Coolier - 新生・東方創想話

こんな私の未来永劫

2006/03/13 01:59:05
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 パチュリー、ノーレッジ。彼女は魔女である。魔女と言われている人間なのではない。魔女という種族なのである。
 紅魔館の魔法図書館の番人にして最も多彩かつ強力な魔法を扱う魔法使い。得手不得手の問題ではなく、彼女にとって魔法とは須らく自分の物なのである。特別な事――例えば八卦炉や人形を媒介――などしていなければ、自分に再現、否、超えられない魔法は存在しないとまで豪語する。そしてそれは正しい。
 人々は彼女の事を、畏怖か、或いは尊敬の念を込めて『七曜の魔法使い』と呼ぶ。彼女を純然たる魔法で越えられるものは居ないという、何よりの証明だろう。
 魔法とは正に、パチュリー・ノーレッジにとって絶対的な自信なのである。驕るでもなく、たとえ他の何で劣ろうとも魔法のみは我が前を歩かせず、と。
 だからこそ、パチュリーは今回、酷くプライドを傷つけられた。それは、終わらぬ夜と満ちぬ月の事件である。
 はっきり言えば、満月を隠す事などパチュリーにとっては造作もない。ただわざわざ隠すのは労力の割りに意味がないからやらないだけだ。友人の不利益になることもしたくはない。終わらぬ夜に関して言えば、夜を止めたのはパチュリーである。彼女の友人、レミリア・スカーレットは自分でも夜を止められるだろうに、面倒臭がりパチュリーに押し付けてきた。特に拒否する理由もなかったので引き受けたが。
 しかし、今になって思えば自分が自ら打って出ていれば良かったと、パチュリーは激しく後悔した。まさか、こんなところに不死者が居るとは思わなかったのだ。
 元来、完全な不死とは遥か中国に伝えられる存在、仙人のみが獲得できたものだ。他の不死とは――友人には悪いが、長く生きられるだけの劣等品である。制約も多い。魔女や吸血鬼は、人間が望む望まざるに関わらず不死を手にして変質してしまった姿なのだ。
 パチュリーも書物が全くと言っていいほど残っていないため、詳しくは知らないが、仙人とは己自身が自然と一体化する究極の秘術らしい。魂が自然となり、一つの世界となると言う事は永遠に自分の中でのみ輪廻転生を繰り返すと言う事。肉体朽ち果てようとも、巡り巡って元の器を作り出す。須らくを極め、究極の悟りを開いた者のみがたどり着けると言う。
 レミリア・スカーレットと十六夜咲夜の話によれば、それが三人。
 在りえない。パチュリーはそう断言する。己を世界と確定するほどの者が、此処に三人など在りえる筈が無い。しかも、月がどうした、恨みがどうした、などと騒いでいる者が果たして一角ほどの悟りも開いているのだろうか。まだ今代の博麗の巫女の方が悟りを開いていると言うものだ。
 ならば、手段は一つだろう。人工的に仙人を作ったのだ。手段は知らない。何かの能力か、特殊な薬か、或いは――魔法か。
 魔法かもしれない、その可能性一つで、パチュリーのプライドは深く傷つけられている。
 完全なる不老不死とは、生者の秘法とは、かつてパチュリーが断念した術である。何をどうなどと言う瑣末事ではないのだ。どんなに1に近づこうとしてもたどり着けなかった、それだけである。
 こうなったのであれば、その業を解析し、それ以上の業を作り出さなければ満足できない。負けるのは言うまでもなく、二番煎じなど持っての他だ。
 七曜七冊の魔道書を持ち、作り出した空気の椅子に乗りながら、動かない大図書館は今動き出す。

 ランダムに生える竹が鬱陶しい。笹が視界をさえぎるのも、微かに体に触れるのもどれも気に入らない。非常に気分が悪くも、パチュリーは前に進んだ。
 向かう先は、永遠亭である。理由は二つ、所在がはっきりしているのと、永遠の命を持った者が二人居る事である。とはいえ、この選択は失敗だったか。パチュリーは早くも後悔していた。
 方向こそ間違えないが、なにしろ遠い。魔理沙のように高速で飛べるわけでもなく、霊夢のように飛んでいるだけで自然と障害物を回避するわけでもない。もう少し速度を出そうと思えば出せるが、これ以上は体に障る。正直、今の体調はあまりよろしくない。
 進み、ぺしり。笹が額に当たる。いい加減辺りを薙ぎ払おうかと思ってしまう。今日は特に争おうとしてやって来た訳ではないので、ちょっとくらい魔力を消費しても問題ないのではないだろうか。
 ささくれた自分の思考を、中断させる。もしここで竹を全て破壊し進んだとして、永遠亭の面々の怒りを買うのは得策ではないだろう。第一目標は、頼んで体をもらう事なのだ。
 緩々と進み、やっと竹の隙間から永遠亭らしきものが見えてくる。いつもはメイドに揉ませている肩を自分で揉みながら、ぴたりと、進行を止めた。眼つきはいつもの緩いそれではなく、剣呑なものに変わっている。
 言葉を発さない。在るのは、僅かながらの音だけだ。
 数秒ほど経っただろうか。やがて何もない場所から不自然な音が鳴り、存在しないはずの誰かが姿を現した。幼い容姿にはいささか不釣合いな三白眼を構えた、小さな兎だ。
「よくわかったわね」
「当然よ」
 僅かながらの問答。パチュリーと兎は、相互に睨みあう。
「ま、何の用かは知らないけど。一応通すなって言われてるのよね」
「知ってる? 最近の猫いらずはザルなの」
 兎が両の手を開き、前に突き出す。対してパチュリーは動きもしない。その代わり、パチュリーの周囲を浮遊している七冊の本の中の一冊が開いた。
 そこで急に、パチュリーはある言葉を思い出した。
 ――パチュリー様には――
 開いた本は閉じ、同時にパチュリーの魔力も消える。兎もその気配に気付いたのだろう、不審に思いながらも手を下げた。
「何のつもりよ」
「別に、争いに来たわけじゃないの」
「でもここは通さないよ」
 むぅ、パチュリーが唸る。本当ならば無理矢理叩きのめすのが一番手っ取り早い方法であるが、それはためらわれる。この兎、この場所で出てくるのならば恐らく永遠亭の者であるだろうし、何よりある言葉が思い出される。
 仕方無しに、パチュリーは背中に浮いていた袋の中から一つを取り出し、兎に投げた。兎はそれをとっさに受け取る。まじまじと観察してはいるが、それがなんだか分からない様子だ。
「何よこれ」
「魔道具。売れば安くはない額にはなるわ」
「そう。ギブ・アンド・テイクって事ね。いいわ、ついて来て」
「案内はいらないけど」
「このまま通したら私がサボってるみたいに思われるじゃない。いいからついてくんの」
 成る程。そこまで気の回らなかったパチュリーは納得した。確かに、紅魔館の門番が初対面の者をただ通しただけでは、職務怠慢と思われるのがおちであろう。
 通りすがら、複数の目線を感じる。歓迎しているのではなく、恐らく警告だろう。お前は包囲されている、下手な真似をするなという。特に何かするつもりのなかったパチュリーは、その視線を軽くかわした。
 現れないものなど気にする必要はない。数だけの有象無象など、パチュリーが一つ魔法を唱えるだけで終わる。それよりも気にすべきは、目の前の兎だろう。実力の程は分からないが、何故か彼女にはパチュリーが良く知る人間のような――賢しさを感じる。
「私はパチュリー・ノーレッジ。貴女、名前は?」
「は?」
「名前。固有名詞は友好の第一歩」
「言う必要ないでしょ。あんたと友好を深めようとも思ってないわよ」
 軽く一蹴され、へこむ。紅魔館以外の場所でさしたる会話もしないパチュリーにとっては、割と勇気の要る行為だった。自然と不機嫌な、というよりもいじけた表情になる。それを見た兎の顔は、剣呑を帯びた三白眼とはまた別な切れ目になった。
「あんたって、なんて言うか……変な奴ね」
「友好の第一歩」
「ああもう、分かったわよ。てゐよ、因幡てゐ」
 パチュリーは満足し、頷く。まず第一歩は踏み出せた。少なくとも、パチュリーはそう思っている。
「やっぱ変ね」
 言い、てゐは後ろに向けていた目を前に戻す。
 互いに名前を知ったからとて、会話が弾むわけでもなく無言で進む。それが気まずくなる前に永遠亭に着くのだから問題は無いが。
 縁側に降り立ったてゐは、何も言わずに障子を開く。玄関らしきものをパチュリーは見ていたが、そちらから入らなくていいのだろうかとどうでもいい事を考えていた。
 靴を投げ捨て、ずかずかと入っていったてゐに続く。疲れて歩くのも億劫なので、浮いたまま後に続いた。
「お姫様、永琳様、なんか客です」
「なんかって、貴女ね……」
 呻いたのは、帽子を被り横に弓と矢を控えさせている女だ。正面の少女は、何かを書いていたのだろう、筆を持って不思議そうにパチュリーを見ている。
 両者、なんとなくそこにいるが、感じる力は相当なものだ。恐らくはレミリアレベルだろう。しかし、やはり不老不死に至る程とは思えない。パチュリーの予想は当たっていたと見て間違いない。
「ふーん、客なんて……、まぁ、最近では珍しくないか。それで、あんた誰?」
 筆をパチュリーに向けながら、少女が言う。見た目は少女のそれだが、中々の雰囲気がある。
「パチュリー・ノーレッジ」
 パチュリーが答える。それに対し、少女の方が何か言おうとしたが、女性の方が手で静止する。
「失礼ですが、どういった手でここまで? てゐには見張りを命じていたんですけれども」
「魔道具を渡したら案内してくれたわ」
 すッと、女性の目蓋が半分落ちる。てゐを探した瞳は、目的の人物を探し出す事ができなかった。てゐは女性が手を上げた時点で既に逃げている。危ない雰囲気を既に悟っていた。
「全く、逃げ足の速い……」
「まぁ、いいじゃない。イナバの一匹や二匹」
 肘を突きながら、少女が言う。筆は既に硯に置いている。
 少女は座を直し、パチュリーの方に向く。パチュリーが浮いているので、少々見上げる形になった。
「私達、特に縁があったわけじゃないわよね。一応聞いとくけど、あんたどこの人? 場合によっちゃ叩き出すから。あ、ちなみに私が輝夜でこっちが永琳ね」
「紅魔館から来たの。貴女達に用事があって来たわ。貴方達の事はレミィから聞いたの」
 輝夜の笑みが僅かに崩れた。パチュリーに勘付かれないように十二単を気にしながら、背後に手を回す。永琳は微動だにしないものの、座った体勢のまま僅かに腰を落とす。指先は弓に触れているだろう。
「争いに来たわけじゃないわ。貴方達と交渉があって来たのよ」
「土足で家に上がりこむ人間の言葉を信じろと?」
 永琳が棘のある口調で言う。パチュリーは下を向いてみると、確かに自分は靴を履いていた。普段から浮いているパチュリーに靴は必要ないが、気分的に嫌なので一応履いてはいる。ちなみにその靴で地面を踏んだ事は無い。
 パチュリーが手を動かすと、輝夜と永琳が同時に膝立ちになる。パチュリーはそれを気にせず、靴を脱ぐと外に投げ捨てた。輝夜と永琳はそれを見て、一瞬呆気に取られる。
「これでいいかしら」
「まあ、いいけど……」
「なんていうかあんた、あの悪魔とメイドの知り合いにしては随分常識的ね」
「……彼女達は一体何をやったのかしら」
「私はナイフを刺されたわ」
「私は首を捌かれたわね。おかげでお気に入りの着物が着れなくなったの」
 内心、パチュリーは呆れる。なんとも血生臭いのが好きな主従だ。もうちょっと穏便に事を済ませる事を覚えた方がいいと思う。
 ――咲夜、人の事言えないじゃない。的確な事を言う割には自分は実行しないメイドに、届かない悪態をついた。
「それで、私の話は聞いてくれるのかしら」
「まぁ、押し入り強盗でもないなら人並みには聞くけど」
 それは魔理沙の専売特許だ、そんな言葉を飲み込む。世の中には言わなくてもいい事がある。
 ようやく本題に入れる事に満足しながら口を開き、すぐに声を飲み込んだ。また、いつかの言葉がパチュリーの中に蘇る。
 ――パチュリー様には、社交性が著しく欠落していますわ。
 どれほど前か、懐かしむほど昔ではなかったと思う。パチュリーはある問いを十六夜咲夜にした時に、そんな答えが返ってきた。
 昔、パチュリーは思うところがあり他者と会話を弾ませようとした。ところが、レミリア、フランドール、咲夜以外の人物は、パチュリーと長く話しているとこぞって嫌そうな顔をする。非常に遺憾に思いながらも、パチュリーはレミリアとフランドールに原因を聞いてみた。二人とも、心当たりは無いらしい。最後の頼みのつもりで咲夜に聞くと、咲夜はとても楽しそうな顔でそう答えたのだ。
 冷徹な事に評定のある咲夜であるが、社交的でない事は無い。博麗の巫女などよりは、よほど社交性を持っているだろう。ただし、それをあまり発揮しないだけである。やればできる彼女が言うのであれば、それはまず間違いないだろう。パチュリーはそう思っている。
 そして、今はその社交性が最も問われる部分だと、パチュリーは判断した。十六夜咲夜を真似るように、社交性を発揮しなければいけない。
 パチュリーは気付かない。パチュリーが知っている普段の十六夜咲夜は、社交性が皆無である事。この場合は社交性よりも交渉能力が必要とされている事。全く無駄な手順を踏んで無駄な行為をとろうとしている。
 咲夜ならばどう言うか、十分に吟味し、パチュリーはやっと言葉を発した。
「貴女達の体が欲しいわ。私に体の全てを頂戴」
 硬直。約10秒間輝夜と永琳は凍り、やがて目を覚ました後、顔といわず耳といわず、全身を羞恥の赤に染めて全力で弾幕をパチュリーに叩き込んだ。



     ◆◆◆◆◆◆◆◆



「じゃあ、今日はこれで帰るが、くれぐれも体には気をつけるんだぞ」
「分かったわよ。まったく、慧音は心配性ね。怪我しようが病気しようが、一度死ねば直るんだから」
「そんな考え方はいかんぞ。命は尊くあるべきだ」
 はいはい、そんな適当な返事をしながら、妹紅は答えた。
 まったく、慧音は心配性だ。妹紅は慧音を見送りながら、そんな事を考える。
 彼女、藤原妹紅は蓬莱人である。例え肉体が滅びようとも、その魂さえあらば幾度でも復活する。それは不死と言うべきか、それとも無限蘇生者と言うべきか。どちらにしろ、尊い命など遠い昔に置いてきた。
 慧音が見えなくなると、妹紅は手に持っていた鍬を担いだ。最初の頃は持ち上げるのでさえ億劫であったそれは、今では一年中振り下ろしていても問題ない。人の順応能力はよくできている。
 小さく息を吐きながら、鍬を下ろす。最初は腕力で振っていたこれも、今は鍬の自重で下ろすことを覚えた。
 畑を耕し、種を撒き、草を毟るといったことを、一体どれだけ続けてきたか。腰に手を当て伸びをし、あたりを見回す。
 決して大きくはなくも、ここは自給自足に困らない程度のものが揃っている。各種の野菜が植えてある畑、山の上であるために棚田にして米を育て、その中心には小さい家が建っている。質素であるが、妹紅はこの生活が気に入っていた。
 汗を拭い、先ほど慧音が持ってきた蜜柑を食べる。甘味程良く、水分の足りない体に染み渡る。労働がこれほど気持ちがいいなど、昔は知らなかった事だ。
 蜜柑を食べているうちに、あるものに気がついた。今は米粒程の大きさだが、何者かが緩やかに接近してきている。桃色の服を着た、始めてみる女だ。まだなんとも言えないが、友好的である事を期待する訳にはいかないだろう。
 相手がここに着く前に、蜜柑を食べきる。そして、面倒臭そうに首を鳴らした。
 ――畑、壊れないかなぁ。自分の身に危機が迫っているかもしれないと言うのに、彼女は酷く冷静だった。どうせ死んでもすぐ復活するならば、壊れて直らないものを心配する。自分の命は無限に替えが効くのであれば、心配するほどのものではない。
 漸く顔が見える所まで来た女は緩やかに制止しながら、衛星のように周囲を回っていた七冊の本を開く。完全に敵意をむき出しにしている相手に、妹紅はやはり面倒臭そうに宙に浮いた。

 体が痛い。先ほどの二人がいきなり展開した弾幕が、まだ体に響いている。パチュリーはその痛みに怒りを露わにしながら、目の前の仙人もどきと思わしき女に本を向けた。
 先程、パチュリーは精一杯社交的に振舞った積もりなのだが。それを、彼女達は実力行使という形でたたき出したのだ。拒否をするならば分かる。だが、いきなり尋ねた人間を殴り飛ばすような真似をするとは、夢にも思わなかった。
 結局、手段こそ知らないが不完全な仙人の手法なぞを手に入れて喜んでいる連中に社交性を期待する方が間違っている、そう割り切る事にした。どうせ幾度も蘇生するのだ。であれば、実力行使で殺し体を持ち帰ればいい。
 体の調子はすこぶる悪いが、戦闘には支障が無いだろう。元々戦闘に肉体的な手段を扱わないパチュリーにとって、魔法さえ唱えられれば腕が無かろうが足が無かろうが関係ない。
 パチュリーが止まると、対象と思わしき女が浮いた。面倒そうに欠伸などしながら正面に立つ。倒せないとでも思っているのだろうか、気に入らない。
 女は気だるそうに、パチュリーに話しかけた。
「今仕事中だし面倒臭いからさぁ、このまま帰ってくれると私も助かるんだけど」
「黙れ」
 一言で切り捨てる。先程の例から、もう聞く耳を持つ気はない。
「おお怖い。まぁね、なら泣きべそかいて帰ってもらうわよ」
「黙れと言ったわ」
「……ふうん。ああそうかい」
 女の雰囲気が変わる。が、どれほどの実力や怒りだろうともパチュリーには関係ない。とっとと殺してしまえばいいのだ。
 女がポケットから手を取り出し、一枚のカードが鳥の形に燃え上がる。その炎は一気に肥大化して、彼女を包み込んだ。それを見てパチュリーは、何を馬鹿な事を、と嘲た。
 実際、彼女の火の鳥は見事な威力であろう。もしやすれば、破壊の力を持つフランドールに匹敵するかもしれない。しかし、彼女はフランドールと違い力の全てを威力に回しているのだ。そんな事をすれば、余波を制御しない分体を焼かれるに決まっている。実際、彼女の体は焦げて炭化し、嫌な臭いを発していた。
 だが、焼かれているはずの彼女は、なんでもないような顔をしている。炭化した体がぼろぼろと落ち、その下に新しい体が生えている。成る程、無限に生き返ることを最大限に利用しての攻撃方法か。パチュリーは納得した。
 まあ、如何に威力に優れようと問題は無い。相手の最も苦手とする手段を選べばいいだけだ。火には水。
 パチュリーはスペルカードを取り出さない。その代わりに、七冊の内の一冊が前に出て、ページが勢いよく捲られる。そして、本から水が溢れ、槍を模ると火の鳥に突撃する。
 威力で負けているのであれば、力を一点に集中すればいい。百に千の力を割り振るよりも、十に二百の力を割り振った方が強力だ。
 火の鳥と水の槍が激突する。周囲が全く見えなくなるほどの白煙を立ち上らせ、高温の蒸気が大気を焼いた。
 やがて女に焦りの表情が見えてくる。火の鳥はいまだ万全に近い状態であるが、一点のみが破られそうになっている。このまま進めば、間違いなく自分を串刺しにすると思ったであろう。
 槍を回避しようと女が動くが、それを許すほどパチュリーは甘くない。勢いを上げて、一気に火の鳥を貫こうとする。女に突き刺さるまであと一歩という所で、パチュリーが盛大に咳き込んだ。
 改めて考えずとも、元々が病弱であり碌に運動もしないような少女が、珍しく遠出をした上に激しい運動をしたとあっては、体を壊すのは当然だ。先の弾幕で体は危険信号を通り越し、一時的に痛覚と疲労を遮断した。そして、この度の魔法が祟り、今までの疲労が一気に出てきたのだ。
 火の鳥を破られた女は、無駄と分かっていても槍を手で止めようとする。しかし、槍は体に届く前に掻き消えた。
「お前っ! 情けでも……」
 全て言い切れなかった。パチュリーの体が今までの勢いに逆らう事無く、女の胸に飛び込む。女は咄嗟にパチュリーを抱きかかえた。
 怪訝な顔をしてパチュリーの顔を覗く。そこには死に際の老人も真っ青な顔があった。冷や汗が全身を支配している。
 こぷり。空ろな目をして僅かに震えていたパチュリーが、血を盛大に吐いた。決して綺麗ではない白地の服が、少し黒みのある赤に染まった。
「つッ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 名前も知らない女の絶叫と共に、パチュリーの意識は旅立った。

 体の酷い不快感に、パチュリーの目は覚めた。視界に入ったのは、染みが強い木目の天井。長く生きているとは言え、日本家屋の天井を見ながら目覚めるのは初めてだ。
 体を起こそうとして、やめた。反応が物凄く鈍い。命に別状は無いだろうが、だからと言って無理をしていい体でもない。おとなしく寝ていることにする。
 僅かに首を傾け、あたりを見回した。周囲には、殆どと言ってもいいほど何も無い。部屋の大きさは八畳程度で、小物こそ少しはあるものの目立つものは釜戸のみ。それでいて生活感があるのだから、質素であるとしか言いようが無い。
 少しだけ感覚が戻ってきた体で、感触を探る。今、自分に掛かっているものは布団だ。霊夢の家で一度だけ見た事がある。思い返し、これはそれよりも粗悪なものであると訂正する。布団は年季が入り、床に近い感触を持っている。掛け布団も同様だ。紅魔館のベッドとは比べるべくも無い。尤も、今はそんな布団ですら有り難いが。
 頭上に変な感触を感じる。見上げてみると、そこにはパチュリーが持っていた七冊の本と、魔道具が置かれていた。大切な本が無くなっていなかった事に、パチュリーは安心のため息を漏らす。
 一通り部屋の中を見回して、一つの疑問が浮かんだ。――此処は何処だろう。パチュリーが知る限り、このような構成の部屋はしらない。最も似ているのは永遠亭だが、それでも規模が全然違った。こうしてパチュリーを家に入れているのだから、悪意的ではないと思うのだが。
 木の間から光を漏らしている戸が、音を立てて開いた。入ってきたのは襤褸の服を着た女である。あの、パチュリーと戦った女だ。
「目、覚めたのか。良かったよ」
 肩から下げた手ぬぐいで、頬を拭いている。顔は土で汚れているが、健康的である。
「起きれるかい?」
 声を出すのも億劫なパチュリーは、首を振る事で答える。女は短く、そうか、とだけ答えた。
「あんた、2日も眠ってたんだよ。最初は死んだのかと思ってたけど、生きてて良かった。あんなんで死なれたら目覚めが悪いしね」
 パチュリーに笑いかけ、彼女は台所に行く。釜戸に火は着けない。その代わりに足の甲をつっこんで、そこから火を出していた。香草の匂いがして、彼女が料理をしているのだと知る。
 パチュリーは彼女の後姿を見ながら、何故自分を殺さなかったのかと考えた。命を狙いに来たと言うのに、悪意を持って接したと言うのに。彼女はこうして、パチュリーを助けている。全く、変な奴だ。彼女の姿が、なんとなく博麗の巫女と重なった。
 料理を終えた女が、土鍋を持って戻ってくる。背後に回ると、パチュリーを起こして少し持ち上げ、そこに自分が胡坐を掻いてパチュリーを乗せる。パチュリーは自然と、女にもたれかかる形になった。
 念のため、といった風に女が聞く。
「あんた、自分で食えるかい?」
 両手とも力を入れてみたが、どうにも上がらない。仕方なく、首を振る。
 女は小さく、だろうね、と答えた。底の深いスプーンのような物で、中身を救う。白い色と静寂を語るような匂いが、パチュリーに届いた。
「先に言っとくけど、これは滋養のもんだから味は保障しないよ。あ、熱いのは平気?」
 パチュリーは初めて頷いた。
 その料理の味は、女の言葉とは逆にとても美味く、体の隅々にまで染み渡った。

 次の日、パチュリーはなんとか体を起こせる程度までは回復した。レミリアならば、その日のうちに回復していただろう。この時ばかりは自分の体を疎ましく思った。いや、本来であればもっと時間がかかったかもしれない。あの滋養の食事のおかげだろうか。
 両手で体を支えて、身を起こす。その時、初めて自分が何を着ているのか気付いた。服の至る所に札が貼ってある。パチュリーが思うに、これはブースターだ。攻撃の威力等、色々なものを増幅させる。今で言えば、パチュリーの回復能力を増幅させている。
「おい、あんた起きて大丈夫なのか?」
 昨日と同じように入ってきた女が、パチュリーに聞いた。パチュリーは大丈夫と答えようとしたが、咳き込む。
 女が近づいてきたが、それを手で制した。そして、小さく魔法を唱える。体が酷く弱っているため、それに比例して魔力も弱っている。通常ならばこれでは回復魔法も効果を成さないだろうが、この服についている増幅装置があれば別だ。パチュリーを淡い光が包み、体を回復させていく。
 万全とは言い難いが、体調だけは戻った。魔力の回復には時間が掛かるだろうが、それでも浮く事くらいはできる。やはり小さく唱え、パチュリーは空気で作った椅子の上に乗った。
「一応大丈夫よ。ありがとう」
「へぇ、凄いね。魔法ってのはそんな事もできるんだ」
 女が感心しながら、声を漏らした。パチュリーをまじまじと見ている。
「あんた、結構辛そうだったから慧音に治してもらおうかと思ったんだけど、この分なら大丈夫そうだ」
 慧音、その言葉に記憶が引っかかった。そう、確かレミリアと咲夜が言っていた。歴史の獣だっただろうか。
「あぁ、そうだ。何日も遅れて今更だけど、私の名前は藤原妹紅。あんたは?」
「……パチュリー・ノーレッジ」
 一瞬答えようかどうか迷ったが、結局言う事にした。名乗られて名乗らないのは無礼であるし、相手はあの殺し合いをもう気にしていない様子だ。
 何故、自分を殺そうとした相手にこうして接することができるのだろうかと、パチュリーは考えた。どんなに気楽な気質であったとしても、恨みないし警戒くらいはするだろう。それなのに、彼女はパチュリーに笑いかけている。なんとも不思議な感覚だった。これが、無限蘇生者としての気質なのだろうか。
「邪魔するぞ」
「ああ、来たね。ようこそ慧音」
 入ってきたのは、青い服を着た長髪の人間。ただし、そこには僅かならず人外のものが混ざっている。
 成る程、混血か。予想はしていたが、実物を見るのは始めてである。
「彼女がそうなのか?」
「うん。パチュリーって言うんだって。体調は良くないようだったけど、魔法で回復してたよ。便利なもんだ」
「だから、私はいつも言っているではないか。炎の魔法以外にも覚えた方が良い。便利なんだぞ」
「いいよ、私は。紅く染める業だけあれば」
 言って、妹紅は小さく笑った。楽しそうにではなく、少し悲しそうに。
「良かったじゃない」
 パチュリーが言う。二人は不思議そうにした。慧音が聞く。
「何がだ?」
「紅く染まれて」
「あんな染まり方嬉しくないよ」
 妹紅が顔を引きつらせる。慧音は話が理解できず、パチュリーと妹紅を不思議そうに見ていた。
「そうだ、妹紅。そろそろ行こう」
「ああ、そうだね」
 妹紅が土に汚れた服を脱ぎ捨てて、パチュリーが今来ている服と同じものに着替える。自分が着ているものは彼女の普段着だったと、今更ながら気付いた。
 それで、何処に行くのだろう。どこかに行くとして、自分はどうすればいいのか。パチュリーは悩んだ。一応動けるのだから、このまま居座り続けるのもあまり心地よいものではない。
 妹紅は悩むパチュリーに気付いて、言った。
「これから人間の里まで下りるんだよ。パチュリーはまあ、好きにしててくれ」
「……私も行っていいかしら?」
 少し悩み、パチュリーは答えた。その答えが余程意外だったのだろう、妹紅が目を丸くする。
 パチュリーの言葉に慧音が目を細くする。そして一歩進んだ。
 最初から気付いていた事。慧音がパチュリーに向ける視線は、妹紅のそれとは異なった。親愛云々ではなく、人間を見る目と人外を見る目。彼女は今、パチュリーを一人の妖怪として見ている。
「人の里に連れて行くのはやぶさかじゃない。だが、人に咎しようというのなら、私は貴女を叩き潰す」
「そんな積もりは無いわよ。人食は趣味じゃない。貴女や人の不利益になるような事はしないと誓うわ」
 慧音はしばらくパチュリーの瞳を見つめ、やがて納得したのだろう、頷いた。
「分かった。だが、一応監視だけはさせて貰うぞ。嘘をついているようには見えないが、全面的に信じるに足る理由も無いからな」
「そうして頂戴」
 こうして、三人は飛び立った。
 パチュリーの体調はやはり完全ではなく、飛ぶ速度も遅く左右に揺れていた。見かねた妹紅がパチュリーを抱えて飛んだ。
 距離的にそれほど離れているわけではないのだろう、妹紅の家から山を下り、ちょっとした平地に村があった。様子から見るに、あまり豊かな村ではないのだろう。それとも、今まで住んでいた所が豊かだったのか、パチュリーには判断できなかった。
 慧音が下りると、村で遊んでいた子供達は一斉に彼女に駆け寄る。続いて妹紅が下りると、パチュリーは再び空気の椅子に座り妹紅から離された。
「おぉ、けーね、けーね!」
「遊ぶの! 今日はもこーもいるね」
 慧音は嬉しそうに、子供達の頭を撫でている。対し妹紅は、慣れないのか気恥ずかしそうに子供に囲まれていた。
 そんな中、一人気の弱そうな子供が慧音に隠れてパチュリーを見ていた。ちらりと見ては慧音に隠れ、そしてまた見れば、やはり隠れる。その様子に気付いた他の子供が、パチュリーを指差す。
「けーね、あれ誰?」
「ああ、すまん。まだ紹介してなかったな。彼女はパチュリー・ノーレッジ。わけあって一緒に来てもらったんだ」
「おぉ、ぱちゅりー、ぱちゅりー!」
 子供が嬉しそうにパチュリーの名を連呼する。パチュリーはどうして良いのか分からず、迷ってしまった。先程から覗いていた子供が、パチュリーに寄って恥ずかしそうに袖口を掴む。パチュリーは助けを求めて、慧音と妹紅を見た。
「頭、撫でてやればいいよ」
 妹紅が近くの子供の頭を撫でながら、言う。パチュリーも真似て子供の頭を撫でた。子供は嬉しそうに笑っている。パチュリーはその手の感触に、霊夢や魔理沙、咲夜とは違った人間の感触を感じた。
 パチュリーは子供を持ち上げ、胸元に抱える。人間の子供はこんなに小さいのか、自分でも変な感想だと思いながら、子供を抱きしめた。
 子供を抱きしめたのを皮切りに、他の子供も寄ってくる。パチュリーは再度困惑した。妹紅は笑って、その内慣れるさ、と言った。
 半刻もしない内に、妹紅の言ったとおりにパチュリーは慣れた。言葉を発せずとも、子供達はパチュリーを求め彼女はそれに応えた。ただそれだけで、子供達はパチュリーを慕ってくれていた。慧音や、妹紅がつれてきたというのが良かったのかもしれない。
 子供と遊んでいると、仕事を終えた大人たちが慧音に寄ってくる。彼女達は二言三言話し、妹紅とパチュリーについて来るように言うと大人たちに連れられて移動した。
 その先は、川だった。水は透き通っておらず、濁った色をしている。雨か何かで増水したのだろう。
「どうしたものか」
「これが、どうかしたの?」
 妹紅が聞く。慧音は話しにくそうに言った。
「いや、防波堤が壊れてしまってな。このままでは里に被害が及ぶから知恵を貸して欲しいと言われたのだが、なにしろ前回作った防波堤は私が知る限り最も強度があったものだ。あれ以上の物は作れないし、この濁流の中作るのも無理に近い」
 慧音の言うとおり、川の勢いはすさまじかった。折れた木が流され、たまに川辺に乗り上げる。多少距離を持って作ったとしても、もしやという事があるかもしれない。
 パチュリーは胸の中で不安そうにしている子供を見て、一つ決めた。
「大丈夫よ」
 誰かが何かをパチュリーに聞いた。しかし、パチュリーはその言葉を無視して魔法を唱える。
 扱うは、土の魔法。土の中に混在する石をつなぎ合わせ、十数枚の岩の板にする。そして、それを川の流れに合うように地面から突出させた。
 流れる大木が岩に当たったのか、鈍い音が響く。しかし、岩は微動だにしなかった。
 無い魔力を振り絞ったため、パチュリーは疲れに嘆息する。これで、村人から恐れられ叩き出されるだろうが、仕方が無いだろう。まだ知りたい事はあったのだが、妹紅や慧音にも、そして子供たちにも恩を貰っている。仇で返すよりは何倍も良い。
 パチュリーが振り向く。そこには、彼女が予想した恐怖の色ではなく感嘆の色があった。
 近づいてきた大人たちに、次々と礼を言われる。パチュリーは目を丸くした。彼らは、異端の業を使うパチュリーを恐怖しない。
「いやしかし、凄いな」
 慧音が新しくできた防波堤を見ながら言う。
「妹紅に水の魔法を使うと聞いていたのだが、まさか土の魔法も、しかもこれほど精密に使うとは」
「彼らは……」
「ん?」
「彼らは驚かないのね」
 パチュリーの呟きに、慧音と妹紅は顔をあわせて笑った。
「私も最初は恐れられたよ。けど、誠意を持って接したら皆理解してくれた。今では皆もすっかり魔法に慣れてしまってね」
「私が鳳凰出した時には、流石に驚かれたけどね」
「あれは君の人が悪かったんだよ。まさか木を焼くのに消し炭にするほどの火力を使うとは誰も思わないだろう」
 はは、と彼女達は笑いあう。悩んだ自分が馬鹿馬鹿しくなり、パチュリーも笑った。

 それから数日、パチュリーは妹紅の家に泊まりながら、彼女らと一緒に里に下りている。
 特に何かをしているわけではない。ただ子供達の相手をして、適当に魔法を使い、妹紅や慧音と喋っている。ただ、それだけだ。それだけの事が、パチュリーには初めての事だった。
 パチュリーは人を見続けた。過度に手は出さずに、しかし少しだけ手を貸し、人間はどう生きるのかを見ていた。
 人は弱い。弱いからこそ群を成す。業はなくとも、あらゆる術を持っていた。
 そんな人間の時が、とても眩しかった。
 そうこうしながら一週間。今では遠巻きにパチュリーを見ていた人も、気軽に話すまでになっている。パチュリーも拙いが、自分の意思を伝える術を学んだ。
 学ぶ所、知る所多いが、ここには長く居過ぎている。レミリアも、パチュリーが生きてることはその能力で分かるだろうが、これほど空けたのではそろそろ心配するかもしれない。近々帰ることになるだろう。多少心寂しくはあるが、仕方が無い。
 子供の相手に疲れて、パチュリーは腰を下ろした。最初はなれなかった草の上に座るという行為も、今では何の違和感も無い。借り物の服で腰を下ろすのはどうかと思ったが、妹紅が何も言わないので気にしていない。
 パチュリーが着て来た服は、汚れ破れてただの布になっていた。妹紅が一応取っておいて、要るか、と聞いたがパチュリーは否定した。魔法で直しても使う気にはなれなかった。だから、今来ているのは妹紅が用意した札が貼ってある服だ。着心地はいまいちだが魔法との相性が良い。中々気に入っている。
 さくり、草を掻き分ける音がした。飛ばずによって来るのは大抵人間だが、この落ち着いた足音は恐らく慧音。彼女は小さく断わると、パチュリーの横に座った。
「貴女に聞きたいことがある」
 パチュリーは答えない。話すつもりであれば言うし、話すつもりにならなければ言わない。ただ、静々と慧音の言葉を待った。
「貴女はなぜ、人間と向き合おうとする。妖怪が人間を襲うというのは、ごく自然な形だろう。妖怪と向き合うことが許されている人間は、妖怪に対抗できる力を持った者たちのみだ。彼らはその力を持ち合わせてはいない。貴女が彼らと向き合う理由はあるのか? それとも――人間が好きなのか?」
「取り合えず、人間が好きなわけじゃないとだけは言っておくわ。他の妖怪より理解があるとは言え、私も自分勝手な妖怪の一人。どちらかを取れと言われた時、私は必ず妖怪を取る。当然、一緒に過ごした時の分、情はあるけど」
 パチュリーの最後の一言に、慧音は安心した。緊張に強張った肩から幾分力が抜けている。
「そういう奴だって、人と積極的に話そうとはしないさ。博麗の巫女も人間だが、あいつですら積極的に関わろうとはしていない。妖怪ならなおさらじゃないのか?」
「霊夢ね」
「知ってるのか?」
「ええ、少し前に。あれも人間、魔理沙も人間、咲夜も人間。けど、人間をこうだとひとまとめにする事はできない。妖怪は簡単にひとまとめにする事ができるのに。彼女達は、人間は、なんであんなにたくさんの色を持っているのかしら」
 後半は、既にパチュリーの一人語りに近かった。それでも慧音は、真剣に聞く。
「私は、人を知りたかったの。だから人と触れ合い話す必要があった。人はどうしてこんなに自由なのか、どうしても知りたかった。人の歴史は、とても本では語れないわ。貴女なら分かっているはず。人外の歴史は、本で語れてしまう程度のものでしかないという事に」
 だから、パチュリーは社交性を求める必要があった。慣れぬ、否、性に合わぬ事をしてまでも。
 人を知りたい。パチュリーが求める物は、人にしかない。そう考える事に、内心自分は人を研究対象としてしか見ていなく、自分が求める事を見つけられないのではないか、知る事ができないのではないかと怯えながらも、それでも知りたかった。自分は所詮人外であり、ただ人を搾取するだけの化け物と知り絶望しようとも、パチュリーは止まれない。
 パチュリーには、己の全てを賭けても求めるものがある。
「はは、私も妖怪なのだがな。手厳しい」
「半分だけでしょう。残りの半分で、何とかしなさい」
「……気付いていたのか」
 当然よ、パチュリーは答えた。慧音は少しの間だけ目を閉じて、やがて言う。
「私はどっちなのだろう。人間か、妖怪か。いくら人と触れ合おうとも、満月の夜になれば私は人ではなくなる。姿形すら変わってしまう。それとも、人でも妖怪でもないのだろうか」
「それは、どちらにでもなれるという事じゃないかしら」
 慧音が目を丸くした。今まで気付かなかったと言う様に。
「貴女は、貴女のなりたい自分になれる権利を持っているんじゃないかしら。私にはそれが輝かしく見える」
「いや、はは、そうだ、そうだよな。私はどちらになる事も恐れてどちらにもならなかった。だが、こうして中途半端で居る事も選択肢の一つだと、何で今まで思わなかったんだろう」
「あえて言葉で言われなければ分からない事もあるわよ」
「成る程、では貴女がその役目を担ってくれたというわけか。礼を言うよ、パチュリー・ノーレッジ」
 慧音が立ち上がり、草が舞う。日に照らされる顔は、清々しいものだった。
「無粋な事を聞いて済まなかったな」
「構わないわよ」
 答えに対し笑いかけ、慧音が去っていく。心地よい風が、去り行く慧音を隠した。
 どれほどの時間か、慧音が十分に離れる程度間をおいて、パチュリーは言った。
「そろそろ出てきたら?」
 景色に溶けていた気配が揺らいだ。気配の主は辺りをうろうろと歩き回り、観念して木の陰から出てくる。
 妹紅は、ばつが悪そうに頭を掻きながら、先程慧音が座っていた場所に落ち着いた。
「あー、まあ、盗み聞きする気じゃなかったんだ。ごめん」
「聞かれて困る内容でもないし、構わないわ。それより、貴女も聞きたいことがあるんじゃないの?」
 うん、そう答えたが、妹紅は中々その次を言わない。二人して、風が通り日が沈むまで、そうしていた。
 太陽の白が赤くなる頃、やっと妹紅は口を開いた。
「あんたは、最初私の命を狙ってきた。何でなんだ? ――永遠の命が、欲しかったの?」
「そんなもの要らないわよ」
 妹紅の問いに、パチュリーはなんの淀みもなく答えた。
「じゃあ、何故」
「意地かしら。誰かが永遠という術を作ったのが、私の中の魔法使いが許さなかったの。だから、命永らえるだけの永遠なんて不要よ。私にはもっと必要なものがある。それを手に入れる為に私は人間を知りたかった」
「人間、か。私は元々人間だったけど、パチュリーが欲しがるようなものなんて、無かったと思うよ」
 ――ああ、そうだったのか。
 彼女に感じていた違和感。彼女は激情を持ち、同時に爛漫も持つ。人を求め、人に求められ。力や身は妖怪のそれであっても、どうも妖怪というには実のあり過ぎる生き方をしていた。元々人間だったからこそ、それを持っているのだろう。
 だからこそ、パチュリーは嘆いた。
「貴女は、馬鹿ね」
 囁く。妹紅に届かなくてもいいと思いながら、それでも彼女は囁いた。
 聞こえていたか、聞こえていなかったのか、妹紅は顔を膝に埋めた。パチュリーは、なおも囁くように語る。
「妖怪の生と人間の生とでは、その性質が全く異なるの。妖怪は、その全ての存在が独りなのよ。喩え誰かと一緒に居たとしても、誰かを好きになったとしても。その重い事態が酷く希薄なの。妖怪は、独りで生きていける。寿命が長く体も強靭、その癖に明日死ぬかも世界の終わりまで生きるかも分からない身。始まるも終わるも、どちらも実感が無い。だから、生き方のそれ自体が泡沫の夢と同じ――」
 妹紅は、パチュリーの横顔を見た。彼女、パチュリー・ノーレッジはそんな思いを背負いながら生きていた。それは、どんな生き方だったのだろうか。
「人間は違うの。人は人と集まり交わり、寄り添って生きてく。人は一人で生きていっても、決して独りにはならない。そうして時を重ねていく。作り上げられた知識は次へと引き継がれ、紡がれていく。消えていく知識もあるでしょう、けど新たに誕生する知識もある。こうして、人は人という種族を全にして、それこそ妖怪なんか比べ物にならないくらいの過去から未来へと全て繋いでいく。人は種族の全てを以って永遠を作り上げたのよ」
 彼女は、羨ましかったのだ。人に嫉妬をしたわけではなく、その知識を手に入れたかったわけでもなく。――ただ、何の力も無い人間が完璧な永遠を手に入れた事が。
 弱いからこそ足掻き、死を知るからこそ抗い、生を知るからこそ伝える。人間だけに許された、なんの力も無い存在を繋ぐ業。世界が終わろうとも消え去る事の無い究極の存在。
 その事に始めて気付いたのは、レミリアが連れて来た咲夜と親しくなってからだっただろ。たかが数年前の事だ。パチュリーの人生と比べれば、それこそ刹那に等しい。それは、霊夢や魔理沙と逢って決定的になった。
 彼女達は、人間達は何故こんなにも色々な事を知っているのだろう。いや、違う。何故人間はこんなにも色々な事を『学ぶ』事を知っているのだろう。
 或る時、パチュリーは咲夜に弾幕ごっこを挑んだ。大きな理由があるわけでもなし、ただの戯れだったが、パチュリーはただの二回目で咲夜に負けた。パチュリーは咲夜の戦い方を解析し再び勝ち、そして四度目にまた負けた。咲夜の戦い方は全て見尽くしたにも関わらずに、咲夜は新しい戦い方を編み出していた。
 パチュリーは四度目の戦いが終わった後、咲夜に聞いた。彼女の戦い方とそれに対する思考、戦略を踏まえ、咲夜が絶対に取り得ない行動を取った事を。咲夜はパチュリーの言葉を聴くと、逆に驚いた。咲夜は、それが出来て当然だと言う。
 パチュリーには、咲夜の言葉が理解できない。彼女の知る限り、そんな戦い方をした相手は一人もいないのだ。
 やがて博麗霊夢と霧雨魔理沙と出会い、パチュリーは理解した。彼女達は、過去からの力を引き継いでいるのだと。妖怪たちのように一代で完成される力ではなく、何代もの研鑽を積んで今に至っているのだと。
 魔理沙は、パチュリーの魔法を盗んだ。しかしそれはただ真似ただけではなく、改良と自己を混ぜ同じようで全く違う魔法になっていた。魔理沙は、たったの数度しか見ていないパチュリーの魔法を自分の魔法にした。
 何故こんなに学び、学ぶ方法を知っている。何故力と積み上げた時が大きく劣る彼女達が、妖怪に対抗できる。
 ――それはきっと、先人の積み上げた歴史。脆弱だからこそ受け継がれる、生を瞬くように生きる人間だからこそ繋がる力。妖怪には、無い力。数々の死を知り、生き急ぐからこそ手に入れた人を繋ぐ永遠。
 歴史とは、本当の意味で歴史とは、人間の物なのだ。独りで生き独りで死に、ある日泡のように消える妖怪には綴る歴史など無い。
 人間は絶対に一人にはならない。何故ならば、それは必ず過去の人間の歴史が人に繋がっているから。それは、独りではなく一人。妖怪は一人になることができ、多人数で生きる妖怪もいるだろう。しかし一人でも生きられる妖怪は、喩えどれほどの人と生きようとも一人ではなく独り。誰からも繋がる事はなくだれにも繋ぐ事はない。
 いくら本を読み更けようとも、知るのは人間の歴史ばかり。人の永遠を欠片も感じられない。
 パチュリーは、人を通して永遠を知りたかった。
「私は――私も、私の永遠が欲しかった」
 そう言って、パチュリーは黄昏て。妹紅は彼女が強いと、心の底から感じた。
「貴女は、生まれながらに生と死を知る存在。たとえ途中永遠の命を手に入れたとしても、それは忘れようとしなければ忘れないわ。それを忘れてまで、妖怪になってまで、貴女は何をするの?」
 妹紅は答えられなかった。答えられる筈が無い。そんな事など、今まで一度たりとも考えた事は無かった。
 どうする、私は人間であったとして、妖怪であったとしてどうする。私は、何をしようとしているのだ。
 輝夜に対する恨みもあっただろう。だがそれは同時に、逃げ口でもあった。永遠の時間を処理しきれない自分が、人間ではない、しかし妖怪にはなりたくなかった自分が作り上げた人間を思い出せる一瞬。
 そうやって日々を過ごした妹紅に、何かをしようと思った事はない。妹紅は、ただ沈黙した。
「貴女は、なんで紅く染まりたかったの?」
「私は――」
 妹紅は沈黙する。言うのか、言って良いのか。こんなにも強い彼女に、自分の惨めな姿を晒すのか。
 私は、誰かに誇れるほどの意志があって紅を欲したのだろうか。
「私は、全部紅く染めたかった。自分も、周りも、憎い敵も。全て全て、紅く染まればいいと思っていた。それに頼らなければ、自分が自分でなくなる気がした」
「なら――そうしなさい」
 予想外。絶対に出てこないと思っていた言葉を聴いて、妹紅はパチュリーを見た。彼女は呆れたわけでも嘲るわけでもなく、真剣に言っていた。
「人間、妖怪に限らず、全てのものは絶対に重ならない。一瞬交わる事はあっても、絶対に一つにはならないのよ。同じ主義主張を掲げたとしても、それは決して同じじゃないの。自分は自分しかいないんだもの。人は、きっと繋ぐものに自分の欠片を混ぜたのよ。自分だからこそ繋いでいける。そして自分の欠片が永遠と連なる。私には繋ぐ相手がいないけど、あなたは自分を繋ぐことができるでしょう。紅こそが自分だと思うなら、永遠に紅の自分を混ぜれば良い」
「私は、紅の私はもう変わらない。それこそが自分になってる。けど――それでも、私は人間でありたい。人ならない命を持っても、たとえ姿が化け物に変わっても、それでも、人でありたいんだ」
 嗚呼――こんな感情をどれほど忘れていただろうか。遠い昔に、蓬莱の薬を飲んだときに忘れていた。
 自分ですら覚えていなかった自分を、彼女は見つけてくれた。他の誰が、妹紅を妹紅と教えてくれただろう。どんな言葉でも言い表せない。ただ、胸に広がるこの想いは、嬉しいというものである、それだけが分かった。
 今ならば言える。妹紅がパチュリーに誇って言える。私は人間であると、声を高らかにして言えるであろう。そして、それを教えてくれたのは貴女だと、張り裂けそうな声を上げるだろう。
 パチュリーによって作られた心を、大切に抱き込んだ。この感情だけは、どうしても離したくない。
「――もし」
 パチュリーの声が妹紅の耳を撫でる。いつも無感動に話している彼女の声に、優しさが乗っていた。
「もし、貴女にその気があるのなら、私の図書館にいらっしゃい。紙面の上だけではあるけど、その程度なら人間を知る事ができるわ」
 きっと、教えられるのはそんな事ではない。それ以上にもっと尊い事を教えられるだろう。彼女の知識は、その全てが自分が自分であるためのものなのだから。
 だから妹紅は、頷いた。
「行く。必ず行くよ」
 パチュリーが立ち上がる。いつものように空気の椅子に座り、妹紅に背を向けた。
 パチュリーは何も言わない。妹紅も何も言わない。けれども、妹紅には分かった。彼女はもうすぐ、ここから居なくなる。きっと帰るのだろう、と。
「私が」
 背中越しに声が聞こえる。妹紅はどうしても振り向く事ができない。振り向いたら、きっと泣いてしまう。
 パチュリーはどの道もうすぐ帰るつもりだったのだろう。しかし、こうして帰る事を決断したのは妹紅のせいだ。パチュリーは、妹紅を進ませるために帰るのだろう。お節介だ。お節介だが、そのお節介はとても優しい。
「私がこの世から消えて無くなった時、貴女は私の欠片を紡いでくれるかしら」
 パチュリーが呟いた。風と草の音で消えてしまいそうなほど小さな声で。しかし、妹紅にはそれがどんな音よりも鮮明に聞こえた。
 妹紅の答えも待たずに、パチュリーは消えた。妹紅はパチュリーが消えた後も、何も言わない。ずっと同じ体勢で座っていた。時折感じる耳障りなほどの風の音は、何故かその中に彼女の声が混ざっている気がして心地よかった。
 パチュリーと過ごした数日、そしてパチュリーを少しだけ知った今を思い返す。味気無いものが多くて苦笑してしまう。味気無くも、どれもこれもにパチュリーを感じられた。今更気付く、彼女はどんな時でも自分を偽らない、彼女の全てだったのだ。或いはそうして、自分を知ってもらいたかったのかもしれない。
 パチュリーに私は見えていただろうか。見えていたらいい。妹紅は想う。何よりも伝えたい自分を、何よりも紡ぎたい自分の欠片を始めて自覚した。長く生きているくせにこんなにも幼い自分だけれども、そこには確かな藤原妹紅を感じた。
 夜が更け、日が昇り始める頃、妹紅は誰も居ない空に向かって、やっとその一言を言えた。
「約束する。私は、パチュリーの欠片を繋ぐよ」
 妹紅が家に帰ると、この数日共に過ごしたはずの彼女はもう居なかった。ただ、七冊の本だけが置かれていた。
 パチュリーが里を訪れる事は、二度と無かった。



     ◆◆◆◆◆◆◆◆



 その日より、私は紅魔館を訪ねるようになった。行き先は、勿論パチュリーの居る大図書館。私はそこで人の歴史、人生、物語まで、人が記した物を読み漁る。たまにパチュリーと話しながらも、基本的には本を読み続けるだけだった。
 当初、慧音はあまり色好い顔をしなかったが、良い方に変わっていく私を見て何も言わなくなった。相変わらず里にも通っている。パチュリーは面倒臭がり行こうとしなかったが、本当は恥ずかしいのかもしれない。私は彼女を見て、笑いながら黙っている事にした。パチュリーはその度にむくれてそっぽを向く。
 徐々に、ではあるが、紅魔館の面々とも付き合うようになった。レミリア・スカーレットは口調で大人を気取っているけれども、以外に子供っぽい。たまに無邪気な面もある。彼女は意識しているのか、それとも無意識なのか、十六夜咲夜にだけは甘える。博麗霊夢にふざけて抱きつく事もあるが、本当の表情を見せているのは咲夜の前だけだろう。
 十六夜咲夜、彼女は人間らしくなく冷徹な印象だった。だが、それはレミリアを見る彼女の目で否定された。彼女はレミリアを見る時のみ、瞳に優しさを帯びる。誰もが完璧で瀟洒な従者と言うが、きっと彼女が完璧なのは主人の前でのみだろう。十六夜、欠けた月。欠けた月は、きっとレミリアが居る時だけ満月になる。
 フランドール・スカーレット。彼女は恐ろしい力を持ち、そしてあまり力加減ができていない。私も殺されはしなかったものの、何度か死ぬほど痛い目にあった。パチュリーが言うには、彼女はこれでも落ち着いたらしい。私は何があったのか聞いたが、あの娘もなかなか頑張ったのよ、としか答えてもらえなかった。
 紅魔館の門番、紅美鈴。初めて紅魔館に訪れた時は、彼女と戦った。正直、舐めて掛かっていたのだろう、気付かないうちに接近され、次の瞬間には吹き飛ばされていた。二度目は勝利したものの、あの時の事を思い出すと今でも体の節々が痛む。パチュリーに話を通しておいてくれてもよかったのにと愚痴ったら、笑いながら、誰もが通る道よ、と言われた。私が拗ねるのも仕方あるまい。美鈴はフランドールが最も信頼している相手だが、何故か門番に留まっている。フランドールの従者になっても良いのではないかと思ったが、今の彼女達を見ているとその事を聞けない。きっと、彼女達だけが知っていて良いことだと思う。
 そして、紅魔館の図書館の番人、パチュリー・ノーレッジ。パチュリーは大抵図書館に居て、めったに出てこない。たまに尋ねてくるレミリアやフランドール、霧雨魔理沙が居なければ話すこともないのではと思うほど、図書館から出なかった。しかし、彼女はこうして図書館に居れば誰かが来る事を知っているから、図書館から出ないのだろう。彼女は魔法と本をこよなく愛している。だが、それと同じ位レミリア達も愛している。気付いていないのは当人ばかりだ。本を読みながら、人に会いながら、たまに渋い顔もするが、彼女は幸せそうに日々を過ごしている。
 私は始めて妖怪達と濃い時間を過ごして、初めて知った事がある。パチュリーは前に、妖怪の歴史は泡のようだと言った。だが、私はそんな事無いと断言する。
 見よ、この紅魔館の面々を。誰もが笑い、のどかに暮らしながらも日々を懸命に生きているではないか。レミリアも、フランドールも、美鈴も、そして貴女も、誰の生も薄くはないよ、パチュリー。私では役不足かもしれないが、私が保証する。
 貴女の姿を、誰にも泡沫とは言わせない。

 少しだけ、時が経った。私も随分紅魔館に慣れてきている。勝手知ったる他人の家、というやつだ。相変わらず里と家と紅魔館を行き来している。
 いつの間にか、霊夢も魔理沙も大人になっていた。時が経つのは早いものだ。何百年も生きておきながら、今更そんな事を知る。
 とは言え、数年前となんら変わるところはない。幻想郷の時は、緩やかに流れている。
 パチュリーは少し外に出るようになった。と言っても、紅魔館の中だけであり私が引っ張っているからなのだが。人とも今までより話すようになり、薄くだが、今までより笑うことが多くなった。
 私が里に尋ねると、慧音は私に笑顔が増えたと言う。それを自分のことのように喜んだ。私はその時初めて気付いた。
 上白沢慧音は、藤原妹紅の母だった。彼女はずっと、私を見守ってくれていた。彼女はずっと、私の為に在ってくれた。今更になって私は気付く。
 そんな事にも気付けなかった私は、まだまだ幼かったのだ。やっと、私は母を安心させられる。
 いままでありがとう、慧音。

 さらに時が経った。博麗霊夢は、幼い子を残して若くして逝った。
 この知らせには、私に限らず誰もが驚いた。どんなに強い妖怪と戦っても涼しい顔をして勝ってきた霊夢が死ぬなんて、誰が予想しただろう。私は彼女の既報だけを聞いて、死因も知らない。
 葬儀は厳かに行われた。葬儀に参加したのは、人間よりも遥かに妖怪が多い。純粋な人間は、魔理沙と咲夜だけだった。魔理沙は怒りの表情を出して、咲夜は無表情に参加していた。妖怪達は、その殆どが泣いていた。ただ二人、八雲紫と西行寺幽々子だけは何故か笑いを堪えていた。幽々子の隣で、妖夢は呆れた顔をしている。
 後日、私は不審に思い白玉楼を訪ねると、そこには縁側で転がる霊夢が居た。私に限らず、誰もがびっくりした。妖夢の話だと、閻魔が尋ねてきて霊夢を引き渡していったという。閻魔も匙を投げるほどの博麗の巫女、誰もが感心し誰もが呆れた。ただ一人、魔理沙だけは喜んでいた。
 博麗の娘は、霊夢たっての願いとあり、慧音が引き取った。慧音は、赤ん坊の面倒を見るのは初めてだと四苦八苦していた。

 続いて魔理沙が死んだ。
 その時ばかりは霊夢も冥界から降りてきて、葬儀に参加した。博麗霊夢の涙を見たのは、これが最初で最後だった。パチュリーが、そしてアリスが目を伏せていた。
 魔理沙は最後まで笑っていた。彼女は最後に一言だけ、言葉を残す。
 ――私はまた幻想郷に帰ってくるぜ。それまでに幻想郷を無くしたら承知しないからな。
 彼女らしい最後の言葉だ。彼女は冥界に留まる事無く、極楽浄土に旅立ったと言う。もう、誰も悲しまない。彼女が帰ってきたときに泣き顔なんて見せたら、魔砲で吹き飛ばされてしまう。
 魔理沙の娘は、アリスが引き取っている。魔理沙の魔法と八卦炉と箒は、娘に引き継がれた。彼女は、近い未来に魔砲使いと名乗る事だろう。
 魔理沙が逝ってほどなく、咲夜も死んだ。彼女は生涯レミリアに尽くし、子は居なかった。齢88歳の大往生だった。
 レミリアはその日より気の抜けた生活を送っていた。来る日来る日を、ただカフェテリアで過ごす。紅茶も飲まなくなり、その代わりにコーヒーを飲むようになる。
 誰もが心配したが、パチュリーだけは心配ないと言っていた。彼女の言ったとおり、レミリアはレミリア・スカーレットを取り戻した。たまに慧音やアリスの所に行っては、幼い子供をからかって遊んでいる。
 ただ二つ。レミリアは専属の従者を作らなくなった。そして、たまに一人でカフェテリアに入ると、咲夜を懐かしみ虚空に笑うようになった。
 咲夜の力で広げられた紅魔館は縮まらない。それが、彼女が確かに存在した証なのだろう。

 次に逝ったのは、以外にもレミリア・スカーレットだった。
 いつものように過ごす日、美鈴がレミリアを起こしに行った所、四肢の先から灰になっていた。レミリアを囲み、夜が明ける頃に彼女は完全な灰になる。
 葬儀は行わなかった。彼女は悪魔、神に魂を捧げる儀式は喜ばないだろう。その代わりに沢山の妖怪たちが彼女の死を慈しみ悲しんだ。大人になっていた博麗の巫女と霧雨の魔法使いは、彼女を前に大きく泣いた。
 後日、レミリアは白玉楼で姿を見せる。閻魔と大喧嘩をして、冥界に落ち着いたと言う。彼女はけたけた武勇伝を自慢しながら笑った。二人の子供だった大人は怒り、レミリアに襲い掛かったが逆に叩きのめされ、慧音とアリスに泣きついた。
 レミリアの死を機に、フランドールは少し成長した。精神的にも肉体的にも。彼女は紅魔館の当主を名乗るようになる。そして、当主の名に恥じない威厳を持った。かつてのレミリアを超えるように。
 フランドールの傍には、門番の紅美鈴がいつも控えている。門番と従者の両立は辛いものがあるだろうが、美鈴は笑ってそれをこなし続けた。二人のその姿は、レミリアと咲夜を想わせる。
 私は知った。パチュリーも知った。フランドールはレミリアを、美鈴は咲夜を紡いでいる。
 紅魔館は、過去を紡いでここに在る。

 慧音とアリスが、頻繁に図書館に現れるようになった。
 あれから長い時が経ち、代々慧音とアリスが博麗と霧雨の教育を行っている。それぞれの実母は、実に放任主義だった。恐らく彼女らが見かねる事を分かっていたのだろう。専ら子供の教育は彼女らの役目だった。
 最初に来た頃は私もパチュリーも目を丸くしたものだ。彼女達は泣きながら、図書館を訪れるのだ。娘が反抗的で、自分は嫌いだと言うらしい。数年に一度これはあり、その度に私は母に向いてないのか、私は母の役目をこなせているのかと言う。これは半ば行事化する。
 最近では私もパチュリーも、彼女らの姿を見て笑う。慧音とアリスはそれを見て憤慨するのだが、笑うしかないではないか。誰もが彼女達を見て、誰もが笑う。彼女達は、自分を全く分かってない。
 子の為に苦心する母の姿の、どこが母ではないと言うのだろう。

 蓬莱山輝夜が、図書館の本を強奪していくようになる。
 一番最初に来た時はパチュリーのみで私は知らなかったが、輝夜は自慢の十二単を埃塗れにしながらも本を強奪していったらしい。パチュリーが珍しく怒りを露わにしていた。
 私はしばらく図書館に泊り込むことにし、輝夜を迎え撃った。館中に爆音が響き、誰かの侵入を伝える。私は図書館の入り口で、誰かが侵入してくるのを待った。
 侵入者としてやってきた蓬莱山輝夜は、迎え撃つ私の顔を見ると何故か泣いた。私は訳が分からず、どうする事もできなかった。輝夜は泣きながら私を殺し、そして本を奪って帰った。私は蘇生しながら、そういえば輝夜の顔を見るのも久しぶりだと思い出した。
 私は今の私を手に入れる為に、切り捨てたものがあると今更知った。長く生きている癖に、こんな事も分からなかったのだと恥じる。私が彼女を殺し続けるのを拠り所にしていたように、彼女も私が殺しに行くのを拠り所にしていたのかもしれない。私の馬鹿は、結局死ななければ直らなかったのだ。
 私に拠り所にされていた彼女に、誰にも聞かれないように礼を言う。
 私を拠り所にしていてくれた彼女に、誰にも聞かれないように礼を言う。
 私は、輝夜が図書館を訪れる時を見計らって図書館に行くようになった。館に爆音が響くと、いつも私は図書館の前に待機する。
 そして、私は輝夜と殺しあう。遠い昔にそうしたように、遠い昔とは違い憎しみあうではなく笑いながら。私は今日も、輝夜が殺しに来るのを待っている。
 その時だけは、紅を纏う昔の私が見えた。

 八雲家の橙が八雲を名乗る事が許された。
 八雲橙の主である八雲藍は、数日に一度図書館に来ては同じ話を繰り返す。橙は立派になった、橙はこんな術を使えるようになった、橙はそのうち私も追い抜くだろう。話す事は橙の事ばかりで、流石に私も疲弊する。何時間も同じ話を繰り返すのだ。
 数日置きというのが気になり、少し回りに聞いてみたがだれの所でも同じ事を繰り返すと言う。その勢いたるや、西行寺の幽々子が布団の中に逃げ出す程だ。
 話に付き合わされた時間が一番長いのはダントツで紅美鈴だった。彼女は紅魔館の行き帰りに必ず数時間ずつ話される。門番でありその場から動く事のできない美鈴は、話に相槌を打ちながら心の中で泣いていた。
 藍の暴走は、橙が藍の行為を知り強制的に止めるまで続いた。実に数ヶ月に及ぶ暴走だった。
 それから、よく藍と橙が一緒に飛ぶ姿を良く見る。どうやら紫は隠居したようで、境界の管理は藍と橙の役目になったようだ。とはいえ、紫が姿を見せなくなったわけではなく、むしろ悪戯に磨きがかかった。博麗の巫女が怒りながら飛ぶ姿は、どの妖怪もよく目撃している。
 やがてその悪戯と逃走劇に鬼である伊吹萃香が加わり、喧騒は勢いを増した。稀に幻想郷全てを巻き込む事がある。
 紫と萃香は、今日も元気に博麗の巫女から逃げ回っている。

 魂魄妖夢が死んだが、誰も気付かなかった。
 始めに違和感を持ったのは、幽々子を尋ねて白玉楼に赴いた八雲紫と伊吹萃香だった。違和感はあったものの、何が違うのかが分からず結局放置をしていた。私も彼女が死んだ後に何度か尋ねたが、全く分からなかった。
 後に語った幽々子は、彼女が死んだと言うべきかどうか迷ったと言う。最初は面白可笑しく見ていたのだが、数日、そして一ヶ月経っても気付く気配がなく結局言う事を決断したようだ。
 霊夢とレミリアと幽々子の世話に奔走していた妖夢は、ついにその一言で倒れた。
 元々が半霊であった彼女が全霊になった所で驚きはするものの、さして変わりはしない。紫と萃香が感じた違和感は、妖夢の片割れが無くなっていた事だった。
 数日寝込んだ妖夢は、起き上がるなり幽々子に説教をする。流石の幽々子もこの時ばかりは反省したのか、妖夢の前に正座を崩さなかった。後、幽々子はマヨヒガに家出をして一日と経たず妖夢に連れ戻される。
 妖夢は生前と変わらず、庭を整理している。

 紫と萃香が大喧嘩をした。
 理由は大したものは無かったと私は記憶する。確か、萃香が大事に取っておいた菓子を紫が食べたとかなんとか。萃香が怒り殴ると、紫も怒り弾を飛ばす。この喧嘩は幻想郷の存在すら危ぶまれる所まで行く。
 博麗の巫女は言うに及ばず、紅魔館や妖精や白玉楼までが腰を上げる。私が永遠亭と協力したのだから、それは相当なものだった。
 それでも二人の喧嘩には及ばず、結局冥界にいる霊夢やレミリアまでもが出動し、何とか事を収めた。終わった頃には両者ボロボロで、そこに立っているのは博麗の巫女ただ二人と言う有様。私も恥ずかしながら、萃香に殴られ地面に埋まっていた。
 その後、紫と萃香は二人の博麗の巫女に連れられて博麗神社まで行くと、一日中正座と説教を強要された。新古二人の巫女は彼女達に逃げる事すら許さず、お払い棒を振り下ろしながら怒りを露わにする。
 説教が終わると、紫と萃香は泣いて帰っていく。橙と藍は呆れるばかりだ。幽々子だけは、その気持ちが分かり同情していた。
 紫と萃香の悪戯は、この時より少しだけ大人しくなる。

 時は流れ流れた。今は外を見て歩いても、昔の残滓を探すほうが難しい。それでも、相変わらず私は図書館に通っている。
 最近霧雨の魔砲使いに強敵が現れ、皆があれは魔理沙の生まれ変わりだと言っていたが私は知らない。永遠亭の兎も大分面子が変わったが、それも私は知らない。今の博麗と霧雨が何代目だかも、私は知らない。里が少し大きくなった事だけは知っていた。
 ただ一つだけ、悲しいと思った。不安に思った。
 絶えない時の中――パチュリー・ノーレッジは死んだ。
 彼女は喘息をこじらせた。何度言っても大丈夫だと続けた彼女は、逢った時の姿のまま、私の前で静かに永遠に眠る。遺言はなかった。ただ、最後に笑いかけてくれただけで私は満足だった。
 レミリアの時のように、葬儀は行われなかった。棺桶に入れられた彼女は、フランドールが、美鈴が、館の住人が、レミリアが見る中、泉に沈んだ。
 他の人は知らない。だが、私は涙を流さなかった。とても心が苦しくて、涙は流せなかった。涙の代わりに、涙で流す筈だった全てを心の中に抱き込む。
 ありがとう、パチュリー・ノーレッジ。貴女が居なくても、私は私になったかもしれない。今の私ではなかったかもしれない。だけど、貴女が今の私にしてくれた事を私は嬉しく思う。貴女が貴女で在った事を私は嬉しく思う。
 静かな時の中、私は貴女に何も返せなかったけど、貴女は多分何も言わないだろう。いつものように、澄ました顔で軽く相槌を打つだけだろう。それでも、それだけでも私は嬉しかったのだよ、パチュリー・ノーレッジ。だけど、それだけでは満足できなかったのだよ、パチュリー・ノーレッジ。私は貴女に、何かを求めて欲しかった。
 遥か昔に、思い出すことも難しい程遥か昔に、貴女が私にたった一つだけ求めた事。私が、貴女の欠片を繋ぐ事。私は、貴女を繋げているだろうか。紡ぐ事ができるだろうか。
 貴女はもう答えない。生きていたとしても、答えてはくれなかっただろう。それでも私は求めるよ。貴女から繋ぎ紡ぐものを、そしてそれを誰かにまた繋ぐ事を。
 私は貴女を紡げていないかもしれない。私と貴女を繋げられないかもしれない。そう思うととても怖い。けれど、貴女を知った私は貴女が信じた永遠を信じ、必ず繋ぎ紡ぐことを約束する。
 私は貴女が信じた永遠を必ず作ると断言する。だから、最後に一言だけ貴女に届いて欲しい。
 ――私は、貴女が大好きだ。



     ◆◆◆◆◆◆◆◆



 妹紅はパチュリーの死より数日と待たず、長く住んだ自宅を引き払い図書館に住まわせてもらえるようフランドールに願い出た。誰もそれを拒否するものはいなかった。
 理由は二つ、一つは既に妹紅は図書館の住人となっていた事、そしてもう一つは、パチュリーが妹紅が図書館に住みたいと言ったらそれを承知してくれと言っていた事だった。妹紅には私物などほとんど無く、気に入っている札の貼ってある服だけを持つと図書館に住み着いた。
 パチュリーのように殆ど図書館から出ないわけではない。むしろ、紅魔館の住人と比べて頻繁に外に出る方だろう。活発で元気が良く、里の人間とも交流があったが、それでも彼女を図書館の番人ではないと否定する者は居ない。むしろ、妹紅は今まで以上に紅魔館と図書館に馴染んだ。
 図書館の司書、パチュリーの使い魔は、いまも図書館に居続ける。妹紅は彼女に使い魔の契約をしていない。する気もない。彼女はパチュリーの従者であるし、彼女は図書館のもう一人の番人だ。ただ、妹紅には彼女が自分を慕ってくれているだけで満足だった。
 幻想郷は相変わらず緩やかに変わる。変化は微々たる物でしかないが、確実に変わっている。妹紅も、いつの間にか紅魔館の古株の一人として名を上げられるようになった。本人にそんなつもりは全然無い。
 永い永い時をかけて、妹紅は自分とパチュリーの欠片を紡いでいった。まだ、繋ぐ相手は居ない。
 妹紅は時折、人の永遠を見に行く。人が紡ぎ繋いだ永遠は、太く強く強靭なものだった。そんな重ねられた永遠が、今妹紅の目の前に居る子供達を笑顔にしている。パチュリーの感情が、少しだけ解った気がした。
 妹紅は色んな所を尋ねる。それはマヨヒガであったり、博麗神社であったり、白玉楼であったり、空の上であったり、幻想郷ただ一人の鬼の住処であったり。時を知る人たちを、昔を知る人たちを妹紅は訪ねる。特に何をするでもなく、ただ雑談をして帰るのだが、それでも妹紅は尋ねた。
 たまに輝夜が尋ねてくる。ごくたまに八意永琳や鈴仙・優曇華院・イナバも輝夜と一緒に尋ねてくる。相変わらず殺しあうのだが、そんな瞬間も妹紅は楽しい。
 本を読み楽しみ、誰かを訪ね楽しみ、輝夜と殺し合い楽しみ、何かを見て楽しみ。
 妹紅は待ち続けた。永遠を繋ぐ瞬間を、待ち続けた。
 そして――
 ある日、四季映姫・ヤマナザドゥと小野塚小町が妹紅を尋ねた。



     ◆◆◆◆◆◆◆◆



 その日は、何時もの様に元々はパチュリーの物だった書斎で本を読んでいた。今読んでいるのは、人間が作り出した物語。短編の作品集ではあるが、悲喜がよく伝わってくる。
 魔法で保存されているためにこれ以上の劣化はしないが、元々が古いため既に日焼けしてページの端も破れているところが目立つ。私は本をめくり、次の文を待った。
 ひと段落した所で、書斎の扉が叩かれる。私は返事をすると、小悪魔は私に客だと言った。
 誰だろう、私は思う。紅魔間の住人や慧音、アリスであれば彼女もわざわざ私に報告しない。ならば、顔見知りでは在るが普段は滅多に来ない人物なのだろう。図書館に新しく作られた客間で待っていると彼女は言った。私は本に栞を挟み、客間に向かう。
 客間で本に囲まれながら紅茶を飲んでいるのは、いつかの閻魔と死神だった。彼女達は尋ねてくる事はおろか、幻想郷まで下りてくるのも珍しい。私は予想の範疇外の人物に多少驚きながらも、彼女達の正面に座った。
「お久しぶりです、妹紅さん」
「おう、元気にしてるかい?」
「元気だよ。貴方達も元気だった?」
 本当に懐かしい。実に何年ぶりだろうか、少なくともここ百年は記憶に無い。
 彼女達の姿は、初めてあった頃と殆ど変わりが無い。あえて言うならば、服装が少し変わった事くらいだろうか。それは妖怪のような存在だからか、それとも閻魔や死神と言う存在だからか、私には分からない。
 しばらくの間、私と彼女達は昔を語らった。とても懐かしく思いながら、あの頃を思い出す。こうして昔を語らえる相手は、もう数えるほどしかいない。
「しかし、貴女も不思議な人ですね」
 映姫はそう言って、紅茶を飲んだ。私は言葉の意図が分からず、彼女の次の言葉まで待つ。
「貴女は性質から生き方から全て違うのに、そうしてそこに座っているとまるでパチュリー・ノーレッジが居るようですよ」
「そう……かな」
 私も紅茶を飲んだ。私を通してパチュリーが見える、それは喜ばしい事かそうでないのか私には分からない。私は私で、彼女は彼女なのだから。ただ、それは私がパチュリーの欠片を引き継げているような気がして、少しだけ誇らしかった。
 小町が、四季様、と言って映姫を急かした。映姫はそれに答え、頷いた。
「今日は一つだけお願いがあって貴女を尋ねたんです。聞いていただけますか?」
「うん? まぁ、話によるけど」
 私の言葉を聴いて、彼女達はくすりと笑った。
「小町」
「はい。そんじゃ、ちょっと待っててくれよ」
 答えた瞬間、彼女は消えた。気付いたときには扉の前に立ち、扉を開けるとまた消えた。そう言えば彼女は距離を操る事を思い出した。
 小町がどれほどの距離を飛んだのかは分からないが、私と映姫が話すほどの時間も空けずに戻ってきた。
「四季様、ただ今戻りました」
「ご苦労様。ありがとう、小町」
 言った映姫は、小町に向かって手を招いた。いや、違う。小町の後ろに居る誰かに向かって手を出したのだ。
 ふわふわと漂うように浮いている彼女は、四季の後ろに隠れながら私を覗く。その視線は人見知りというよりもむしろ値踏みをするような目だ。しかし、そこに打算的なものは感じられない。私を観察しているようだ。
 私を見ている彼女は、短く薄紫色の髪。白く少しだけフリルの着いたワンピースを着ている。目は三白眼と言うよりも眠たそうな印象を受ける。
 似ているか似ていないかで言えば、全く似ていない。しかし、その目に輝くものが、彼女のその在り方が私に『貴女』を思い起こさせた。
 私はきっと呆けていただろう。目を丸くして、まるでこの世の全てを忘れたかのように彼女を見る。
 四季は私を見て、優しい目をして私を見た。
「実はこの子、生まれたばかりなのですが貴女に育てていただけませんか? 最初は私が、とも思ったのですが子供を育てた事も無く時間もありません。だから、貴女に預けようと思ったのですが」
 私は相槌を打ったが、その実殆ど彼女の声は聞こえていなかった。私は、その少女に魅せられている。
 映姫が道を開け、軽く少女の背中を押した。少女は抵抗もほとんど無く、私の前に来る。
 私は恐る恐る、貴女を抱きかかえた。昔に、まだ心の幼かった私がそうしたように、貴女が子供にそうしたように、私は貴女を抱きかかえる。貴女は、その小さな手で私を抱き返してくれた。私は何と言って良いか分からず、ただ涙が溢れた。
 分かっているよ。貴女はもう貴女ではない。だけど、今だけは再開を喜ばせてくれ。こんな奇跡があるのだと、昔の貴女を感じさせてくれ。
 彼女達に礼を言おうとしたが、既に彼女達は居なかった。まったく、嘘が下手な人たちだ。彼女達はこの子が貴女だと分かっていて私に預けてくれたのだから。
 貴女は、涙を流す私を不思議そうに見て、小さなな手の平で私の頬を叩いた。私はまだ言葉も知らない貴女に、笑顔だけで返す。
 私がこうして時を綴る事はもう無いだろう。なぜなら、これから子育てに忙しくなるだろうから。慧音やアリスを見ていれば分かる。
 これから貴女に色々な事を教えよう。数々の人に逢ってもらい、自分を知ってもらおう。そして貴女に、貴女ではない貴女の事を教えよう。私を今の私にしてくれた、貴女の事を教えよう。
 私と貴女は交わる事は出来ても決して合わさる事は出来ないけれど。私と貴女は決して『私達』にはなれないけれど。それでも、私と貴女を繋ぎ紡いでもらう事はできるんだよ。
 見てくれ、私が紡いだ永遠を。私が繋ごうとする永遠を。これは細く弱いかもしれないが、決して儚いものではないよ。此処に、貴女と私を辿って確かに存在するんだ。
 こんなに永い時間がかかってしまったけれど、やっと次に繋ぐ時が来た。貴女は、私と貴女を繋いでくれるだろうか。
 遥か永くながらも一瞬の時を経て、私はこうして再び貴女に出会った。その小さな手は、一体どうやって私と貴女を紡ぐのだろうか。
 貴女が知った永遠を、私は永遠にしてみせる。決して消えない永遠を、私は貴女に教えよう。
 こんな私と貴女の未来永劫を、繋ぎ紡いで見せよう。だから、貴女は見て、知って、感じてくれ。貴女が見つけた永遠を。私は貴女に告ぐ。
 姿形は違うけれども、貴女ではない貴女だけれども、それでも私は貴女に告ぐ。私と貴女の永遠を信じて。
 ――パチュリー・ノーレッジへと告ぐ。
どうも、西方より色々こめて、略して西色です。
今回はパチュリーを妹紅に送ってみたのですがどうでしょうか。自己解釈色が強いので、読む人は選ぶのではないかと思います。
前回より課題にしたストーリーの繋がりの弱さや表現の弱さを直してみたのですが、逆にごちゃごちゃした印象。正直自分でも書きづらかった。文章直した部分も少なくなかったですし。
さて、今作はあまり見ないパチュリーと妹紅の話。そして永遠が課題。主人公を二人にするという試みも強くしてみました。面白く読んでいただければ幸いです。
急遽思いついた場所を入れないようにしたのですが、元々プロットも五行程度しか書かない身でして難しい事この上ない。長くなっても思いついたところを書いていく方が性に合ってます。
それでは最後に、朱(Aka)氏に妹紅のいい話を先に書かれてしまったので今作ガクガクブルブルで出しています。俺の妹紅はこんなんじゃ、と主張してみる。

あ、前作である門番になった日と若干繋がっていますんで。そちらを読んでからだと面白さが上がる気が泣き西もあらずです。
西色
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コメント



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6.100削除
神SSはまたふたたび!
いいですね、永遠の連鎖の物語^^

あんたは最高だ!(100点)ヾ(゜∀゜)ゝ
8.80名前が無い程度の能力削除
死んでも気づいてもらえない妖夢(´・ω・)カワイソス
13.100アティラリ削除
感想がありすぎて書けない件について
17.70名前が無い程度の能力削除
うん?と思った部分もないではないですが
後日談には思わずくすくすと笑ってしまいました。
ありそうありそう
30.100名前が無い程度の能力削除
かなり珍しい組み合わせではありますが、上手く書かれていると思います。
41.80名前を喰われた人削除
またもやこのような綺麗なお話が読めるなんて!
朱(Aka)さんの作品も綺麗で心に響く一品でしたが、これも心に訴えかけられる物が有りますな色々と。
さて、無限の時を生き続ける妹紅と、巡り廻って戻って来たパチェが織り成し、積み上げ、繋ぎ、紡ぎ行く新たな歴史と日常と、経験(笑)に妄想を膨らましつつ、今回はこの辺で。どうも、御馳走様でした。
42.100名前が無い程度の能力削除
こいつぁ良いや!
46.70名前が無い程度の能力削除
いい感じ。
57.80名前は忘れた削除
たとえどれだけの時が流れようとも・・・





ゆかりんはゆかりんですね(ぉ
58.100名前が無い程度の能力削除
こうして歴史は紡がれていく…
いやぁ、いいお話でしたわ
59.80むみょー削除
この国を見守る霊峰の象徴を背負うが故でしょうか、
やはり妹紅には様々な移ろいを見守る役が良く似合うように感じたり。

繋ぎ紡がれた「永遠」が、永遠でありますよう・・・。
67.100名前が無い程度の能力削除
すんばらしい。すんばらしいですよ。
68.90名前が以下略削除
自己解釈も含め、うまくまとまっているし
話の中に思わず引き込まれました。
素敵なものを読ませて頂いてただただ感謝です。
69.100SETH削除
久しぶりにSSで泣きました
くっそ!なんで100点しか入れられんのだ!w
72.100祈織削除
タイトル見て妖夢モノかと思ったわたしは駄目な子か。
とにかく、その幻想郷のやさしさに感動しました
79.100月影 夜葬削除
泣いた……
画面がにじんで見えません……
西色さんの世界に引き込まれていきました
81.100名前が無い程度の能力削除
ネ申光臨!
82.90名前が無い程度の能力削除
うむ。良し。
88.100名前が無い程度の能力削除
時間の経過にも気付かず最後まで読んでいた・・・
これは良いものを見せてもらいました。
珍しい組み合わせだけど、読んでる途中に違和感はなくなるし。
GJでした!
89.100名前が無い程度の能力削除
思ったことは色々あれどもただ一言を

良いお話を、ありがとう
91.100名前が無い程度の能力削除
もこぱちゅなんて! もこぱちゅなんて!



大好きだこんちくしょー!!
93.100削除
お館様ぁーッ!!拙者、感動で涙が止まりませぬーーーッ!!!!
94.100名前が無い程度の能力削除
心の中にじんわりと染み込んでいくお話でした。
いいもの読ませてくれてありがとう
98.90K-999削除
場面の転換が唐突な話しだなぁ、というのが第一印象。
博麗の巫女は相変わらず無敵だというのが第二印象。

とりあえず最高に感動した。ってのがまとめ。ありがとうございました。
99.70MIM.E削除
とても面白かったです。
前半のパチュリーの気持ちの移り変わり、永遠から歴史へ、
は少し急な気がしましたが、後半の流れはなんて楽しそうな
幻想郷なんでしょうか。楽園の素敵なところをたくさんいただきました。

102.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷よ永遠に
103.80名前が無い程度の能力削除
いいと思うが妹紅に視点が移る所で前編後編とした方がよかったのでは
105.100Flyer削除
よかった。とてもよかった。
107.無評価名前が無い程度の能力削除
良いお話でした。思わず涙が出そうになるくらいに。
108.100名前が無い程度の能力削除
あぁ点数をつけ忘れるなんて…。申し訳ありません。
109.無評価Kei削除
いい話です。これ絵にできたらすごく良いかも。
110.100Kei削除
-点数付け忘れました。
さっきの続きですが特に最後の辺りが良い絵になりそうです。
111.100名前が無い程度の能力削除
感想がありすぎて書けない件について(2号

あれです、500点くらい付けたいです。
112.90名前が無い程度の能力削除
視点の移り変わりに戸惑う以外は全てすばらしい…
フランと中国が仲良かったり、もこがパチェの次に図書館に住んだりと…新たな組み合わせにも関らずすっぽり入っていった
神こーりん!
116.90茶処削除
じんわりといい話でした。
121.100名前が無い程度の能力削除
「それは、どちらにでもなれるという事じゃないかしら」

そうなんだ。初めて気付けた。
124.90回転式ケルビム削除
どちらかというと主人公は妹紅のほうなんですね。
感想はありすぎますが一言、お見事でした。
126.100名前がない程度の能力削除
久々に感動した。
まったく、文章が素晴らしすぎて困る。
132.100名前が無い程度の能力削除
ちょww霊夢wwww
134.100元ロボコップ削除
あぁ、この感動を上手く言葉で表せない事が本当に悔しい・・・
137.90ナマエナーシ削除
読んでる最中は、自称涙もろい私としては
珍しく泣かなかったものの、後書きを読み
他の読者のコメントを見ていた途端、
何ていうんでしょう?ブルッと物凄い震えと共に涙がぶわーっと…
医者行ったほう良いのか…
それはともかく、自然な永遠。堪能させていただきました。
146.90名前が無い程度の能力削除
始めてみる組み合わせだがうまく出来てるな
150.100ちょこ削除
>「以外にもレミリア…」ではなく「意外にもレミリア…」です
>博麗の巫女ただ二人と言う有様。  紫か萃香、もしくは3人が立っていたのでしょうけど、表現が無いなら 博麗の巫女ただ一人という有様。 が正しい表現のような…

ええ話や…T T
やっべぇ;もこパチュええわぁ…ww

ただ、自分でも意外に思っているのがこういう話に耐性でもあるのか、細かなミスに気がついてしまったことにちょっと凹む…orz
154.90名前が無い程度の能力削除
パチェと妹紅とは珍しい・・・・
でもいいお話や~ ちょっとだけ泣きそうになった
156.無評価名前が無い程度の能力削除
>>博麗の巫女ただ二人と言う有様。  紫か萃香、もしくは3人が立っていたのでしょうけど、表現が無いなら 博麗の巫女ただ一人という有様。 が正しい表現のような…

これは物語中で死んでしまった「冥界にいる霊夢」と「当代の霊夢」だと思われますので博麗の巫女ただ二人、でいいのではないかと。
159.100削除
この様な素晴らしい作品を読むことができて感激しました
可能ならば100点と言わず200点でも入れたいぐらいです!
163.100名前が無い程度の能力削除
GJ
164.90名前が無い程度の能力削除
いろいろと不可解なところもありますが、それを遥かに越える感動が……

エンディングまで、どれくらいの時間が経ってるのでしょうかね。
……うどんげ長生きだな(ソコカヨ
170.100煌庫削除
文句も何もあったもんじゃない。ただ良いもの読ませていただきました。
180.100名前が無い程度の能力削除
涙が!涙が止まらない!!
183.無評価名前が無い程度の能力削除
巧い。
文章技術が云々ではなく、引き込める文章を書く事が巧いと感じました。
終盤に至っては、涙でディスプレイが滲んできて……。
良いお話でした!
184.100名前が無い程度の能力削除
↓点数忘れました(汗
188.70名前が無い程度の能力削除
せっかく二人主人公に挑戦されたところに言うのもなんですが、この話は妹紅視点で最初から最後まで通した方が良かったと思います。
196.100名前が無い程度の能力削除
読後しばらく頭を離れなかった・・・
198.100ルドルフとトラ猫削除
蓬莱人はしかし元人間だから、ではなく、誰もがそうやって生きていける。
人生は自分ひとりのものではないのだ……
しかし藍様浮かれすぎ
207.70ハッピー削除
時代が流れるということをこんなに上手く表現したSSも珍しいんではないかと思います。
一人一人が生き生きと生きているこの世界に感動しました。

ですがちょっと前半部分がなんていうんでしょうか、稚拙な感じに見えました。
おそらく文章の構成が自分の感覚からしたらおかしいように感じたんでしょうが。
そのせいもあって多めに減点してしまいました。
私の観点ではこうなりますという意味で。
でもまぁ、感情的な問題で減点しているけど30点ほどしか引けなかった位に上手いことまとまっている内容は素晴らしかったです。とは言わせていただきます。
224.90名前が無い程度の能力削除
いやー・・・すげぇなぁ・・・
こんなSS書けるようになりたいわ・・・
まぁもう既出だけど二人の視点があるのでひとつの話にまとめるのは大変でしょうね。でもまぁそれを補うほどにGJな内容でした。
不覚にも涙しちまったよw
232.100Shingo削除
泣いた。ていうか泣かせてください。
こんなSSを書けるようになりたいです
244.100NIGHT DREAM削除
感想が文章地獄になる;;
いいもの読ませてもらいました><
245.90明日の空色削除
幻想郷って、場所の名前じゃなかったんだなぁ。
249.100油揚げ削除
有限である無限。命のつながり。
言葉にならない素晴らしさ。
251.100Admiral削除
よいお話でした。
ごちそうさまです。

「おぉ、ぱちゅりー、ぱちゅりー!」
↑ここが一番萌えました。(^^)

258.100名前が無い程度の能力削除
あぁ、こういう作品も埋もれているんですね
見つけられてよかった

今日はとてもよい気持ちで朝を迎えられそうです
259.100名前が無い程度の能力削除
気の利いたことも言えない・・・でも100点入れたいので。
ごちそうさまでした。ありがとう!
267.100名前が無い程度の能力削除
他のメンバーの後日談あたりが笑いとか涙とか色々なツボに入りました…
269.100印度削除
もうこの作品を読むのも何度目か・・・
優に二桁に達していると思いますが、何度読んでも感動が薄れない。
276.100名前が無い程度の能力削除
>輝夜は自慢の十二単を埃塗れにしながらも本を強奪していったらしい
妹紅会いたさに慣れないことをする姫にやられちゃいました
各キャラのその後が『らしさ』がでてて良いですね
280.100名前が無い程度の能力削除
何度も読んでいくたびに涙腺がもろくなっていきます。
もう既におっしゃっている方もいらっしゃいますが、何度読んだかも覚えていません。
この物語を越える作品は自分の中にはありません。
本当にありがとうございます
281.90名前なんか無い程度の能力削除
パチュリーが妹紅と会うのは意外です。
しかし、非常に良いものでした。
283.90名前が無い程度の能力削除
色々考え深い内容でした。

とりあえずパチュリーが死んだあたりで泣いた・・・
288.90名前が無い程度の能力削除
綺麗なお話でした。ありがとうございます。
297.100名前が無い程度の能力削除
泣きました・・・GJ!
302.100名前が無い程度の能力削除
後で私の寝室に
303.100名前が無い程度の能力削除
妖夢不憫な…。紫は時を経ても変わらないんだなぁw
パチュリーの、妹紅の答え、感動しました。
素敵なお話をありがとうございました。
304.100名前が無い程度の能力削除
もぅ...涙が止まりません...
素晴らしいSSを有難う御座いました。
305.100名前が無い程度の能力削除
心に染みるというのかなぁ…
このSS、未来永劫何度でも読み直させていただきますね
307.100名前が無い程度の能力削除
SSで初めて泣きました。素晴らしい物語を書いてくださった西色さんに感謝申し上げます。
312.100時空や空間を翔る程度の能力削除
輪廻は回る
出会いが重なる
幻想郷がある限り・・・・・
313.100名前が無い程度の能力削除
・・・・これはすげぇ。
レミリアと霊夢の扱いと、妖夢の所でちょっと吹きましたがw
314.100無を有に変える程度の能力削除
心に染みる深いSSでありました


霊夢の扱いが・・
316.100名前が無い程度の能力削除
なんというかもう…西色氏、ありがとうございました。

妖夢のとこで笑ったw
317.100名前が無い程度の能力削除
この話を見つけた時、なんでこんなに高い評価が?と、疑問に思ってそのまま読んだのですが、……こりゃ納得だわ。
意外性も話の内容も、満点どころか200点付けたい気分ですな。
320.100名前が無い程度の能力削除
妖夢の扱いひどすww
永遠ってなんか色々考えさせられるテーマですね
でも永遠に変化しないものなんて無いのでしょうねぇ
素敵な物語ご馳走様でした。
321.100名前が無い程度の能力削除
感動しました。
人も妖怪も独りじゃない。誰もが誰かと繋がり紡ぎあい、別たれてもまた廻り逢う。そうして永遠に紡ぎ続けていく。
読み終わって思わず感嘆のため息が出ました。
素晴らしい物語でした!
322.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい。
他に言葉が出ないのをご容赦願いたい。
本当に、素晴らしい・・・
323.100bobu削除
妖夢のところで吹いたw
読み始めは普通のSSと変わらなかったのに気付くと読み入ってしまってました。
すばらしい物語をありがとう。
324.100名前が無い程度の能力削除
さわやかな感動をありがとう!
325.100reia削除
素敵な作品でした、感謝です
329.100自転車で流鏑馬削除
西色さんの幻想郷、心に染み入りました。
ありがとうございました。
331.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしかった。
332.100名前が無い程度の能力削除
受け継ぎ、渡してを繰り返す、すごいです
いいお話でした
333.100名前が無い程度の能力削除
意外や意外な組み合わせ、いや実に良かったです。
いろいろ感想はあるけど長くなるから一個だけ
やっかい者を二人も冥界に捨てていくなんて、白玉楼をゴミ捨て場かなにかと勘違いしていませんか山田様?w
336.100名前が無い程度の能力削除
みょんの扱いがw
変わらない紫と萃香がいいなぁ。
題名と内容もこれ以上ないくらいにピッタリ。
やばいくらいに素晴らしか!
339.100名前が無い程度の能力削除
危うく泣きかけました;;
パチュリーともこもこりんーんの絡みはあんまり見ないので新鮮ですね。
340.100名前が無い程度の能力削除
すごく良かった!!感動した。
341.100名前が無い程度の能力削除
このお話を読んで、妖怪も人も誰一人として独りになんてなってなくて、
みんながみんな繋がり合って永遠を生きてるんだなって思いました。
それと、美鈴とフランがそれぞれ咲夜とレミリアを紡いでるのが嬉しくて
少し泣いてしまいました。
349.90名前が無い程度の能力削除
絡み、解釈などがとてもうまく物語りを紡いでいました。
読み応えがあります。
352.100名前が無い程度の能力削除
最高にすばらしかったです。
そうとしか表現ができないのが惜しいです。
356.100名前が無い程度の能力削除
よろしい!
358.100名前が無い程度の能力削除
こういった小説読むと、時の流れというのが怖くなる。
自分を紡いでくれる人は現れるのだろうか?
何もできないまま忘れ去られていくのだろうか?
360.100名前が無い程度の能力削除
前半と後半で話が全く展開が違うのに、
つなぎを全く苦に思わないほどのめりこんでしまいました
これはお見事と言う他ないでしょう
なかなか見ない組み合わせでしたが、それが生かされていてとてもよかった
365.100ユキト削除
すごい。すばらしいとしかいえない
369.100名前が無い程度の能力削除
最初はギャグかと思って読んでたけど、これは素晴らしい
370.100ニッコウ削除
はぁ・・・・
なんというか・・・感動をありがとう。

時の流れ ってもんを読ませていただきました。
まったく・・・最初に妹紅とパチュリーが出会って何年過ぎたのやら・・・
壮大過ぎる。
378.100名前が無い程度の能力削除
いい話だ。それだけしかいえない俺を許してくれ
380.100名前が無い程度の能力削除
あんた最高だ!
381.100名前が無い程度の能力削除
悲しみと感動とで、もうただただ涙するしかなかった。
人も妖も、生きとし生けるものすべてが『生きている』と感じられる。
幻想郷というのは、本当に良いところだ。
382.100名前が無い程度の能力削除
とにかく、感動しました。
最初の流れではギャグ路線かとも感じましたが、それがこうも覆されるとは・・・・・
387.100名前が無い程度の能力削除
前半のパチュリーの心境の変化が素敵で、
人の変化をこれだけきちんと書ける人がいるんだなあ‥と驚いていましたら、
後半の怒涛のような展開!
素晴らしくも、切なくも、暖かくて、優しい幻想郷をありがとうございました。
絆を培う妖怪‥いいなあ。
393.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい……
394.100名前が無い程度の能力削除
なんでだろう・・・。
涙がとまらない・・・。
本当にいいものをよませていただきました。
395.100泣く事ができる程度の能力削除
点数制限100点じゃ足りないと想う。
396.100名前が無い程度の能力削除
点数は500点くらいあったほうがいいと思います。
398.100らすぼす削除
ガチ泣きしかけた
406.100名前が無い程度の能力削除
穏やかで流れるような文章がとても読みやすかったです
この妹紅はきっと不老不死であることを幸せに感じながら生きていけると思います
408.100想萃削除
とてもよい作品でした
妹紅はパチュリーを紡げていると思います
416.100名前が無い程度の能力削除
言葉では表現できない素晴らしい時を過ごさせていただきました
417.100謳魚削除
良い御話で。
思わずコメント打たずに満点入れたくなりました。
420.100名前が無い程度の能力削除
すごく良かった!
422.100名前が無い程度の能力削除
言葉が出ないので誠意をおいていきます。
素敵な作品をありがとう
424.100名前が無い程度の能力削除
コレは珍しい組み合わせ
430.100名前が無い程度の能力削除
泣いた
432.90名前が無い程度の能力削除
藍様の浮かれ具合にフイタw
435.100名前が無い程度の能力削除
もう、言うことがありません…。
最高でした。
441.100とーなす削除
こうやって歴史は紡がれてゆくのですね。
永遠という、気後れしてしまいそうな程途方もないテーマが、パチュリーと妹紅の二人の視点から
綺麗に描かれていたと思います。
素敵な作品でした。
442.100名前が無い程度の能力削除
また読み返したくなるような、素晴らしい作品でした。
文句無しの満点!
451.100名前が無い程度の能力削除
これは名作です。
454.100名前が無い程度の能力削除
大河のような文章でした
455.100名前が無い程度の能力削除
再読。いや、再々読。いやいや、再々々(以下略

やっと点数を入れることが出来ました。
初めて読んだ時から大好きです。
あれから結構な時間が経つのに、今でも私が読んだ東方SSで五指に入るくらい、大好きです。
遅ればせながら、この作品を読ませていただき、本当にありがとうございました。
458.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしいね
460.80名前が無い程度の能力削除
短命な人間はそれを他の人間に伝えることで、その人の生きた証や理想をなんとかつくっていくという考えが伝わってきました。ハラハラドキドキな展開、山あり谷ありの展開ではありませんでしたがとても楽しかったですよ。
468.100名前が無い程度の能力削除
言葉はいらない
475.100ばかのひ削除
うむ、面白かった!
これはよい 
476.無評価名前が無い程度の能力削除
内容は良かったけど、「須らく」や「黄昏れる」を誤った意味の方で使っているのが気になった
480.100zon削除
「子の為に苦心する母の姿の、どこが母ではないと言うのだろう。」
この言葉が一番響きました。
パチェと妹紅が関わる作品は初めて見ましたが、美しく話をまとめてるなあと感心しました。
いい話をありがとうございます。