Coolier - 新生・東方創想話

遅れて咲いた一つの嘘

2006/04/04 05:11:59
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「妖夢ぅ~」

「はい、なんでしょうか、幽々子様。まだまだ仕事が残っていますので用件は手短にお願いしますね」

「今日はあなたに幻想郷の秘密を一つ、教えてあげるわ」

「幻想郷の秘密ですか」

「ええ、そうよ。聞きたい?」

「ここで断っても憑いて回って言い聞かせる心算なんじゃないですか?」

「あら、よく分かってるじゃない」

「はぁ…… 結局断っても同じ事じゃないですか」

「細かい事を気にするのは器が小さい証拠よ」

「はぁ…… 左様ですか」

「実はね、幻想郷での地位は見た目で分かるようになってるのよ」

「そうなんですか?」

「例えば私と妖夢。服装を比べて御覧なさい」

「私は洋風の装いですが、幽々子様は和風の装いですね」

「いやいや妖夢。着眼点はそこじゃなくて」

「幽々子様は帽子を着用なさっていますが、私はリボンです」

「そこでもなくて」

「むぅ……」

「分からないの?」

「……恥ずかしながら」

「もう、しょうがないわねぇ。私の袖とあなたの袖、どちらが長いかしら?」

「幽々子様の袖の方が長いですね」

「そう、そこよ。袖とスカート丈の長さが幻想郷での地位を物語っているのよ」

「本当ですかぁ? 紅魔館のレミリア様は袖も丈も短いですが」

「アレは自信の器の小ささを無意識に自覚しているからああいう服装になったのよ」

「はぁ。確かにあのお方は忍耐と言う言葉に縁がないように感じますね」

「分かったかしら?」

「ええ、大体は。しかし、博麗霊夢はどうなるんですか? 脇を見せていながら長い袖を持っていますが」

「アレは例外。博麗の巫女は特殊な存在だから」

「あと、袖と丈の長さが一致していない場合はどうなるんですか? 例えばあの黒白魔法使いとか」

「丈は長いけど袖は短いわね。アレは限りない向上心を表しているわ」

「向上心ですか」

「かなりの力を有していながら現状に満足しない。いかにもな感じじゃないの」

「向上心なら私にもありますが?」

「あなたは現状がまだまだなのよ」

「やはりまだまだ精進が必要なのですね」

「当たり前じゃないの」

「逆に永遠亭の月の兎はどうなんですか?」

「アレは中間管理職を表しているわ。彼女は兎達のトップに立っているけれど、上には難しい性格をしたのが二人も居るし」

「確かにあのお二方は厄介な方達ですよね」

「他に質問はあるかしら?」

「いえ、特に何も」

「そう。じゃあ今日の復習よ」

「はい。幻想郷では服装がそのまま地位を表しています。初見の相手でもその服装からある程度の力量を測りとる事ができます」

「その判断基準は何かしら?」

「袖と丈の長さです。長ければ長いほど強力であるという事です」

「よろしい。それじゃあ仕事に戻ってくれて構わないわ」

「それでは失礼します」










「と、こんな風に上手く騙されてくれた訳よ。傑作でしょう?」

「はぁ、左様ですか。それで本日はどの様なご用件で?」

「紫にもこの話を聞かせようと思ってねぇ。ついでに紫がエイプリルフールにどんな嘘をついてのかも気になるし」

「幽々子。残念ながらエイプリルフールは一昨日よ?」

「……え?」

「可哀想にねぇ、妖夢も。だって終わった筈のイベントに引っ掛けられたのだもの」

「……紫様、家の中で位普通に登場して下さいよ」

「じゃあ私が普通に出てくるシーンを想像してみなさいな」

「「…………」」



『紫ぃー。お邪魔するわよー』

『あら、幽々子じゃない。どうしたのかしら?』

『久し振りに紫と一緒にのんびりとお茶を飲みたいかな、って思ったのよ』

『あら、私もそろそろそうしたいな、って思った頃だわ』

『あらあら。気が合うわね、私達』

『うふふふ、そうね』




「私の数少ない役目がっっ!!!」

「う~ん…… なんか調子が狂うわ」

「つまり今の状態が一番と言う事よ」

「ところでエイプリルフールが一昨日だったって本当?」

「そんなに気になるなら他の所にも回って御覧なさい」

「……どうしようかしら。あの調子じゃ本当に信じているし、エイプリルフールにネタだとも言えないわ」

「私に任せなさい。ちょっと境界をいじってやれば直ぐに解決よ」

「さっすが紫! 頼りになるわぁ」

「ただ妖夢一人しか知らないとなるとちょっと厳しいわね」

「分かったわ。あの手この手で私がこの話を幻想郷中に浸透させればいいのね」

「察しがよくて助かるわ」

「となるとあの妖怪兎にも手伝ってもらおうかしら」

「できるだけ一人でやった方がいいわよ? 語り手が増えればそれだけ話に多様性が出てきてしまうから」

「つまり口が堅そうで、騙されやすい人種を狙えと?」

「若しくは口が滑っても話半分で聞き流されそうな人種ね」

「分かったわ。それじゃ行ってくるわね」

「頑張ってねぇ」



「私は…… 私の存在意義は玄関口での応対しかないのか……?」

「あら、他にもあるじゃないの。式バカとかイリュージョンとか」

「式バカと言われても嬉しくありません…… それに紫様の方がより仰天イリュージョンです……」

「あら、藍にも私に勝るイリュージョンがあるじゃない?」

「……まさかアレの事ですか!?」

「どのアレかしらねぇ」

「慧音殿っ! 慧音殿は何処だっ! 今すぐ私の歴史を喰ってくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ふぅ、それにしても……私も少しぐらい世話を焼いた方がいいかしら?」









「さて、より多くの人を騙す必要があるのだけれど……誰から騙そうかしら?」

「全く…… てゐはどこに行ったのかしら」

「あれは…… 決めた。まずはあの子からね」



「あら、鈴仙ちゃんじゃない」

「これはこれは幽々子さん。どうしたんですか? こんな処で会うなんて珍しいですね」

「偶には冥界から出て散歩ぐらいするわ」

「それは壮大な散歩ですね。ところで妖夢さんはどうしたんですか? 見当たらないようですが」

「彼女は今、のっぴきならない事情があって手が離せないのよ」

「そうなんですか。妖夢さんも大変ですね」

「ところで最近面白い話を耳にしたのだけれど」

「へえ、どんなお話ですか?」

「何でも服装を見るだけで幻想郷での地位が判断できるらしいのよ」

「それは本当ですか?」

「どうかしらね。冥界には私と妖夢ぐらいしか判断基準がないから何とも言えないけれど」

「因みにどの様に判断するんですか?」

「袖の長さとスカート丈の長さよ」

「……は? シンボルの有無とかではなく?」

「ええ、シンボルとかは関係ないわ。単純に袖が長いか、丈が長いかだけよ」

「それでは私のように袖と丈の長さが一致しない場合はどうなるんですか?」

「あなたの様に袖の方が長い場合は上下関係に苦しむわね。所謂中間管理職みたいな」

「う…… 正にその通りです…… それじゃあ私とは逆に師匠みたいに袖の方が短い場合はどうなるんですか?」

「現状でもかなりの力を持っているけれど、まだまだ上を目指している向上心の塊みたいなものね」

「確かに師匠はまだまだ研究意欲が衰えていませんね。あれだけの研究をこなしたら萎えてもおかしくないはずですが」

「あ、そういえば何か探しているんじゃなかったかしら?」

「そうでした。てゐがまたどこかへ抜け出してしまったんで探している途中だったんですよ」

「引き止めてしまって悪かったわね。それじゃあ私は散歩の続きをするわ」

「ためになるお話を有難うございました。それではお気をつけて」

「あなたもね」




「ふふふ、この調子なら簡単に済みそうね。次はどこへ行こうかしら……」









「ぃよっしゃぁぁー! 大蝦蟇ゲットぉ!」

「あらあら、何時にもまして元気ねぇ」

「っ! あたいの背後を取るとは……やるわね、あんた!」

「いやいや、あそこまで隙だらけで何を言ってるの。それに私は亡霊よ? 気付かれずに背後を取るなんてお手の物よ」

「わかったわ! あたいの強さに恐れをなして取り憑こうって魂胆ね!」

「あなたに取り憑いてどうしろって言うの?」

「とりあえずあの真っ赤で目に悪いお屋敷を氷付けにしてあたいのお城にするのよ」

「私が取り憑いたらあなたのお城にはならないわ。それに私が取り憑いたとしても力は結局変わらないわよ?」

「うわぁ、あんたそれでも亡霊? 普通亡霊は取り憑いたらそいつの力を何倍にもするんじゃないの?」

「それは違うわ。普通の亡霊は取り憑いても特に何もしないものよ。肩に寄り掛かったりするぐらいで」

「ところで何をしにきたのよ? わざわざ話しかけたって事は何か用があるんでしょ?」

「そうなのよ。面白い話が聞けたから教えてあげようかと思ってね」

「面白い? それってどんぐらい?」

「幻想郷がひっくり返る位よ。いろんな意味で」

「そんなに面白いの?」

「見た目だけでその人の地位が分かるって言ったらどう?」

「あははは! あんたバカぁ? そんな訳ないじゃん!」

「ところがどっこい。そうでもないのよ、このお話は」

「……マジ?」

「マジもマジの大マジよ。例えばさっきの話で出たあの館の主の服装はどんなものかしら?」

「あいつがどうしたのよ?」

「いいからいいから」

「あたいみたいに涼しそうなカッコしてるわね」

「つまり袖は短く、スカート丈も短いわよね?」

「それがどうかしたの?」

「次は私の服装を見て」

「……暑苦しそうなカッコね」

「どう?」

「どう、って言われても……」

「まだ分からないの?」

「アレだけで分かるヤツの方がおかしいわよ」

「ふぅ、やはりあなたにも当て嵌まっていたわね」

「だから何なのよ!」

「平たく言うと袖とかスカート丈とかが長い方が凄いのよ」

「バッカじゃないの? そんな訳ないじゃん!」

「じゃああの吸血鬼の事をどう思っているのか教えてくれない?」

「ちょっとちょっかいを出したら直ぐに怒られたわ。あれよ……か、か、かり、かる、から……とにかくアレが足りてないわね」

「カルシウムね。つまり袖とか色々と短いから我慢が足りないのよ」

「……じゃあ何? あたいもアレと同じって事?」

「この程度で怒ったりしたらそういう事になるわね」

「……そ、そうよ。あたいはおとなのおんなだからこれぐらいどうってことはないわ」

「そうそう、その調子で頑張っていれば誰かがすんっっごくいい服をくれるはずよ?」

「そうよ、あたいはりっぱなレディだからものごとをながいめでみることができるのよ!」

「あらあら、そんなに立派なら私が仕立ててあげちゃおうかしら?」

「ふふん、見てなさいよ! あのお屋敷があたいのお城になる日も近いわ!」

「ここまで理解が早いなんて、さすがね」

「やっぱりあたいったら最強ね!」

「ええ、あなたが最強になる日もうんと近づいているわ」

「まずは蛙を100匹氷付けにしてやるわ!」




「ふふふ。やっぱりああいう単純な子は乗せるのが簡単ね。ここまで来たし、次はあの人かしら」









「こんにちは。調子はどうかしら?」

「あら、幽々子様じゃないですか。本日はどの様なご用件で?」

「いや、ちょっと面白い話を耳にしたものだから」

「それでは咲夜さんに取り次ぎますね」

「それには及ばないわ。だってレミリアが聞いたら怒り狂いそうなんだもの」

「はぁ、そんな話をこちらに持ってきた訳ですか」

「簡単に言うと話したくてしょうがないのよ。この話が本当なら大変な事だもの」

「へぇ、そんなに凄い話なんですか」

「そうよ。だからあなたにだけ教えてあげる」

「そんな凄い話を私にだけ教えてくれるんですか?」

「あなたにとっても暇がつぶせて一石二鳥だと思ったのよ」

「門番の仕事を暇だとか言わないで下さい」

「実際問題閑古鳥が鳴いてるじゃないの」

「……今日は平和な方ですからね」

「やっぱり暇じゃないの」

「ああ、もう暇と言うことにしておいていいですよ! その代わり話をしている間に黒いのとかが来たら手伝ってもらいますよ?」

「それぐらいお安い御用よ」

「で、どんな話なんですか?」

「それがね、服装でその人の地位が分かってしまうらしいのよ」

「本当ですか? 嘘くさいですね」

「私もそう思ったんだけど、頭の中で色々な人に照らし合わせるうちに恐ろしくなったのよ……」

「それは……本当ですか?」

「まず最初に比べたのは私と妖夢よ……」

「確かに冥界には比べられる人が他に居ませんからね」

「それは確かに当たっていた。ここで終わるなら偶然で済ませていたでしょうね」

「まさか……!」

「そう、そのまさかよ。次に思い浮かべたのはここ、紅魔館よ」

「それでどうだったんですか!?」

「明らかに人員が多いここでも当て嵌まってしまったわ……」

「……してその内容は?」

「服装で幻想郷での地位が分かる」

「……はぁ? もっと凄いものを想像していたんですけどねぇ……」

「あら、これはこれで凄いじゃない。初見で力量を判断できるのよ」

「ところでどういう風に判断するものなんですか? やはりそれを象徴する何かがあったりとか?」

「いやいや、そんなに難しいものではないわ。それにシンボルだって人によってまちまちじゃない」

「それもそうですね。それじゃあ何で判断するんですか?」

「袖とスカート丈の長さよ」

「あなたを見る限りでは長いほどいいという事ですか?」

「あら、察しがいいじゃない」

「はぁ、確かにこの話はお嬢様が聞いたら怒りますね」

「でしょ? だから私はあなただけに話そうと思ったのよ」

「それでは私のような例外はどうなるんですか?」

「あなたの場合は袖が短くて丈が長いわね。そういう人は限りない向上心を持っているわね。あなたの場合、拳法を究めようと日夜努力しているんじゃないかしら?」

「よく分かりましたね。これでも人知れずにやっていたつもりなんですよ?」

「どうかしら? このお話は」

「ここまで的確に言い当てられてしまうと、そう簡単に一蹴して済ませられる話じゃありませんね」

「分かってると思うけど……」

「ええ、お嬢様の耳には入らないように固く口を閉ざしますよ」

「そうしてくれるとありがたいわ」




「あの子もああ見えて真っ直ぐなのよねぇ。お蔭で助かったけど。次は……そろそろあの子達が出てくる頃合よね」










「こい、こい、ほ~たるこい♪ こっちのみ~ずはヤ~バイぞー♪」

「どうして私の前でそんな歌を歌うかなぁ……」

「あらあら、楽しそうねぇ。私も混ぜてもらえないかしら?」

「うわぁ! いつぞやのはらぺこお化け~!!!」

「何もそこまで怖がらなくてもいいじゃないの……」

「いや、怖がられてもしょうがない事をしてるじゃないの」

「あれはほんの冗談なのにねぇ。さすがに夜雀の踊り食いなんて趣味はないわ」

「冗談でもその発想が出るだけでも凄いと思うよ……」

「まぁ少しは味わってみたいかな、と思う訳だけれども」

「うわぁぁぁぁぁ! やっぱり食べる気満々じゃないのよっ!」

「大丈夫! 大丈夫だからミスティア! これも冗談に決まってるよ! ね、ね、そうでしょ?」

「どうかしらねぇ。私はグルメだから」

「リグル! 後は任せたっ! 私はここからいなくなるっ!」

「まぁまぁ、お待ちなさいな。今日は面白い話を聞いたから話したくてうずうずしているのよ」

「………本当?」

「ええ、本当よ。なんだったらその蛍を盾にしててもいいし」

「………それなら」

「そういえば妖夢が止める所為で蟲料理って食べた事がないのよねぇ」

「ぅええぇぇぇぇっ! まさか私も食べる気!?」

「蜂の子ぐらい食べてもいいじゃないのねぇ……と冗談はここまでにして本題に入るわね」

「うぅぅ…… 心臓に悪すぎる冗談はやめてよ……」

「あのね、なんでも服装を見るだけで幻想郷での地位が分かるらしいのよ」

「何事もなく話を進めやがって……」

「どんな味がするのかしらねぇ」

「「ひいぃぃいぃぃ! ゴメンナサイゴメンナサイぃぃぃぃ! もう何も言いません!」」

「それでまずは私と妖夢で試してみたのよ。そしたらぴったし当て嵌まっちゃって。それで面白そうだから知り合いを片っ端から当て嵌めてみたわ。そしたら他の皆も面白いようにぴったしカンカン。私は驚くと同時に笑いをこらえ切れなかったわ………ねぇ、聞いてるかしら?」

((こくこく))

「まあいいわ。話の腰が折られないだけましと思うことにするわ。それでね、その方法っていうのが袖の長さとスカート丈の長さなのよ。あ、あなたはスカートじゃないからズボンの丈でいいわ。袖が長ければ長いほど、丈が長ければ長いほどより高位の存在と言うことなのよ。ここまでで質問は?」

「……あの紅白巫女みたいに袖が別になってる場合は?」

「あれは博麗だから特別なのよ。型に嵌らないオンリーワン」

「……黒白の高速飛行魔法使いはみたいに袖と丈の長さが違う場合はどうなるの?」

「袖の方が短い場合は努力家ね。あの黒白魔法使いもああ見えて影で努力するタイプなのよ。知ってた? 袖の方が長い場合は中間管理職ね。厄介な上と厄介な下の間で板挟みになって苦労を背負い込むの。あの月の兎みたいに」

「じゃあ私達って……」

「中間管理職?」

「そうなるかしらねぇ」

「でも私達に上なんていないよ?」

「いるんじゃないの? 厄介なリーダーさんが」

「厄介な……?」

「……あぁ、もしかしたらアレの事かも」

「アレ?」

「ほら、チルノったらいつ会ってもアレじゃない」

「あ~、確かに。いつ見てもアレだね」

「どう? 面白かった?」

「ていう事はチルノはアレっていう事よね?」

「ええ、アレという事よ」

「今度からそういう風に見てみようか?」

「それも面白そうね」

「あらあら、盛り上がっちゃって。それじゃあ私はそろそろ帰るわね」

「うん、じゃーね」




「これで妖夢も入れて6人か…… あら、そろそろ晩御飯の時間ね。早く帰らないと妖夢が心配するわ」










「ただいまぁ」

「ああ、幽々子様! 今まで何処に行っていたんですか!? 心配をさせないで下さい!」

「ちょっと紫の所に行ってたのよ。そんなに心配しなくてもいいじゃない」

「外へ出る時は一言声を掛けて下さらないと」

「そんな事をしたらあなたが付いて来るじゃない。私は紫と水入らずでお茶を飲みたかったのよ」

「せめて書置きでもしてくださればここまで心配はしなかったのに……」

「あ、その手があったわね。今度からはそうするわ」

「まだ黙って外へ行かれるつもりですか!」

「そんな事よりも今日の晩御飯は何かしら? 私、もうお腹ぺこぺこよ」

「え? 干瓢と椎茸の含め煮と胡麻豆腐、それと鰻の八幡巻きです。食後には琥珀羹も用意致しておりますよ」

「あらあら、美味しそうね。さすが妖夢だわ」

「いえ、当たり前の事をしたまでです」

「じゃあ冷めないうちに頂かないといけないわ」

「では早速用意してまいります」









「そろそろ寝る時間ね。あれで充分だったのかしら? ……まぁ明日になれば分かることよね。足りなかったら明日にまた頑張ればいいわけだし。ふぁぁぁぁ…… もう、げん…か、い…… くぅ~……」













「……う~ん、よく寝た。さてと、今日も美味しいお料理を食べて頑張るわよ。……あれ、なんかおかしい気がするけど……ん~、いいか。気にしないで」




「お早う、妖夢」

「お早うございます、幽々子様。今日はいつもと違いますね」

「あら、私は普段通りのつもりよ?」

「そうですか? やけに涼しげな格好をなされていますが」

「涼しげ……? な、何よこれぇぇぇぇ!」

「っっっ! 突然叫ばないでくださいよ。その衣装は自分でお選びになられたのではないのですか?」

「さっきも言った通り私は普段の格好をしてたはずなのよ!」

「はぁ、そうですか」

「信じてないわね! もういいわ、私出かけてくるっ!」

「あ、幽々子様。朝食はどうなされますか?」

「勿論食べて行くわ」









「ゆぅぅぅ~かぁぁぁ~りぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「おや、今日は一段と涼しげな格好で如何なされました?」

「藍! 紫は! 紫はどこ!?」

「紫様なら普段通りにまだ寝所ですが」

「ありがとう、お邪魔するわね!」




「ゆぅぅぅかぁぁぁりぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「あふぁぁぁぁ…… あら、幽々子じゃない」

「あら、じゃない! どうして私の服の色々な部分が短くなってるのよ!」

「私は知らないわよ。昨日頼まれた嘘と真の境界を弄っただけで」

「何ですって!?」

「きっと幽々子にカリスマが無かったのよ」

「……! そんなはずは、そんなはずは……」

「ほら、私は変わってないわよ? その様子だと藍も変わってなかったんじゃないかしら?」

「お願いっ! 妖夢には素直に謝るから境界を元に戻して!」

「もう、忙しいわねぇ」

「このままじゃ私は妖夢に愛想を尽かされてしまうわ!」

「仕方が無いわね。白玉楼に戻る頃には元に戻っているはずよ?」

「本当!? 本当に元に戻るのね!?」

「いいから戻ってあげなさい。妖夢も放って置いたら可哀想よ」

「ううぅ…… このまま元に戻らなかったら……」

「藍ー。幽々子を送って行ってあげてー」

「しかし紫様、今私が出てしまったら朝食はどうなさるのですか?」

「じゃあ用意だけして行って」

「あ、私も頂くわ」










「妖夢…… 怒らないかしら?」

「私が何に怒るんですか?」

「っっっ! よ、妖夢、いえ、なんでもなくてよ?」

「はぁ……」

「……いや、実は」

「なんですか?」

「昨日の話は……その……」

「昨日の話がどうしたんですか?」

「ごめんなさい! アレは嘘だったのよ!」

「……やっぱりそうでしたか」

「え? 気付いていたの?」

「ええ、幽々子様の事ですから。それに紫様が教えてくださいましたよ」

「紫が?」

「『律儀な事にエイプリルフールを逃してしまった嘘を本当にする為に奔走している』と」

「それは……感謝した方がいいのかしら?」

「それは幽々子様次第です」

「うん、まあ感謝する事にしましょう」

「それで今日は如何なされますか?」

「何時もと同じよ」

「同じですか」

「そう、同じ。やっぱり特別な事はしない方がいいわね」




「ねぇ、妖夢」

「なんですか?」

「ここは暖かいわね」

「ええ、冥界は気候が安定していますからね」

「ごめんなさい」

「それはもういいですよ。私がからかわれるのはいつもの事ですから」

「いいから言わせて頂戴」

「幽々子様がそう仰るなら」

「紫にも謝らなくちゃいけないわね」

「そうですね。一番迷惑をこうむったのは紫様でしょうね。今朝も大変でしたでしょうし」

「紫には明日謝りに行くわ。とびきり美味しいお茶菓子を頼むわよ」

「ええ、私からのお礼の意味も込めて精一杯作らせて頂きます」

「その前に私にも味見を……」

「そんな事したら無くなっちゃいますよー」

「あら、妖夢は私の事をそんな風に見ていたのかしら?」

「あっ! いえ、今のは、その、口が滑ったというか……」

「ふふふ、冗談よ」

「もう、人が悪いんですから……」








 ごめんなさい、妖夢。
 ごめんなさい、紫。
 いつも私の我侭で振り回して。

 いつもありがとう、妖夢。
 いつもありがとう、紫。
 やっぱりいつも通りが一番ね。
 この三日間でそれがよく分かったわ。

 これからもよろしく、妖夢。
 これからもよろしく、紫。
 いつもと同じ穏やかな日常が過ごせるように。




「あれ? そういえば服がまだ元に戻っていないわね」

「あ、それは私が夜中にこっそりと着替えさせてみました」

「うあぁぁぁぁ! 妖夢が反抗期にっ!」

「ええぇぇぇぇ! 何故そうなるんですか!」
見事に遅れたエイプリルフールネタです。なぜなら思いついたのが昨日だから。
ならばいっその事最初から開き直ってしまえ、という発想からここまで長くなってしまいました。
賛否両論になりそうな発想ですね。
それっぽさが上手く引き出せていたでしょうか?
きっとこんな風に幻想郷の日々は過ぎていくのです。
そして白玉楼の食事は純和風で、デザートも妖夢の手作り。
あの献立は本当に美味しそうです。
調べながら書いてお腹がすきました。今日は和風の晩御飯に決定。
それでは、最後まで読んでくれた皆様に感謝を。
ありがとうございました。
シロ
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コメント



0.1090簡易評価
5.60名前が無い程度の能力削除
途中で少し混乱したけど、そこを除けば(大半が)地の文無しでも普通に読めました。
すごいな、と。