Coolier - 新生・東方創想話

A little devil in library

2006/03/18 10:34:40
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※このSSには作者の独自の解釈による捏造が多々含まれております。ご了承くださいませ。















そう、あれは私がレミィの家に住ませてもらうようになってから50年近く前のことだった。
それこそ、私の書斎に紅白の巫女や白黒の鼠が入り込むようになる前…、

ある日、私がいつものように所狭しと並ぶ本棚の中から今日読もうとしている本を探しているとき、

「…何よ、コレ…。」

本棚の中に、ある(存在する)べきものでないものがあった。
それは、こともあろうに私の大事な本の上で悠々と寝息を立てていたのだ。
大事な本の上で…!
思わず私はそれの服に魔法で火を点けた。
大丈夫、この書斎に存在する本、本棚、その他諸々には全て耐火、防水、退魔、除霊加工が施されているから。…まぁ、私がそういう魔法をかけただけのことなんだけど。

「あちちっ!!」

先ほど服に火を点けたそれは、眠りから覚めたらしい。徐々に服に広がる火の熱さに飛び起きた。
よく見たところ、それは妖魔の類であろうか。背中まで伸びた真っ赤な髪に、本来耳がある場所に黒い蝙蝠の羽が生えていて、
背中にも似たような羽が生えていた。
その妖魔は服に点いた火を消そうと必死に叩いていた。…ちょっと待って、それは私の本よ、何してるの…!まぁ、耐火魔法をかけてあるから問題はないんだけど。

「やい、そこの魔女!よくもやってくれたわね!!」

ようやく火が消えたらしく、その妖魔は私に向かって叫んだ。私が火を点けたところが黒く焦げている。もっともそれが着ていた服は真っ黒だったから目立たないんだけどね。
…と、私はそれにいくつか訊かなければならないことがあった。

「貴女は誰?どこからここに侵入してきて、どういった目的?」
「…いっぺんに三つも質問するな!」
「それは失礼。じゃあ最初に…、貴女は誰なの?」
「名乗る名前なんてない。」
「……。じゃあ、どこからここに来たの?」
「何十年も前からここにいた。」

“埒が明かない”とはこのことを言うのね。彼女は私が訊いたことに確かに答えはしたけれど、全く彼女の正体が見えてこない。
名前を名乗らない上に、『何十年も前からいた』とはこれ如何に…。
私は彼女に気づかれないように小さく呼吸を整えて最後の質問を投げかけた。

「貴女はどういった目的で紅魔館に来たの?」

すると突然彼女は二、三歩下がって私との間合いを取ると、自身の周囲に六芒星の魔方陣を発動させた。
戦闘体勢、と言ったところだろうか。
それの目はいかにも獲物を見つけた肉食動物の如く紅く輝き始めていた。

「私がここに来た理由…それは…ッ!」

彼女の両手に黒い大弾と、それを取り巻くように赤く小さい弾が生まれ、

「あの“紅い悪魔”を含めたここの連中を、皆殺しにすることよ!!!」

弾が私に向かって飛んでくる。でも、頭に血が上った状態で飛ばしたのでしょうね。体を動かすのが苦手な私ですらも簡単に避けられる隙間だらけの弾幕だった。
避けるたびに新しい弾を打ち込んでくる彼女。私はそろそろ疲れてきた。そろそろ終わらせないと喘息の発作も出てきてしまいそうだわ。
私は彼女が放つ弾幕をかわしながら懐にいつも忍ばせているカードを取り出した。

「今日の気分は…これかしら。」

そう呟きつつ懐を探って出てきたカードは、…まさに今日の気分、と言うか、今日の相手にうってつけのスペルカードね。

「火符『アグニシャイン』」

スペル発動の呪文を呟くと、私の周りに熱い、厚い炎の弾幕が生まれる。
彼女は思わず攻撃の手を止め、私の弾幕から逃げようと縦横無尽に動きまくっていた。
でも、甘いわね。弾幕をかわすためには冷静な判断力で、弾の小さな小さな隙間を通らなければならないのだから。
そんな風に考えなしに動きまくってたらいつか当たるわよ…。
私が目の前の火の玉を必死に避けようともがいている彼女を見つつそう思っていた、その時。

「あちちちちちっっ!!!」

やはりと言うべきか、彼女は私の弾幕の一部の火の玉に当たったらしい。
洋服の背中の部分に火が点いたらしく、熱さにのた打ち回っていた。
しばらくのた打ち回っていると、私がずっと見ていたことに気づき、さっきの火の玉以上に顔を真っ赤にして

「次こそは殺してやる!覚えていろ!!」

目を潤ませて、それでも眉間に皺を寄せた険しい顔で私の書斎に一つしかない窓から飛んでいった。
ふう、と私はため息を吐き、近くにあった椅子に腰掛けた。なんだかんだで結局あの妖魔の目的はわからなかった。
書斎の奥の本棚の、こともあろうに私の大事な大事な本を枕にして眠りこけていて、それで、起きたかと思えば『ここの連中を皆殺し』とばかりに攻撃を開始して
だけど私がちょっと反撃するとすぐに逃げ出して…。
本当にわけがわからないわ。
私はちょうど近くにあった本に手を伸ばしてそれを開く。ようやく読書の時間が取れたわ。
そう思った矢先、遠くのドアからノックの音と、館内担当のメイドの「パチュリー様、お食事の時間でございます。」という声が聞こえて、私の読書は再び中断された。


「赤い髪の妖魔?」

私の正面に座り、ティーカップを今にも口につけんといったところで私の顔を見る少女。この館の主人で吸血鬼のレミリア・スカーレット。まぁ私は『レミィ』って呼んでいるんだけど。
さっき突然起こった赤い髪の妖魔との戦いのことを昼食の話題に挙げると、レミィは目を丸くした。

「パチェ、もしかして忘れたの?」
「?」
「ずっと前に、『図書館の掃除係』だとか言って、妖魔を召還したことよ。」
「…あ。」

思い出した。私の書斎、通称『ヴワル魔法図書館』に最近魔導書、歴史書、文学、辞書などの本が増えすぎて、私一人だけじゃ手がつけられなくなって
新しく身につけたばかりの『召還術』を用いて小間使いとして使えそうな妖魔を召還したんだっけ。
そうそう思い出した。さっきの妖魔はそれだったのね。そういえば召還してすぐ後にいなくなったんだけど。

「それで、その召還された妖魔は、何でだかよくわかんないけど突然私のところにやってきてね。」

レミィはわざとらしくズズズと音を立ててティーカップの中のものを飲み干すと目だけ動かして天井を眺めつつこう話し出した。


――レミリア・スカーレットの回想

「お前がこの館の、主人かッ!」

当時私はとてつもなくお腹が空いていた。もうすぐ夕食の時間だっていうのにメイド達が人間の血を採るのに手間取ってて私はそろそろ限界が近かった。
そんな時に突然私の目の前に現れたのが、例のパチェが召還したっていう妖魔だった。
私は突然の叫び声に『紅魔館に人間が紛れ込んだ』のかと思ってわくわくしてたのに、妖魔の血なんて美味しくもなんともないわよ。
と、いうわけで私は物凄く不機嫌だったのよ。
私はそんな不機嫌さを前面に押し出していたであろう表情で反応した。

「何よあんた、図書館の片付けは済んだの?」
「そんなの最初からやってるわけない。」
「なかなかの態度ね。パチェにとんでもないお仕置き喰らっても知らないわよ。」
「もうあんな魔女に用はない。今はあんたに用があるのよ!紅い悪魔!」

どうやらあの娘は私を倒したがっていたようだったわ。彼女の体の穴という穴からから殺気がシューシュー吹き出ていたもの。
まぁ、何にせよ私はその時空腹でとてつもなく不機嫌だった。
メイドがいつまでたっても食事を用意しないし、突然私のところに現れたのが、最も欲していたものではなく、ただのチンチクリン…もとい妖魔だったわけだし。
しかもそいつは私を倒したがっているみたいだし…。全くその日は厄日だと感じたわ。
だから私は、

「力の差も見極められないような愚者がよくここまでやってこれたわね。…あ、この時間帯は護衛が薄かったからかしらね。」
「…ぐ……。」
「あんたみたいな妖魔ごときが私のような誇り高き吸血鬼に戦いを挑むなんて、50年、いや…500年早いわ。」
「……。」
「とりあえずまずはパチェの部屋を片付けてきなさい。話はそれからよ。」

とにかく妖魔に帰ってもらうように言ったわ。でも、私の思った通りにはならなかった。妖魔は突然かっとなって

「言わせておけば…良い気になりやがって…。目にものを見せてやるぞ!吸血コウモリ!!!」

あんたの方が蝙蝠に近いじゃないよ。…と思わずツッコミを入れそうになったけど。
妖魔は六芒星の魔方陣を発動させて、自身の周りに大きな弾、小さな弾を纏わせるといきなり私に向かって突っ込んできたわ。
とても、速かったけど、まだまだだった。私はそれの50倍程度のスピードで彼女の後ろに回りこんで、

「力の差を、知りなさい…。」
「な…いつの間に後ろに!」
「貴女は所詮、その程度。パチェの小間使い程度がちょうど良いの。覚えておきなさい。」

こう言ってやったの。本当、あの時はすごくお腹が空いていて機嫌が悪かったの。それこそ相手を思いやる余裕もなかった程にね。
そんなこんなでようやく夕食にありつけて部屋に戻った頃には妖魔はいなくなっていた。私の部屋は滅茶苦茶に荒らされていたけど。
全くもう、いくら私に敵わないからってものにあたるなんて大人気ないったらありゃしないわ。ぷんぷん。


回想終了――

「はぁーー…っ。」

私は大きくため息を吐いた。あまりのレミィの大人気なさに。

「だから、もし私があの時満腹だったらあの時の妖魔にこう言ってあげられたのよ!『貴女は私には絶対に勝てないの。さぁ大人しく図書館にお帰りなさい』…なーんて!」

レミィは何故か楽しそうに顔を赤らめて言ったけど、それは貴女が空腹のときに言った言葉と大して変わらないわ。
とにかくようやくあの妖魔の正体がわかったんだけど、これからどうしたら良いのかしら。『覚えていろ』なんて言うからにはまたすぐに戻ってくるだろうし。
…ましてもう召還したのが私だなんて覚えていないでしょうしね。

「パチェはさ、これからどうするの?」

レミィは私の目をじぃっと見ながらこう言った。いつもながら彼女の感の鋭さというか、読心力というかには驚かされる。
まさに私が考えていたことをそのまま言い当ててしまうんだから。

「どうにもこうにも。また私の図書館で暴れるようだったら容赦するつもりはないわ。」

私はそう返したけど、本心からそう言ったわけではない。…仮にもあの妖魔は、元は私が召還したものだし。願わくば…と思わないでもないの。
昼食にもキリがついたのでまた読書に戻ろうと立ち上がると、後ろから

「貴女もつくづくすごい魔女よね。あんな、野心むんむんな妖魔を召還できるんだから。」

レミィの声が聞こえた。誉めているんだか、貶しているんだか、後ろを向いていて彼女の顔が見えなかったからわからなかった。
彼女の声のトーンから判断して、前者後者半々ってところかしらね。


「お前、何処に行ってたんだ。」
「……。」

まさかこんなにすぐ戻ってくるなんて。流石に心の準備が出来ていなかった私は思わずその場によろめいてしまった。

「おい魔女、何ふらふらしてるんだ。鉄分不足か?」

妖魔は今度は私の大事な本棚にどっかりと足を組んで腰掛けて、私を見下ろしていた。
全くもう、ここは私の部屋だっていうのに…。

「ねぇ、貴女何で私の書斎に居座っているの?」
「あー…何でだろう。なんかわかんないけど…。居心地が良いからじゃないかな?」

『居心地が良い』妖魔が言ったそのことがなぜか少し嬉しかった。
まぁ…貴女がここを居心地が良いと感じるのは当然のことなんだけど。

「レミィから聞いたわ。」
「れみぃ?…あ、…あぁあの憎き悪魔!!」

急に顔つきが険しくなる妖魔。
以前レミィに戦いを挑んで圧倒的な力の差を見せ付けられたという記憶が彼女の脳裏に浮かんだのか。

「私も一応、悪魔の端くれとして…、」

突然語り始める妖魔。…ちょっと待って、『悪魔』って何、悪魔って。
因みに私が彼女を召還するときに用いた召還術は、何千年も前に書かれたという魔法書に書かれたもので、強力な魔の類をを召還できるというものなのだけど、
私のようないち魔女が召還できるものなんてたかが知れている。
魔女が、自分より明らかに力のある『悪魔』なんて召還できるはずはないのだ。
故に、今私の目の前の本棚に腰掛けている妖魔も、『悪魔』ではない。

じゃあ、なぜ彼女は自分のことを『悪魔』と自称しているのだろうか。
燃えるような真っ赤な長い髪に、彼女の背中に生えた黒い蝙蝠の羽からそう判断してしまったのか、それとも自分の力に余程自信があったのか。
まぁ、たまに門番に喧嘩を吹っかけてくる湖の氷精や目的もなく紅魔館の周りを飛び回る宵闇の妖魔よりは余程力はあったみたいだけど。

そんな私の思考をよそに話し続ける妖魔

「私って、赤い髪の悪魔『紅い悪魔』じゃない?だから紅魔館の主人になるにはもってこいかな、なーんて思ったらもう既にれみぃとかなんとかいう悪魔が主人になってるのね。」
「はぁ」
「だから、私とれみぃ、どっちが強いか確かめてみようと思って…、」
「…で、あの時レミィの部屋に入り込んだのね。」

妖魔は心底悔しそうな表情を浮かべ、自身が座っている本棚をバシバシと叩きながら、ってそんな強く叩かないでよ。

「何で、何であいつはあんなに強いのよ…、私と同じ種族のはずなのに…、何であんな力の差…。」

それは、たかが私のような魔女が召還しただけに過ぎない妖魔が、夜を牛耳る存在である悪魔に敵うはずなんてないのよ。
でも、妖魔は自分がレミィと同じ『悪魔』であると信じている。だからレミィに戦いを挑んだ。
きっとこれからもレミィに喧嘩を売りに行くだろう。勝てる可能性は1%だって存在しないのに。
そして、レミィは、きっと妖魔が次に来たときには容赦はしないだろう。一度、よりにもよって彼女の空腹時にのこのこと入り込んだせいで機嫌を損ねてしまったのだから、
レミィなら、きっと自身の10%程度の力を発するだけで塵一つ残さないほどに燃やし尽くしてしまうわね。

…私は、どうしたら良いのだろうか。

彼女に「貴女は悪魔ではなく、ただの妖魔である」と、言うべきか。
彼女をそのままにして、レミィに殺されるのをただ何もせずに見ているだけに留めておくのか。

どちらにしても、彼女が深く傷付いてしまうのは目に見えている。

「ちょっと…、聞いているのか?」

前者は彼女の心が傷付く
後者は彼女の体が傷付く、ていうか、修復不可能なほどに傷付く。

それなら、……。

「何とか言えよ、魔女っ!」

私はすっと顔を上げ、彼女を見た。右手にスペルカードを持って。

いちかばちかの賭け。

彼女を、できるだけ傷つけないように、ここに留められるように。
だって、彼女は…、
私が召還した、いうなれば私が生み出した、大切なものだから。

「『悪魔』、貴女の力、ここで試してみない?レミィと対峙できるほどの力があるかどうか。」

私は、スペルカードを掲げる。と、同時に私の足元に現れる紫の魔方陣。『悪魔』は立ち上がり、二、三歩間合いを取ると

「さっきのリベンジってところかしらね。良いわ…かかってきな!!」


「火符『アグニシャイン』」

先ほど『悪魔』と対峙したときに使ったスペルをもう一度発動させる。
私の周りを取り囲む炎の弾幕。
さっきは発動5秒くらいで被弾したみたいだけど、今度はどうかしら。

「さっきと同じ攻撃が通用すると、思うなよっ!!!」

『悪魔』は、先ほどとは打って変わって冷静に炎の弾を小さく動いて避ける。
私は思わずため息を漏らす。
次はこれかしらね。

「水符『プリンセスウンディネ』」

炎の弾幕からがらりと変わって水柱と水弾で構成された弾幕が『悪魔』に向かって飛び出す。
周りに拡がる水弾と、全て『悪魔』を狙って飛ぶ水柱。今度は避けられるかしら。
『悪魔』は不敵に口だけで微笑むと、

「なめんな!!」

自身の体から目いっぱいの衝撃波を放出させ、爆音と爆風と共に私の弾幕を全て吹き飛ばしてしまった。
ぼとぼとと私の目の前で落ちる水弾、爆風によって起きたカマイタチに私の頬は傷つけられた。血が少し流れたのを感じた。
やっぱりこの妖魔、そこいらに飛び回ってる妖魔なんかより強い。私は体を小さく震わせた。自分が生み出したものに、こんなに興奮するなんて。
『悪魔』は私の弾幕を完全に消滅させると、図書館に響き渡る大声で笑い出すと、

「本気出せば、こんな弾幕、全部吹っ飛ばせる!次は私の番だ!!」

六芒星の魔方陣を発動させると、『悪魔』の周りに夥しい数の大弾、小弾が湧き出る。

私は、自分の懐を探り、本日最後のスペルカードを取り出した。スペルは一日に三枚以内。じゃないと私の体が危ういから。

「そうね、私は貴女をなめていたわ、『悪魔』。」
「かかってこい!その弾幕も消し去ってやる!」
「だから、今までのお詫びもこめて」

私はカードを高く掲げると、本日最後にして、最強のスペルカードを発動させる。

「私も本気を出させてもらうわ。」


「火水木金土符『賢者の石』」

火、水、木、金、土の魔方陣が私の周りを取り囲み、それぞれの属性の弾を無限に発生させる。
その弾は、次々と湧き、しまいには図書館全体を埋め尽くすようになっていた。
『悪魔』は、そんな私の弾幕を呆然とした様子で眺めていた。そして、


「こ、こんなの避けられるわけないだろー!ばかぁぁぁぁぁぁ!!」


被弾した。『悪魔』の脇腹にめり込んだ弾が爆発すると、『悪魔』は床に倒れこんだ。

「うぅ…」
「貴女、私の弾幕を全て避けられないうちは、レミィに挑んでも無駄。殺されるだけよ」
「…。」
「レミィは、私なんかより、ずっと強い。」

『悪魔』は床にうずくまって私を見ようともしない。相当こたえたのだろう。
そんな『悪魔』に私は更に続ける。

「それより、貴女との弾幕ごっこで図書館が随分散らかってしまったわ。ちょっと本を片付けるのを手伝ってくれない?」
「何で私がそんなこと。」
「等価交換よ。貴女が私の図書館の本の片付けやその他諸々をやってくれるっていうならば、ここを貴女の修行(ないしは研究)の場に使わせてあげる。」

『悪魔』は急に起き上がって、私をじっと睨むと「等価、じゃなくない?」と口を尖らせた。
私は「今のままでレミィに吹っ飛ばされるよりはマシだと思うけど」と返した。

「ま、本の片付けくらい、やってやるよ。…なんか、懐かしい感じがするし。悪くはないと思うし。」

と、立ち上がると、自分の周りに散らばっている本をまとめ始める『悪魔』
その姿を見て私は満ち足りた気分になった。

良かった。
という気分にもなった。
何が良かったんだかは、はっきりとはわからないけど。
少なくとも、ずっと一人でここで過ごしていた日々が、今日で終わるということは、多少なりとも喜ばしいことではあった。

「よろしく、『小悪魔』。」

私は目の前で本を片付ける『悪魔』と名乗る妖魔をこれからこう呼ぶことにした。
悪魔ではないけれど、『悪魔』。悪魔と呼ぶには力が足りない『悪魔』、という意味を込めて…。

「『小』は余計だし。」

小悪魔は不満そうな顔を私に向けて、すぐにそらしてまた本を片付ける。
その姿が私には少し、嬉しかった。


「ぱ……、パチュリー!!」

あれから50年、小悪魔はここでの修行の成果がようやくでてきたらしい。
まだ自分の必殺技といえるスペルカードは開発できていないらしいけど、彼女の発動する弾幕だけで図書館に侵入してくる鼠は十分に追い払うことができていた。
そんな小悪魔が、何者かにこてんぱんにやられたらしく、半分泣きが入った状態でいつものように読書に明け暮れる私のところへと駆け込んできた。

「どうしたの小悪魔、鼠一匹追い払えなかったの?」
「それが、今日の鼠はいつもと違うんだよ~!」
「いつもと違う?」
「紅白の変な服を着てて…、お払い棒みたいなの持ってて……、あぁもうとにかく紅白の変な奴がすごい形相で襲い掛かってきて!」

私は読んでいた本を閉じると、それを小悪魔に渡し

「小悪魔、この本はまだ読みかけだから、栞を挟んでおいてちょうだい。すぐ戻るわ。」
「パチュリー…」

私はうるさく爆発が続く方へ向かって飛び立った。
いったい何が目的なのか知らないけど、私の図書館で暴れる輩は許さない。

「そこの紅白!止まりなさい!!」

<END>
初めまして、KZKYと申します。
投稿させていただいた作品は紅魔郷以前の紅魔館を舞台としたパチュリーのお話です。
パチュリーと、彼女の従者?である小悪魔との出会いをテーマに書かせていただきました。
原作ではあまりはっきりとした設定がついていない小悪魔とパチュリーの関係は一体どういったものなのだろう、という妄想を膨らませた結果、こういったSSに仕上がりました。

ここまで読んでくださってありがとうございますm(_ _)m

KZKY
KZKY
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コメント



0.750簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
ワイルドな小悪魔も新鮮ですねぇ……
7.70SETH削除
新しい切り口に素直に感動しました!
21.70irusu削除
意外と強いですね。小悪魔