Coolier - 新生・東方創想話

今日は何の日

2004/02/15 02:34:22
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 朝靄に霞む博麗神社。霊夢がいつもの様に境内の掃除をしていると、賽銭箱の上に四角い箱が乗っているのを見つけた。
「?」
 不審に思った霊夢は箱に近付く。…術的気配は感じられない。どうやらただの箱らしいが…
「…あら」
 箱の上に乗っている、四角いカードを見つける霊夢。拾い上げて読んでみれば、『 to Reimu 』と書かれている。
 霊夢は、ご丁寧に包まれた包装を剥がし始めた。金箔のリボンを解き、薔薇柄の包装紙を剥がし、箱を開けると―――広がる、カカオの香り。
「これって」

 本日の日付。2月14日。この、神社とはおよそ関係の無い行事の、更にその行事の起源とは関係の無い交流の方法……

「…誰かしらね」
 霊夢は、中に入っていた大きめのチョコレートを取り出して見る。
「………」

 霊夢の手の中にある物は、精巧に作られたアリスの形のチョコレート。そして、箱の底に置かれたカードに書かれた文字。

『私を食べて』

 霊夢は固まった表情のまま、ゆっくりとチョコレートを箱に戻し、丁寧に再包装し、箱を賽銭箱の中へ押し込んだ。


  *  *  *


「ねーねーさくやぁ~」
「はい何でしょうお嬢様♪」

 最近すっかりれみりゃ状態のレミリアに、鼻血を我慢しつつ満面の笑みで返事を返す咲夜。その時、レミリアの手には何かの箱があった。
「さくやにね、これあげる」
「それはもうありがたくいただきますハァハァ」
 すっかり興奮状態の咲夜は、慌しく包装を剥がす。

「……お嬢様?」
「?」
「これ…は?」
「ちょこれーとだよ? いつもがんばるさくやに、おれいだよ。たりなくなっても、まだいっぱいおへやにあるから、ね?」
「………」
「…さくや?」
「………ふ。ふふふ。ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「……(びくっ)」


  *  *  *


「それは難儀だったな……くくっ…」
 居間で、くつくつと笑う魔理沙。卓袱台を挟んで、溜め息をつく霊夢。
「…ちゃんと渡してくれれば、何も文句は無いんだけどね」
「お…? 何だ? 霊夢もその気だったか?」
「そういう訳じゃないわよ。何か貰えるんだったら、ありがたく貰おうって事よ」
「ああ、それはいい考えだ。それじゃあ、これもありがたく貰ってくれ」
「?」
 そう言って、魔理沙は鞄から何やらごそごそと取り出し始めた。そして、どんと取り出したるは、何やら黒茶色の塊が入った袋。
「…チョコレート」
「正解だぜ。よく分かったな」
「ついさっき見たような気がするし」
「それもそうか」
「まあ、ありがたく貰っておくわ」
 袋に伸ばされる霊夢の手。しかし、それを寸前で取り上げたのは、魔理沙。
「…なに?」
「まだ出来上がってないんだ。台所、貸してくれ」
「ちゃんと作ってから持ってくるものじゃないの?」
「出来たてじゃないと、駄目なんでね」
「…まあいいか。それじゃあ、出来上がったら呼んで頂戴」
「はいはいっ、と」
 よっこいせ、などと呟きながら立ち上がり、台所へと向かう魔理沙。すると、台所の前で一旦止まり、霊夢にこう言った。

「アリスのチョコ、食べてやれよ。あいつなりに一生懸命作ったんだろうからさ」

「………」
 しかし霊夢は一言も発する事無く、魔理沙もまた霊夢の言葉を待たず、台所へと入った。
「…一生懸命、ねえ…」
 報われる努力など、あるのだろうか。そう思いつつも、再び境内へと足を向ける霊夢であった。


  *  *  *


「咲夜さんが倒れたって、本当ですか?」
 その報を聞きつけて、咲夜の部屋の前に着いた美鈴を待っていたのは、フランドールであった。
「…ええ、まあね」
 溜め息混じりに告げるフランドールの声には、心配というよりも、呆れているという表現が当てはまる。
「一体何が…?」
「…はあ」
 美鈴の質問を聞いて、ますます溜め息を深くするフランドール。
「美鈴…今日は何の日だか、知っている?」
「え…? え、ええと………あ、確かバレンタインデー、でしたっけ」
「そうね。私もお姉様からチョコを頂いたわ。…もっとも、今は私の方が姉の様なものだけど」
「…はあ」

 美鈴も知っての通り、最近レミリアはれみりゃ状態である。おかげで美鈴は、毎晩のように咲夜の『一人れみりゃ様自慢大会』につき合わされている。

「あの、それが咲夜さんが倒れた事と、関係があるんですか?」
 そう訊き返した美鈴に、フランドールは特大の溜め息と共に、こう言った。

「鼻血を大量に出しながら、チョコレートを大量に食べたらどうなるかしらね…?」

「……あ」
 その言葉でフランドールの言わんとする事が分かった美鈴は、フランドールと一緒に溜め息をつくのだった。

「………血が、もったいないなぁ………」
「それは言わない約束ですよ、妹様…」


 その頃咲夜の部屋の中では。
「ごめんなさい、ごめんなさい…。わたし、さくやにいっぱいよろこんでもらおうとおもって、いっぱいつくっちゃったから……」
「ふふふふふふふ………お嬢様のチョコレート…一欠片たりとも逃しませんよ………」
 心配そうに咲夜にすり寄るレミリアと、血染めのベッドに笑いながら寝ている咲夜の姿があった…


  *  *  *


 霊夢が居間に戻ると、そこは甘い香りが充満していた。台所を覗くと、魔理沙がチョコを湯煎で溶かしていた。
「ああ、もう少しで出来るから、アリスのチョコでも食って待っててくれ」
 胃がもたれそうだな、と思いながらも、霊夢は居間に戻ってアリスからの贈り物を開け、相変わらず精巧な作りのチョコを、パスウェイジョンニードルで破砕した。
「…これが精一杯の譲歩だからね」
 何だか自分でも意味不明な事を言いつつ、霊夢はチョコの欠片をぽりぽりと食べ始めた。
(アリスは余計に考えすぎよ……)
 などと考えつつ、意外と美味しいと思ったチョコを摘んでいると、

「出来たぞ~」

 台所から魔理沙が現れた。手には、湯気を上げる湯呑み。
「何、それ?」
「ホットチョコとかいう代物だ。冷めない内に飲んでくれ」
 にこりと笑って湯呑みを差し出す魔理沙。虫歯になりそうだと思っても、無碍には断れなかったので頂く事にした。と―――
「おっと…」
 伸ばされた霊夢の手を、またしても寸前で交わす魔理沙の手の動き。その手は、湯呑みごと魔理沙の口に運ばれた。そのままホットチョコを飲み始める魔理沙。
「ちょっと、それ私の分じゃ―――」

 それ以上、霊夢の言葉は続かなかった。
「んむぐ……」
「――――――」
 霊夢の口は、魔理沙の唇によって塞がれていた。あまつさえ舌を捻じ込まれて、口内に甘いチョコレートを流し込まれていた。
「んっ……んぐ―――」
「ふ……む、ぅ………」

 魔理沙が腰に手を回してきた。
 霊夢は動かずに、喉を通るチョコレートの甘さと絡み付いてくる魔理沙の舌の甘さに、目を閉じた。


  *  *  *


「そう言えば、パチュリーさんの姿が見えませんけど…」
「パチュリー? 出かけたわよ。…ああ、昨日は夜遅くまで何かを作っていたみたいだけど……確認するまでも、無いのかしら?」
「…ですね。ところで妹様、そろそろおやつにしませんか?」
「…そうね。それじゃあ美鈴、行きましょうか」
「はい」


「…ところで、もしかしておやつって、チョコレート?」
「嫌ですか?」
「…ありがたく、頂戴するわ」


  *  *  *


「………ばか」
 文字通りの甘い口付けから開放された霊夢は、赤い顔で開口一番そう言った。
「あー、それ、褒め言葉として受け取っておくぜ」
 にんまりと笑いながら、魔理沙は親指で霊夢の口の周りに付いたチョコレートを拭った。
「もう……これからは、急にそんな事しないでよね」
「言えば、してもいいのか?」
「そっ……そんな事、言ってない!」
 怒る霊夢を魔理沙はにやけならがら見つけ、冗談だぜ、と言った。その時。

 がたっ

「「?」」
 物音に、二人同時に振り向いた。その先には、いつの間にか開いていた廊下側の障子と、その隙間から部屋の中を覗いている、紫の髪の魔女…
「…パチュリー?」
「………………」
 魔理沙が声をかけるが、反応しない。ふと見ると、パチュリーの足元には、綺麗な箱。

 ああ。つまり、要約すると、こういう事だ。

「…見てた?」
「――――――」
 魔理沙の問いに、パチュリーは無言。しかし、その周囲に漂うのは、無数の魔方陣。そして、目尻に溜まる涙。それを見るや、魔理沙は脱兎もかくや、という勢いで表へと飛び出した。

「………魔理沙のばかぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁあぁあぁああぁぁあああぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 超高速で神社から遠ざかる魔理沙と、パチュリーの絶叫と、夥しい数の弾幕が空を埋め尽くしたのは、ほぼ同時だった。





「ほんと、何なの…?」
 一人神社に取り残された霊夢。遠くで遠雷の様に鳴り響く爆裂音を意識の外に追いやり、とりあえずチョコレートの残りを食べようとした、その時―――

「―――霊夢―――」

「!」
 背中から聞こえる幽鬼の様な声―――少なくとも、霊夢にはそう聞こえた―――に振り向くと、そこには、
「ア、アリス…?」
「霊夢…受け取ってくれた…?」
「え、あ、う、うん」
 おそらくはチョコレートの事を言っているのだろう、霊夢がそう言うと、アリスはにっこりと笑って、

「それじゃあ、今日のメインディッシュ………私を、食べてーーー!!」

 ぐわばっ!

「な、なんでそうなるのよーーー!?」
 妖しい目付きなアリスの突貫を避けながら、霊夢は今日という日の行事の意味を、本気で考えた。


  *  *  *


「…成る程。今日はバレンタインデー、だったんだな」
 椅子に座りながら、霖之助は本を閉じた。その本は、世界の様々な行事に関する本だった。

「しかし贈り物か………まさか霊夢のやつ、『チョコをあげるからいままでのツケは無かった事にして』なんて事しないだろうなぁ………しないか」

 ふう、と一つ溜め息をついて、霖之助は飲みかけの日本茶をすすった。

 もちろんその日は、誰も香霖堂を訪れる事は無かった。


 今日も幻想郷は、少女達以外はおおよそ平和である。
まあこんな日はこんなネタで逝きます(ぉ
幻想郷にこんな行事があるかはさておき、ですが。

そういえば霖之助初書き…
謎のザコ
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コメント



0.4310簡易評価
1.60すけなり削除
あははははは、最後の霖之助で爆笑してしもうた(笑<br>
・・・俺ももらってないけどね(´・ω・`)ショボーン
2.70名無し削除
何気に霊夢のチョコレートを貰えたのは……
7.60at削除
そういや霊夢は甘いものいくら食べても太らないんですよね…(陰陽玉の効果で)。こういうイベント向けかも(笑。
14.70Kom削除
すげぇ爆笑しますたw
15.90絵利華削除
朝から笑わせていただきましたw
50.無評価名前が無い程度の能力削除
パチュマリは一波乱あると燃えますが・・・。
浮気はいかんでしょやっぱ。
84.80名前が無い程度の能力削除
霊夢は誰かひとりくらいチョコ渡せよw
103.100名前が無い程度の能力削除
良い