Coolier - 新生・東方創想話

紅の魔女

2006/05/03 01:42:35
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諸注意:少し自分なりの設定が含まれています。ご注意ください。




























ここは少し昔の紅い悪魔の館。

まだ、門番も、完全で瀟洒なメイド長も居なかった頃のお話です。












忌まわしき陽が落ちた後、館の主は目を覚ました。

主は大変に可愛らしい幼い少女の姿をしていたが、
背より伸びる二対の蝙蝠の羽が、下等な人間とは違う
高貴な種族であることを高らかに告げている。


主の名は「レミリア・スカーレット」
運命すら操る、紅の悪魔である。



「ふぅ・・・今日も面白そうな運命は見えない。
いつも通りの退屈な日になりそうね」

レミリアは目を覚ました後、すぐにその日の運命を辿った。
いつから、今日という日の運命を見始めたのかは覚えていない。
毎夜目を覚ますとその日の運命を辿り、
何か興味を惹くものは無いかと調べるのが習慣となっていた。

不死とまではいかずとも、吸血鬼の寿命は大変に長い。
幼き頃は見る物全てが楽しく、興味惹かれるものばかりであったのだが
それも100年200年のこと。
今となっては、自分の興味を惹くものを探すことの方が大変になってしまった。

レミリアは、その身に対して明らかに不釣合いな大きさのベッドから降り立つと
今日もスカーレットの名に恥じることのないよう、その身を美しきドレスで包み込んだ。


レミリアが暮らすこの館、他の人妖は畏怖と敬意を込めて「紅魔館」と呼んでいる。
現在、紅魔館には主のレミリアとその妹であるフランドール・スカーレット。
身辺の世話をする数名のメイドが暮らしている、一般的に見て少々小さめの館であった。

妹は幼き頃、生まれついて持っていた余りにも大きな力を暴走させた。
その力は周囲に多大な被害を与え、また、自身もその力にひどく怯え心に傷を負った。
以来、封印の施された暗い地下室で妹は一人暮らしている。
望まずして持ってしまった忌まわしき力を、自身の力で制御できるようになるまで。

故に、自分と対等の「家族」と呼べる者は居ないに等しかった。

過去に家族と呼べた者達は居たが、姉妹が幼き頃に既にこの地を離れている。
年月の経過と幼き頃の記憶という事も相まって、その記憶はほとんど無い。
しかし、残された資産とメイド達のおかげで暮らしに何ら支障は起きなかった。

過ぎ行く日々を、只々自身の気が赴くままに暮らす。

この生活に不自由は無かった。
ただ1つを除いて。


「あ~、何か面白いこと無いのかしら・・・。
今日も昨日も一昨日も、テラスで紅茶を飲みつつ月を見上げる。
これはこれで一興だけど、日常の中に何かこう刺激が欲しいわね」

「欲求不満、といったところでしょうか?お嬢様」

紅茶を飲みつつ、意識せずとも口から漏れ出てしまった言葉に対して一人のメイドが答える。
ポットを手に主の後に仕えるのは、紅茶の淹れ方が気に入られたため
仕事が紅茶専門になってしまったメイドである。

レミリアは続ける。
「その言い方はあまり良くないけれど、そういったところね。
ねぇ貴方、最近何か面白そうなことは無いかしら?」

「そうですね・・これなどは如何でしょうか?」
主の要求に対し、1枚の紙片を差し出す紅茶メイド。

「これは?」
「新聞、という物だそうで、
その日その日の出来事を綴り皆に知らせるのが本来の目的だそうです。
只、これは天狗が書いた新聞なので中身をそのまま鵜呑みにすることはできませんが」

レミリアは「新聞」と呼ばれた紙を手にとって見てみた。
この紙の名前だろうか、筆で大きく「文々。新聞」と書かれている・・読めない。
字の読み方を聞くなど無知の証明である、と勝手に考え己の知識を結集させるも、
結局読めず少し顔をしかめてしまった。

まぁ気にしないことにし、書かれた文章を読み進めていく。

なるほど、様々な出来事が書かれている。
ただ、どの記事も明らかに脚色されたことが目に見えてわかり、読み進めていくうちに
大したこのない出来事だと判明する。

「それなりに面白くはあるけれど、私の興味を惹くまでは・・・?」
レミリアの視線は、ある1つの記事に集中した。




「魔女の悪魔狩り」




その記事は、「新聞」の隅の方に小さく書かれていた。内容は
「最近、幻想郷の悪魔を魔女が蹂躙しているらしいです。
悪魔の皆さん、御身体にはくれぐれもお気をつけて~。
被害悪魔のお名前は以下の通り。 ・・・」
といったものだった。

「蹂躙」と書かれているものの、せいぜい「いじめている」程度のことであろう。
ただ、被害に遭っている悪魔の名にレミリアは覚えがあった。
自分にはとても敵わないものの、
それなりに名前が知られている悪魔の名前が列挙されている。

「ふぅん、少しは面白いことが起きるかもしれないわね」
レミリアは柔らかく微笑むと、「新聞」をメイドへ渡した。
「この記事の魔女について、調査いたしましょうか?」
主の興味の対象に気づき対応しようとしたが、レミリアはそれを手で制する。
「貴方は普段通りの仕事をしていればいいのよ。運命は向こうの方から近づいてくるわ」
主の命を受け紅茶メイドは恭しく頭を下げるとポットを持ち奥へと下がって行った。


「私が操作するまでもなく、ね」
レミリアは何も無い中空で手をひらひらと動かしながら、
久しぶりの来客を楽しみに自室へと戻った。



被害を受けた悪魔の住居は線でつながり、その延長線は紅魔館へと伸びていた。












それから2日後の目覚め。
今日も運命の糸を辿り、その日が訪れたことをレミリアは知った。

ベッドから降りると、クローゼットの中からいつもよりも紅いドレスを選び出した。
来客に対して、スカーレットの名を冠する者として不手際の無いお持て成しをすべく。


レミリアが目覚めの紅茶を終えホールへと降り立つ、
と同時に一人のメイドが慌てた様子で駆け寄ってきた。
メイドらしくない、頭の白い三角巾と手に手に抱えた掃除用具一式から
掃除専門のメイドであることが一目でわかる。

「お、お嬢様! 敵襲です!!」

その報を受けレミリアは悪戯っ子のように笑みを浮かべたが、メイドにその真意はわからなかった。
「貴方達は下がっていなさい。私へのお客様だからね」
「しかし・・」と口に出すも、主の命は絶対である。渋々と掃除メイドは奥へと消えていく。
「あんまり汚さないでくださいね~~、後が大変ですから~~・・・」

残されたレミリアはぽつりと呟く。
「それは難しい要求ね・・」


その時、紅魔館の重厚な扉が大きな爆発音と共に砕け散った。
大量の扉の欠片と煙が立ち込める。
後ろの方から何やら
「あぁっ!!もう約束を破ってる・・・」
と掃除メイドの嘆く声が遠くに聞こえた。
そんな約束した覚えは無いんだけど・・と思いながら煙の中に目をこらす。

「貴方が、レミリア・スカーレットね?」

煙の中から現れた人影がそう言い放つ。煙が晴れていき、その姿が現れる。
それは自分と同じような帽子をかぶり、魔女がよく着るローブなのか、
それともネグリジェなのか判断に迷う服を着ている。
紫色の髪を風に揺らしながら、魔導書を構えている少女であった。

「あら、魔女っていうからにはもっとお年を召してるかと思っていたら
可愛らしい娘だなんて予想外の展開ね」

レミリアは抱いた印象を素直に口にした。
「名前を聞く時は自分から名乗るのが筋だと思うけど、まぁいいわ。
私がレミリア・スカーレット。この紅魔館の主よ」
レミリアはドレスの裾を摘み上げると、上品に一礼した。

「・・私はパチュリー・ノーレッジ、悪いけど貴方を倒させてもらうわ」
パチュリーと名乗った少女は淡々と告げる。

「穏やかじゃないわね、扉を壊した時点で穏やかじゃないのはわかってるけど」
「貴方は倒れて、私の知識の一端になるのよ」
笑みを浮かべながら話すレミリアと、無表情のままのパチュリー。

「最近、悪魔をいじめている魔女が現れている
と聞いたけれど、それは貴方のことかしら?」
「えぇ、そうよ。でも、いじめているという表現は合わないわね。搾取してるのよ」
一応の確認を取ると共に、新たに生じた疑問をぶつけてみる。
「搾取?生活に困って追い剥ぎでもしてるの?」
質問に対し、少女は笑いながら答えた。
「追い剥ぎですって?そんなことしなくても生活していけるわよ。
まぁ・・それに近いことをしてはいるけどね」
少女は気になる言葉を放つと、レミリアの質問が発せられる前に答えた。
「私は、悪魔の持っている知識を搾取しているのよ。
長い年月を生きた悪魔の知識は膨大だから、魔法を使ってその知識を頂いているの。
まぁ、大人しく知識を与えてくれるような悪魔はいないから
少しばかり強引な方法になってるかも知れないわね」

面白いことを言う娘だ、とレミリアは思った。
悪魔を倒して溜め込んだ財宝を頂く、という話は今までに何度も聞いたことがある。
しかし、悪魔を倒して知識を頂くなんて聞いたことがない。
レミリアは珍妙な目的を掲げる目の前の少女に対し興味を抱いた。

「で、今度は私の知識を頂こうと?」
「400年以上生きている悪魔なんて、紅の悪魔以外はそうそう居ないわ。
その知識の量も今までの悪魔の比ではないでしょう、楽しみだわ」
そう言うと、少女から陽炎のように魔力が揺らめきながら立ち昇り始めた。
お話はここまで、後は実力行使というわけだ。


目の前の少女から感じられる敵意と強大な魔力に、レミリアは自分の運命に感謝した。
「パチュリーだったかしら?ありがとう」
「・・?」
「貴方のおかげで、今日は退屈せずに済みそうよ」
「ふざけたことを・・そんな世迷言を言ってられるのも今のうちよ!!」
レミリアは挑発したわけではなく、純粋に感謝の意を表しただけだったのだが
パチュリーにとっては自分がからかわれているとしか受け止められなかった。
魔導書を構えたまま懐から、己の魔力が注ぎ込まれたスペルカードを取り出した。
スペルカードに描かれた文様が赤い光を帯び、視界を包む。




臨界点を越え、空間が歪んでいく。
世界から少女達の周囲の空間だけが隔離されていく。




パチュリーの周囲の空気が揺らぎ、気温が急激に上昇する。
一つ、また一つと空中にパチュリー自身の身長を越える程の大きな炎の塊が現れる。
「まずは小手調べ程度にしてあげるわ、火符 アグニシャイン!!」

次々と現れる炎が交錯し、レミリアに向かって左右から炎の塊が唸りを上げて迫ってくる。
当たったら熱そうだなぁ、などと考えながら炎と炎の隙間を己の翼を使い俊敏に駆け抜ける。
炎の塊は途切れることなく迫ってくるが、それぞれの間隔が十分に開いており
「避けてください」と言っているようなものだ。

「私を相手に小手調べなんて必要無いんじゃないかしら?
これじゃあ髪の毛一本も燃やせないわよ」
余裕の素振りを見せるレミリアに対し、
パチュリーは軽く鼻で笑うと次のスペルカードを取り出した。
スペルカードの文様は、黄色く光り輝いている。
「じゃあ要望に応えて少しレベルを上げましょうか、木&火符 フォレストブレイズ!」
宣言と共に、先ほどから続いていた炎に加わるように木で出来た槍状の物が多数現れた。
アグニシャインの炎を受け、後発の木槍は燃え盛る槍となりレミリアに襲い掛かる。


レミリアは驚きを覚えた。
パチュリーの手には、先ほど放たれた赤い文様のスペルカードに加え、
黄色い文様のスペルカードの2枚が握られている。
「合成術、それも符の属性を組み合わせて効果的に使えるなんて、なかなか高位の魔女みたいね!」
そう言い放つと、対抗すべく自身もスペルカードを取り出す。
レミリアの前面には森林の大炎上を思わせるほどの炎の波。
その奥からは、炎に隠れながら燃える槍が迫ってくる。

取り出したスペルカードには、地獄の一風景を思わせる世界が描かれていた。
「・・獄符 千本の針の山」

レミリアがスペルカードをそっと口に近づけ、呟くと同時に手を振りかざす。
振りかざした先、そこに咲いたのは美しい銀の花。
花はすぐさま散り、花びらを構成していた銀が冷徹な輝きを持って飛び交っていく。
炎の波と燃え盛る槍の、横に広い攻撃に対し
銀の花は1点に集中し、迫りくる炎を貫き、槍を砕いた。

炎を貫いた銀の花は、勢いを殺しながらもパチュリーに襲い掛かった。
予想外の反撃で初動が遅れ、パチュリーの体が銀の花に抱かれる瞬間、
手に持った2枚のスペルカードが犠牲となり銀の花を相殺した。

「くっ・・!まだまだよ!!」
パチュリーは合成スペルを破られたことと、
攻撃を受けてしまいそうになったことに自身の読みの浅さを後悔した。
「どうやら、手加減しているようじゃあ勝ち目は見えてこないようね・・」
「今頃気づいたのかしら?知識を求めているにしては調査不足ね」
レミリアは両手を軽く上げやれやれといった格好を取るが、その姿はパチュリーの目に入らなかった。
「・・少し本気でやってあげる、誇りに思っていいわよ」
「それはそれは光栄ですわ」
軽くあしらうレミリアに対し、パチュリーは再びスペルカードを抜き放った。
カードの文様は蒼く蒼く、深い海を思わせた。


「災害 ノア」


宣言が終わるより早く、轟音と共にレミリアの周りを囲むように巨大な水流が立ち昇った。
幸い水流は自分に襲い掛かってきてはいないが、
目に見える範囲全てが水流で覆われているというのはあまり宜しくない。
「吸血鬼は流れる水を渡ることができない、貴方はこの窮地をどう対処するのかしらね」
見上げると、ノアの箱舟と言うには余りに小さな木箱にパチュリーが乗り、
水流に漂いながら木箱の中からこちらを見下ろしていた。

「ふふ、まるでダンボールに入れられて流される子猫みたいね」
木箱の縁を両手で掴みこちらを覗いている姿はまさに表現通りだった。
「よくもまぁそんな呑気なことを・・動きを封じるだけの水流だと思わないことね」
パチュリーがスペルカードに魔力を込めると、
それまでレミリアの周りに立ち昇っていただけだった水流
が動きを変えた。水流の壁の一部が揺らいだと思った
次の瞬間、水流がレーザーのようにレミリアを襲った。

「ちっ、やってくれるじゃないの!」
突如の攻撃を紙一重で避けたものの、水流のレーザーは次々とレミリアの周囲から放たれる。
・・これは少々まずい。
パチュリーが言った通り、悔しいが私は水の流れを渡ることができない。
吸血鬼はこういうところが不便だ・・。
しかも先ほどから襲って来ている水流のレーザー。
威力もさることながら、水を浴びてしまったら私の魔力が急激に奪われてしまう。
立ち昇る水流の壁により、周囲を囲まれてしまっていることで行動が制限されているのも痛い。

試しに頭上に見えるパチュリーに掌を向け、魔力弾を放つ。
普段ならば、これだけで並の妖怪共は消し飛んでしまう程の威力を持っているのだが
水流に入った瞬間、私の込めた魔力が飲み込まれ消えてしまった。
やっかいなスペルだ、つい舌打ちをしてしまう。
その舌打ちが聞こえたかのように、上方のパチュリーは含み笑いを洩らす。

仕方ない、一か八かだがこのまま何もせず水を浴びてしまうよりはマシだろう。
レミリアはそう思い立つと、紅いスペルカードを取り出した。

パチュリーはその動きを確認したものの、この状況で何をしようとするのか興味を抱き、
少し動きを観察することにした。
取り出されたカードに描かれたのは、紅色に輝く神の槍。

「神槍 グングニル!」
レミリアが宣言すると、レミリアの右手に強大な魔力が集まり紅く輝き始めた。
そう見えたのも一瞬のことで、次の瞬間レミリアの右手には巨大な紅い槍が握られていた。

まずい!
パチュリーはその槍の威力に気付き、すぐさま水流のレーザーを最大限に発動させた。
まさかこれ程の物を持っているとは。
先刻の興味本位で観察しようなどとした自分を呪った。

滝のような水流がレミリアを飲み込まんと襲い掛かる。
それを避けようともせず、レミリアは口元に怪しい笑みを浮かべると
右手に握った紅い槍をパチュリーに向けて振りかぶった。

紅い槍は自身の強大な魔力と紅い吸血鬼の身体能力を受け、尋常ならぬ速さで飛んでいく。
鋭い槍の先端はその速さから衝撃波を発し、水流のレーザーを触れることなく消滅させていく。
パチュリーとレミリアとの間には分厚い水流の壁があったが、
最初から何も無かったかのように槍は壁を貫いた。

「・・!!」
先ほどの銀の花程の威力ならばスペルカードを相殺させることで回避することができただろう。
だが今回のモノは威力の桁が違いすぎる。
自身の発動しているスペルカードもかなり高位の物だが、相殺させるにはとても足りない。
物理的に避けるにしても、あの速さでは意味を成さない。
パチュリーは下方から迫る槍を止めることも避けることも出来ぬと知ると、
自身を貫く衝撃に怯え目を瞑り身を強張らせた。





自身を貫く衝撃は、訪れなかった。
代わりに、木箱の側を轟音が通過していく。
その後間を置かず、神槍の引き起こした猛風と魔力の奔流に木箱ごと跳ね上げられた。
「きゃあぁぁぁ!!」
すぐさま周りに魔力を制御させ、空中での姿勢安定を図る。
姿勢が安定したところで、どこにも水流が見当たらないことに気付いた。
先ほどの魔力の奔流の勢いで、スペルカードが破られてしまったようだ。
下を見ると、羽をぱたぱたと上下させ楽しんでいるような表情を浮かべる悪魔の姿があった。

「さて、これで終わりなんて言わないわよね?」
パチュリーは服装を整えるとレミリアをじと目で睨み付けた。
「使おうとは思っていなかったけれど・・仕方ないわね。
大人しくやられてくれない貴方が悪いのよ?」

随分と勝手なことを言ってくれるとレミリアが思っていると、パチュリーは魔導書を掲げた。
掲げた魔導書は、今まで構えていた魔導書とは違う物のようだ。
先ほどまではごく普通の物だったのに対し、今持っている物は
黒い表紙に金属製の縁が付いた随分と高価そうな魔導書。

それだけなら良かったものの、最たる違いが、離れていても分かる。














あの魔導書は

この世に存在してはならぬ物だ













「・・ちょっと、それはさすがにまずいんじゃないかしら?」
今までの楽しんでいた表情から一変し、レミリアの表情に焦りの色が現れる。


過去に一度、あの魔導書の話を聞いたことがある。


自分が生まれるよりもかなり昔の話。

一人の人間が、どのような経緯かは不明だがその魔導書を手に入れた。
ただの人間にその危険性がわかるはずもなく、興味からその魔導書を開いてしまった。
魔導書から現れたのが何なのか、誰一人として知る者はいなかったが


世界の半分が、死に包まれた。



レミリアは面白くもない御伽噺だと思ってはいたものの、
実際にその物を見てしまうと話が違ってくる。
聞いたことがあるだけだから、実物を見たことは無いはずなのに
あの魔導書からは、そこに存在しているだけでその禍々しさが頭が痛くなる程に伝わってくる。

「パチュリー、貴方その魔導書が何なのか知っているの?」
「えぇ知っているわ。知っているからこそ、所持しているのよ」
魔導書から離れている私でさえ辛いのだ、パチュリーの負荷の大きさは予想を軽く越えるだろう。
しかしパチュリーは意に介した様子も無く、言葉を続ける。
「あれは、開いたのが人間だからいけなかったのよ。人間なんかに制御できるはずがない。
あの話は只の失敗談。制御できれば何も問題無いはずよ」

レミリアは制止を呼びかけるも、パチュリーの耳には届かない。
魔導書を両手で頭の上に掲げ、開かれた。

魔導書から光が溢れ出る。




レミリアは盛大な光に目を瞑ると同時に嫌な感覚を覚えた。この感覚は太陽の光に似ている。
ただ、あの苦手な太陽の光の数十倍、数百倍は忌々しさが滲み出ている。
太陽の光と違い、体組織が崩壊しないことがせめてもの救いか。

目を開けると既に眩しい光は無かった。
代わりに、魔導書の上方に黒い球状の物が見える。

球状の物は、光を放ち続けていた。
眩しい白の光ではなく、終わりを告げるような暗闇の光を。
その光を見つめていると、パチュリーの口が動いた。


「冥符 ロイヤルダークフレア」


成る程、あれは小さい太陽らしい。
違うことと言えば、生物にとって太陽は生の象徴であるのに対し、
あの黒い太陽は死の象徴ということだろうか。

そんなことを考えていると、突然黒い太陽が動きを見せた。
変に歪んだ瞬間、黒い炎の塊が飛んできた。
「くぅっ・・!!」
速さも威力も、最初に見たアグニシャインの比では無い。
咄嗟に障壁を展開させ全力で防御行動を取ったものの、
黒い炎は障壁を越えて体を蝕み、衝撃で体が跳ね飛ばされた。

吸血鬼の再生能力で体は再生できるものの、
一発でこの威力では何度も食らってしまえばさすがにまずい。
あの太陽自体が黒い光を発しているため、その中を飛び交う黒い炎はほとんど目視で確認できない。
まずはこの状況を打開しなくては話にならないようだ。
「ふん、私も本気でやってあげるわよ!」

懐より取り出したスペルカードは、今まで見たことが無い程に紅く染まっていた。


「紅色の幻想郷」


世界が紅色に塗りつぶされていく。
黒い太陽の光までも塗りつぶさんと迫る紅色によって、黒と紅の拮抗が訪れた。

「これで炎の軌道は見えるわね・・」
紅と黒に染まった不可思議な世界の中を黒い炎が飛び交ってくる。
目に見えれば避けることはできるものの、数と速さが相当なもので困難を極める。
しかも・・
「・・ちょっと困ったわね」

レミリアのスペル発動と共に、紅く染まったナイフが幾本もパチュリーに向けて放たれていた。
そのままパチュリーを貫こうとナイフは速度を増しつつ飛んでいた。
しかし、ナイフは突如軌道を変え黒い太陽に飲み込まれてしまった。
軌道が変わったのでは無く、強制的に変えられたようだ。あの太陽に吸い寄せられるように。

どうしたものかと炎を避けつつ攻撃を仕掛けるも、次々と黒い太陽に飲み込まれていく。
その時、パチュリーが急に咳き込んだ。
「ゴホ、ゴホッ・・」
咳き込むと共に、その口から血が飛び散る。

「ちょっと貴方!その太陽に命を削られているわよ!!
そこまですることないでしょう!?」
炎を避けつつ、少しずつパチュリーに近づきながら叫ぶ。
その顔が見え、レミリアは驚いた。

パチュリーは目尻に涙を浮かべながら血を吐いていた。
「ゴホッ・・私も、止められるなら止めてる、わよ・・
出した時から、止めなきゃって思ってはいたけど・・ゴホッ
もう自分の力じゃ、どうにもならない、みたい・・」

そう言うと、パチュリーはレミリアに向けて申し訳なさそうな表情をしながら言葉を続けた。

「貴方の力を見誤るばかりか、自分の力まで、把握できてない、なんてね・・
その結果、こんなことになるなんて・・ごめんな・・さい・・」
パチュリーは謝罪の言葉を終えると、諦めるように目を瞑り涙が零れ、また血を吐いた。

「勝手に来て、勝手に暴れて、そんな無礼極まりない人にはそれ相応のお仕置きが必要よ!
勝手に居なくなろうとしても、そんなこと許さないわ!!」
レミリアは歯を食いしばると、更にパチュリーに近づくために速度を上げた。
パチュリーの意識は既に消えかけているが、
そんなことお構い無しに黒い太陽はその活動を続けている。

「いい加減おいたが過ぎるわよ。死の象徴だか何だかしらないけど、
私に対する狼藉は許されることではないと知りなさい!!」
迫り来る黒い炎を魔力を用いた急制動の飛行で避けながら
パチュリーの頭上、黒い太陽の上へと飛翔する。
その手にスペルカードを抜き放ちながら。


「紅魔 スカーレットデビル!!」


レミリアを中心に、巨大な十字の業火が立ち昇る。
業火の十字架の先端が黒い太陽に突き刺さると同時に、黒い太陽はそれを飲み込み始める。
「私の力を飲み込もうと言うのか?面白い、飲み込めるものなら飲み込んでみろ!!」
レミリアは黒い太陽の動きを確認すると、スペルカードに込める力を更に強めた。
カードに描かれた文様、紅い十字架が眩い程に光を強めると、
レミリアの纏った業火も更に勢いを強める。
黒い太陽は業火を飲み込みながら、その体を肥大させていく。

業火の十字架の先端に刺さる形となった黒い太陽は、
ギシギシと異質な音を上げながら大きさを増す。
業火を放つ魔力の源は、限界まで力を込める。
「世を破滅に追い込む死の太陽!その娘を解放しろ!!」
叫ぶと同時に、業火の勢いが今まで以上に盛大になる。
強大すぎる業火を飲み込みきれず、黒い太陽から悲鳴のような音が上がり
ひび割れにも似た線が幾重にも走る。

その時

十字の業火の勢いが急速に衰え、消えていく。
限界を超え酷使されたスペルカードは、その魔力に耐え切れずに灰に帰そうとしていた。
業火が治まり、レミリアは一人空中に取り残された。
黒い太陽は自身の勝利を確信し、限界に肥大した体から黒い炎を再び吐き出そうとした。




黒い太陽から生ずる異質な音以外の音が、この空間内に響いていた。



それは黒い太陽のすぐ側、音の発生源は黒い太陽へと少しずつ近づいていた。
紅い魔弾を自身の周りに大量に纏いながらゆっくりと進む血のように紅いナイフ。
レミリアの持つ灰と帰したスペルカードの影から、2枚目のスペルカードが覗いていた。


「呪詛 ブラド・ツェペシュの呪い。
 紅の吸血鬼の力、とくとその身に受けなさい」


紅いナイフが黒い太陽に飲み込まれる。
内部からナイフが爆発し太陽の内側から集約された魔力が一挙に開放された。

黒い太陽は奇妙な音を立て一部が大きく歪み、幾重にも走っていた線が亀裂に変化していく。
亀裂が大きくなり別の亀裂と繋がり、またそこから亀裂が大きくなる。
亀裂の連鎖が続き、黒い太陽はその身を幾重にも裂かれた。
太陽が切り裂かれたと同時に黒い魔導書は燃え上がり、地へと落ちその身を横たえ朽ちていく。
魔導書の束縛から解放されたパチュリーの体も地へと落ちていく。

パチュリーの体は地に落ちなかった。その体はレミリアにより受け止められていた。

「終わったわよ、パチュリー」
そっと地面にパチュリーを降ろし声をかけるものの、意識は戻らない。
吐かれた血はかなりの量だ、
このままではパチュリーの命の灯火が消え去るのも時間の問題だろう。
レミリアはすっと目を細め、パチュリーにつながる運命の線を見やる。


これが黒い太陽を呼び出してしまった影響なのだろうか、
驚く程パチュリーの運命の線は死につながる物ばかりである。
死につながる運命ばかりが見えてしまい、生き続ける運命が見えてこない。
「普段はこんな使い方しないけれど・・今日は特別よ」
そう言うと、レミリアは自分の指に力を込める。指が魔力を纏い紅く光る。
その指でそっと線に触れると、触れた運命の線がぷっつりと切れ、消えていく。

そうして死の線を除去していきようやく、生きる運命が描かれた細い細い線を見つけた。
今まで切ることに使っていた指でその線を優しく摘むと、その線に魔力を込め太く強くしていく。

「さぁ、貴方の運命は変わったわ。
知識を求めて止まないのならば、生きて生きて、生き続けなさい」






世界から隔離されていた空間が徐々に戻り、見慣れた紅魔館のロビーへと風景は移った。
「ふぅ・・」
レミリアは息を吐き出すと、体に重く圧し掛かる倦怠感に身を任せた。
「ちょっと力を使いすぎたかしら・・後はお願いね・・」

そのまま倒れこもうとする体を、横合いから駈け付けた手が受け止めた。

「はい、お嬢様」
「こ、この惨状は・・今日は徹夜で掃除しなきゃ・・サービス残業・・・」
「・・・」
「・・・」
何か色々と聞こえてきてはいるものの、返答している余裕も無い。
今はこのまま、意識を途絶えさせて楽になろう・・





















目を覚ますと見慣れない天井が見えた。
自分の家じゃない?ここはどこだろう・・
そんなことを考えながら体を起こそうとして力を込めた瞬間、体に激痛が走った。
「いたたっ・・!」

「あら、お目覚めのようね」
体を起こすのを諦め、声のした方へ視線を向けると
そこには自分と戦っていたはずの吸血鬼の姿。
「あ、貴方何でここに!というかここは何処!?」
目覚めて最初に見た顔が吸血鬼、何だこれは、罰ゲームか。
「何でここに、って酷いわね。ここは私の館なんだから
私が居たって何も問題無いはずだけど?」
吸血鬼の館・・?
話しやすいよう、痛む体に鞭打って上半身だけでも起こしてみる。
そうか、私はこの吸血鬼の知識を奪いに来たんだっけ。
色々と戦って、使ってはいけないと言われていた魔導書も使って・・・って

「あの魔導書はどうなったの!? というか、私生きてるの??」
「はぁ・・知識を求めるのは良いけれど質問だらけね。相手から奪うばかりじゃなく、
たまには自分で考えてみたら?」
目の前の吸血鬼、レミリアといったか。
レミリアは呆れたように溜め息をつきながらも一応答えを返してくれた。

「あの魔導書は私が燃やしたわ、もう無いわよ。
貴方は生きてる、せっかく私が操作したんだから死のうなんて考えないでね」
魔導書は無くなってしまったのか、少しもったいない気はしたが
危険性を十分味わったのだからもういいだろう。
それより気になるのは後者の言い分だ。
「貴方が操作・・?一体何をしたのよ」
「貴方の知識の中に私に対する知識は無いのかしら?私は運命を操る紅い悪魔、
貴方の死につながる運命を切り捨て、生きる運命を強くしてあげたのよ」
そう言うとレミリアは腰に手を当て、胸をそらした。
自慢しているつもりなのだろうか?その平らな胸をそらしても悲しくなるばかりだが。

だが、自分を死から救ってくれたのは紛れも無く目の前の紅い悪魔なのだろう。
「そうだったの・・・ぁ・・ありがとう・・」
普段使い慣れていない感謝の言葉を述べると、レミリアはちょっとばつの悪い顔をした。
「ん~・・まぁ、ちょっとした不具合も起きたんだけどね」

・・不具合?ちょっと聞き捨てなら無い。
「い、一体何・・!ゴホッゴホッ」
突然軽い発作のようなものが起こり、咳き込んでしまう。
「命を救ったのは良いんだけど、ちょっとばかり面倒な運命を選んじゃったみたいでね。
貴方はこれから一生、喘息と共に生きていく運命にあるわ」
レミリアはちょっと困ったような笑みを浮かべ、頬をこりこり掻いている。
「な、何ですって!!今まで風邪にもかかったことのない私が、ぜんそ、ゴホッゴホッ」
言葉を言い切る前に喉が暴れだす。非常にやりづらい・・。

「まぁ、これから長い間よろしくね、パチェ」
「・・パチェって私のこと?って、これから長い間よろしくってどういうこと??」
パチェ、が私を指していることに気付くまで少し時間がかかってしまった。
しかし、これから長い間よろしくとはどういうことだろう?全く訳が分からない。
「あれ?さっき言わなかったかしら?
貴方はこれから一生、紅魔館で喘息と共に生きていく運命だって」
それはさっき聞いた・・って何か言葉が付随されてる!
「ちょっと、喘息だけでも辛いってのに、この館で過ごすですって!?」
「えぇ、だから面倒な運命を選んじゃったって言ったじゃない。
長い間一緒に暮らすんだから、略称で呼ばせてもらうわよ、パチェ♪」
目の前が暗くなる。
何て運命だ、あのまま死んでしまった方がまだ楽だったのではないだろうか。

「そうそう、パチェの死につながる運命はほとんど切っちゃったから、多分死ねないわよ」
レミリアは笑顔で死刑宣告を言い放ってくれた。


この紅魔館で一生を喘息と共に暮らす。

良いだろう、ならば・・
「・・わかったわ、仕方ないけどここで暮らすことにするわ」
「あぁ良かった、分かってくれたのねパチェ」
レミリアはニコニコこちらの顔を見つめている。
そんなに見つめられていては、こちらの方が照れてくる。
「その代わり!私が今まで行ってきた知識の搾取ができなくなるから、
何かそれに見合う物を用意してよね。例えば図
しばらく前からこちらで話を読ませては頂いていたのですが
今回初めて投稿させていただきます。

色々と書き方の不手際があるかと思います。申し訳ありません。



最後に

パチュ×レミもいいけど、やっぱり霊×レミが・・・
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コメント



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5.無評価名前が無い程度の能力削除
>色々と書き方の不手際があるかと思います。申し訳ありません。
謝る前に調べましょうよ。「小説 書き方」でググるとか。

そもそも、投稿ミスして気づいてないのは書き方以前の問題です。