Coolier - 新生・東方創想話

主観

2024/02/06 23:07:44
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 -京都にある木造でできた、枯れゆく自然の循環を感じさせるようなカフェでコーヒーを嗜みながら、滴り落ちるドリップコーヒーの香りを思い出させるような独り言を蓮子は呟いていた。

「2157年2月17日19時21分59秒...」

深煎りながら苦味とコクがあるコーヒーとシナモンクッキーの香りが心地よく広がるチーズケーキが二つ、テーブルの上に置かれていた。外では雨と風が強く、窓に叩きつけられた雨と風の音がカフェの中に響き渡り、蓮子は5年ほど前に起きた台風を思い出していた。

2152年9月20日。ー 京都に大規模な台風が襲いかかった。台風の被害により、木造の建物はほとんど崩れ、科学技術が発達して巨大な人工物が建設された京都の癒しとなる公園や生物科学研究所など、豊かな自然に囲まれて過ごすことのできる場所は甚大な被害を受け、学者や大学教授、復興関係者以外立ち入り禁止となってしまった。

翌月、蓮子は大学の教授が特に被害が大きかった「きかい公園」へ行くことを知り、同行したい旨を伝えたが断られてしまった。

その日の夕方は雨が降っており、傘を持っていなかった蓮子は帰り道、断られた悔しさと、冷たい空気が漂う京都の街中を見て寒さに震えていた。

悲しみ  悔やむ  カラスの声が響き  入れない事実を  実感させるようだった

「きかい公園」には唯一、立入可能スペースがあり、蓮子はそこにある自動販売機で缶に入った温かいコーンポタージュを買った。

ピッ ガシャン ギィーッッ

「あつッ」 ふぅーーっ ふぅーーっ

自動販売機の保温機能で温められていた缶を持とうとした蓮子は手が冷たく、缶が熱く感じやすくなっていた。唯一の立入可能スペースにはニ人ほどが座れるような木でできた椅子と、一つの時計があった。時計は6時30分ごろを示していたが、時間が分かる蓮子はその時計が嘘をついていることに気づいた。

「2152年9月20日7時19分32秒...」

目の前にある時間の可視化と制約を施す時計を眺め蓮子は一人呟いた。

「主観...」

蓮子は、実在するのは自我と意識であって、他我や物体の実在を可視化することはできない独我論の立場を持っているわけでも、唯我論者でもないが、目の前の時計をながめながら、考え事をしていた ーー


深く 深く 暗くて 心地がいいのかも わからない 事実

寒く 狭い 心の深くに潜りこむ 欲望


 ガシャン トン トン トンッ 

「あら、こんな日に窓の外なんて眺めて」

お客さんの出入りが少ないカフェに一人のお客さんが蓮子に話かける。

「お待たせ、蓮子」

5年ほど前の台風を思い出し、考え事に耽っていた蓮子は、遅れてカフェにやってきたメリーに気づかなかった。

「私が遅刻をすることはあるけど、メリーが遅刻だなんて珍しいわね」

メリーは雨で濡れた服と鞄をタオルで拭き、席に座ると、店員を呼んで注文をした。

「コナコーヒーを一つ。あと...モンブランをお願いします」

注文を終え、店員が離れていくと、メリーは蓮子の様子を伺いつつ、机の上に鞄から取り出した資料と本を置いた。

ドンッ!!!
「台風の資料よ。大学や研究者たちの論文や文献をあさってきたわ」

「メリー、確かに私は五年前の台風に関して興味を抱いているのは事実だけど、今はその話をする気分ではないの」。

五年前の台風の翌月に行ったきかい公園に行ったことを蓮子は思い出し、当時の寒くもどかしい状況や、拭いきれない疑問や考えていたことを思い出した。そして蓮子はメリーに問いかける。

「メリーはきかい公園を知っているよね。私は当時公園にあった時計を見て考え事をしてたの」

蓮子は五年前時計を見た時、時計が示す時刻と星が示す時刻が一致しなかったことを話した。

メリーの吐息が小さく 安心したかのように こぼれ落ちる

「それを正当化する立場と、主観の立場は違うはずなの」

メリーは蓮子に優しく語る。客観的に見て明確な真実が存在するという蓮子の考えを尊重しつつも、それを真っ当から否定しないよう優しさに包んで意見を述べる。

「もし蓮子の主観が、蓮子以外の人たちの考えや意識を入れないのであれば、その主観は事実や真実を説明するものにはならないの。人の意識のみが存在し、意識外の実在を確信しない観念論のようなものだわ」

続けてメリーは問いかける。

「星を見ると時間が分かり、月を見ると場所が分かるという蓮子のその能力、どこまで信頼してるの」

二人の間に不穏な緊張感が走る。

メリーの問いを掻き消すかのように話題変ようと、いかにも興味を掻き立てようとするような声で囁きかける。

「お、面白い話を聞いたの。伊勢神宮跡地に建てられた、、、えーっと、そう!析薪神社!メリーは知ってる?」

「セキシン神社...聞いたことない神社ね。興味を感じたの?」

少し焦り口調で話す蓮子に対し、思考の質感を感じさせるような返答をする。興味を抱き、知の欲望に駆られたとき、その事象を調べ、感じるのだと、薄々メリーは理解していた。 

「蓮子が興味を持ってるなら、勿論わたしも行くわ。」

「じゃあ明後日の9時頃に京都駅を出発するようにしましょ」

ーそれが"秘封倶楽部"の因果律なのだから。



翌日、蓮子は大学の授業を受けていた。授業名は「哲学史B」である。その日の教授は機嫌がよく、いつもは十分ほど遅れてくるのに、五分前には講義室に入っていた。

「今日は天気もよく、ルクレーヌの機嫌がとても良くてですね...」

ルクレーヌとは哲学史の教授が飼っている猫である。最初の雑談が終わると、いよいよ授業が始まった。

「今日からヘーゲルの著作、精神現象学について話していきます。では配布した資料の1ページ目を開いてください」

350年程前に出版された哲学者の著作についての講義を、蓮子はじっと聞いていた。


優しく  歪む  感触

講義室が照らされる  形を認識し  静寂を羨む

想像した 「空間」 に流れ込む 「事実」

ひとつ ひとつ 声が 流れてゆく


「と.^/⬜︎?ェ.,:⚪︎◾️'、tの;.'との不*◻︎uを超克し・・・」

教授の話が耳を傾けさせていく

「先k*^s@でaるを!.'▽▪︎.,⚪︎ヲ批判した上で・・・」

少しずつ、離れた意識を講義へ移してゆく。

「精神*の□-/,,自己喪失t*.状態を表している」
「その序文n....宇佐美、宇佐美、」

聞き慣れた名前が意識を通る。

「宇佐美 ! 窓の外を向きながら目を瞑っているとは。話を聞いているのか」

ビクリとした蓮子は、慌てて話聞いていたかのように早口で返事をする

「ええっとぉ、死に耐え死のなかでおのれを維持する生命こそが精神の生命である。ですよね!!」

「はぁ。全く宇佐美は、よく遅刻をし、非常に宇佐美である」

蓮子の意識がそれている間も、時間は流れていた。名前を呼ばれ返事をした数分後、その日の講義が終了し、教授が講義室を出ていくと次々と受講者が立ち上がり講義室を出ていった。
 
続き書きます。
かんざし
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コメント



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2.100うさぎ れんこん削除
伊勢神宮跡地に行く流れの先がとても気になります。追加執筆楽しみにしています!
3.90つき削除
良い。とても面白かったです。
4.100あよ削除
最後の方の教授のセリフ、「宇佐美」となってますが、意図的なものでしょうか?
でもすっごく面白かったので、蓮子とメリーの今後に期待して、100点です。
5.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。哲学的な主観の観念にわくわくしました。