながら、ずぞぞと薬湯をすする。

そんな紫の様子がよほど可笑しかったのか、少女はあははと笑って付け加えた。


「うん。でもまあ確かに良くやってくれたわよ。
 おかげで作業はちゃんと予定通り終わったし、それに子供達も懐いてたみたいだしね」

「言わないで、思い出すから……」


紫自身にとっても意外ながら、ここの人里で暮らしている人間の層は多様で、

特にその内子供達の多くが、或いは珍しさも手伝って、猛然と、また控えめに紫に殺到した。

結果、慣れない肉体労働で既にへばっていた紫に、子供達から逃げるその他の行動を取る余力はなく、

されるがままにもみくちゃと相成ったわけである。


「きっと『外』からお客さまが来たのがよっぽど嬉しかったのね。
 人じゃないけど」

「お客ならお客扱いして」

「あら、それじゃあ座敷の奥でどーんと構えてへへーとか言われてた方が良かった?」

「…………」

「どしたの?」

「あー……やっぱりいいわ。
 なんだかとてもみじめな自分がそこにいたから」

「そう?」


ふふっと笑われてしまった。

最初見た時は顔見知りと言えなくもない蛍妖怪の少女と瓜二つと思ったのだが、

しかし時間と共にその違いがかなり大きいことが分かってきた。

確かに一見だけなら間違う可能性はあるが、節々の挙措にあらわれている間の取り方がまるで別なのだ。

それを何と呼ぶべきか、紫には思い当たるところがあったが、強いて指摘するまでもないとも思っていた。


「さって、それじゃあ晩御飯にしようか。
 食べていくでしょ?」

「むしろ泊まっていくわ……」


スキマに潜り込めば我が家まで一瞬だが、酷使した心身にはそれも難業に感じられた。


「はいはい。
 大したものはないけど、何かリクエストってある?」

「……薬湯をもう一杯」

「承った」


とんとんと、体格にふさわしい軽い足音が遠ざかるのを聞きながら、

紫は、まだ昼間の錯覚の正体を確かめられずにいた。





















夕食後、いつもよりも深くうとうとしていた紫は、

遠くから規則的に聞こえてくる音に意識を引き戻された。


「もうそんな時間なのね」

「……なに?」

「あ、起きちゃった? ……ほら」


耳を澄ますと、遠くからかちん、かちんという音が聞こえてくる。

さすがに「ひのよーじーん」とまでは言っていないようだが、おそらくそういう意味合いもあるであろうそれは、

少女の口ぶりからすると集落の家々を回りつつ、時間を知らせる役目もあるようだ。


「基本的にこの時期はみんな朝が早いからね、その分夜も早めに寝ようってことになってるのよ」

「あら……それはいいことよ。私も早寝は大好き」

「……言っとくけど、早寝は早起きとセットじゃないとあんまり意味無いのよ?」

「大丈夫よ……日が昇っているうちには起きるから」

「そんなにのんびり寝てられればいいけど」

「なによ……もう畑仕事も田植えも終わったんじゃなかったの?」

「そうじゃなくてあなた。
 子供達になつかれてるから、きっと明日も大変よってこと」

「……やっぱ帰るわ」

「あーあーほらちょっと待ちなさいって」ぐわし。


いつの間に寝かされたのか、横になってる布団の脇にスキマを開こうとして、

昼間の再来とばかりに肩を抑えられた。


「まあ、帰るかどうするかってのは、明日の朝にでも決めればいいじゃない。
 あなたの命も私の命も、きっと人間よりずっと長く生きていくけど、
 たまにはこういう時があったっていいでしょう?」

「……そうね。
 戻るのも面倒だし、やっぱり寝るわ」

「そうそう、さっさとお休みなさい」


既に半ば以上睡眠に突入しつつある意識の一角で、

紫はその言葉を聞きながら、とても昔の、記憶を探っていた。

昼間の錯覚の正体が、そこにあるような気がしたから。






















どんどん、どんどんという音が遠くで響いていた。


「…………様! …………様!」

「どう……の? 何……って!?」

「外れ…………こっそ…………れて!」

「わか………た。あなたたちは……へ、みん………て。
 ………のは、私が」

「しかし……では、……りに!」

「時間がないのでしょう! 早く!!」


ばたん、ばたばたばたばた……。
















「…………………………………?」


どれくらい間があったか、紫は静まり返った空気の中、となりに寝ていたはずの少女の不在に気付いた。

不意に、意識が覚醒する。

あやふやな記憶からつい先刻の会話の記憶を引っ張り出すが、

あまりに断片的過ぎて言葉としての意味はなしていない、しかしそこに含まれる緊張は確かに伝わった。


「…………まだ、それほど経ってはいないわね」


並んで敷かれた布団、その一方に残る温度を確かめ、そう呟いた。

何故か、いい知れぬ焦燥感のようなものが紫の背筋を騒がせている。

ここは幻想郷ではない。『外』だ。

夜中に出歩いたとして、大した驚異があるとも考え辛いし、まして彼女は妖怪だ。

その力の程は見ていないが、しかしいかな山奥とはいえ、そこらにうろつく雑霊ごときが敵うとも思えない。

何を焦ることがあるのだろう。

大方、夜中にどこぞの家の子供がうろついて家人が騒いでいるといった程度なのだ。


「でも、何……?」


何かを失念している。

こちらに来てからの、一日にも満たない記憶を検索。


「……しまったわね、迂闊もいいところだわ」


気付いた。昼間の、錯覚と思って片付けたはずの記憶の中の、重大な見落とし。

あのとき、上空から見渡したこのあたりの景色。

紅い館と見間違えた、稜線の影の、湖に浮かんだ島の館。

凪のごとく静まった湖面が、その内にある存在を知らせていた。

あの時、確かに紫の探査術はそこに『何か』が居ることを察知していたはずだった。

だが、それを錯覚と片付けてしまったのは何故だったのだろう。


「けど、今はそれを考えてる場合じゃないわね」


引っかかる部分は多かった。しかし確かに、今は既に、思考すべき時間ではなくなっている。

何かをなそうとして伸ばした手を、だが紫は一旦止め、胸元にやった。

いつ、おそらく夕食の後、眠りこけて居た間だろうが、今彼女がまとっているのは薄い肌襦袢一枚だ。

丈は無論、その他色々と足りて居なかったり余って居たりするのは、借り物だからか。

ほんの半瞬、口元にだけ笑みを浮かべてから一息にそれを脱ぎ、指を鳴らす。

部屋の一角に畳まれていた服が持ち上がり、スキマに飲み込まれた次の瞬間には、

それらは既に紫のいつものいでたちの一部をなしていた。

両手に扇といつもの傘を携え、外、縁側へ続く戸を開け放とうとして、紫はふと、手を止めた。


「ここは……『外』だったわね」


幻想郷ではない場所で、自らの力を使う意味。

そして何より、妖怪である自分が人間の方におそらく加担するであろうこと。

それらが多分、この先に待ち受ける規定事項である事は分かっていた。

しかし―――


「まあ、たまにはこういう時があったっていいのよね」


ぱぁん、と乾いた音をたてて戸を開く。

月の明るい夜空。

眼下には集落が広がり、そこでは夜にしてはいささか騒がしすぎる空気が渦巻いていた。

が、ことの真中はそこではない。

ぐるりと巡らせた視線の止まった先、山裾から平地へと広がる鬱蒼とした森、

確かめるまでもなく、そこに溜まったただならぬ瘴気が事態を伝えていた。


「まったく……世話が焼けるわね」


笑みを、彼女を知る者の内、一体どれだけが目にしたことがあるであろう、

それほどに優しい笑みを浮かべながら、しかし凄絶な気迫を目に宿し、紫は夜の空へと、舞い上がった。






























夜空を駆ける紫を目撃した者は多くなかった。というよりも、まず居なかったと言っていい。

集落の人間のほとんどは一箇所に固まって隠れていたし、

目的地の森で今まさに修羅場をむかえている者達にしてみても、それどころではなかった。

ついでながら、その速度はどこぞの魔法使いや剣士や天狗が思わず手を止めてしまうほどのものであり、

それだけの速さで移動すれば当然ながら、並の存在の目にとまるはずもなかったが。

しかし当の紫は、その速さの中でもほぼあらゆる状況を察知していた。

数人の人と、それを守るように立ち回っている妖怪数名。それが彼女の護衛対象。

それ以外の全て、集落ではついぞ嗅ぐことのなかった醜悪極まりない嫌な気を放つ数十のヒトガタ。

ヒトガタが妖怪か、それ以外かは後で判断することにした。

どうせ前座だ。シメたところでろくに話を聞ける相手とも思えない。

それだけの思考を到達までの僅かな時間に下すと、すうっと、左手を前に掲げた。

ほんの一瞬前まで扇を握っていたそこに、繊手が携えるは、ちょうど掌に収まる程度の一枚の紙。

力を形と為し、外道を顕現する、とても真面目な遊び道具。

久方ぶりに彼女は、存在を害するためにそれを振るった。


「いきなさい」


静かに、厳かに、投じられた一枚の符は慣性も加わって紫を超える速度で飛翔し、

やがて光をまとい、無数に分かたれ、駆け抜けた。




            ――――外力「無限の超高速飛行体」――――




正確極まる射撃は百発百中。

あるものは頭を、あるものは胸を、腹を、それぞれの存在の核たる箇所を撃ち抜かれて霧散する。

全員が一撃で存在を否定され、崩れ落ちるまで要した時間は数秒。

最後の一体が倒れる音に重なるように、紫はその場に降り立つ。


「まあまあかしら」


さして感慨もなく呟き、頭部を射抜かれ首なし死体になったそれに近寄る。

かろうじて人間の者と思しき身体は、濃い体毛で覆われ、四肢の発達も尋常ではない。

傘の先端で検分するようにつつくと、胴体から一枚の札が剥がれ落ちた。


「…………?」


かすかに妖気の残るそれを拾い上げる。

表面にはおよそ洗練という言葉からは程遠い、図式や文字が乱雑にちりばめられていたが、

それがごく特定の効力を持つものであることは分かった。


「獣憑き……」


元来、犬や鳥といった類の動物霊が、人間など複雑な自我を持つ存在に憑依する事は、たまにある。

そういった場合、多くはその意識に対する干渉を受けるが、

また一方で、肉体的な変化を生じさせるものもあった。

特に狼男の一部がそうであるように、それら身体的憑依の現象は主として通常の人間にはあり得ない物理運動を可能とするが、

意識的干渉以上に精神を支配されやすく、特定の術などによる洗脳を容易く受けるようにもなる。

札は、その現象を貼った対象に引き起こすためのものだった。


「なかなか無粋な方法ね。
 ……ところで、そろそろ出てきてもいいわよ」

「……やっぱり、気付いてたか」


かさり。背後で草を踏む音。

だが、帰ってきた声だけで誰が居るかは分かった。


「大したものね」

「ほんの、手慰みよ。
 あら……あなた一人? 他にも居たと思ったけど」

「みんなさっさと帰したわ。
 こんな所にいつまでも居させるわけにはいかないから」

「そう……」


ざあ、と風が抜けていった。

雲が月を隠したか、木々の間から差し込む光が弱まる。


「こんなことが、ここでは日常茶飯事なのかしら」

「こいつらが出るのはしょっちゅう。
 でも、こんな風にかち合ったのは久しぶり」


互いの言葉は、表面だけは変わらないものの、恐ろしく乾いていた。


「夜に、外に出ちゃ駄目だって、言ったのにな」

「…………?」


不意に、声が変わったような気がして振り向いたその先、彼女は、紫とは別の方を向いていた。

ざあ、と風が抜けていく。

再び雲から顔を出した月が、意外に強い光を投げかけてきた。


「…………?」


視線の先を追った紫の目に、妙なものが映った。

木の幹から、種類も大きさもまちまちなあり得ない数の枝が突き出ている。

それらは、周りの木々からもぎ取られた枝で、なぜ一本の木にそこまでの数の枝が突き立っているかというと……


「…………あまり、いい趣味とはいえないわね」


根元に、そうすべき原因があったからだ。

磔というよりもはや木に縫いとめられているに等しい人体。

まだおそらくそれほど時間が経って居ないのだろう。

下向きの枝をつたった血液が幾筋か、葉を濡らして地面に滴っている。


「そのうち、こうするかな……とは、思ってたんだよね」


草を踏みながら、彼女が紫の横を通り過ぎ、その木に近付いた。

手を伸ばし、そっと恐怖と苦痛に見開かれた目を閉じてやる。

その彼女の手も、服も血でそこここが紅く染まっていたが、彼女自身に怪我はないように見えた。


「でもさ……夜が危ないっていうのは分かってるんだから、
 出て行くなら、昼に、堂々と出て行けばいいじゃない」

「ここから、逃げ出したい人間も、いるのね」

「そりゃあね……。
 なんとなく勢いでここまで来たけど、思いなおすとやっぱり『外』がいいってやつは居るよ。
 引きとめはしないんだけどね」

「逆にそれが重荷になる者も居る。
 だから、夜にひっそり、誰にも知られぬように姿を消す」

「……うん、まあね。
 でもさ、出て行くなら、一人で行ってほしかったな」


その言葉を聞く前に気付いていた。

別の木にも同じような状態になっているものがある。向こうに、見える範囲でもう1本。


「多分、死んだのは3人。
 後ふたりは何とか助かったけど、一人は心がちょっと壊れかけてて、
 もう一人は右腕を丸々やられて、夜明けまでが峠だって」


俯いて、それでも、言葉は続いていた。


「こいつら、どこから来るのか分からないから、
 だから、夜は家から出たら駄目だって……言ったのにな」


おそらく、自身もこの連中を幾人か殺したであろう、その血まみれの手が、震えている。


「……ごめん。
 もうちょっと、ここに居てやりたいから……先に帰ってていいよ。
 それと、ありがと」

「……ええ、どういたしまして。
 一宿一飯の恩義だもの、当然だわ」

「……うん、…………ありがと」


背を向けて、紫は歩いて、その場を後にした。












森から抜ける途中、集落の方から走ってきた人影と出会った。

昼間も何度か見かけたその顔見知りの、寡黙そうな青年は、

相手が紫と気付くと僅かに警戒をといて、立ち止まった。


「……あの子ならこの先よ、行っておあげなさいな」


そう告げると、黙ったまま一つ礼をして、示した方向へ走り去っていく。

手に年季の入った太刀を持ち、血で汚れた有様は、彼女とよく似ていて、

おそらく、争いの最中背を互いに預けていたのだと、紫は勝手に思った。

少し歩いてから、風に乗って聞こえてきた泣き声は、空耳ということにしておく。













じじじ、と蝋燭がゆれている。

周りを小さな羽虫たちが飛び回り、時に近付きすぎて火に焼かれ、驚いて飛び離れ、また光に惹かれ近付いていく。

あるいは、理想郷も、そのようなものであるかも知れない。

抗いがたいその魅力に惹かれすぎれば己が身を滅ぼし、

しかし離れたら離れたで、再びその輝きに引き寄せられていく。

だから、近付き過ぎないように、そこに覆いをしてやらなければならなかった。

そして、皆でその明かりを囲みながら、それぞれが適度な距離に居て、明かりを楽しむのだ。

ここには、覆いがない。

紫の知るかの地とは違い、ここには、覆いとなる物も、者も居なかった。

しかし、いずれは現れるだろうと、紫には奇妙な確信がある。

だから。

だから、八雲紫は蝋燭を吹き消して、無言のまま立ち上がった。


















「あれ……どこ、行くの?」


表に出た紫は、ちょうど帰ってきた彼女と鉢合わせた。

月明かりの下でも、泣き疲れ、焦燥した様子がありありと分かるが、

しかし、その顔には穏やかな表情が浮かんでいる。


「ちょっと出かけてくるわ。
 そうね……お天道様が昇る頃には戻ってくるから」

「え……ちょっと、何しに行くのよ」

「んー……あえて言うなら、自分の不始末を片付けに、かしら」

「不始末?」

「そう、不始末。
 それとね、たまにはグータラしてないで、妖怪らしいこともしてやろうかと思ったのよ」


言いながら、歩き出す。

手には扇と傘、スキマの大妖怪八雲紫、いつものスタイルである。


「え、ちょっと、妖怪らしいってなによ?
 どこで何して来るつもりなの!?」

「妖怪らしいことと言えば、昔から決まってるわよ――」


集落の見える丘の上にある一軒の家、月明かりを受けながら、紫は振り向く。

晴れ晴れとした笑みが、顔に浮かんでいた。


「人間を襲いに行くんじゃないの」


ふわりと浮き上がった紫は、次の瞬間、凄まじい速度で飛び去った。

集落とは、まるで反対の方向に。



























扇から飛び出した無数のクナイが、飛び回るこれも無数の雑霊を次々と粉砕していく。

かと思えば、傘から撃ちだされたレーザーが地上から飛び上がったヒトガタを撃ち抜き、

かろうじてかわした者は、頭上から急降下してきた墓石やら道路標識やら漬物石やら白いタキシード姿の老紳士の人形が押し潰す。

地上から飛び道具で狙った者は、目の前に広がるスキマに防がれた上、

自分のすぐ後ろに開いたスキマから各々の獲物を返され絶命していった。


「そうね、確かに昔、こんなこともあったかもしれないわね」


湖の上に差し掛かった頃、紫はポツリと呟く。

昼間からの奇妙な感覚の正体を、ようやく彼女も掴んでいた。

ずっと昔、まだあの結界もなく、ただ人間と妖怪がなんとなく混ざって生きていた頃。

どこかからやって来た人間達が、あの世界で、あの場所で、生きようと必死になったことがあった。


「きっと、いえ……そう、とても良く似ていたから、間違えたのね」


一瞬で扇と符を持ちかえる。

クナイの弾幕が途切れたと殺到してくるものども相手に、昂然とスペルを宣言。




            ――――罔両「ストレートとカーブの夢郷」――――




整然としたラインとなって飛びまわる弾列に翻弄され、

おそらく鳥の霊を憑依させられたであろうヒトガタが動きを止め、

そこに巨大な気弾が直撃し、一撃で多数を巻き添えにしながら突き進む。


「見た目だけじゃなくて、そこに居る人間も、人間以外も、
 同じ気持ちだったから、つい……あてられたのね、きっと」


苦笑しながら、手を一振り。

迸った幾筋もの光条が、スペルの弾幕を避けて迫っていたヒトガタを蹴散らした。


「あの時は神社だったかしらね……ああ、違うわ。
 後で神社になった、あのぼろっちいあずまやだったかしら?
 こんな風に、乗り込んだのは」


いつの間にか傘はその手になく、あるのはもう一枚、

力を現に示す、彼女たちの戦闘態勢。




            ――――罔両「禅寺に棲む妖蝶」――――




紫を中心として卍を描く巨大な光が、前から後ろから、左右から迫るヒトガタをなぎ払い、

上下に避けた残りを撒き散らされた蝶弾が打ちのめす。

紅と蒼の剣呑な刃を振り回しつつ、紫は既に湖を、朽ちた館の門を超えていた。

月に照らされ、本来は蒼褪めて見えるはずの館は、

自らの頭上で展開する無数の輝きを受けて常ならぬ色に染まる。

ヒトガタが蹴散らされた先には、無防備な館の正面玄関。


「それじゃあ、ちょっとお邪魔するわね」


脇に発生させたスキマに手を突っ込み、至極無造作に、ずずいと巨大な何かを引っ張り出した。


「よっこら……せっ!」


ぶぅん、と投げ放たれたそれ、やたら巨大なカニの模型は、赤い航跡を残しつつ、

正面玄関の扉をぶち壊した。

衝撃でカニの模型が足の半分を失う。


「あらあら、なぁに、出迎えもないのかしら?」


ちきちきと、むなしく動くカニの模型を鮮やかに無視し、扉をくぐる。

月明かりが差し込むだけの館内は薄暗く、彼女が知る紅い館とは比べるまでもなく、

まして出迎えもあろうはずがなかった。

いや―――


「遅いわね。あのメイド長が点をつければ全員失格よ」


わらわらと、文字通り湧いてくるヒトガタ。


「まったく、どのくらい居るのかしら。
 数えるのも面倒くさいわね」


広間も通路も、人であったり鳥であったり犬であったり猫であったり、

あるいはその他であったりするモノで埋め尽くされている。


「まぁいいわ……余り時間もないことだし。
 さっくりいきましょうか」


ひょい、と放り投げた何かが、右手に携えた傘の先に止まる。

細工の施された先端でくるくると回転するそれを、紫はすいと、前へ押し出した。




            ――――「人間と妖怪の境界」――――




ヒトガタたちの中心で回転を続ける符から、四方八方へと光の刃が展開してそれらをなぎ払い、

さらに部屋中のあらゆる所から弾幕が殺到して残る者達をも打ち倒す。


「人でありながら、獣の霊に乗っ取られ、狭間に立つあなた達にはちょうどいいわね」


その様を妖艶に眺めつつ、しかし自ら放った弾幕を華麗に避けながら、紫は呟き、

正面の通路へと飛び去った。


「時間いっぱい、ちゃんと逃げて、自分のニンゲンを示してみなさい?」


とても楽しげな笑みを浮かべながら。

















館は、思った以上に狭かった。

もとより、かの紅い館も、外見上はさほどの規模とも見えないが、

しかしあれだけの内部空間を有しているのは、ひとえにその住人の力による。

そのため正面玄関ホールを抜けた紫は、大した手間もなく、そこに辿り着いていた。


「お手伝いさん達がのろまだったから、勝手に上がらせてもらったわ」

「好きにしたまえ」


居たのは、壮年とも老年とも見える、一人の男。

片手に酒瓶を持ち、もう片方の手にある枡へと酒を注いでいる。


「…………」

「…………」


互いに無言。

男が酒を呑む音だけが、暗い部屋にただ響いている。

先に沈黙を破ったのは、男のほうだった。


「……聞かないのかね」

「あら、何を?」

「私を……退治しに来たのではないのか?」

「冗談はいけないわねぇ」


扇で、口元を隠す。

その下で、極めつけに凶悪な笑いが覗いていた。


「何が冗談だ、妖怪は退治されるものだろう?」

「残念ながら、二重の意味で間違ってても、
 マイナスかけるマイナスがプラスになるようにはいかないわよ」

「なに……?」

「ひとつ、私は妖怪です」


言いながら、ぴっと1本指を立て、続けてもう1本。


「ふたつ、あなたは人間です」

「…………私は、妖怪だ」

「嘘は鬼に嫌われるし、閻魔の心証を悪くするわよ?」


うふふと笑うが、目はまったく笑っていない。


「それに正確には、『妖怪は人間に退治されるもの』よ。
 駄目よ、どこから聞いたか知らないけど、出典には忠実でないと」

「……ならば、なぜ君は来た」

「あらあら?
 妖怪が人間に退治されるものだって知ってれば、分かるはずだけど?」

「…………」


沈黙する男を前に、2本の指を立てていた手には、いつの間にやら傘が握られていた。

ただでさえ暗い室内、開かれた傘が影となり、完全に紫の表情を隠す。


「人間は、妖怪に、襲われるものなのよ」


男は、やや大きすぎる音を立てて、空になった酒瓶を置いた。


















館の一角で起きた爆発を見ていた者は、居なかった。

そもそも人間や人間以外は近くに居なかったし、

野生生物やそれ以外の生命体の類はほぼ全て、

先刻から紫が撒き散らした弾幕やそれ以前から充満していた瘴気におされて姿を隠している。

そんな状況下であったが故に、そこから空中へと飛び出した二つの影を見ていたものなど、

尚更居なかった。


「あらあら、憑依符だけが芸かと思ってたら、
 珍しいものを持ちだしてきたわね」

「古より伝えられしこの霊刀、触れればいかな大妖怪八雲紫と言えど、ただではすまんぞ!」

「やぁねぇ、自分は名乗らないくせに私の名前は知ってるなんて。
 それならそっちも名乗ったらどうかしら、自称妖怪さん?」

「名などない!
 妖となることを決めたときより、名など捨てた!!」


猛然と宙を奔り、斬りかかってくる男の太刀筋をするりとかわす紫の手には、

またしても一枚の符が忽然と現れていた。


「駄目ね、それじゃあ半人前の庭師の方が、まだましな剣捌きをするわよ
 それにね、大体――」


なおも返す刀で斬りかかろうとする男の眼前に、符を投じた。

紅と蒼、二条の輝きが空を走り、各々から無数の光条と弾幕が展開し、鮮やかな光細工を演出する。




            ――――結界「光と闇の網目」――――




「名前は力と表裏一体。
 さしたる力もなく、名前もないなんて威張って言うようじゃ、
 名無し妖怪にだってなれないわよ、人間さん?」

「言わせておけばっ!!」


男の振るう太刀が、触れた弾幕とレーザーをかき消していくが、

その間をかいくぐって到達した気弾が皮膚をえぐっていく。


「私は……私は理想郷へ行きたかった!
 だから外道の力を得て、魂を汚し、道を啓こうとしたのだ!!」


それに構わず結界を無理矢理駆け抜け、焼け焦げだらけの男の刃が紫を射程に捉えた。

反射的に受け止めた傘が半ばから断たれ、とっさに倒した体のすぐ傍を汚れ一つない剣呑な刃が通り過ぎる。


「そんなんじゃ尚更、駄目ね……っと!」


懐に生み出したスキマから、適当に掴んだ等身大人形で男を殴り飛ばした。

凶器に使われた人形が縦じま模様の服を来た下半身と、三角帽子をかぶったメガネ面の頭と、

太鼓の撥を持った腕その他の破片になって散らばり、男と共に吹っ飛んだ。


「幻想郷は、人間と妖怪が共生する場所よ」


人形の靴部分を投げ捨て、適当なスキマに回収させている間に、傘の代わりに新たなカードを取り出す。


「あそこは『妖怪になった人間』が居る場所じゃないのよ。
 そんな境界の曖昧なものは、外から入ってこれないようになってるの。
 まあ、中に居る人間が時々そうなることもないではないけど、それは元からあったこと」


立ち直り、空中でさしたる苦もなく突進してくる男に向け、さらなるスペルを宣言した。


「それは妖怪でもなければ人間でもない。
 今の時代の『外』にあふれている、なんて事はない存在だからよ。
 そんなのは、いくらでも居て、なるのも簡単だし」


男を挟むように投じた巨大な弾が炸裂し、左右から殺到する。





            ――――結界「夢と現の呪」――――





「ぬぅわりゃあああぁぁぁぁ!!!」


神速、と言っていい速度で剣を振る男の腕から、血飛沫が飛び散ったが、

弾幕に混じり、すぐさま分からなくなっていく。

どうやら、自らも憑依の符を用いて身体を強化しているのは確実なようで、

飛んでいるのもその効果なのだろう。


「私は、私は悔しかった!!
 だから手駒を萃めて、生意気にも理想郷を作ろうという愚か者達に恐怖を与えてやろうとした!!
 私が妖怪になって、人間達を襲ってやろうとした!!」


振り回す刃がいつの間にやら光を帯び、そこから列となった弾幕が飛び交うようになって来た。

スペルカードの弾幕と衝突し、小サイズの花火が乱れ咲く。


「人間が人間を襲うなんて、そんなありふれたこと、どこでやったっていいじゃない」

「黙れ!」

「それに気付いてる? そうやってあの里の人達を襲うことで、
 あなたは自分の存在する意味を与えられてるってこと」

「黙れ! 黙れ!!」

「確かに幻想郷は全てを受け入れるわ。
 けどそれは人間が人間として、妖怪が妖怪として生きているから。
 あなたはその寛容さに甘えて思いあがった、ただの人間よ。
 それに気付かなかったから、あなたに道はひらかれなかった」

「黙れ! 黙れ!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!!!!」


弾幕を斬り、或いは身体で受け止め、男が再び紫の眼前に迫る。

上から降ってくる墓石を両断し、道路標識を斬り飛ばす男に突きつけるように、紫の手には新たな符。


「そうね、人間と妖怪が共に生きていれば、
 いずれはあなたとは別の意味で、境界が曖昧な者も出て来るでしょう」


言い終わるやいなや、レーザーと弾幕を撒き散らして紫の姿がかき消え、遠く離れた場所に出現する。





            ――――罔両「八雲紫の神隠し」――――





「そう、それはきっとあの娘のように」

「ぬぅぅぅっ!!」


刃が迫る瞬間、再び光条と弾幕と共に紫が消える。


「互いに支えあえる心を持っていれば、必然的にそういう存在は生まれるわ。
 でも生まれてくる子はいつか、自分の意志で、人間か妖怪かの境界を超えなければいけないの」

「そこかぁっ!!」


紫を追って駆ける男を、無数の弾幕が襲う。


「そういうお話は、昔から一杯あるわ。
 でも大抵は悲しい結末で終わってしまう……何故だか、分かるかしら?」

「死ねぇぇぇぇ!!」


刃の届く寸前でまた消える紫。目の前で炸裂する弾幕に男の動きが止まる。


「それはね」

「っ……ねぇぇぇぇいい!!」


次の声はすぐ後ろ。

そう判断するや回転の勢いをつけて振り回した太刀はしかし、何かに当たって止まった


「本当に、辛いことだから。
 生まれてくる者にとっては、自らが狭間に居るということは、とても悲しいことだから」


左手に紫の持つ扇が、それを容易に断つ筈の刃を受けている。


「でも、その子は本当はとても幸せなの。
 人間と妖怪と、両方の苦しみと悲しみを味わうことになるけれど」


そして、右手にはまたも、新たな符が、微笑と共に、握られていた。


「両方から、もっとたくさんの幸せを、受け取る事ができるから」





            ――――魍魎「二重黒死蝶」――――





至近距離で炸裂した無数の蝶弾を、男は不覚にも、美しいと感じた。

紫を取り囲むように舞い踊る蝶弾と小太刀の嵐、そこに太刀一本でなおも斬りこんで行く。


「ああああああああああああ!!!!」

「さっき言ったかしら。
 あなたは『妖怪になった人間』だって。
 あなたは望んで狭間に堕ちたけど、そこから先を選ばなかったわ」


小太刀は鋭く、蝶弾は熱く、憑依符で強化したはずの肉体を穿っていった。


「妖怪としての力を、人間としての望みのために、人間としての存在のまま使った。
 そんなあなたの内側は、境界があまりに曖昧で、それはきっと……」

「嗚呼あああああああああああ!!!!」


なおも突っ込み、掻き分け、何度目になるか分からない紫の目の前、振りかぶる太刀、そして差し出される符。


「大結界を越えるには、脆すぎたのね」





            ――――結界「動と静の均衡」――――





不意に、眼前に出現した巨大な気弾に弾き飛ばされた。

何とか持ち直した男を、今度は幾重にも渦を巻くようにして弾幕が取り囲む。

しかし、男はもはや感覚などとうの昔に風化し、朽ち果て微粒子と成り果てた腕をなおも振りかざし、

弾幕の群れに斬りかかった。


「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「物事にはね、かならずどこかに境界があるの。
 極論すれば、それは正と負の境界という意味」


血など既に残っていないのかも知れない。

どす黒く変色した腕は人の形を外れて肥大し、足も体も、似たようなものだった。


「人間と妖怪がそうであるように、海と大地がそうであるように、
 あの地では誰もが人間なら人間なりに、妖怪なら妖怪なりに生きていて、
 超えた者は超えた者で、最後には自分の中で境界を定めるの」

「がああああああああああああああああ!!!!」

「あなたの境界はどこにあるのかしらね。
 人としての望みを、妖怪としての力で為そうとしたあなたの境界は」


修羅の形相で、修羅と化した身体で、今尚向かってくる事を止めない男の刃は、

遂に紫の扇をも断った。

だが次の瞬間には、扇を持っていたはずの手には、符がそっと握られている。


「本当に、どこにあるのかしらね」





            ――――結界「生と死の境界」――――





幾度目になるだろうか、至近で直撃した弾幕によって、男の手の中でこれまでその戦いを支えてきた剣が遂に折れた。

無数の輝きを持つ、無数の弾幕が動きを止めた男を容赦なく撃ちのめし、その身体を穿ち、膨れ上がった四肢を砕いた。


「わ……わたし……は」


修羅となり、醜く吊りあがった口が、かろうじて言葉を紡ぐ。


「わたしは……りそう……きょうに……いきたかった……だけ」

「そうね。誰もが、そこがあると知れば、行きたいと望むわ。
 けれど、そこは決して誰にとってもの理想郷なのではない。
 火と水と、風と大地から少しずつ力を借りて、光と闇の間に生きる。
 それは人が続けてきた営みだけれど、今はほとんどの人が忘れてしまった幻想」

「…………」


弾幕が炸裂した煙が晴れていく中、紫は、手に最後の符を持っていた。


「水の恵みと底深さ、火の暖かさと猛々しさ、風の涼しさと荒々しさ、
 大地の大きな慈悲と容赦ない咆哮、光の眩さと、そこしれぬ闇。
 誰もが望む美しい理想の裏側には、消して切り離せない、
 けれど確かな境界を隔てて容赦のない現実が待っているの」

「…………」


傘も、扇も失った今、一枚だけ残った符を慈しむようにささげ持つ。


「昔ね、あの悲しいほどに憎たらしくて狂おしいほどに愛おしい結界がなかった頃、
 あなたと同じように、そのことを忘れて、あなたと同じようなことをやった人間が居たわ」





            ――――紫奥義「弾幕結界」――――





右も左も、上も下も、前も後ろも斜めも、全てが弾幕で埋め尽くされる。

或いは速く、或いは遅く、迫る弾幕。迎え撃つはずの太刀はその手になく、男は宙で立ちすくんだ。


「その人間……今は当然もう生きてないのだけれど、どうなったと思う?
 これがちょっとした傑作なのよ」

「……どう、なった……?」

「それはね……」


言いかけて、止める。そして意地の悪い笑いが、既に隠す扇もなく満面に広がった。

両手をかざし、使いを繰り、織り上げるは弾の檻。


「これを抜けたら教えてあげるわ」

「…………!」

「さあ、美しく危険な弾の結界!
 守る太刀は既になく、残るは身一つただそれだけ!
 まだ人間として生きるつもりがあるのなら、人間としてこれを抜けて見せなさい!
 力なく、命儚く、愚かでちっぽけな人間さん!
 最後に残ったあなたの知恵で、知恵ある私を負かしなさい!
 蜘蛛の糸より尚細い、極楽へつづく弾の道!
 蝋燭燈して来れるかしら、あなたは私の所まで!!」

「あああああああああああああっ!!!」


男が渾身の力で頼りなく飛び始めるのと、弾幕が殺到し始めるのとは、完全に同時。

初めて飛び方を覚えた鳥のような、ふらふらとした男が弾の列へ突っ込む様を、

紫は満ち足りた笑顔で見つめていた――――



















































「あー、戻ってきた!
 ったくもー夜明けまでって言ったの忘れたの?
 もう昼よ!」

「ごめんなさいね、途中で疲れて寝ちゃってたのよ」

「あー、まーそんな所だろうとは思ってたけどね。
 ……それにしてもどうしたの?
 そこ、ものすっごく腫れてるけど」

「あら? あぁ、ここね。
 大丈夫よ、別に大したことじゃないから」

「んー、そう?
 なんだか誰かに憎しみを込めて殴られたって感じなんだけど。
 あ、ちょっと薬とか持ってくるから待ってて。
 いくら何でも女が顔を腫らしたまんまじゃ格好がつかないでしょ」

「いいわよ、またすぐに寝るから」

「……多分、無理じゃないかな」

「なんで……って、あの声、何?」

「子供達、朝はやーくからずっと待ってるのよ。
 あなたと遊ぶって聞かなくて」

「……やっぱり、手当てお願いできるかしら」

「承った」

「はあ、今日も一日疲れそうね……
 あんまり寝てないのに」

「まーいいじゃないの。好かれてるのはいいことよ。嫌われてるよりずっと。
 それにあなたはちょっと寝すぎ。あんまり寝すぎても寿命が縮むのよ?」

「そうね……ありがたく受け取っておくわ、言葉だけ」

「にしてもやっぱり結構ひどいわねー。
 本当に、一体何があったの?」

「…………私ね、妖怪なのよ」

「? 知ってるわよ」

「退治されちゃった」

「……はあ?」


























―――そして、主に子守に占められた紫怒濤の日々が数日を経た頃。
























「本当にこんな所でいいの?」

「ええ、充分よ」

「見送りも私一人でいいって言うし」

「ええ、充分よ」


二人は、朽ちた鳥居の下に居た。


「ここからだと良く見えるわねー。あなたの家といい勝負だわ」

「まあ、こんな有様だし、里から遠いから人も寄り付かないけどね」

「そこがいいんじゃないの。
 神社っていうのはもともとそういうものよ」

「そういうもんなの?」

「そうよ、あんまり近すぎてもありがたみが薄れるの。
 ……まあもっとも、遠すぎて薄れてるっていうか無に近い場合もけっこうあるけど」

「……なんか、実感こもってるわね」

「あら、そう?」


ふふ、と笑いながら遠くを見る。

やや霞んだ山の影、隠れるように湖の端だけが覗いていた。

湖の持つ不思議な流れは、中に居るものの気配を殺す。

紅い館があの異変まで巫女に気付かれなかったのも、ここにいる彼女があの男に気付かなかったのも、

そして紫があれだけ使いまくった弾幕に気付かなかったのも、そのためだった。

ひとたび存在が知られれば意味をなさないが、天然の結界じみたそれの内側に悪魔でも住むようになれば、

あるいはこの郷も、理想郷になるのかもしれない。


「頭の悪い想像だわ」

「ん、何か言った?」

「いいえ、何でもないわよ」


そういえば、と紫は口もとの苦笑を扇で隠しつつ、

かねてよりの疑問を尋ねてみた。


「へ、なんて?」

「だから、ここに最初にこういう里を作ろうって考えた人間、どこにいるの?」

「あーあー、あいつね。
 もう居ないわよ」

「居ない? どうして?」

「バカだったのよねー。
 ある程度人が集まってきた頃、突然夜中に出歩いて、妖怪にずばーって」

「ずばー?」

「そう、ずばー。
 珍しいことに鎌鼬だったのよ。すぐ居なくなっちゃったけど」


ずばーと、袈裟懸けに振り下ろすようなジェスチャーの少女。


「何だっけ、確か最後の言葉が『おれが犠牲者第壱号だ。これでここは理想郷だぞ』だったかな」

「……バカね」

「バカだろ」


ふたり、顔を見合わせて笑った。


「でもさ、それでなんかみんな決心ついちゃって。
 『あんな奴に乗せられた自分が悔しい、こうなったら意地でも生き延びてやる』とか言い出す奴も居たかな?
 あー、ちなみにそいつはめでたく犠牲者第弐号になったけど」

「本当に、バカね」

「うん。
 でも、誰だったかな、良く覚えてないけど。
 『だから、人間はやめられないんだぜ』って言ってる奴も居たなぁ。
 どうなったか忘れちゃったけど」

「本当に、バカね」

「……ひょっとして、泣いてる」

「まさか」

「じゃあどけてみてよ、扇」

「イヤよ」

「ちぇー」

























日が傾き、郷が色づく頃、紫はようやく腰掛けていた石段から腰を上げた。


「……行くんだ」

「ええ、行くわ。
 そろそろ帰ってやらないと、口うるさいのが待ってるの」

「そっか」

「農作業は疲れたし、子守は面倒くさかったけど、意外に楽しかったわ」

「また、いつでも来ればいいよ」

「そうね……気が向いたら、そうするわ」

「……そっか」


それきり、無言になってしまう。

紫は扇を閉じ、傘がなくて手持ち無沙汰な右手をぷらぷらさせながら、

鳥居をくぐり、ほとんど廃墟というか瓦礫同然の社殿に歩み寄った。


「うん、やっぱりここには、神社があったほうがいいわね」

「は?」

「神社よ神社。郷からの距離はまあ、ちょっと遠くてありがたみが消え去るかも知れないけど、
 でも『外』との境目にはちょうどいいわ」

「ふーん、そういうもんなの?」

「ええ、そういうものよ。
 それに、神社がとりあえず建ってれば、その内物好きが神主でも巫女でもやるわよ、きっと」


その時、この神社はどうなって居るだろう。

やっぱり賽銭箱がいつも空で、ひもじい思いをする家主を見かねて、

知り合いの魔法使いや人形遣いやら吸血鬼とメイドやらが食料と酒と下心と共にやってくる場所になるだろうか。


「ええ、きっとなるわね、ここなら
 多分、神社とか、理想郷とかっていうのは、そういうものよ」

「んー、じゃあさ、名前、決めてってよ」

「名前?」

「神社の名前。
 言いだしっぺなんだから、名前くらい提供してってもばちは当たらないって」

「そうね……それじゃあ」





























「行っちゃったか」


少女はしばらくの間、スキマが開いていた空を見上げていた。

橙色だった空は徐々に藍色が濃くなってきていて、やがて紫色に支配される頃、夜になるだろう。


「…………ん?」


なれない音を聞いた。

それは紛れもなく人の足音で、しかも石畳のような、硬い所を歩く音だった。

音は段々と近付いてきて、その主もまた、彼女の視界に現れた。

何故だか体中ボロボロだった。


「……む、先客が居たか。御免」

「あーまぁ、ちょーっと待ちなさいって」ぐわし。

「何かの邪魔をしたのならすまん。速やかに立ち去ろう」

「いやいやそうじゃなくってね。
 あんた見かけない顔だけど、郷の人間?」

「ああ、いや……つい先日まで山奥に居たのだが、どうも人の多い所は少し居辛くてな。
 適当な宿を見繕っていたのだが……」


と、その視線の先には、屋根が落ち、潜り込んでも風雨を避けられるかどうか疑わしい社殿。


「ここもいささか無理のようだな。失礼する」

「あーまぁ、ちょーっと待ちなさいって」ぐわし。

「まだ何か用か?」

「あんた、宿なし?」

「……平たく言えば、そうだが」

「じゃあちょうどいいや、今日からここの神主になる気、ない?」

「…………」


沈黙、朽ちて傾き色褪せた鳥居を見上げ、次いで再び倒壊家屋と化した社殿をじっくりと時間をかけて見、

そして天を仰いで黙考した後、ようやく彼女に向き直った。


「……ここは、神社だったのか?」

「違う違う、今日から神社になるのよ。
 『外』との境目にはこういうものが必要なんだってさ」

「……そういうものか?」

「そういうものよ。
 あんた、結構デキそうだけど、妖怪退治の経験とか、ある?」


聞かれた相手は、しばし戸惑ったように自分の掌を見つめた後、

かなりためらいがちに応えた。


「あると言えばまあ……無くはないが」

「よし決まり!
 今からあんたはここの神社の神主ね!
 まあ今から暑い季節だし、屋根とかそのへんはおいおい何とかするわよ。
 幸いにして田畑の仕事はひと段落ついて、人手も余ってるしね」

「別に構わんが……郷の人間の同意などは」

「どうせこれだけ離れてれば、大してみんな興味もないでしょ。
 多少ありがたみが薄い方がちょうどいいの」

「……そういう、ものか?」

「そういうものよ」


しばらくの沈黙の後、観念したのか、背負っていた僅かな荷物を下ろした。


「……ひとまず、承知した。
 不肖の身なれど、神主としての勤めを請け負おう」

「そうこなくっちゃ」


へへーと笑う彼女に、しかし、と相手は付け加える。


「名は、なんと言うのだ?
 名無しでは神社としても意味があるまい。
 力を持たせるには、名を持たせることが必要らしいからな」

「ああ、それならもう決まってるの」

「ほう……何と言うのだ?」

「それはね―――」


自信たっぷりに宣言する。新たな社の名。

それは確かに、この新たな郷の境に建つ社につけられた名で、

ここから新しく始まる日々のためにつけられた、祝福の名前でもあった。




















































「藍ー藍ー帰ったわー」


玄関から声をかけるや、奥からどたばたどたばたずひゅーんがっしゃーんという音がして、

見慣れた式があらわれた。


「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ紫さまッ!!!!????
 幽霊じゃありませんよね足ありますかありますねうんいつもどおり臭い足ィじゃなくて!!!
 一体どこでなにをいつだれとなぜどのようにッ!!!????」

「落ち着きなさい藍。
 そんなにゆゆゆゆ連呼してたら私のアイデンティティが損なわれるじゃない。
 それと足が臭いは余計よ。
 ついでに5W1Hを羅列したいのは分かるけど意味が通るように並べて頂戴」

「あ、そ、そうでしたね。
 すーーはーーすーーはーーすーーはーーテンコォーッ!!!
 ……それで紫さま、この数日間一体どこで何をなさっていたので」

「見事な立ち直りだけど、質問の答えはしばらくお預けね。
 突然だけど博麗神社に行くわ、さっき萃香に声かけたから宴会になるわねきっと。
 適当なお酒……はいいわ、私のコレクションを持っていくから、それと料理を見繕って頂戴。
 それからテンコーした瞬間を橙に目撃されてるからちゃんとフォローしときなさいね」

「は、はい?
 えーとそうじゃなくて宴会ですか、今から?
 というか何ですってー!? 橙ーッ!! 橙ーッ!! 誤解だぁ~~~~ッ!!!!!」


どたばたどたばたずひゅーんがしゃーんテンコー。


「騒がしい子ねぇ」


苦笑しつつ、手元の扇を何となく眺める。

もう一方の手に傘は無く、扇も持って出たものとは違っていた。

子守は騒がしく、あの夜の出来事もそれはそれは騒がしかったが、

しかし空いてしまった手と裏腹に、奇妙な感覚が全身に漂っていた。

ひょっとすると、どことなく浮かれているのかもしれない。

幽々子あたりには気付かれてしまうかも知れないが、それはそれでいいだろう。

そうなったら、あの懐かしく、そして少し眩しい光景のことを話してやればいい。

もしそれを馬鹿なことだと笑ったら、誰だろうと超高速飛行体でも弾幕結界でもくれてやる。

自分達だって続いていく日々の最中に居るのだ。

ならば、多少の日々の前後が何になるのか。

自分達の日々がいつまで続くか分かっても居ないのに、

他の連中の日々がいつで終わるなどと、そんなことが誰に分かるものか。


「でも……」


と呟いて、思う。

多分、宴会の席でいくら酔おうと、紫が飛行体や結界をくれてやるべき奴など居ないだろう。

あそこには、そんなこともわからない者は人間や半人や氷精や渡し守やウサギの中にだって居やしないのだ。

きっと『そいつは面白そうだ』とか『懐かしいですねぇ』とか、

ともすれば『そっちの方が賽銭が入るかしら』とか言い出すに違いない。


「藍ー、料理はまだかしらー?」

「ちょ、も、もう少しお待ちを!!
 いや、待て橙待ってくれ!!! 違うんだ橙ー!!!!!!」

「まったく……」


見上げれば、夜空に透ける大結界。

その内に幻想を閉じ込める憎たらしい檻であり、

そして、優しく内に全ての幻想を抱く、愛おしい胞衣のようでもある。


「……そうね、ひょっとしたら」


あの郷は、結界のない理想郷になるのかもしれない。

ただ、境に神社と気まぐれな妖怪の住む庵があるだけの、結界のない理想郷に。

それはそれで、とてもステキなことだろう。

自分達がかつて、結界で囲うしかなかった日々の始まりを、

あるいは彼女達が、別の形で見つけてくれるかも知れないのだ。

もし、本当にそうなったら。


「連れて行ってみるのも面白いかしらね。
 美味しいお酒と、気の良い連中が居れば、どこだって同じよ」


その時には、きっとあの館には悪魔が住んで、

森の近くで忘れ去られている家は店になり、

その森と、竹林の中には得体の知れぬ連中が住みつき、

神社は貧窮し、空を昇ればあの世に辿り着き、地を走れば彼岸が見える、

花と妖怪と妖精と人間が、食うか食われるかの真剣勝負を繰り広げる、残酷で愛しい、素敵な世界になっているに違いない。


「紫さまー! お、お待たせしましたー!!」

「遅いわねぇ。言いだしっぺが遅刻じゃ、格好がつかないわ
 藍、とりあえずついたらあなた脱ぎなさい」

「なぜにーーー!!??」


そうなれば上出来だろう。

そこは、どこかから来た妖怪が懐かしいと思い、

そこから旅立った妖怪が、どこかで思い出して懐かしいと思い、

鬼でさえ郷愁を覚えて戻ってくるような、そんな、狂おしいほど愛しい場所で。




























   東方境郷譚 ~ The Border Land or The Land Where will be “Xanadu” ... to be continued
ここでこの名前では初めまして、となるでしょうか。
あ、いえ、何度かこれか近い名前で感想も書いていますが、あくまで投稿が初めて、ということです。

実は以前から何度か投稿しようと作品をゴリゴリと作ってはいたのですが、
なかなか完成に至らず、ふとした拍子で作り始めてしまったゆかりん話がお目見えとしては初となりました。

製作時間、夜通しぶっ続けで12時間ほど。アホですね。今月曜の朝です。


冒頭にもあります通り、若干ながらオリキャラ(と言えなくもない)が数人、
いえ、人じゃないのも居ますけど、登場します。
割と解釈は適当っぽいです。かなり勢いだけで突っ走って作ったもので。

文章が冗長だと良く言われます。仕様です。すみません。

神社他の名前はご自由に想像くださいませ。
匿名のまま済ませたのは考えるのが面倒だったからという説も無くはないという。
長いのは分割するのが面倒だったというより、どこで境界を作って良いか分からなかったためです。
修行が足りません。すみません。

まぁ、そんな感じで。

本日のオススメBGM(書いてる時の懊悩とした気分が味わえます)
弾幕戦・ネクロファンタジア(妖々夢)
エピローグ部分・最も澄みわたる空と海(卯酉東海道)
某の中将
http://bou-nakamasa.blog.ocn.ne.jp/
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コメント



0.4750簡易評価
1.80 削除
自分でも理由がよく分からないが、何かが良いと思いました
14.100AIM-120M削除
なんだかよく分からないけど何かを貰いました
17.80aki削除
おお…この不思議な紫ワールド(?)にやられてしまったようです。
その意味合いを込めてこの点数を進呈します。

あっち側は種が蒔かれたばかりの状態。さてさてどう育つのでしょうか…?
紫でなくとも気にはなりますね~。
23.90CCCC削除
紫様が実にカッコいいです。
終わり方もすっきりしてて、長さも気にせずに読めました。
新たな理想郷に幸あれ。
24.80名前が無い程度の能力削除
長い!でもそれだけじゃない!GJ!
でも…マジバトルの最中3つ程何かみょんな物が見えた気が…
…気にしてはいけないのだろうか?
28.無評価某の中将削除
こんばんわ、初コメントに浮かれてます。みなさまありがとうございます。

>さま(無記名、でいいんですよね?)、AIM-120Mさま
ええと多分書いてる本人もよく分からないままに作ってしまったので大丈夫ですよ(何が)
むしろ何がしかでも得る物や感じるものがあればそれは凄く嬉しいことだと思うのです。

>akiさま
不思議な紫ワールド……確かに。私が書くと変な要素が入り込んでちょっと気合の高いゆかりんになるみたいです。
この先が気になるのは書いた私自身も同じです。そのせいで一番最後の英文、末尾をENDから『to be continued』に直しましたし。

>CCCCさま
終わりすっきり、長さも気にならないというのは、書いてる最中一番気を使いました。
なにしろ書いても書いても終わらなかった(ぇ)ので、これはせめて喉越しだけでもさっぱりせねばと思いましたし。

>名前が無い程度の能力さま
みょんなものは、実は当初もっとありました。某陸上選手の看板を盾にするとか、なでると幸運を呼ぶ人形がたくさん降ってくるとか(笑)
真剣に、真面目にやるのが彼女たちの流儀、でもけして遊び心を忘れずに……と思ってさりげなく(?)ちょっぴりの遊び心を出してみたのです。
ってまあ最後の方になるとすっかり影を潜めてるあたり、結構忘れてたっぽいですが(汗)
32.90削除
一瞬パラレルワールドかと思ったがそうでも無し
開けてびっくりなお話でした

こんな巡り合いと運命があってもいいような気がします
ちょっとだけ違う、だけどどこかで見たような
新しい幻想に乾杯!

・・・そういえば名前を入れてのコメントって、これが始めてだな
33.100名前が無い程度の能力削除
どんな名前なんだろうかスクロールさせるのももどかしく・・・
って決めてないのか、ガクッ。 しかし、いい作品を読ませてもらいました。
登場人物たちの内面とくに犠牲者壱号とかの心情を想像すると涙腺が緩みます。
46.無評価某の中将削除
こんばんわ、コメント返し第二弾です。

>鉄さま
パラレルワールドは、実を言うと最初期のイメージがそんなでした。
最終的に名前を出さず、昔の幻想郷なのかもしれない、そんな感じで終わるというネタもあるにはあったのですが、気付くとこんな話になってました。あれ?
まあ、ともかく、乾杯!

>名前が無い程度の能力さま
神社にしても登場人妖にしても、とにかく名前はあるんだけど明かさない、というスタンスで書きましたので、落胆させてしまったとしたら申し訳ない。
けれど個人的には、昔愛読していた漫画の最終回に、新しい世界の名前を読者自身に(コマ内の空白に書き込んで)決めてもらう、というラストがあったのを思い出しながら、ああいう終わり方と相成りました。
犠牲者第壱号さんは、なんといいますか、本当はラスト付近でゆかりんと会話させるはずだったのですけれど、変な電波を受信して気付いたらお亡くなりになってしまいました(汗)

>簡易点数評価を押してくださっている方々へ
何といいますか、初投稿で結構な数の方々に読まれているというのがとても嬉しいです。
しかも、Rateや匿名数を見る感じでは多くの方々が匿名では一番高い50点をつけてくださっているようで、言葉もありません。
また、何かの作品でお目にかかりましょう。きっと。ええ、きっと。
50.70ABYSS削除
結界の無い幻想郷……。いいですねえ。
現実が幻想になる感じがして、実にグッド。
この作品で紫様がやったことってのは、実は現実と幻想の境界をいじくったことなのかもしれませんねー、なんて電波が来ました。そちら様の意図と違ったらすいません。

それと、日常というか生活の話が凄い面白かったので、あなたの「幻想郷」の日常が見てみたい、なんて贅沢を申してみます。
では、よい作品を読ませていただき、ありがとうございました。
54.80名前が無い程度の能力削除
うむ、素晴らしい。
こういう何かが始まる、という感じを受ける作品は大好きですな。
57.90変身D削除
幻想郷に近いようで遠い、遠いようで近い、そんな出来立ての世界。
紫でなくともこれからどうなるか興味が沸いて来ますな。
オリキャラの蟲妖怪も良い味出してたし、『敵』も魅力的でした。
何より私が好きなのは最初の里の犠牲者壱号弐号その他の方々……
『だから人間はやめられないんだぜ』この言葉を言える奴は只者じゃない(w
兎に角、読み我意のあったお話でした。良かったです(礼


あと、藍さまが転んだだけでテンコーしたのは脱げ過ぎだと思いました(爆笑
71.無評価某の中将削除
おはこんばんちは(違)のコメント返し第3弾です。

>ABYSSさま
日常の話、実は私も書きたいのです。
今回は集中力とか、作品全体のバランスとか、そのあたりを考慮した結果やむなく割愛してしまいましたが、次の機会があれば是非とも挑戦してみたい要素のひとつですね。
紫様がいじったのは、ひょっとすると私を含めた『外』の人々の境界かもしれません。ほんの少しの間だけ。いやほんとに。

>名前が無い程度の能力さま
おありがとうございー。
私がお話を作ると大体が大上段に構えすぎた作品になってしまうのですが、そういう風に思っていただけるととてもうれしいです。

>変身Dさま
犠牲者壱号弐号その他は、私も本当に書いてやりたかったのですが、何しろ最後の方は本当にいっぱいいっぱいで、体力的にも精神力的にも限界に近かったせいで変な電波にやられてあんなことに。
あのセリフの主とあわせて、いつかは登場させてやりたいなぁとは思うわけですが、はてさて。
いやもう長い話でほんとうに恐縮です。次はうまい具合に分割できるように、要挑戦、ということで。
藍様はまあ、お察しください(笑)

>読んでくださった、あるいは読んでいただいてる全ての方々へ
投稿してまだほんの数日ですが、予想しなかったほど多くの方が読んで下さっていて、もう内心はなんだかビクビクしてます(汗)
次の作品が一体いつになるかはまだよくわかりませんが、『いいなぁ』と感じていただけるものを作れれば、それはきっと極上なのでしょう。
そんな感じで、では。
76.100とらねこ削除
僕がでっちあげたオリ幻想郷より美しく残酷な世界観ですね、本来これが正しい東方世界だとは思うのですが、自分でやるとどうも人間よりになってしまいます。

僕の少ない引き出しで考えた限り、人間も喰われるという緊張感、触れてはいけない領域を残してこその理想郷、という意味でしょうか。犠牲者第壱号の人の心境やいかに。
84.100名無し参拝客削除
始まりのクロニクルを見た気がします
89.90名前が無い程度の能力削除
読了後、表現しがたい何かを感じたんですが、あとがきと他の方の感想を読んで何となく納得。
何かを始める力とはかくも力強いものなのですね・・・。
97.100名前が無い程度の能力削除
読んだ後のすがすがしさが心地よいです。
良い作品をありがとう!
108.90名前が無い程度の能力削除
犠牲者に惚れましたww
不思議な感覚でしたね
112.100名前が無い程度の能力削除
外の郷のお話の続きを読みたいと思いました。