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誰かの幻想、その終わり。〜二ノ章『華胥、幽々自敵に』〜

2024/01/12 19:26:33
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「そこの者、止まれ。」

冥界、白玉楼。転生を待つ幽霊たちが暮らすこの場所に、怪しい者を踏み入らせるわけにはいかない。
それが白玉楼の庭師兼剣術指南役、魂魄妖夢の矜持であった。
かすかに見覚えのあるその小さなシルエットは、ゆらりと振り向いて深紅の視線を彼女に注いだ。

「…あなたがここの門番かしら。」

チリチリと焦がすような緊迫感が妖夢の能力を活性化させる。
二振りの愛刀を淡い月光に晒しながら、斬撃よりも鋭い眼光で目の前の敵を見つめていた。

「そうだ。私が、白玉楼の庭師兼剣術指南役、魂魄妖夢。お前は何者だ。」
「こんな遅くまでご苦労様。わたしはフランドール・スカーレット、吸血鬼よ。今は博麗の巫女を探しているの。」
「博麗の巫女だと?下手な嘘だな。その制度は一世紀は前に紫様が廃した筈だぞ。それにここ冥界に博麗の巫女は存在しない。もう遥か彼方で転生しただろうよ。」

嘲笑する相手の言葉に、フランドールは少なくない驚愕を覚える。

「一世紀?嘘でしょう、だって、さっきわたしは霊夢に…。」
「霊夢、か。それは一体誰だ?」
「え?」
「言い方を変えよう。私は“霊夢”などという名前の者を知らない。お前の妄想ではないのか。」
「じゃ、じゃあ、最後の博麗の巫女は一体誰なの?」
「……さて、誰だったか。いや、存在を忘れているわけではない。ただ、彼女は機械的に任務をこなすあまり、本当の名を忘れられてしまったのだ。最期は過労で死んだよ。当時はまだ十歳にもならなかったのにと、胸が痛んだ。」
「その子は何代目なの。」
「確か…十代目だったな。人里の阿求殿ならもっと詳しいはずなんだが。」
「…そう……。じゃあ壊していいのね?」
「は?」

意味をはかりかねる妖夢に、破壊の奔流が襲いかかる。
ばらばらに粉砕され、原子レベルで無に還った。
まるで最初から存在しなかったかのように消し去られ、今の今まで問答をしていたフランドールも、相手の顔を忘れてしまった。
夜風で顔にまとわりつく髪をかきあげ、悠然と敵地に足を踏み入れる。
枯山水の川のほとりに立ち並ぶ絶妙に剪定された木々の間を歩き回り、ようやく人の姿を見出す。
見事に手入れされた庭園の一角にある巨木。
西行妖の下に、満開の桜を思わせる髪色をした優美な女性が佇んでいる。
ゆっくりとした動作で招かれざる客を見据えると、空に舞い上がり微笑んだ。

「こんばんは。お客さんかしら?私は西行寺幽々子。あなたが妖夢を殺したのね?」
「見え透いてるわね。……えぇそうよ。あなたたちにとっては大変不本意でしょうけれど。」
「困るわぁ。あの子怖がっていたでしょう?いじめるなんて可哀想よ?」
「…そうね。とんだ意地悪よ。」

相手が自身の非を認めると、幽々子は一層笑みを大きくして、辺りに霊蝶を放つ。
フランドールはそれを破壊し応戦する。

「…強いのね。ここまで霊蝶を潰せたのはあなたが初めてよ。」
「お世辞にもなってないわ?わたしはそこまで強くないモン。それこそ、お姉さまより弱いもの。わたしが生き残っているのは単にほんの少し運が良かっただけ。」
「それはどうかしら?運も実力のうちよ。事実、あなたは生きているのに、あなたの姉は死んだ。それはあなたの方が優れている、強いということ。明言しましょう。あなたの姉は弱かった、故にあなたよりも先に故人となった。そういうことよ。フランドール・スカーレット。理解しなさい。」

経験に裏打ちされた説得力が無形の重りとしてフランドールにのしかかり、その動きから精彩という名の生存確率を奪っていく。
すぐに結果こそ出ないが、それは確実に狂気の破壊神を死へと導いていた。
状況の打開は選択肢を一つにまで狭め、迫ってきている。

「っきゅっとして…!」
「『どかーん!』かしら?」

桜符『完全なる墨染の桜ー開花ー』

スペルカードが宣言された瞬間、艶やかに翻る袖の内側に、フランドールは死神の姿を見た。
その死神は薄く華麗に微笑みながら、死の弾幕を放ち続ける。
完全に能力を放つタイミングを失い、猛攻からの防戦を強いられる。

禁忌『カゴメカゴメ』

フランドールの必死の防衛に、柔らかな嘲笑が重なる。

「あらぁ。怒らせちゃったかしら?」

『西行寺無余涅槃』

ラストワードが、宣言された。

「っ!!」

満天の星空のように光り飛び交い死を撒き散らす霊蝶は、フランドールの目には憎らしくも美しかった。
その色を模倣した閃光が数本ずつ逆方向に回転し、行動の自由を奪っていく。

「まだ、負けてなんかないから…!」

禁忌『フォーオブアカインド』

普通のスペルカードとは比べ物にならない密度の星空に、自らの分身達を遊泳させる。
七色に光る宝石をぶら下げた翼がひるがえり、魔力の波動を生じさせた。
それは互いに共鳴し、より強力なものとなって霊蝶の群に響き渡る。
幽々子は自分の能力の限界をこの時初めて感じ、全ての力を弾幕に注いだ。

華霊『バタフライディルージョン』
禁弾『過去を刻む時計』
禁忌『レーヴァテイン』
禁弾『スターボウブレイク』

一方フランドールも相手の疲弊を感じ取り、分身達にそれぞれのスペルカードを宣言させる。
そして弾の密度が低い所めがけて突撃し、自身のラストワードを解放した。

『閉じゆくシュワルツシルト半径』
冥符『黄泉平坂行路』

擬似的に創造されたブラックホールに、誘蛾灯に群がるようにして膨大な物量を誇る幽霊の群が吸い込まれていく。
じりじりと近づく終焉はまるでそれ自体が意思を持っているかのように二本の触手を伸ばし始めた。

「っこれは…!?」
「──それは“あなたの手”よ。西行寺幽々子。還りなさい。」

絡め取られ、捻りあげられ、徐々に実体を失っていく中、驚愕が亡霊姫の脳内を埋め尽くした。
咄嗟に見下ろした西行妖の根元で、宵闇色の光を放ちながら崩れていく彼女の“体”があった。
記憶の瀑布に晒された幽々子の“亡霊”は実際の何倍もの時間を体感し、限界を迎えた。
完全に無に還元され、想いだけを体に帰還させて消滅する。

「あ…ぁ……。」
「ばいば〜い。」

幽々子の気配が完全に彼方へと旅立った瞬間、今の今まで鳴りを潜めていた大妖が、手のひらを返したように辺りそこらじゅうから“春”を奪い始める。
それは奪うというよりも、かつて奪われ分たれた自分の一部をもう一度集め直す、“修復”の意味合いが強いものだった。

「あっははははははは!始まった始まった!やっと動き出してくれたね…!」

恍惚とした表情でフランドールが呟くと、それに応えるように重たげな満開の花たちを揺らす。
しかしその反応が気に食わないのか、呟いた本人は無言で相手を叱咤した。
動揺したように木の全体が揺らめき、いくつかの花びらが脱落の宣告を受けて落下していく。

「…動かなくていい。あなたには、博麗の巫女を探すお手伝いをしてもらわなくちゃいけないんだから!ゆっくりでいいんだよ、ゆっくりで。その代わり絶対に、わたしたちで見つけ出さなくちゃ。」

言われた通り、西行妖は静止し続ける。
しかしどこかで了承の意を感じたのだろう、狂気の破壊神は満足げに頷き、希望を多分に含んだ吐息を漏らした。

「見つけたら、ずっと一緒にいてくれるよね、霊夢……。」

西行妖にまとわりついた北風の刃が、次の日の到来を告げる。
静寂の白玉楼に死と狂気の二重奏が奏でられたのは、紅魔館に絶望の悪夢が襲い掛かったのと同じ日のうちだった。
あよです。
コメ返しは平日7時〜7時半、月火木金の15時半〜17時、それ以外は不定期です。
コメントは割といつまでも確認してるし相手に様付けで返信するのは仕様なので気にせずコメントしてってください♪
他の人に比べて創作速度が遅い自覚がありますがどうかお願いします。
あよ
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コメント



0.簡易評価なし
1.90メアみょん削除
面白かったです!フランは西行妖を使ってどうやって探すんですかね...?
ちょっとした小ネタというか、知ってて使ってるかもですけど、フランのラストワードは本来存在しないです。ロスワ製作陣、変な所でセンスありますよね()

そんな事より秒死の妖夢ェ......
2.無評価あよ削除
メアみょん様、見てくれてありがとうございます!
個人的に妖夢はかなり好きなんですけど、いざ小説に登場させるとなるとなぜか早逝してしまうんですよね…(泣)。
ロスワは無課金でガチャの多さに悶えてるところです。霊形代も天形代ももらえないからすごいことに…エーン。
スペカの前台詞みんな良いですよね…。可愛い…。
3.無評価ゆっくりA削除
あよ様、ゆっくりAでございます。いつも見てくれてありがとうございます。

感想なのですが、前よりはグロ表現は抑えられてはいるのですが、一気にバンときているので、グロ表現はちょくちょく出せばいいと思います。
(あれ、アドバイスが混じっているy…)

妖夢が一瞬出てきてすぐいなくなるのは、とても胸が痛みました。命が儚く感じられます。

これで、アドバイス・感想を述べるのを終わりたいと思います。
by,ゆっくりA
4.無評価あよ削除
ゆっくりA様、見てくれてありがとうございます。
妖夢との戦闘シーンが短いがために幽々子が悲しい感じになってますね…。妖夢推しには申し訳ない限りです。(幽々子推しもだろ!)
戦闘に関してはスペカを出さないと進められないんですよ、難しいです。
これからもどうかよろしくお願いします。
5.100ゆっくりA削除
点数付け忘れました
6.無評価ゆっくりA削除
あよ様、最新作出しますね
7.無評価あよ削除
ゆっくりA様、お知らせありがとうございます!!
そちらのコメント欄で感想は書きますね。
8.100評価をしてコメントする程度の能力削除
やはり命は儚いものだと実感させられました
妖夢の守ろうとした気持ちを打ち砕くようなフランの残酷さ、そしてそうなってしまうほどの怒りと悲しみもあるのが、納得できます
第二章も面白かったです