Coolier - 新生・東方創想話

彼岸に咲く不枯の花

2006/02/26 08:11:46
最終更新
サイズ
30.13KB
ページ数
1
閲覧数
466
評価数
4/46
POINT
2220
Rate
9.55
 幻想郷には、大きな大きな河が存在する。
 その河は死者の為の河。
 その河は彼岸へ至る河。
 幻想郷の無縁塚には渡し場が十あり、彼岸にも渡し場が十ある。
 十王其々が、一つの渡し場を持ち、担当の死神がその船頭をしている。
 九つの渡し場はひっきりなしに舟が往来するが、とある渡し場だけ行き来が無かった。
 舟は彼岸の渡し場に着けられたまま、小波に揺られていた。

 渡し場から暫く進むと十王の法廷と各部署と、彼らの住居が内在する閻魔庁舎が見えてくる。
 その中の十王筆頭である閻魔の執務室に、その船頭は居た。
 大きな鎌を担いだままの船頭は、机に向かって筆を動かす閻魔に歩み寄る。
「四季様ーお客さん、お連れしましたー」
 四季様と呼ばれた閻魔の少女――四季映姫は筆を置き、船頭であり死神でもある少女へ顔を向け、手元の時計を見る。
「小町、また時間のかかる客を選んだわね?」
「ぐ、偶然ですよ、偶然~」
 小町――小野塚小町は、あはは、と笑って閻魔の問いをはぐらかす。
「もぅ……」
 それに対して映姫が溜息を吐くという、いつものシーン。
 でも、最近は少し違っていた。
「四季様、きっと今日も来ますよ~、最近は毎日ですからね。でも、どうして相手をするんですか?」
 この彼岸に死者の霊以外の「とある客」が来るようになったのだ。
「いいのよ、あの娘はそういう存在だから」
 と言いながら、映姫は書き終わった何かの書類をトントンと整え、机に仕舞う。
「もし良ければ、あたいの能力で来れなくしても……」
 小町は、距離を操る。
 辿り着けない程の距離にしたり、短くしたりと自由自在である。
 来訪者を来れなくしようとう事だ。
 しかし、映姫はその提案を却下する。
「小町が能力を使ったら仕事にならないでしょ?」
 それは当然だ。
 河を渡す為には辿り着かなければならないのだから。
「それよりも小町、次の仕事はどうしたのかしら?」
「ぅッ……は~ぃ……行ってきますよぉ」
 残念そうな顔をして、小町が部屋から出ようとする。
 猫背になってしまった小町の背中に映姫は優しく、聞こえないように呟く。
「頑張ってね小町。休日はもうすぐなんだから……」
 十日に一度の休日。
 仕事から解放される唯一の日。
 普段叱り、叱られる間柄だが、そんな休日は二人で仲睦まじく過している。
 小町はもちろん、仕事に厳しい映姫も実は楽しみなのだ。



 § § §



 無縁塚の河のほとり。
 彼岸花が咲くこの川岸で赤いチェック柄の少女――風見幽香は傘を差しながら、空を見上げる。
 その表情は彼女らしくもなく、日陰に咲いてしまったタンポポの様に、不安を孕んでいた。

 つまらない。
 つまらない、つまらない。

 人間には興味はないわ。 ――だって、弱すぎるんですもの。
 弱い妖怪も楽しくないわね。 ――だって、張り合いが無いんですもの。
 あの悪霊は、どこかへ出かけたまま。 ――まったく……
 紅い館は「妹が喜ぶから遊ばない」ですって。 ――なによそれ?
 竹林の屋敷も兎が出てくるだけ。 ――住人はどこで遊んでるのかしら?
 冥界はのらりくらりと流される。 ――庭師はイジメてやったけど、半分人間だからもう飽きちゃった。
 魔界への行き方なんて忘れてしまったわ。 ――あいつは結構面白かったのに。
 幻想郷の境目? ――あいつは起きる気配が無いんですもの。

 手当たり次第にイジメて回ったけど、最近は楽しくない。
 一度目は抵抗するけど、二度、三度となると私を見るなり避けはじめた。

 強すぎるっていうのも問題かしら?

 ………ふん、面白くないわ。 ――どうして、皆……

 ――ピシッ
 何かがヒビ割れる音が、幽香の中で響く。

 幽香は、握っている傘の柄をギリリと握り締める。

 ……よし、今日もアイツをイジメに行こう。 ――最後の、場所。
 これで三日連続、……今日は……、どうなるんだろう……
 もしかして、また……?

 ――ピシッ
 二度目の、何かがヒビ割れる音。

 ブンブンと首を振り、詰まらない想像をかき消す。

 ……うぅん……大丈夫。
 アイツは人間でも、妖怪でも無い。
 アイツは真面目だから、からかいがいがある。 ――手を出せばちゃんと出てくる。
 それに、アイツは……強い。 ――私が、夢中になって楽しめる程に。

「……ふふ……」
 今までの『アイツ』との戦いを思い出し、幽香は頬を緩ませる。
「さ、今日もアイツをイジメに行こう」
 そう呟くと幽香は地を蹴り、空へと飛び上がった。
 アレも丁度出てきた所だ。
 きっと今日も楽しくなる……



 § § §



 霧の立ち込める河中に、ゆらゆらと浮かぶ一隻の小舟。
 死者の亡霊を彼岸へと送る大切な商売道具である。
 そんな商売道具も、しぶしぶ閻魔庁舎から出てきた小町にはベッドでしかない。
「ふぁ~……はふ」
 大あくびをし、小町は船底にゴロリと横になる。
「……四季様もなんでアイツの相手なんかするんだろ?」
 お説教をする為にって言っても、何度も来られては四季様だって仕事にならないのに……
「それに、アイツが来て困るのは四季様だけじゃないのに……」
 初めてアイツが来た時は、あたいは内心喜んだ。
 なぜって?
 そりゃあ、仕事が堂々とサボれるからに決まってるじゃないか。
 現に、二人がやり合っている間は危険すぎて河を渡せないでいる。
 それに、四季様が負けて、苛められれば……休日がより楽しみになるからね。
 でも、そんな考えはすぐに変わった。
 小町はその時の事を思い出す。



 § § §



 その時私は、運悪く仕事をこなしている最中だった。
 まぁ、正確に言えば、仕事を終えて、彼岸から無縁塚へと帰ってくる途中。
 いつもと同じように、マイペースに舟を漕いでいると、不運な事に、アイツ――風見幽香と出くわしてしまったのだ。
 不適な笑みを浮かべながら、傘を差し、私の行く手に立ちふさがる。
 彼女、幽香を見るのはあの事件以来だ。
 そういえば四季様が疲れた顔して「邪魔しに来るかもしれないから気をつけなさい」って言ってたなぁ……
「あらあら、今日は仕事をちゃんとしてるのね」
 クスクスと笑う。
 その笑い方がちょっとムカっとしたので、ついつい、言い返してしまう。
「あ、あたりまえだろー! あたいだって四季様に選ばれたんだ。仕事はやるさ」
 あえて、自分のペースでとは言わない。
 言えばどうせなにか言われるから。
「ふぅん……、そう……、なら、ご褒美をあげなきゃね」
 幽香の意外な言葉にあたいは拍子抜けした。
「えッ……ご褒美?」
「そう、ご褒美に……、アナタからイジメてあげるわ」
 そう言いながら、幽香は手を延ばす。
 その手には、いつの間にか握られた、この季節には見慣れない一輪の花。
 花の異変の時に、一度戦ったから判る。知っている。
 彼女は花を操る。
 そして彼女の花は、強力な弾幕と成り得る。
 突き出した手に持たれた花が爆ぜたと思うと、舟に立つ私に向かい無数の花びらが降り注ぐ。
 足場の悪い舟の上。飛びのいて空に戦場を移せばどうにかなるけれど、今舟を壊されるわけにはいかない。
 亡霊達の話を聞けなくなるし、四季様に大目玉を食らってしまう。
「――くッ」
 私は亡霊から徴収した銭をすぐさま投げつけ、相殺を試みる。
「故人の縁!」
 普通に投げては無駄だが、スペルカードに記された術式を起動させている。
 投擲した数枚の銭が螺旋を描きつつその枚数を増し、弾幕となる。
 花びらの弾幕と、銭の螺旋がぶつかり合う。
 相手は流石に最強を自称するだけはある。
 相手の花びらはこちらの螺旋を簡単に飲み込んでしまった。
 直撃弾はどうにか防いだが、残る花びらが周囲の水面に無数の小さな水柱を上げる。
 よかった、自分と舟へのダメージは最小限に食い止められた。
 しかし、すぐに第二波が来る。
 彼女の花は、彼女の能力――花を操る程度の能力のお陰で、枯れても瞬時に咲く。
 つまり、弾の再充填、弾幕の再展開を、花を咲かせるだけでこなせるのだ。
 今この瞬間にも、爆ぜて花びらを失った花が彼女の手の中で瞬時に枯れて、新たな花を咲かせる。
 早い、早すぎる……ッ、もう相手は弾幕を展開できる状態に……
 対する私は今やっと銭を掴んだ所。
 この後投擲という行動を起さなければ、私は弾幕を張れない。
 自分の周囲に張れる弾幕もあるが、舟が壊れてしまうので使えない。
「ほぉら、次の褒美も受け取りなさい♪」
 やばッ……
「――くぅッ」
 迫る恐怖に、思わず目を瞑ってしまう。
 しかし、無慈悲な衝撃も、痛みも訪れなかった。
 その変わりに声が掛けられる。
「そこまでです」
 この声は……
「あら……、そっちから出てきてくれたの?」
 目を開くと、幽香はかざしていた花を私から外していた。
 この声……
 私が振り向くと、あの人はそこに居た。
「――四季様ッ」
 どうして? 先ほどお客さんを送り届けたばかりなのに……
 握っている王笏で口元を隠しながら、四季様は私へ視線を移す。
「まったく、あなたはのんびりしてるからそうやって絡まれるのです。これからはキビキビ行動するようにしなさい」
「うぅ……、それよりも、今はまだ裁判中じゃ……」
 四季様は目を細めると私の疑問に応えてくれた。
「小町が運んでくる客は悪人ばかりですからね。判決が楽でしたよ」
 四季様……
 人がジーンと感動しているところに、不機嫌そうな声が割り込む。
「……ちょっと、わたしを無視しないでくれるかしら?」
 傘をクルクルと回しながら、幽香は四季様に文句を言う。
「ふぅ……、あなたにはあの事件の時も、この前も言ったはずです。あなたが積める善行は、人に恐怖を与える事だと」
「あら、私が誰を苛めようと、あなたには関係ないでしょ?」
 クルクルと回していた幽香は傘を閉じる。
「あります。小町は私の部下ですからね。それよりも、私に用があるのでしょう?」
 逃げることも忘れ、二人の対峙に見入ってしまう。
 そんなあたいは、河の一部に水泡がゴポゴポと上がったのに気がつかなかった。
「ふん、まぁいいわ。四季映姫!今日もイジメてあげるわ!」
 幽香は持っていた花をかき消し、四季様―――のスカートを指差す。
「今日は……そのスカートを剥いであげるわ」
 ……はぁ?
 あたいは舟の上で一人絶句する。
 ちょ、ちょっと、何で四季様のスカートを剥ぐ必要が……、あ、イジメってそういう意味もあるのね…… 
「……その前に、罪人であるあなたが弾幕ごっこで私に勝てると思っているのですか?」
 そりゃそうだ。
 イジメると分かっているのだから抵抗する。すなわち、弾幕ごっこになるだろう。
「ふふん……あの事件の時と前日は使ってない符があるのよ。今日はそれを見せてあげるわ」
 そう言うと、閉じたままの傘を四季様に向ける。
 ……何を、するんだろう?
 幽香が得意げな顔で続ける。
「さぁ……、マガイモノでない、ホンモノを見せてあげるわ! あなたに耐えられるかし……ッ!?」
 その時、水面から一際大きな水泡が上がったかと思うと、河から巨大なナニカが水しぶきを上げて姿を現す。
 太くて長いソレは空まで伸びると巨大な咆哮をあげる。
 ガァァァアアァアアアアッ
 咆哮と共に、水面が激しく波打つ。
 あたいは舟にしがみつくのがやっとだった。
「ひぇえええッ」
 河に棲む、水竜だ!
 あの長い首は……フタバスズキリュウ!
 しかし、頭部からは血が流れ出ていた。
「なんで………、あ、もしかして……」
 先ほど幽香の放った花びらの弾幕?
 そうか、それで怒って出てきたのか……
 怒れる水竜は、その巨大な頭部をチェック柄の少女に向け、一口に飲み込もうとその顎を大きく開け、襲い掛かる。
 グァァァアアァアアアアッ
「……ッたく、爬虫類ごときが私のセリフの邪魔をするんじゃないの」
 先ほどまで四季様に向けられていた傘がゆっくりと、水竜の大きく開けられた顎に向けられる。
 飲み込まれる瞬間、呟きと共に傘が開かれる。
 ――大輪「極光ノ開花」
 あたいは、見た。
「――ッ!」
 傘が開かれた瞬間、巨大な水竜の顎を飲み込み、その首を掻き消し、水中にあるであろうその巨体へと打ち下ろされる、絶対的で容赦の無い光の奔流を。
 その輝きが水面に突き刺さると水面は割れ、巨大な水柱が轟音と共に打ち上がり、真っ赤な雨が細かな肉片と共に周囲に降り注ぐ。
 赤い雨に濡れながら、四季様が口を開く。
「そのスペルは……、あの魔法使いの?」
 水面は輝きが突き刺さった場所を中心に渦を巻き、舟を激しく揺さぶる
 あたいは揺れる舟になんとかしがみ付きながら、二人の対峙を見上げる。
「やめてよね……あんな人間用に劣化したものと一緒にするのは」
「……劣化?」
 幽香はニヤリと歪な笑みを湛えながら、四季様に向き直る。
「そう、これは元々妖怪(私)が創り出した妖怪が使う為のスペルよ。それを真似して、人間でも扱えるようにしたものが、アイツのスペル」
「そうですか……、あのスペルは人間が使うには火力が高いと思いましたが……、なるほど」
 後日聞いた話だが、あの白黒はスペルカードと八卦炉を使って人には扱えないスペルを使っているらしい。
「まぁ、人間であの火力が出せるのは褒めてあげるけど、所詮人間にはアレが限界。 だから人間は非力なのよ」
 幽香は傘を閉じるともう一度、四季様に向ける。
「さぁ、続きよ。耐えられないのなら逃げてもいいわよ? あなたの背後がどうなっても知らないけれど」
 遥か後方にある閻魔庁舎を、ここから撃ち抜く気らしい。
 たぶん、あいつは本気だ。
 それにしても、霧で見えないはずなのに……、なんて幻視力なんだ……
「私が……耐える? その必要はありません」
「あら、随分余裕ね?」
「えぇ、私もあなたと同じように、今まで使っていないものがあるのです」
 四季様はどこからか、小さな鏡を取り出す。
「そんな古びた鏡で、何が出来るのかしら?」
「これは、罪人の罪を全て映し出す鏡。罪とはその人の過去そのモノ。あなたは、自らの罪に倒れるでしょう」
 四季様は古びた鏡を幽香に向けると、その名を呼ぶ。
「さぁ、映し出しなさい、浄玻璃鏡」
 四季様の目の前に光の壁が現れ、そこから傘が突き出る。
 現れたのは傘だけじゃない。
 新緑色の長い髪、赤いチェック柄の服を着た傘の持ち主が現れる。
 それを目の当たりにした幽香は驚愕する。
「ま……、まさか、そんな事が……ッ!?」
 それはそうだろう。
 『過去の自分』が現れたのだから。
「さぁ、罪深きその力、己が身で受けなさい」
 現れた幽香は傘を向けると、先程の絶対的な光を、対峙する己に向かって解き放つ。
 ――大輪「極光ノ開花」
 しかし、幽香が動揺したのは一瞬だけだった。
「……確かに、『私』なら、自分と同じ力が振るえる……、でもね」
 四季様に向けたままだった傘を、開いた。
「……花は、植物は、枯れるまで成長し続けるものなのよッ、昔の私じゃあ今の私に敵う筈が、無い!」
 莫大な光が破壊を伴い放たれる。
 幽香は迫り来る破壊の光を見据えて、スペルを唱える。
 ――双輪、
 幽香の姿が、左右に割れ、自身を二倍にする。
 左右対称の幽香が、迫り来る破壊の輝きに向けて二本の傘を開く。
「極光ノ対花」「極光ノ対花」
 
 傘から放たれた二本の巨大な光の槍は、迫り来る巨大な光の奔流に突き刺さる。
 衝突した双方の破壊の光はお互いに相殺され閃光と化し、発生した衝撃波によって、鼓膜が破れるかと思うほどの巨大な爆音と共に周囲は薙ぎ払われた。
 その衝撃波の煽りをまともに食らったあたいは……



 § § §



 ……今思い出しても寒気がする。
 あんなケタ違いな火力同士のぶつかりあいなんて二度と見たくない。
 あの時は衝撃で舟から河に転落して、危うく水竜のエサになるところだったし……
 だから、あたいの回想もここまで。
 ちなみに、舟自体は沈む事無く浮き続けていたり。
 奇跡の舟って事で名前でもつけてやりたいくらいだ。
 あの後どうなったかと言うと、幽香は追い払えたけど、四季様はスカートを……
「はぁ……、今日も来るのかなぁ……」
 いや、顔を真っ赤にして腰に布を巻いてる四季様も可愛いんだけどねぇ……
「あら……、そんなにも期待されると照れるわね」
「いやいや、期待なんてしてないって」
 期待してたらもっと嬉しそうな声だろ?
「あらそう?」
 残念そうな声が聞こえた。
 ……ちょっとまって
 いったい誰が相槌打ってるのよ?
 船底から体を起すと、何故かそいつが舟に居た。
「幽香ぁあああッ!?」
「はぁい♪」
 ヒラヒラと手を振る、 やけに上機嫌な赤いチェック柄の少女。
「ひえぇッ」
 驚き怯える私の両肩を、幽香はむんずと掴む
「お昼寝の途中悪いんだけど」
 ずいっとあたいの鼻先にその笑顔を近づける。
「ひぃッ」
 思わず後ずさろうとすると、両肩にのった手に力が篭められる。
 イタッ、ちょ、幽香さん、肩がミシって……
「……アイツの事、なにか教えなさいよ」
「ッ……、え……、四季様の、事?」
 ちょっと……なんでコイツが四季様の事を聞いて来るんだ?
 ……ま、まさか、四季様の弱みを握って……
「ほら……、教えなさいよぉ」
「い、い、イヤだ! 四季様を売るなんて!」
 幽香の目が微笑んでいた時より少し見開いている。
 まるで……ネズミを前にした猫の様な目……
 それに、さっきよりも両肩への圧力が増して……あ、あれ?
 急に幽香は、あたいを解放する。
「んふふー……じゃあ、順番変えちゃおうかしら?」
 人差し指を唇にあてて、ニヤリと笑う。
「じゅ、順番?」
 ごくりと喉がなる。
 とっても嫌な予感が……
「そ、イジメル順番」
 と可愛らしく微笑む幽香さん。
 四季様ごめんなさい。
 やっぱり自分が一番大事です。
「あ、あたいが言ったって四季様に絶対に言うなよ?」
「えぇ、判ったわ」
 にまにまと微笑む幽香に私は小声で呟く。
「……四季様は、耳が弱いんだ。 それに胸も気にしてる」
 早口で言い終えるとあたいは口を噤む。
「……へぇ~♪」
 うわぁ、嬉しそうな顔……
「他には無いのかしら?」
 ……毒を喰らわば皿までだ。
 それでも決して、あたいと四季様の『休日』の事だけは言わない。
「他……えぇっと、四季様は、自分より胸の大きい娘が好みって事位かな?」
「なるほどねぇ……だからあなたは仕事をさぼっていても、クビにはならないのね」
「あはは……はは……」
 その言葉には、苦笑いするしかなかった。
「さぁって、それじゃあイジメてこようかしら」
 満足した幽香は立ち上がり、あたいから離れる。
「ふぅ……」
「そうそう、これは喋ってくれたお礼よ」
 そう言って、幽香はあたいに一輪の花を投げて寄越すと、彼岸へと飛び立ってしまった。



 § § §



「聞いちゃった~♪ 聞いちゃった~♪」
 緩む頬を引き締めようともせず、幽香は嬉しそうに河上を疾駆する。
 少し脅かしてやったら、あの死神は饒舌に語ってくれたわ。
 弱点以外にも、面白いネタまで。
 そうか……あの閻魔は耳と胸が弱いのか……
 大きい胸が好みってのも、劣等感を抱いている裏づけにもなる。
 見た感じ、四季映姫は私と同じかそれ以下である。
「んふふふ……待っていなさい、四季映姫!」
 このネタで虐め抜いてあげるわ!
「うふ……うふふふふ♪」


 その頃、喋ってしまった小町はと言うと……
「ちくしょーッ」
 叫びは、舟に溢れる花の山の中から聞こえてきた。
 去り際に、「ご褒美よ♪」と幽香が手を振るうと、一輪の花を咲かせて小町にプレゼントしたのだが
 小町が受け取った花が突然湧き出したのだ。
 それも大量に。
 幽香が去った後でも花は増える一方で、小町は懸命に花を舟から掻き出していた。
「どこが喋ったお礼なんだよぉおおッ」
 幽香が渡した花は、ギョリョウの花。
 花言葉は――悪さ。

 この後、不沈の舟の伝説に新しい一ページが追加されたのは、別の話である。



 不気味な笑い声を洩らしながら、幽香はついに彼岸へと辿り着く。
 降り立った場所は、渡し場から少しはなれた場所。
 すぐそこには、最高裁判官の名を冠し、悠然とそびえる閻魔庁舎が。
 私はそれを眺める。
 アイツももう判っているだろう。
 私が少し待つと、四季映姫が庁舎から姿を現す。
 ……ほらね。
「今日もイジメに来てあげたわ、四季映姫!」
「あなたも懲りない人ですね……」
 ふぅっと溜息を吐かれる。
「さぁ、始めましょう?」



 § § §



「さぁ、始めましょう?」
 彼女――幽香はそう言うとおもむろに傘を開き、それを私に向ける。
 私はその行動をみて、つい言葉を洩らす。
「また、ですか……」
 一度見たスペルならば、誰でも対策を考えるだろう。

 確かに、彼女の力は絶大だ。
 私の知る限りでも、あれだけの力を軽々と振るえる存在は数えるほどしか居ない。
 彼女の圧倒的な力は、彼女自身の特殊な力も関係する。
 彼女の圧倒的出力のタネは、周囲から力を吸い上げ、己のものにしてしまう能力。
 周囲とは即ち大地や水。
 しかし、それだけではない。
 あの傘は降り注ぐ光からも力を集める事を可能とする『枯れない花』
 日光も、月光も、大地も、水も全てが彼女の力となる。
 それは場所も、時間も関係なく彼女は常に全力を、圧倒的火力を出せるという事。
 故に彼女は最強を自称し、畏怖される。

 でも、私には通じない。
 以前にも、浄玻璃鏡で相殺したのだ。
 今度はどうなるか、彼女も判る筈だ。
「……また、同じ事をくり返すのですか?」
 しかし、予想とは違う答えが返ってきた。
「あら、私が同じ事をすると思ったの?」
 彼女は私に向けた傘をもう一度空にかざすと、ふわりと放り投げた。
「なッ?」
 いつも肌身離さず持っている傘を、投げた?
「んふふ……、確かめさせてもらうわ」
「確かめる?」
 ふわふわと放物線を描いてクルリ、クルリと傘は回転しながら、二人の間に落下してゆく。
 クルリと回転する傘の隙間から、不適な笑みを湛える幽香がチラリと見える。
 もう一度、傘がクルリと回転すると、幽香の姿が……消えていた。
「なッ!?」
 幽香は落下する傘の下を、地を這うような姿勢で潜って、一気に距離を詰めてきた。
 傘がもう一度クルリと回転し、地に落ちる。
「くッ……傘を囮にしての、強襲ですかッ」
 傘に一瞬意識を奪われた為に、行動が一手遅れてしまう。
 背後に飛び退きながら笏弾で迎え撃つのがやっとだった。
「あははははははッ、そんな弾じゃ減速すら無理よ!」
 対する幽香は、手をかざし蓮華の花を咲かせる。
 花びらが舞い散り、笏弾を全て受け止め地に落ちる。
「……ッ、ならばッ」
 その様子を見ると、地を踏みしめ、映姫は笏を一振りする。
「断罪ノ太刀!!」
 風を切る音と共に笏が伸び、剣状に変化する。
 花に防がれるのならば、花ごと切り捨てればよい。
 腰を落として笏を八双に構えなおす。
 幽香はそんな事意に介さず、そのままの勢いで迫る。
 映姫はソレを見据え、タイミングを計る。
 相手の速度は落ちていない。
「あははははははははッ」
 笑いながら幽香は両の手を手刀に構え、指先から手首までを鋭化、硬化させる。
 妖怪特有の身体強化だ。
 あれには浄玻璃鏡は使えない。
 間合いに入るまで、あと
「ッ――」
 一呼吸。
「――はぁあっ」
 気合一閃、最高のタイミングで笏が袈裟懸けに振り抜かれる。
 風斬り音と共に弧を描いた笏は、突き出された手刀ごと幽香を両断する。
「ぅ、ぐッ」
 肩口からバッサリと斬られた幽香は、小さく呻くとニヤリと笑う。
 途端に、小さな破裂音と共に両断された幽香の体が大量の花びらへと変わる。
「……なッ?」
 舞い散る花びらの中、目の前で起こった出来事に一瞬思考が停止する。
「ざんねぇん♪」
 そんな状態に、突如背後から声が掛けられる。
「え……?」
 なんの警戒もせず、振り向こうとした瞬間
「――ふッ」
 突然耳元に吹き掛けられる
「きゃッ」
 首を縮めると、カラン、と乾いた音がする。
 驚いた拍子に笏を落としてしまったらしい。
「んふふ♪ 敏感なのね~」
「な、なにをす……」
 幽香は嬉しそうな含み笑いをすると、更に息を吹きかけられる。
「ふ~ッ」
「ひぁぅッ」
 ゾクゾクと背筋が震え、膝から崩れそうになる。
 ど、どうして彼女が私の弱い所を知っているの?
 とにかく、耳に息を吹きかけられるのから逃れなくては。
 しかし、動揺している映姫は最も稚拙な方法で逃れようとした。
 耳を庇う為に両手で耳を押さえてしまう。
「こちらも確かめさせてもらうわ」



 § § §



 まんまと引っ掛かってくれたわ……

 最初に傘を放り投げた時。
 あの時閻魔の視線を遮って、自身は透明に。
 そして花びらで作り上げた分身を突っ込ませる。
 後は悠々と背後に回り込んで、動きが止まるのを待ち……
「――ふッ」
 と息を吹きかける。
 単純な入れ替わりトリックだが良く知られるという事は、効果も高いという事。
 現に映姫は、子供のように両手で耳を塞いで、逃げ腰になっている。

 隙だらけじゃない……
 あの死神の言ったとおりね。
 それなら、こちらの方も……んふふ♪
「こちらも確かめさせてもらうわ」
 すっと手を伸ばし、
 両手が塞がった映姫の背後に回りこむと、両の手を空いている脇の下に差し入れる
「ぁ、なにを――」
 もいっ
 両の手が、背後から映姫の胸を鷲掴みにする。
「―――ッ!?」
 映姫は相当な衝撃を受けたようで、急に動きが停止する。
 しかし、幽香も衝撃を受けていた。
 もにもにと道服の上から、予想以上の膨らみを弄る。
 映姫が固まったままなので、抵抗も無く簡単に確認できた。
 ちょ、ちょっと、……この重量感とさわり心地は……
 なにコレ……、もしかして……
 映姫の耳元で、事実を確認する。
「ねぇ、……あなた、着痩せって奴?」
 胸が無いことを気にし、その反動で大きい胸を好むと思っていたのだけど、逆だったのね。
 大きい胸をわざわざ隠すほど気にしているという事。
 そこまで情報を整理したとき、幽香の心に、何故かチクリと痛みが走る。
「―――ッ、~~~~~~ッ!!」
 一瞬我に返った映姫は、声にならない叫び声を上げて、幽香から逃げ出そうともがく。
「ちょ、ちょっと?」
「いやッ、やぁあッ」
 映姫が暴れた拍子に、羽交い絞めにしていた手を放してしまう。
「ぁッ」
 解放された映姫はしゃがみこんでしまう。
 しかし、胸を隠すように抱いてしゃがみ込んだ映姫よりも衝撃を受けた人物が居た。
 それは、触った当人――幽香だった。

 突き飛ばされ、愕然とする幽香の頭の中に、あの死神の言った最後の言葉が響く。

『四季様は、自分より胸の大きい娘が好み』

 あいつ、四季映姫のは、私よりも……
 なによ、それ……、私の方が小さいって事?
 先程の痛みの正体に、やっと気がつく。
 それじゃあ、私は……、あいつに、四季映姫に好かれないと言うの?
 ……私は……、四季映姫に、……嫌われる、の?

 ――ピシッ
 何かがヒビ割れる音が、幽香の中で響く。

 妖精は私を見るなり逃げ出し、
 人間は最初から妖怪を拒否し、
 妖怪は苛められるからに隠れ、
 幽霊は私を見ようともしない、

 ―――どうして?

 ――ピシッ
 何かがヒビ割れる音が、幽香の中で響く。

 悪魔の紅洋館は門前払いで、
 冥界の桜屋敷は煙に撒かれ、
 竹林の兎屋敷はいつも不在、
 境界の式屋敷は寝てばかり、

 ―――私はただ、

 ――ピシッ
 何かがヒビ割れる音が、幽香の中で響く。

 そして今度は、
 この最後の場所で、
 彼岸の裁判所で拒否されるの?
 私は、四季映姫に、嫌われてしまうの?

 ―――て欲しいだけなのにッ

 ――バリンッ
 何かが壊れた音が、幽香の中で響いた。



 § § §



 ぺたりとしゃがみ込むと、胸を抱き、鼻をすする。
「ぅう……、ひぅん……」
 小町以外に知られてしまった。
 小町以外に触られてしまった。
 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
 それでも、混乱する頭をどうにか整理する。
 どうして、彼女が私の秘密を知っているの?
 対峙した時のあの言葉……
『確かめさせてもらう』
 つまり、彼女は弾幕ごっこなんてやるつもりは無く、最初からその二つの秘密を確認しに来たという事。
 耳と胸の事を知るのは、小町だけ。
 ……つまり、そういう事……
 今夜が楽しみね……
「ね、ぇ……」
 おしゃべりな部下にどんなオシオキを……と言うところで、不意に背後から声を掛けられる。
 う、そういえば彼女の事がまだでしたね……
 しかし、今の状態では弾幕ごっこの相手なんて出来やしない。
「な、なんですか?」
 うぅ、今日も悪戯されるのでしょうか……、前回がスカート、今回は……
 はぁ、考えるだけで溜息が出る。
 恐る恐る振り向き、映姫が見たのは、勝ち誇った時の向日葵のような笑顔ではなかった。
 表情は激変し、今にも散ってしまいそうな、小さな名も無き花を連想させる程の儚い悲しみの表情。
「ぁ……、あなた、も?」
 震える声で、それだけの言葉を喋ると崩れるように膝を地に着く。
「……ぇ?」
 後ろに向き直ると、幽香が私にすがる様に手を伸ばす。
「あ、あなたもッ、私達から目を逸らすというの?」
 震える手を握ると、幽香は堰を切ったように訴える。
「私達はただ、見て、欲しかった、だけなのにッ」
 ポタリ、ポタリ
「どうしてみんな、私達から目を逸らすの?」
 大きく見開いた瞳から雫が落ちる。
「どうしてみんな、私達を避けるの?」
 必死に、彼女は訴える。
「私達はただ、仕返しをしただけなのにッ」
 ポタリ、ポタリ、落ちる雫は大粒に。
「それは悪いことなの?」
 彼女は性格が変わってしまったかのように、私にすがる。
「私達は、されるがままで居ろと言うの?」
 あぁ――、そうか。
 彼女は、やっと気がついたんだ。
 自分が孤独に陥ったという事に。
「今まで、こんなにも頑張ってきたのに……、どうして?」
 俯いてしまった幽香の顔を優しく起す。
「私は忠告した筈ですよ……、人間に恐怖を与えなさい。と」
 そう、何度も言った。
「妖怪であるあなたが妖怪を苛めれば孤立するのは当然の結果です。人間は妖怪を退治します。そんな人間を襲えば、あなたは他の妖怪に慕われたかも知れないというのに……」
 幽香は、消え入りそうな声で呟く。
「……だって、人間は張り合いが無いけど、妖怪は暇つぶしに丁度良いし……」
 ふむ、永く生きてきた退屈を紛らわす事も兼ねていたのですね。
「それに……花を、育ててくれるから……」
 ―――そうか……。
「あなたは妖怪ではなく、花の立場で……」
 今表に出てきている『彼女』は花としての幽香。
 だから彼女は全ての花を含めて、己を『私達』と言っているのですね。
 そして、強い力を得た為に、他の接し方を学べなかったのですね……
「ならば、こうしましょう」
 赤い目できょとんとした幽香が私を見つめる。
「妖怪を苛めないようにしなさい。その代わり」
「その代わり?」
「あなたの相手は私がしましょう」
「どうして? ……あなたは、私達を嫌わないの? 私を避けないの?」
「えぇ、嫌いません。私は、ちゃんとあなたを見ていますから」
「……私達を、みて……くれるの?」
「えぇ。それに、花を目で楽しむのはこの国の嗜みですから」
「だから、孤独だと泣かなくて良いのです。寂しい、詰まらない、と弱い者苛めをしなくて済むのです」
 それに、妖怪苛めが無くなれば、彼女も善行を積む意識があらわれるでしょう。
「ぁ……あは……あはは、……うん……」
 彼女は私の膝に顔を埋めると恥ずかしそうに呟いた。
「……ありがと……」
 よほど心を疲労したのか、それとも安心したからなのか、彼女はそのまま眠ってしまった。
「……人の膝の上で……仕方ないですね……」
 そう微笑むと、無防備な寝顔を晒す幽香を起さないように、そっと頭を撫でつけた。



 § § §



 とても、心地良い……
 心が、温かいって感じる。
 夢幻館のベッドよりも安らぐなんて……
 まどろむ幽香の頭にそっと触れるナニカ。
 ゆっくりと、髪にそって動くともう一度頭の上に戻り、繰り返される。
「ん……ふ……」
 優しく頭を撫でられるのなんて、初めてかもしれない。
 すっごく、嬉しい……
 ……ん?
 まてよ……
 私って、いつ寝たんだっけ?
 それに、誰が頭を――?

 もう少しだけ、この暖かさを楽しみたかったが、確認する為にむくりと起きあがる。
「あら、もう起きるのですか?」
 とても聞き覚えのある声。
「……だぁれ?」
 目を擦り、相手を確認する。
「誰もなにも、この場には私しかいませんが?」
 あ……、四季映姫……
 私に向かってにこりと微笑むその少女。
 しき、えいき?
「し、し、四季映姫―――ッ!!?!?!?」
 ぺたりと座り込んだ状態から、膝だけで3メートルも跳躍し、後ろに飛び退いてしまった。
「な、な、なんでッ、どうしてあなたが?」
 膝枕をしていたの?
 なんて恥ずかしくていえない。
「あぁ、その事ですか……、あなたは覚えていないのですか?」
「知るはず無いでしょ!」
 ふむ、と一瞬間をおいた映姫は私が寝ていた理由をサラリと言い放つ。
「あなたは私に負けたんですよ」
 な――
「私が負けるはず――」
「では、あなたの意思で私の膝で寝たとでも?」
 それこそありえるか!
「ぅ~~~~~ッ」
 悔しい悔しい悔しい!
 私は手を突き出し、転がっている傘を手元に引き寄せる。
 傘が、私の手のひらに向かってまっすぐに飛んでくる。
 しっかりと傘を受け止めると、四季映姫に傘を突きつける。
「きょ、今日はコレくらいで勘弁してあげるわ!」
「セリフが悪役ですよ」
 余裕からか、映姫はニコニコと微笑み続ける
「うるさい! 首を洗って待ってなさい! 次は絶対に苛めるんだからッ」
 私は捨て台詞を吐いて飛び立つと、一目散に無縁塚を目指した。

 一瞬で空の彼方に消えた幽香に向かって、映姫は捨て台詞の返事を返す。
「いつでも来なさい。いつでも待っていますから……」

「ぅ~、うぁーーーッ、一体、どうして……」
 さっきから頬が熱い。
 記憶に残っていない、敗北という悔しさから?
「………違う」
 脳裏に浮かぶのは、優しい笑顔。
 勝利者の、優越感からくる笑顔ではない。
 もっと別の表情だった。
「苛めに来たというのに、あんな風に笑うなんて……」
 更に顔が――耳まで熱くなってきた。
「……なんなのよッ」
 こんなのは初めてだった。
 ドンドン体温が上昇する……
 もう訳が判らない。
 自分の体だと言うのに……
 でも、不安は無い。
 むしろ、心が温かい。
 それが余計に彼女を混乱させる。
「もう、なんなのよッ」
 無縁塚へ至り、夢幻館に帰る間中幽香は繰り返し、そう呟いていた。 



 § § §



「どうして相手をするんですか?」
 ずぶ濡れで戻ってきた小町にミッチリとオシオキをした翌日。
 小町は昨日と同じ問いを私に投げかけた。
「そういう存在って、どういう意味なんですか?」
 罪――過去を移す鏡、浄玻璃鏡で全ての罪人の過去を、映姫は知る。
 もちろん、幽香の事も。
「彼女は――」

 彼女は花。
 その象徴であり、証拠が『枯れない花』と言われる傘。

 花は儚い。
 踏まれ、詰まれ、折られ、焼かれ、全て受け止めるしかない。
 唯一、花を咲かせることで自己主張する。
 その主張も、見られなければ意味が無い。
 後は枯れて、種を飛ばし、また花を咲かせる。

 いつか仕返ししてやろう、自分から見せに行こう。
 そんな花達の幻想を抱き、永い間生きた花はいつしか妖怪に。
 妖怪となり、儚い存在は最も強い力を持ち
 咲くだけだった体は自由を得た。

 それが、彼女――幽香である。

「彼女は――、動ける花なんですよ」
「はぁ……」
 良く判らないといった表情の小町に、簡単に説明する。
「花は見て楽しむでしょ?」
「まぁ、花見なんてありますからね」
「そう、花も同じで、見てもらう事に意味があるの。だから彼女は自分を見て貰う為に――」
 説明している最中だと言うのに、小町は窓から外に視線を移す。
「あッ!」
 不意に小町が窓際に駆け寄る。
 私も叱るのは後にして、一緒になって窓から外を覗く。

 小町が駆け寄るのと同じタイミングで庁舎の外から声が掛かる。
 嬉しそうな、楽しそうな声が。


「―――四季映姫ッ、イジメに来てあげたわよ♪」


 今日も、彼岸に花が咲く。
 不枯の大輪が咲き誇る。



生助さんの『映姫様のスカートを剥ぐ幽香』のイラストから
幽香は映姫に対してツンデレなんだよ!なネタを15分で考え付いたのが1/26
紆余曲折を経て、書き終えたのが2/25
……遅筆だぁorz

あんまりデレってないのは、苛めの対象から気になる対象に移った状態だからでしょうかw

徒歩二分さんの本で幽香の起源とデュアルスパーク(仮)について自分でも考察してみました。
(バトルシーンが入ったのもこの本の影響ですw)
大輪「極光ノ開花」と双輪「極光ノ対花」、幽香=花ってのはその考察から。

○○スパークってついてると、いかにも魔理沙『から』ぱくったってイメージなので別の名前を用意。
花使いの幽香なので、花を冠した名前を。
さらに、魔理沙は恋符で増幅+八卦炉で放出する事で、妖怪専用の、人間には使えないスペルを使う。

幽香=花ってのは、私が封神演技好きなので妖怪には原形があるって事で。

奇跡の船は宗谷、雪風なイメージでw

映姫様は着痩せだよ!111
しかも恥ずかしがってるのです(*´ω`)
でも小町の方が大きいです。

浄玻璃鏡ですが、『休日』でチラリと出してたんですが、文花帖で見事にスペカとしてでましたね^^;
文花帖で映姫様まで到達できないのもあって、自己設定を優先させて、道具による術にしました。

久々に(私的に)長い内容なので、誤字(特に小町の一人称とか)があるかもしれません。
その際は報告してもらえるとありがたいです。(無いと思いますが)


ついでに。
随分経ちましたが、まんが祭りお疲れ様でした。
スペースに来てくれた皆様、ありがとうございました。


早速の誤字発見ありがとうございます!
くぅ、映姫様信者としてこれは有罪ですね……彼岸でお説教喰らわなくてわ!(*゚∀゚)=3
EXAM
exam0@hotmail.co.jp
http://homepage3.nifty.com/exam-library/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1930簡易評価
1.70翔菜削除
あぁ……新鮮。
四季さまの胸の設定が(ぁ
しかしま、こんな幽香もいいものだ。

誤字ー。
> 私は、式映姫に、嫌われてしまうの?
四季かなぁ、と。
19.80夏の花削除
この組み合わせ良いですね!
幽香と四季様なんか新鮮なカップリングですね。

あとは幽香の違う一面が観れていろいろ新しい発見できました。
25.70名前が無い程度の能力削除
何か幽香かわいいぞw
38.70名前が無い程度の能力削除
ヤヴァイよ!四季が何だか魅力的だよ!!!!!11