Coolier - 新生・東方創想話

スプリングファーム参 vol5 ~月と鳳凰~

2006/06/19 05:09:47
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カコーン・・・


獅子脅しの音が静かに静かに広い屋敷へと響き渡る

食卓を囲んだ二人の兎と一人の薬師、そして一匹のリリー
彼女らの視線はものの見事に、部屋の入り口で立ちはだかる一人の女性へと注がれていた

その視線を受け止める者は、永遠亭の姫、蓬莱山 輝夜

「ふふ、面白い姿をしているじゃない妹紅」
「あ、えーと・・・人違いです春ー」
「そうですよ姫ー」
「どうみてもよく似たリリーですウサ」
「姫、アルツハイマー症候群の治療でしたら私にお任せを」
「ちょっと待ちなさい! 何よその痴呆症の老人を見つめるような眼差しは! しかも全員!」

悲哀に満ちた目を、必死に作り上げた笑顔で隠したような顔で輝夜を見つめ続ける永遠亭の住人達
てゐに至っては、とうとうここまで・・・と言わんばかりの熱演振りだ

「妹紅までどうしたのよ!? ほら! あなたの永遠の仇が目の前にいるわよ! ほらほら!」
「は、春ー? わけがわからないです春ー」
「ああ、姫・・・ただのリリーホワイトが妹紅に見えるなんて・・・」
「それほどまでに妹紅の事を思い続けてきていたウサね・・・うう」
「大丈夫ですよ姫、ご安心ください、この月の頭脳とまで呼ばれた私がきっと元通りにしてみせますから!」
「ええっ!? これは本当にただのリリーホワイトなの!? さっき私のことを輝夜って呼んだじゃない!」
「春? そんな事言って無いです春よー」
「幻聴まで聞こえてしまっては・・・そんな・・・姫・・・」
「私達が一生支えて行きますウサ・・・だから、だから負けないでくださいウサ!」
「姫・・・もう楽になってもいいのですよ・・・皆、姫の側にいますから・・・」
「ちょっ、冗談でしょ!? 冗談といってよ! この若さで痴呆症どころか精神異常なんて嫌よっ!!」

地に膝を着き、頭を抱え込んでもだえ苦しむ輝夜、そしてガッツポーズを取る四人
ある意味、集団によるいじめに近くはある

「はっ・・・そうだわ!」

途端、何かを思いついたように輝夜が立ち上がる
同時に素早くガッツポーズを隠し、悲哀に満ちた目で輝夜を見つめ返す四人
だが、直後に輝夜の口から発せられた言葉は、想像以上のものだった


「殺せば本物かどうか確かめられるじゃない!」

『(うわぁ、本当に精神が異常だよ・・・)』


心の中で呆れ果てる四人を尻目に、蓬莱の玉の枝を取り出し魔力を込め始める
妹紅も何とか逃げようとするが、残念ながらそこは室内、逃げ場は皆無に等しかった

「死なない妹紅! 死んだらリリー! さあその骸をさらけだしなさい!」
「ああっ! すみません姫!」
「え?」

今にも弾幕を放たんと振りかぶられる蓬莱の玉の枝
そして妹紅と輝夜の間に謝りながら突如割り込んできた永琳
床を蹴る左足と床を噛む右足、力を完全に伝達された腰は高速で回転し
さらに速度を大きな胸の振り子作用で倍増させ、その全ての力の行き先は肩から腕へ、そして・・・

「つい手が滑ってボディブローが!!」
「はい?」


メギュゥッ!


衝突音でもない、破裂音でもない、何かが物体を抉り、貫くような音が響く
か弱き姫の体がくの字に曲がり、その最高の手応えが薬師の腕へと伝わった
故に彼女はこう呟いた、「Perfect」と・・・

「はあああああああうあうあうあうおうおうおうおうおうおううううううう・・・・・・」
「申し訳ありません姫! 態勢が崩れてしまい何とか右足を前に出して踏ん張ったところ
 昔習っていた軍隊格闘術の癖が出てしまってつい目の前にいる姫にこの左拳を打ち込んでしまいました!」

何故か敬礼しながら淡々と顛末を述べていく永琳、一口で言い切る辺り全て計算済みなのだろう
しかしその完璧な一撃でも輝夜の身体は止まってはいなかった
永琳の視界に映らぬように、屈んだ体の陰で蓬莱の玉の枝の先を妹紅の方へと向ける
その執念、まさに巫女を手に入れることに己の全てを賭けるスカーレットデビルの様

「(だ、駄目よ輝夜、ストマックが悲鳴を上げてるぐらいでくじけちゃ駄目! ファイト私!)」
「ああっ! すみません姫!」
「(なっ!? また!?)」

輝夜の予感は的中した、軽く床を蹴った音と共に中空に舞い上がったは、月の兎、鈴仙
その飛んだ反動で両足を折りたたみ、太もも、腰、胸と、全身の筋肉へ力を込める
そして宙に浮いたその体が輝夜の真上へと到達した瞬間、その込められた力は爆発した

「つい足が滑ってジャンピングラビットフットスタンプが!!」


メメタァッ!!


もはや説明するまでも無く、輝夜の身体は頭から木の床へと突き刺さる
その姿は、上半身だけ隙間に突っ込んでいる紫の姿を九十度ずらした様な姿でもあった

「す、すみません姫ー! バランスを崩してしまったら目の前に姫の姿がございましたので
 何とかジャンプで飛び越えようと思ったのですが真上に来てしまった瞬間につい癖で一撃を!!」

あの師匠にしてこの弟子あり、敬礼しながら顛末を一言で述べる有様は師匠そっくりである

「リザレクショーーン!!」

しかし輝夜もやられっぱなしではいられない、突然の発光と共に床を粉々に吹き飛ばしながら
豪快に跳ね上がる・・・しかしそれすらも二人の計算の内だったのか

ガシッ! ガシッ!

「へ?」

リザレクションの勢いで突き上げた右腕を鈴仙が、そして左腕を永琳がしっかりと抱きかかえる
気付けば目の前には、永遠亭の兎達のリーダーである因幡てゐの姿

「え、永琳? 鈴仙? これは一体どういう事・・・?」
「「つい両腕が滑りまして」」
「姫! ごめんなさいウサ!」
「ええっ!? やめてっ! 痛いのは嫌! 痛いのは嫌よ!!」

ネクストバッター、四番、サード、因幡てゐ

「つい全身が滑ってマッハスイングウサーー!!」
「ぶっちゃけありえなぁぁぁい!!」


カッキィィィン!


快音と共に、空の彼方へとすっ飛んでいく輝夜だと思われし物
その発射地点ではてゐが部屋を駆け回り、永琳が腕を振り回し、鈴仙がスコアボードに一と書いていた

「うーん、推定飛距離13.7kmってとこだね」
「因幡てゐ選手、二打席連続ホームランウサー!!」
「これで姫の記憶もすっ飛んでくれるといいのだけれど」



――着弾地点


「輝夜、賽銭箱は人が入る物じゃないわよ」
「あ、あなたね・・・せめて何で吹っ飛んできたの? とか大丈夫? とか聞くのが人の筋でしょう?」
「人の筋より巫女の筋」
「何なのよその上腕二頭筋よりインナーマッスルみたいな考え方は・・・こふっ」
「というわけで、賽銭箱に捧げられた貢物は神、すなわち絶対神の物、つまりあなたは神に仕える巫女の物」
「・・・博麗神社に神様はいないって聞いたけど」

ふと、二人の視線が交わる

「これで食料には困らないわ!」
「やっぱりそれが本音よねガッデム!!」





少女絶叫中・・・





「むにゃむにゃ・・・」
「春ぅん・・・」
「スースー・・・」

薄暗く照らされる部屋で、安らかに眠るリリー達
二匹で寄り添って寝たり、複数で固まって寝たり、中にはあられもない姿のリリーも

「抜き足差し足忍び足・・・」

そんな中、ほっかむりを被り、物音を立てずにひそりひそりと人影一つ
いまや幻想の片隅にも存在する可能性の低い泥棒ルックを装着した輝夜である
なぜか顔に歯型がついているだの、蓬莱人なのにその傷が消えていないだのは気にしてはいけない

「妹紅がこの最奥で寝ている事はすでに調査済み・・・」

リリー達の寝室は結構、というかかなり広い
三方が壁に囲まれ、縦横1.5m、高さ3mの部屋がリリー一匹に一つずつ割り当てられている
それがずらーっと列分けされて並べられているのだ、使っていない部屋も含めればその数三百近く

その最奥の列のど真ん中の部屋が妹紅用の寝床となっている
ちなみに他の部屋と比べて縦横2mと少し広めだ

「さあ、覚悟しなさい妹紅・・・今こそあなたの正体を暴いてあげ・・・あげ・・・あ、あげ?」

それは塊だった、よく見れば、リリーだった

「な、何よこれ・・・」

多分妹紅が寝てると思われる部屋からはみでる塊
下から見れば、脚、腕、頭、頭、腕、脚、脚、脚、羽、下半身、頭他
簡単に言えば「リリーお徳用詰め合わせパック」である

「・・・・・・きっと部屋を間違えたのね」

そう思って部屋に付いている名札を見たが、勿論そこには<もこりー>

「ヘイボブ! これがいわゆるああ駄目オチが思いつかない」

つまり昔から続いている掟がここに具現化しているのである
そう、強い奴はもてる

「何よ! 最近私がもてないのは永琳より弱いからっていいたいわけ!?」

何とも意味不明な切れっぷりをご披露しながらも遂に覚悟を決めたのか
蓬莱の杖を取り出し、不気味な笑みを浮かべた

「覚悟なさい・・・シューティング・ラブ!」

・・・・・・テンコー!! テンコー!! テンコー!!

「何事!?」

輝夜が今まさに弾幕を放とうとした瞬間、視界が赤色に染まり、警報音がけたたましく鳴り響く
さて、皆さんはあの広告を覚えているだろうか
文がてゐに打ち返され、突っ込んだ広告・・・そう<ヤコム>

「天・狐・降・臨!インザ初めてのヤコムーーー!!」
「なんかそのキャッチフレーズ納得いかないわ!!」

アコムとセコムって本当に紛らわしいよね





深夜、永遠亭の玄関にはしょんぼりとした表情の永琳と、ややいらついた顔立ちの藍が向かい合っていた
その間には、正座して縮こまっている輝夜の姿も

「困るんですよね、いくら関係者といえども、許可の無い方に勝手に入られるとこちらとしましても・・・」
「はぁ・・・本当にすみません・・・」
「今回は警備の事を知らなかったということにしておきますけれど・・・」
「はい・・・お心遣い感謝します」
「気をつけてくださいよ、もし連行という事になれば、犯人には紫様の弾幕結界が待っているんですから」
「もう二度とこんな事はさせませんので・・・本当にすみませんでした」

もう平謝りに平謝り、天才が天狐に平謝り、地面に頭を擦り付けて平謝り
そして藍が帰った後も、永琳は目頭を押さえたまま俯くばかり

「え、永琳?」
「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁ」
「うっ」

永琳の口からこぼれた長い長ーいため息に、つい身がたじろぐ

「永琳?」
「・・・・・・」
「お、怒ってる・・・?」
「・・・・・・」

その後も返事が帰ってくることはなかった
というか弾幕が帰ってきた、それもノーモーションで

そして翌朝、いつもの早朝いつもの風景、いつもの朝ごはん

「・・・ごはんとたくあん」
「・・・・・・もぐもぐ」
「・・・・・・もぐもぐ」
「・・・・・・もぐもぐ」

目の前にぽつーんと置かれたごはんとたくあんを見つめる輝夜と
いつもどおりの美味しそうな朝食を頬張る永遠亭三人組

「・・・ぐすっ・・・これも全部妹紅のせいなんだから・・・」

そのたくあんは涙の味がした



「ふえっくしょん!」
「春ー?」
「ああ、なんでも無いよ、大丈夫」

こちらはこちらで相変わらずにんじんをばりぼりばりぼり

「(しかしやばいのに見つかっちゃったなぁ・・・一体どうしよう)」
「うつむいてどうした春ー?」
「何でも無い何でも無い」
「春ー・・・?」

ズドォン・・・

「ん?」
「春?」

ドガァン・・・チュドォン・・・

「トラップの発動する音!?」
「な、何か近づいてくる春かー?」

けたたましく爆発音が鳴り響き、それでも勢いを緩めることなく近づいてくる者
それが誰なのかはもはや言うまでも無いのだが

「こうなったら全ての障害は力で排「チュドォン!」ジョズズヴォミヴォーー!!」
「ぎゃあああ! ゾンビが地雷原を突破してきてる!!」
「春ー!?」

こんなに活発に動き回るゾンビは怖し、追われれば尚更

「ヴォヴォヴヴォヴィ! ヴォーヴァー! (その命! もらったー!!)」
「春?!」
「いけないっ!」

もしここにいたのが妹紅一人なら難なく逃げる事も出来ただろう
しかし今、彼女の横にはリリーが一人、見捨てれば彼女も弾幕に巻き込まれてしまう
その為に妹紅は正体がばれない事よりもリリーを守る事を選択した

「春・・・」
「動かないで!」

が、何時までたっても弾幕が飛んでこない

「・・・あれ?」

恐る恐る後ろを振り向けば、そこには平然と輝夜が立っていたのだが

「ア゙ー・・・アーうー・・・ケホッ・・・ふう、腕が無くて弾幕が出せないじゃない」
「そんなオチか!!」
「は、春ぅ~・・・」

そもそも腕どころか全身くまなくボロッボロである

「くく・・・こうなれば肉弾戦よー!」
「ペリー逃げてっ!」
「は、春ー!」

飛び掛る輝夜、逃げるペリー、押し倒される妹紅
たとえ輝夜が軟弱なニートでもボロボロのゾンビ状態でも
その差を埋めるほど妖精と人間の身体能力の差は激しかった

「くうっ・・・」
「ふふふふ、このまま殺して確かめてあげるわ!」
「・・・・・・テンコォー」

とりあえずその場に一匹ほど妖怪が増えていた





ガション! ガシャン!

永遠亭の玄関にはしょんぼりとした表情の永琳と、結構いらついた顔立ちの藍が向かい合っていた
その間には、小さな鉄製の檻に閉じ込められた輝夜もいた

「リリーを殺そうとするなんてお宅の姫様は頭がおかしいんですかっ!?」
「本当に! 本当にすみません!」
「出しなさいよー!!」
「しかも特製の地雷原を強行突破してまで殺そうとしてたんですよ!? いい加減狂ってるんじゃないですか!?」
「すいません・・・も・・・もう何と謝ればいいやら」
「永琳! こんな所に閉じ込めてないで早く出しなさい!」
「もういい加減にしてくださいよ! 今回は身柄を引き渡しますけども・・・次はどうなるかわかりますね!?」
「本当に二度とこんな事はさせませんので・・・本当に本当に申し訳ございませんでした」
「いいから早く「プチアポロ13」・・・・・・げふっ」

翌朝のご飯はたくあんしかなかった
しかも凄く辛かった

「それもこれも全て妹紅のせいよ!!」

どう考えても自業自得なのにどすんばたんと畳の上を転げ周り
キィィー! と叫んだり誰もいない空間に駄々をこねたり

「諦めないわよ・・・妹紅ーー!!」



「まーた姫様が叫んでますよ?」
「放っておきなさい」
「それよりも対策を立てないとウサー・・・」
「いっそ輝夜の馬鹿を竹にでも詰めといたらどう?」

こちらはこちらで会議中
さすがにこれ以上暴れ回られると永遠亭の財政的にも危ない

「いっそ紅魔館に奉公にでも出させますか?」
「それなら白玉楼の庭師がお手伝いさんを募集してたわね」
「それよりも彼岸塚の死神でもさせるウサ」
「私はこんなに慕われて無い奴を追い回してたのか・・・ん?」

ふと、妹紅の体が揺らぐ

「地震かな?」
「どうしたウサ?」
「いや・・・なんか揺れ・・・」
「ヒョーーーーホホホホホホホホ!!」
『姫!?』

バッシーンと畳が豪快に吹っ飛び、床下から現れた輝夜
上に乗っていた妹紅も豪快に吹っ飛んでいる

「さあ妹紅! その正体を・・・」
『ちょっと体が滑りましたぁぁぁ!!』
「へぶぅっ!!」

体の半分が部屋の上、半分が床下に合ったため、避けることなど出来るはずも無く
その後も手が滑った、体が滑ったなどと称してぎったんぎったんにされる輝夜
だがしかし、輝夜は諦めなかった、とことん妹紅を追い続けた

「皆ー、ご飯ウサよー!」
『春ー!!』
「妹紅ぉおおおおおおおおおおお!!」
「大杵岩バン割り!!」
「おぶぅ!」

時には大量のニンジンの中から姿を現しててゐに叩かれたり

「よし、ブレザーを着てへにょり耳をつけた私ならイナバと区別が付かないはず・・・!」
「・・・・・・奇妙な出で立ちの侵入者を発見、排除します」
「え!? あ、イナバちょっと待「チュインッ」

時には変装して近づこうと企むが、本人に頭をぶち抜かれてゴミ捨て場に捨てられたり

「この道で待ち伏せれば、トレーニング中のリリー達に紛れて妹紅も来るはずよ!」
「・・・・・・テンコォー」
「はっ!?」

「ふぅー・・・これで三度目ですが、紫様のお仕置きでよろしいですね?」
「嫌! やめて! 助けてえーりん!!」
「・・・どうせなら、深・弾幕結界でよろしくお願いいたします」
「ちょちょっ、えーりん!?」

本当に死にかけたりした、というか百八回ぐらい死んだとか



すっかり夜も遅くなり、幻想郷が闇夜に包まれた頃
竹林を両手で杖を付きながら、よろりよろりと歩く輝夜

「うう・・・今ならどんなラストスペルだって避けきる自信があるわ・・・あっ・・・」

バキン・・・と杖がおれ、そのヨレヨレの足が身体を支える事もなく地に倒れる輝夜

「私・・・このまま死ぬのかしら・・・」

死ぬわけが無いと心の中で苦笑しながらも、その瞼をゆっくりと下ろす
すぐに睡魔が彼女を襲い、夢の世界へといざなってゆく・・・

むぎゅっ

「ひぐぅっ!」
「ん?」

背中に突如かかった重圧に、力の抜けた肺から空気が漏れて微妙な叫び声があがった

「何か踏んだか?」
「へうう・・・一体誰よ」

妹紅が見下ろせばそこには輝夜
輝夜が見上げればそこには妹紅によく似たリリー

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「妹紅ーーーーー!!」
「ぎゃあああ!」

輝夜が妹紅に飛び掛り、妹紅がそれを回避せんと身をよじる
しかし輝夜の決死のダイブの前に足首を捕まれてつんのめった

「は、離せ! 離して春ー!」
「いやよ! もう離さない! 妹紅ー!!」

ゲシゲシゲシと妹紅に蹴られながらも、決してその手を離さない輝夜

「絶対に離さないんだから・・・妹紅・・・!」
「は、離せってば! 離し・・・」

雲が晴れ、月に照らされた輝夜の顔を見て、妹紅の動きが止まる
輝夜の両の目からは、雫がぼろぼろと流れ落ちていたのだ

「か・・・輝夜?」
「妹紅・・・妹紅っ!」
「わわっ?!」

突如抱きついてきた輝夜の重さに耐え切れずに、ぼすんと後ろに倒れる
月の灯りに照らされながら輝夜はずっと泣いていた、妹紅の胸に顔をうずめながら

「妹紅の馬鹿ぁ・・・私を一人にしないでよ、私を放っておかないでよ・・・」
「輝夜・・・」
「あなたしかいないんだからっ・・・私を満たせるのはあなただけなんだからぁっ・・・!」
「・・・・・・ごめん、輝夜」

妹紅にふとよぎった思い、もし私が一人なら、もし私が私をよく知るものから無視され続けたら・・・
そんな思いが妹紅の頭をよぎり、その悲しみが妹紅の心を覆った

「か、輝夜・・・その・・・」
「・・・ふ・・・ふふふふふふふふ」
「輝・・・夜?」

突如湧き上がる不気味な笑い、そして妹紅の両肩を掴む手の力が増した

「ふふふふふ、あーっはっはっは! やっと、やっと正体を現したわね妹紅!」
「ななっ!?」
「長かったわ・・・だけどようやく! ようやく苦労が報われたわ!」
「な、泣き真似!?」
「ふふふふ、泣き真似なんてこの私の手にかかれば御茶の子さいさいよ!」

ぐっと身を引き起こし、高笑いをあげる輝夜
妹紅は何とか自分も身を起こそうとするが、両肩を抑えられて動く事が出来ない

――ポタリ

「卑怯だぞ輝・・・輝夜?」
「そうよ・・・私は卑怯よ、それがどうしたのよ・・・あなたが、あなたが悪いんじゃない・・・うぇぇぇぇん!」

泣いて、笑って、また泣いて、落ちた雫が妹紅の頬を濡らす
また胸に顔をうずめて泣いて泣いて泣きじゃくる輝夜
そんな輝夜を、妹紅は何も言わずに優しく抱きしめた

「ひぐっ・・・妹紅・・・どうして私を無視したりしたのよ・・・馬鹿、馬鹿・・・!」
「あ・・・その・・・えーと・・・」
「本当に馬鹿よあなたは・・・ぐすっ・・・あなたと殺しあってこそ私は満たされるのに・・・
 今のあなたをいくら殺し続けたって、私は満たされないんだから・・・馬鹿よ、本当に・・・」
「・・・輝夜・・・ごめん」

互いに抱きしめあう腕に力を込めて、互いのぬくもりを感じあう
それはまるで心の隙間を埋めあうように、悲しみを和らげるように

そんな時、彼女らへ高速で接近する人影の姿があった

「250m先に姫様ともこりーの心音を確認・・・零距離です!!」
「なんて事! こんなに早く帰ってくるなんて予想外だわ!」
「もこりー、無事でいてウサ!」

竹林を高速で駆け、二人の元へ向かう従者達
しかしその目は従者のソレではなく、獲物をしとめる隼の目であった

「肉眼で二人を確認・・・レベル5です!」
「くっ・・・こうなればやるわよ! コードネームG! 発動!」
「了解ウサッ!!」
「後はお願いします!」

永琳が作戦の発動を宣言するとともに、てゐが竹を蹴りながら宙高く舞い上がり
鈴仙はその場に立ち止まってその指、その手、その腕に妖力を集め始める
そして宣言した永琳は速度を上げながらまっすぐ輝夜の元へと向かう

「姫っ!!」
「あら・・・永琳?」
「あ、永琳、こっちこっちー」

事態の緊急性にまだ気づかない二人

「覚悟ぉっ!!」
「え、永琳?」
「八意家が超奥義!!」
「ええ!? 落ち着いて永――」

 ― 拳符 三段打ち上げ式ギャラクティカマグナム ―

「ファイッアァァァァァァァァ!!」
「はぶぁぁっ!」
「か、輝夜ーーー!!」

永琳の一撃で縦に回転しながら高速で吹き飛んでいく輝夜
その吹き飛ぶ先には、先ほど宙に飛び立ったてゐの姿が

「目標、高速で接近中ウサ! 鈴仙ー!!」

てゐが姫がコースどおりに接近している事を確認し、鈴仙へと呼びかける

「装填率百%・・・いくよ、てゐ!!」

声に応え、鈴仙が妖力に満ち、紫色に光る腕をてゐへと向ける
鈴仙のその一つの砲台と化した腕から、極大の弾丸が放たれた

「さあ! 行くウサよー!!」

放たれた弾丸が輝夜を追い抜き、てゐへと向かう
するとてゐは取り出した杵で鈴仙の妖力を受け止めた

「な、何をする気なのおおおー!」
「見るウサ! これこそがこの杵の真の姿!」

てゐが構える杵に妖力が満ち、黄金の光を放ちながら変形してゆく
そして変形を終えたその姿は荘厳で美しく、まさしく全てを破壊する神の槌であった

「ウサディオンッ! ハンマァーーーーーー!!」
「た、誰か助けてーーー!!」
「引きこもりよ!! 光になれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


その夜、幻想郷の空を巨大な光の柱が貫いた・・・。





「どうしましょう、師匠」
「さあ、どうしようかしら」
「どうするウサ・・・」
「どうするんだ?」

とある部屋に集った四人、その部屋にはベッドが二つ
一つにはずっと前に眠ったまま、目の覚めることの無いテイリーが
そしてもう一つのベッドには、眠ったように死に続ける輝夜の姿があった

「姫様に薬は効かないですし」
「そもそも原因も分からないのよね・・・」
「で、どうするんだ?」

妹紅の視線が痛いので、顔をそらし冷や汗を流しながら
明後日の方向を向いて会話する師匠と弟子

「と、とにかく、数日も放っておけば目を覚ますわよ!」
「その根拠は?」
「・・・・・・ごめんなさい」

天才、遂に折れた

「永琳、お腹が空いたわ、朝ごはんはまだかしら?」
「はいはい姫、今すぐに・・・姫!?」

突如の声に永琳が振り向く、しかし輝夜は眠ったように死んだままだ

「・・・・・・ししょおおおお!?」
「え? どうし・・・・・・」
「・・・テイリーッ!?」

最初に気づいたのは鈴仙だった
その敏感な耳で声の発生源をいち早く突き止め、それを視界に捉えた時
彼女は彼女の最大の心のよりどころである師匠に縋るしかなかった
どうみても輝夜にしか見えないリリーの姿がそこにあったから

「ちょっと、どうしたのよ、そんな変な顔をして」
「ひ、姫様・・・その体からだからからかかかか・・・」
「うぅ~んウサ・・・」
「ああ、てゐ!」

永琳は硬直し鈴仙は指を刺しながらガタガタと震え
てゐは気絶し妹紅はそんなてゐを受け止めようとして潰される始末

「つまりこれはてゐの高出力の一撃によって姫の体が完全な死を迎え魂が分離し
 なおかつ私の治療にて体だけは元の姿を取り戻したものの一度剥離した魂が
 戻り行く場所を間違え器としての役割も果たすテイリーと融合し・・・」

まあ簡潔に言えば、輝夜ソウル・イン・ザ・テイリーボディ










ワァァァァァ・・・ワァァァァァァ・・・

広い広いドーム、観客の大声援の中で今日も繰り広げられるリリーバトル
その広大なフィールドで戦っているのは、紅い羽根のリリー
その隣には、その黒い髪が映えるリリーがもう一匹

「いくわよ妹紅!」
「オーケー輝夜!」
「これが私達の!」
「合体技だっ!」

『おーっと! てるりーともこりーの合体技! ダブル蓬莱キックが決まったー!!』

下される勝利宣言、花吹雪の中、観客に手を振り続ける二匹のリリー

「やったー! これで優勝ウサ!」
「ああ、ついに借金生活からの脱出が・・・」

そしてともに喜びを分かち合う鈴仙とてゐ


あの事件から数ヶ月、永遠亭も新しい年を迎えた
永琳の復活、妹紅、そして輝夜リリーの降臨
それによって永遠亭の財政もすっかり良くなり、借金を完済しきるまでに回復した

そんな永遠亭にも、もうすぐ春がやってくる



春、それは出会いの季節であり、そして、別れの季節でもあった――。
永遠亭編、これにて終了、三話でしめる予定だったのに長くなっちゃいました
美鈴と咲夜、霊夢、妹紅と続いた主人公達
その最後のバトンを引き受けるのはやっぱりあの黒い奴ですね。


すいません、ウサディオンハンマーがどうしても書きたかったんです
幻想と空想の混ぜ人
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コメント



0.3160簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
ウサディオンハンマー万歳!
8.90名前が無い程度の能力削除
今回もとても面白く読ませていただきました!
それと誤字と思われるものを見つけたので確認の程を。

蓬莱の弾の枝→蓬莱の玉の枝
ではないでしょうか?
10.80削除
ハンマーコネクト!
13.70草月削除
てるよ悲惨すぎるwwww
でも最後はハッピーエンド……か?
14.100名無し参拝客削除
巫女に噛まれてブラックジャック状態の顔面の姫さまにちなんでこの数字を
18.60変身D削除
てるよボコボコですな。またそれに違和感無いのが素敵(w
次回最終章ですか、期待してます~
28.70名前が無い程度の能力削除
東方で、トップがボコボコになって笑えるのって輝夜ぐらいかなと思い、
そのあまりのカリスマのなさに泣けた。
29.100名前が無い程度の能力削除
引きこもりよ光になれに、近所迷惑の爆笑。おっとしまった。
31.90名前が無い程度の能力削除
ニートかわいいよニート
32.90どっかの牛っぽいの削除
はじめてのヤコム!
確かにアコムとセコムはややこしい
あれ?どっちがどっちだけ?
37.80鬼神削除
待て、途中のいい話はどこへいった!?
51.80名前が無い程度の能力削除
てゐ何やってるんだw
52.80名前が無い程度の能力削除
拳符ワロスwwwwwあとウサディオンハンマーってwwww
とにかく面白いSSでした。まあ、あえて一言言うならてゐはウサウサ言いませんよ~。
58.90名前なんか無い程度の能力削除
今ここに蓬莱チーム結成!
75.100名前が無い程度の能力削除
警備テンコー万歳!

私は!避けきったぞ!深・弾幕結界を!