Coolier - 新生・東方創想話

しんげつのよるに

2023/01/26 00:27:18
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―――いいかい魔理沙、夜の森を出歩いてはいけないよ。いくら君が魔法使いだからといって。特に、こんな新月の夜はね。

「よう、香霖、泊まりに来たぜ」

 ドアを蹴飛ばして入ってきたのは、枕を脇に抱えた魔理沙だった。魔理沙はいつも唐突に入ってくるが、一月に一回、今日ばかりは予定調和だ。二人分の布団の用意もすでにしてある。いつものように、他愛もない会話をして、暗くなったので、二人とも布団に入る。ただし、ランプは付けたまま。

「おい、そのランプ消すなよ」

―――分かっているよ、何年君の面倒を見ていると思っているんだ。

 そう言うと、魔理沙は少し頬を赤くしてそっぽを向いた。魔理沙は、眠るときに、完全に暗くなることを嫌う。普段は月明かりがあるからいいが、今日のような新月の夜だけは、こうして眠る。ちょうど、魔理沙が魔法使いになりたての頃だった、あの晩から。

―――何でかって?そりゃあ、森は危険だからね。妖怪?そんなものじゃないよ。幽霊?違う違う。
・・・・・・もっと怖いものさ。

◇◇◇

 私は、家が嫌で、自由になりたくて、幼いころに霧雨の家を飛び出した。他に行く当てもなかったので、無理やり香霖堂に居候させてもらうことにした。しばらくは、実家から持ち出した魔法の本と、店のマジックアイテム、そして森で拾ったキノコと格闘する日々だ。一度、香霖堂を爆破しかけて、あの時ばかりは香霖が鬼に見えた。そうするうちに、段々と魔法が使えるようになってくる。森の奥にも行けるようになり、そのころには、妖精や、弱い妖怪くらいなら返り討ちにできるようになった。

 私はその日、浮かれていたのだと思う。店の奥で見つけた、白いブラウスと黒のロングスカート、赤いミニネクタイとリボンを付けて、スキップを踏みながら、森へ向かった。その日、森は不思議と静かだった。獣や妖精たちも、息を潜めたかのようにしんとしている。そのせいか、いつもよりもキノコが豊作で、私はいつの間にか、森のかなり奥に居た。日は、沈みかけていた。

◇◇◇


―――何か?それはね、暗闇だよ。ピンとこないかい?でも、見えるものより、見えないことの方が、余程恐ろしいんだよ。


◇◇◇

「だいぶ遅くなっちゃったなあ・・・そういえば、今日は新月か」
 空は夕日の残り香でほんのりと染まっているが、それに応えるはずの月は姿を現さない。自然と私の足取りも早くなっていく。 急がないと、日が落ちてしまう。別に、香霖の言いつけを本気で守ろうとするほど殊勝ではなかった。けれども、その日は。夜が来るのが、何故か怖かった。

 やがて、日が落ちた。私はまだ森の中にいた。鬱蒼とした木々は、おどろおどろしいシルエットのまま、そこに佇んでいる。風が葉を揺らす音が言いようのない不安を煽る。私は焦りながらも、一度立ち止まってランプに灯をつけようとした。

 その時だった。「夜が来た」。反射的にそう感じた。とっさに後ろを振り返る。そこには、ただ暗い森がある。違う、森ですらない。ただ昏(くら)いのだ。その空間自体が、ただ昏く、何もない。
「あれ」は、まずい。何かはわからないけれど、きっと追い付かれたら死ぬ。幼心に本能的に理解した。私はただただ恐怖から走り出した。

「はっ、はっ、はっ」
 こわい。なにもない、なにもないからこわい。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
 こわい。なんで、なんでこんなにとおいの。もういやだ。もうはしりたくない。でもわかる。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
 とまったら、だめだって。

 灯りが見えた。香霖堂の灯だ。やった!やった!心から安堵する。ドアから香霖がランプを持って飛び出して来た。見たことのないくらい怖い顔だった。でも、それが嬉しくてたまらなかった。最後の力を振り絞って駆け出す。

 でも、そこで。木の根が足に絡まった。私の体は前につんのめる。不思議と冷静だった。ごめん。香霖。香霖がちゃんと言ってくれたのに。

 「なにか」がもう迫ってきた。「なにか」が、私の髪を撫でた。そのまま、「なにか」が―――。

「―――魔理沙っ!!!!!」

 一瞬だけ、「なにか」がひるんだ。明るいものが飛んできた、ああ、ランプだ。香霖が走り寄ってきて、私を抱きかかえて、香霖堂に入る。そのまま、勢いよくドアを閉めた。
 
 香霖は何も言わずに、私を痛いくらい強く抱いた。その温かさでやっと、私は帰ってこれたんだとわかった。緊張の糸が切れて、私は香霖の胸で泣きじゃくった。

 泣き止んだ後、香霖に、髪をどうしたのかと聞かれた。鏡を覗き込むと、私の長い髪と三つ編みは、まるで綺麗に切りそろえたみたいに無くなっていた。

 森を振り返った。ただ昏い森があった。でも一瞬だけ、「なにか」と、眼が合ったような気がした。








◇◇◇







昏い森から、声がした。

―――こんなかんじだったっけ。あのこ。

ただただ昏い中に一人、白いブラウスと黒のロングスカート、赤いミニネクタイとリボンの金髪の少女がいた。

―――またあえるといいなあ。だって。

新月の夜、一人笑う。

―――あのこのかみ。とってもおいしかったもの。
実家のパソコンで、中高生のころの書きかけの文章を見つけました。
なんかそのころの小説上手くて、ちょっと悔しかったです。
「急がないと」のところからですね、今書いたのは。
いかがでした?楽しんでいただけたら幸いです。
ささかまぼこ
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.90名前が無い程度の能力削除
良かったです。
4.100南条削除
面白かったです
闇の不気味な感じが出ていてよかったです
5.100雨宮幽削除
面白かったです。
小さい頃の魔理沙の心情から暗闇に居る何かへの恐怖心への描写が良いことと、魔理沙の霖之助への信頼、霖之助の魔理沙への大事さが短い文中でもしっかり感じられて素敵でした。
6.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、ルーミアは幼いころの魔理沙の姿に似せて人型をつくっているだけで、本来は不定形の闇そのものの恐怖だったとは……不思議としっくりとくる解釈でした