Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷夜行

2004/02/23 06:29:24
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「ここが博麗神社ね」
「小さいわね」

 見渡す限りの山の中、鬱蒼と繁る木々の中に、その神社はあった。
 橙に染まる空が、辛うじて木漏れ日として辺りを照らし、その神社を薄暗闇から浮かび上がらせている。
 伊達や酔狂、若しくはサークル活動でもなければこんな所に来る事は無かったし、来る必要も無い所だった。
 そんな場所にある神社なのだから、ご利益なんてのはあまり期待しない方がいいかもしれない。

「これじゃあ、神社というよりただの大きい祠ね」
「それでこそ、『入り口』としては相応しいんでしょう」

 確かに、『向こう側』の存在にとって『入り口』は小さい方がいいのだろう。その方が滅多な事では『入ってくる』存在も少なくなる。もっとも、そういうモノを暴くのが彼女達の活動なのだが。

「…あら?」
「? どうしたの、メリー?」

 その時、メリーがあるものを見つけた。それは、メリーでなければ見つけられないモノ。
「『入り口』、あったわよ」
「やっぱりね。私の推理に間違いは無かったのよ」
 愛用の手帳を広げながら、満足そうに頷く蓮子。しかし、そんな蓮子の様子には目をくれず、メリーの目は何も無い空間を見つめていた。
「ちょっとメリー、人の話を聞いてるの?」
「聞いてるわよ。それで私が言いたいのは、『入り口』が通れそうなくらい開いてるんだけど、どうする? って事なんだけど」
「……何ですって?」
 ぱたり、と蓮子の手帳が閉じた。同時に、目が光った。ような気がした。
「そういう事は早く言って頂戴。あやうくここの入り口を暴いただけで帰る所だったわ」
 そう言うと、蓮子はメリーの手を取った。
「さ、案内して頂戴。善は急げ、よ」
 ちなみに均衡を崩すのは善ではないが、そんな事は蓮子には馬耳東風だった。
「………はいはい」
 そんな蓮子の性格を承知しているメリーは、蓮子を連れて入り口へと足を向けた。


  *  *  *


「……あら」
 沈む太陽をぼんやりと眺めながら縁側でお茶を啜っていた霊夢は、博麗大結界が揺らぐのを感じた。この感覚は、幻想郷に誰かが入ってきた事を示す。とりあえず、どんな奴が入って来たのか見てやろうと思い、腰を上げた、その時。

「こっちの世界の博麗神社は、結構広いのね」
「人が住んでるみたいね………あ」

 建物の陰から現れた人物達と、目が合った。一瞬動きが止まったが、落ち着いて座りなおす。霊夢は一考し、声をかけた。
「こんにちわ。随分と珍しい客人だわ」
「そうでしょうね。私達、普通の人間ですもの」
「私も普通の人間なんだけど」
「そうなの?」
 霊夢と向き合いながら、蓮子は徐々に移動し、いつの間にか霊夢の隣に腰を下ろしていた。
「こんな所に何の用? 見ての通りここには何も無いわよ。何か欲しいならマヨヒガをお薦めするわ」
「別に何も欲しくは無いわよ。ただ来てみただけだもの」
「物好きなのね」
「サークル活動なのよ」
 何だかよく分からない蓮子と霊夢の会話を聞きながら、メリーは空を仰いだ。いつの間にか、太陽はその姿を隠していた。と、

「霊夢~」

 代わりに出現した満月を背に、紅い悪魔が境内に降り立った。
「おや、レミリア」
「暇だから遊びに来たの………って、見た事無いのがいる~。見た感じ人間?」
「人間よ、見た感じ妖怪さん?」
「同じく人間よ、それも普通のね」
 興味津々な様子で二人を見るレミリアに、蓮子とメリーは答えた。
「へえ~、珍しいわね」
「そっちこそ、持ち帰ったらワシントン条約ものよ」
「?」
 小首を傾げるレミリア。そんな三人の様子を見て、霊夢は微笑んだ。


  *  *  *


「それにしても興味深い世界ね、ここは」
「割と普通よ」
「そうかもね」
 レミリアに背中から抱きつかれ、前後に揺れている霊夢の話を聞きながら、蓮子は頷いた。
 どんな世界でも、そこに住んでいる人にとってはそれが普通。メリーも、二人の話を聞きながら一人頷いていた。
「もう少し、見て回りたいわ。この世界を」
「本当に物好きね。ここは普通の人間には少し優しくないわよ?」
 湯のみを傾けながら、霊夢は蓮子に言う。
「そうよ~。もし霊夢が居なかったら、あなた達二人とも私の食事になってたかもよ?」
 霊夢に擦り寄りながら、レミリアも言う。
「……素敵なご忠告ありがとう、吸血鬼さん。中々に物騒な所みたいね、ここは」
 霊夢とレミリアの言葉を手帳に書き写しながら、蓮子は呟いた。
「割と普通よ」
「普通ふつう」
 そう言いながら、二人は笑った。その言葉は偽りが無い分、余計に真実味があった。

「でも残念ね、蓮子。私も、この世界には興味があったのに」
「仕方ないわよ、メリー。こっちの世界にはこっちの世界の都合があるもの。それに、もう夜。変なのが跳梁したり跋扈したりするのには最適な時間でしょう? か弱い普通の人間の少女達には厳しい世界でしょうね」
 縁側から立ち上がり脱いでいた帽子を被ると、蓮子は霊夢の方へと向き直った。

「今日はありがとう。結構楽しかったわよ」

「どういたしまして。こっちも割と楽しめたわ」

「また来てね~。今度は血を飲ませてくれると嬉しいな」

「………考えておくわ。それじゃ行きましょ、メリー」
「ええ」
 蓮子はここに来た時と同じ様に、メリーを連れて神社の裏へと姿を消して―――

「おや霊夢、客人かい?」

「「?」」
「あれ、霖之助さん?」
 ―――その直前。暗闇から提灯の光を伴い現れた人影によって、二人の帰郷はもう少し遅れる事となった。


  *  *  *


「すまないね。久し振りの『外』からの客人だというのに、手伝わせてしまって」
「いえ、この世界の古道具屋というのも実に興味深いですわ」
「埃がいっぱいね」

 少し前、霊夢に頼まれた品物を持って来る為に博麗神社にやって来た霖之助の誘いで、蓮子とメリーは香霖堂を訪れていた。そこで、二人は店内の掃除を行っている。
 香霖堂へと向かう途中、三人は一度も妖怪に襲われる事は無かった。霊夢曰く、

『霖之助さんはどういう訳か妖怪に襲われたりしないのよね。だから、魔除けの道具になるわよ』

 だそうだ。それを聞いた霖之助は、人を道具扱いするとは何事だ、と怒っていたが、霊夢は素知らぬ顔だった。

「もう少し掃除した方がいいですよ? 森近さん」
「そうしたいけど、下手に触ると危険なものもあってね」
 霖之助の言葉を聞き、メリーは手にしていた正体不明の石の仮面を棚に戻した。
「…どうしてそんなものがここにあるんですか?」
「霊夢と魔理沙が……ああ、魔理沙っていうのは霊夢の友人の魔法使いなんだけど、そいつらが勝手に持ち込んでくるんだよ。私には必要無い、ってね」
 勝手な連中だろ、と言いながら霖之助はテーブルを拭く。
「まあ、大体はそんなに危険じゃないからね。僕が不精なだけだろう」
 それを聞いたメリーは、安心して再び棚の掃除を始めるのだった。


「外の世界に…? 別に構いませんけど?」
「それは助かるよ。何分久し振りだから、案内してくれると助かる」

 店内の掃除も終わり、お茶を啜ってくつろいでいた二人に、霖之助がそんな事を言った。
 何でも、久し振りに外の世界の品物を仕入れたいのだという。
「でもこれからでいいんですか? 疲れているのでは?」
「それは君達も同じだろう? それに帰るにしても、僕が居た方が安全だと思うよ。悔しいけど、霊夢の言う通りだな」
「…そうね。ここから『入り口』へは結構遠いし、もうだいぶ夜も遅いしね………分かったわ。私達の世界も案内してあげましょう? メリー」
「ついでに我がサークルにも勧誘する?」
「それは止してくれ」
 霖之助が肩を竦めると、二人は顔を合わせて笑った。


  *  *  *


「………んあ~……また来たのね~? 三人とも、ご苦労様ね~」

 虫やら妖怪やらの鳴き声が響く丑三つ時。静かに博麗神社の境内に戻ってきた三人を迎えたのは、気だるそうに目を擦りながら、妙に寝巻きがはだけた霊夢だった。
「霊夢、起きてたのか?」
「そ~なのよ~霖之助さん~……レミリアが中々寝かせてくれなくて………今やっと眠った所よ~…」
 ふああ、と大きい欠伸をする霊夢。彼女が開けた障子の後ろに見えたのは、布団の中で安らかな寝息を立てているレミリアだった。
「…程々にしとけよ、霊夢。そもそも異種同士の交配の危険性についてだけどな―――」
「……異種以前に、同性なんですけど」
「お盛んですのね、霊夢さん」
「…少し、血が足りなくなるわ……」
 そう言って首筋辺りを手でさする。そこには、二つの小さな穴の様な痕が残っていた。
「大変なのね。もしかして、あなたも吸血鬼になっちゃった?」
「あの子にそんな事は出来ないわ」
「それは良かったわね」
「だから断りきれないの。レミリアったら、いつも咲夜から貰ってるでしょうに…」
「大喰らいなんでしょうね」
「あの子は少食よ」
「好きな人の血って、無理にでも欲しくなるんじゃないかしら?」
「……そういうものかしら」
「そういうものかもしれないわよ?」

「ライオンと蟻の合いの子っていう怪物がいるだろう? あの例からも分かる通り―――」

 眼鏡の端を持ち上げ熱弁を振るう霖之助を無視しながら、三人の少女達の何だかよく分からない話は続いた。


  *  *  *


「……ふう」
 博麗神社での出来事をレポートに記していたメリーは、ペンを机に置くと軽く伸びをした。傍らに置いてあったコーヒーを飲み、一息つく。どこにも発表される事の無いであろうレポートを書くのは一苦労だったが、これもサークル活動の一環である。
「…ま、面白かったからいいけどね」
 そう呟いて、メリーは部室の壁をちらと見た。そこに飾ってあるのは、あの日霖之助から譲り受けた正体不明の石の仮面だった。
「確かに、使い方が全然分からないわ」
 二人は霖之助に、その仮面を被ってはいけないと言われていたので、何をするでもなく壁に飾っている。南米風のそのデザインは、インテリアとしてはまずまずのものだった。

「メリー、ちょっといい?」

 その時、部室のドアを勢いよく開けながら蓮子が入ってきた。珍しく慌てているようだった。
「どうしたの? 何だか急いでいるみたいだけど」
「メリー、そのレポート書き終わった?」
「もう少しで終わるけど…どうかしたの?」
 そう言ったメリーの鼻先に、蓮子はずい、と指を差し出した。
「これまでの私達のレポートを見たいって人が居たのよ」

 彼女達の書いたレポートというのは、今まで暴いた結界や、その中の存在に関するものだった。しかし、彼女達の世界ではそんなもの発表しても大抵は話にならないので、それらのレポートは現在も棚の肥やしになっている。

「…物好きな人ね。この割と無駄の産物を見たいだなんて」
「……まあね。でも、当人にとっては価値のあるものなんじゃない?」
「だといいけど。それで、どんな人?」
 メリーの言葉に、蓮子は手帳をめくる。
「大学の教授だって」
「…益々物好きね。大丈夫なのかしら、そこの大学」
「大学とその教授の出来は関係ないわよ、きっと」
「それで? その教授の名前は何ていうの?」


「岡崎夢美、だそうよ」
このSSは、先日放送された第2回東方ラヂヲ内の『東方出鱈目コンテスト』において投稿したSSの完成版です。お題は、『幻想郷と現実世界』でした。

…何だか普段見ないキャラばっかり書くハメになりました。夢美なんて、全然ですよ。

ちなみに、霖之助が言っていた『ライオンと蟻の合いの子』っていうのは、上半身がライオンで下半身がアリな化け物です。それぞれの半身で求める餌が違うから、すぐに死んでしまうんだとか。
正体不明の石の仮面は、被ると人間をやめられそうです。
謎のザコ
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コメント



0.3130簡易評価
7.50神崎削除
JoJoの石仮面といい、東方夢時空といい、ナイスチョイス(笑
11.60木造削除
色々なクロスオーバーが楽しめました。感謝。
12.80名無し削除
うわ~、最後の終わり方とかかなり良い
16.70名前が無い程度の能力削除
他作品との絡め方が上手いなぁ。面白かったです。
21.70名前が無い程度の能力削除
霊夢とレミリアがナニをしていたのかには、ツッコミませんよ?(w
23.50秋霞削除
仮面は、まあ…置いといて(汗
テンポよくいかにも東方という会話がながれていくのがもう、たまりません。
25.60絵利華削除
ライオンとアリの合いの子はミルメコレオだったかな?
29.50すし~削除
よーやく拝見できる時間が作れました^^;
彼女ららしいやり取り、ネタが違和感無く纏められていてグッジョブでした( =´ω`)b
48.50T.A削除
仮面は血をつけなきゃ被ってもいいんじゃない?
58.50所属不明削除
「俺は人間を止めるぞ、こーりんンンンンン!!」
ってことDeathね?(w
72.70名前が無い程度の能力削除
ここで夢美とは予想外だった
85.90名無しな程度の能力削除
この緊張感の無い会話が良いね
86.100名前が無い程度の能力削除
イイネ