Coolier - 新生・東方創想話

ゆかりんデイズ12

2023/12/08 15:19:11
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 黒いもや。えーりんが「げんそうぐい」と言っていたヤツ。
 ユカリを飲み込んだそれは、今までたたかったヤツとは比べものにならないでっかくて、あちこちによろいのような金ぞくの板で覆われていて、よくわかんないきかいがついていた。
 
 「ユカリ……うそ」

 とおくで見ていたみんなのざわめきが聞こえる。

 「みなさん、ご安心ください。これは『幻想喰い』を改造したもので、今は完全にコントロール下に置かれています。八雲紫に代わり、新たな幻想郷と私たちの守護神、『アーマードオモイカネ』です」

 スピーカーから聞こえたえーりんのとくい気に言ったことばと、みんなのはくしゅが、みょうにに空っぽに聞こえた。

 ユカリが消えた。もういないの? 

「ちがう。もやから出てきたルーミアみたいに、まだ生きているはず。あたいが助けるんだ」

 あたいは力をふりしぼって立ち上がろうとするが、ちからが入らない。

 「さあ、来るんだ」 いやな方のうさぎがあたいの手足をしばり、おとなしい方のうさぎといっしょにあたいを荷物みたいにかかえる。

 「ユカリをかえしてよ。とってもいい子で、あたいたちの友達なんだよ。このせかいを守っていたんだよ。あんな気持ちわるいもやとはちがうんだ。あんなのがしゅごしんなわけあるか」
 「黙れ。おとなしくしろ」
 「……個人的に、同情はします」
 
  あたいはもがく。その時、いきなりうさぎたちが転んで、あたいは地面に体をぶつけてしまった。

 「高圧ちゃん、しっかりして」
 「逃げろ低圧」
 「でも……」
 「わた……は……から」
 
 そういう名前だったんかい! いやそれどころじゃない。
 いやな方のうさぎが倒れこんで、真っ青な顔で苦しそうに息をはいている。それを同じくらいつらそうなおとなしい方のうさぎが抱きかかえようとして、おとなしい方のやつも急に顔から血のけが引いて、その場に倒れこんでしまう。

 「お、おいお前ら……」

なんだかいやなかんじにぶるっときて、見上げるとあのでかいもやの周りをとんでいた鳥が落ちていく。それどころかたくさんの木がいきなりかれてたおれていく。まるであのでかいやつがみんなのいのちを……。

 「待って、緊急停止! 止まっ……」 

スピーカーから聞こえるえーりんのあわてた声、なにかが倒れたりこわれたりする音。それっきりスピーカーからは何も聞こえなくなった。
さっき力をすい取られたばかりなのに、あたいはまだ動ける。追いかけてくるやつはいない。このまま逃げちゃおうか? 

「た、助……けて」
「ざまあみろ。じごーじとく、ってやつだよ」 

ぶったおれている二人を見下ろす。だけど……。

「おねが……い この子……けで」

 こいつらを助けてやるぎりなんてないもん……ないもん……。

「ああっ! もう、ただあたいは引っぱってやるだけだからな」 

 二人をどうにかしてあたいは引きずろうとした、なんだか、このままにげたらけーね先生や、なによりユカリにおこられそうな気がした。でもこいつらもあたいの体もおもたい、あたいの力も吸われているみたいだ。なんだかとっても眠くなって、手をはなしてしまう。

 「なんだよ……ちきしょう」

ユカリと会って、いろんなひとに会って、いろいろなことをして、あたいの力の使いかたもわかってきたのに、けっきょくこの二人のうさぎすら助けられずぴちゅーんか。

「ごめんね」 

あたいはだれにむけてあやまってる? ユカリか、このうさぎたちか、ほかのみんなか、そのぜんぶか。

 
 

 
 あたいは目をさました。よくわからん場所。白っぽい光があたりをてらしていて、いえとか木とかは見えない。でも力はうどんげとやり合ったときぐらいにもどっていた。
二人の女の子がいる。れいむと、れいむのようなふいんきだがれいむじゃない女の子。

「チルノ、今まであいつの面倒見てくれてありがとう。手がかかったでしょ」 れいむが言った。
「まったく、この世界を守ると言ったのに、しょーがないやつ」 れいむのようでれいむじゃない女の子が言った。

 「私らが出来る干渉はこれが精いっぱい。でももし失敗してもあんた達を恨まない。だから存分にやりなさい」
 「れいむ……」
 「私からもお願い。本来私たちで始末を付けるべきなんだろうけど、この世界、あなた達に託します」
 「あんたはだれ?」
 「私? ふふっ、私はあいつの昔の相棒」 

 れいむと、れいむのようでれいむじゃないそいつは、手をふりながら、すがたがうすくなっていって、それであたいは目がさめた。





 気がつくとあたいは元のばしょに横たわっていた。二人のうさぎもその場でまだ気をうしなっている。あたいの力はもどっているようだった。ひろばの方をにらむと、でかいもやもやが、かなり高い空にういている。あの中にユカリがいる!

 「お前ら、ちょっと待ってて」

 ねむっているうさぎに声をかけてあたいは走りだす。でもあいつに近づくにつれて、やっぱり力が吸われていくのをかんじる。それでも自分をはげまして、ユカリのえがおを思い出して、はねを思いきりはばたかせて、あたいはとんだ。

 どすん

 「だめだ、飛べない」

 わずかにういただけで、あたいはじめんにおちちゃった。 
 やっぱりあたいはダメなのかな。と思ったとき。なにか光っぽいのがとんできて、あのでっかいもやもやにあたった。もやもやに付いていたきかいのようなパーツがはじけとび、あたいの力がもどっていく。うったやつはまさかのひとだった!
 うどんげが、じゅうをかまえたポーズでいきを切らしている!

 「幻想分吸収装置を破壊しました。これであのアーマードオモイカネ、いや幻想食いは、直接触れない限り私たちの力を吸収する事はできません。今です!」
 「うどんげ、どうしてあたいを助けたの?」
 「今はあれを止めるのが先決と判断しました。それから……」 
 
うどんげが言いにくそうな顔になる。

 「こんな事を頼める立場ではないのですが。どうか師匠を……助けて」 

うどんげがなきそうなかおで、はをくいしばって頭を下げた。そりゃ、いろいろかんじることはあるよ、でも。

 「あたりまえだ!」 

ユカリのついでに、えーりんも助けてやんよ。

 「感謝します」
 「とにかく、まずあいつを何とかしなきゃだね」
 「はい、チルノさんは飛べますか?」
 「うん、うどんげは?」 
 「まだ飛ぶほどの力は。でも走れます。私があれの気を引くので、チルノさんは空から」
 「うん、じゃあ行こう」 

 あたいはとぶ、うどんげが先を走る。でっかいもやがうどんげをつかまえようと手足をのばす。でもうどんげはそれをひょいひょいよけちゃう。すごい。その間あたいは空からそいつをねらう。だんまく生成。でも急に力がぬけて、落ちそうになった。

 (とぶのと、だんまく、同時にはむりなのか?)

 あいつがあたいに気づき、うどんげにのばしていた手足の一つをあたいにむけた。
 つかまる! と思ったとき、大きな音がして、あたいのはねを、だれかがつかんだ。そんでひっぱられた。

 「やあ間一髪だったね、羽根を掴んじゃってでごめん」

 にとりだった。前とおなじようなひこうきにのっている。

 「改良型だよ、風見さんが湖にきて、助けが要るかも知れないって言うから飛んで来たんだ」

 ゆうかさんが! 何もしてくれないと思ったのに!

 「いやあそれにしても、あの人、結構熱いね」
 「今なんて?」
 「いや、なんでもない」 
 「にとり、ありがとう。悪いんだけど、あいつに近づける?あたい、とぶのとだんまくをいっしょにはできないから……ああっ」

 あの時、あたいが力をつかったせいで、ひこうきが凍って、それで……

 「大丈夫、改良型だって言っただろ。アンチアイス、オン! これでチルノが撃っても舵は凍らない」

 でっかいもやもやに近づいてくる。

 「信じるよ、じゃあいくね」

あたいはぜんりょくで氷をつくる、ひこうきはまだだいじょうぶ。にとりはすごい。

「いくよ、アイシクルフォール・いっこ」

だんまく全てを一つの氷にしてぶつける。もやもやのよろいが一部、はじきとんだ。でもあいつの中からでっかいつつみたいなやつが出てきて、そいつは火をふき、こっちにむけてとんでくる。ミサイルってやつか?

「やべっよけるぞ、つかまってな」

 にとりがひこうきをかたむける。でもミサイルはきように曲がってあたいたちを追いかける。

 「こうなったらあたいがおとす!」

ミサイルをこおらせて、そいてはあさっての方に落ちていってばくはつした。やった。

 「チルノ! あんたすごいよ!」 
 「どうだ見たか……って、前! 前!」

 知らないうちにもう一つのミサイルが前からせまっていた。なんだかメイドがじかんをあやつったみたいに、そのへんがゆっくりにかんじられて、あたいとにとりは目を閉じた。
 なぜかしばらくたっても、ばくはつはおきない。ひこうきはエンジンの音を立ててふつうにとんでいた。
 
 「あれ、なんでもない?」
 
 目をあけると、ミサイルはずっと後ろのほうで、たんぽぽやちゅーりっぷや、れんげそうとか、あっちこっちから花をさかせて落ちていった。

 「間に合ったわ」

 みすちーと、みすちーに抱えられたゆうかさんが空にいた。ゆうかさんは息を切らしていた。きっとゆうかさんもだんまくと、とぶのを同時にするのはきついんだろう。ゆうかさんの服はあちこちがよごれて、やぶけていた。あいつとたたかってじゃないみたいだった。

 「ゆうかさん、みすちー。来てくれたんだね。にとり、この人たちはみかただよ」
 「まさか貴方自身が来てくれるなんて。感謝感謝。この改良型飛行機、みごと咲いたよ」
 「歌の練習してたら、幽香さんが走ってきて、みんなが危ないって、力を貸してって、まさかあんな顔……」
 「やめて! 下らない事話す暇があったら、あの怪物をなんとかしなさい」

 よろいのついたもやもやは、ミサイルのかわりに手をのばしてあたいたちをつかまえようとした。でもにとりはそうじゅうかんを動かしてひらりとかわす。

 「よっと」

ゆうかさんを抱きかかえたみすちーも同じ。

 「パターンつかめたわ」 あいつからきょりをとった。あいつはあせっているみたいだ。
 
 「ゆうかさん、なんだよ~私にかんけいないとか、しかたないとか言ったくせに~」
 「むむむ、状況が変わったの。大人の事情よ。それより、貴方達はどうしたいの?」
 「あたい、ユカリとえーりんを助けたい。あの中に取り込まれちゃったんだ。あたいが中にとびこんで助けるから、みんな、あいつのよろいを引っぺがすのを手伝って」
 「この風見幽香に貴方を手助けしろと?」
 「うん、だめ?」 ゆうかさんの目をみつめる。
 「特別よ、感謝しなさい」

 あいつの方へ引きかえしてゆうかさんが手をかざすと、あいつのよろいに花がさいた。よろいはお花だらけになっておちていく。あたいも氷のつぶてをぶつけて、あいつのよろい、かがくのぶき、げんそうのぶきをはぎ取った。でもまだその下にまだよろいがある!

 「まだまだ火力が足りない。燃料もそろそろヤバイ。一旦もどるぞ」  

とおくから、だれかがとんでくる。

 「火力のご用命は」

 一すじの光が、あいつに当たって、ばくはつした

 「私に任せろ!」

 まりさとアリスが一本のほうきにのってとんできた。

 「ちょっと、魔力は二人合わせて浮かぶだけで精一杯なんだから。かっこつけないで!」
 「分かってるって。お前ら、助太刀するぜ! 箒の操作頼むぞアリス」

 二人はあたいたちより早くあいつの上についた。あいつがいっぱいの手をのばし、アリスがきつそうな顔でほうきをあちこちに動かしている。

 「魔理沙! これ以上よけながら飛ぶのは無理、魔力がもたない」
 「もう少し待ってろ、もう一発マスタースパークを食らわせたいところだが、これでもくらえ」

 まりさのスカートからがばくだんや人形が落ちて行って、ばくはつを起こし、あいつのよろいをはがしていった。とうとうあいつの中身があらわになる。

 「魔理沙、いったん降りるわよ」 
 「サンキュ、助かったぜ。おーいあとはそっちでやってくれー」

 今度はあたいのばんだ。

 「にとり、ありがと、もうさがっていいよ」
「ごめん、たのんだぞ!」
「チルノ!」とゆうかさん。「お願いだから、無理しないで」
 「ゆうかさんならもっと、しっかりやれ! とか、はげしくいうと思ったよ~」
「ばかねえ」 

顔をそらした、なんかこう、いつものゆうかさんじゃないみたい。でも、心配してくれてありがとう。

「ユカリ、今いくよ」

あたいはもやのど真ん中にとびこんだ。
 
「おりゃあああ」

もやの中はまっくらな水の中みたいだった。あたいは泳ぐようにして、ユカリをさがす。
だれかの声が聞こえてくる。

(ユカリなの? チルノだよ)





(輝夜が起きない。私の大事な輝夜。どうして? あの子を返して)

(ごめんなさい、霊夢をどうしても救いたかったの)

(こうなったら『幻想食い』をコントロールする)

(そうして幻想の成分を集めて、集めまくって、輝夜に与えれば、きっとあの子は目を覚ますはず)

(そんな……)

(もう貴方への断罪も、新たな幻想郷もどうでもいい。輝夜さえよみがえれば)

(なにがあっても、私たちは紫様の式です)

(もういかないで、紫さま)

(私は、ただこの世界を守るために生まれた)

(幻想の断片をかき集め、再び幻想を維持できる環境が整うまで、それを保持する)

(それが私の使命)





 (よくわからん。けど、幻想郷はあたいたちが守るからだいじょーぶ。それより、ユカリと、ついでにえーりんをかえしてもらうよ」

あたいはまっくらな中を泳ぐ。ついに目をとじているユカリをみつけた!
ユカリは一ぴきずつの、きつねとねこをだいてねむっている。式神たちもいた!

 (ユカリ、しっかり)

 あたいはユカリたちをかかえる。やっとまたあえた。心配かけさせやがって。そんで、えーりんもすぐそこに浮かんでいた。

 (あとでユカリにおこってもらうからね)

 みんなをかかえたり、ひっぱったりして、あたいがとびこんだ場所へもどる。ユカリもみんなもぶじだ、今までのつかれがふっとんだようだった。
 でも……。

 (あれ、出られない)

 ぶよぶよしたまくがはりつめていて、出られない。
 押してもたたいてもだめだ。このままじゃ、こいつにとかされてしまうのだろうか?

(外はまだ、元通り幻想を受け入れるまでになってはいない。機が熟すまで、ここでお眠りなさい)

(このもやもやが言ってんのか。あたいはいやだ。みんなは強い。ここから出せー)

 だんだんねむくなってくる。めざめる時はいつだろうか。





 「みんな、落ち着いて並んでくれ。荷物は最小限に。食べ物は手配する」

 私、上白沢慧音は河童軌道の人里停留所で、避難民の誘導を行っている。
 八意女史から真相を知らされた時、自身も知らない事実に衝撃を受けた。力が十分だった頃はすでに能力で真相を知れていたのかもしれない。八雲紫がこの異変と呼ぶにはあまりにも甚大な災厄の元凶だったとは。だが、と私は思う、八意女史の映像機械で知らされた「真実」は本当にありのままの事実なのだろうか? 映像に偽りを混ぜる技術というものがあるらしい。第一、処刑を急ぎすぎる感がある。八意女史は何を考えているのか。

「白沢様、メイドさん達が来ました」

 湖方面から来た汽車から、いつもの服装に大きなリュックを背負った十六夜咲夜女史を先頭に、メイドやその他の妖精達がぞろぞろと降りてきた。リュックにはなにやら大きい桃色の紙巻が差さっている。今はあの危険な物体が浮かんでいる人里付近からの避難が最優先のはずだ、なぜわざわざ人里へ?

 「十六夜殿、なぜここに来たのです? それに妖精たちも?」
 「何かが渡し舟より高速で湖を渡ってきたなと思ったら、必死で泳ぐ風見様だったんです。それで今回のことを知らせてくれて、パチュリー様が秘策を思いついたのです。大丈夫、みんな助かります」

 咲夜殿が妖精達に呼びかける。

 「みんな~消えちゃうから固まって行動するのよ」
 「は~い」
 「よっこいしょ」

 彼女がリュックを下ろし、その紙巻を広げると、そこに人間の絵らしきものが描かれている。

 「むきゅ~」 その絵がしゃべった!

 「十六夜どの、これは?」
 「ああ、幻想パワーが消滅して二次元だけの存在になったパチュリー様です」
 「これぐらいしか存在を維持できないのよー。まいったわ」

 パチュリー殿は普通に話している。十六夜殿は彼女を折り曲げて紙飛行機のようにした。

 「ではいきますよ、パチュリー様」
 「おっけー」

 パチュリー殿は空を飛び、桃色の煙を吹きながら空中になにやら模様を描いた。どうも魔方陣であるらしい。

 「さあ、妖精のみんな、消えない程度にあの魔方陣にエネルギー、気合い、祈り、こうなったらいいなという思い。また元の世界で遊びたいなあという思い、それらをありったけぶつけちゃって頂戴」
 「は~い。せ~の」

妖精たちが祈りをささげる、すると何かの力が光となって溢れ、魔法陣に注がれていく。

 「まだエネルギーが足りない、もっと祈って」 

パチュリー殿が上空を旋回しながら叫ぶ、ペラペラの体でどうやって声を出しているのか、いや今はそんな事はどうでもいい。エネルギーが必要、祈る、思いの力も幻想の力には違いない。私も祈るべきか? それとも今は人々の避難を優先すべきか?
普段楽しそうに遊んでいる妖精たちが、いつになく真剣に祈っている。その姿を見て、人々が一人、また一人、膝をついて思い思いの所作で祈りを始めた。私もあえてそれに倣う。力が失われた今、人知を超えた事象には、私も祈る以上の事はできない。

「人間の皆さんまで、これならいけますわ、パチュリー様」
「みんな頑張って、もう少しで助けを呼び出せる」

やがてなにか不思議で温かいものが私たちの中から生じ、魔法陣へと流れていくのを感じた。苦痛や疲労は感じない。思いの力は無限という事なのか?
魔法陣が輝き、異次元の空間から何か私たちの救いになるものが現れる。そういう事でいいのだな、パチュリー殿。

「おい! あれを見ろ!」 

誰かが叫んだ。遠くの空から、みんなの思いの力を感じ取ったのだろう、黒いもや、幻想食いが大量に飛んでくる。忘れていた。

「パチュリー殿、まだなのですか?」
「ごめん、もうちょっと力が必要なの。咲夜迎撃して! 少し時間を稼ぐだけでいいから! どうか白澤さんもお願い」

 幻想食いの数は増えていく、もうすぐここに来る。どれほど時間を稼げばいいのかわからないが、とても私とメイド長で防ぎきれるとは思わなかった。

 「ああ、慧音さま、もうおしまいでしょうか」
 「慧音様、いったい私たちはどうすれば」

 里の人々がすがるような目で私を見る。ごめん、あなた達を守り切れないかもしれない。

 「大丈夫さ、白澤の力を見せてやる、ちょうど腕がなまっていたところだ」

 精一杯の笑顔と不敵なせりふを吐き、自分とみんなを奮い立たせる。メイド長どのも同じだ。

 「私がお嬢様にお仕えし始めたころには、これくらいの敵は日常茶飯事でしたわ」
 「はは、そこまで物騒だったか?」

 メイド長の体がかすかにふるえている。彼女も私がそうなっているのを感じ取っているだろう。でもパチュリー殿の言葉を信じてやるしかない。
 湖のほうから更なる何者かが飛んでくるのが見えた、これでおしまいか? だが雰囲気が違う。同じ妖怪やこの世界の生き物たちだ。先頭にいるのは緑の髪の蛍の妖怪。

 「お~い、助けに来たよ~」

 蛍の妖怪のリグル・ナイトバグ君? が、多数の虫妖怪や虫たちを引き連れてやってくる。
 私と咲夜どの、里のみんなの顔に希望の光が差す。

 「いこう、咲夜どの」
 「はい、なんとかなりそうですね」

 リグル君と虫の仲間達は空を飛んで幻想食いをかく乱し、そこを私と咲夜どのが地上からの弾幕で狙う。久しぶりの弾幕はきつかったけれど、それでも絶望は感じなかった。

 「頑張って、もう少しよ」
 「白澤さん、腕はなまってはおりませんね」
 「そちらこそ、幻想の力が少ないだけで、反射神経も身のこなしもお強い」

 やがてみんなの祈りが十分に届いたのか、空中の魔法陣が淡く輝き始めた。

 「むきゅう、機は熟した。みんなよく頑張ってくれたわ。これで安心、と思う」
 「思う!?」 
 「どういう事です、パチュリー様」
 「大丈夫、私を信じて。だまされたと思って」

 微妙な言い方をしたパチュリーどのは魔法陣の中心近くで風にあおられながら静止し、呪文を唱えた。

「出でよ! この事態をなんとかするなにかよ!」
 
何を召喚するか決めてなかったんかい!

 「とにかく、結果オーライでいいので、来たれなんかよ! この際なんでもいいから!」

 もっとやばいモノが出てきたらどうすんだ!
 魔法陣がどこか異界へとつながり、そこから巨大な何かが飛び出してきた。それは船の形をしていた。あれは、命蓮寺の人たちが乗っていた船、聖輦船。
 その船は魔法陣から出た後、一切減速せずに人里の上空に浮かんでいる巨大な幻想食い~八意どのが操ろうとして失敗したもの~に突き刺さった。

 ~ちょっと、いきなり何なのよ~

 ~牛のお姉ちゃん、ぶつかるぶつかる~

~みんな伏せてー~

表面を覆っていた機械の構造物が完全にはがれ、その存在がため込んでいた幻想の力が霧散していく。安心したのもつかの間、落下した構造物が人里に落ちる。

 「ごめん、計算ミス」 パチュリーどの、やる前によく考えてくれ。

 何とかしなければ、と思い、落下する場所へ向けて走る、まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない。私に力は残っているか? しめた、幻想食いから解放された幻想の力が私にも戻ってきている。落下地点の前に走り、大きな破片に狙いを定める。

 「終符『幻想天皇』」

 光条と弾丸が破片を粉砕する。異変前ほどではないが、これならいける。しかし私が砕いた破片の一部が爆発し、破片が飛び散った。その先には泣いて親を探す少女がいた!

 (しくじった!)
 
 その瞬間がなぜか永い時間のように感じられた、ああ、あの子は助からないのか。うかつだった、力が戻ったからと浮かれすぎていた。私はなんて愚かなことを……。
 だが、そうはならなかった。破片は少女の前で何かに押しとどめられた。よく見ると、透明な網が太陽の光できらきら輝いている。一人の妖怪が、家の壁に垂直に立って両手を掲げていた。

 「危なかったね」
 「どうして君が?」 私は地底の住人であるその土蜘蛛の妖怪に声をかけた。
 「いやあ、たまには外の空気にも触れてみようかなって」
 「いや、どうして人間を助けたんだ。地底に追いやられた存在である君が?」
 「少しは交流もあったしね。それよか。あんたが人間を守る妖怪なら先に言うべき事があるんじゃないか?」
 「そうだった。ありがとう。礼を言うよ」 私は頭を下げる。
 「どういたしまして。キスメ、その子を親御さんのところに」 
 「うん、わかった。この桶に乗って」

 つるべ桶の妖怪は少女を乗せ。ふわりと浮かんだ。私は使い魔を出し、人々が避難している場所へつるべ桶を導いた。

 そして、巨大な幻想食いがいた空には、箒に乗った魔法使いや河童の飛行機械や、その他の妖怪が円を描くように飛んでいる。きっと彼らも事態打開のために動いていてくれたに違いない。
 空から何人かが塊になって降りてきた。よく目を凝らすと、チルノが背中に八雲紫どのを背負い、両手に式神の黒猫を抱き、両足にそれぞれ藍どのと八意どのがぶら下がっている。

 「重いよ、飛べる奴は飛んでよ~」
 「済まない、あれ、意外と力が戻ってきたぞ」
 「みゃあ」
 「橙、良かった」
 「貴方に助けられるなんて、妖精を甘くみていたわ」
 「どうだ見たか! でも早く降りて、結構キツイから」

 藍どのは空に浮かび、チルノから黒猫を返してもらい、抱きかかえて地上に降り、八意殿も意識が戻り、同じく着地した。しかし、八雲どのだけまだ彼女の背中で眠っている。

 「ユカリ、疲れたでしょ、まだ寝てていいからね」 その表情はわが子を慈しむ母親のようにさえ映った。もう今までのやんちゃな妖精ではないのだろうな。
 
 「にゃっ!」

 黒猫が空を見上げて鳴く。見上げると小さくなった幻想食いが彼女たちのもとへ向けて触手を伸ばしてくる。が、その勢いは弱弱しく、攻撃というより、救いを求めて手を伸ばしているようにさえ感じられた。

 「まだこいつ!」
 「チルノやめて」 紫どのが目を覚ます。
 「でも!」
 「いいの、この子はもう誰も襲わない」

 紫どのは目を閉じ、手を伸ばして、触手に触れた。何かのエネルギーや情報がやり取りされているようだ。
 
 「博麗大結界の幻想回収機構は停止、結界修復に集中」

 触手は次第に細くなり、幻想食いの姿も霧消した。

 「紫どの、これは?」
 「力が戻って、結界にアクセスする能力が戻りました。私のせいで結界が破損した後、結界は自動修復モードに入り、その一環として幻想の成分を回収していました」
 「つまり、あれはやはり結界の機能だったという事?」 

と八意どの。藍どのが代わりに答えた。

「その通りです。でもそれはもう終わり。結界修復完了とともに回収した幻想成分も全て幻想郷に放出されます」
 「つまり、これで異変は解決、というわけか?」
 「まだ終わっていません、私の愚かな行動で、それでも多くの幻想成分が流出してしまいました。この償いは必ずします」
 「紫様、私もお供します。あなたは確かに取り返しのつかない事をしました。でもこの幻想郷にはあなたの助けが必要なのです」

 黒猫が、にゃあ、と鳴く。

 「橙もついてきてくれるそうですよ」

 これでひとまず、あの黒いもやに襲われる心配はなくなったということか。危機が去った事によって、八意どのの独裁的な方針も終わるだろう。ひとまず休みたいところだが、里の人々を家に帰し、家が壊れた人々への宿の手配が必要だ。少なくともこの日の人間の死傷者がゼロだというのは不幸中の幸いだった。今はこれで良しとしよう。

 

投稿が遅すぎて、もう追っている方は少ないかも知れませんが、いちおう完結まで書くつもりです。
とらねこ
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