Coolier - 新生・東方創想話

『東方朱月譚』 第五章 ~紅月の戯言~

2006/03/06 01:25:01
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多くの生物には、理性の有る無しに拘らず本能として植え付けられた感情がある。
それは、『畏れ』。
自己の命が絶たれる危険を予め回避する防衛手段として、ある程度の知性を持つ生物には畏れを抱けるだけの知能がある。
『百獣の王』と称えられる勇敢なライオンでさえ、象の群れの前では圧倒的な無力感の前に立ち去る事を選ぶ。
『蛇に睨まれた蛙』のように動きを止めてしまうのでは本末転倒であるが、退く事は決して恥ずべき事ではない。そこで自分が命を落とす事で、種の存続が危うくなる事を無意識で悟っているからだ。

存在としての差を見せつけられた時に、一歩を退ける者こそが真の勇者であり、
――無策で立ち向かうなど、単なる愚者のする事だ。

だが、幻想郷でその常識は通用しない。何故なら、
――退く事は弱者であると認める事であり。
――それはすなわち、強者の楽園たる妖怪の郷で生きる資格を放棄する事に繋がるのだから。



「……お嬢様。」
ようやく表情を変えた咲夜の呟きに、郁未は警戒を緩めずに呼ばれた姿を凝視する。
薄紅色の衣装に身を包み、体同様の小柄な顔には深い紅の瞳が爛々と輝いている。対照的な白い肌と、帽子に隠れた青い髪のせいで、余計に目の輝きが際立っていた。
そして決定的なのは、
(……今度は翼、か……。)
やはり小振りの黒い両翼が、背中から覗いている。何故か差している日傘も含めて推測するに、
(――吸血鬼、とか。我ながら想像力が豊かで困るなぁ……。)
いい加減このパターンも飽きてきたな、と瞬時に切り替え終了。
こちらの思考が終わるのを待っていたようなタイミングで、幼いお嬢様は郁未を見て、
「……成る程。これは良い感じに壊れてるわね。」
「……!」
あっさりと。こちらの存在を見透かしたような口振りで、彼女は言った。
「おいおい、いい加減こっちにも説明してくれ。私達も既に当事者なんだからな。」
さっきまで傍観者を決め込んでいた魔理沙が、場の空気をほぐすように苦笑。
「……良いんですか、お嬢様。彼女を捕らえなくても――」
「その必要はもう無い。というか、そもそも連れて来るだけで充分なんだけどね。」
それぐらい察しなさい、と呆れ顔で諌める顔には、全く険が感じられない。
しかし、郁未は悟っていた。
(――彼女は、別格だ。)
強さがどうとかいう問題ではなく、そもそも喧嘩を売る資格が自分には存在しない。
そう思わせるだけの威厳を彼女は持っていた。
恐らく朱の眼でない時に彼女と会っていたら、間違い無く消えていただろう。
「……そして、利口だわ。咲夜も見習いなさい。」
「――。」
またしても心を見透かしたような言葉に、もはや抵抗は無意味と判断。
眼の色はそのままに、警戒を解除して、言った。
「……色々お見通しのようで。ついでに、色々と教えてくれるとありがたいんだけど。」



「あ、霊夢じゃん。」
「あれ、あんたが出迎えとは珍しいわね。」
永遠亭の前に辿り着いた霊夢は、思わぬ住人と遭遇していた。
健康に気を遣ったから、という彼女以外に例を見ない妖怪変化の道を辿った、地上の素兎。
『人間を幸運にする程度の能力』の持ち主、因幡 てゐは相変わらずの笑顔で、
「今日は何の用? 生憎賽銭箱はここに無いよ。」
「その件についてはまた今度じっっっっくりと話をするとして。」
口達者な彼女とやり合うのは得策でないので、ずばっと本題を切り出した。
「宇宙人を出して欲しいんだけど。」
「永琳と輝夜なら中に居るよ。多分。」
「多分って何よ。」
嘘か? と勘繰るが、そんな嘘を吐いても無駄な事は承知しているだろう。
「自分から会いに来たんなら、最後まで自分で責任取るべきだね。」
「はいはい、解ったわよ。」
そういう事ね、と納得して、玄関の扉を開けた。
今日は客として来ているので、履物を脱いで入る。
横にぴょこぴょこ付いて来るてゐは素足だった筈だが、何故か泥は着いていなかった。
「で、何の用?」
「あんたに聞いてもまともな答えは期待出来ないけど……何か企んでる?」
「んー? そんな素振りは無いけどねー。」
何の捻りも無く即答する所から見ると、、とぼけている訳では無さそうだ。
(……或いは、知らないだけか。)
両方の可能性もあるな、と霊夢は判断を保留。まずはここの主人に会う必要がある。
と、その前に疑問を一つ晴らさなければならない。
「月の兎はどうしたの?」
「鈴仙? 彼女なら永琳にお遣い頼まれて出てったわよ。」
「お遣い、ねぇ。」
薬師の事だから、また薬草でも取りに行かされたのだろう。今は大して関係あるまい。
「じゃあ、永琳で。」
「はいはい、一名様ごあんなーい。」
一人でも辿り着けるが、彼女の指示を請うた方が早いので、任せた。
どこまでも続くような廊下をしばらく歩いた後、
「とうちゃーく。」
明らかに日本家屋に相応しくない頑丈なドアの前に二人揃って立つ。
「……コメントし辛い。」
「別にしなくてもいいけど。というかしない方が安全。」
「敢えて危なくない方向で訊くけど、魔理沙対策?」
「どっちかって言うと天狗ね。ああ見えて、烏は弁えてるよ? いや、そうしないと入れないだけなんだけど。」
「……そうですか。」
やっぱ帰ろうかな、と一瞬考えるが、勇気を振り絞って、ドアノブに手を掛ける。
ゆっくりと回し、開けてみれば、
「……うわ、すご。」
ヴワルの魔法書庫とまではいかないが、相当量の書物が詰まった本棚が並んでいた。
ここから見て取れるタイトルのほとんどが、薬学にまつわるものばかり。
中には解読不能な文字(というか文字なのかどうかも怪しい)の羅列があるが、あれは恐らく月の蔵書に違いあるまい。
邪魔するわよ、と小声で呟き、足を踏み入れると、
「いらっしゃい。」
たおやかな微笑で迎えの言葉を口にする、月の頭脳の姿が奥に見えた。
どうやら研究室も兼ねているらしく、こちらを向いた彼女の傍には、見た事の無い器具や機械が所狭しと並んでいた。無論、魔理沙の家と違って整然としていたが。
「これだけ物があるのに、片付いてるように見えるんだから不思議ね。」
「何処に何があるかはっきりしていれば、散らかる事なんて無いの。貴方の家みたいに何も無い場合もそうね。」
「それは嫌味か。」
「事実。」
「…………。」
まあそうなのだが。
非生産的な話し合いをする気は毛頭無いので、直球で訊いてみる事にする。
「あんた、何か企んでない?」
「根拠は?」
「無い。でも、何か怪しい。」
「そんな事言ったら、誰でも犯罪者になってしまうわね。」
こちらに歩み寄りながら、笑みを絶やさず月人は漏らす。
「用件はそれだけ? だったら、これから忙しくなるから、貴方にも手伝って欲しい事があるんだけど。」
「忙しくなるって、何が。」
「こちらの話。でも、貴方にも無関係ではなくなるわね。」
怪し過ぎる。というかこっちの用件はまだ済んでいない。
なので、切り札を出す事にした。
「根拠と言えるかどうかは解らないけど、勘だけで説明出来ない事が一つあるわ。」
「つまり最初は勘だけで来た、と。」
「いつもの事よ。」
横では、他人事のようにてゐが遣り取りを見ているが、気にせず告げる。
「今日、月絡みの奴がいつもと違う事をしてたのよ。それだけでもここに来る意味はあるわ。」
「それって月光閃?」
「漢字で言うな。」
何か無駄に格好良いし。
「それ以外にも、不審な動きが多いし。紫が来るくらいなら、あんたの所しか思い当たらなくてね。」
「それを最初に言うべきではないかしら?」
「最初に言って、もし当たりならごまかすでしょうが。」
「まあ、それもそうね。」
睨みを利かせると、ようやく笑みを解除する永琳。
「さっきも言ったけど、今回の事は私達の個人的な事情なの。」
「私達、って事は……。」
つまり、月の民が関係しているのだろうか。だが、
「結界は破って来られないんだし、使いが来る心配なんて無い筈じゃあ……。」
彼女達と出会うきっかけとなった、偽りの満月が浮かぶ永夜を思い返しつつ、尋ねる。
が、罪人の協力者たる薬師は首を横に振り、
「確かに、月から来る事は無いでしょう。でも……。」
「でも?」
珍しく逡巡する全能者に眉をひそめ、横の狡猾な兎も同じ表情をしているのを視界に収めながら、霊夢は彼女の言葉を聞く。
「……そう。あれは私の終わる事の無い生涯の中での、数少ない汚点の一つ――。」
目を伏せ、表情を見せないようにしつつ、誰も知る事の無い過去を語り始めた――。



ようやく、本当の意味で状況が解り始めた事に、郁未は自身の中の疑念が消えつつあるのを悟った。
紅の吸血姫――レミリア・スカーレットから告げられる内容は、他の人妖達にとっても瑣末とは言えないものであった。
彼女が夢の中で見たという朱い月は、かつて郁未が立ち向かったモノの過去であると同時に、郁未自身をも指す事は容易に察する事が出来た。
『運命を操る程度の能力』を持つ紅い悪魔でさえ、その存在のあまりの凶々しさに、身を凍らせるほどの戦慄を感じたという。
幻想郷の中でも指折りの実力者である彼女がそう言うのだから、正直自分が何故アレを倒せたのかと訊かれても、答えようが無い。
だが、そこは500年を生きる妖怪(本人にそう言うと怒るのだが、まあここではいいだろう)、魔法使い二人に迫られて言葉を詰まらせるこちらに対して、一言でこう言った。
「心の強さ、よ。」
「心……。」
こちらの事情を話すまでも無く全て理解していた幼い吸血鬼は、右の人差し指を立てて告げた。
「郁未、お前さんには信じられるものがあったろう。私には縁の無い、仲間の絆だとか母親の愛だとか、――託された想い、ってやつがな。」
「…………。」
確かに。教団に潜入して、自分一人で立ち向かう事を決意してはいたが、本当に独りで戦っていたらどうなっていただろうか。気丈で現実家の彼女や、無垢で優しいあの子と出会わなければ、無感情のようで激情家のあの人が近くに居なければ、そして何よりアイツと寝床を共にしていなければ、自分の心はとうに折れてしまっていたに違いない。
「当然、現実に永く触れる事で力が薄れたってのもあるだろう。だがそれでも、人間だけにしか無い情の強さってやつは、存外馬鹿に出来ないもんでね。……情がナノ単位しかない人間に負けた化け物の台詞じゃないが。」
何か思い出したように、勝手に不機嫌になるレミリア。他の四人が苦笑いしているのを見ると、どうやら他にも強い人間が居るらしい。信じられない話だが。
郁未は『空気椅子』に座ったまま、頷きだけで追及は避けた。
(「立ち話もなんだから」とレミリアは提案したが、アリスの家に六人も座ってくつろげるスペースは無いので、郁未の能力で外に圧縮空気の円柱を人数分作り出し、皆はそこに腰掛けている。)
「それで、何でお前が直々に出てきたんだ? 咲夜に連れて来させるつもりだったんだろ?」
まだ苦笑混じりの顔で魔理沙が問うと、レミリアは腕を組み、
「運命が変わったと言ったろう。じっと待ってても時間の無駄だからよ。」
「どういう事ですか、お嬢様?」
さっきまでは何も知らないまま命令だけを遂行しようとしていた咲夜は、とぼけた顔で尋ねた。
「本当なら、そこの兎と貴方が同時に郁未と会う予定だったのよ。それを狂わせたのは魔理沙と咲夜、貴方達の不手際ね。」
「あの、私は関係無いの……?」
会話から外れ気味のアリスが控えめに発言するものの、
「それじゃあ逆に訊くけど、あんたはあの時冷静に行動出来たと思うの?」
「……う。そう言われると、自信無いわね。」
ちらりとこちらを見て、ばつが悪そうな顔で引っ込む。もう気にしなくてもいいのに。
「予定調和が崩れたのは……魔理沙が貴方を庇ったのに咲夜が気付かなかったから。いや、気付いてたんでしょうけど、アリスが居るからいつもみたいにやれなかったのね。」
「……申し訳ありません。」
ようやく無礼な態度を改めるメイド長。でも、いつものやり方って、どんなんだろう。興味を惹かれたが、今はそれ所じゃない。
「で、私と会ってどうするつもりなの? ……えーと、レミリア、でいいの?」
「様なんて付けたら張り倒すわよ。心の中だけで『私は偉い』って思ってればそれで充分。」
ふふん、と(無い)胸を張るレミリア。いや、まあ、確かに偉いんだろうけど、威厳と風貌がマッチしなさ過ぎて、何か可愛い。思わず、
「悪戯していい?」
「「却下。」」
主従のダブルツッコミに、わきわきとさせていた手を止める。
(……いや、ナイフと爪で脅さなくても冗談だって……。)
降参です、と両手を上に挙げるポーズ。うーん、ハイレベルの女の子がこんなに集まってるのに、お預けとは拷問だ。
「……魔理沙以上の危険分子ね。」
「お前には言われたかない。」
同士よ、それは私も同感だ。……という言葉は心に仕舞って置く。
「……あの、いいですか?」
完全に置いてけぼりを食らっていた鈴仙が、発言権を求めるように挙手。そうだ、彼女の話をちゃんと聞かなくてはいけない。
この中では最も権限の強いレミリアが議長ばりに顎で促すと、鈴仙は俯き加減で話し始めた。
「さっきは黙っていた事ですが……私は、月から来た兎なのです。」
「月の……兎、か。」
まあ、今までの話の流れからするとそう来ないとおかしい。
こちらがうんうんと頷くのを見て、彼女は極力視線を合わさないようにして(まだ怖いらしい)、続ける。
「郁未さんが出会った『朱い月』の正体は、私にもはっきりとは解りません。ただ……。」
「ただ?」
注目されている事に気付き、改めて姿勢を正した後、
「……どうやら、師匠達はその存在を怖れているようなのです。」
長くなりますけど、と告げた上で、狂気の妖兎は主人達の過去を語り始めた――。



「……何よ、それ。」
永琳の話が終わって、最初に吐いて出た言葉が、それだった。
罪人の罪人による罪人のための理論でありながら、賢人は賢人らしく賢人ぶってそれを正当化する。いくら情の薄い霊夢といえども、聞き捨てならない部分が多過ぎた。
「あの蓬莱人の事といい、あんたらは自分で解決しようって気が無い訳……?」
「出来る事なら、ね。罪の意識が優先してしまうと、何事も為せなくなってしまうのよ。」
残念な事にね、と悪びれもせずに漏らす全能者の顔は、しかし笑っていない。
まるで能面のようだと、場違いな思考で高ぶる感情を鎮めながら、
「で、私に何をさせたいの?」
腕組みしながらの言葉に驚いたのは、正面の永琳だけではない。
「本気? たぶん係わりあいにならない方がいいよ、霊夢?」
狡猾な因幡にしては珍しく、ダメダメ、と両手を振るジェスチャーを見せるてゐ。
「正直私だって嫌だしー、このまま帰って寝た方がいいんじゃない?」
永琳がジト目で睨んでいるのも気にせず、てゐは『首を突っ込むな』と忠告してくる。
しかし、
「今さらそんな訳にもいかないわよ。博麗の巫女が異変に屈する事なんて許されないんだから。」
「だーかーらー、今回のは幻想郷には関係無いじゃない? それに異変でもないし。」
「紫が自分から出て来る時点で充分異変でしょうが。」
むー、とふくれっ面を見せる所からするに、こちらの心配より自分が逃げる口実が欲しいだけだろう。なので、霊夢は彼女を無視。
再び正面に顔を向けると、永琳は目を伏せ、
「……既に、ウドンゲを迎えに出したわ。間も無くここに来る筈。」
「随分と危険なお遣いね。あんたの話が正しければ――」
命の保証は無いわよ? という言葉は呑みこむ。いくら彼女らが自分勝手とは言え、その価値を軽んじる発言まで許される訳ではない。それに、不死の鳳凰に何度となく刺客を仕向けたであろう彼女達だ。命の貴さを知らぬ筈があるまい。
こちらの台詞の続きを悟ったのだろう、永琳はわずかに表情を曇らせ、
「……大丈夫よ。あの子は退き際だけは弁えてるのだから、無謀な事はしない。」
しかし、芯の強い語調で、弟子の無事を断言した。



「……えー。」
長い過去語りを聞き終えて、最初に漏れたのはため息。
身体能力がこんななので頭は足りないと思われるかもしれないが、一流のアスリートたる者、頭脳も達者でなければ務まらない。
高校陸上界でも名の通った選手であった郁未は、鈴仙の口から紡がれる物語が、日本最古のおとぎ話と伝えられる『竹取物語』そのものである事を、完全に理解していた。
(まさか、かぐや姫が本当に実在したとは……。)
それだけでなく、蓬莱の薬や玉の枝までが存在するという。何とメルヘンチックな事か。
しかし、その裏には物語で語られなかった色々な経緯があったようで、むしろその裏事情こそが『おとぎ話』を実在の『歴史』たらしめる要因である事は疑い無い事実だ。
(天の羽衣を羽織るまでも無く、姫の心は狂いあそばしておられた、と。貴人と奇人が紙一重だなんて、そんな冗句は聞いた事も無い。)
世の中狂った奴が多過ぎる。それらは往々にして天然。狂気は否応無しに心の殻を食い破り、哀れケダモノとして生くる道しか在らず。かくいう己もさて殺戮に溺れる事は無かれど、欲情にまみれる事数知れず。それを本能と隠れるならいざ知らず、許されざる咎に黙する事もあたわず、ただ無我の最中にたゆたうのみ。
(――く。久しぶりに来たわね。)
久しぶり? そんな筈は無い。貴女がただ忘れていただけ。
(……一つになって以来、語りかけてきたのが、って意味よ。)
まあそれもそうか。しばらくはそんな必要も無かったし。
(罪を償ったなんて言うつもりは無いわ。でも、今さら何?)
別に? ただ、お疲れのようだから変わってあげようかと思って。
(……それこそ余計なお世話よ。あなたに任せたら、身体より心が保たないもの。)
正直だから。それで、この後どうするつもり?
(そうだなぁ……って、もう決まってるのに混ぜっ返さないで。)
それは失礼。元より、『私』達は混ざり合った存在。
(そうそう、たまには良い事言うのよね、あなたも。)
……あのね。それ、自画自賛って言うんだけど。
(たまには良いじゃない。子供は褒められて成長するのよ?)
……もう。折角励ましてあげようと思ったのに。
(それこそ自画自賛じゃない。甘えるのと甘やかされるのとは全然違うの。)
はいはい。どうせ『私』は素直じゃないですよ。
(正直だけどね。その違い、言ってみ?)
変なノリまで覚えて……えーと、違いはね――。
(違いは?)
――理性が正直で、感情が素直。
(はい、良く出来ました。ぱちぱち。)
――えーと、自分の頭を格好良く吹っ飛ばす方法は、と。
(ごめんなさい。まだ死にたくないです。)
解ればよろしい。……それじゃあ、良い?
(うん。……ありがとね、気を遣ってくれて。)
どういたしまして。まあ、頑張ってきなさい。
――もはや弱くは無い、人を超えたヒトよ。



「……ん……。」
郁未が気付いた時、妙に視線が向けられているのを感じた。
その色は様々だが、基本的には気遣いが含まれているようだった。
視線の持ち主は五人。
「あの……大丈夫ですか?」
自分の話が原因ではと、責任を感じているのだろう。心配そうな表情ながらようやく目を合わせてくれた、狂気の月の兎。
「……良くこれが保てるわね。」
自らが座る空気椅子を撫でながら、半分呆れた様子で呟く、七色の人形遣い。
「残念。もう少しでこけそうだったのに。」
恐らくこちらが仰け反りでもしたのだろう、やはり感情の読めない微笑を浮かべた、完全で瀟洒なメイド。
「――訂正。最悪な感じで壊れてるようね。」
限界に近い程のしかめっ面で睨んでいる、永遠に紅い幼き月。そして、
「あー……うわ言はほどほどにしといた方がいいぞ、郁未よ。」
言葉とは裏腹に、心配そうな表情で見つめている、普通の黒魔法使い。
彼女らの全ての感情に応えるように、郁未は勢い良く立ち上がり、満面の笑みで、
「――余計なお世話よ。」
視えない椅子を消してやった。



――さあ、宴の準備は終わった。
――衝動に任せて突き進むのも良いが、
――たまには虚言を交えてゆるりとくつろぐ事も必要だ。
――血染めの十字架に磔られるか、
――摩天楼の主を蹴落とすか。
――瑣末な悩みとはここで別離し、
――自身の想いで全てを侵そう。
――願わくは、我らが絆こそが偽り無き剣(ゆうき)の証たらん事を。


To be continued…
今回の前置きは、幻想郷の妖怪が人を積極的に襲う事を前提にした仮定です。
もちろん実際は襲う妖怪の方が稀有な存在なので、視界に入ったくらいなら見逃してもらえる可能性は高いと思います。
というか、そうでないと霊夢達以外の人間が滅びます(苦笑)

はい、いきなり言い訳ですみません。Zug-Guyです。
真実の内、半分は明かされました。さて、残る半分は何か?
彼女はその真実を知った時、何を思うのか?
そして、影の薄い霊夢に活躍の場はあるのか!?(←最重要ポイント)

今回は割と短めですが、これ以上やると最後まで突っ走らざるをえないので、ここでストップ。
「先が見えちゃってつまらん!」という方もここでストップしちゃってください。
多分、予想は裏切りませんので(ぉ
それ以前に今回の話自体、読む人を選ぶ気がしますが……(苦笑)

さて、前回の続き。
何故彼女があれほどまでに強いかという話ですが、別に強い訳じゃありません。
勿論弱くもないんですが、鈴仙以降の遣り取りからも解るように、彼女は『自分にとって優位な状況を作り出している』だけです。
だって、人間界から来たばかりの彼女がいきなり『弾幕ごっこ』を挑んで勝てる筈がないのですから。
アリスにも言ったように『不可視の力』は反則なので使用不可。となれば、戦闘に持ち込ませないように立ち回るしかない。その割を思いっきり喰ったのが可哀想な鈴仙です。
咲夜とは良い勝負が出来たでしょうが、人質が間に居たためお預け。
で、レミリアは周知の通り肉弾戦の方が専門なので、万に一つの勝機もありません。降参。
カリスマとは力です(違)以上、証明終了。QED。

しかし、短編と長編の違いはあれど、まさか二連続で永遠亭ネタを書くか、自分。
『竹取物語』は古典での学習+α程度の知識ですし、『永夜抄』をプレイするまでそんなに思い入れがあった訳でもありません。
うーむ、知らぬ間に神主の思う壺に嵌っているのでしょうか。それとも、これこそが月の狂気か。
まあ、どちらでも良いですけどね(重症)

いよいよクライマックス。黒幕でもないですが本当に会うべき者達との『再会』です。
運命を乗り越え、宿命に抗う時、永遠の幸福が訪れ……たら良いなぁ(他人事)
では、第六章でお会いしましょう。
Zug-Guy
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