Coolier - 新生・東方創想話

呪いだから

2024/04/20 11:25:30
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それは、小さな小さな嫉妬から始まった



「ねぇまりさ聞いて!私こーんな大きな妖怪、自分だけで倒せたの!」



出過ぎたことだと分かっていても、止めることのできない気持ち



「まりさー!今日は里の人がすっごくお礼はずんでくれてね、おゆはんがちょっと豪華になりそうなの。だから………え?今日はもう帰るって?あぁ、うん。じゃ、また明日ね」



ときどき意地悪をしてみても、なんでもないかのように手を振る



「ちょっと魔理沙、あんたまだ飛び方おぼつかないの?しょうがないわねぇ…私が教えてあげるわ」



まだ自分の方が上だと思っているうちに、あっという間もないほどの速さで追い抜かれて、ちょっとやそっとじゃ届きやしないほどに遠く離れてしまった



「はい、これ、紫がくれたんだけどなんだと思う?正解はね…」



もとから持っているものが違うんだろうなとはずっと思っていた



「は?弾幕ごっこ?またぁ〜?もう私あんたの相手も飽きてきたんだけど。いっつもワンパターンで直線的で。つまんないの」



でも、そんなふうに突き放されるのは怖くて、ずっと、ずっと、“明るくて少しやかましい”霧雨魔理沙を演じてきた



「は〜いこれで私の347戦347勝0敗ね。今回はちょっと頑張ったけどまだ芸がないわね。全く…弾幕ごっこをやり始めてもうすぐ一年よ?じゃ、また明日」



必死で、“幻想郷にふさわしい”私をつくった



「魔理沙、晩御飯食べてくでしょ?あんたはただでさえ栄養足りてないんだから」



それなのに、ときどき見せる優しさが、私を四方八方から絡め取る触手のように引きずり込み溺れさせる



「あっははははは!な、何よ、膝枕って!ちょっと魔理沙あんた、十二にもなってまだそんなこと言ってんの!?お子さまねぇ…!」



でもそうなることは“幻想郷での”私が許さなくて、心だけが痛い、そんな日が気の遠くなるくらい続く



「魔理沙、ちょっと。……は?今から弾幕ごっこですって?バカ言うんじゃないわよ。今宴会中なんだから、そんなことしてたら鬼とかに見つかって………はぁ。しょうがないから付き合ってあげる。お互い3枚ずつでいいわね」









「全く、あれを日常にするのには時間がかかったな。どうしてもな、私の中で『こんなのは嫌だ!』って叫ぶ部分があったんだよ。でももう、そんなことは気にしなくていいんだ」



なんでかって?それはな…この世に“博麗霊夢”はもう存在しないからだぜ。さよなら、霊夢。二度と会わないよ。




【呪いだから】

絶妙な粘り気を持った蝉の鳴き声が、湿度の高い空気の合間を縫って耳に滑り込んでくる。強烈な不快感を私にもたらすそれは、一年の間では長い方の季節に伴って、毎年毎年毎年、飽きもせずにやってくる。

私は夏が嫌いだ。どうしようもなく絡みついてきて、少しだけ自分に似ているこの季節が、私は大っ嫌いだった。昔からそうだったわけではない。昔は暇さえあれば里の男の子たちと一緒に外に行ってくる日もくる日も遊んでいた。
だから、だろうか。偽って何重にも皮を被せた自分をどうにも想起させるこの季節が、そして何より、私の太陽が一番輝くこの夏が、大嫌いだった。
博麗霊夢。私にとっての太陽。
最も忌むべき存在。
それが一番輝き、周囲を焼き尽くすのがこの季節だった。

「霊夢〜来たぜ〜!」

できる限りの大声を張り上げて呼びかけると、博麗神社の縁側の方から、一本の封魔針が弧を描いて飛んでくる。それを私が叩き落とすと、気怠げな表情の中に少しだけ期待を滲ませる彼女が、その湖のような、ガラス細工のような眼に私だけを映して歩いてきてくれる。

「ったく。声がでかいっつーの」
「まさか。魔理沙さんはものすご〜く気を使ったんだぜ」

軽口もそこそこに、霊夢がふわりと離陸する。いつ見ても蝶のように美しいその姿を一瞬のうちに目に焼き付け、自分も地を蹴った。

「それじゃ、今日は暇だったし5枚ぐらいいいわよね」
「おう、どんとこい!」

霊符『夢想封印・散』
魔星『恋座流星群』

始まった弾幕ごっこは終わるまでノンストップ。どんな邪魔が入ろうと関係ない。それが密かに私たちの決めた新しいルール。私たちだけの秘密。
彼女の放つ針と札と霊力弾が風を切って、私の横すぐ近くを通り抜けていく。私の放つ星型弾とレーザーが風に乗り、彼女の近く“だった場所”をすり抜ける。

「ほらほら、魔理沙。そんなんじゃいつまで経っても当たらないわよ?」

相変わらず、遠い太陽。星が何個集まろうと、この地球では何もかもが太陽に勝る光を放つことはない。
だから今も私は想い焦がれている。
あの太陽に。
何よりも明るく鮮やかに輝き舞うあの紅白の蝶に。
この世でたった一人の、私の親友に。

「いいや、当たるぜ。今回ばかりは絶対な」
「あら、随分と自信があるのね。試してあげるわ」

水符『くくり染めにしからくれなゐ』

「っ魔理沙──あ”ぁっ!ぐ、ぅ……!」

──本当に?
本当に彼女は、私の親友だろうか?
いや、きっとそうではないのだろう。
私は“博麗霊夢”の親友にはなれない。
あくまで“弱かった頃の霊夢”の幼なじみでしかない。
苦しい。
苦しい。
どうして私は何も成せない?
どうして私とあいつはこんなに違う?
どうして私は──人間を辞めた?
違う。
違う。
そうじゃない。
こんなことがしたかったんじゃない。
こんな、反則まがいのスペルカードであいつを痛めつけたかったわけじゃない。

──ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは

からくれなゐ。唐紅。空紅。
空っぽ。空っぽ。なんにもない、“空っぽ”な私。
何もないくせに、悪あがきをするように。
何もないからと、手に入らないものを欲しがるように。
偽物で空っぽのあかが、本物の紅を苦しめる。

ごめん。
ごめん、霊夢。
ごめん。
でも、悪いのは、なーんにも気づけなかったお前なんだぜ。
だから私は、約束するんだ。
いつかまた出会う時には、正面からお前を叩き潰してやると。
きっとかつての私も何度も何度も同じことを繰り返した。
そして何度も何度も失敗した。
今度こそと毎回思っては何度も何度もお前を殺した。
これは私が自分に課した呪いだから。
人間のままお前を倒すために、私は何度も人外になってお前を殺す。
水は全ての命の源であり、全ての命の終着点でもある。
だから私は、約束するんだ。
いつか、お前のその太陽の輝きを、水の冷たさではなく星の煌めきで打ち消してやると。
かつての私が何度も何度も繰り返した水への終着を、星の消失で終えられるように。
これは呪い。
どう足掻こうと、星では太陽に敵わない。物理法則という名の呪い。
水で肺を満たすことでしか、内側から無類の苦痛と共に侵食していくことでしか、あの太陽を堕とすことはできない。
でも、いつか、いつの日か、水の惑星が太陽の輝きを上回るかもしれない。
星だけでは勝てなくても、水だけでは心が壊れても、水の星ならば、太陽に打ち勝てるかもしれない。
それだけが、私の生きている理由で、存在意義で、だからこそ、この呪いはより深く深く、私の心に食い込んでくる。
呪いだから、私はお前を殺し、生き返らせ、また殺してしまう。

もう、何回目なのだろう。
いつまで経っても抜け出せないこの迷宮は、一体何回私に霊夢を殺させれば気が済むのだろう。
私はあと何回、最愛の人を殺せばいいのだろう。
なあ霊夢。
霊夢。

私はあと何回、私を殺せばいい?
みなさまこんにちは、あよです。
今回のどうでしたでしょうか。以前からレイマリバッドエンドは書こうとしてたんですけどいかんせんね、こう、何気に投稿できていないという…フラ霊とかレイアリならあるんだけどなあってところです。個人的に結構波があるんですよね…筆の乗りとか思いつきやすさとか。
ではでは、今後ともよろしくお願いします〜。

〈コメ返し〉
1.名前が無い程度の能力様、ありがとうございます!
3.ゆっくりA様、お久しぶりです〜!そっちも見にいきますね。ありがとう!
4.評価をしてコメントする程度の能力様、嬉しい…ありがとうございます…!気が向いたら(調子のいい時に)続きのお話書かせていただこうかなと思います!ありがとう…!
5.名前が無い程度の能力様、返信遅れまして申し訳ないです…。ありがとうございます…!
あよ
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コメント



0.40簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
けっこう好きです
3.100ゆっくりA削除
お久しぶりです、ゆっくりAです。
今回の作品も良かったです‼
最新作も出しましたので、そちらも見て下さい‼
宜しくお願い致します‼
4.100評価をしてコメントする程度の能力削除
面白かったです!バッドエンド上手ですよ!自信を持ってください!
この続きが気になりました!もしよければ書いていただけると嬉しいです!
5.100名前が無い程度の能力削除
重い感情の表現が叙情的でとても良かったです。