Coolier - 新生・東方創想話

どっといーたー おそらくその前編

2006/02/28 08:52:20
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 ところで唐突ではあるが、今日は二月三日なんだ。そういう事になったんだ。
 まあ境界でも弄られたと思ってさ。な?
 だからたとえ黒いものでも、閻魔様が白と言えば、二月三日なのですよ。白沢嘘つかない。


 まあそういう事だから、諸君等にはもう先が読めたことと思うが、一応。









 晴天。およそ青一色に染められた今日、朝日の光も爽やかなその下に映える神社にて。


 境内にもやもやと立ち込める妖しげな霧。神社の奥で、何かが動いた。

 霧はやがて一所に集束、人型を成す。
「おーい霊夢ー、遊びにきびびびびっ!?」
 びちびちびちーん


 笑顔の萃香を真っ先に出迎えたのは、稲妻が如き衝撃だった。雨粒の様な雷撃。電撃さながらの大豆。
 萃香は敢えてその衝撃、その全エネルギーを顔面へと受け継ぎ、膝を中心に弧を描いた。
 エネルギーの終着駅は、果て無き幻想郷の大地であった。


「いったぁー!!」
「いらっしゃい、待ってたわよ」
「お、お?」
 激痛もそのままに起き上がった萃香を次に迎えたものは、先の笑顔にも劣らぬ満面の笑みを浮かべた巫女であった。

 おやおや?何時もと様子が違うぞ?
 普段彼女が庭に立っているときは、大体お祓い棒か箒か煎餅を持っているのだが、今日はその何れでもない。小さな箱の様な物…枡だ。
 だがそれより何より萃香が気になっていたのは、その態度。
「まぁまぁ全くあんたって鬼は。何故に今日と言う日に限って来ないのかと思ってたのよ」
 言って、手にした豆を一粒頬張ると、食欲をそそられる良い咀嚼音が響く。

 何時もなら、さもどうでもよさそうに対応するのだが…これはどうしたことか?


 まあ実際、そんな風に思っているのは萃香一人であろう。
 そこはそれ、誰とは言わないけど皆わかってる事だから。誰とは言わないけど。


「ん?ん?」
「さてそれじゃあ早速」
 まだ状況が飲み込めていない鬼っ娘にお構いなしで、片手に抱えた枡に手を突っ込む霊夢。
 そこはかとなく漂っている殺気にも反応しないのは、まだ頭部のダメージが残っている所為だろうか。
 枡の中に入った豆をぐわしりと霊夢が掴み取り出した時。

 更にその状況に、これまたお構いなく飛来してくる流星。



 ZUN



「えげゃんっ!?」

 果たしてそれは狙ったのか態となのか、はたまた意図的にか計算ずくでか。箒の柄は鬼の頭頂部に垂直落下。
 そのエネルギーはもはや受け流すこと適わず。鬼は倒れ伏すこともできず。唯そのように一言奇声を発し、止まった。

 箒にぶら下がった魔法使いがニヤニヤしていた。




魔理沙の実験レポート・Easy
  2/3
   更新情報:鬼の角[二本→三本]
     考察:新たな進化を予感させた




 さて神社の縁側にて。
「それで早速なんだが萃香」
「ちょっと待てちょっと待て」
 萃香は意識を取り戻し、最初にかけられた言葉と己の頭部に物凄い違和感を感じつつ。
「なんかよくわかんないんだけど、その前に多分あなたは私に言うことがあると思う」
 途中の記憶がかなり曖昧だが、その痛みだけは忘れることは、決して無かった。
 魔理沙の方は、はて何のことやらという顔をしていたが、萃香の顔を見てふと閃きぽんと手を叩く。

「中々似合ってるぜ、その角」

 意味が解らない。
 いや、見る人によってはその意見は正しいのかもしれないが。
「…もういいや。それで、えっとなんだっけ?…ああそうだ、遊びに来たんだった」
「そうか。私もお前と遊びたかったんだよ」
「え?何、なんか面白い遊びでもあるの?」
 と魔理沙に言い寄るその様子から、ふと感じた疑問を霊夢は口にした。
「あら?あなたもしかして今日が何の日か知らないの?」
「へ?」
 先程から彼女の頭から疑問符が離れない。

 なんだ、なんなのだ今日の二人は?そういえば神社に着いた時の霊夢の様子は変だった気がする。そうだ、さっきもその疑問の答えを探していたんだった。

 そしてその他に印象に残っている点。


 霊夢。咀嚼音。激痛。落雷のような衝撃。魔理沙。膝中心に約1/4回転。小粒。豆。大豆。ニヤニヤ


 大豆?豆?


 霊夢、魔理沙、人間、大豆、私、鬼。ニヤニヤ






 ところで今更ではあるが、今日は二月三日なんだ。






「あっ。あぁ~あーあーぁ」

 そうかそうだそうだったうんうん、と頷く萃香。
 首を縦に振ると、頭上でガサガサ音がして煩い気もしたが、そんな顛末な事はどうでもよかったのであった。

「漸く気づいてくれたのね。それじゃ早速」
「いやいや、ちょっと待つんだ霊夢」
 魔理沙が、何が嬉しいのか笑顔で大豆を取り出す霊夢の顔を引っ張って抑えたので、御不満の様子で頬を膨らませる。
 ギョッとする萃香と魔理沙。
 何やら霊夢の体が激しく振動している。押さえつける魔理沙にもそれは程よく伝わっていた。
「うわあー。霊夢何してんだ気持ち悪い」
「いやだってもうね。今日はもうね。この豆。これ。あいつに力の限りぶつけたくてうずうずしてたのよ。ていうか昨日は興奮で中々寝付けなかったわ」
「子供かお前は」
「ああ~ももうだめ、すすすすでに出てるでしょきき禁断症状が」
「何時から豆撒き中毒になってんだよ」
「ききっき昨日かららよぉおぉおぉ」
「ああそうかい」


「ね、ねえ魔理沙、それ大丈夫?」
 霊夢と魔理沙の掛け合いを、狛犬の脇でこっそり眺めていた萃香。霊夢の激しい振動と激しい視線にすっかり怯えてしまっている。
「ああ。ほら霊夢、とりあえず落ち着け。今から説明するから。お前もこっち来な」
 ちょいちょい、と手招きして魔理沙がそう言いながら霊夢の耳元に息を吹きかけてやると、はふんと悶えて霊夢はへたり込んだ。
 だがその視線は未だ萃香から離さず、むしろ頬を赤らめて余計に妖しくなった感じだ。萃香からは遠くてよく分からないが、ちょっとはぁはぁ言ってる気もする。

 こわくてちかづけない。



 今日は皆でちょっとした遊びをやってみようではないか。と魔理沙は言った。
 すなわち二月三日、節分の日の特徴を活かした遊びをしたいと。
 幻想卿に鬼が居たことは殆どの人間に忘れ去られた事ではあったが、その日、厄払いの意味で豆を撒く習慣は残っていた。
 萃香も以前に人間の里で、その様子を隠れて見ていた事があったのだが、
「私があんな物で祓われるたまるかい。余りに滑稽だったから暫く近くで見ててやったよ。勿論誰も気づかなかったけどね」
 と鼻で笑った。さっき効いてたじゃない、と霊夢は言ったが、無かったことにして欲しそうな顔で無視した。
 そんな萃香に対して、魔理沙も不敵な笑みを浮かべて言う。

「なら試してみないか?私達と、お前とで」

 その言葉に目を見開いて感嘆すると、自慢の瓢箪を一口。
「面白そうじゃない。いいわよ」
「ようし。んじゃ先ずは参加者を集めよう。よろしく」
「うぃ~」
 そのまま浴びるように酒を飲みながら霧散していく萃香。その時霊夢が舌打ちしていたのだが、魔理沙は気付かなかった。




「ルールを説明する」
 霧雨魔理沙先生の青空教室がここ博麗神社の縁側のある一室で開かれた。
 霧雨先生はいつもの黒魔女っ娘姿に加えて、眼鏡と片手に教鞭、片手に生徒名簿が貼り付けられた板、そして帽子の縁から綿付きの紐が垂れ下がっていた。
 傍には助手のつもりか博麗さんと八雲さんが座っており、そして生徒たちは狭い部屋の中、箪笥の上やら何やらと適当に座って霧雨先生の方を見ていた。

 背後の黒板にはなにやら絵が描かれている。霧雨先生は教鞭でその絵を指しながら、授業を始めようとしたのだが。
「…っとその前に」
 一旦教鞭は下ろして生徒たちを見回すと、「これで参加者は全員か?」と尋ねた。
 はい、と一人の少女が手を挙げる。霧雨先生は眼鏡をくいっと上げて、わざとらしく名簿を見遣る。
「ん、十六夜か、なんだ?」
「ノーレッジ様は、『忙しいけど後で行く』、とのことです」
「ふむふむ」
 そして呟きながら生徒名簿にチェックをつけ、
「他には?……いないな?じゃあ始めよう」
 改めて教鞭を立てた。

「まず場所は基本的に無制限。だが、伊吹は可能な限り誰かに見つかるようにうろつく事。まあ休憩の為に隠れるのは良しとしよう」
 ぺしぺしと黒板の絵を叩く。本当は適当に黒板を叩いているだけだが、皆どうでもよさそうだった。
「あいよー」
 こいつ既に酔っている。これが普通の青空教室だったら即マスタースパークしてやるところだが、いきなり鬼がリタイヤしてもつまらない。
 霧雨先生は博麗さんと八雲さんに目配せする。二人が動き出した途端、伊吹はビクッと震えて背筋を伸ばした。どちらかと言うと彼女が恐れたのは、博麗さんの妖しい眼差しだった。
 その様子に満足したのか霧雨先生が、良しと頷く。
「私達は基本的には豆を伊吹に投げつける訳だが、投げ方はこれも基本的には自由とする」
「それってどういう意味?」
 そう尋ねたのは、優曇華院。
「つまり、自分の能力を活かした…まあ簡単にいうとだな、チルノ、ちょっとこっちこい」
「なによー」
 霧雨先生が手招きして、チルノが仕方なさ気にそれに応じる。二人は縁側を降りて、神社の庭に出た。

「チルノを鬼、つまり伊吹とする」
「私はチルノよ!」
「いいから黙ってそこに立ってな」
「むぐぐぐ!」
 チルノが霧雨先生に飛び掛りそうになるが、ホワイトロックが駆け寄りそれを抑える。
「どうぞー」
 とホワイトロックが言うのを見て、霧雨先生は魔力を溜め始めた。
「え?え?」
 その場の全員が何となく今後の展開を予測し始めた中、唯一人理解できてないチルノ。
「つまりだな………スターダストレヴァリエッ!!」
 箒の代わりに教鞭を振り上げると同時に、蓄積していた魔力が周囲に迸る。
 霧雨先生の周りから様々な色や大きさの星が飛び出して、それは一瞬で消えた。少なくともチルノにはそう見えていた。
 チルノが首を傾げる。ホワイトロックは既にその場を離れていたが、チルノは気付かない。そして気付かない。
「うわっ…って何よ?痛っ!?」

 それは、消えたのではないことに。

 変化したのだ、星々の全てが。




 そう、豆に。




「痛っ痛っいたたいたたたっ」
 びしびしびしびし
「うわんっ!もう何すんのよー!」
 初めは痛がっているだけだったが、やっと自分のほうに飛んで来る物の正体に気付き、チルノは間合いを取ろうと後退する。
「こんな豆くらいっ!こーなったらこっちだってぇぇぇええええ!?」
 そのまま反撃してやろうと身構えたチルノが目にしたものは、割とよく見る五芒星、何時ものスターダストレヴァリエの弾幕そのものだった。
 違う点は、ある。五芒星は全て大豆色だったという事だ。
 それ以外は、ほぼ普通のスターダストレヴァリエ。つまり。

「ちょっ、まっ…ギャーーーーーーーー!!」



「とまあ、こんな具合だな。要は弾幕ごっこと大体同じ、ただ弾幕を全部を豆で構成するってだけだ。豆幕ごっこだな」
「豆撒くごっこね」
「豆撒くごっこだぜ」
「さっきのあれはさしずめ、豆符『スターダストマメヴァリエ』ってとこかしら?」
「じゃお前だったら、豆符『夢想封印 豆』とかか?」
「素敵だわ」
「そうか?それじゃあれだな、基本的にスペルカードは全員漏れなく『豆符』にする事。OK?」
 あははは、とか、えぇ~とか様々な声が青空に響き渡る。

 ここは愉快な幻想教室。


「うきゃーーーっ!」
 これは愉快な湖上の氷精。
「おお、生きてたか」
「あんた豆で殺す気だったの」
「そうだな」
「バカじゃないの?」
「お前に言われたくないぜ」
「あー!もう!許さない(何度も言ってる気がするけど)!」
「まあ待て、落ち着け」
「うるさいうるさい!食らえ!豆符『パーフェクトフリー豆』!」
 チルノがそう叫ぶと同時に、辺りには弾幕型の豆が飛び散る。
「ほお!早速ルールに則ってくれるとは、案外物分りがいいじゃないか」
「うっさいっての!」
 そのまま豆弾の一つが、感心している霧雨先生の目の前に迫る。
 ニヤリ、霧雨先生が笑みを浮かべた。
 ピタリと止まる豆弾。そしてここからがチルノの本領発揮である。
 この後再びランダムに動き出す豆弾に加え、更に別の豆弾を放とうと言うわけだが…
「それじゃ、皆」
「えっ」
 何時の間にか生徒たちは全員チルノの弾幕ならぬ豆幕の只中にいた。次の瞬間。


ばりぼり


「あ、あれっ?あれ?」
 音を立てて消えていく豆弾。別の言い方をすれば。
 咀嚼音を奏でながら少女たちの胃袋へ納まって行く大豆。
「この豆、ちょっと冷たいなあ」
 と誰かが言った。



「まあ、本番では食べるのは無しだな」
「そうねぇ、まあ普通に食べられないのもあると思うけど」
 と言いつつ伊吹が横目で見遣るのは、紫色の金髪人形。
「失礼しちゃうわねぇ、スーさん。でもまあ私はどうせ食べないから関係ないけどねぇ」
「後、こちら側への直接攻撃は無し」
「まあ、いいけど…あれ、それじゃどうしたら私の勝ちになるわけ?」
「ああ、簡単だ。お前が今日一日『まいった』って言わなかったら勝ちだ。逆に、言ったら言わせた奴の勝ち」
「そんなんんでいいの?なんだぁ、だったら楽勝じゃない」
 そう言って片腕を回しながら、笑う。しかしその笑みは直ぐに驚愕のものに変わる。先生のこの一言で。
「勿論霧になるの無しな」
「えーっ?」

 当然である。霧雨先生こと魔理沙は、弾幕ごっことほぼ同じだと言った。撃つほうはひたすら撃ち、避けるほうはひたすら避ける。
 この二者のやりとりで勝敗を決定するのが弾幕ごっこ。当て倒すか避けきるかの真剣勝負。今回、ルールに若干の違いはあれど、その基本原則は不変である。

 さて、伊吹は今回避ける側として参加する事となるわけだが。
 この場合、霧になって弾を避ける、という言い分は通用しない。何しろ只の、所謂『無敵状態』とは訳が違うのだ。
 無敵状態というのは特例中の特例。絶体絶命、絶対不可避。避け手がそう判断した場合に特別に許される、『当たっているけど当たっていない事にできる』状態。
 当然それには一定の時間制限、及び回数制限も設けられている訳だ。

 一方彼女が霧状になるというのは、正にそのままの意味。
 水で言えば『氷→水蒸気』と大体同じである。人型の状態か霧の状態か、それを指す場合の表現が異なるだけで実際には同じ存在なのだ。
 水と比較して違うのは、変化の条件。水は温度で。萃香は自分の意思で。
 つまり萃香はほぼ永久に霧状態を維持できるという事だ。
 それは『霧になって弾を避けている』のではなく、『弾が一切当たらない状態でいる』のだ。弾幕ごっこのルールにおいて。
 それは避け手がやってはいけない事。

 結局の所一言で言えば。
「それやったら反則な」
 そういう事である。



「ああ、なんだったら、味方ユニットとして、吸血『鬼』のレミリアをそっちにつけるぜ?」
「あ、だったら私もそっちに…」
「幽々子様、食べるのは反則ですが」
「そうだったわね、やっぱりやーめたっと」
「そうだ魔理沙、フランを参加させようと思うんだけど」
「ええっ、あいつ大丈夫かぁ…?」
「あなたがちゃんと説明して説得すれば無闇に大暴れとかはしないと思う」
「うーん、お前がそう言うんだったら大丈夫なんだろうな。よし、何とかやってみるよ。あ、それと咲夜、タイムキーパーよろしく頼むぜ」
「わかったわ」
 霧雨先生の授業が終わると、俄かに神社が騒がしくなった。
 そんな中、祭りの準備でもする様にてきぱきと指示を出す霧雨先生もとい魔理沙。
「基本的には、全員が可能な限り散り散りの状態になってて欲しいから、その辺の管理は紫とブン屋に任せる」
「任せてください。いい画が撮れそうですね~」
「えぇ~、じゃあ私は参加できないの?」
「いや、別に余裕があったら普通に参加しても構わないけど。ああ、そうだ皆!二、三人位でチーム組むのはアリってことでー」
「だよねー、やっぱ私達は三人一組でないとねえ、姉さん?」
「この前は一人で出かけてたくせにー」
「…」
「よっし。…さあ、萃香。どうする?それともやっぱりやめるか?」
 一通り各自への指示も済んで、残るは本日の主役の正式な参加表明を待つばかりとなった。
 魔理沙の一言で騒いでいた全員の視線は一斉に萃香に萃まる。



 自信が無いわけではない。相手が人間以外を含むとはいえ、そう容易く敗北する鬼ではない。
 霧にならずともそこらの妖怪相手に不覚などとるものか。まして敵弾は只の豆。力加減にもよるだろうが仮に食らったとして、どうということはない。
 何より、勝敗条件。
 『まいった』と言ったら負け?この私が、『まいった』すると?豆が当たった程度で?
 莫迦な。たとえ少々の不利があるにせよ、こんな条件の中で私が負ける可能性など皆無。それを承知で言っているのか?

 しかし、この魔法使いの挑戦的な表情といったら。


 彼女の中の鬼っ子気質に賭けて、ここで引く事はあり得ない。



「ははははは…まあ、いっか。いいわよ、やってやろうじゃない!」
 虚空を見つめて暫しの静寂の後、伊吹萃香は力強く応えたのだった。



「よーし、じゃあ最初の相手をジャンケンで決めよう」
「なんでもいいからさっさと決めちゃいな、どうせ誰が相手でも一緒だって」
「ははっ、直ぐに吠え面かかせてやるぜ」
 へっへっへと笑いながら魔理沙はレミリアの所へ寄り、耳打ちする。吸血少女は黙って頷いた。
 数名を除いて、その場にいるメンバーが円卓を囲む。魔理沙の威勢のいい掛け声と共に、全員の手が中央に出された。

 結果。
 チルノ:グー。
 咲夜:グー。
 幽々子:グー。

  中略

 鈴仙:チョキ

「素晴らしい」
「ちょっと待て!?何これどういうこと!?」
「どういうことって、最初の生贄が一発で大決定した訳だが」
「いやいやおかしいでしょこれ!何でこんな大人数でジャンケンして一人負けとかするのよ!」
 今この場でジャンケンをしたのは、まあ大体二十人程度といったところだろうか。
「奇跡が起きたのさ」
 現実的にはそうそう起こることはなさそうな確率だが、奇跡と言うには些か安すぎる感はあるが。
「有り得ないわよそんなの!何者かの陰謀でしょ!私謀られてるよ!」
 魔理沙は正解だぜ、とは言ってやらない。
 運命操作とはかくも哀しい、正に悲劇をこれから創り出さんと言うのか。哀れなるレイセン。哀れなるウサギのダンス。
「うどんげ、がんばれ」
「がんばれー」
「うぅ、皆勝手なこと言って…ん?」
「ん」
 ぼやく鈴仙だったが、不意に一人の少女と目が合う。そして一言。
「へるぷみー」
「何故私が」
「私たち、友達じゃない」
「んもーしょうがないわねえ、今回だけよ?」
 いとも容易く釣られる少女の名は、アリス・マーガトロイド。
 餌の名は『友情』。
「そうだわ、それじゃあ私あなたとも組んでみたいわね」
「え、私?嫌よ、何でよりによって人形遣いなんかと」
 あからさまに不機嫌な態度でアリスにそう返すのは、メディスン・メランコリー。
「ねえねえお願いよ~。私あなたにすごく興味あるのよ」
「い、イヤだってば!私を捕まえて良からぬ実験をしようと企んでるでしょ!」
「そんなことはないわよぅ。ただあなたと仲良くなりたいだけよぅ」
「いーや!私知ってるんだから。あなたが人形を爆弾代わりに使ってるって事。そんな非道な奴と組めるもんですか!」
 ぷい、とそっぽを向くと、横の小さな人形も同じ仕草をする。アリスのほうはと言えば、痛い所を突かれたといった顔をしていた。あうあうとうめくことしか出ずに居る。
 そんな二人の様子を見兼ねてか、鈴仙が間に割って入る。そしてメディスンにこっそり耳打ち。
「ま、まあまあメディ。あなたは彼女を嫌いかもしれないけど、考えようによっては好機ともとれるんじゃない?」
「えー、なにが?」
「あなたが望むのは人形開放でしょう?だったら敢えて人形遣いの彼女の懐に飛び込んで様子を探るっていうのもいいと思うの。ね、どうかな?」
「うーん…」

 さて私はもっともらしいことを言えただろうか。月の頭脳の弟子として恥じぬ口上を述べることができただろうか?
 まあ色々と思うところはあるのだけれど、とにかく噂によるとすごく強い鬼だというのでそんなのを一人で相手する自信はありません。
 しかしながら月の頭脳の弟子として余りにも不甲斐無い結果にしようものなら師匠乃至はその他にどえりゃー目にば遭わされかねますまい。
 ですのであらゆる手段を用いてでも追い詰めるくらいはせねば。その為にも味方は多いほうがいいんだからYESしてYES!
 ていうか何で一人負けなんかするかなあ?絶対おかしいってあれどういう仕掛けなのまさか全員グル?

 鈴仙の脳内ではそんな思考の渦が静かなるパニックを引き起こしていた。冷や汗たらたらでメディスンを見つめる。
 メディスンは相変わらずうんうん唸っいて、時々小さな人形に話しかけてみたり、首をぐるぐるまわしてみたりしていたが、最後にアリスと鈴仙を交互に見つめ、
「うん、わかった。鈴仙の頼みだもんね」

「ほんと!?わぁー嬉しいわ!」
「そう、ありがとねメディ」
 メディスンの一言が合図の様に、ホッと胸をなでおろす鈴仙と、嬉々とした様子でメディスンの周りを回り始めるアリス。
「う、うわっ、うわっ」
「へぇーだいたい普通の人形とおんなじなのねえーへぇーふうーんあっここのなかはどうなってるのかしらえへへ」
「うわわあ!やめてよ!!」
 ぐるぐる回りながらメディスンのボディに触りまくったり捲りまくったり。分身しているようにも見える。
 放っておいたらいつまでも回り続けていそうだったので、まだかーと萃香が急かし、それでようやく鈴仙が止めに入った。


「それじゃ、私の最初の相手はあなた達でいいのかな?」
 三人と一人が対峙する。既に他の者は移動を始めていて、この場に居るのはその四人と魔理沙と咲夜だけだった。
 余裕綽々で言う萃香に三人は無言で返す。
「制限時間は、咲夜」
 魔理沙が促すと、咲夜はナイフを投げるようにしてソレではない何かを投げる。丁度萃香の右手にそれはピタリと収まった。

 それは時計だった。だが針は一本だけだし、文字盤の中央には十字の線がある以外は、数字はおろか目盛すら書かれていない。
「その時計が一周するまでがタイムリミットです。開始の合図と共に私がそちらの時計を動かします」
 淡々と解説するのを聞きながら、時計を弄っていると、裏側で指先が何か彫ってある感触を捕らえる。
 時計をひっくり返してみると、彫ってあるのは真ん中に一行。

『メイド イン さくや☆』

「…」
 笑ってやればいいのか?悩んでしまう。
「これ、故障したらどうすりゃいいの?」
「それは私の力で動かしているので基本的に故障することはありませんが、もし外部の力でその時計が破損してしまったとしたら、それはこちらの方では処理致しかねます」
 成る程、それもゲームの内か。小さな事ではあるが、一つ楽しむ要因が増えたとなるとワクワクしてくる。
「うん、おっけ~」



「それじゃあ」



 今日はとても楽しい一日になりそうな予感がした。



「第一回、『え、本物の鬼に豆撒いちゃっていいの!?大会』、開始!」



 けれどこの時、妙な違和感も萃香は抱いていた。




 文字通り三者三様の豆幕が展開された。一人は人形を使って、一人は毒を使って、一人は坐薬を使って。
「先に言っておくけど!これ坐薬じゃないから!」
「誰も言ってないよ。うぉっと」
 流石にそれなりに実力のある者を三人も同時に相手するのは骨だ。
「私はあなたの力を少しは知ってるから、もしかすると加減出来なくなるかもしれないわ」
「望むところだねぇ」
 軽く言って見せるが、内心僅かに焦りは感じていた。
「私は…よくわかんないけどがんばる」
「…がんばれ」
 それでもまだ、鬼を追い詰めるには程遠い。
「ぼっ!!」
 酒を口に含み、吹き出すそれを炎に変えて豆を燃やす。焼け焦げた大豆が周囲に転がり落ちる。
「うーん、やっぱり駄目ねぇ」
 困り顔で、然程困ってもいないような風に呟くアリス。

 丁度その頃他の二人の下には、人形が一体づつ届いていた。



 萃香は、もう終わりかな?と思い始めていた。豆幕が先程から徐々に弱まってきているのだ。
 人形遣いだけは衰える様子はないが、時間の問題だろう。とはいえ、少し早すぎるような気はしていた。
「うっ?」
 突如、身体が重く感じる。周囲に現れた煙が原因か。
「これは…?」
「それは私が造った毒霧。私の意志で自由に動かせるから、逃げられないわよ!」
 逃げようとすればその方向にさらに霧が広がる。
 目の前の様子も、少し変だ。豆幕がぶれて見える気がする。
「気付いた?でももう遅いわ…全力でぇ…狂え!!」
 兎の目が赤く光る。景色は曲がる。
「くぅ…」
「効果的ね。流石に毒を浴びながら神経狂わされれば、鬼でも堪えるわよね。二人とも、ご苦労様」
 言って、『作戦伝達』の襷をかけた二体の人形の頭を撫でてやる。それらは嬉しそうな仕草をした後、アリスの豆幕強化に回った。


 身体は重い。人形が豆をばら撒き、兎が視界を激しく揺らす。


 避けられない。




 …逃げられない?







 何を言っているかな伊吹萃香は。



 見せてやろうよ。





 本物の鬼の『力』ってものを。






「ふっ………はっ!!」
 大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。


「!!!何で!?」
 一斉に萃香を包んでいた毒霧が晴れる。辛うじて豆弾をかわせる程度には回復しつつあったが、まだ目が回っているのか、フラフラしながら本当にギリギリのところを掠っている。
「どういうことよ!?あなた何したの!!」
 狼狽するメディスン。毒霧を萃香の周りに集め続けるが、それらも全て萃香の目前、腕の届く範囲で消え去っていく。
「あー…直接攻撃じゃなければ、アリだよね、魔理沙」
 気だるげに片手で頭を抑えつつ魔理沙に向けて指差す。
「おう…そんなに効いたのか」
 予想外にダメージを受けた風なのを心配する。

 普段は弾幕を撃ちながら毒霧をだしたり、或いは弾をぶらせたりしているが、この連携において二人の役割は、豆幕を放つことではない。
 弾ではなく『能力』の方に全力を出すのが仕事。だからメディスンは毒霧を自在に操れるし、鈴仙は狂気を最大限相手に送り込むことができた。
 しかしメディスンの場合は、相手が悪かった。
「人形さん……霧の…萃め方、が、足りなかったね……だから、簡単に散らせるんだ……私の、『疎を操る』力で」
 そこまで言うと、ふぅーと一息ついて、腰に下げた瓢箪に手を当てた。
 勢い良く中身を顔面からどぼどぼとひっ被れば、軽く『出来上がる』。
「ヒック…うーら、どんどんっこいやあーー!!」

 その雄叫びに怯む三人。先ず、負けじと動き出したのはアリスだったが。
「あれっ、ちょっと、何?」
 急に何かに引っ張られる様な挙動で、メディスンの動きが鈍る。
「どうしたのメディ?」
「んっ、なんか身体が勝手に動こうとするんだけど…」
 メディスンは思い切り腕を振ろうとしているのだが、どうにも上手くいかず、徐々にその動きの鈍さが顕著になっていく。
「あれ?あれれ?うひゃー!?」
 そして遂には磁石に引っ張られるように浮き、アリスの下へ一直線に飛んでいった。
「こ、これは…」
「知っているのか鈴仙」
「いやそうじゃなくて。メディが今ので精神的余裕を失ったとしたら、その影響が『人形の体』に表れたんじゃ?」

 メディスンは人形だが、毒を浴びたことによって他の人形とは違う強力な自意識を持った。故にアリスの力の中にあっても、その体を操られることはなかった。
 ところが今の雄叫びに怯んだことで精神を僅かに乱してしまった。それによって人形の体と自意識のリンクが僅かにずれてしまったのだ。
 僅かなずれがアリスの力に引っ張られて徐々に大きくなり、それを修正する間もなく。結果、流されてしまった訳だ。
 魔理沙も納得の御様子。
「なんですって!?って、ちょっとあなた何ニヤニヤしてるのよ!!ちょっと離してよっ!」
 じゅるり
「!?」
 アリスの口元から聞こえるその音は…まあ詳しい描写については省いておこうか。
 とにかくそれは、今のメディスンにとっては十分な脅威であり、狂気だった。先程とうって変わって、人形少女はアリスの下から一直線に飛び立った。
「あっ、まってよぉーーー!」
「いやあああああくるなあああああ!!」
 涎をたらしながら追ってくる人形遣いに、かつて無い恐怖と、ほんの少し自分の未熟さを感じつつ、泣きながら飛んでいく。
「ちょ、ちょっと待って!置いてかないでー!」



 かわいそうなうさぎさんは、ぴょんぴょんとびはねてふたりをおいかけました。
 けれど、すぐにふたりをみうしなってしまいました。そしてまいごになりました。



「ま、思ったより手こずったけど、要領はつかめたわ」
「まあ弾幕ごっこと大差ないんだしなぁ」
 伸びをする萃香。しかし、忘れていた嫌な予感がまた湧いてきていた。

 ぞくり

 突然激しい悪寒が萃香の背筋を襲う。何なんだこの感覚は。



 …私は、何かを忘れている?
 否、忘れようとしていたのだ。



「よし、そんじゃもう行ってもいいぜ」
「はぁはぁはぁはぁ!」




 その可能性を。




「れ・い・む」
「うわあああああああああ!!!!?」
 神社の中から飛び出す、紅い何か。その時萃香の目にはそうとしか見えなかったという。
 他の者から見ればちゃんと紅白だったに違いないのだが。



 今日、幻想郷で。
 鬼は初めて豆撒きの恐ろしさの一端を垣間見た。




「行ったか…ま、精々楽しんでくることだぁね」
「それじゃあ、私達も行きましょうか」
「そうだな…あ」
「どうしたの?」
「箒持ってかれたんだった」
「…」

2/2
今日が節分だと思っていたが、実は翌日だったことに気付く。
2/3
節分ネタを書き始める。
2/16
何故か背中に傷が付いてて焦る。
2/24
思ってたより長くなったので前後編に分ける
2/26
さらに長くなってきたので中篇も入れることにする。

それでも足りないんじゃないかなあと思い始める。どうしよう。まいいややっちゃえ。

 カチッ

  つづく
T/J
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コメント



0.590簡易評価
7.無評価名前が無い程度の能力削除
早く!続編!