Coolier - 新生・東方創想話

くはふこ、紅白

2023/07/06 08:30:17
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「なにしてんの?」

それは、妖怪退治の帰り道のことだった。
神社より、郷が近いだろう場所。
森の中。
家で待つ藍に、おかずになりそうな何かを人里から買っておこうかな? と、とことこ歩いているとき、僅かながら妖気を感じたので、それを手繰ってみた。
……はたして、なんか木の上でぐったりしている妖怪がいた。
興味本位で声をかけてしまったら――

「見りゃあ解るだろうが、死にかけているんだ」

ぶっきらぼうな声が返ってくる。

「なんで?」
「見りゃあ解るだろうが、怪我しているんだ。見ろ、この深い疵痕を。肩からザックリ、まぁまぁ、もうすぐ死ぬるだろうよ」
「……死ぬ癖に平気そうね」
「まぁね、痛くないし苦しくもない、敢えて言うなら無念があるくらいか、それもまあ、どうでもいい」

……妖怪が口に出すにはあまりにあるまじき言葉をひとつ吐いた。
なんだこいつ?
視た感じ妖怪だが、死にかけているのも確か。
でも、外傷で死ぬ妖怪ってそういない気がするんだけどなあ。
とか思っていたら口から血反吐を吐き出した。
なんだか大袈裟な奴だなあ。

「で、あんただれ?」
「無礼なヤツだな、人の名を聞くときは自分から名乗るモンだ」
「私には名前がないから名乗れないわ」
「あー? ンな訳あるか。生まれたからには名前ってのは付くものだ」

そんな事言われてもなあ……“博麗”は私の名前ではない。
どう応えたものやらと考えていると、向こうも興味が無くなったのか、押し黙る。
少しだけ、沈黙。
そんなやりとりを経て、この妖怪に少し興味が湧いてきた。
死に真似して同情惹く妖怪は知っているが、ひとりで往生ごっこして悦に浸っている妖怪というのは初めてだ。
ヘンなヤツ。

「……なんか、死にそうにないわね」
「何故解る」
「あんた、しぶとそうだもの」
「ンだとォ……」
「勘よ、勘」

揶揄ってみた。
すると、気を悪くしたのか何なのか。
しばしの後に、木の上からもそもそしてこっちに顔を向けてきた。
生意気そうな顔。
だけど、なんだろうか。その眼には強い輝きがある。
こういう目を持つ妖怪は、大概大妖なのだが、しかしどうにもコイツは弱そうだ。
……それにしても身に気を使わない感じだな。
折角綺麗な目をしているのに、勿体ない。
そんな風に観察していると、向こうから何事か聞いてきた。

「お前巫女か」
「そうよ」
「だからこんな妖怪の出る処を餓鬼の分際で歩いているというわけだ」

歩いているのは飛ぶのが苦手なだけだ。
藍に教わっているが、どうも要領を得ない。
妖怪の殺し方ならまた磨きがかかったのだが……。

「まだ飛ぶのは未熟なの」
「いやそう言う意味じゃ――」

ソイツが、言いかけたと同時に再び血反吐を吐いた。
つくづく人間のマネの好きな奴だ。呆れ半分面白半分で見ていると、なんとソイツが勝ち誇った顔になって言い出した。

「ほれみたことか、もうすぐ死ぬぞ、さまあみろ」
「何怒ってんの?」
「……しぶといだけで生き残れる様な疵痕に見えて堪るか。私の死は私が決める。勝手に決めるなってこった」
「何言ってんの?」
「お前が死なないと言った以上、私は死ぬと決めたんだよ……もう良いから、何処へ為りとも消えちまえ」
「じゃあ、助けてやるわ」
「は?」

あんまり面白いからついつい構ってしまう。
飛ぶの下手糞だから、先にこっち、と符を放って死にかけ妖怪を捕らえる枝を破壊する。
支えを失った身体が落ちるのを、注意しながら浮かんでもふっと支えてから、そろりそろりと地へと降りる。
ついでに「重いな」と厭味一つ意地悪しつつ、自分より図体のデカいそいつを横抱きのままで降り立ち、それからそっと寝かせてやった。

――少しばかり悔しいけれど、藍には感謝している。

武器の使い方、力の搾り方、手加減を教わったのだ。
そんなもの、敵を見たら殺せば良いだけなのに必要ない、そう言ったのだけど。

藍に曰く「お前は強すぎる。制御のために武器を持ち、術を識れ。いいか? お前の破壊は大雑把すぎる。それはきっと災いの元になる。いいから騙されたと思って修練しろ。必ず役に立つ。いまお前に必要なものは威力ではない、威徳なのだ」とのこと。

今この時には助かったというか、格好を付けることが出来た。狙った通りの場所に絞った攻撃ができるのって、たのしいな。
すると、さっきまで威勢のよかったヤツが、少しばかり驚いた調子で聞いてくる。

「お前……なんなんだ」
「巫女だって言ったじゃん」
「巫女だからってほいほい空飛べるわけねえんだよ、阿呆」
「じゃあ、私は妖怪退治の巫女よ」
「じゃあってなんだ、阿呆……って、妖怪退治!?」
「うん」

まだまだ私の有名さは広まっていないようね。
これも藍に曰く「お前の脅威は既に大妖には噂程度に知れ渡っている。博麗の名を迂闊に出すなよ」とのことだった。

迂闊にって、何を以て迂闊なんだろうか。
解らないけど、自分の名前くらいほいほい教えてバチの当たるモンでもないでしょうに。
まあ、いいか。
コイツは私のそんな事に拘ってなさそうだし。
なんかふいんきをそれっぽくしてやり過ごしちゃおう。

「あんたはどうにも妖怪ね」
「…………」
「あらだんまり」
「…………」

面白いやつだなー。
ちっぽけな生命にだって面白いか、そうでないかの差があるのだ。
妖怪だからって、皆即殺してはいけない。
甚だ面倒臭いが、最初に藍から教わったことだ。

曰く――
「お前の心配ではない……言いたかないが、妖怪でも大妖となると、あっさり滅ぼされては困るのだ。だのにお前はそれが出来てしまう、まるで蟻を踏みつぶすかのように……紫様がお前に如何教えたのかは解らん。だが、お前は破壊者ではない、調停者にならなきゃいけないのだぞ……まだ妖怪達は、お前を理解していないものが多いのだ。ああ、こら、面倒臭そうにしない……要するに、お前は強すぎる、振うちからが災厄そのものになる……ちからの使い方を学びなさい」云々

あの言葉の意味はちょっと掴みかねているが……。
だけど、すぐ殺さなければ、こうして会話を楽しむこともできる。
事のついでに治療しておいてやるか。でっかい絆創膏貼る程度だけど、まあ穴くらいは塞がるだろう。
感謝するが良いわ。
なあんて思っていたら、ある程度は予想できた反応が返ってくる。
でも誤解しないで欲しい。助けたくなったのは本当で、いたぶっているわけではない。
私は一度だって殺すことを躊躇ったことはないのだから。

「お前、なんで助けた」
「えー? 先ずはありがとうって言うのが普通じゃないの?」
「バーカ、この疵痕を見ろ、どうしたって死ぬる、ン、だ……あれ?」
「ふふん」

この子がどんな反応をするのか見るのがこんなに楽しいなんて。
このきもちはなんだろうか?
今、私、会話が楽しい。
藍と喋っているときとはまた違う楽しさがある。
妖怪と喋ることを楽しいと思えるなんて、やっぱり私は妖怪巫女なのかな。
そんな風に思っていたら、唐突に立ち上がってきた。
予想外の行動に目をぱちくりさせてしまう。

「ずが……」
「ずが?」
「頭が高ェんだよ……見下ろすんじゃネエ……!」

ええー?
そう言うこと、云う?
あくまで譲らないのか、でもこっちだって退きたくない。

「…………お礼は?」
「……あ?」
「あ?」
「……あ、あ、阿呆か! 死は私が決めると言ったバッカじゃネエか! 何を邪魔してけつかる!」
「ふふん」
「ふふんじゃねェよ!」
「元気じゃん」
「………………」

どうだ、お礼の一つもしやがれってんだい。
藍もコイツも、私の身長が低いことで勝ったと決めるのは、狡いと思う。
ほんと、面白いヤツ。だから、何が何でもお礼を言わせてやりたい。
だけど――。

「あーっ! 畜生!」
「わっ」
「手前、その顔憶えたからな、二度とその面ァ見せるんじゃねえぞ、妖怪巫女!」

そこまで言ったらぎゅーんっと凄い勢いで空の彼方に吹っ飛んでいった。
凄い早いな!
とても追いつけそうにない。

「くそー、逃げられたか」

なんだったんだろうあの妖怪。
……まあ、その内また逢えるかな……。
多分アイツはしぶとい。
私でも、殺しきれるか解らない程度に。

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