Coolier - 新生・東方創想話

星の流星

2006/01/30 23:58:55
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*この話は、作品集21・22の「雲の行方」の設定を継いでいますので、
 良ければ読んでいただければオチ等も幾分かは解りやすくなると思います。
 拙い文章ですがよろしくお願い致します。



「貰ったわっ!!」
「っ!?この、魔理沙ァァァァァァァアッ!!」

 太陽の光を遮る霧の向こうから、霊夢の悲痛な叫び声が聞える。

 私が敵の弾を掻い潜り、魔法を放とうとした一瞬の隙を突いて、二人目の敵が私を背後から襲ったのだ。
 既に攻撃態勢に入っていた私は、その奇襲に反応するのが遅れてしまい、顔を向けるのが精一杯だった。
 この私が、万全の体調では無いとはいえ、まさかこんな負け方をするなんてな。
 あぁ、霊夢の出涸らし茶をもっと味わっていればよかったぜ。

 私が半ば諦めてその光の奔流を見つめていた其の時だ。目の前の空間に丸い穴が出来たと思うと、そこから霊夢が現れたのだ。
 『幻想空想穴』―――霊夢が新たに会得した業で、短距離ではあるが紫のように空間を跳躍する事が出来るという。

 私は驚いた。霊夢も私同様、万全とは言えない体調だ。どちらかといえば私より深刻な。
 それより………何よりあの何者にも、何物にも囚われない、博麗の巫女である、あの霊夢が私を――私を――――。

「れ、霊夢ぅぅぅぅぅっ!!」
 私が光の中で見たのは、迫り来る奔流に向かいお払い棒を水平に構え、私に微笑む霊夢の姿だった。


           一瞬を 誰よりも輝いて 何よりも輝いて 流星の様に


 私があいつと、霊夢と知り合った、いや違うな。この表現は正しくない。
 私と霊夢が最初に弾幕(や)り合ったのは、そんな昔の事では無い気がする。

 魅魔様の邪魔をしに来た巫女が居ると聞いた私が、「よし!その巫女を倒して、魅魔様の役に立ってやるぞ!」なんて粋がって向かって行ったら返り討ちにあって。結局、その巫女は魅魔様の計画まで止めてしまった。

 どうやら魅魔様に話を聞くと旧知の仲らしい。
 それからどういう訳か私は、魅魔様に本当にただの巫女なのか疑わしい彼女―――霊夢の事ばかり聞くようになった。
 それは霊夢個人の事だけではなく、『博麗』の事から『幻想郷』の事にまで及んだ。

 話を聞けば聞くほど、私は霊夢の事が気にいらなかった。あれ程強いというのに、彼女は修行とかは嫌いでまったくやらないのだそうだ。
 しかも、それを補って余りある才能を持っているから修行しなくても強い。
 それが当時の、自分の才能の無さを惨めに思っていた私には気に入らなかったのだろうな………。
 今思うと、私も若かったと思う。

 それからは、毎日のように霊夢に勝負を挑んだ。挑まない日は新しい魔法の開発と練習に費やした。あんな、努力もせずに怠けてばかりいるやつに、毎日努力している私が負ける筈がないと、そんなのはオカシイと、私は朝も夜も構わず霊夢に勝負を挑んでは負け続けた。
「どうして!どうして!?私は霊夢に勝てないのだろう!そんなにも私とあいつとの間には努力では埋められない才能の差があるというのだろうか。そんなのは認めない!認めたくない!」
 私は負けて帰って来ては、寝室のベッドに傷ついた体を横たえ、泣き疲れるまで枕を濡らしながら歯を食いしばっていた。

 あれは、私が霊夢に挑み続けてどれほど経ったころだっただろうか………幾日か雨の日が続き、やっと晴れた日に、私はまだ開発途中だった呪文を持って、霊夢に勝負を挑んだ。
 あの頃の私は、開発途中の魔法を使おうとするほど追い詰められていたんだな。

「霊夢!今日こそは私が勝つからね!」
 その時、境内の掃除をしていた霊夢は軽く呆れたような溜息をつくと、縁側に戻り箒を立て掛け、お払い棒を持って魔理沙の所に戻って来た。

「あんたも毎日毎日、よく飽きないわね?他にする事ないのかしら、お茶を飲むとか」
「うるさいわよ!私があんたに負ける何て有り得ないんだから!今日は勝たせてもらうわ!」
 その余裕が私にはムカつくのよ。アンタなんかに!アンタなんかに!
 霊夢はまた溜息をつくと、お払い棒を水平に構え、
「はぁ……わかった、わかったわよ。わかったから………遊んであげる、魔法使いさん」
 その言葉と共に、余裕を表すかのように微笑んだ。

「っ!その余裕、消してあげるわっ!!」
 そして―――忘れ得ない『勝負』が始まった。

 私達は神社から離れた荒地で戦闘を開始した。
 戦いはいつもと変わらない様相だった。霊夢の攻撃は破壊力は無いけれど、避けるのが難しい。変わって私の攻撃は直線的でスピードと破壊力重視。一発当てれば私のほうが勝つというのに、霊夢の攻撃は面白いように当たって、私の攻撃は掠りもしない。私が毎日何度もシュミレーションしてきた戦略はまるで事前に知っていたかのように破られ、的確な誘導によってカウンターを喰らう。
 まるで事前に言われたかのように遊ばれているような錯覚を覚えるけれど、私にはダメージが蓄積していき、暫くすれば動きが遅くなる。次は足が、次には腕、最後には頭が動かなくなる。後はノロノロ動く的だ。私がなんとか気力を振り絞って返した反撃も、霊夢は難なく避けて攻撃を加えてくる。
 半刻もたった頃には、私は地面に頬を押し付けていた。

 もう、体は動かないし、私が練ってきた戦術も全て破かれて、打つ手が無い………。やっぱり、私は霊夢に勝てないのだろうか。
 身動ぎすると懐に入れていたものが地面と擦れて乾いた音をたてた。
 そうだった……打つ手が無い?……まだだ、まだ私には『とっておき』がある。
 まだ全てを―――私の全てを見せたわけじゃない!まだ―――完全に負けたわけじゃない!

「ヘぇ、まだやるんだ。勝ち目が無いのに?」
 霊夢は無傷。服にも汚れが一つも無く。呆れた顔をして宙に浮いていた。
 私は悲鳴を上げる体を無理やり動かして立ち上がり、地面から霊夢に向かい合う。
「あ……ったり、まえでしょ…あんたを倒すのは私なんだから」
 懐に有る物の無事を確認する。うん、大丈夫だ。壊れてない。
 息は上がり、体は限界で歩くだけでも激痛が走る。
 でも、歩く必要なんてない。私はただ、この魔法を放つのみ。霊夢に、『今の私』の全てを放つ!

「………いくぜ」
 声と共に前方に出現するのは、数百の魔法の渦。
 その向こうに居る霊夢の姿さえ歪んで見える程の膨大な力による、それは壁。
 雨より隙間無く放たれる力は、回避することなど不可能!!

「くっ!?」
 霊夢は迫り来る魔法弾の軌跡から逃れようとする。だがしかし範囲が広すぎる。
「なら、防げばいいのよ!」
 そう判断すると、霊夢は袖口からお札を取り出し、自分の周りに結界を展開する。
 展開が完了すると同時に魔法の嵐が襲い掛かった。
 ガガガガガガガガガガガッ!!!
 嵐のような衝撃が結界を歪ませ、悲鳴を上げさせていく。でも、耐えられないほどの攻撃では無い。
 これを防ぎきれば私の勝ち。
 
「霊夢――――――――――ッ!!」
 薄くなった弾幕の向こうから、魔理沙の叫び声が上がり、顔を向けた私は信じられないモノを見て驚愕した。
「なっ―――――――――っ!?」
 魔理沙の前に今まで体験した事のないほどに強い魔力が展開、凝縮されていた。
「なによ、あれ……あんなの喰らったら消し炭になっちゃうじゃない………っ!」
 
 私は即座に回避行動を取ろうとしたが、その判断を却下する。
 今のタイミング、私の移動速度ではあの魔力の渦からは逃れられない。なら、結界で防ぐ?いや、そんな事は無理だ。
 あれ程、巨大で理不尽な暴力の塊を防ぐなんていうのは今の私の結界では………それなら、アレに懸けるしかない。
 成功の確率は五分以下!それでもやらなきゃ打つ手が無い!!
 私は『自分の全て』を信じて御札を取り出した。


 霊夢は、これを回避不可能だと知ると防ぎにくるはず。ならばそこで、霊夢の動きは停止する。
 全ては霊夢の動きを制限するための私の全魔力を尽くした特大の囮だ。
 私は懐に持っていた物を取り出し、霊夢に向かい掲げる。
 『八卦炉』―――魔力蓄積増幅装置にして発射台。
 私自身の魔力は既にほとんど残ってない。でも、私が今日のために溜め込んだ魔力がコレには詰まっている。

 発動を許可された魔力が火花を散らし、音叉の悲鳴を上げる。
 未だ完成していないこの魔法は威力のみに特化したものだ。
 威力だけを見れば大魔法に匹敵するのだが、まだ制御が完璧ではない。
 放った術者にどれ程の負荷が掛かるのか予想もつかない。

 仰ぎ見れば、薄くなった弾幕の向こうで、霊夢が結界を張って防ぎきった姿が見える。
 ならば、後は放つのみ。
「霊夢――――――――――ッ!!」
 結界を解いて気付いた霊夢が、私の前方に先ほどの数百の魔法弾以上の魔力が展開されているのを感じ、驚愕の表情を浮かべた直ぐ後に回避行動を取ろうとしている。
 だが、既に遅い。

 私は、発動の鍵である魔法の名を叫ぶ。
「――――――――――――――――――――――――っ!」
 魔法の名は、その自身によって掻き消され、雷鳴が轟く様な、生れ落ちた事を賛歌する轟音と共に世界を白に染め上げる。
 腕を圧し折る様な反動が私に襲い掛かり、その場で止まろうとする脚も地面に跡を残して後退する。
 何とか制御しようとする脳は今まで感じた事のない負荷に悲鳴をあげた。
 激痛が走る頭で考える……霊夢の移動速度ではこの範囲からは逃れられない。幾度と無く、戦ってきた私にはそれが確信できていた。
 残される結果は『必中』のみ。
「防げるものなら防いでみろ!!」

 予想通り、霊夢はかわせない事を知ると札を取り出し、即座に詠唱を始めるのが見えた。
 しかし、私はその行動に違和感を感じた。今までの霊夢の行動に詠唱なんて無かった。
 それなら、あれは防御用の札では無い………ならあれは一体なんの詠唱なのか?

 私が思考を巡らせている内に、純粋なまでの破壊の化身は霊夢の居た位置容易く貫いた。
 光が空に消えていくのを見届けてから、既に揚げているのさえ困難な腕を下ろした。
 力を無くした手から八卦炉が落ち、地面を転がっていく。
 開けていることさえ辛い瞼を無理やり開かせた目で、光の行き先を見つめていた。
 先程の霊夢の詠唱の意味は解らないけれど、私の魔法は霊夢のいた位置を貫いた。
 近くに霊夢の姿は見えない。なら私は……勝った?

「勝った?………勝った……勝った!霊夢に勝った!霊夢に勝っ」

「勝ったじゃないわよ。もう少しで消し炭になるところだったじゃない。洒落にならないわよ」

 えっ?っと、私は聞えるはずのない声に驚く。
 どうして霊夢の声が私の背後から聞えるのだろう……だって、私の魔法はちゃんと霊夢を貫いて――――――――――っ!!

「まったく、やってくれるわ。この術はまだ不完全なのに使わせてくれちゃって。一か八かの賭けだったわよ」
 緩慢な動きで背後を振り返ると、服から煙を上げているだけで、ほぼ無傷の霊夢がボロボロになった巫女服の裾を摘まんでいる所だった。
「ど、どうやって………」
「ん?あぁ、さっきの術はね、私もまだ体得中なんだけど短い距離を空間移動が出来るのよ。有ったら便利かなーとか思って練習してたの。やっておいてよかったわ、ホント」
 空間移動出来るって……そんなの反則じゃないか………しかも、便利そうだから?それだけで?
 ははっ、お笑いだ。今まで出してこなかったから無い物として考えていた、私の落ち度。動きを制限した、それだけで勝った気でいた私の滑稽。
 そうだ、私に時間が有る様に霊夢にも同じだけの時間が有る事を忘れていた。
 そんな、当たり前のことを失念していた私の愚かさ。
 もう、笑いしか出てこない。

「は、はは………」
「何を笑っているの?私、笑われて許せるほど善人じゃないわよ」
解っている、そんなこと。
「それじゃまた何か隠してるかもしれないから、一応トドメさすわね」
 そう言って、霊夢はお札を取り出し、指に構える。
 もう、何も残ってないわよ。トドメって容赦無いわね……この巫女。
「今日は危なかったわ。私が勝てたのは、ほんの偶然」
 それでも私の負けは負け。幾ら努力しても付いてきたのは何時も通りのこの結果。
 何も、変わらない。
「………これで終わり」
 霊夢のお札を挟んだ指先が私の額に向かってくるのを、霞んでいく視界に納めながら意識を光の中に散じていった。トンと額に柔らかい感触。


 そして、私は目覚める。

 閉じた瞼の越しに赤い光を感じた。そして体が凍りに触れているように冷たい。
 なんだろうか、この光と冷たい……雪?
 そういえば、私はどうしたんだっけか………そうだ、私がミスをして反撃を喰らい霊夢が―――。
「っ!霊夢っ!?」
 私は勢いよく状態を起こす。雪が舞う。周りを見るが霊夢の姿は無い。
 今まで寄りかかっていた、雪に覆われた岩壁越しに大きな音と赤い光が炸裂した。
 素早く振り返り、覗いて見ると霊夢が二人を相手に奮闘していた。
 そうか、あの時、幻想空想穴で私を此処まで移動させたわけだ。
 目を凝らせば流石の霊夢も無事では無かったらしく、折角の一張羅が所々黒焦げだ。
 あの後の傷も多い、中にはナイフで裂かれた物もある。
「まったく、私なんかに気を使うからだ。まったく」
 さて、作ってしまった借りは即座に返してしまおう。
 残しておいたら後々、どんな事を要求されるか解ったものじゃないからな。
 私は、懐に視線を落とし、中から八卦炉を取り出す。
 再び視線を宙に向けると霊夢が、少ないチャンスに的確に相手の攻撃を避けて反撃を与えていた。
 遠距離からの攻撃をまるで先に読んでいたかのように危なげなく回避し、接近戦を挑もうとする相手に対しては、立ち回りと弾幕によって近寄らせない。
 服は裂け、焼けるが体には大きな損傷もない。
 それを見て魔理沙は流石だな。と思う。霊夢は天才だ。事、戦いにおいては並外れたセンスがある。時偶にホントに人間か?と思うのだが、正真正銘人間なのだから性質が悪い。
 
 微笑を浮かべながら、八卦炉を掲げる。
 途端にバチバチと火花が飛び始める。
 八卦炉に貯めていた魔力に今の私の魔力を上乗せすると、空間に亀裂が入るかのような音が響き始めた。
 準備完了。私は照準を合わせながら、チャンスを待つ。
 その時、霊夢が相手の攻撃を防ぎきり、距離を開けた。
 来たっ!

「霊夢ぅぅぅぅぅうううううううううっ!!」

 私が何をしようと察知した霊夢は、即座にその場を離脱する。
 あの時と同じ様に。しかも、ご丁寧に相手二人を逃げられないように結界で囲んで。
 今では詠唱などいらず、他の術との同時発動まで完璧にしている。やはり、霊夢は凄い。
 そして、私は銀の世界に染まった此処が、あの『勝負』の場所であることを思い出した。
 
 さぁ、次は私の番だ。征くぜ!!『今の私の全て』を!!

「恋符ッ!マスタァァア―――スパァァクゥゥウ―――――――――――――ッ!!」

 完成された光の螺旋は、地を、空を、霧を、時間さえも裂き世界を翔る。
 何モノにも遮る事は出来ず、ただ穿つ。
 何て不器用で単純で美しい姿か。その姿は正にこの世に生まれ堕ちた感情の叫び。全てを貫き己が存在を誇示し、己の存在あるがままに!
 あの時は出来なかった空間固定、力の反動の制御は完璧。
 私が今出来る事を続けていけば何でも出来る。何度でも何でも可能性を超えて!
 
 地から昇り空に向かう光雷の巨柱が、結界があった空間を何の苦も無く貫いた。

 徐々に光は細くなり、その姿を霞ませていく。
 私は溜めていた息を吐き、八卦炉を下ろした。
 周りの雪は溶け、マスタースパークの直線状には川が出来ていた。

「まったく、その技は怖いわねぇ。間違っても私には撃たないでよ」
 隣に霊夢の気配がした。
「ははっ、それは無駄な話だぜ」
 それに、さすがはレミリアと咲夜。あれを耐えてまだ二人は立っている。
 どうやら結界が破けた瞬間に時を止めて、運命を操作したらしいが完全には避けきれなかったようだ。
 咲夜の方は服も体もボロボロで右腕は力なく垂れ下がっている。レミリアは咲夜を庇ったのか、ほぼ全裸に近い状態で相当のダメージを受けている様だが、即座に回復が始まっている。

「あらあら、まだやる気みたいよ?あの二人」
 霊夢がやれやれとばかりに苦笑いを浮かべる。
「そうみたいだな。まぁ、手加減はしないが」
 私は箒に跨る。
「そうね。じゃ、行きましょうか」
 霊夢も私の後ろに腰掛けた。
「おう、飛ばしていくぜ。しっかり摑まってろよっ」
 箒を掴む腕に力を込め、霊夢が腰に腕を回してきた。
 その回された腕の力強さを感じ、私は新たに習得した魔法の名を叫ぶ。
「貫けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」








『彗星っ!ブレイジングッ!!スタァァ――――――ッ!!!
 (食料ぉぉぉぉ――――――――――っ!!)』


 夜空に開いた穴達を、縁側で眺めていた。
 霊夢は既に布団の中でお腹を満腹にしてぐっすり眠っている。
 出る時に隣で眠っている霊夢の寝顔を覗きこんだが、余りにも気が抜けた顔なので、見ていて可笑しくて笑ってしまった。
「あいつ、寝てた方が可愛いんじゃないか……?」
 空の果てに黒い雲が見えた。今夜も近々雪が降るのだろう。
「ったく、霊夢のやつ。いつもの勘の良さはどうしたんだっつーの」

 今年は例年に無い大雪で、畑に残しておいた未収穫の野菜は全滅。
 秋の実りの余り物が無いか山々を探し回ったけれど、幽々子主催の「祝。秋の実り食べ散らかし狩り!朝も昼も夜もなく山菜を喰らえッッ!食前食後に獣肉を喰らえッッ!飽くまで茸を喰らえッッ!飽き果てるまで山を喰らえッッ!全てを喰らって喰らって喰らい尽くせッッ!!」で山には何一つ食べ物は無く、慧音に助けを求めても、どこの村々でも食べ物が不足しているらしく、分けて貰えたのは干し芋数枚のみだったらしい。

 私も似たような状況に陥った。
 研究に没頭して引き篭もっていたら、いつの間にか世界は銀世界、今収穫できるのは毒キノコのみという状況。
 アリスやパチュリーを頼れば何か寄越せ(返せ)と言われてしまうだろうから、恥ずかしながら霊夢を頼って博麗神社に来てみれば、縁側で空の湯飲みと共に横になり、白一色に染まっていた霊夢を発見したのだった。
 どうやら、空腹で気を失ったところで運悪く雪が降り始めたらしい。
 で、霊夢を解凍してオコタで暖を取っていたらレミリア達が来て、これ幸いと食料を求めたのだが、リベンジを狙っていた幼き吸血鬼・意地悪で瀟洒なメイドは、勝負に勝ったら食料をあげる等と仰るでは無いか。

 まぁ、先程その勝負に勝ち、冬を越せるだけの日数分の食料を得る事に成功したのであった。
 レミリア達は夕飯を共にして色々、愚痴などを言いながら帰って行った。
 今日は鍋であった。明日は雑炊である。一滴の無駄も許されないのである。
 あぁ、非情。

「しかし、あれは驚いたなぁ。もう少しで閻魔様にご対面だっただろうし」

「あら?もう会っているじゃない。口煩い閻魔様には」

 誰も居ないはずの背後から返事が返ってきた。

「うわぁ!お前、いきなりは止めろよ………驚くじゃないか」

 くそぉ………スキマってやつは事前に察知出来ないから厄介だぜ。

「あら、ごめんなさい。まさかそんなに驚くなんて思わなくて。わざとじゃないのよ、わざとじゃ」
 わざとだなこのヤロォ。っというか何しに来たんだ、こいつは。
 まぁ、紫に理由を求めてもまともな答えは返って来ないだろうし、私は振り返る事無く、今までの様に空を眺めた。

 何の会話も無く、空の果てに見えた黒い雲が一つ向こうの山に差し掛かろうとした時、
「知っているかしら?貴方が居ない時のあの子の寝顔はまるで死んでしまっているかのようなのよ。まるで『生』すらからも離れているかのように」
 紫は突然、そんなことを言った。

「………そうか」

 静寂。
 月明かりを大きな雲が遮り、余りに雲が大きすぎて、夜闇を暗闇に堕とす。

「雲は何にも捕らわれていないように見えて、実は一つだけ、離れられないモノがあるの………これは知ってる?」

 何の脈略もなく紫はそんなことを聞いてきた。
 変な質問だなと思った。
 何物にも切り離されてしまったのが雲であろう。
 だからこそ、雲は流れていけるのだ。離れられなければ流れていく事も出来なくなる。
 ならば、共に移動しているものだろうか………?

「解らないな………雲と何時も一緒の物なんてあるのか?」

 背後から、クスクスっという笑い声が聞えた。
 何かムカっと来るなぁ、私にだって解らない事ぐらい割りとたくさんあるぜ。
 パチュリーじゃあるまいしな。
 笑い声が途絶えた後、暫しの間があり、紫が口を開く気配がした。

「正解はね―――星。………雲は星から昇り何処までも上がって行ってしまいそうだけど、最後は星の元に戻ってくるの。星だけが、雲を自由なままに離さない」

「へぇ」
 あぁ、そうかそんな考えも有りか。
こいつはパチュリーでも解らないだろうな、なんて私が思っていると、

「………貴方はそれを誇っても良い。何故なら貴方は私の結界すら越えてしまったのだから」
 まるで、泣いているかのような声で紫は詠うように囁いた。

「おい。それは、どういう意味………」
 後ろを振り返れると同時に隠されていた月明りが戻り、万物を浮かび上がらせようとするが、既に求めていた姿は消えていた。
「………まったく。何しに来たんだあいつは」

 さて、そろそろ体も冷えてきた。霊夢が眠る部屋に戻ろう。
 振り返ろうとした視界の隅で星が一つ流れ、雪が降り始めた。

―――もし 彼女が寒さに震えているのであれば 手を握ろう そう思う――― 


 そして、私は目覚めた。

 手には柔らかく暖かい温もりがある。なんだろう、と思い何度も握り返す。暖かい。
「あら、起きたみたいね?」
 見覚えの無い天井が見えた。夢の中でも聞いた、馴染みの有る声。
「………ここは?」
「私の家よ。あんな所に気絶したまま置いておけないでしょ」
「そうか……私は負けたんだったな………」
 いつものようにまた負けた。
 その事実は変わらないのに私の気持ちは清々しい。
 私は全力を出した。霊夢も全力を出して戦ってくれた。
 だからこそ、こんなにも気持ちがいいのだろう。

「そうね。でも、かなり危なかったわよ。今度やったら判らないかもね」
「あぁ、次は負けないぜ」
 霊夢は少し驚いた表情をして、苦笑いを浮かべながら、「仕方が無いわね」なんて呟いた。
「さて、ご飯食べてくでしょ?そんな体じゃ帰れないだろうし」
 霊夢が立ち上がると同時に、私の手は外気の寒さに晒された。
 そうか、あれは霊夢の―――。
「………ありがとう」
「どういたしまして、魔理沙」
 私は初めて名前を呼ばれ、初めて霊夢の微笑を見たのだ。
 心の温かさと共に。


         小さい頃 流れ星を追いかけた
    皆と逸れてしまって 寂しいだろうと思ったから
           でも それは違った
       あの流れ星は 雲に近づきたかったんだ
     幾星霜 そんな星が集まって 雲を留めている
   星は 流れ落ちるときに触れた 雲の暖かさを覚えている

「ねぇ、何か話し方変わってない?」
「ん、そうか?」

       そして 雲も 流れた星の輝きを 覚えている


                      了


拙い文章でしたが、皆さまの暇つぶしにでも成れれば幸いです。
お久しぶりです。
パソが逝かれまして、帰ってきたのは良い物の、何かまだ動作が不安定という。
もうだめか…良いコーリンに拾われてくれよ。間違ってもテルヨの所には逝ってはダメだぞ。
ほろり。

前回のコメントでコントを書いてみたいと書いておきながら、出来上がったのはシリアスでしたorz
おかしいなぁ……書き始めたときは魔理沙がNO下着の霊夢に襲い掛かる話だったはずなのですが。
紫さまが境界でも弄ったんでしょうか。
この二人は『一緒』って感じですね。凸凹の様で納まっているというかピタッと嵌るというか。
表現できていれば良いのですが・・・。
次こそはコントを!とは思っているのに組みあがっていくのはアリスシリアス………。
では、次は「(仮)霊夢ちゃん、幻想郷を亀と行く」か「(仮)アリスシリアス」になると思いますが、
その時も、どうぞよろしくお願い致します(ぺこり。
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