Coolier - 新生・東方創想話

『ヴワル邀撃隊~小悪魔かく戦えり~』

2006/02/14 09:57:42
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 見渡す限りの本棚の海、ここは紅魔館内にあるヴワル魔法図書館、幻想郷中で最大の蔵書数を誇る比類なき大図書館である。そして、ここに住むのは強力な魔力を持つ七曜の魔女パチュリーと、彼女につかえる魔法図書館の司書小悪魔である。

 過去数百年にわたり紅魔館の住人以外が入る事の無かったこの大図書館と、同時に、紅魔館内からほとんど出ることの無かった二人に、大きな転機が訪れたのはつい最近の話だ。

 それまで、館に進入しようとした人妖は過半が門番に撃退され、仮に館内に進入したとしても、図書館に到達する前に時を操る完全で瀟洒な従者、咲夜率いるメイド部隊によって撃破されていた。だが、ある日突如進入してきた二人の人間にその鉄壁の防衛線はあえなく突破され、パチュリーと小悪魔、おまけに、強力な戦闘力を誇る館の主人レミリアと、その妹フランまでがあっさり撃破されてしまったのだ。そして、以後紅魔館とヴワル魔法図書館には、二人の人間の内の一人である魔理沙が、図書館の所蔵する魔導署を強奪するべく侵入を繰り返すようになってしまったのである。


「さっくり貰っていくぜ」
「させないわ」
 対峙する魔理沙とパチュリー、もはや最近恒例となっているヴワル魔法図書館の睨み合いである。
「パチュリーさま!頑張ってください!!」
 魔理沙を睨み、図書館の入り口に立ちふさがる図書館の主パチュリーに、もう一人の住人小悪魔が声援を送る。
「ええ、頑張るわ。魔導書は渡さない」
「ちゃんとお代は払うぜ、マスタースパーク!!」
BIM!
「あなたのそれはお代じゃないわ、レイジトリリ…げほげほ」
 いきなり攻撃を開始した魔理沙に対し、張り切って防御弾幕を張ろうとしたものの詠唱の途中で咳こむパチュリー。
「パチュリーさま!?」
DOGO-M!!
 膝をつくパチュリーを見た小悪魔が、彼女に慌てて近寄ろうとした瞬間、魔理沙のマスタースパークが炸裂し白い閃光がパチュリーを吹き飛ばした。



「持ってかないでーげほごほ」
「持ってくぜ」
 パチュリーが伸ばした手を無視すると、魔理沙は本日の『戦果』を手に図書館からの離脱を図る。

「待ってください!図書館の貸し出し規則は守ってください!!あなたのやっていることは強奪ですよ!!」
 そんな魔理沙の前に果敢にも立ちふさがる小悪魔。ヴワル魔法図書館司書たる誇りと、主人パチュリーに対する尊敬、この二つが彼女を隔絶した実力差をものともせずに魔理沙に立ち向かわせる原動力だった。だが、そんな彼女に対し魔理沙はしれっと答えた。
「強奪じゃないぜ、無理矢理借りてるだけだ」
「それを強奪って言うんです!あなたはろくに本も返さないじゃないですか!!その本を置いて速やかに…」
「じゃあな」
BUHU-M
「きゃっ!?」
BAKOM!!
 魔理沙は、腕をぶんぶん振り回しながら小悪魔が発した警告を聞き流すと、たちまち増速して図書館の扉をぶち抜き、館外へと離脱していった。一方、気合いに実力がともなわない小悪魔は、魔理沙(の箒)が起こした暴風に一瞬で吹き飛ばされていた。魔理沙の初侵入以来何度も繰り返されている結末であった…



「うう…パチュリーさまぁ、申し訳ありません…」
 魔理沙に吹き飛ばされぼろぼろになって謝る小悪魔に、パチュリーはよろめきながらも優しげな笑顔を見せ、言った。
「いいわ、あなたのせいでは…う~ん」
PATA
「パチュリーさま!?」





…紅魔館医務室
「また貧血ですか?パチュリー様」
 魔理沙と交戦後、ふらっと倒れたパチュリーは、小悪魔に連れられて医務室にやってきていた。途中で二人を見つけた咲夜が手当てする。
 余談であるが、この医務室は例の二人の侵入以後、怪我人の増加に対応して格段に機能と規模を拡大していた。けが人病人どんとこいといった具合である。
「ええ、不覚だったわ。今日は貴重な魔導書が5冊、根こそぎやられたわ」
「うう~申し訳ありませんパチュリーさま、私が不甲斐ないばっかりに…」
 私にもっと力があれば…と、凹む小悪魔にパチュリーは優しく言った。
「だからあなたのせいではないわ、でもどうにかしたいものね。咲夜、あなたはどうにかできないの?」
「はい、私もどうにかしたいのは山々なのですが、来襲されるとお嬢様の護衛につかなければならないですし、ヴワル魔法図書館のほうに来たのだと判ってからでは間に合わないんですわ」
 額に濡れ布巾を置きながらため息をつく咲夜に、パチュリーもため息をつきながら返答する。
「やれやれね、せめて私の体調がもう少しよければね」

 そう、強大な魔法力を持つパチュリーの攻撃力は本来かなりのものである。満月でさえなければ、咲夜はおろかレミリアですら一歩譲るであろう。だが、パチュリーの体調がよいなどという状況は一月の内に一回あるかないかなのであって…つまり魔理沙襲撃時に体調がよいなどという可能性は非常に低いのだ。
 いくら強力な戦闘力を誇っていてもそれが発揮できなければ意味はない。
 こうして、黒い悪魔こと霧雨魔理沙が初めてヴワル魔法図書館に来襲して以来、魔法図書館の防衛線はいともたやすく突破され、その蔵書は次々と彼女に強奪されることとなったのである。



紅魔館廊下…
「うう~私がなんときゃしなきゃ!パチュリーさまの為に!!」
 そう、パチュリーさまと私の大切な世界を…あんなゴキ○リなんかに壊させはしない!

 医務室から出た小悪魔は蔵書防衛に燃えていた。度重なる貴重書の強奪に、いくらパチュリーに責められないとは言いつつも、図書館司書たる小悪魔は忸怩たる想いをしていたのだ。何より、心酔するご主人さまの為に今こそ愛と勇気と豪胆の規範を示さなければ!
 しかしスペルカードの一枚すら持たない小悪魔と、火力では幻想郷最強クラスのファイナルマスタースパークを持つ魔理沙とでは正面から戦っては勝負にならない。いつもいつも魔理沙邀撃に上がっては撃ち落とされる…のだったらまだしも、大体の場合魔理沙が気がつかない内に箒の風圧で撃墜(?)されているのだ。

「でもどうしよう…むむ…」
 彼我の戦闘力の差は如何ともしがたい。しかも敵は黒い悪魔、しぶといに違いないし…と、失礼な事を考える小悪魔。さらにしばしの時が過ぎる…

「よし、図書館で資料探しよ!あの黒い悪魔をこれ以上野放しにはできないわ!!外の世界の戦法を勉強してやっつけてやる!!」
 図書館司書らしい発想のもと、小悪魔は幻想郷の内外を問わず、古今東西の名著貴重書を集めたヴワル魔法図書館へと向かっていったのだった。



ヴワル魔法図書館
ごそごそ…
「う~ん、関係ありそうなのはこのあたりか…よ~し」
 大量の本に囲まれる小悪魔、彼女はなかなかの速度でそれらを読み進めていく。
「どの本でも相手を撃退するのに出てくるのは『待ち伏せ』ね。なるほどなるほど…」  うんうんとうなづきながら本を読み進める小悪魔…と、図書館の扉が開いた。

PATAM
「あっ、パチュリーさま!もういいんですか、歩いても?」
 入ってきたのはパチュリーだった。それを見て小悪魔が駆け寄る。
「ええ、大丈夫よ、問題はないわ。ところであなたは何を調べているの?」
 いつもと変わらぬ(青白い)表情で小悪魔に話しかけるパチュリー。 
「はい、どうにかあの黒いのを積極的にやっつける方法がないかと…」
「なるほどね、何かいいのはあった?」
「『待ち伏せ』っていうのがが効果的みたいです」
「うーん、『待ち伏せ』ね」
「はい!奇襲して相手がパニックに陥っている内にやっつけるんです!!」
 得意満面で言う小悪魔、そんな小悪魔にパチュリーは言った。
「ところであなたはどんな本を読んでいたの?」
「あ、こういうのです」
 三国志演技,水滸伝,史記…以下ずら~と並ぶ古代中国モノ。
「あ、あのね小悪魔、こういう本は大体事実を誇張したりして…」
 ただでさえいいとはいえない顔色を、ますます悪くしていいかけるパチュリーだったのだが…
「外の世界の本で知識を付けた我々の勝利は間違いなしですよっ!」
「そ…そうね」
 得意満面の小悪魔には何も言うことができなかったのだった。





「邪魔だぜ」
「邪魔してるんだから当たり前よ!」
DOKAM!!
BAGOM!!
「普通の人になんてことすんのよ!!」
「普通の人だから成敗してやるぜ」
BAM!
BIM!!
「あんたどういう教育受けたのよ!!」
 紅魔館門前での交戦、光弾と光弾がぶつかりあいその威力を競い合う。周囲は爆煙に包まれ轟音が響き渡った。



DOGO-M!
 紅魔館に侵入者を知らせる警鐘が鳴った。従来、紅魔館に進入しようとする人妖は、ほぼ門番である紅美鈴により撃退されていたのだが、最近はその防衛線を『いともたやすく』突破する人妖が増え(黒白のとか紅白のとか)、美鈴の懸命の防戦も単なる警鐘扱いになってしまっていた。なお、それにともない美鈴の待遇が急速に悪くなったのは言うまでもない。

ヴワル魔法図書館
「パチュリーさま!来ましたよ!!」
 爆発音を聞きつけた小悪魔が言った。
「ええ、そのようね」
「早速待ち伏せですよ!!」
「ええ…」
 張り切る小悪魔を見て、気乗りはしないが…とパチュリーは思いながら本棚の影に身を潜めた。

 その頃、紅魔館正門では勝負が既についていた。
BAKOM!!
「また咲夜さんのナイフの標的にされる~!!」
「そいつは気の毒だぜ」
 飛びながら叫ぶ美鈴に、ちっとも気の毒じゃなさそうに魔理沙が言った。
「誰のせいなのよ~!!!」
 一方、美鈴は紅魔館に声だけを残して飛び去って(飛ばされて)いったのだった。

「さてと、今日は何の本を貰おうかな~♪」
 美鈴を難なく撃破した魔理沙は全速で魔法図書館を目指す。さすがに魔理沙といえどもパチュリーと咲夜に挟撃されると苦戦は必至である、咲夜が出てくるまでにごっそり本をいただいていくのだ。



「魔理沙接近!迎撃せよ!迎撃せよ!!」
 紅魔館のメイド達に魔理沙迎撃指令が出される。

「お、いっぱい上がってきたぜ。面倒だから強行突破だぜ!!」
「咲夜さんが来るまでの時間を稼ぐのよ!全員突撃ー!!」
「おー!!」
 不埒な侵入者を撃退せんと、メイド達が突進してくる。
「ブレイジングスター!!」
BAHU!BU-M!!
「きゃっ!?」
「わわっ!!」
「きゃー!!」
 一方、魔理沙はいきなりラストワードを発動、文字通り流星のごとき高速で邀撃隊の中へと突っ込んだ。紅魔館のメイド達は並の人妖ならば瞬殺できる実力の持ち主達であったが、魔理沙のラストワードの前には箒に近づくことさえできずに撃墜されていった。

「よし、着いたぜ!!」
 ヴワル魔法図書館の扉に達した魔理沙は、急回頭すると躊躇のちの字も見せずに扉を突き破る。

BAKOM!!
 静寂であるべき図書館に轟音が響き渡った。



「来ましたよ!パチュリーさま!!」
「そのようね」
 本棚の影でひそひそ話をする二人…
「よーし、黒い悪魔め!今日こそは目にもの…え!?」

「増速だぜ!!」
BASYU!!
 二人が飛び出そうとした瞬間に増速する魔理沙。

「あ…あ~!!」
 魔理沙は二人の目の前を一瞬の間に飛び去った。あの速度で通過する物体に攻撃できるほど、二人の動体視力と反応速度は早くなかった。
「…やられたわ」
「う~」
 凹む二人、そして、パチュリーがせめて背後から一撃をと立ち上がろうとした瞬間に喜劇…じゃなくて悲劇は起こった。
BYU!
GURA…
 魔理沙の起こした風が遅れて到達し本棚を傾かせる。
「え?」
「パっパチュリーさまぁー!!」
BESYA!!
「むきゅー」
 驚く暇もなく、運動能力皆無の引きこもり少女は巨大な重量を持つ本棚に圧し潰された。


「パチュリーさま!大丈夫ですか!?今助け…重い~!?」
 あっけなく下敷きになり気絶するパチュリーを見て、辛うじて難を逃れた小悪魔が必死に本棚をどかそうとするが、全く力及ばず本棚はピクリとも動かない。
 運動のような運動などしたこともない小悪魔の細腕では、天井まで届くような本棚と、そこにずっしり詰まった本の重みを持ち上げることなど不可能だったのだ。
「わ~んパチュリーさまぁ~」
 どうしようもなくなり泣き出す小悪魔、そこへやってきたのは…

「どうしたんだ?」
 魔理沙である。
「あっ!あっ!!黒い悪魔~!!!」
「人を家庭内害虫みたく呼ぶもんじゃないぜ」
 こいつめ~!とばかりに魔理沙を指さし叫ぶ小悪魔を見て、やれやれと苦笑いをする魔理沙。
「あなたなんて黒い悪魔で十分です!いっつもいっつも本を借りたまま返さないでパチュリーさまを困らせ…ってパチュリーさまぁ~!!」
「ん?あの紫もやしが下敷きになってるのか?」
 ようやくパチュリーの事を思い出して慌てる小悪魔と、それを見て本棚を覗き込む魔理沙。
「パチュリーさまは紫もやしなんかじゃないです!この黒い悪魔!!強盗魔!!!女ったらし~(?)!!!」
「はぁ、とろい奴だぜ。よっと」
 魔理沙は小悪魔の罵詈雑言を無視すると、あっさり魔法で本棚を持ち上げた。
「パっパチュリーさまぁ~」
 気絶しているパチュリーを揺さぶる小悪魔。
「う…う~ん」
「わ~んパチュリーさまぁ」
MUGYU!
 パチュリーが目を覚ましたのを見て、小悪魔がパチュリーに飛びついた。
「え、あ、何があったの?」
「えっと…」
 自分の身に何が起こったのかわからないパチュリーに、小悪魔が状況を説明しようとしたが…
「お前が、突然倒れてきた本棚の下敷きになってたのを私が助けたんだぜ。感謝してほしいぜ」
 魔理沙が割り込む。
「って、本棚倒したのはあなたじゃないですか!」
 そして小悪魔が言い返す。が…
「っていう訳で、これは救助代に貰っていくぜ」
 無視する魔理沙、手には魔導書が三冊。
「あっあっあ~!!」
「じゃ」
BASYU!!
「きゃん!」
「んくっ!」
 魔理沙(の持っている本)を指指し叫ぶ小悪魔を無視し、強奪犯はたちまち加速すると図書館から離脱した。



十分後
「うう~またやられました~」
「そうね」
 荒らされまくった図書館で落ち込む二人。
 今まで五戦して五敗、奪い去られた貴重書は21冊にも及んでいた。
 確かに、ヴワル魔法図書館の蔵書数から見ればその数は微々たるものであったが、二人にとって、目の前で本を奪い取られるなどという事は我慢できる事ではなかったのだ。
 特に、敬愛する主人から本の管理を『任されている』と感じている小悪魔にとっては…





そしてその夜…
「私がヴワル魔法図書館の…パチュリーさまの本を取り返します!」
 闇にたたずむ紅魔館のテラスには、夜空に浮かぶ紅い月に向かって、敢然たる決意を示す小悪魔がいた。

 そう、盗られた物は盗りかえす。小悪魔は、魔理沙の襲来から本を守りきれないのならば、いっそこちらからいって取り返してやろうと考えたのだ。
 もっとも、正面から突撃してもあっけなく撃退されるのは目に見えているので、夜討ち朝駆けの精神で草木も眠る丑三つ時に出撃し夜のうちに魔理沙邸に侵入、魔理沙が寝ている内にとっとと本を取り返してこようという作戦である。

「よ~し!出撃です!!」
 小さな体に大きな決意を秘めた小悪魔の後ろ姿は、徐々に宵闇に消えていった。





「ここですね。あの黒い悪魔の住む森は…この深くて暗い森…イメージにぴったりですです」
 紅魔館を出立してから約二時間、注意深く妖怪を避けてきたことが奏功し、小悪魔は接敵することなく魔理沙の住む深くて暗い森の上空へと到達した。主同様図書館にこもりがちだった小悪魔の戦闘力では、チルノクラスの小物妖怪(?)にすらかなわない、パチュリーのように強力な魔法力を持っているわけではないのだ。そのため、他の妖怪との接触は極力避ける事にしたのである。

「よ~し、見つからない内に森の中へ…」
 上空から堂々と突っ込むのはいくらなんでも不用心にすぎると想った小悪魔は、ゆっくりと森の中に降下していった。



しかし…



ZAWAWAWA!!
「っ!?…風?はぁ」

BATABATABATA!!
「~!!と…鳥かな?」

 なにやらうねうねした木(とねりこ?)が群生している魔理沙の住む森は、上空を覆う木の枝とその葉がかすかな月明かりすら遮り、低空を這う木の枝と木の根が歩くことすら難渋させる。そしてなによりもこの雰囲気、何か住んで…いや棲んでいそうなこの森の雰囲気は、四方から小悪魔を押し潰すかのように圧迫してくる。小悪魔は時折悲鳴をあげそうになりながらも、目立ってはいけないと必死にこらえながら先を目指した。だが…

BYUM!!
「~~~!!!」
 突然目の前を黒い影が横切った。またまた悲鳴をあげそうになり、慌てて口を両手で塞ぐ小悪魔。
「う…怖いよ~パチュリーさまぁ~」
 今まで必死にこらえていたものの、とうとう恐怖で半泣きになってしまった小悪魔。しかし、だからといって引き返すのは小悪魔の使命感が許さない。結果、変なところで真面目な小悪魔は、半泣きの状態で進むも退くもならない状況になってしまった。





一時間後
「パチュリーさまぁ…」
 とうとう半泣きから本泣きに移行した小悪魔、そんな小悪魔の視界にとびこんできたのは…
「大丈夫?」
 心配そうな表情をしたパチュリーだった。後ろにはレミリアと咲夜の姿も見える。
「パ…パ…パ…パチュリーさまぁ~!!!」
GYUM!!
 思わず敬愛する主人の胸に飛び込む小悪魔。
「きゃ…まったく、心配させないでよね」
「ごめんなさい~でもなんで…」
「それはね…」



~回想~
一時間前…紅魔館、パチュリーの寝室
トントン
 静寂が包む寝室に、ノックの音が響いた。
「ん…こんな夜中に…誰かしら」
トントン
「パチュリー様、お休み中申し訳ありません。失礼してもよろしいでしょうか?」
「咲夜?どうしたの、こんな時間に…どうぞ、鍵は開いているわ」
 時計を見るとまだ朝の四時前である。咲夜がこんな時間に現れるというのはただごとではない。
「失礼いたします」
カチャ…
 パチュリーがランプに灯をともそうと起きあがると同時に、なにやら真剣な表情をした咲夜とレミリアが入ってきた。
「咲夜、それにレミィ…何があったの?」
「はい、実は…」

 咲夜が話した事を要約するとこういう事であった。深夜、何やら小悪魔がパタパタと外出していくのを夜勤のメイドが目撃したが、その後いつまでたっても帰ってくる様子がない。念のため部屋を見てみるとやはりもぬけのからだった。滅多に外に出ることがない小悪魔が、こんな夜遅くにいなくなるなどおかしいと思ったメイド。彼女は、命令系統に従い咲夜に報告、咲夜はレミリアと相談し(レミリアは吸血鬼なので当然夜型)パチュリーを起こしにやってきたというわけである。

「あの子…最近の戦闘で役に立てないとずいぶん悔しがっていたから…」
「魔理沙の所に本を取り返しにいった…のかしらね」
 パチュリーの独語に対しレミリアが言った。
「多分…いえ間違いなくそうだと思うわ」
「魔理沙の所へ着いたのなら逆に大丈夫でしょうけど…それまでの道程が危険ね」
「本当に大丈夫なのですか?レミリア様」
「ええ」
 自信ありげなレミリアの答え、そして…
「あの子を追うわ、レミィ、手伝ってくれる?」
「ええ、友人の頼みは断らないわ、急ぎましょう。パチェ、体調は?」
「気にしないわ」
「大丈夫…じゃないのね、まあいいわ。咲夜、支度をしなさい」
「はい、すぐに」


~回想終了~



「~だったの」
 ここに至る経緯を話したパチュリー、小悪魔はしょぼぼ~んとして聞いていた。
「申し訳ありませんパチュリーさま…」
「私だけ?」
 優しげな声で言われた小悪魔は、はっとして付け加えた。
「申し訳ありませんレミリアさまに咲夜さま」
「まあいいわ。無事だったみたいだし」
「ええ、今度から気をつけてくださいね」
「はい…」
「さあ、帰りましょうか」
「ええ」
 
 外出を考えていないパチュリーは、せいぜい『浮遊』といった程度の魔法しか使えないので、レミリアにおんぶしてもらい(来るときもそうしてもらっていた)四人は空へと上がった。



そして紅魔館、ヴワル魔法図書館
 パチュリーは明かりを灯し、小悪魔を座らせると少し怒った顔をして自分も椅子に腰掛けた。一方小悪魔の方は素直に叱られる覚悟である。
「小悪魔、わかっているわね」
「はい…」
「あなたの気持ちはわかるけど、無茶なことして…私ばかりかレミリアや咲夜にまで迷惑をかけて…、二度と一人でこんなことはしないでね」
「はい…」
「それと…あまり私に心配をかけないでね。本の代わりはあるけどあなたの代わりはいないのよ」
 最後に優しげな表情をするパチュリー、小悪魔の沈んだ表情がだんだんくずれていき…「パっバヂュリーざま~!!!」
GYUM!!



 パチュリーは、飛びついてきた小悪魔の頭をなでながら言った。
「本当に…心配したんだからね」
「はい…」





閑話休題、翌日の紅魔館
 中庭で休むレミリアと咲夜、そのテーブルには大量のクッキーが置いてあった。昨日のお詫びとお礼にと、小悪魔が作って届けてきたのである。
「おいしいわね咲夜」
「ええ、今度レシピを教えてもらいますわ」
「それはいいわね。でも作り方を教わっても咲夜にこんなに美味しく作れるの?」
「ええ、私は料理だってお手の物ですわ」
 からかうように言ったレミリアに対し、少しむきになった咲夜が言った。
「くすっ、楽しみにしているわね」

「あ~!!」

 と、そんな優雅な夜のティータイムをぶちこわす声が響いた。やってきたのは赤い門番紅美鈴である。
「こんばんわレミリア様に咲夜さん。あっそのクッキー美味しそうですね。一個くださいよ~」
「美鈴…あなた門番はどうしたの?」
「え、あ…ちょっと休憩で…」
「幻在…」
 いきなり現れ、図々しくも哀願する(?)美鈴を見て、ナイフを取り出す咲夜。 
「わっわかりました~今すぐ配置についてまいります!!ですからナイフだけは…ナイフだけはご勘弁を~!!」
「よろしい」
「たまには休ませてくれたって…」
「メイド秘技…」
「わ、わかりました~!!わかりましたからそのナイフはしまってくださ~い」
「くすくす、いいわ。美鈴、あなたも座りなさい」
「本当ですか!?言ってみるものですね、ありがとうございます」
「レミリア様、こんな甘やかす必要は…」
 喜ぶ美鈴と渋面を作る咲夜。そんな二人を見ながらレミリアは言った。
「まぁ今日くらいは大目にみてあげましょう。パチェ達がますます仲良くなったみたいだし、私は機嫌がいいの」
「わ~レミリア様ありがとうございます!この紅美鈴、雨の日も風の日も雪の日も、艱難辛苦に耐え忍び、門番をつとめていたかいがありました」
 く~と、わざとらしく目をこする美鈴。
「ええ、お菓子は小悪魔特製のチョコレートクッキー、紅茶は今日手に入ったばかりのアールグレイフラワーズ、両方とも最上の味と香りよ。楽しみなさい…匂いだけ」
「え!?」
「だって最近あなたたるみっぱなしじゃない、あんな連中を易々と通して…というわけで匂いだけ」
「そんなぁ~」
「ではレミリア様、お茶会の続きを…」
「ええ」
「あうあう…」
 半泣きになる美鈴、そんなに食べたかったのだろうか?食べたかったのです…(反語)
「…」
「…」
「これくらいにしておきましょうか」
「そうですね」
「ほへ…?」
「レミリア様に感謝なさい、今回は特別よ。次に不法侵入を許したらクッキーはおろか朝昼晩ごはん抜きですからね」
「咲夜さん、それ三食抜きっていいません?」
「…クッキーいらないのかしら?」
「あ、いりますいります!この紅美鈴、心を入れ替え粉骨砕身、紅魔館の鉄壁の盾になる所存であります~!!」
「よろしい」

 二人の掛け合いを微笑みながら見るレミリア、ほんわかした時間はゆっくりと流れていった。





数日後、紅魔館
DOGO-M!!
「大広間で敵突破!」
「黒白を止める手だてなし!支援求む!!」

 館内を混乱がつつんでいた、魔理沙が再度現れたのである。ちなみに、門番は接敵後0.01秒で撃破された。出会い頭にマスタースパークをくらったとも言う…明日からの彼女の食生活が思いやられる。
「行くぜ!」
BASYU!
「きゃっ!?」
「あわっ!!」
 加速する魔理沙に、メイド達はあっという間に吹き飛ばされた。

BAGOM!!
「邪魔するぜ!」
 いつものように扉を吹き飛ばし図書館に突っ込んでくる魔理沙…だが、図書館内はいつもと同じではなかった…
BI-M!
「ふぎゃっ!?」
BOTE…
 魔理沙の腹部に、突然めり込むような衝撃が加わった。次の瞬間箒は彼方へと飛んでいき、一方魔理沙は床へと落下する。図書館にいつの間にか張り巡らされていたロープにひっかかり墜落したのだ、ピアノ線じゃないのがせめてもの良心か?
「あいたた…なんだってんだ…え?」
SYURUSYURU…ZUM!
 腰をさすりながら立ち上がろうとした魔理沙の頭上から金属製の籠が落下し、魔理沙は…捕獲された。
「え、ちょ…こら~出せ~!!」
 籠をつかみ、がたがたと揺らす魔理沙の前に現れたのは…そう、小悪魔であった。
「黒い悪魔さん!あなたの飛行経路は過去のデータから推測済みです!!私は知識の少女パチュリーさまにつかえる小悪魔、力ではあなたにかなわなくても、知識と知恵ではあなたに負けません!その籠はパチュリーさま特製の対魔法術を施しています、魔法は使えませんよ!さぁ、延滞している本を返してください!!」
「な…小悪魔の罠とは油断したなぁ。だけど…弾幕はパワーだぜ!!」
 誇り高く立ちはだかる小悪魔に、魔理沙は一瞬たじろいだがすぐに自分のペースを取り戻した。
「だから魔法は使えな…えええ~!!」
「て~い!」
ぐぐぐ…
 魔理沙は渾身の力を込め、籠の金棒を押し曲げる。
GYUGYUM!
 案外柔らかい材質だったのか、金棒は押し曲げられ魔理沙が通れるくらいの隙間が完成した。その間僅か10秒ほどである。
 そして、魔理沙は開いた隙間に身を入れるとたちまち外に脱出してしまった。


「はぁ、ほら…弾幕は…パワー…だぜ!」
 さすがに息切れしながら言う魔理沙、対魔法術にばかり気を取られていた小悪魔は、籠の強度という問題に気付かなかったのである。まぁあんな突破方法など考慮するほうがおかしいとも言えるのだが…
「だ…弾幕じゃないじゃないですか~!!」
 思わず見当違いの抗議をする小悪魔だったが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
「さぁ~てと、この私を籠の中の小鳥にしてくれたお礼はさせてもらうぜ」
「あ、あなたなんかゴキブリホイホイかネズミ取りがお似合いです!」
 いやな笑いを浮かべ、ずいと近づいてくる魔理沙に対し、一歩下がりつつもあくまで強気な小悪魔。彼女に対し魔理沙は頭をかきながら言った。
「…まったく、花も恥じらう乙女に対して言ってくれるぜ、スターダストレヴァリエ!!」

BAGO-M!
「きゃ~!!」
GESI!!

 まぁなんだかんだ言いつつ、一応手加減してスペルカードを放った魔理沙。しかし、それでも小悪魔には十分すぎる威力だった。
「あうう…」
 本棚に激突し、ずるずると床に崩れ落ちる小悪魔


「やれやれ、意外と危なかったぜ。次からは罠にも気をつけないとな。さてと今日の目標は…」
 箒を引き寄せ飛び立とうとした魔理沙だったが、しかし…
GYUM!
「おわっ!何だぁ?」
 突然スカートの端に引力を感じた魔理沙。
「う~パチュリーさまは今日喘息の発作が酷いから…私が本を守るの~」
「お…おいおい」
 その発生源は、うるうるしながらスカートの端をつかむ小悪魔であった。一方、黒い悪魔の方はばつが悪そうに固まる。
「パチュリーさまの本はわたさないんだからぁ~!!」
 被弾の衝撃のせいか、微妙に幼児化しているような感じの小悪魔。
「わ…わかった。今日は大人しく帰る!だからそんな目で見るなって」
「本当?」
「本当だ本当、私だって鬼じゃないんだぜ。それに大体パチュリーと弾幕ごっこしてからの方が達成感あるしな」
「(じー)」
「だ…だからこのまま帰るって、じゃあな」
 小悪魔のうるうる視線に耐えられなくなったのか、そそくさと脱出する魔理沙。強気な相手ばかり相手にしてきたせいか、どうやら『こういった攻撃(?)』には弱いようだった。


 こうして、この日初めて、ヴワル魔法図書館における魔理沙邀撃戦において、見事守備側(小悪魔)が勝利をおさめたのだった…と言ってもいいのかなぁ?





翌日、ヴワル魔法図書館
「パチュリーさまぁ~。紅茶淹れましたよ」
「ん、ありがとう」
「それでですね、昨日は…」
 にこにこと昨日の武勇伝を話す小悪魔、今までの経験に基づき設置した、黒い悪魔に対する籠トラップが成功し、しかしそれでも籠から出てきた黒い悪魔。それに対し、数時間に及ぶ交戦の末被弾にもめげず撃退したのだと、真実にたっぷりと誇張をまぶした話の内容をさらに大げさな身ぶり手ぶりで説明する。ころころと変わる表情が楽しそうだ。
「がんばったわね」
「はい!」
「(本当は魔法水晶で全部見ていたのだけど…、こんな表情されると言い出しづらいわね)」
「えっと今度はですね…」
「だけど」
「ほへ、何ですかパチュリーさま?」
「あんまり無茶はしないでね。それと蔵書を守ってくれてありがとう」
 そう言いながら小悪魔の頭を撫でるパチュリー、そんなパチュリーに小悪魔は…
「ありがとうございます…これが今回一番のご褒美です~」
 にっこり笑って答えたのだった。



 小悪魔が去った後、パチュリーはぽつりと言った。
「…私も頑張らないといけないわね。小悪魔にばかり苦労をかけるわけにはいかないし…、それに罠というのはなかなかいい考えね。あの黒いのを積極的に撃退する罠は…」
 
 珍しくやる気になったパチュリーのおかげで、その後紅魔館にはえらい騒ぎが起きて咲夜や美鈴達がとんでもない目に遭ったらしいのだが…それはまぁ別の物語である。



『続く…?』
 まず最初に、ここまで読んでくださった方々本当にありがとうございました。二度目の投稿になりますアッザム・de・ロイヤルです。
 少しでも楽しめて頂けたなら、そして、読み終えた後にほんの少しでもほんわかしていただけたのなら幸いです。
 あと、できましたらご意見ご感想等お願いします。最初の投稿の時に頂きましたご意見ご感想、とても参考になりかつ嬉しかったので、もし今回も頂けましたなら、多分私は手近なものを持って踊り出しております。そして、もちろん次回作への貴重な参考と、動力源(?)とさせていただきますので。それでは 
 
アッザム・de・ロイヤル
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コメント



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11.70月影蓮哉削除
アメリカの漫画みたいな効果音は斬新で良いと思いました。
小悪魔可愛いよ小悪魔。
14.80名前が無い程度の能力削除
>私が本を守るの~
これに撃墜されました。
16.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
 ご感想、ありがとうございます!励みになります、ホント
>月影蓮哉様
 効果音、戦記マンガでよく見かけて気に入っていたので使っています。批判されるかなぁとか不安だったので、斬新と受け取って頂けて幸いです。小悪魔可愛いよ小悪魔…全力をもって同意します♪

>名前が無い程度の能力様
 自分で書いて自分で想像して撃墜された奴が約一名…
22.80SETH削除
この小悪魔が世界を変える
23.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
 ご感想ありがとうございます!
>SETH様
 はい、世界征服も可能でしょう。小悪魔万歳!
25.60名無し毛玉削除
とりあえず擬音表記を使わないように試みてください。
それだけでも読みやすさが変わりますので…話の内容は良かったと思います。
26.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
 ご意見ありがとうございます!
>名無し毛玉様
 参考になります、読みにくかったですか…申し訳ありません。実は、ちょうど新しいことをやってみようと、現在作成中の話で一人称&擬音なしを試みている所です、あの擬音は気に入っているので継続できるかはわからないのですが…(ごめんなさいごめんなさい)。小悪魔主役でまだ進捗率7割くらいですが、完成の暁にはこちらに投下予定なので、お暇なときにでもみてやってください。…完成するか、しても投下できるようなものになっているか自信はないのですが(え?)。そして「話の内容は良かった」とても嬉しかったです。ありがとうございました、精進いたしますのでどうかこれからもよろしくお願いします。