Coolier - 新生・東方創想話

東方狭聖録(2)

2006/03/29 12:34:44
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※後の展開の都合で季節が少しずれています
※作者は『モテ魔理沙ネタ』が大好きです





















《前回のあらすじ》
 幻想郷にとんでもないバカがやってきた
                 by霊夢


 バカ、もとい聖人が幻想郷にやってきた翌朝。今日は雲一つない快晴だった
だが今の季節は夏。こういう天気の日は何だかいやになる
霊夢は暑さで目が覚めた
「暑い……眠い……でも朝ごはん作んなきゃ」
そして霊夢は寝間着からいつもの博麗の巫女の正装に着替えた
着替え終わり、外の空気を吸いに縁側に出た霊夢の目にあるものが映った
「………かー…」
それは神社の庭にある木の太い枝の上で寝ている少年だった。彼こそ、昨晩紫が持ってきた(?)少年 狭間 聖人(仮名)である
「…そういえばあいつのことすっかり忘れてた」
とりあえず霊夢は彼がこうなったいきさつを思い出してみる。そんな霊夢のためにも説明しよう!
 それは昨晩のこと。紫に名前を教えてもらった聖人(本名ではないが)は、とりあえず霊夢と魔理沙に自己紹介をした後、
幻想郷についても教えてもらった。結界の事、妖怪と人間がいる事、魔法の事などをだ
だが念のため『彼が外の世界から来た』ということは伏せておいた。その方が彼のためにもなる、と紫が言った
その後、人間の里に行くことになったがさすがに今日はもう遅い。そこで霊夢が「今晩だけでも泊まっていく?」、と
誘ったのだが聖人は、「女の人の家に泊めてもらうのはとてつもなく気まずい」と言って妖怪の近づいてこない
神社の境内で野宿したのだ。そして、今に至る……
「それにしても器用ねぇ…、よく落ちないもんだわ」
霊夢は感心しながら台所へと向かい、朝食の準備をした
作ったのは白米にわかめと豆腐の味噌汁、鮭の塩焼きというなんともシンプルな朝食だった
作り終わってちゃぶ台にならべていると、ちょうど聖人が起きた
「……ん…ふぁ~あ…」
大きなあくびをして目をこする。が、おきたところで寝返りをうってしまった
当然、寝ているのは木の上なので……
「うぉっとったったぁ!?」

   ドシャッ!

落ちた。しかも顔面から
「いって~……そういえば俺、木の上で寝てたんだっけ…」
聖人は鼻をおさえながら寝ていた木を見上げた
その様子を見ていた霊夢は確信した
(やっぱりこいつ、本当にバカだわ……)
そう思いつつも縁側へ行き、一応声をかけてみた
「ちょっと大丈夫?顔面から落ちてたけど…」
「ん?あぁ霊夢、おはよう。いや~今日は暑いな」
何事もなかったかのように立ち上がる聖人。どうやら平気みたいだ
「あんたって結構丈夫にできてるのね。それより、今日は人間の里に行くんでしょう?」
「あぁ、そうだった。それじゃあさっそく行って……」

   ぐぅ~……

聖人の腹の虫がタイミングよく鳴いた。このあたり、かなりベタである
「……あははは」
霊夢はひとつ大きなため息をつく
「…朝ごはん食べてく?」
「是非っ!」
この返答の間、約0.2秒、いわゆる『即答』であった


                     【東方狭聖録 第二話】
                  ~家探し、仕事探し、そして自分探し~


「で、なんか思い出した?」
味噌汁を飲んでいる霊夢が向かい側に座っている聖人に問いかける
「う~ん……、今のところは何も思い出せないなぁ。夢も見てないし」
茶碗を片手に鮭をつついていた聖人は答えた
ふと、霊夢は聖人を見ていてあることに気がついた
「そういえばあんた、記憶がなくなってるのにお箸ちゃんと持ててるわね」
「えっ?あぁ、言われてみればそうだな」
聖人は箸で器用に鮭の身から骨をとっていた。鮭の置かれていた皿には骨と身の部分がきれいに分けられている
ここまで箸を使いこなす人もそう多くはないだろう
「まぁ、きっとよく言うあれだよ。ほら、『頭で覚えてなくても体が覚えてる』ってやつ」
「ふぅん…ま、そういうものかもね」
聖人はあまり深く考えずに結論を出した。霊夢もそれで納得することにした
それならばと、聖人の心にひとつの推測が浮かんだ
(だとすると、こいつも使えるかもしれないな……)
そう考えながら聖人は、脇に置いておいた剣を見つめた―――――

 朝食を食べ終わった聖人と霊夢は神社の前に来ていた
「いや~悪いな、朝飯までごちそうになっちゃって」
「別にいいわよ、この恩は後で返してもらうから」
「あぁ。この恩は仇になっても返すよ」
「…仇になる前に返してよね」
霊夢は呆れた顔で返した。聖人は冗談なのか本気で言っているのかよく分からない
聖人の眼は今までの眠たそうな目ではなく鋭い目つきをしていた。だが悪人の瞳ではなく善人の瞳をしている
霊夢もそれを見極めたうえで朝食をご馳走したのだろう
「じゃあ里までの道はさっき教えたとおりだから」
「あぁ、いろいろとありがとな。それじゃまた」
そういって聖人は手を振りながら階段を下りていった
聖人を見送ったあとで霊夢は思わず「あっ」と声を出した
「そういえば、歩いて行ったら結構時間かかるんだっけ…」
だが、時すでに遅し。聖人はそんな事知らずに階段を下りていた――――――


「や、やっと着いた……。つーか、遠すぎだろ……」
聖人が人間の里に着いたのは、それから2時間ほど経ってからだった
着ていた制服の上着と中に着ていたYシャツを脱ぎ、Tシャツ姿になっていた
「と…とりあえずどこかで水飲ませてもらおう……。でないと、死んでしまう…」
そういって聖人は近くにあった家を訪ねた。なんとも大胆な行為であるが、この炎天下の下を休憩も水分補給もなしに
歩き続けた聖人は、もはや脱水症状寸前であったため、手段は選べなかった
「すみませ~ん」
聖人は洗濯物を干していた若い女の人に話しかけた
「はい、何でしょうか?」
「あの~、よろしければお水をもらえませんか?ここに着くまで歩きっぱなしだったもので……」
「まぁ、今日は暑くて大変だったでしょう?今持ってきますからちょっと待っててくださいね」
そう言ってその人は縁側から家に上がり、奥へ歩いていった
聖人は待ってる間、そこから里を見回した。水田には深い緑色をした稲、畑には背が高くなりそろそろ収穫できそうな
とうもろこしと、夏特有の風景が広がっていた
(いいところだな……。でも、やっぱり思い出せないなぁ……)
「はい、どうぞ」
聖人がその風景に心を奪われていると後ろから声がした。振り向くとさっきの女の人がコップに入った水を差し出してくれていた
「あっ、すみません。ありがとうございます」
聖人は軽く会釈をしてからコップを受け取り、そして水を一気飲みした。聖人のHP・MPが回復した!
「ぷはーっ。ありがとうございました」
「いえ、困ったときはお互い様ですから」
「本当にすみません。あ、それとつかぬことお聞きしますが…」
「何ですか?」
「俺のこと、知りませんか?」
「?さ、さぁ…お会いするのは初めてだと思いますが(汗」
「そうスかぁ…すみません、変な事聞いちゃって」


 と、こんな聞き方では手がかりが手に入らないどころが変質者扱いされてしまいそうなので、聖人は5軒ほど
回ったところでこの聞き込みを切り上げることにした
「やっぱり、まずは家を探すかな。さすがに二晩も霊夢のところに世話になるわけにはいかないし」
ということで、聖人は畑を耕しているおじさんに道から話しかけてみた
「すみませ~ん!」
だがおじさんは気付かないのか、ザクッ、ザクッという音をたてながら仕事を続けている
「…すんまっせ~~んっ!!」
聖人はさっきよりも5割増しの声で呼んだ。と言うか叫んだ。それでもおじさんは仕事を続けている
さすがの聖人もカチン、ときたので最初よりも小さい声で言ってみた
「バ~カ!ハ~ゲ!」
「こらぁっ!初対面の人に向かってなんて事言うんだ!」
(聞こえてんじゃん!)
道から話しても聞いてくれないな、と思った聖人は畑の端をつたい、近づいて話すことにした
「すみません、聞こえてないと思いましたから…。それで、この辺りに空き家ってありませんか?」
「空き家?それなら、この前森の近くへ行ったときにそれっぽいのを見かけたな」
「本当ですか!?」
「あぁ。もしかしてあんた、そこの住む気かい?だったら気をつけなよ。森の近くは妖怪も出やすいから」
「まぁその辺は何とかしますよ。それじゃ、ありがとうございました」
聖人は軽く一礼しておじさんにお礼を言った


「あっ、もしかしてあれかな?」
 聖人はおじさんに教えてもらった場所に来た。そこには古びた一軒の日本風で瓦張りの屋根の家が建っていた。
『森の近く』と言っていたが、家のある場所は軽く森に入っていた。木々の隙間から漏れる太陽の光が家を照らしていて、
まるでそこだけが森の外にあるようだった。そのせいでおじさんも見間違えたのかもしれない
「立地条件は良し。それじゃあ中のほうは……?」
聖人は古くなり開きづらくなった玄関の戸を無理矢理こじ開けた。そして、中を見て一言
「うわぁ………」
そこには聖人の予想以上の光景が広がっていた。この光景を一言で表すとするならば、
『ホコリと蜘蛛の巣で構成された弾幕結界』といったところだろうか。とにかくそこらじゅうホコリと蜘蛛の巣だらけだった
聖人は土足で玄関からまっすぐのびた廊下にあがった。足を着くと同時に床のホコリが軽く舞う
しかしミシッ、という音は立たなかった
「木がまだ腐ってない?建てられたのは結構最近なんだな…」
廊下を少し進んだ左側には茶の間があった。広さは8畳ほどだ
聖人は入り口にかかっていた蜘蛛の巣を払って中に入った。ここの畳もミシッ、という音はしない
「…暗いなぁ」
部屋に入った聖人はとりあえず日の差し込んでいる戸を開けてみた
そこは縁側に続く戸だった。夏の眩しすぎる日差しが薄暗かった家の中を一気に照らし出す
縁側の先にはちょっとした庭のようなスペースがあった
そして、聖人はそれを見て一言
「うん、住めるな」
この光景だけを見てなぜ住めると思ったかは謎だが、とにかく聖人はこの家に住むことに決めた
聖人は一息ついて縁側に腰を下ろした。そして、これからのことについて考え始めた
「ここに来るまでに仕事のことは考えたけど、やっぱりまずは宣伝が必要だな…。チラシでも作るか」
そして聖人はすくっ、と立ち上がり、ホコリで汚れた制服のお尻部分をパンパンと払った
「よし。そうと決まれば、里に行って紙と書くものでも買ってくるか」
そういって聖人は一旦家を後にして、もう一度里を目指して歩き出した―――――


 里に入ったところで、聖人はあることに気がついた
「そういえば俺、お金持ってたっけ?」
と言うことで、自分のポケットを探ってみる。ズボンのポケットは空だった
上着の胸ポケットを触ると少しふくらみがあった。それを取り出してみると二つに折りたたまれた黒い財布だった
中身のほうは1万円札が何枚かはいっており結構な額だ
「あれ?結構持ってるじゃん。それじゃどこで買い物を……ん?」
気がつくと聖人は入り口の上の看板に『香霖堂』と書かれた店の前に立っていた
「こういう古臭くて胡散臭い店には大抵掘り出し物があるんだよなぁ……」
そんな分かるような分からないような理論でその店に聖人は入ってみることにした
「すんませ~ん」
入り口の引き戸がガララ、という音を立てた
店の奥には銀髪にめがねをかけた店主と思わしき少年が本を読んでいた
「いらっしゃい。おや、初めましてかな?」
「あぁ、あんたがそうならきっとそうだな」
「?何か事情でもあるのかい?」
「いや、なんか俺記憶が無くなってるみたいでさぁ…」
そういって聖人は頭をコン、コン、とたたいて見せた
「記憶喪失かい?大変そうだねぇ…。ところで、何をお求めだい?」
「っと、そうだった。紙と書くものないかな?」
「紙?それなら奥にあるから取ってくるよ。書くものはその辺の棚から探しといてくれ」
そう言うと、彼は読んでいた本にしおりを挟んで奥へと歩いていった
聖人もその間に書くものを探すことにした。棚にはごちゃごちゃとものが置いてあった
とりあえず聖人は目に付いた書けそうなものを取ってみた。手には『マッ○ー』や『ポ○カ』、さらには
『ガン○ムマー○ー』まで握られていた
ふと、棚の脇の机にあった指輪を見つけた。指輪といっても装飾はほとんどされていない。
「へぇ~、こういうのも置いてるんだ」
聖人が指を近づけたときだった。指輪がカタカタッ、と動いたのだ
「!ぅおわっ!?」
「ん?どうかしたかい?」
丁度紙を取りに行っていた店主が戻ってきた。手には積み重なった紙が抱えられている
「い、いや……今指輪が勝手に動いたような…」
聖人は少し後ずさりした。そして、後ろにあった透明なガラス玉に触れた
すると、そのガラス玉が淡く光りだした
「うおぉっ!?今度は光った!?」
思わず手を引っ込めてビビる聖人。その様子を見ていた店主が関心するように言った
「へぇ…君には魔力があるようだね」
「まりょく?俺が?」
「あぁ、間違いないと思うよ。君が触れたそれは、魔力に反応して光る『魔法具(マジックアイテム)』
 だからね」
「へぇ~……」
聖人は自分の手のひらを見てみた。やはり、自分に魔力があるとは信じられないようだ
「でも、魔力って魔法とかを使うときのやつだろ?俺、魔法なんか知らないし…」
「ふむ、もしかしたら記憶がなくなる前は使えたのかもしれないね。それで、紙のほうは…」
「あぁ、50枚くらい欲しいな」
「50枚、と。それじゃあ代金のほうだけど…」
そういって店主は奥へと戻り、そろばんで代金の計算を始めた
「え~っと、紙1枚が20円だから……」
「ちょっと待った!紙1枚20円って高くないか?」
「あぁ、それは最近幻想郷で紙の値段が高騰しているからだよ」
聖人の質問を店主は軽く流して計算を続けた
「紙が50枚で1000円と、そのマ○キーが200円だから、合計で1200円だね」
「…まぁ、そんなもんか」
聖人は財布から1200円を取り出して店主に渡した。お金を受け取った店主が聖人に問いかける
「ところで50枚も何に使うんだい?本でも書くつもりかな?」
「いや、チラシを作るんだ。そういう訳だからちょっと机といす借りるぞ」
そういって聖人は紙を受け取ると、店の隅にあった客との応接用のいすに腰掛けて先ほど買った○ッキーで
なにやら書き始めた。

そして10分後―――

「よし、1枚できた!」
聖人は書いた紙を満足そうに上に掲げた。が、ここであることに気付く
「これをあと49枚書くのか……。さすがに面倒だな…」
「それだったら、あれをお勧めするよ」
本を読んでいた店主が顔を上げて、聖人のいる反対の隅を指差した。聖人もつられてその方向を見ると、
四角い箱のようなものがあった
「……何あれ?」
「あれは外の世界の道具で『複写(コピー)機』というものさ。同じものならすぐにできるよ」
「マジでかっ!?そんな便利なものなら早速使わせて…」
「1枚につき10円だよ」
「…やっぱ、金取るんだ」
と、いうことで聖人は500円を払ってやってもらうことにした。店主は聖人から先ほどのチラシを受け取ると
上の部分を開きそこにはさんだ。そして何やらピッ、ピッ、と操作をした後、機械がヴォーン…という音を出して動き始めた
すると、機械の中腹部分から聖人が書いた紙が次々と出てきて、あっという間に50枚が完成した
「・・・すげ~な、これ。ほんとに全部同じだよ。あっ、とりあえず1枚な」
出てきた紙を感心しながら見ていた聖人が店主に1枚差し出した。店主がそれを「どれどれ・・・」と見た
紙の上半分には『狭間相談所』と大きく書かれていた。そしてその下には『どんな仕事も報酬次第で何でも承ります』
といった文章と聖人の家までの地図が描いてあった
「…要するに『何でも屋』かな?」
「その通り。店番でもオッケーだ」
「そうかい?それじゃあ、そのうち店の手伝いでも頼もうかな。そうだ!そんな君にうってつけの本があるよ」
店主は何かを思い出したように本棚へと向かった。そして一冊の本を取り出し、聖人に差し出した
本のタイトルは『あなたもできる!魔力で武○術!!』で、表紙には額に六つの小さなあざのある丸坊主の
少年が写っていた
(な、なんか胡散くせ~……)
「これには生身で空を飛ぶ魔法についてが書かれている。君のこれからの仕事を考えると、とても便利だと思うよ」
「確かにいろんな所に行くことになるだろうからなぁ~…。ちなみにいくら?」
「今ならスペシャルプライスで5000円だよ」
この本を5000円というのはぼったくりな気もするが、『魔法の本』というのに興味のわいた聖人は交渉に入った
「…初来店記念ということで半額ってのは?」
「………5%」
「…15%」
「……………10%。これ以上は無理だね」
「…よし、買った!」
ということで、10%引きの4500円で聖人はその本を買った
「それじゃ、そろそろ行くかな」
聖人はいすにかけておいた上着やチラシを持った。そして、入り口の戸に手をかけたところで振り返る
「そうだ。俺、狭間 聖人っていうんだ。あんたの名前は?」
「僕は森近 霖之助。でも、どうしたんだい急に?」
「これからの常連さんの名前は知っといた方がいいだろ?それじゃ、いろいろありがとな」
そういって聖人は店を出て行った。店に一人になった霖之助は聖人について冷静に思い返してみた
「それにしても変わった人だったな……服装もあまり見かけないものだったし。ま、常連が増えたからいいか」
そう自分に言い聞かせて、霖之助は再び読書を始めた――――


 店を出た後、聖人は里中を駆け巡った。一軒一軒丁寧に自己紹介をしながらチラシを配ったあと、
家を掃除するための掃除用具を買い揃えた。
「あ~…さすがに疲れたな…」
聖人は荷物を置きに一旦家に帰ってきていた。里中を回って配ったチラシも残り少なくなっている
「里の人はもう全部配ったかな。あとは……霊夢のとこか」
聖人は博麗神社に行くことを考えた。聖人は一飯の恩をこういう形ではあるが返そうと思っている。
が、ここで問題が発生する
「またあそこまで行くとなると、今からじゃ日が暮れちまうなぁ…。空飛んでいけたら別だろうけど…」
ふと、聖人は香霖堂で買ったあの本を思い出した。そして、脱いだ上着の上に置いておいたその本を手に取った
「やっぱ胡散臭いけど……せっかく買ったんだしな」
聖人は本の表紙を開いた。初めの数十ページには何やら漫画のようになっていたが、しばらく読み進めると
『武○術の体得方法』というページに入った。そのページにはこうかかれていた

1、まず足に魔力を溜めろ!目を瞑り、足に意識を集中させるんだ!

2、魔力が十分に溜まったと思ったら思いっきりジャンプしてみろ!!

                               以上

(・・・・・)
聖人はこれを読んだ後、妙な破壊衝動に見舞われたとか…
「…ま、まぁやってみるか。騙されたと思って」
すでに騙されているような気もするが、聖人は立ち上がった。そして目をつぶり意識を集中させる
目を瞑ると辺りがとても静かになった気がした。夏の午後の日差しと木々が風に揺らされて奏でる心地よい音の中、
聖人は肩の力を抜いてリラックスし、指一つ動かさない。
すると、聖人の足が淡く光りだした。しかし、聖人は目を瞑っているため気付いていない
(……………来たっ!)
聖人は心の中でそう叫び、目を開けて思いっきりジャンプした
すると、聖人は空高く舞い上がりそのまま空中でとまった
「………………………ん?」
聖人はしばらく状況が飲み込めなかった。冷静になって周りを見渡してみる
前方には木々ではなく里の風景が見える。下を見てみると聖人の家がある。これらが意味することは……
「と………飛んだぁ!!?」
喜びと驚きに満ち溢れた叫びを上げる聖人。嘘のような本で嘘のように飛んでしまったのだから当然だろう
「よっしゃ!このまま一気に博麗神社まで……!」
と、全体重を前に傾けたときだった。聖人はそのまま急降下し地面にものすごい音を立てて激突した
「や…やっぱり……最初は、少しずつ……だよな…」
地面に体をめり込ませたまま、痛切にそう思い知った聖人だった

  その頃、博麗神社では――――――

「は~。やっぱ夏は冷たい緑茶ね」
「霊夢、なんかババくさいぜ?」
霊夢が縁側でお茶をすすっていた。その隣で魔理沙もお茶をもらっている
どうやら魔理沙はいつものように遊びに来ているらしい
「ところで、聖人はどこ行ったんだ?」
「あぁ、『家と自分を探す』って朝から里に行ったわ」
「そっか、あいつ外から来た人間だから宿無しだもんな」
そう言って、魔理沙は脇にあったようかんを一切れ食べた
「それにしても、朝ごはん食べさせるなんて霊夢も案外気があるんじゃないか?」
魔理沙はからかうように霊夢に問いかけた
「心配しなくても私は魔理沙しか眼中にないわよ?」
「……………………は?」
霊夢の返しに魔理沙は固まった。そして、しばらく魔理沙は心の中で考えてみた
その結果『霊夢は冗談を冗談で返したんだろう』と思った。いや、思いたかった
「べ、別に心配してはいないんだが…」
「ちなみに、今の本気だから」
霊夢はさらりと言った。その心を読んだとしか思えない返答に魔理沙は恐怖さえ感じた
と、ここであることに気がつく。霊夢の顔が近い。というかもう目の前だ
「れ、霊夢…………?」
「魔理沙、今夜はウチに…」
霊夢がそこまで言ったときだった。鳥居のほうから『ゴンッ!』という鈍い音と同時に「い゛だっ!」
という声が聞こえてきた。その声で二人は聖人だと分かった
「チッ!噂をすれば影、か…」
(サッ、サンキュー聖人!)
舌打ちしてことわざを憎む霊夢。今だけ聖人がレスキュー隊に思える魔理沙
「いって~……。おっ、魔理沙もいたのか。丁度いいや」
霊夢が元の位置に戻ると、聖人が額を押さえながらふらふらと飛んできた
それを見た霊夢が驚きの表情で問いかけた
「あれ?あんた飛べたの!?」
「あぁ、俺なぜか魔力があるみたいなんだ。それを使って、な。ちなみに、まだコントロールはよくできない」
「そう……あんたが魔力…」
霊夢は何か思いつめた顔をした。聖人はそれが気になったが一応聞かないでおいた
「ところで、私がいると何で丁度いいんだ?」
魔理沙が最初の聖人の言葉について聞いてきた
「えっ?あぁ、そうだ。これを渡しに来たんだよ」
そう言って聖人は二人にチラシを渡した。二人は渡されたチラシに目を通した
「へぇ~、おまえ何でも屋始めるのか」
「これが一番手っ取り早いからな。それじゃ、仕事くれよ」
「あら?もう帰るの?」
「あぁ、これからこいつの特訓するんだ」
聖人は背中に背負っていた剣の柄をつかんで見せた
「そういう訳だから、じゃあな」
そう言って聖人は地面を蹴り、空へと舞い上がった
それからしばらくして、鳥居のほうから『ガンッ!』という音と「んがっ!」という声が聞こえてきた
((またやってる……))
霊夢と魔理沙は呆れた顔で鳥居のほうを見つめた
「それにしても、聖人か魔力を持ってるなんてなぁ~」
「ホントよねぇ~。それで魔理沙、さっきの続きだけど…」
そこまで霊夢が言ったとき、魔理沙は身の危険を感じた
「あー!そういえば香霖のとこに頼んどいたのがあったんだっけ!!それだから霊夢、また明日な!!」
魔理沙は慌ててほうきに乗り、空へと飛んだ
「あっ、ちょっと魔理沙ぁーーーー!?」
霊夢が追いかけようとしたときには、魔理沙はすでに遥か彼方へと飛び去っていた
縁側に再び腰を下ろし、霊夢は「ふぅ…」と短いため息をひとつついた
「う~ん……やっぱり最初から直球すぎたかしら?」
今日の口説き方の反省をしながら、魔理沙を落とすための作戦を練る霊夢だった――――――


 聖人が家に帰ってくるころには、だいぶ日が暮れていた
まだうまく飛べないせいか、ぎこちなく縁側の前に着地した
「さてと、それじゃ早速……」
聖人は背中の剣を鞘から抜き、両手で正面に構えた。剣の重さはそうでもなく、片手でも少し重いくらいで何とか持てる
剣は刃の部分が白く、中心のほうは黒くて平らだった
「…ふんっ!」
聖人は正面の構えから剣を横に振った。ヒュンッ、という風を切る音と共に、聖人の腕に剣の重さがのしかかる
(この重さ……懐かしい………?)
そう思いつつ、聖人は続いてそこから切り上げ、振り下ろしへと繋いだ
しかし、何かしっくり来ない。違和感があった
「何か…足りないな」
いつも剣を降るとき、剣に何かを施していた気がした。追加武装とかじゃなく、
なにか『おまじない』のようなものだ
「……もっと振ってみよう…!」
それから聖人は剣を振り続けた。ただがむしゃらにではなく、戦いの場面を想定した実戦的な訓練だ

振っているうちに、聖人は戦いの感覚を徐々に思い出してきた
しかし、記憶の一部が戻る嬉しさの一方で、聖人は複雑な気持ちだった
それは、自分がこの剣術を『何のために』使っていたかだった

何でこんなに使い慣れているんだろう―――――

もしかしたら、これで人を殺していたかもしれない―――――

剣を振るたびに、聖人の頭にはそんな考えばかりがよぎった
それでも聖人は剣を振り続けた
たとえそんな記憶でも、自分を知りたかったから………


                         【第三話へつづく】
どうも、文化帖でEXを出そうと頑張っているShingoです
だからという訳ではないんですが、書くのがだいぶ遅れてしまいました。すみません…
今回の話はこれからの話のいわば土台です。本格的な話(主にギャグですが)は次回からです
つーか東方キャラの出番が少なくなってしまった…(反省
では、この場を借りて聖人のプロフィールを……
・名前  狭間 聖人
・読み  はざま せいと
・能力  剣術を扱う程度の能力と物に魔力を付加する程度の能力
・性格  困った人は放っておけないお人よし
     バカ。というか頭の春度が高い
     だが戦闘になると、急に頭のキレと反応がよくなる

次回は紅魔郷のストーリーです
では、次回もヒマがあったら読んでやってください
Shingo
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コメント



0.320簡易評価
7.無評価名前が無い程度の能力削除
⊂|*^ω^*|⊃ ジオング
8.無評価名前が無い程度の能力削除
主人公にいろんな能力を『最初から』付けるのは
問題外ですよ。
11.-30名前が無い程度の能力削除
物凄い厨臭い設定のオリキャラですね。
13.無評価123削除
これは「東方」のお話だろうか?
話がオリキャラ中心かつオリキャラの話になっており、
東方である必然性が感じられません。

東方の投稿サイトであるここよりも、
自分で作ったサイトで「一次」として出されるほうがよいかと思います。
14.無評価幻想と空想の混ぜ人削除
冒頭の小年→少年では?
17.無評価no削除
オリキャラでも別に良いのですが、それが「東方」たれば、の話です。
26.無評価Shingo削除
どうも、作者のShingoです。
この作品の感想を書いていただき本当にありがとうございます
この際どんなアドバイスや苦情でも一身に受け止めようと思います

幻想と空想の混ぜ人さん≫あっ、本当ですね。直しときます
            それと作品を毎回楽しく読ませていただいています

noさん、123さん≫すみません…これから考えている話にはちゃんと
        東方キャラは大活躍しているのですが、この話だけは
        こうなってしまいました…
         123さんの言うとおり自分でサイトを作りたいのですが
        自分はPCのスキルレベルが低いもので、ただいま作り方
        を勉強中です

これからは狭聖録以外のものも書きたいと思っています
こんなヘタレですが、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
27.無評価名前が無い程度の能力削除
東方キャラが活躍するであろう今後に期待します。作品途中なようなので点数は入れませんが…
あと、貴方は話の組み立て方等ではそんなに変な所はないように思います。狭聖録以外というよりも、一度オリキャラもの以外で書いてみるといいのではないでしょうか?(既にそのつもりなら失礼しました)。最初からオリキャラを使いこなすのは大変かと。

私もこんな偉そうなことを言える人間ではありませんが、叩かれてもくじけない姿勢には好感を持ちました。今後の健闘を期待します。