Coolier - 新生・東方創想話

おきらくよーよーむ:1

2006/03/10 20:45:36
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 春を取り戻そうと神社を飛び出したはいいけれど、三人は早速揉めているようです。

「こうして飛び出して来たはいいけど、一体どこに春が集められているのか皆目見当がつかないぜ」

「こういう時は集めたデータから分析するのが一番よ」

「集めたデータって…… 今までこんな事があったの?」

「さあ? それは調べてみないとわからないわ」

「ちんたら調べてる暇なんかあるかよ。こういう時は手当たり次第に探すのが一番だぜ」

 捜査の基本は足って言うだろ、とは魔理沙の弁。

「そうやって無駄に動き回るよりはしっかりと下調べをするべきよ」

 来るべき時のために体力も温存できるし、とはパチュリーの弁。

「私はあっちの方が怪しいと思うわ」

 風上の方を指して、いつも通りに勘を信じて突き進もうとするのは霊夢です。
 その時、霊夢が指した方向からひらりと一枚の桃色の花びらが三人の間に飛んできました。

「これは……」

「桜の花びらね。間違いないわ」

「ほら、私の言った通りじゃない。桜があるって事はそこに春があるんだから」

 たかが勘、されど勘。もっとも有力な手がかりが目の前にやってきたのだから二人とも文句が言えません。

「それじゃ行きましょ。ずっとここにいても冷えるだけだわ」









   そのいち  春よこいこい早くこい








 しばらく進むと彼女達の前に妖精が立ちはだかりました。

「ここを通りたければあたしを倒して行きな!」

「これはこれはいつぞやの……」

「久しぶりね。霧の時以来かしら」

 彼女は氷精チルノ。普段は紅魔館周辺の湖を根城にしています。
 霊夢と魔理沙は以前、霧が異常発生した際に彼女を撃墜しています。

「…あーっ! あの時のむかつく人間達じゃないの!」

「何を今更だぜ」

「ていうか確認もせずにケンカを売りに来た訳?」

 相変わらずチルノには落ち着きが無いようです。

「それに初めて見るのもいるし!」

「だってさ、パチュリー」

「私は滅多に図書館から出ないもの。知らなくて当然だわ。で、これは何?」

「氷精チルノ。呼んで字の如くの氷の精よ」

「ちょっとおつむが弱いけどな」

「弱いって言うなー!」

 チルノは怒りながら氷の塊を数個飛ばしました。三人はあっさり回避します。

「ほらね。簡単な挑発に引っかかったりするでしょ」

「ちなみに会ったのは紅魔館の周りの湖だぜ」

「へぇ、館の近くにこんなのがいたのね」

「こんなのって言うなぁー!!!」

 今度はつららを飛ばしてきました。やっぱり三人には当たりませんでしたが。

「で、紅白と黒白はわかるけど、その紫は誰よ?」

「だってさ。自己紹介がてら弾幕ごっこでもやってあげれば?」

「それがいいぜ。手間が省けて一石二鳥だ」

「いやよ。何で私がそんな事しなくちゃいけないのよ」

「どっちにしろこいつを倒さなきゃ通してくれそうに無いぜ?」

「それでもよ。たかが氷精、わざわざ私が相手をするまでも無いでしょう?」

「たかがって言うなぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 今度はパチュリーを集中的に狙ってつららを飛ばしました。やっぱり当たりませんでしたが。
 むしろワザとかすって見せるほどの余裕っぷりです。チェリーポイントがたくさん増えました。

「このまま桜花結界でも展開しようかしら」

「それでもいいけどさ、このままじゃ進めないぜ?」

「どうしても嫌だって言うなら私がやるけど」

「さっきからゴチャゴチャうるさいわよ! いい加減にしてよ!」

 チルノは自分の弾幕を無視するかのように会話をする三人にかなりイライラしています。

「向こうもああ言ってる事だし、そろそろ相手してあげないと」

「じゃ、私が一丁揉んでやるか」

「さっき私がやるって言ったじゃないの」

「私だって肩慣らししておきたいんだ。ここは譲らないぜ」

「肩慣らし!? あたしも軽く見られたもんね。いい? 今は冬。あたしの季節なのよ!
 この前と同じと思ったら痛い目にあうよ!」

「だそうよ。相手を過小評価している魔理沙には荷が勝ちすぎてるわ」

「そんな筈あるものか。それも含めて評価したつもりだぜ」

「その”つもり”が敗北に繋がるのよ」

「じゃあ霊夢は正確に相手を評価してるって言うのか?」

「少なくとも魔理沙よりはね」

 霊夢と魔理沙はどちらがチルノの相手をするのか言い争いを始めてしまいました。
 このままではチルノの前にこの二人が弾幕ごっこを始めてしまいそうです。

「……いい加減に決めてくれない? 早くしないと図書館がいつ潰れてしまうか判ったものじゃないわ」

 いつまで経っても平行線の議論を続ける二人に呆れたパチュリーが声をかけますが、二人には届きません。
 これではチルノでなくてもイライラします。
 業を煮やしたパチュリーがついに決意します。

「後5秒で決められないのなら私がやるわ」

「「どうぞどうぞ」」

「ええっ! ダチョウ倶楽部!?」

「何だ? その”だちょうくらぶ”ってのは?」

「そんな事どうでもいいじゃないの! それよりも今のは私を嵌めるための演技なの!?」

「割と本気だったわよ。魔理沙は」

「ああ、かなりマジだったぜ。霊夢は」

「いい加減にあたしを無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
 霜符!!! 『フロストコラムス』っ!!!!」

 チルノはもう自分が無視される事が我慢できずにスペルカードを発動しました。

「そこ、五月蝿いわ。
 火符『アグニシャイン』」

「ひぃっ!?」

 それを情け容赦なくスペルカードで迎撃するパチュリー。
 その表情は、ただ冷たく、それをまともに見てしまったチルノは怯えました。
 ただでさえ不利な勝負なのに、精神的にも負けていては勝てるはずもありません。

「熱っ! 熱い熱い溶ける!!!」

「はぁ~、暖まるぜ」

「ええ、さすがパチュリーね」

「そこの紅黒白っ! 和んでないで助けろーっ!!」

「「一纏めにするな」」

「ひぃぃぃっ!?」

 紅黒白と言われた二人はチルノに対して揃ってメンチを効かせます。すると、いや、やはりチルノは怯えました。

「お、覚えてろー! この人でなしどもー!! うわーん!!!」

 と、捨て台詞を残して逃げていきました。

「さて、邪魔も消えたし先を急ぐか」

「そうね。今のでだいぶ暖まったし」

「待ちなさい。さっきのは…… いえ、やっぱりいいわ。聞いても無駄っぽい気がするから」

「あら、わかってるじゃない」

 さっきまでチルノがいた事はもう忘れてしまったのか、それとも端から眼中に無かったのか三人は最初と同じ調子で再び飛び始めました。










 三人はしばらく黙って飛んでいましたが、やはり寒さが身に沁みるのか霊夢がぽつりと呟きます。

「ほんと、寒いわね…… いい加減にして欲しいわ」

「全くだぜ。いつもだったら昼寝の季節なのにな」

「あら、春眠暁を覚えず、ってやつかしら?」

 そこへ第三者が乱入してきました。
 霊夢と魔理沙はこういう事には慣れていますから、落ち着いて対応します。

「そうかもしれないわね」

「で、あんたは誰だ?」

「私はレティ。レティ・ホワイトロックよ。一応冬の妖怪って事になるかしら」

 レティ、という名前を聞いてパチュリーが初めて反応を見せました。

「レティ・ホワイトロック…… へぇ、冬の忘れ物と呼ばれる貴女が現れるとはね」

「あれ? あなたとはどこかでお会いしたかしら?」

「パチュリー、知り合いなの?」

「私の図書館に彼女の事が載っている本があったのよ。それでね」

「へぇー、あの図書館はそんなキャラ名鑑みたいなモノもあるのか」

「キャラ名鑑って…… そんな身も蓋も無い言い方を」

「せめて人物名鑑と言って欲しかったわ」

 そしてここまでの緩んだ空気を締め直すように魔理沙が話題を切り替えます。

「で、これは早速の黒幕登場だと思っていいのか?」

「ええ、そう受け取ってくれて構わないわ。春が来たら私は消えてしまうもの」

「そう。それじゃ、後はやる事をやるだけね」

 そして霊夢はお札を構え、魔理沙とパチュリーは魔法の詠唱に入ります。
 それに対してレティも寒気を集め始めます。

「まずは小手調べだぜ。マジックミサイル!」

 魔理沙の掛け声と共に緑色の魔力弾がレティに向かって放たれました。
 初速の遅いそれを見てレティは言いました。

「そんな遅い弾幕ではやられ……っ!!!」

 マジックミサイルは初速こそ遅かったものの、ぐんぐんと加速しレティに迫りました。
 何とかマジックミサイルを捌ききり、一安心したレティの前に今度は別の青白い魔力弾が迫っていました。

「こいつはさっきのより威力が高いぜ。マジックナパームだ」

 魔理沙の二段構えの弾幕を予想していなかったレティは突然目の前に出現したように見えたマジックナパームに反応できませんでした。
 もし、反応できたとしても先程のミサイルよりも一回り大きいそれを、この距離でよける事ができる程レティは俊敏ではありません。




「これは……一人時間差!? まさかこの技の使い手がこの幻想郷にいるなんて……!」

 魔理沙の一連の動きを見てパチュリーが驚きの声を上げました。

「初速の遅い弾幕を設置するように射出しながら自分は高速で戦場を駆け抜け、最初にばら撒いた弾幕を回避しきり、安心した相手に止めとなる必殺の一撃を加える……
 そう、そのためにはそれを囮と見せないだけの威力を備えた弾を使いこなし、尚且つ大量に展開させるだけの力が無ければならない。
 それに相手が予想外の回避ルートを選択する可能性を出来得る限り排除した正確な弾幕を張れなければ成立しない。
 つまりこの攻撃方法には恐ろしいほど高度な力と計算、それに加えて相手の動きを推察する確かな経験が必要なのよ……!」

「熱の入った解説をしてる所悪いけど…… 一人でぶつぶつ喋ってると気持ち悪いわよ? パチュリー」

「……私は私の役目を果たしただけよ」

「意味わからないし」




 レティにはナパームが迫ってくる様子がコマ送りのように感じられました。
 その間に様々な想いが脳裏を掠めます。

(ああ、今年はいつもより長く存在できたのだし、ここで華々しく散るのも素敵かもしれないわ……
 それにあのチルノって娘にも会えたし中々楽しかったじゃないの。
 そう、もう思い残すことなんて…… いえ、まだやれるわ。私はまだ全てを出し切っていない!)

「寒符『リンガリングコールド』!!!」

「ちっ…… やっぱり素直に落ちてはくれないか」

「ええ。今年に未練は無いけれど、やれる事を全部出し切ってから消える事にしたのよ」

「中々殊勝な心がけじゃないか」

「それに…… その方が黒幕らしいじゃないの」

「ああ、もっともだな。それに敬意を表して私も全開で行かせてもらうぜ!
 魔符『スターダストレヴァリエ』!!!」

 レティのスペルカードに対して、魔理沙もスペルカードを発動させました。
 二人の中間点で、寒気と星屑がぶつかり合いました。




「……手が出せる雰囲気じゃないわね」

「…………こういうのもいいかも」

 ………

「はぁ!? 今あんたの頭の中ではどんな状況になってるのよ!?」




「今年はとても楽しかったわ」

「ああ、そうかい」

 二人のスペルカードの衝突の余波は、それはそれは美しい星のような雪の結晶となって幻想郷に降り積もってゆきます。

「あなたとはまた弾幕ごっこがしたいわ」

「挑戦はいつでも受け付けてるぜ」

 今まで保たれていた均衡が少しずつ崩れていきます。

「でもね、私は冬にしか存在できないの」

「だからどうした。季節は巡るから四季なんだぜ」

 レティのスペルの勢いは、かろうじて魔理沙のスペルの軌道を逸らす程度にまで落ちていました。

「ふふ、あなたは本当に楽しい人だわ」

「私は楽しい事が好きだぜ。研究の邪魔はされたくないけどな」

 魔理沙のスペルがレティの体をかすり始めました。

「今度の私は私じゃないかもしれない。それでも挑戦を受けてくれるのかしら?」

「その時に生きていれば受けてたつぜ」

 レティは悲しげな、それでも精一杯の笑みを浮かべました。
 スペルはもうほとんど意味を成していません。

「ふふふ…… 最期に聞かせてもらえるかしら、あなたの名前を」

「最後? 何言ってんだよ。私に挑戦状を叩き付けに来るんじゃなかったのか?」

 魔理沙の言葉にレティは驚き、そして今度は満面の笑顔でこう言いました。

「……ええ、そうだったわね」

「私の名前は霧雨魔理沙だ。しっかり憶えときな」

「霧雨魔理沙…確かにその名を刻んだわ。次はあなたの番よ。私の名前はレティ・ホワイトロック」

「それは最初に聞いたぜ」

「ああ、そういえば一方的な自己紹介だったわね」

「まあいいさ。私もお前の名をしっかりと刻んだぜ」

「ああ…… 今年は本当に楽しかったわ………」

 それを最後にレティの姿は星屑の海に消えて見えなくなりました。
 魔理沙は空を見上げながら帽子を目深にかぶり直して言いました。

「さてと、さっさと春取り戻さないと次の冬が来なくなっちまうな」

「あれ? 魔理沙って寒いのが苦手じゃなかったっけ?」

「ああ、苦手だぜ。でも冬には冬の楽しみ方があるんだよ。研究の邪魔も入らないし」

「ふ~ん…… そんなもんかしら」

「そんなもんだぜ」

「……そんな事よりも貴女達はどっちに向かっていたのかわかっているのかしら?」

「「あ゛………」」

「……どうしようもないわね、本当に」
あれ? 最後の方、お気楽じゃない気が……
どうも、第一話です。チルノはじつにいじりやすi(パーフェクトフリーズ
パチェは解説係。さすがは知識と日陰の少j(ロイヤルフレア
そして妄想も加速s(サイレントセレナ
ほら、パチェがダチョウ知ってるのは顕界から流れ着いたタレント名鑑持ってたからだよ。うん。
あの図書館は本ならば何でも納まってそうだし。パチェも本ならば片っ端から読んでるはず。漫画とかも。
さて、そろそろ次回予告をしてお別れにしましょうか。


『無事に黒幕を倒し、意気揚々と凱旋をする三人』
「本編の終わりを完全に無視した予告ね」
『ちまたでもう知識人は要らないと囁かれていたパチュリーの将来もこれで安泰』
「アグニシャインだけで?」
『これからは大手を振って引き篭もれます』
「それのどこが大手を振ってなのよ……」
『次回、仄暗い書架の奥で 第二話「この羊皮紙の仄かな香りがたまらない」』
『明日からキミも知識人の仲間入り!』
「あ、もしかしたら解説の仕事が入るのかな?」
シロ
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