Coolier - 新生・東方創想話

閻魔様の優雅な毎日

2006/02/17 08:57:15
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「働けど働けど我が暮らし楽にならず……か」




 誰に言うわけでもなく呟く。

 この言葉を残したのは、一体誰でしたっけ?
 なんと、今の私の生活を的確に表現した言葉なのでしょう。
 きっと、この人も私と同じように毎日厳しい生活を送っていたに違いありません。

 ま、テストをカンニングした罪で地獄に落としましたが。














 窓の外から雀の鳴き声が聞こえてきた頃、私は夢から覚め、布団からズルズルと這い出した。
 この生活が長く続いたおかげで、目覚ましなど無くても、今の時間に起きる習慣は体に染み付いてしまってます。

 このまま二度寝をすれば、最高に気持ちが良いでしょう。
 ですが、それは私のプライドが許しません。
 そのようなグータラな生活は、閻魔という職に就く者にとってはしてはいけない事なのです。

 重たい目蓋を擦りながら窓に向かい、一気にカーテンを開く。
 目が眩むような日の光。今日もいい天気のようです。

「ふぁ~」

 欠伸と背伸びを同時に行う。
 閻魔たるもの、全ての行動は効率的に行わねばなりません。

「さて、と、着替えましょうか」

 またしても独り言を呟きながら、私は窓に背を向ける。
 窓からの光によって、暗闇に閉ざされていた部屋の姿が徐々に浮き上がってくる。

 そこで私は、一回大きな溜息をつく。

「はぁ~、なんで閻魔ともあろうものが、
 こんな狭苦しい所に住んでいるのでしょうか」

 日の光が暗闇を払いのけ、その全貌を現した我が住居。

 六畳一間で壁一面にヒビ、窓は所々ガムテープで輔匡されています。
 築60年は軽く経っているでしょうか、近所の子供達にお化け屋敷と言われているそうです。
 震度5弱で既に崩れそうです。耐震偽造とかシスタートゥース氏以前の問題です。

 しかも、ここはマイホームでは無く貸家。
 毎月、決して安くは無い家賃を払って生活しています。
 昭和の匂いを感じさせるノスタルジックな建物、と言えば聞こえはいいですが、
 いつ、ドリフみたいに倒壊するか分からない家に住んでる本人にとっては堪ったものじゃありません。
 先週、部屋に出現したGを新聞紙で叩き潰した際、
 叩いた衝撃で壁の一部が崩れ落ちた時は流石に泣きたくなりました。


 そう、これが私、四季映姫の現在の城。
 職場である無縁塚まで徒歩二時間。トイレは共同。家賃は秘密。
 毎月のエンゲル係数は約4割、平均と比べれば結構なヤバさですが、
 噂によれば、博麗神社は先月の全収入は5円。それでチョコを一つ買ったそうですから、
 エンゲル係数は驚異の10割を誇っています。私なんかネタにすらなりません。

 何故、ヤマザナドゥたる私がこんな貧乏学生のような生活をしているのか?





 理由は簡単。
 お金が無いからです。

 閻魔になる前は私も知りませんでしたけどね、
 閻魔のお給料って歩合制なんです。つまり、働けば働くほど多く貰えます。
 逆に言えば、働かないとお金が貰えません。

 じゃあ、もっと働けばいいじゃん。そう思うでしょう?
 それがそうも行かないんです。

 閻魔の仕事は死者の魂を裁くこと。
 でも、私に裁かれる前に死者の魂は三途の川を渡ってこなければいけません。
 死者に三途の川を渡らせる役職。これが死神です。
 閻魔には必ず一人、死神が部下として付いています。

 私の下にも、小野塚小町って死神が付いているんですが、
 これが全然仕事をしないんですよ。隙を見てはサボって、そしてどこかに遊びに行ってしまう。
 私も毎日のようにお説教をしていますが、全く効果なし。昨日もサボっていました。
 小町が死者の魂を送ってこないせいで、
 私の仕事は減り、結果的に私のお給料まで減ってしまうわけです。
 お給料が減ると、当然生活水準も下がってしまい、住む所も限定されてしまうわけです。

 つまり、私の生活が厳しいのは全て小町のせいです。全く、ひどい話です。
 Win版のラスボスは皆揃って豪邸に住んでいるのに、
 どうして私だけ新漫画党みたいな生活をしなければいけないのでしょうか。


「あーあ、紅魔館や白玉楼とまではいかないでも、
 私ももうちょっとマシな家に住みたいですね……」

 呟きながらパジャマのボタンを外す。
 中から現れる凹凸の無い体。まるで円柱ポストの様。
 こんなところまで昭和臭を感じさせなくて結構です。




 これもきっと小町のせいです。畜生。










◇◆◇










 くまさん柄のパジャマを脱ぎ捨て、タンスに手を掛ける。
 仕事着であるミニスカ閻魔スーツは、上から三段目に入っています。
 でも、今日は違います。私の手は上から二段目を開けました。
 中から取り出したのは、ジーパンと真っ白なTシャツ。つまりは私服です。

 そう、今日の閻魔の業務はお休み。
 久しぶりに休暇がとれました、嬉しい限りです。と言っても一日だけですけど。
 閻魔はそう連続して休みがとることが出来ません、
 三途の川のほとりで死者を何日も待たせるのも問題がありますからね。



 Tシャツに袖を通し、ジーパンを履き終える。
 この姿を見たら、誰も私が閻魔だとは思わないでしょうね。
 どこからどうみても近所の可愛い女の子です。
 以前この格好で歩いていたら、中年の男性に『5万でどうや?』と言われました。
 どういう意味だったのでしょうか?

 とりあえず、卒塔婆で顎を砕いておきました。天罰。


 なお、この服装に、バンダナとリュックを加えれば、
 外界で『OTAKU』と呼ばれる勇者の装束になるそうですが、
 あいにく私は勇者ではなく閻魔ですので、あまり関係ありません。


「朝食は……トーストで良いですね。あとは、チラシチラシ……」

 一人暮らしが長く続くと、独り言が癖になって嫌ですね。
 パンを一斤オーブンに突っ込み、ドアの郵便受けからチラシを引っこ抜く。

「どこかでバーゲンでもやってませんかね……」

 ガサガサとチラシに目をやる。








『一週間で5センチ!? 
 もう貧乳とは言わせない! 一日一錠で誰でも簡単バストアップ!』
                                因幡製薬株式会社


 ……全く、あの兎は私の忠告も聞かずに、相変わらず詐欺行為に勤しんで。

 こんなもの効果がある訳無いでしょう。
 これを買うために門番の給料まで削ったのに、
 未だに効果が現れず、自室で涙したメイドを私は知っているのですよ。















『愚民だらけの世の中に不満を感じている貴方!  
 上空5000メートルの雲の土地を買って、憐れな地上人を見下しませんか?』
                                プリズムリバー不動産


 ……三女の仕業ですね。

 大方、狡猾キャラを白兎に取られて焦っているのでしょう。
 対抗心を燃やすのは良いことですが、方向性が間違っています。
 それに気付かないから、貴女は蟲や冬に負け続けるのです。














『あの博麗神社のご利益付き財布!
 これで貴方の運勢もグングン上昇! 今なら黄金の玄爺キーホルダー付き!』

体験談 魔法の森在住 M・Kさんの場合

「私は今までツキに全く恵まれていなかった。私のオリジナル魔法をパクり扱いされたり、
 妙なキノコを食べたせいで二頭身になってしまったり、散々だったぜ。
 だが、この財布を買った途端、私の運勢はみるみる上昇。
 知り合いの店ではタダで品物を譲ってくれるし、知り合いの魔女は
 無期限で本を貸し出してくれる。この財布のお陰で人生が変わったぜ!」



 ……言葉も出ません。

 札束風呂に入って両脇に紫もやしと人形遣いを侍らした、
 魔理……いえ、M・Kさんの写真が、中央にデカデカと掲載されています。
 ほかにすることはないのですか? いや、マジで。
 そもそも博麗神社にご利益なんか存在しないでしょうに。


 それにしても、閻魔の家にこんな大量の詐欺広告を送るとは、ナイス度胸です。
 とりあえず、この件に関わった奴らは全員地獄行きにしておきましょう。






 罪人共の広告を丸めてゴミ箱に投げ捨て、残りの広告に目を通す。
 その中で、青を基調にした小さな広告に目が止まる。

「大安売り……しかも、これはいつもの店ですね」

 間違いありません。
 私も日常的に通っている店で大安売りが行われているみたいです。
 このボロアパートからは若干遠いですが、行けない距離ではありません。
 品揃えも申し分無く、価格も控えめなので、私みたいにちょっと懐が寂しい層の味方です。

「おお! すき焼き用牛肉が安いじゃないですか!」

 思わず驚きの声を上げました。
 見ると太字で『タイムサービス品』と書かれていました。
 なるほど、短時間で一気に売り上げようという魂胆ですね。
 お金を稼ぐのは善い事です、感心感心。


 それにしても、すき焼きですか……。
 最後に食べたのは一体いつの話だったでしょうか。

 嗚呼、あの柔らかな肉の食感。舌の上でとろけるような生麩。
 想像しただけでご飯が食べられそうです。食べませんが。
 次の日にはすき焼き丼にするのも悪くありませんね、思わず涎が出てしまいます。

「よし、今夜のご飯はすき焼きにしましょう!」

 広告を片手に立ち上がる。
 もう、節約ビンボー料理は飽き飽きです。
 プリンに醤油を掛けたって、全然ウニの味なんかしません。
 そもそもウニ食べたことありません。



 思い立ったが吉日。
 早速、愛用のライオンさん鞄に財布を入れ、出発の準備を整えます。

 その時。


「む? なにやら臭いますね」

 何やら、不快な臭いが漂ってきました。
 なんですか一体? 人が折角、美味なる夕飯に夢を抱いて出発しようという時に。

 ゴミはちゃんと昨日の朝出しましたし、
 悪くなった食べ物も無かったはずですが……。





 ……




「ああああああああああ!」

 急いで台所に転がり込みました。

「トーストがっ、トーストがぁぁぁぁ!!」

 見ると、オーブンの中に入れたパンはもはや原型を留めておらず、
 単なる炭と化していました。アレが最後の一枚だったのに……。

 がっくりと膝を落とす。


「朝ごはんは、抜きですか……」

 くうぅ、もっとパンを買う余裕が、
 否、安売り広告に目を奪われる様な生活さえしていなければっ!
 こんな悲劇は起こらなかったのに!

 これも小町のせいです!
 小町が働かないのが悪い!







◇◆◇








「四季さん! 今月のお家賃まだなんですけどっ!?」
「あああ、すいません、来週までにはきっと払いますから!」
「それは先週も聞いたわヨ!」
「はいぃ~、すいませんです~」

 大家の説教を華麗にスルーしながら、
 閻魔地獄車、別名閻魔チャリに乗り込み出発する。

 後ろでまだ大家が何か騒いでますが、
 タイムサービスの時間が迫っているのです。聞く必要ありません。
 そう、あなたは少し取立てが厳しすぎる。

 閻魔である私に説教するなど、4096年早いのですよ。ははは。


 あと、家賃が払えないのも小町のせいです。








 閻魔チャリで爆走したお陰で、どうやらタイムサービスに間に合ったようです。
 駐輪場にチャリを止め、買い物籠を片手にぶら下げ、目指すは精肉売り場!



 精肉売り場には、意外にも人はあまり居ないようでした。
 皆さん、広告を読んでないのでしょうか?
 それなら別に構いませんけど、私が買いやすくなるだけですから。

 お目当ての肉は、『大安売り!』と書かれた旗の立つ一角にありました。
 幾つかを手にとって比較をしてみます。少しでも多く入っている物を選びたいですからね。

 ここは思い切って2パック買ってしまいましょうか。
 この値段なら、買い溜めしておいた方がお得です。
 いや、でも2パックも一人で食べれますかね?
 肉はそんなに持ちませんし、腐ってしまったら勿体無い。
 さて、どうしたものか。



「あら? 貴女は……」

 突然、後ろから声をかけられる。

 声のするほうに振り返ってみると、一人の女性が立っていました。
 落ち着いた色のコートとマフラーを身に付けていて、いかにも大人といった雰囲気です。

「……どちらさまですか?」

 私の見覚えの無い人でした。

 私の頭の中には、今まで裁いた億単位の死者達の個人情報が、
 まあそれなりに記憶されていますが、目の前の人物に該当するデータはありません。
 見た感じ生きてるようですので、当たり前ですけど。

 大体、貴女みたいな特徴的な前髪を持った人、
 一度会ったら覚えていそうなものですが。

「すいません、どこかで会ったような気がしたものですから……」

 女性は首を傾げました。

 私は貴女に会ったことはありませんから、きっと人違いですね。
 自分で言うのもアレですが、閻魔スーツを着ていない私は、これといって目立つ特徴もありませんし。
 私と背格好が似ている人もきっと居るでしょう。

「いえ、多分人違いだと思いますよ」
「……そうですか、会った気がするのですが」

 女性は残念そうな顔をして、私に頭を下げた。
 それに合わせて、女性の前髪がふわりと動いた。

 まるで犬の耳のように。




 ん? 犬の耳?








「!! い、十六夜咲夜……!」

 思わず口から声が漏れる。

 その瀟洒な仕草、微妙に不自然な胸部、
 並の人間なら睨まれるだけで肝を潰し、死に至らしめる眼光。
 間違いない、目の前の女性は紅魔館メイド長の十六夜咲夜!

 何故今まで気付かなかったのでしょう?
 そう思いながらメイド長の姿を見つめる。

 そうだ、彼女は今日メイド服を着ていない。
 買出しなのか休日なのか知りませんが、私服と思われる格好です。
 なるほど、閻魔スーツを着ていない私が誰だか分からないように、
 メイド服を着ていない彼女もまた同じなのですね。

「あら、私の名前を知っているって事は、やっぱりどこかでお会いしましたか?」

 ……どうやら、まだ私が誰だか思い出せないようです。

 それも仕方がありません。
 私もついさっきまでは全く思い出せなかったのですから。

「えーっと、どこかで会った気がするんですけど」
「ああ、私は……」

 そこまで言って私は言葉を止めた。

 はたして、私はここで名乗って良いのでしょうか。
 そう思い、自分の格好を見直してみる。

 上は白いTシャツ、下はジーパン。
 威厳もへったくれもありません。
 さらに、この場所は大安売りのノボリがはためくスーパーの一角。
 どう考えても閻魔が居る場所じゃありません。

 なんていうか、閻魔様というのはもっと強大な存在でなければならないのです。
 なにしろ、人を裁く立場ですので、逆らってはいけない威圧感のようなものが必須です。
 効果音で言えばズゥゥゥゥゥン、もしくはゴゴゴゴゴが良く似合っています。

 そう、間違っても六畳一間の安アパートに住んでいたり、
 家賃を滞納したり、安物牛肉を求めてチャリで爆走したり、
 そんなことがあってはならないのです!
 つまり、私が四季映姫だという事をメイド長に知られてはならないのです!

 ここで私の正体がバレたら、その惨めな生活は幻想郷中に知られてしまいます。
 特に、あのマスコミガラスに知られるのは何があっても避けたいところです。
 捏造とゴシップと電波だけで構成された新聞のくせに、
 何が『ジャーナリスト宣言』ですか、馬鹿馬鹿しい(文々。新聞の話ですよ)。

 とにかく、ここはなんとか誤魔化して乗り切りましょう。
 そうですね……偽名を使うのが手っ取り早いですね。

 少し考え、私は口を開いた。




「紅魔館に就職希望の山田です。十六夜メイド長、よろしくお願いします!」

 満面の笑みで言ってのける。

 嘘をつくと地獄に落とされる?
 はっはっは、それを決めるのは私ですから問題ありません。
 むしろ閻魔の威厳を保つための嘘ですので、これはもう善行の部類じゃないでしょうか。
 嘘も方便、人を救う嘘もあるってもんです。

 ああ、そうそう。
 もし、貴方が死んで私の前に立たされた際、上記のような事を言ったら
 即刻、強制ゲヘナツアーにご招待します。
 嘘を言って許されるのは閻魔だけなのです。


「へえ、メイド志望だったの」
「はい、よろしくお願いします!」
「ふーん、じゃあきっと履歴書で顔を見たのね」

 納得したように、顔を縦に振るメイド長。

 やりました! 
 上手く誤魔化せたようです。
 完全で瀟洒な従者も大したことありませんね。
 私の口八丁を完璧に信じ込んでいるようです。

 よく、嘘つきのことを二枚舌と言ったりしますが、
 こっちには嘘つきの罪人から没収した舌が大量にストックしてあるのです。
 すなわち65536枚舌舌舌(残響音含む)。並の相手なら簡単に騙されてしまうでしょう。

「ふーん……」
「……」

 それにしても、メイド長は何故ここまでジロジロ見つめてくるのでしょうか?
 頭から足の爪先まで視線を送ったかと思えば、今度はその逆。
 私の横に回ったり、背後に回ったり、自分と背丈を比べてみたり、一体なんだと言うのですか?
 私は小柄なタイプなので、背丈を調べられるのは好きじゃないのですが……。


「……」
「……あの」
「……合格!!」

 なんですって?

「だから、合格。紅魔館で雇ってあげるわ」
「え、え、え?」

 なんですか? 今、なんて言ったんですか?
 合格? 合格と言いましたか? 合格って何が。

「今すぐ手配するわ、ちょっと紅魔館まで来て頂戴」
「ち、ちょっと……」

 強引に私の手を引くメイド長。

 合格って、もしかしてメイドにですか?
 そんな馬鹿な、紅魔館に履歴書を出したなんて嘘に決まっているのに。

「素晴らしいわ。まさにパーフェクトな人材よ。
 紅魔館は貴女みたいな人をずっと捜し求めてきたのよ」

 ベタ褒めされています。
 鼻息を荒くしながら、私を連れて歩き出す。

 私が紅魔館に必要な人材? 何故?
 メイド長には相手を一目見ただけで力を見抜く能力でもあるのでしょうか。 

 もし、そうだとしてもおかしな話です。
 私は掃除はそこまで得意では無いし、凝った料理も作れませんし、
 閻魔という立場上、主人の為に尽くすといった経験も無い。
 どう考えても私はメイドに向いて無いと思うのですが。


「あの、どうして私なんかを……」

 恐る恐る聞いてみる。
 というか、このまま紅魔館に連れて行かれても困ります。

「一目見てわかったわ、貴女は理想の人材よ」
「し、しかし私は家事はあまり……」
「大丈夫、掃除も洗濯もする必要は無いわ」
「え?」
「紅魔館メイド隊初等部。貴女はここに配属になるわ」
「しょ、しょとうぶ?」

 メイドに初等部? 
 ありえない組み合わせです。
 そんなものがあるなんて、聞いたことがありません。

「あ、あの、それは一体どのような……」
「……恋愛係は中等部」
「は、はぁ」
「そして初等部は、レミリア様や妹様に想いを秘めながらも、
 それを伝えることの出来ない、可憐な乙女達の癒しの空間……」

 ぶわっ と背中に嫌な汗が噴出す。
 な、何? 何を言おうとしているのですかこのアマは!

 気のせいかもしれませんが、メイド長の焦点が合って無い様に見えます。
 どこか遠くにある楽園を見つめてるかのような、そんな目をしています。
 なんだか知りませんが、とてもとても悪い予感がしますよ?



「貴女のそのボディライン、レミリア様とそっくり……。
 きっと、欲求不満のメイド達を満足させることができるハズよ」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 メイド長の手を振り払い、一心不乱に出口に向かって走り出した。

「おっと、逃がさないわよ」

 ……はずだったのですが、
 いつの間にか私の首にガッチリと腕が回されていました。

 シット! 空間操作か!

 腕の中でぐるりと180℃方向転換させられ、
 私とメイド長は顔が向き合った状態になる。

「初等部の人がみんな腰を痛めちゃって、新人が欲しかったところなのよ」
「いやぁ! 嫌です! そんなのただの生贄じゃないですか!」
「安心しなさい、初等部には特別手当が出るわ。
 30分20000円、90分25000円、90分は二回戦OKよ」
「それ、明らかにメイドの給与形態じゃないんですけど!?」
「そんなに恐がらなくても大丈夫よ。みんな、昼間は優しいから」
「夜は、夜は優しくないというのですか!」
「ふふ、メイド達のシャイニングフィンガー(隠語)。痛いのは最初だけよ」
「ひぃぃぃ!」
「ああ……その恐怖に怯える瞳、かなりイイ線いってるわ。
 その誘い受けは天性のものね、つーか誘ってるわよね! 誘ってるんでしょ!」
「ひ、そんな、誘ってなんか……」
「据え膳食わねば瀟洒の名に傷が付く。
 連れて行く前に、少し味見をしても構わないわよね。はぁはぁ……」
「あ、あ、嫌ぁ、嫌ぁ……」

 目をギラギラと輝かせながら、ゆっくりと顔を近づいてくるメイド長。

 スーパーの一角という公衆の面前で、何をしやがりますか!
 恐怖のあまり、自分が涙目になっているのが分かります。
 なんとも情けない話です。

「ふふふ、可愛いわね貴女……ふっ」
「ひぃっ! 耳に息を吹きかけないで!」
「あらあら、初々しいわね。でもね、そういう所が加虐心をそそるのよ」
「こ、この! そんなことをしてると地獄に落ちますよ!」
「そっちから誘っておいて、今更それは無いでしょう!
 私のプライベートスクウェアは桜花結界寸前、右脇腹の浪漫回路はフル回転なのよ!」
「さ、誘ってないし! 意味分からないし!」
「問答は必要ないわ、ただ私に身を任せればいいの」
「ひえぇ!」

 ぎっちりと首を押さえながら、徐々に唇を近づけてくる。

 ヤバいですヤバいです! 四季映姫、人生最大のピンチ!
 必死に抵抗を試みるが、首に絡まった腕は全く微動だにしない。
 万事休す、孤立無援に四面楚歌! 
 意味が微妙に間違ってますが、それぐらいの危機だということです。

 くぅ……私の初接吻は、生肉の匂いが漂う精肉売り場で奪われてしまうのですか?
 それだけならまだしも、さらにこの後、飢えたメイド達の慰み者にされてしまうとは……。

 メイド長の唇は、もう数ミリの所まで迫っています。
 私を拘束する二本の腕は、ますます強く私を締め付ける。
 逃げることも、戦うことも、もう何も出来ない。

「ふふ、観念しなさぁぁぁぁい!」

 嫌だ! 嫌だ! 何で私がこんな目に会わなきゃいけないの!?
 すき焼き用の牛肉を買いに来ただけで、貞操の危機が訪れるなんて、
 どんなフラグを立てればこのルートになるのですか!
 理不尽です、世の中おかしいですよ! 

 今まで真面目に生きてきた結果がこれですか!?
 地獄に落とした死者からは恨まれて、説教を嫌がった友人は私から離れて行き、
 それでも頑張って閻魔をやってきたのに、その結末がこれだなんて、
 あまりに酷いじゃないですか!

 なんで私だけがこんな目に!

 小町は仕事をサボって毎日楽しそうだし、

 霊夢も縁側で茶を飲んでるだけなのに、みんなから好かれて……

 だけど、私は……




「――――――――ひっく……」



 なんで、なんで私だけが。

 こんなに……辛い……思いを……。


「…………ぐすっ……ぐす……うあ゛……」
「あら?」


 なんで……。






「……う゛わあぁぁぁあ―――んっ!!!」






「!? っ! ちょっ、何!?」

 突然の事に、たじろぐメイド長。
 その拍子に、私を拘束していた腕の力が緩み、
 私は床にへたり込んだ。

「う゛ああぁぁぁん! いやだよぉ! こ、こうまかんなんて、いきたくないよ!」
「さ、騒がないでよ! 人が集まってくるじゃない!」
「だってぇ、だってぇ! さくやが、わたしにいたいことしようとするんだもんっ!」
「ちょっと、周りに聞こえるでしょ! 止めなさい!」
「やぁだぁ! おうちかえるーー! かえりたいー! うわぁぁぁぁーーーん!」

 もう、何も考えられない。
 今出来るのは、恐怖から逃げる為、力いっぱい泣く事のみ。
 我ながら情けない。だけど、涙は止まりません。

「うわぁぁぁん! ばかばかばかぁ!」
「痛っ、や、止めなさい!」

 メイド長に体を押し付け、胸目掛けて両手でぽかぽかと叩く。
 俗に言う、駄々っ子パンチ。
 この攻撃にどれほどの効果があるのかは分かりませんが、
 今の私にとってはせいいっぱいの反撃なのです。

「きゃっ!」

 突然、メイド長が素っ頓狂な声を上げる。
 その時、彼女の胸を叩く手に違和感を感じました。
 何かと思い、顔を上げて見る。

「あ……ああ……」

 メイド長の顔が青ざめていた。
 何やら、自分の胸元を見て体を震わせています。
 私もつられて視線をメイド長の胸元に移す。


 そこには……







 先ほどまで美しくその形を保っていた……







 双丘が……








 微妙に……








 ズレ「山田ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ひぃっ!」

 それは、地獄の鬼が可愛く思えてくるぐらいの咆哮。

「……見たな?」
「み、みてません! なにもみてませんっ!」
「……見たんだろ?」
「ひっ、みてませんってばぁ!」
「……」

 突如、沈黙が訪れる。
 草も水も風も、何もかもが死んでしまったような沈黙。
 死刑台の空気というのは、もしかしたらこんな感じなのかもしれません。

 腰が抜けて逃げることが出来ない。
 メイド長の瞳は、床にへたり込んだ私を見下ろしています。

 そして、メイド長の口が静かに動く。











「……死ね」








 視界が一瞬のうちにナイフで埋め尽くされる。
 周囲360℃、全方位から銀の刃が私に狙いをつけています。

 ナイフはしばらく私の周りを漂った後、一気に迫ってきました。
 私は恐怖のあまり、もはや叫ぶこともできず、
 最後の自己防衛手段として、目を固く閉じました。
 せめて、最期の瞬間だけは安らかに逝きたいから……。





 ……





 ……






 ところが、いつまで経っても私の体にナイフが刺さる様子はありません。
 恐る恐る、目蓋を開いてみる。

 すると、そこには。


「何やってんですか咲夜さん! 
 こんな小さな子供に殺人ドールだなんて!
 ただでさえ最近、紅魔館はネバーランドとか呼ばれて評判悪いんですから、
 これ以上、館の評価を下げるような事は止めてください!」

 緑のチャイナ服に身を包んだ女性にボディブローを叩き込まれ、
 どさりと床に崩れ落ちるメイド長の姿がありました。

「全く、買い物の途中で居なくなったかと思ったら、一体何をやってるんだか……」

 チャイナ服の女性はゆっくりと振り返り、
 優しい声で私に話しかけてきた。

「大丈夫? 恐くなかった?」

 ぶんぶんと首を縦に振る。

「そう、貴女は強い子ね。
 ごめんね、咲夜さんがこんなことしちゃって。
 咲夜さん、最近お嬢様が構ってくれないから、機嫌が悪かったのよ。許してくれる?」

 さらに激しく首を振る。もちろん縦に。

 どう考えても、そうするしかありません。
 あの恐怖の権化のようなメイド長を一撃でK.Oしたこの女性。
 恐らく、純粋な格闘戦においてはメイド長を遥かに上回る能力の持ち主。
 逆らえるハズがありません。

「ありがとう、助かるわ。
 あ、そうそう、この事はなるべく他の人には言っちゃ駄目よ。
 パチュリー様の魔法で、一応咲夜さんの記憶は消しておくけど、
 もしかしたら思い出だしちゃうかもしれないからね」

 そう言って女性は、床に転がっているメイド長をひょいと担ぎ上げ、
 そのまま店の外に歩いていきました。

 しばらく呆然と女性の後ろ姿を眺めていたが、
 視界から女性の姿が消えると、次第に涙腺が緩み始め、
 

「……ぐすっ……ぐすっ……恐かったよぉ……」


 私は独り、再び泣き出してしまった。










◇◆◇










ぴんぽんぱんぽーん

『地獄13丁目からお越しの、しき えいきちゃんのお母様ー。
 いらっしゃいましたら、迷子センターまでお越し下さい』











「もう大丈夫よ。すぐお母さんが来てくれるから」
「……ぐすっ……ぐすっ……」

 優しく頭を撫でられる。

 メイド長が居なくなった後、騒ぎを聞きつけた店員がやって来て、
 一人泣いている私を発見し、保護しました。
 状況から判断して、私を迷子だと思ったようです。

 現在は、その店員と迷子センターで二人きりです。

「ほら、クマさんのお人形よ。泣くのは止めて、これで遊びましょう」
「……えぐっ……えぐっ……」

 それにしても、この店員。
 いくら知らないとはいえ、閻魔を子供扱いするとは。
 そう、あなたは少し外見で人を判断しすぎる。
 このままでは、あなたを地獄に落とさねばなりませんよ。

「じゃあ、飴玉舐める?」
「……」

 ……イチゴ味ですか。

 よろしい、あなたの天国行きを考慮しておきましょう。


「んー、それにしても、あなたのお母さん遅いわねー」
「……ん」
「もう一回放送を流してみよっか?」
「……いえ、いいです」

 お母さんも何も、ここには私一人で来たのですから、
 いくら待っても誰かが来るはずがありません。
 お母さんと一緒に来ているように見えるのでしょうか。ひどい話です。

 店員にお礼を言い、私は迷子センターを出ました。
 思い切り泣いたせいか、妙にすっきりとした気分です。



 先ほどの精肉売り場に戻ってみると、
 既にタイムサービスは終了しており、特売の肉は全て無くなっていました。

「はぁ~」

 一つ大きな溜息をつき、
 そこそこの安さの挽肉を籠に入れレジに向かう。

 あーあ、すき焼きがパァです。
 今夜はこの挽肉でハンバーグでも作りましょう。
 特売品を想定していたのに、予定外の出費が出てしまいました。










 閻魔チャリを力なく漕ぎ、自宅に向かう。

 自室に戻ると、さっきのスーパーでの疲れのせいか、
 そのまま布団に倒れこんでしまいました。

「あー、疲れました」

 ごろりと仰向けになり、天井に向かって呟く。
 壁の時計を見ると、8時半。

 ……ああ、壁の時計は止まっていました。
 修理に出そうにも修理代が無いし、困ったものです。

 タイムサービスが確か10時からで、メイド長に襲われたり、
 迷子センターに居たりと、結構時間を喰ってしまいましたから、
 多分、今は正午ぐらいじゃないでしょうか。
 そろそろ、昼食の準備をしなければなりません。

 あー、でも冷蔵庫の中にはもうろくなものが入ってません。
 さっき買ってきた挽肉は夕飯用ですし、野菜類も出来れば夜にまで取っておきたい。

 ああ、もう本当に小町がもう少し働いてくれれば、
 私の生活も楽になるのにっ!



「……小町は私の事をどう思っているのでしょう」

 ふと、そんな事を考えました。

 白玉楼の庭師も、紅魔館の変態も、自分の主人を敬愛し、誇りに思っています。
 だからこそ紅霧異変の時も春が奪われた時も、二人は己の主人のために戦いました。

 小町はどうなのでしょう。


 いや、別に私の為に命を張れと言っているわけではありません。
 先日の花の異変も、私が起こしたわけじゃないですし、
 私の為に戦う必要はありませんでした。ていうか小町のせいですし。



 ……もしかして、小町は私の事を嫌っているのでしょうか?

 死神が働かなければ、閻魔の生活は厳しくなる。
 それを知らない小町では無いでしょう。

 小町が働かないのは、私への嫌がらせ?
 被害妄想的な考え方かもしれませんが、完全には否定できません。
 思えば『説教癖のある上司』なんて一番嫌われるタイプです。
 小町が私を嫌っていても不思議ではありません。


 恐ろしい話です。
 いつも呑気に笑っている小町が、
 裏では私の藁人形に釘を打っているかもしれないのです。

「少し、生真面目に生きすぎたのですかね」

 この幻想郷では、お気楽に生きてる者の方が、
 周りから好かれたり、環境に恵まれたりしているようです。
 真面目というのは、人生の足枷なのでしょうか?
 私の生き方は間違っていたのでしょうか?


 ……やめましょう。
 こんなことを考えても、答えなんて出ません。
 人生の終着駅に着いた魂達でも『人生とは何か』の問いの答えを知らないのです。
 死んでもいない私がわかる筈がありません。

 何か、本当に疲れてきました。
 少しだけ眠ることにしましょう……。




















 目が覚めたら、部屋の中は真っ暗でした。

 窓から見えるのは山の向こうに沈む夕日。
 意外と長い時間眠ってしまったようです。

「……夕飯の準備をしなければ」

 部屋の明かりを付け、布団の横に置かれていたビニール袋を開ける。
 中からは昼間に買った挽肉。それにお菓子が少々。

 ……本当はすき焼きの予定だったんですけどね。





「四季さまー! 居ますかー?」

 突然、玄関のドアが叩かれる。

 誰ですか? こんな時間に。
 時計は8時半を指していました。

 家の場所を知っているのは僅かだし、
 大家は朝出かける時に、家賃はまだ払えないと言っておきました。
 この時間に家にやってくるのは……。

 ……さては。


「年末は紅白じゃなくて超常現象スペシャル観てました」
「集金じゃないですよ! 2月になって12月の集金が来るわけ無いでしょう。あたいです、小野塚小町です!」
「小町?」

 対大家用のチェーンをかけ、ゆっくりとドアを開けていく。

「こんばんわー、四季様」
「小町、一体どうしたのですか? こんな時間に」
「色々ありましてねー。とりあえず入れて貰えますか?」

 チェーンを外し、ドアを開け放つ。
 さっきまではドアが邪魔で見えませんでしたが、小町は両手に大きなビニール袋を持っていました。
 中身は、白菜、ネギ等の野菜類のようです。

「うっわー、相変わらずウサギ小屋みたいな家ですねー」
「……嫌味を言いに来たのなら帰りなさい」
「あ、いえいえ。もちろんそんな事を言いに来たんじゃありませんよ。
 四季様、今日は何の日だか覚えていますか?」

 入ってくるなり、そんな事を言い出す小町。
 今日? 今日が何の日かって?

「……『そのボディラインがいいね』とメイドが言ったから、今日は強姦記念日」
「四季様……なんか今日あったんですか?」
「いえ、別に」
「そーじゃなくって! あたい達にとって大事な日じゃないですか、今日は!」
「?」
「んもー、忘れたんですかー!?」

 私達にとって大事な日?
 まさかバレンタインとでも言う気じゃないでしょうね。
 チョコ単体なら大歓迎ですが、歪んだ愛ならノーセンキューです。



「今日は、あたいが四季様の下に配属された記念日じゃないですかー!」



 ……そうでしたっけ?

「あたいも正確な日にちは覚えていないんですけどね」
「なんですかそりゃ」
「いや、多分2月だった気がするんですよ、四季様ん所に配属されたの。
 それで、いい機会だから四季様に恩返しをしておこうかなーなんて」
「恩返し?」

 どういう意味でしょう。
 恩返し? 私は小町に説教と卒塔婆スパンキングなら与えたことならありますが、
 恩を与えた記憶はありません。
 与えてないものを返すと言われても、何がなんだか。

 ……まさか、復讐の意味の恩返し!?

 やっぱり小町は私の事を……

「あたい、昔っからサボり癖がありましてね」
「ひぃぃ!」
「……何ビビってるんですか。ちゃんと聞いてください。
 それで、小さいときから何でも面倒な事はサボってきたんですよ」
「う、うん」
「周りの大人とかは、最初は注意するんですよ。
 そんなにサボってるとろくな大人にならないぞって。
 でも、すぐに止めちゃうんです。諦めちゃうんですよね。
 あたいのサボり癖は、生まれつきのものだから、そう簡単には直るものじゃないんですよ」
「……」
「んで、環境が変わる度に、サボって、注意され、諦められて。
 それを、この年になるまでずーっと延々と繰り返してたんです。
 そんな時ですよ、四季様の下で働くことになったのは」

 小町の語りは止まらない。

「あたいも最初は、こいつも結局は諦めるんだろうな、と思ってた。
 けど、四季様は違った。何度あたいがサボっても、その度に叱ってくれる。
 あたいは驚きましたね、こんな忍耐強い人が世の中にいたのかって」
「……」
「だんだんと自分が恥ずかしくなってきましてね。
 この人はこんなに叱ってくれるのに、あたいは何をやっているんだろうと。
 それで、ある時……まあ昨日ですけど、決意したんです。あたいはこの人に一生ついて行こうと」
「小町……貴女は」
「今日は全部あたいのおごりです。
 今までの恩返しの意味も含めて、今夜はパーッっと行きましょう!」

 白い歯を見せ、二カッと笑う小町。


 小町がそんな風に私を見ていてくれたなんて……少しこそばゆいですね。

 私の事を嫌っていたわけじゃ無かったんですね。
 良かった、本当に良かった。

「おっと、四季様、泣いているんですか?」
「な、泣いてなんかいませんっ! それよりも、恩返しとやらをするのなら早くしなさい!」
「そうでしたそうでした。そんじゃ、今夜は盛大にすき焼きパーティーと行きましょうか!」
「すき焼き!? すき焼きが食べられるのですか!!」

 なんと! 一時は諦めていたすき焼きが、再び私の目の前に!

「ええ、四季様が良く行く店で大安売りしていたもんで。あ、四季様、鍋の用意お願いできますか?」
「フライパンで良いですか?」
「……まあ、いいです。じゃあ、あたいは野菜を切ってますんで」
「……小町」
「はい?」









「貴女は最高の部下です」

「……ありがとうございます」









◇◆◇










「四季様ー、肉ばっかり食べてないでちゃんと野菜も食べて下さいよー」
「何を言っているのです。私の代わりに野菜を食べる。これが貴女にできる善行よ」
「いい加減、好き嫌いとか直してくださいよ。それじゃあいつまで経っても体が大きくなりませんよ」
「余計なお世話です」
「ロリコンのおっさんに目を付けられても知りませんよ」
「……」
「四季様?」
「白菜を寄越しなさい」
「お? 何か思い当たる節でもありましたか?」
「別に。それよりも小町、お酒が切れましたよ」
「えー、もう全部飲んじゃいましたよ! 明日は仕事なんだし酒はもうこの辺で……」
「ふふ、ならば押入れの秘蔵の酒、閻魔殺しを持ってくるしかありませんね」
「ちょ、ちょっと四季様、流石にそれは!」
「ぬぁに~、私の酒が飲めないとでも~? 地獄に落としますよ~?」
「うえ~、そんなベタベタな絡み方しなくても、分かりました、付き合いますよ~」
「よろしい! 上司の酒に付き合うのもまた善行! わっはっはっは!」
「あっはっはっは!」

 私と小町のすき焼きパーティーは、
 騒ぎの苦情を言いに来た大家にブン殴られるまで続きました。












 次の日


「う゛あ゛~、頭がガンガンします……昨日は流石に飲みすぎましたね……」

 フラフラになりながらも職場の無縁塚にたどり着く。
 ああ、頭の閻魔キャップが重い。
 今度、デザインを変えてもらうようように頼みましょう。

「四季さまー、本日一番目の魂、到着しましたー!」

 ……なんで小町はそんなに元気なんですか。
 大声を出すな、頭に響く。

 法廷の裁判長席で、うつ伏せになりながら小町に、
 『いいから次の魂呼んで来い』の合図を送る。
 まあ、卒塔婆でシッ、シッってやるだけですが。

 いつまでもグッタリしている訳にもいきません。
 辛いですが早速裁判を始めなければ。

 魂を被告人席に立たせる。

「えー、それではこれより、あなたの今後の行き先を決める裁判を行います」
「……」

 魂はじっと私の顔を見つめてくる。
 ほう、珍しいですね。
 大抵、死者の魂は、自分が死んだショックで俯いてるもんですが。

「どうしました? 私の顔に何か付いてますか?」
「……いや、さっきの死神の姉チャンによ、閻魔さまの事を聞いたんだよ」

 小町が私の事を?


 ……なるほど、何しろ小町にとって私は『尊敬できる上司』ですからね。
 きっと、私の仕事に対する真面目な姿勢や、
 不正を一切許さない厳格な性格を死者に教えていたのでしょう。

 いやいや、照れますね。
 三途の川で閻魔の偉大さを教わった魂は、
 閻魔に畏怖を抱きながら法廷に入ってくるわけですね。

 これは、裁判がスムーズに行われるだけでなく、
 私のカリスマアップにも繋がります。
 小町もなかなかニクいことをやってくれるじゃないですか。













「閻魔さま、昨日スーパーで迷子になったんだって?」

「こおおぉぉぉまああぁぁぁぁちいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」













「やっば! おいオッサン、四季様には言うなっつったじゃんか!」
「ガハハハ! 悪い悪い、俺は生きてるときから口が軽くてな!」
「こぉまぁちぃ! 今日という今日は許しませんよ!
 お尻を出しなさい、この鋼鉄製の卒塔婆で皮が剥ける程引っ叩いてあげます!」
「し、四季様タンマタンマ! あたいの尻はそんなに丈夫に出来てな……」
「問答無用!」
「うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 賽の河原の青空に、死神の悲鳴が吸い込まれていった。
どうも、ら です。

俺設定、二次設定満載な話ですね。
そういうの苦手な方はすいません。謝ります。

あと、ズレたのは固めのブラです。そういうことにしておいて下さい。

感想お待ちしております。

※2/17日 あの部分を修正
 指摘してくださった方々、ありがとうございました。
 素で間違えたよ、やっべぇやべぇ……。
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コメント



0.10620簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
ちょ、四季さま、所帯じみすぎw
6.90名前が無い程度の能力削除
ツボった。何もかもが。強姦記念日嫌過ぎるw
7.100月影蓮哉削除
映姫様に敬礼。裁判長殿も苦労しているのですね。
いろいろと突っ込みたい所があるんですが、あまりに多いためにカットしますw

ネバーランド紅魔館に行きたい……(ぇ
8.90名前が無い程度の能力削除
起承転結が明瞭で、読みやすい構成に気を配って書いているのがよく伝わってきます。ギャグあり、壊れあり、涙ありで、SSのお手本のような良作だと思いました
9.80名前もない削除
Tシャツにジャージ映姫様は是非みたい……しかし所帯じみてるなぁ(笑)
14.70MIM.E削除
TシャツGパン映姫……ひたすらツボです。
16.90削除
途中で波動関数的にショッキングな単語が見えたような・・・卒塔婆・・・スワ・・・いや、気のせいでしょう。

あ、すいません、初等部って外部利用可能ですか?
20.100削除
ボディブローくらった
21.無評価名前が無い程度の能力削除
スワッピングはスパンキングに非ず。
ま、どちらにせよ実に刺激的w
22.無評価名前が無い程度の能力削除
まち姉×映姫様♪
オチは当然羞恥閻魔のお仕置きタイム♪

・・・王道!!
27.90innominato削除
えーき様のなけなしのカリスマが……今消えた。
31.100名前が無い程度の能力削除
特売→強姦フラグw
ミニスカ閻魔スーツ着て2時間町を歩くえーき様が見てみたいですねw
33.90名前が無い程度の能力削除
なんつーか、ひでぇw
35.60変身D削除
なんつー所帯じみすぎた映姫さまですか(w
あと、咲夜さん壊れすぎ……美鈴の方が苦労してるのって意外に珍しいかも。
とにかく笑わせて頂きました(礼
42.90ちょこ削除
四季さまの生活を頭の中で妄想してみた…
……お金が無くて、大学・専門学校に行けない俺なんかよりかわいそうな気がして、まじめにお金ためてがんばろうとか思った自分がいた;;
47.90名前が無い程度の能力削除
こういう映姫さまもいいですね。
面白かったです。
50.100名前が無い程度の能力削除
いいぞ ベイベー!
法服を着た幼女はえーき様だ!
TシャツGパンの私服幼女はよく訓練されたえーき様だ!
ほんと私生活は地獄だぜフゥーハァハァー
53.100鈴音削除
服を脱げば威厳ゼロw
地味にリグルのコスプレもできると言う噂の四季さまですが、こういうのは始めてみましたw
54.70与作削除
最早えーき様 = ロリは鉄板、ていうかロリじゃないえーき様を想像できなくなってきてますが。これが幻想の力か……
56.90はむすた削除
小町が一番まともに見える。
なんて凄い世界なんだろう。
カリスマを犠牲にして可愛さが返ってきた映姫様。

……リリカ、がんばれ、リリカ超がんばれ。
60.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さん怖いよ咲夜さん
やはり映姫様は受けじゃなきゃね。うん。
63.100ぐい井戸・御簾田削除
映姫ィィィィィィィィィィ!わかるよッ!オレもわかるッ!わかるんだよォーッ!!オレに“受信料払え”と命令しないでくれーッ!映姫はオレなんだッ!オレだ!特売品買えずに損する映姫の失敗ははオレの失敗だ!!
69.90コイクチ削除
oishii映姫さまデシタ。
85.40名前が無い程度の能力削除
小町優しいじゃないですかー。
91.100Admiral削除
ちょっといい話かと思わせて、オチで落とすその業に全米が泣いた。
歩合制の閻魔業に涙。小町もっと働いてー!

>右脇腹の浪漫回路はフル回転
外道校長東堂源三郎www
今回の映姫様は、ロリじゃないんだ!
そうそれはまさにフェアリー…。
92.80名前が無い程度の能力削除
……四季さまは円柱ポストなのか、そーなのかー……
あれ、この涙はなんだろうw
101.90名無し毛玉削除
どこの貧乏学生の休講日ですか?
あと、咲夜さん=マ○ケル・○ャ○ソンの公式で宜しいですね? ポゥ
107.100名前が無い程度の能力削除
苦労してるサイバンチョとか殺人ドールかますさくぽとか
あまつさえそれを一撃で轟沈させる美鈴とかことごとくツボにはまりましたw
118.80東雲削除
私の想像とは180度ベクトルの違う四季様ですね。でも面白かった!
早く拝読しなかったのが悔やまれてなりません。(^^;
128.100ルーミアをめでる程度の能力削除
映姫さまのかわいかっこよさにもメロメロですが、
中盤の紅美…っと、中国の活躍っぷりに驚きを通り越して感動してしまいました。
こりゃ素晴らしいw 修羅場中の清涼剤になりました(笑
161.90名前が無い程度の能力削除
腹よじれる程笑ったw
167.100時空や空間を翔る程度の能力削除
閻魔と死神は一心同体
しかし・・
私服の四季様って・・・・・見たまんま子供なのね(ププ

地獄行き決定ーーーーーーー!!!!!
176.100名前が無い程度の能力削除
四季さま……
177.100名前が無い程度の能力削除
パッド長こえぇwww
196.100名前が無い程度の能力削除
ろりえーき様最高すぎる……!
あとこれ読んでると、すき焼き食べたくなってきて仕方がありません。もう。
199.100削除
これはひどいw
ただ、
>真面目というのは、人生の足枷なのでしょうか?
この一文には、笑いではない、何か別の感情を与えられましたね。
笑って、少し感動して。
いいお話でした。
209.100名前が無い程度の能力削除
これはひどいww
210.90名前が無い程度の能力削除
>白玉楼の庭師も、紅魔館の変態も
おいw
個人的にはえーき様がカリスマなんだけど、これはこれで。
212.100名前が無い程度の能力削除
こまえーきの完成形をみたッッッッッ!!!!
213.100名前が無い程度の能力削除
えーき様は実力で成り上がり。小町は良家のお嬢様。

俺の中でそう決まった作品。声だして笑いましたwwww
214.100名前が無い程度の能力削除
四季様w映姫様ww
216.100名前が無い程度の能力削除
最高だっw
217.100名前が無い程度の能力削除
映姫様ウフフ
221.100名前が無い程度の能力削除
パッド長がひどすぎるww
224.100名前が無い程度の能力削除
映姫様をぶんなぐれる大家マジすげぇ
236.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんのイメージが変態にぬりかえられた・・・
244.100名前が無い程度の能力削除
サラダ記念日かwwwやっとわかったwww
250.100名前が無い程度の能力削除
新作が四季様だったので久々に読み返しました。
庶民な四季様がかわいそすぎてかわいすぎる。
十八番の黒いメタネタも効いていて、何度読んでも面白いです。
254.無評価スポポ削除
石川啄木まで地獄行か……地獄容赦ねぇな
263.100名前が無い程度の能力削除
啄木は研究すればするほどブチ殺してもまだ足りないくらいのクズだとわかるから地獄行きはまあ当然だろうな。
264.100名前が無い程度の能力削除
えいきちゃん、かわいすぎるw
266.100名前が無い程度の能力削除
駄目駄目な感じがとても良いですね。
272.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに読み返したがやっぱり面白いわ