Coolier - 新生・東方創想話

黒幕祭り ~LETTY BOM BA YE ~

2004/02/26 09:04:25
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“春なんて、来なければいいのに”
“春は、嫌い?”
“嫌いよ。寒くないもの。ずっとずっと、冬が続けばいいのにさ”
“でも、いつか春は来るわ。来年も、その次の年もね。そのたびに、ゆううつになるのはつまらないことよ”
“そうかも、しれないけど”
“そうね。春を好きになる方法を、教えましょうか”
“なに? どうすればいいの”
“それは、ね…………”


(冬も終わりに近づいたとある小春日和。ここは辺境、湖のほとり。ふだんは閑散としたこの地に、今日ばかりは多くの人や妖怪、魔物や幽霊の類がつめかけ、大賑わいのありさま。そこいらで妖怪が人間に齧られたり、幽霊が悪魔に脅かされて逃げ惑ったりと、祭りならではの騒ぎが巻き起こってひと悶着。とりわけ盛況なのは巨大な雪だるまの近くにしつらえられた特設ステージの周囲。今まさに、拍手に迎えられて司会の登場)

「陽気ですかーーーーっ!! 陽気があれば何でも溶ける、溶ければ雪はなし、迷わず溶けろよ、溶ければわかるさ!! ……ってなわけで、やってまいりました『黒幕祭り』!! 司会は私ことリリーホワイトホワイトがお送りしまーす! まだ春じゃないんで薄味でーーす」

(盛り上がる客席)

「ではまず、この黒幕祭りの概要を説明しまーーす。基本的には~ぁ、てきとーに好き勝手に盛り上がっていただいてぜーんぜんオッケーでぇす。しかしぃ~~、それだけでは無粋っ! そこでひとつ、趣向を用意しましたっ……それが、これっっ!!」

(と、巨大雪だるまを指差す)

「この雪だるまの中心あたりに、この祭りのご本尊であるところの“黒幕”がいますっ! 彼女を見事探し出し、外まで連れ出せた方には! “春一番”の称号とともに、ゴォォ~ジャッスッな賞品が進呈されまぁすッ!!」

(おお、とどよめく場内)

「名づけて、黒幕祭りメーンイベント、“ジャックフロスト・クラッシュ”!! 腕自慢の人もそうでもない人も、どしどしご参加くださーーーいっ」

(ほどなく、会場はゲームの開始を今かいまかとまちわびる者でいっぱいになる。人っぽいもの、妖的なもの、魔風なもの、霊じみた輩が今やおそしと腕をさすっている)

「それではぁ~~、準備が出来ましたーーー! 合図とともにスタートしまーーす! 陽気に行きますよーっ、いーち、にぃー、さーーん、暖ーーーーーーーーーーーっ!!」

(リリーホワイトホワイトの放った暖気弾が観客席を直撃、早くも数十人がリタイア。悲鳴と怒号飛び交うなか、生還者たちはいっせいに雪だるまへと向かう)


 -Stage1 未完なる墨染の桜- (残り参加者1190名)


「“ジャックフロスト”には入り口が三つッ!! そのどれから入るかで勝敗は大きく左右されるでしょうっ。ただしっ……そもそも、雪だるまにまでたどりつけるかどうか!? おおーっと、早くも迎撃だーーっ」

(参加者たちへ、雲霞のごとき無数の蝶が殺到する。ある者は死に誘われ、ある者はもともと死んでいるのでそうでもない)

「出ましたーっ、ガーディアン一番手はッ! 幽冥楼閣の亡霊少女、死を操る程度の能力者! 西行寺幽々子嬢だーーーっ!! 幽雅に咲かす死の桜、華霊に命を摘んでいまーーーす!」
「まぁ、たいくつ凌ぎには良いわね」

(かなり撃墜される参加者たち。ほとんどの者は攻撃をかいくぐるのに必死。中には果敢に幽々子へ突撃していく者もいるが、ことごとく蹂躙される。しかし十五人目の挑戦者がついに幽々子を討つ。反魂蝶発動。さらに脱落者が増える)


 -Stage2 白雪玉階段の幻闘- (残り参加者456名)


「さぁ生き残ったツワモノたちがいっせいに、“ジャックフロスト”の載った高台へ殺到していきまーすっ、この心臓破りの階段を突破しなければ入り口にすらたどりつけません! おおーーっと! 先頭集団が、一気に最上段を目指す~~~っ!! ……ああっ!?」

――この妖怪で鍛えた白楼観剣に

「こ、これは!!」

――斬れぬものなど、これっぽっちしか無い!!

(突如飛来した刃が先頭集団を十文字に切り刻み、再び飛び去る。その戻った先には、半分人間で半分幻の庭師の姿がある)

「出たーーっ、第二の番人は! 冥界は白玉楼の庭師、魂魄妖夢ーーーうっ!! その手にひっさげているのは、ふだん愛用の二振りにあらず!? ああっ、長刀と短剣が交差して一体化した奇妙な武器だーーーっ!!」
「そのへんにいた妖怪を媒介に白楼剣と楼観剣を融合させたこの白楼観剣! ひとたび放てば妖魔も聖者も容赦はしない逃がしはしない! 幽々子様への手向け、この純白の階段を真っ赤に染めてあげるわっ」

(白楼観剣がうなりをあげ、次々と参加者たちを屠っていく。妖夢に向かっていく者もあるが、半分幻だけに有効な打撃を与えられない)

「鉄壁の守りだ庭師ーーっ! このまま“ジャックフロスト・クラッシュ”、誰一人ジャックフロストにたどりつけないまま終了か~~~っ!?」
「ふふ、他愛もないわね……うっ!?」

(参加者のひとりが放ったクナイ弾が、白楼剣と楼観剣を結んでいたリボンを斬る。あさっての方向に飛んでいく二振り。慌てて幽霊と人間の二手に分かれて拾いに行く妖夢。そこを狙い撃ちにされ、立ち往生)


 -Stage3 雲の下の雪花結界- (残り参加者343名)


「かろうじて死の階段を超えた参加者たちが、三つの入り口へ殺到していきまーっす! さあどこが地獄の三丁目か、はたまたあの世の曲がり角? 審判の時はいまーーーっ!!」

(第一の入り口に達した者たちの頭上から、巨大な人食いヴァイオリンが落下してくる。グァルネリ、デルジェスと雄たけびをあげながら参加者たちを食らっていくヴァイオリン)

「おおーっと、第一の門はヴァイオリン地獄ーーっ! いっぽう、第二の門は!?」

(第二の入り口を開けた参加者たちのうなじに、吸血トランペットが吸い付いてくる。ヒノファン、ゴスクリと美味そうに参加者たちの生き血を吸い取っていくトランペット)

「なんとーっ、第二の門はトランペット地獄でした! それでは、第三の門はー!?」

(第三の入り口を選んだ参加者たちの心の傷に、毒舌キーボードが暴言という名の塩を塗りこんでくる。ファツィオーリ、ファツィオリと意地悪く参加者たちの心をむしばんでいくキーボード)

「ああーっと、第三の門はキーボード地獄~~~! まさにどれを選んでも行き先はあの世か地獄か冥界か~~!!」

(第四の入り口を選んだ参加者たちだけが生き延び、“ジャックフロスト”内部へと侵入する)


 -Stage4 人間租界の夜- (残り参加者71.5名)


「さーーっやってまいりましたぁ“ジャックフロスト”内部っ! なお、本来ならここで私がガーディアンとして迎撃するところですが、司会なのでパスしまーす。でも一発だけ」

(リリーホワイトホワイトの放った暖気弾で数名が脱落する)

「っと、おおーーっと?! こ、これはなんだーっ!? ここは、明らかに本来のジャックフロスト内部よりも広い~!!」

(天井の高さは数由旬、周囲の幅は数十由旬はあろうかという広大な空間。明らかにそこは何者かによって作られた異空間であった)

「どうやら早くも何者の張った結界に入ったようです……うあああっ!? な、なんだあれはーーっ!? に、人形ーーーーっ!?」

(たしかに、無数に飛来してくるそれらは人形であった。愛らしい人形、無骨な人形、派手な人形、作りかけの人形、さまざま。しかし、明らかに通常と異なるのは)

「お、大きい~~~っ!! 人間の軽く十倍はありそう~~~っ!! 10/1スケールーーっ!!」

(人形たち、参加者たちを捕まえて、着替えさせたり、飾ったり、戦わせたり、壊してみたりと好き勝手な振る舞い。まさにそれは)

『――そう、ここでは人が人形に、人形が人となる――さかしまの世界』
「ああーっと、雲をつく大巨人が出現!! 誰かと見れば、七色の人形使いアリス・マーガトロイドーーーっ! この結界は彼女のしわざのようだーーっ!」
『さぁ、私の人形たち! たんと憂さばらしをするといいわ』
「これはまさに逆博愛の首吊り輪廻~~! ここで“ジャックフロスト・クラッシュ”終了かーーっ!?」

(しかし参加者の中に弁舌の達者な者がおり、人形たちに“人遊び”よりもっと楽しいことがあると吹き込む。その名は――)

「ああーーっと、突然、人形たちが同士討ちだーーっ! 互いに弾を撃ってはかわし、必殺の技を披露している~~っ! これは、まさしくっ!」
『弾幕ごっこ――っ!? ええいっ、やめなさい、この木偶の坊どもっ!!』

(楽しみを邪魔された人形たち、腹を立ててアリスに歯向かっていく。アリス歯ぎしり。その隙に、生き残った参加者たちの突破を許す。アリスもっと歯ぎしり)


 -Stage5 マヨヒガの白猫- (残り参加者名25名)


「さあいよいよ“ジャックフロスト・クラッシュ”も大詰め、かなり中心部に近づいてきましたっ! おおっと、いきなり雰囲気が和風になり、いずこからか琴の音が流れてきましたーっ!! あたかもいにしえの遠野郷のごとしーっ!!」

(はるかに広がるススキの原に、突如イリュージョンしてきたのは十一本の尾なびかせる少女。降り立った地面が一瞬にして生気を失う。それほどの妖気をまとっている)

「ああーーっと、あれは妖怪の式の式、黒猫橙っ!? いや、なにやらふだん以上のパワーをみなぎらせていますーっ!! しかもいつもより尻尾がむやみと多ーーーいっ! 尻尾だけなら師匠越えーーーーっ!!」
「藍師姉から(無断で)借りてきたこの式神スーツ! これによって私は式の式というより式×式! 式の式倍の妖力を出せるようになったのだーー!」

(橙の痛烈な式神式タックルが縦横無尽に参加者たちを襲う。言うなら“ひとり式神「橙」”である。空間を穿つ軌跡が四方八方に残り、一同をしだいに追い詰めていく)

「ああーーっと、まさにこれぞ死地の死地! もはや逃れるすべ待ったなし! 来年の今日が彼らの命日となってしまうのか~~~っ!!」
「シーッキッキーッ、これでとどめーっ……ううっ!?」

(式神スーツが活動限界時間を超え、橙は強制排出される。同時に軌跡結界も消えうせる。態勢を立て直した参加者たちは黒猫を袋叩きにし、手軽な日用品を強奪する)


-Perfect
 Silver
 Spring- (残り参加者・3名)


「さあーっ、泣いても笑ってもこれで最後のファイナルフィニッシュッ! 『黒幕』を見つけられるのは一体誰なのかーーーっ!?」

(ぽっかりと開けた空間に出る。その中心には雪だるまがある。と、朗々とした声が響き渡る)

『おめでとう。良くここまで、たどりつけたわね』

『これで、ゲームはお終い』

『さあ、私を連れ出してくれるのは、誰かしら?』

(三人の参加者が顔を見合わせる)

「ああーっと、何という運命の悪戯! 最後の最後で、戦うのはこれまで死線をともにかいくぐってきた仲間だというのかーーーっ!」

(じりじりと距離をつめる三人。ほぼ同時に、その手が振り上げられる。そして)

「……ああっ!? ジャンケン! ジャンケンだーーっ! 後出しをしなかった者が勝利の変則ジャーーンケーーーーン!! だが全員後出しだった~~~!!」

(結果に吹き出し、肩を叩き合い、笑い合う三人)

「まさに春より熱い戦友どうしの絆~~~っ!! ……ああっ!? 雪だるまが浮上して!!」

『つくづく、お熱い人たち。でも、その心意気に免じて――』

「あ、あ、ああああ……!!」

『――最後の春場の冬力、存分に見せてあげるわ――』

(“ジャックフロスト”が鳴動する。この巨大雪だるま全体が、『黒幕』とシンクロしたのだ)

「や、やはり最後はこの相手ーーっ! 誰が呼んだか“冬の忘れ物”、レティ・ホワイトロック!! 今、真の最終決戦が弾の幕を開けようとしていまーーすっ!!」

(三人の参加者、それぞれの得物を重ね合わせ、うなずき合う。そしてレティへと突き進んでいく。吹き付ける猛烈な寒波。しかしものともせず、三人は突撃していく。閃光。次いで轟音)





 祭りの後は、いつもさびしい。
 大騒ぎをした群衆もいまはなく、会場にはただ空っ風が吹くばかり。
 その荒涼たる原っぱを、氷精チルノはぶらついていた。
 冬のあいだ、散策をともにしていた連れは、いまはもういない。
 ――しんみりしたのは、嫌いだから。
 彼女は、そう言っていた。
 ――だから、最後は、派手に、パーッとやりましょ。
 確かに、派手だったし、パーッとしたお祭りだった。
 とりわけ、そのフィナーレは。


「……見事だったわ」
 冬力を使い果たしたレティは、自分を倒した三人を讃えた。
 彼らはすでに風をくらって逃げ出している。
 無理もない。
 本体であったレティが倒れたことで、“ジャックフロスト”は崩壊を始めていた。
 ほどなく、この巨大な雪だるまは溶けくずれ、雪解け水となって流れゆくだろう。
 そして川に流れ込み、いずれ海に還り、そこから空へ。大気へ。風にのって、いずこかへ。
「――レティ・ホワイトロック」
 既に消えかけている彼女に声をかけてきたのは、リリーホワイトホワイト……否、すでにその羽根は力強く開き、春を告げる旅にそなえていたから、リリーホワイトと言うべきか。
「ああ……あなたにも、手間をかけたわね。……」
「それはいいのだれど。たまには一足早く来てみるのもね……ただ」
「……ただ?」
「どうして、あなたがこんな乱痴気騒ぎを起こしたのか、それを知りたい」
「別に? ……理由なんて、あってないようなもの……騒ぎたかっただけ。ただ消えうせるより、派手に散るほうがいっそいいじゃない?」
「そう」
「なに……?」
「なんでもない。まぁ、引き止めても仕方ないし、そろそろ行くことね」
「ええ……それじゃ、また」
「…………」
「……なに……?」
「何か、伝えることがあれば、聞いておくけれど?」
「……嘘は、下手ね……我ながら」
「何かあるんじゃないの?」
「…………あなたの、役目どおりで…………いいわ…………」
「……そう」

 『黒幕祭り』のフィナーレ。
 爆発飛散した巨大雪だるまの中から、白い翼を広げた妖精が飛翔する。
 高々と浮上した妖精は、夜空に無数のまばゆい光を放出し、見物客の目を楽しませた。
 そして人々は知ったのである――冬の終わりを。春の訪れを。


 春は冬のあと。春のはじまりは、冬の終わり。
 でも、と彼女は続けてこういった。
 ――冬もまた、春のちょっとあと。
 ――春が来なければ、新しい冬も、来ない。
 そう思ったら。
「春も、そんなに悪くないかな」
 少しだけ、春が好きになれた、気がした。
 チルノはひとり、歩き出す。
 そこらに冬眠明けのカエルでもいないかしら、と目を配りながら。
まぁなんとか冬っぽさが残るあいだに出来たかな……と。
何事も鮮度は肝心ですよね。
STR
http://f27.aaacafe.ne.jp/~letcir/
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コメント



0.1220簡易評価
1.60SAL削除
お見事。ただ殺人キーボードのセリフだけ残念・・・
27.無評価T.削除
ジャックフロストにマハブフ吹いた
あー、点数はあえてつけない方向で
31.70名前が無い程度の能力削除
どんだけレティ好きなんですかw