Coolier - 新生・東方創想話

Lily of valley

2006/05/03 07:55:29
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幻想郷を覆った極彩色の花たち。
今も幻想郷を覆うように咲き誇っている。
浮かれていた妖精達はその異常な美しさの自然を前にまた浮かれ始め、人間達も同様に浮かれていた。
村々からは囃子の音が止むことはなかった。
極彩色の花は美しく咲き、微かな毒を漂わせる。
微かな毒は人知れず幻想郷を覆い皆を酔わす。
妖精や人間、妖怪達も例外ではなかった。
しかし、いい毒でもあった。
いがみ合わせる事無く、ただ陽気にさせるその毒はまだまだ続きそうである。
花たちに取り付く霊は自分たち其処に居たと言うことを皆の胸に刻み込むように咲き乱れる。
はたまた現世を純粋に楽しむためかは定かではない。
一部の苦労人を尻目に幻想郷は陽気な日々が過ぎて行く。
賑わいから外れた位置にある小高い丘も例外ではなく、俄かに活気ついていた。



「スーさん、今日も元気そうだね。」

丘の上には例年より遥かに多く咲く白い花。
丘全体を鈴蘭の花が真っ白に覆っている。
その鈴蘭の花畑の中を赤い服を纏った少女が踊る
人の形をした赤い少女――メディスン・メランコリーは咲き乱れる鈴蘭を祝うかのように楽しそうに踊る。
スポットライトを当てたかのようにすっぽりと開けた小さな舞台。
彼女のために取り繕われたステージであるかのようである。
鈴蘭の妖精であるかのように舞台の上で踊り続ける赤い妖精。

――さわさわ

メディスンの踊りに合わせ揺れる鈴蘭の花はさながら観客のようである。
右へ左へ、後ろへ前へと自由気ままに揺れ動く白い観客。
声援を送るように舞う花びらが辺りを白く包む。

――さわさわ

「うん、スーさんのおかげで私は今日も元気だよ」

誰もいない丘の上にソプラノのように高い少女のような声がよく響く。
山彦のように後について聞こえる自分の声は何処か違う感じに聞こえてくる。
メディスンは自分が元気であるアピールかのようにさらに元気よく踊る。
誰に教わるでもない自己流の踊り。
可憐さに欠け、少々乱暴な踊りであるが少女らしい活力に満ち満ちている。
足が縺れ慌てる様も実に愛らしい。

「わ、わ、わ!!!」

右足を思いっきり左足に当てる器用な芸当をこなしバランスを崩すメディスン。
必死にバランスを取ろうと手をバタつかせるが焼け石に水であった。
飛べばいいという話であるがいきなりの出来事に対応できる程、メディスンは柔軟ではない。

――ざわ

そのまま後頭部から落下するはずであった。
が、メディスンは硬い地面に体を打ち付けること無く受け止められた。

「スーさん、ありがとう」

メディスンを受け止めるようにたくさんの鈴蘭の花が折り重なっていたからだ。
クッションのよう何重にも積まれた花びらに包まれる倒れるメディスン。
日の光を浴び、花は羽毛の布団のようにふかふかで暖かかった。

目の前には何処までも何処までも青い空が広がっている。
わたあめのようなふわふわした雲。
眩しい太陽を隠したり、形を変えながら移動する雲はピエロのように芸に富んでいた。
ゆっくりと大空を移動する。
時折吹く風は春の日差しと相まって気持ちいい。
風は鈴蘭を散らしながら空へ連れていく。
ひらひらと舞う花は何処までも白く美しい。
しかし、昔の人は言う。

『美しい花には棘がある』

それは的を射てると言える。
可憐に舞う花には棘の代わりに毒を持っている。
人を、妖怪をも死に至らしめる毒を内包している。
それは本当に僅かで些細な毒。
死に直結するトリカブトなどと違う僅かな毒。
緩やかに優しく死に導く――スウィート・ポイズン。
儚い夢のようにまどろう現実のように誘う魅惑の甘い毒。
純白の衣を纏った小悪魔のように空を漂う。

その白い花びらを見つめるメディスン。
その中で生まれ目覚めたメディスンにとっては何にも変えられない友達。
辛い時も嬉しい時も一緒に居てくれた鈴蘭のスーさん。
ずっとずっと一緒である。

――さわさわ

遠い遠い昔に誰かと一緒に居た時と同じ気分になる。
それが何時なのか思い出せない。
誰だったのかも記憶に無い。
ここから出た事の無いメディスンには此処だけの記憶しかないのだから。
でも、胸の奥にはぽっかりと穴が開いたように何かが欠落している。
たくさんの事を覚えた。
知識も、言葉もたくさん覚えたがそこだけはいつも埋まらない。
真っ白な花が積もる空白の空間。
そこに何があったのか思い出せない。
でも、大切な何かがあった気がする。

そう遠い遠い昔に何か――


――さわさわ


――さわ


――



 *



遠い、遠い昔

私は誰に言われること無く産まれた
産まれた?目覚めたの間違いだったかな…
とにかく其処に私という物が存在した
ひどく曖昧な記憶


何時からだったろうか…
ずっと眺めるそれをそう考えたのは
何処までも何処までも青い景色をずっとずっと眺めていた
青だけが目の前広がっていた
それが私の最初の目覚め

暫くすると青がオレンジに変わった
何処までも広がっていた青がオレンジに変わっていく
ゆっくりとゆっくりと染まっていく
おっきな白が見えなくなっていく

暫くすると今度はオレンジが黒に変わった
真っ黒な真っ黒な黒がオレンジだった景色を塗りつぶしていく
その中に何か黒じゃない何かがあった
いっぱいいっぱい黒の中にあった

暫くすると青が戻ってきた
おっきな白が青をつれてきた
みんな青くなった
何処までも青がまた広がっていた

私は青いのが空というのを学んだ
下に広がるのを海と学んだ
おっきな白は太陽だと学んだ
黒が夜というのを学んだ
黒の中にあるのが星ということを学んだ
青が朝、オレンジが夕暮れ、黒が夜ということを学んだ
あれ?
青は空?
それとも朝?

いっぱい学んだ
いっぱいいっぱい学んだ
移り変わる景色を何百、何千回と見ながら色々な事を学んだ

――私は自分が人形というものだということを学んだ



みんな、人と呼ばれるものから学んだ
楽しかった
学ぶことが楽しかった
でも、私は此処に在るだけ
人形は誰かに使われるという事を学んだ
でも、まだ私は誰にも使われたことが無い
なんでだろう?
私は人形なのに誰も使ってくれない
使われない私はなんなの?

『いらっしゃいませ~』

また人が来た
この人の聞こえると必ず誰かが来る
これも学んだ
誰かが来た時に言うものだということも学んだ

『これはこれはベル様!な、何かお探しでですか?』
『なに、娘がどうしてもこの店に入りたいとせがまれてな』
『小汚い店ですが、どうぞゆっくりしていってください』

この人と誰かが話すことから色んなことを学んだ
だから私はこの声が好きだ
私に色んな事を教えてくれる
ベル様というのはこの国のケンリョクシャということもずっと前に学んでいた
ケンリョクシャがどういうものかまだ知らない

『お父様』

あれ?
景色が動く
ずっと見ていたはずの青い景色の代わりに目の前にはスーツと呼ばれる物に身を包んだ人の男が居た。

『もっと綺麗な人形にしないか?』

あ、この声…
この人がベルというケンリョクシャなんだ
何故だか体が暖かい
柔らかい何かが私を抱いているみたいだ

『うぅん』

また景色が動いた
今度は女の人が目の前に居た
それも少女と呼ばれる人だった
なんだろう?
私の事を見てるみたいだけど…

『私はこの子と友達になりたい』

友達?
人と人の友好的関係
親しい人の間柄
私は人形だよ?

『うぅん、私のお友達。よろしくね』

あれ?
なんで私の思ってることが分かったのかな?
少女が笑顔というものを作る
笑った顔。
ニコニコした顔。
分からない…でも、なんだか暖かい



『ありがとうございました~』

あの人の声が聞こえなくなった
それに景色が上下に揺れる
そして見たことのない景色が広がる
たくさんの人、たくさんの建物
見たことのない物がいっぱいあった

そうだ
私は買われたんだ
この少女に買われたんだ
やっと私は使われる
私は立派な人形だよね?

『ねぇ、メディ?』

私を買った少女がまた視界いっぱいに広がる
メディ?
誰の事なのかな

『えっと……メディスン。メディスン・メランコリー。あなたの名前だけど駄目かな?』

困った顔をしながら見つめてくる少女
私の名前?
この少女がくれた私の名前

――メディスン・メランコリー

という事はこの少女が私のご主人様だ
私はこれからご主人様に使われる人形
名前を付けられた主人についていく
メディスン・メランコリー…聞いたこと無い名前
私だけの名前…

『良かった。あ、それとご主人様は禁止ね。
 私の名前はリーナ。リーナ・アイゼンベル。』

リーナ…
それが私のご主人様の名前

『リーナって呼んでね、メディ』

主人の命令は絶対である
私の主人じゃなくて、持ち主はリーナ

『私たちはもう友達よ』

友達とリーナは言う
私は人形なのに…
でも、なんでだろう
初めて触れられた時みたいに暖かい



それから、私はリーナの部屋でずっと人形として使われるのを待っていた
でも、ずっとリーナに抱えられているだけだった
リーナは私で遊んでくれなかった
ただどんな時もリーナに抱えられ話かけてくるだけ
私が想像している人形とは違う
人形として使って欲しかった
それが私なんだから

『残念でした。私はメディのお友達。
 私はメディを友達としか思わないし、それ以外に思うつもりも無いわ』

そう思っているとリーナは必ずそう言う

『悪い友達に捕まったと思って観念しなさいね。メディ』

そして私の頭を優しく撫でる
私の事を決して人形とは言わないリーナ
暖かくて小さな手で何度も何度も頭を撫でてくれる
人形でしかない私
友達と言うリーナ
どっちが正しいんだろう
どっちも正しいのかな…

店の中の知恵しかもっていなかった私
リーナは私に色々な事を教えてくれた
本を読んで聞かせてくれたり歌を聞かせてくれた
私はいつしか人形に拘らなくなっていた

――ずっと一緒にいたい

リーナに純粋に思った
リーナはまた私の心が見えるかのように優しく微笑んでくれた
何も言わず頭を撫でてくれた
嬉しかった
その気持ちが心というのをリーナから学んだ

リーナとの生活はとても楽しかった
四六時中ずっとずっと一緒だった
朝の目覚めの時も、食事の時も、散歩の時も、お風呂の時も、叱られた時もず~~~と一緒に居た
リーナが笑えば、私も一緒に笑った
リーナが泣けば、私は一緒に泣いた
リーナが怒れば、私は相手を睨んだ
リーナが苦んでいたら、私は励ました
喜びも、悲しみも、怒りも、苦しみも全部半分ずつ分けあった
リーナと私は二人で一つだった

手を動かしリーナに触れたい
足を動かしリーナと並んで歩きたい
口を動かしリーナと話したい
日に日にリーナの事しか考えられなくなっていった
そう思うたびに心が苦しかった
人の形をしているだけの自分にそんな事出来ないはずが無かった
締め付けられたように苦しかった
そんな時もリーナは優しく頭を撫でてくれた
叶わなくてもいい
一緒に居られればそれでいいと私は心の底で願った
リーナと居る時、胸の奥が暖かくなるから
幸せだった…



しかし、その幸せは長くは続かなかった


夕暮れ時、お昼の散歩を部屋に戻ろうと私たちは階段を上っていた
その何時もの光景が何の前触れも無く崩れた

――バンッ

私たちが振り返って見た先には複数人の人
リーナが咄嗟に階段を上りあと一段という所で私は宙を舞った
壁にぶつかり床に落ちる私
その目の前には玄関に居た数人の男達がリーナを囲っていた
腕に持つ戦の道具と学んだ銀色の剣が握られていた

『悪いな、譲ちゃん』

ザク…

『!!!』

振り下げられる銀色の剣
リーナの声が、悲鳴が聞こえる

――リーナ!!

怖かった
何が起きてるのか分からないけど怖かった
だから叫んだ

――ベルさん!
――ベルさん!居ないの!

ザク、ザク…

『!……』

その間、男達は銀の剣をリーナに突き刺す
何度も何度も…
赤い血があっという間に広がっていく

――誰か!誰か居ないの!!!

リーナが言ってた
それがいっぱい流れると死んじゃうって言ってた
だから何度も叫んだ

――リーナが、リーナが死んじゃうよ!!!
――ベルさん!誰か!
――リーナを助けてよ!!!

ザク、ザク、ザク…

必死になって叫んだ
何度も何度も必死になって叫んだ

――誰か、助けてよ!!!

ザク、ザク、ザク、ザク…


ザク、ザク…









――リーナ?

男達は何事も無かったかのように帰っていった
本当に何事も無かったかのように血塗れのリーナを置き去りにして帰っていった

――ねぇ…リーナ…

動け動けと何度も願った
リーナの元に行きたい
ただそれだけを思い何度も願った
人形である私が動けるはず無い
それでも願わずにいられなかった

――リーナってば…

人形であることが悔しかった
何も出来なかった自分
ただ見ていることしか出来なかった自分
胸が引き裂かれそうなほど痛かった






XX月○○日

アイゼンベルの政治方針に不満を持った反乱組織がアイゼンベルの家を奇襲
警備兵12人と、議長の娘リーナ・アイゼンベルを殺害後、逃亡
明後日、北東のアイルの空き家に潜伏していた所を逮捕
近日中に公開処刑を予定する次第――




ベルさんに抱えられて立つ窓際からは中庭が見える
黒い服を纏った人がたくさん並んでいる
その中、数名の人によって運び出される黒い棺桶
昨日まで一緒に居たリーナを乗せた棺が私から遠のいて行く
私を抱くベルさんの腕が痛かった

ベルさんはその光景を最後まで見ず、私を連れ家を出た
普段一人で歩くことの無いベルさんは誰も連れず、寡黙に歩く
道幅は徐々に狭くなり、道とは呼べなくない物となってきていた
それでも、ベルさんは歩き続けた

『リーナが好きだったんだ』

その一言はベルさんの普段の雄弁な声ではなかった

そして、私はここに置いてかれた
リーナの部屋のように白い鈴蘭の丘へ
捨てられたとは違う優しく、丁寧に鈴蘭の中に置いてかれた
ベルさんはごめんなとだけ言って去っていった

残された私の目に飛び込んできたのは青い空
初めて見たあの青いと同じ青い空が広がっていた
何処までも何処までも青い空
眩しい太陽
形を変えながら移動するわたあめの様な雲
風が鈴蘭を散らせる
鈴蘭はゆらゆらと舞いながら私の上に舞い落ちる
白い花びらの中に埋もれていく私
優しく包み込むようにゆっくりゆっくりと埋もれていく
鈴蘭の一部になるかのように鈴蘭の下に埋まっていく
埋まるのではなく、入り込んできているのかもしれない
鈴蘭がゆっくりと私の上に、私の中に入っていく
意識を白く犯してながら入ってくる
真っ白な穢れを知らない鈴蘭の花の中に私は埋もれていく


――ベルさんの優しい眼差し

――血まみれで倒れるリーナの姿



全部埋もれていく



――いつも一緒に寝た夜の思い出

――池に落ちてベルさんに怒られた思い出

――本を読んで泣いた思い出

――二人で話した楽しい思い出



リーナと過ごした日々の思い出も埋もれていく
何もかも白く埋もれていく



――優しく髪を撫でてくれた手の温もりも

――私に名前をくれたリーナ

――少女に抱かれながら見た初めての町並

――初めて抱えられた少女との出会い



「   」との出会いが消えていく



――私に色々教えてくれた店の人



目に熱いものが込み上げ溢れ出す
「 」と言われるものであろうか
その「 」が何であったかも思い出せない
埋まっていく…何もかも鈴蘭の下に埋まっていく
怖くも悲しくもないのに「 」だけは止まらない
止まらないよ…
止まらないよ…
止まら…



――初めて見た青い空と海



悲しい思いでも楽しい思いでも全て優しく包む純白の鈴蘭
白い白い鈴蘭だけが丘の上に広がっていた

――さわさわ



 *



「スー…さん?」

体をくすぐるように揺れる鈴蘭。
いつの間にか眠っていたらしく辺りはすっかり夜の帳を下ろしていた。
月明かりの中、鈴蘭だけが静かに音を奏でる。

――さわさわ

メディスンを包むように揺れる鈴蘭。
母親のように優しく優しくメディスンを愛しむ。
触れる鈴蘭が何故か暖かかった。
実際は暖かくないのだが胸の奥底が暖かかった。

「あ…あれ?」

頬を伝う一筋の雫。
月明かりに照らされ頬を伝い、光の筋となって流れ落ちる。
手で拭っても次から次へと溢れ出す涙。

「スーさん、私壊れちゃったのかな…」

零れ落ちた涙は服に大きなしみを作る。
手でごしごしと拭った目は兎の目のように真っ赤であった。
それでも涙は止まらない。
数十年、数百年の思いが溶け出すかのように流れ続ける。

――さわ

そんなメディスンをあやす様に揺れる鈴蘭。
淡く光る鈴蘭はただメディスンを優しく包む。
言葉に出せずともメディスンを思うように揺れる。
直向に彼女を思う淡く輝く鈴蘭の花。

「スーさん、スーさん……」

堰を切ったかのように泣き出すメディスン。
遠い遠い昔の誰かが、名前も思い出せない大切な誰かが目の前に居た。
姿は見えなくても確かに其処にいる。
暖かく包んでくれる鈴蘭の中に


――さわさわ


(メディスン、ずっと会いたかった…)




遠い遠い昔と変わらず、少女はメディスンの頭を優しく撫で続けた。
いつまでも、いつまでも…




――さわさわ










  鈴蘭に取り付いていたのは遠い遠い昔の――


某ゲームで影響のせいか、鈴蘭が好きなク~にゃんです。
書いてて思ったのは、とにかく動かし難いと感じました。
絡みというか設定が少ないというか…私だけですね。
メディスンは個人的に好きなのでまた機会があったらっと。

文がかなり怪しいのご指摘の方お願いします。。
ク~にゃん
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