Coolier - 新生・東方創想話

飾るだけが人形じゃない!

2006/02/09 09:20:19
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   飾るだけが人形じゃない! 着飾るだけが乙女じゃない!



  1、人形は人形でも


玄関からノックが二度聞こえる。
当たり前のような作法を当たり前にやってくれる客はそういない。

「ご免」
「あら、半霊じゃない」

誰かと思って出てみれば、二刀を携えた銀髪の庭師。

「幽々子さまのお使いで……譲ってもらいたい人形があって」
「あら、あの幽霊、人形に趣味あったのかしら?」


ついに人形まで食べると言い出したのだろうか?
……まさかねぇ。

「はぁ……それが」
「まぁいいわ。どんな人形をご所望かしら?」

大抵の人形なら揃っているし、新たに作ることもできる。

「焼き人形? 人形焼き? それを欲しがっていたのですが……焼いた人形ってあります?」

あぁ、なるほど納得。
人形焼かぁ。
そうか、そうよね。
あいつが人形なんて欲しがるわけ無いわよね。

って、うちは屋台じゃないの!

……
でも折角リクエストを受けた(?)ので、本当に人形を焼いてみました。

まぁ、なんて素敵なお人形さん

……と呼ぶには程遠く、グロテスクに仕上がった人形。
どろどろに溶けた目や、焼け爛れたように見える表面が、ゾンビを思い起こさせる。

庭師は泣いて逃げ出した。
上海にも逃げられそうになった。
蓬莱は首を吊ってぐったりしていた。

コンパロァァァ

そんな怒りの声が聞こえた気がした。










  2、お茶に化ける人形


「神社の裏にある大量の藁人形のことなんだけどね」

その件ではお世話になってます。

「あら、邪魔だったかしら? それなら今すぐ取り除くけど」

どうせ、また打ち付けに行くが。

「あんたが使わないなら、うちで引き取っていいかしら?」
「別に構わないけど――」

既に丑の刻参りの儀式を済ませている人形に、もはや呪術的効果はない。

「――人形供養でもしてくれるのかしら?」
「そんな面倒なことはしないわよ」
「それなら何に使うつもり?」

再利用も不可能だと思う。

「ん、霖之助さんの所へ持って行こうと思ってね」
「?」
「あれってなかなかの出来栄えでしょ? お茶の葉と交換してもらうのよ」

人形の出来を褒めてくれるのは嬉しいけど……
使用済み藁人形を物々交換に使うのも構わないけど……
何か間違っている気がしてやまない。

「前に古新聞を持って行ったら苦情を言われたのよ」
「はぁ……当たり前じゃない」

何でも押し付けられる店主に同情の念を感じる。

「霖之助さんはいつも新聞取ってるみたいだし、やっぱり新聞じゃ駄目ってことよね」

だからと言って中古の藁人形を持って行くのもどうかと思う。

「藁人形の藁って、何に使うにしても短すぎてさ」

藁人形をリサイクルしようとする心構えは素晴らしくて涙が出る。
と言うか、使えないのが判っているなら持って行くな。

「お茶の葉で藁人形とかできない?」

それは藁人形って言わない。
釘を打ち付ける度にお茶の香りが漂うんだろうが……

……想像した自分が情けなくなった。










  3、凶兆の人形


「すまない。例の物はできているか?」

あぁ、あれを取りに来たのか。

「はい、これ」
「おぉ、これか……」

1/10サイズ、凶兆の黒猫 橙人形。
と言ってもただの人形ではない。

「本当に、‘あれ’はできるんだろうな?」
「右の尻尾を引っ張ればできるわ」

尻尾がくい、と引っ張られ、おぉ、と歓声が上がる。

「素晴らしい出来だ……。これこそまさに完璧なモーション」
「お褒めの言葉ありがとう」

何十回も目の前で実演されれば、嫌でも覚える。
その現場を鴉に目撃されていたら、とんでもない記事ができあがっていただろう。

「まさか本人にはやらせてないでしょうね?」
「まさか。私も現実と妄想の境界くらいは弁えているつもりさ」
「……」

かわいそうな黒猫。
あなたのテンコーは、禁断の人形を手にしてしまいましたとさ。

「ねんがんの (瞬間脱衣機能付き) ちぇんにんぎょうを てにいれたぞ!」

判ったから叫ぶのはやめろ。

凶兆を呼ぶのは猫ではなく、眼前にいる狐のような気がした。










  4、猫型の人形
  

「ごめんください」
「あら……」

次の言葉を出す前に差し出された一冊の魔導書。
それが貴重な一冊であることは一目瞭然だった。

「……何が望みかしら?」

その貴重さが逆に、受け取る手を渋らせる。
それだけ厄介な仕事なのだろう。

「我が主、パチュリー様が、是非あなたに作ってもらいたい人形があると」

ふむ、それなら断る理由は無い、か。
人形に携わる者として頼られた以上、その期待に応えて作り上げてやろうじゃないの。

「それで、どんな人形を作ればいいのかしら?」

差し出された魔導書は受け取った。
次はこちらが役目を果たす番だ。

「直接会って話されたいそうです。できれば……」
「構わないわ。今すぐ向かう、これでいいのでしょう?」







……


「猫の人形」
「は?」

いざ図書館に着いて何事かと尋ねれば、返ってきた答えは至って簡潔なものだった。

「端的に言えば、対魔理沙用の猫人形を作って欲しいのよね」
「なんで対魔理沙が猫人形なのかしら?」

猫人形ごときで勝てるのだったら、私も苦労はしない。

「ジャイアニズム、あなたは知っているかしら?」
「まぁ一応……魔理沙にぴったりの言葉ね」
「外の人間は、そんな自己中心的な人間に対抗し得る一体の人形を作り出していたのよ」
「それが猫型の人形だったというわけです。紅茶、お持ちしました」

魔女の言葉に司書が続く。

「それは時を操って現れた人形。不思議な空間から物を取り出すことのできる青い人形」
「それって……」
「そう、それはまさしく――」

ず、と紅茶を一飲みして魔女が加える。

「メイド長、十六夜 咲夜!」

なんでやねん

「時を操り、空間を操り、青色の衣を纏う、咲夜はこの人形に酷似している。空を飛ぶための道具もあるらしいけど……もともと飛べるから必要なし、と」

いや、言われれば似ている気がしなくもないけど……
やっぱり似てないような……

「問題は彼女の猫度が低いこと」

そんな程度の問題でいいのか?

「だから、彼女を模した猫型人形を作って欲しいのよ。それこそが対魔理沙用の兵器となる!」

なんか話が飛躍した気がする……

「この魔導書によれば、その人形は体の一部分が欠如していたらしいわ。それがどこなのかは判らないんだけど」

どんな魔導書よ、それ。

「そうですねぇ、尻尾が無かったんでしょうか?」
「何言ってるの、胸が無かったに決まってるじゃない」
「猫耳って可能性もありますよ」
「胸に決まっているわ」

何故そこまで胸にこだわるのか判らないけど……
OK、胸無し人形を作ってやろうじゃないの。


~少女作成中~

「合言葉? そんなのは聞いてないわよ」
「いえ、パチュリー様。その人形が真価を発揮するとき、人形の持ち主は合言葉を叫ぶそうです」
「それは……?」
「それは……」

なんかどうでもいい会話が聞こえてきたが、気にしない。

~作成終了~


かくして猫耳つるぺた咲夜人形(尻尾つき)は完成した。
動力は七曜の魔女特製、賢者の石だ。
ちなみにどう見ても、あの丸顔の猫型とは似ても似つかない。

まぁ、とりあえずその時はやって来る。

「よう、パチュリー」
「何よ、また来たの?」
「今日もさっくり貰って行くぜ」
「そうはいかない。今日はとっておき、見せてあげるわ!」

いつもと違う迫力の魔女に、魔理沙の方は少したじろいだようだ。
私はというと、興味があったので、司書と二人で本棚の影から覗かせてもらっている。

すぅ、そう息を吸い込んだ魔女が見える。
来る、合言葉が……!

「何とかしてよ~~、イザヨえもーーーん!」

ぶーーっ。
お茶を飲んでいたら間違いなく噴き出していただろう。

何だよ、イザヨえもんって。
そのネーミングセンスには脱帽するしかない。

呆気に取られる魔理沙をよそに、床に描かれた魔法陣から咲夜人形が召還される。
勿論、耳と尻尾はしっかり付けられている。
皆まで言うな、しっかりつるぺたは遵守されている。

ぽかーん、そんな言葉が似合うように魔理沙は口が開いたままだ。
もしかして、もしかして案外これはいけるのかもしれない。

「いくわ、サイレントセレナ!」

パチュリーの掛け声と共に、人形からスペルが発動される。
勘違いしてはいけないが、これはパチュリーの詠唱である。
人形自体はスペルカードを持たされて媒介となっているだけで、呪文を唱えているわけではない。
……何のための賢者の石だか。

それは月の雫のように。
絶え間なく降り注ぐ淡い光の洪水。
余すところ無く幻想郷を、世界を照らす月の輝き。

ほんの少しとは言え、我を忘れていた魔理沙は洪水の中に身を沈めることとなる。

「やった……?」
「パチュリー様凄い……じゃなくてイザヨえもん凄い……」

暫し続いた光のシャワー。
スペルが終息し始めると共に、光も徐々に薄くなっていく。

「……なぁ」

それは、消え始めた光の中から聞こえた言葉。

「知ってるか? その猫型はな」

その言葉の続きを聞こうとし、次の手を出さなかったのが仇となった。

「シュート・ザ・ムーン!」

薄くなっていた月の光は、あっという間に月を撃つ光によって掻き消された。
イザヨえもんの足元からも光撃が発生し、それは人形を大きく弾き飛ばす。

「その猫型はな、ネズミが大の苦手なんだぜ!」

箒から無数の星が吐き出される。
黒いネズミが加速をする。
勿論その先に捕らえたのはイザヨえもん。

「あばよ、永遠の一回休みだ!」

ぶつかる……
それはパチュリーと司書が思ったこと。
打ち砕く!
それは魔理沙が思ったこと。



だけど、だけどまだ終わりじゃない。
まだあの人形は終わりじゃない。

今こそ真価を発揮する時!

「今よ、テンコーイリュージョン!」

先日、狐の要請で培われたテンコー技術。
人形に組み込んだその技術は無駄ではなかった。

くるくる宙を舞い、ぶつかるのを待っていた人形。
しかしそれは、服だけを残し、一瞬にして視界から消え失せる。

「なにぃ!?」

素っ頓狂な声を上げ、残された服を引っ掛けて大きく空振る魔理沙。

これは契約違反。
手を出すなと言われた戦いに手を出した、私の契約違反。

だけど、だけどあの人形は落とさせはしない!


すっぱの人形が、火を噴いた。








……


「2人掛かりはどうかと思うぜ。まぁ、パチュリーのはじけた一面が見れただけでも十分な収穫だったけどな」

『何とかしてよ~~、イザヨえもーーーん!』

「あ、あれはだって……そうしないと力が出ないって……」
「どう見てもそんな効果はなかったけどな」

その通り。

「でも良くできてるよなぁ、この人形」
「ちょっと魔理沙、そんなにじっと見るもんじゃないわ」

レーザーを放ったイザヨえもんは、魔理沙を撃墜すると共に、引っ掛かっていた自身の服をも焼き払った。
すなわち今現在もすっぱである。
ぺたりである。

「ほんと、良くできているわね」

その言葉は一瞬で場を凍りつかせた。
修羅の権化と呼ぶに相応しいオーラを漂わせながら、瀟洒な表情のメイド長がいつの間にか現れていたのだ。

「へぇ……これはパチュリー様が?」
「ななな、何を言ってるのよ咲夜。わ、私にはこんな人形作ることなんて……」
「じゃあ、やっぱりあなたね。人形遣い」
「じょ、冗談じゃないわ。確かに作ったのは私だけど……私はただ依頼を受けただけで!」
「作ったことは認めるわけね。ならば問答無用!」

言い訳は必要ないとばかりに展開される無数のナイフ。
殺られる、誰もがそう思ってしまうほどの弾幕密度。

だが、奇跡は起こった。

それは、言葉にするならば、まさに「止まって見えた」。

判る、ナイフの飛んでくる軌道が。
見える、通るべき隙間が。
かわせる、あの動きを修得した今ならば。
やるしかない、避けるしかない。
秘技……

「テンコーイリュージョーーン!」







    

















  ~~~~~~~~~~



「咲夜、あなた面白いことしてるのね」
「お嬢様、言葉の意味が判りかねるのですが」
「ほら、今日の新聞」


   ――文々。新聞――

…………

「素っ破(すっぱ)とは、隠密を行動の基礎とし、間諜や暗殺を手がけていた者のことだ。一般的には忍び、と言った方が判り易いかもしれない。その者達が最後の手段として取った回避方法がある。それは自分の衣類を身代わりとし、敵の目をそちらに釘付けにする空蝉(移せ身)の術。それを成す為に彼らは日々、瞬時に衣装を解く鍛錬を欠かせなかったという。勿論、私とて日々の鍛錬は欠いていないよ」

そう素っ破への熱い想いを語ってくれたのは、式神、八雲藍。
衣服を犠牲に、絶対の回避を誇るその技術は流石の一言に尽きる。

以前紹介したように、アリス氏は藁人形の作成など、古くからの伝統を保守している妖怪である。
彼女が取った今回の行動も、伝統を絶やさぬようにという思いが込められているのだろう。
実際、記者の目にも彼女が一瞬にして消えたように見え、その瞬間をレンズに収めることはできなかった。

代わりと言っては何だが、記者が手に入れた、素っ破人形イザヨえもん(製作者:アリス・マーガトロイド モデル:十六夜 咲夜)の、開始動作から 脱 衣 までの写真を載せたので参考にして欲しい。

…………
 
   ――――――――――


「私もやってみようかしら、素っ破」

いろいろな意味でショックを受けたそうだ。



  発行部数はとにかく鰻登り
のーす
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コメント



0.4630簡易評価
1.50名前が無い程度の能力削除
すごいよイザヨえもん!
2.80名前ガの兎削除
イザヨえもん!語呂悪っ!
とりあえず、素敵でカオスな御話。
全編に漂うどうしようもなさがなんとも。
3.80A削除
たすけて~!イザヨえも~ん!
あと、新聞一部下さいな。
5.70MIM.E削除
バカな話は大好きです。アリスの日常感もいいですねぃ
18.80ぐい井戸・御簾田削除
みんな、こんがり焼けたメディのことも思い出してあげてくださいね。
19.80名前が無い程度の能力削除
あっはっはっ、ばかだなぁ。最高
25.80名前が無い程度の能力削除
むっねはつるつーる♪ ちっちがぺたぺーた♪
そーれがどうしーた♪ ぼくイザヨえもんー♪

あと、アリスッパ最高。
32.100月影蓮哉削除
ダメだ、やっぱり俺はこんなギャグ書けねぇ(少女敗北宣言
素っ破に受けました。流石だぜ、姐さん。
40.70aki削除
こういうアホな話大好き。
こうやって幻想郷に毒は広がっていくわけですねぇ。
43.80回転式ケルビム削除
これはつまりあれだ、テンコーが社会的立場を得るのも近いということか
48.90名前が無い程度の能力削除
GOOD!!!
49.70rock削除
>コンパロァァァ
超吹いた。
55.60弥生月文削除
すっぱ 【素っ破/透っ波】
(1)戦国時代、武家に仕えた間者。スパイ。忍びの者。乱波(らつぱ)。
(goo辞書より転載)

マ ジ だ っ た の か
57.90無限に近づく程度の能力削除
>すっぱの人形が、火を噴いた。
マジ笑って死んだ
58.70den削除
このままでが幻想郷がお子様不可の桃源郷に……もっとやってー
60.80はむすた削除
足りないものはなんですか、育てにくいものですか。
がんばれ、イザヨえもん!
61.90名前もない削除
>むっねはつるつーる♪ ちっちがぺたぺーた♪
>そーれがどうしーた♪ ぼくイザヨえもんー♪

本編で吹いてコメントで二度吹き。ああ、モニターがサイダー塗れに……(笑)
65.70七死削除
これはワロスw
66.100ハッピー削除
>すっぱの人形が、火を噴いた。
どこから何を噴いたのか。想像し(インディスクリミネイト
70.100削除
咳き込んだw
74.90名前が無い程度の能力削除
 最後はアリスもアレやったんですか?
103.100名前が無い程度の能力削除
最初から最後まで盛大に吹きつつ楽しませていただきましたw
107.60自転車で流鏑馬削除
アリスすげぇ!
110.100名前が無い程度の能力削除
イザヨえもん一つください
114.80名前が無い程度の能力削除
すげぇ!…うん、なんつーか……すげぇ!
127.100名前が無い程度の能力削除
イザヨえもん!