Coolier - 新生・東方創想話

Shine of silver

2006/01/29 04:39:10
最終更新
サイズ
42.38KB
ページ数
1
閲覧数
1643
評価数
17/108
POINT
5380
Rate
9.92




『働いたら負けかなって思ってる』







ある時代を象徴する名言である。
だが、その言に誰もが頷くとは限らない。
特に、この人物にはまったく理解できない言葉だろう。


「……はっ!」

気合一閃、白刃が唸りを上げる。
物理法則に従って枝が地へと落ちた頃、彼女は既に次なる目標へと身を躍らせていた。
白玉楼が庭師、魂魄妖夢は、本日も労働基準法を大絶賛シカト中である。

目にも止まらぬ速度を維持しつつ、一欠の迷いも無い太刀筋で、一つ、また一つと枝は落とされる。
傍目には、お前適当にぶった切っとるだけちゃうんかい。とでも言いたくなりそうな所業だが、
現時点では眺めているような人物は存在しなかったし、いたとしても突っ込みは出来まい。
未熟だろうが半人前だろうが幼女だろうが、彼女は紛れもなくこの庭の管理者なのだから。

実際、妖夢の剪定作業と言えば、毎度が毎度このような感じだった。
白玉楼の庭は二百由旬に渡るとも言われる程に広大であり、その敷地を埋め尽くす桜の本数もまた膨大。
故に、精密さよりも速度が重視されるのは止むを得ない。
状況判断は、培った経験により補えるというのが妖夢の考えである。
が、世の中そうは甘くない。
何しろ、異変が起こってもらわないと話が始まら……ゲフンゲフン。



慣れた頃が一番怖い!

仕事とはそういう物なのだ。
これを理解するには、言葉ではなく直接体験するのがもっとも有効な手段である。
その機会は、直ぐにやって来た。

「鰤大根とほうれん草の胡麻和えっ!」

夕食の献立に想いを馳せつつ……というか口にしつつ、次なる目標へと跳躍。
枝へと狙い違わず楼観剣を振るっては、地面に着地したその瞬間。
がきょん、と鈍い音が、妖夢の耳へと届いた。

「……がきょん?」

予測していたものとは異なる音に違和感を受けたのか、妖夢は脚を止め、後方へと目を向けた。
たった今切り落とした筈の枝は、今だ樹木本体との逢瀬を満喫中。
その代わりに、銀色に輝く何かが、本来枝の落ちる筈の地面に横たわっていた。

「……」

無言で手元に視線を動かす。
そこに、見慣れた愛刀の面影は無い。
ただの抜け殻となった柄のみである。
ライトセーバーならいざ知らず、この状態を平常と呼べる刀は存在し得まい。
パパから貰ったクラリネットは鳴らず、爺から貰った楼観剣は切れなくなったのだ。

「え……?」

そんな現状を把握すべく、妖夢の脳がフル稼働し始める。
しかし、彼女の脳内CPUは、処理能力こそ悪く無いものの、致命的なまでに冷却機能が追いついていなかった。
即ち……。


「ええええええええええええええええええええええええええええ!!」


サンダーバードはここに焼き鳥へと化した。
広い広い白玉楼の庭に、甲高い叫び声が響き渡った瞬間である。








『よーむー? どうしたのー?』

呼応するように届くのは、幽々子の声。
記憶が確かならば、確かお昼寝の真っ最中であった筈なのに、だ。
この主、気付いて欲しくない時に限って、反応が早かったりする。

「ど、ど、ど、どないしよ! ホンマ参ったわ! しかし!」

言動が大いに乱れる。
それ程までに妖夢は動揺していた。
声の距離から察するに、幽々子がこの場へとやって来るまで、そう長い猶予は無い。
故に彼女は、この先訪れるであろう光景を必死に思い浮かべる。
メインCPUは終わってしまったので、サブCPUで、だ。




パターン1 幽々子様、直で激怒

『ああん? 楼観剣ブチ折っただぁ!? 
 こんのクソジャリが! ○○の穴から○○突っ込んで○○いわしたろかい!』



パターン2 幽々子様、静かに激怒

『形あるものはいつか失われる……自然の摂理というものね。名残惜しいけど仕方ないわ。
 ああ、安心して頂戴、閻魔様には取り計らっておいてあげるから』



パターン3 幽々子様、心の底で激怒

『ああ、いいのよ別に。気に病むような事では無いわ。
 ところで妖夢。この間噂に聞いたんだけど、真の美味というものはハーフの種族の肉にこそ……』





「……」

驚きに紅潮していた顔から、次第に血の気が引いて行った。

「(……逃げよう!)」

よって、妖夢の心は簡単に決まった。
刀身のみとなった楼観剣を拾い上げると、一目散に駆け出したのだ。

冷静に考えるならば、別にこの場を離れる必要など無い。
むしろ、余計に事態を悪化させるだけである。
だが、今の彼女にそれを求めるのは、余りにも酷であった








「よーむー、……あれ?」

程なく姿を見せる幽々子。
人影は無い。
だが、地面へと散乱する桜の枝葉が、それまで誰かが存在していた事を証明していた。

「……むー?」


























「うーん……ただ目釘が折れたという訳でも無いな……最近、手入れを怠っていただろう?」
「……恥ずかしながら」

白玉楼を飛び出した妖夢は、毎度お馴染みの香霖堂へと顔を出していた。
混乱していた割に、まともな選択であったとは言える。
もしこれが博麗神社であったなら、今頃は奉納されているか、お払いを受けていた事であろう。

「やはりな。
 ともかく、これは専門家でないとどうにもならないよ。
 良ければ知り合いの刀鍛冶に話を付けておくが、どうする?」
「……では、お願いできますか」

嬉しい誤算か、店主の霖之助は、刀剣の類いにはそれなりの知識を持ち合わせていたようだった。
が、それと引き換えに、妖夢は大いなる自己嫌悪に陥る事となる。



「それで、直るまでどれくらいかかるんでしょうか」
「……正直、分からないな。
 何しろそいつは、腕は確かだが、決まった場所に居を構えない変わり者でね。
 運良く見付かったとしても、すぐに仕事にかかってくれるかどうかも気分次第という奴だ」
「……そう、ですか」

妖夢は力なく項垂れた。
霖之助曰く、白楼剣の方も怪しいという事で、同時に依頼に出す羽目となったのだ。
自業自得であるとは言え、この事態は歓迎し難い。
話し振りからして、少なくとも数ヶ月の間、楼観剣と白楼剣は戻っては来ない。
その間、妖夢は完全な丸腰となるのだ。

庭仕事に関しては左程問題は無い……というか、本来刀を必要とする業務では無い。
だが、妖夢のもう一つの肩書きである警護役という任を果たすには、極めて大きな問題だった。
妖忌からは素手での格闘もそれなりに手解きを受けてはいたが、所詮はそれなりに過ぎない。
あくまでも、得物を使った戦法こそが、現時点の妖夢が力を発揮できるスタイルなのだ。


「あの、店主さん」
「ん、なんだい」
「こちらのお店では、武具の類いは扱っているんでしょうか?」
「無い事は無いが……何故だい?」

眼鏡の奥の瞳が、訝しげに細められる。
妖夢は、何故か言い知れぬ緊張感に包まれる。

「い、いえ、その、私の仕事柄、どうしても戦いに使える得物が必要なんです。
 他に心当たりも……」

ある。
実は沢山ある。
だが、幽々子に内密に事を進めるとなると話は大きく変わる。

「……ありませんし、こちらなら何とかなるかな、と」
「ふむ、そういう事なら構わないが……失礼だが、お代は持ち合わせているのかい?」
「あ、はい、それは大丈夫です。こういう時の為に祖父が用意しておいてくれましたので。
 それに私としても、もう雪下ろしは御免です」
「アレは当然の事だろう。むしろ対価としては安いくらいだよ。
 まぁ、最初から最後まで払う気というものを感じさせない連中を思えば、君はまだ上客の範疇だけどね」
「……」

そう言うと霖之助は腰を上げて、リクエストの物色に入った。
連中というのが誰を指しているのかは聞くまでもなかった。
生憎、というかその二人の姿は今のところ無い。
いたらいたで余計にややこしくなりそうなので、むしろ幸運だったかも知れない。







「そうだな……これなんてどうだろう」

どすん、と重量感溢れる音が店内に響く。

「……なんですか、コレ」

思わず、疑問の声を漏らす。
台上に置かれた物は、全長四尺に渡る長大な代物。
だが、刀身が無いことから、刀剣では無いという事は分かる。
というか、どう見ても金属製の棒にしか見えなかった。
一つ変わった点と言えば、先端に当たる部分が若干反り返っており、かつ二股に分かれていることくらい。
ただ、それだけだった。

「これこそが、歴史に名を残す伝説の一品。その名も『バールのようなもの』だ」
「……バールのようなもの? バール、では無いのですか?」
「違う。これはあくまでも『バールのようなもの』だよ。
 バールなんかと一緒にして貰っては困るね」
「……はあ」

妖夢の思考回路は疑問符に埋め尽くされた。
そもそも、バールというものが何を指しているのかも知らないのだから、混乱は深まる一方である。

「そ、それで、この武器はどうやって使用するものなんでしょうか。
 ……というか、これは武器なんですか?」
「僕の見立てによれば、主に相手の背後に忍び寄り、一撃で撲殺するための武器らしいな」
「……」

という事は、暗器の類なのだろうか。
だが、それにしては余りにも作りが大仰に過ぎるのではないか。
殴打するだけなら、石や砂を袋に詰めただけの物でも十分だろう。
確かに破壊力はありそうだが、それ以上に犠牲になっている部分が大きい気がした。

「言ったろう? 主に、だって。
 この品の真価は汎用性にこそあると言っても過言じゃない」
「……はあ」
「例えば、鍵を掛けたままの扉を抉じ開ける。
 床材を剥がし起こす。重い荷物を持ち上げるのに隙間を作る。等々、使用法は多岐に渡る。
 正に一家に一本の名品だとは思わないかい?」
「……はあ」

どちらかと言うと、そっちの方が本来の使用法ではなかろうか。
伝説の品なのに一家に一本というのも不思議な話だ。

「踏ん切りが付かないか。よし、ならば今日だけの特別サービスで、高枝切り鋏と……」
「あ、ああ、もう結構です。私の身には余る代物のようですし」
「そうか……残念だよ」

そう言うと霖之助はバールのようなものを投げやりに背後へと放り投げた。
どうやら、あまり良い方向の伝説では無かったようだ。
そんなものを売りつけようとした霖之助も、中々のガッツマンではある。

「ええと、出来れば刀剣類が良いんですけど。使い慣れてますし」
「何だ。そういう希望があったなら先に言って欲しかったな」

気付け。と口元まで出かかったが、何とか押さえ込む。
この男相手に口で戦いを挑むのは、余り利口ではないと気付いていたからだ。
もっとも、妖夢が口で勝てる相手がいるのかどうか怪しいものだが。







「っしょっと。な、なら、これなんて、ど、ど、どうだい?」
「でかっ!」

感想は、妖夢の一言に集約されていた。
でかい。
とにかくでかい。
大きい、という表現は可愛さが過ぎるのでこちらを使わせてもらう。
何しろ霖之助は柄にあたる部分を抱えているのみで、まったく持ち上げられていないのだ。
例えるなら、取り壊された鉄板焼き屋の残骸。
だが、柄がついている以上、これは紛れもなく剣なのだろう。

「こ、こ、これこそが、一撃必殺問答無用天下無敵飯豊蔵王のめ、名剣、『竜殺し』だ、だっだ。
 お、お、お、重っ、つ、潰れ」
「あああ! もういいですから床に置いて下さい!」

待ってました、とばかりに霖之助が手を離す。
どすん、と地響きを発生させつつ、竜殺しは床へと横たわった。

「ふぅ、ふぅ、つ、疲れたな、や、やはり僕は肉体労働には向いてないらしい」
「……それ以前の問題だと思いますけど」

そもそも、記憶が確かならば、この店の品物は、殆どが霖之助が拾い集めてきたものの筈だ。
片側を持ち上げるだけでこの有様なのに、一体どうやって運んできたのか、甚だ疑問である。
が、聞くだけ無駄なのは分かっているので、あえて無視することにした。

「それで、この……竜殺しでしたか。これをどうしろと?」
「ん? 変な事を聞くね。刀剣を所望していたのは他ならぬ君自身じゃないか」
「……私に使えるとでも?」
「確か、君は剣を使う程度の能力を持ち合わせていただろう。何とかなるんじゃないかと思ったんだが」
「剣じゃなくて剣術です。大体、私の遺伝子には、これを剣として認識するほどの度量は無いと思います。
 というか、コレ。持てる人なんているんですか?」
「どうだろうね。打ち捨ててあったくらいだから、誰も使えなかったか、
 もしくは使えるだけの人物がいなくなったか……」
「……」

だんだん頭が痛くなってきた。
この人物は、まともな商売をする気があるのだろうか。

「そんな武器、意味無いじゃないですか!」
「僕に怒られても困るよ。
 大体、竜を殺せるという一点さえ通過出来れば、持てるかどうかなんて
 些細な問題だと思ったんだろう」
「……」
「それで、どうだい? 今なら究極の模造剣『ウォーパルブレード』もおまけするよ」
「……結構です」

おまけのほうが役立ちそうな気もしたが、そこを突っ込むだけの気力は無かった。


「そうかい……よし、なら次だ」
「つ、次って、まだあるんですか?」
「当然だとも。香霖堂を甘く見てもらっては困るな」

霖之助は瞳を爛々と輝かせてはガラクタ……もとい、商品の物色を再開する。
どうやら彼の中で、スイッチが入ってしまったようだ。







「感情を力へと変換する聖剣、黄金剣などどうだい?」
「ただの木刀じゃないですか」


「伝説の勇者が大魔王退治に使ったとされる名剣はいかがかな?」
「私の目には、檜の棒にしか見えませんけど」


「神をも一撃で葬り去る宝具、その名もチェーンソー!」
「素早さが高すぎて使えませんよ……」


「これを出す日が来るとはね。……ふ、ふふふ……それももう覚えたッ!」
「乗っ取られてる!?」








「ふぅ……君は本当に好みが細かいね」
「……私が悪いんですか……」

妖夢が香霖堂を訪れてから、早二時間程が経過しようとしていた。
が、得られたものはというと、霖之助によるどうでもいい知識と、多大なる疲労感くらいのもの。

「(もしかして、私は凄く無駄な時間を過ごしているんじゃないだろうか……)」

遅ればせながら、その事実に気付く。
妖夢とて暇を持て余している訳でもなく、むしろ急いでいるくらいだ。
まだ問題は解決していないが、これ以上ここに留まっても良い結果は得られないだろう。

「あのぅ、そろそろ失礼させて……」
「こうなったら封印指定コレクションを出すしか無いか……」
「って、聞いてないし」

おまけに、何やら不吉な言まで漏らしていた。
無視して帰ろうか。
そう考えた矢先の事。


「あら、誰かと思えば妖夢じゃない」


どこか聞き覚えのある声が耳へと届く。
勢い良く振り返ると、そこには、見知った顔の女性が一人。

「あ、咲夜さん。こんちには」
「はい、こんにちは。
 こんな所でどうしたの?」
「……こんな所とはお言葉ですねえ」
「あら、嫌ですわ。言葉のアヤというものですよ」

おほほ、とわざとらしく笑う咲夜。
もっとも、霖之助に怒ったような様子は見られない。
その程度には付き合いがあるという事なのだろう。

「ちょっと個人的な事情と言いますか……」
「?」

妖夢は僅かに口篭るが、隠し立てしても意味が無い事に気が付くと、
事の顛末について簡潔に語り始めた。
もちろん、霖之助の持ち出した品々には触れずに。





「……という訳です」
「成る程。確かに貴方にとっては死活問題でしょうねぇ」
「ええ、本当に……」

特に何かを期待して話をした訳ではなかった。
少なくとも霖之助よりはまともな意見が聞けるんじゃないか。その程度のものである。
だが、咲夜の口から出た台詞は、妖夢の予想を大きく超えるものだった。

「そうね……妖夢。貴方、これを使ってみる気は無い?」
「え?」

刹那。
咲夜の両の手には、それぞれの指と同じ数の、鋭い切っ先が出現していた。
大方、時間を止めて取り出したのだろうが、分かっていてもやはり驚いてしまう。

「ナイフ、ですか?」
「ええ、そうよ」

十六夜咲夜の象徴とでも言うべき、銀の短剣。
切り付ける、突く、弾くといった基本的な動作から、
彼女の能力である時間操作と組み合わせた変則的な投擲まで、
その変幻自在の使用法には、幾度と無く苦しめられてきた記憶があった。

「まぁ、同じ刀剣類ってだけかもしれないけど、それでもアレを振り回すよりは馴染み易いと思わない?」
「……そうですね」

アレ、についての詳細は、意図的に聞かずにおいた。
どれでも同じようなものだからだ。

「貴方なら間違いなく筋は良いでしょうし、直ぐに使いこなせるようになると思うわ」
 私も独学で身に着けたものだから、かなり変則的になるとは思うけどね」

要するに、指導してくれるという意だろう。
正に至れり尽くせりだ。
だが、そうなるとむしろ疑念のほうが先に立つ。

「とてもありがたい話とは思います。
 ……でも、何故ですか?」
「何が?」
「その、私と貴方は一応敵同士のようなものですし、
 そうでなくとも、厚遇を受ける程の関係とは思えません」
「細かい事を気にするのね。子供の癖に」
「む」

自覚はしていたが、直で言われると少し気に障った。
悪気があった訳ではないのか、咲夜は微笑を浮かべては、続けて口を開いた。

「別に他意は無いから安心なさい。
 ただの気紛れのようなものだと思えば良いわ」
「……はぁ」
「それに……何と言うか、貴方って何だか放っておけないのよね。
 黙っていたら、それこそ地獄の果てまで突っ走って行っちゃいそうで。
 戦ってる時はあんなに凛々しいのに、どうして普段はこうなのかしら」
「……」

馬鹿にされているんだろうか、と思っては見たが、
どうにも心当たりが在りすぎて、真っ当な反論は出来そうになかった。

ともあれ、疑念はほぼ解消されたと言って良い。
咲夜が嘘を付く必要性が見当たらないからだ。




「では、お言葉に「お待ちなさい!!!」




妖夢の返答は、何者かの叫びによって遮られた。


「甘い。甘すぎるわ。マッ缶すら上回る甘さね。成人病まっしぐらよ」
「誰!?」


最初に咲夜が、少し遅れて妖夢が扉に向けて振り返る。
そこには、入り口扉を開け放っては、陽光を背に仁王立ちする人物の姿があった。
そのせいで顔が影となってよく見えないのだが、
服装的及び身体的な特徴は人物を特定するに十分だった。
赤くて黒くて、なおかつ、ある一部分が大変にビッグサイズなのだ。

「って、いつぞやのマッド薬剤師じゃないの」
「八意永琳よ。名前くらい覚えて頂戴」
「そう言えばそんな名前だったかしら。
 どうでも良い事は記憶に残しておきたくない性分なの」
「成る程。確かに貴方にとっては都合の悪い記憶だったわね。
 それならば忘れてしまうのが一番の処世術……違いないわ」
「……喧嘩を売りに来たの?」
「生憎、私はそれ程暇じゃないわ。ここに来たのは、ただの偶然よ」

嫌悪感を露にする咲夜だが、永琳はそれを涼しげに受け流すと、妖夢へと視線を向けた。

「お邪魔しますわ。……こんにちは妖夢」
「あ、はい、こんにちは」

妖夢は慌ててぺこりと頭を下げた。
唐突な状況の変貌に付いていけなかったのだ。

「話は聞いたわ。でも、このメイドの口車に乗せられては駄目よ」
「……何よそれ。どういう意味?」
「あら、分からない? 自分で気付いて無いようではなお性質が悪いわね」
「だから、一々遠まわしに言うんじゃないのっ!」
「そんなにカリカリしないの。皺増えるわよ?」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「まったく……いいから聞きなさい。貴方の間違いについて指摘してあげるから」
「……分かったわ。聞かせて貰おうじゃないの」

渋々といった表情で咲夜が引き下がる。
永琳はその様子を確認すると、一つ咳払いをしつつ妖夢へと向き直った。

「楼観剣と白楼剣……だったかしら。この刀、相当な業物よね?」
「え? あ、はい、そうだと思います。自分で言うのも変な話ですけど」
「でしょうね。私も長いこと生きているけど、これ程の霊力を秘めた刀は滅多に見かけないわ。
 ……でもね、だからこそ代わりとなるような武器には、相応の格というべき物が必要なのよ。
 本物には本物を、ってね。
 あ、誤解しないでね。別に貴方のナイフを貶している訳じゃないから。
 ただ、貴方の戦闘スタイルを考慮すると、どうしたって量産可能な品が選ばれるでしょう?」
「それは……否定しないわ」

視線を逸らしつつ、小声で答える咲夜。
先手を打たれた為に、憤るタイミングを逃したという所か。

「でも、そんな品は簡単に手に入らないでしょう?
 まさか妖夢にアレを振り回せとでも言うの?」

咲夜の指さす先には、地面へと転がるバールのようなもの。
確かに本物と言えば本物なのかも知れないが、それ以前の問題のような気がした。

「まさか。とてもじゃないけど妖夢には無理よ。
 ……いえ、アレを扱える存在なんて一人として存在し得ないわ。
 今の幻想郷には過ぎたる代物よ」
「「「マジで!?」」」

驚愕の声が、同時に上がる。
あの代物にそこまで強大な力が秘められていたとは、さぞかし驚きだったのだろう。
何故か声の主に、霖之助まで含まれていたのが謎だが。

「そこで登場するのが、これよ」

永琳は、軽く笑みを見せると、背に担いでいた包みを開封した。
現れたのは、妖夢の背丈ほどの長さのある棒状のもの。
反りが入った両端から、銀色の弦が張られている。

「弓、ですか?」
「その通り」

記憶が確かならば、この弓は永琳が常に身に帯びていたものであった。
もっとも、帯びていたというだけで、実際に使用された所を見た事はないのだが。

「それって、持ってただけで一度も使わなかったじゃないの。
 ただの飾りじゃなかったの?」

どうやら咲夜も同じ見解のようだ。

「使わなかった、じゃないわ。使えなかった、のよ。
 もし私が本気でこの弓を引いていたら、今頃、月は影も形も無くなっているわ」
「……また突拍子も無い話ね。どこのジャッキーチュンよ」
「例えよ、例え」
 

「誰ですか、それ?」
「「!?」」


ぴしり、と空気の割れる音。
咲夜と永琳は、驚愕の表情を浮かべては、妖夢へと顔を向ける。
ぎぎぎ、と油の切れた操り人形のような動きである。

「よ、妖夢、貴方、本当に知らないの!?」
「え、あ、はい、その、心当たりがありません。高名な弓使いか何かですか?」
「マイガッ! ジェネレーションギャップ!」

二人は同時に床へと崩れ落ちたかと思うと、ひしと抱き合っては涙を流す。
先程までのいがみ合いは何だったのかと言いたくなる光景だ。

「店主さん、私、そんなに変な事言いましたか?」
「……どうだろうなぁ。どちらかと言うと、受け取る側の問題かな」
「……はぁ」




「そ、それはともかくとして!」

先に立ち直ったのは永琳だった。
今だ足元がおぼついていないが、それでも友情努力勝利の原則をもって起立に持ち込んでいた。
まこと便利な言葉だ。

「どう? この弓を見て何か感じるものはない?」
「は、はぁ……」

妖夢は半信半疑のまま、弓に視線を送る。
が、直ぐに永琳の言葉の意味は理解される事となった。

「持ってみなさい。銘は無いけれど、力は保障するわ」
「……いえ、それには及びません。弓に関しては素人ですが、それでも分かります」

妖夢は魅入られたかのように、件の弓を掲げ持つ。
感じていた力が、より直接的なものとなって身体へと伝わるのが実感できた。


「(間違いないわ。これは楼観剣と同等……いや、それ以上の品かも知れない)」

本物の変わりは本物を持ってしか成し得ない。
どこかの食通が言いそうな言葉だが、今に至ってはっきりと理解できた。
 
「剣と弓。形状こそ違えど、根底に根付く物は同じと言って良いわ。
 これを機会に、習得してみるのも良いんじゃないかしら。
 流石にプレゼントって訳には行かないけど、暫くの間なら貸してあげるし、
 気に入ったようなら考えても良いわ」
「……」

返事は無い。
だが、その表情からして、妖夢の心はどちらに傾いているかは明白だった。








さて、こうなると面白く無いのは咲夜である。

「(……むぅ……気に喰わないわ……)」

元はと言えば、最初に提案を持ちかけたのはこちらだ。
だと言うのに、今や妖夢の目には永琳と弓しか映っていないかの様子である。
押し売りをするつもりは無いが、ないがしろにされるのは不愉快だ。
そもそも、自分には疑いを見せておきながら、何故永琳の提案には疑念を抱こうとしないのか。

「……」

つう、と視線が自分の身体へと下りる。
続けて、永琳……の身体のごく一部分に。
そして再び自分に。

「……はぁ……」

その一息で、天国への階段を上っていた者も、軽く地獄へと転がり落ちようかの如き、重い重いため息が漏れた。

「(って、それが何の関係が在るっての。……冷静になりなさい、咲夜)」

咲夜は、一度大きく深呼吸をすると、二人へと視線を向け、口を開いた。

普段の彼女なら、気付いていただろう。
深入りする必要など、どこにも無いのだと。
だが、そこに思い至らない辺りに、自覚のない動揺が作用していたのだ。





「待ちなさい」






凛とした声に、妖夢は驚いたように顔を上げる。

「(あ、あれ? 私、一体……)」

まるで夢から覚めたような感覚だった。
顔を動かすと、どこか鋭さを感じさせる様子の咲夜の姿が目に入った。
今の今まで存在を忘れていた……だが、それは妙な話だ。
いくら気を取られていたからと言って、つい先程まで話していた人物を忘れたりするものだろうか?
有り得ない。
ならば、何か原因があるに違いない。

「……」

考える事数秒。
妖夢は顔を上げると、目前の永琳へと視線を向ける。
その瞳には、いくらか鋭いものが混じっていた。

「どうしたの?」
「……この弓、本当に大丈夫なんですか?」
「心配性ねぇ。そんなに気にしないでも平気だって」
「平気と言われましても……」
「そのうち慣れるから」
「……ってやっぱり呪われてるんじゃないですか!」

妖夢は慌てて弓から手を離すと、背後へと一歩飛び退る。
直後、空いた空間へと滑り込むように咲夜が割って入った。

「……呆れた。偉そうな事言っておきながら、太古の怨念入りの際物を押し付けたの?」
「し、失敬ね。そこまで大袈裟なものじゃないわよ。
 ただ、強力な武具には、それなりの代償というものが……」
「だーかーら、それを本人に伝えないってどういう神経してるのよ。
 皆が皆、貴方みたいな不感症だと思わない事ね」
「ふ、不感症!? 言うに事欠いて何てことを!」
「あら、違ったかしら。てっきり薬の使いすぎでそうなったものと思っていたわ。
 でなければ、呪いのアイテムを四六時中持ち歩くなんて変態じみた真似は出来ないでしょう。
 それとも、被虐趣味でも持ち合わせていたのかしら。
 頭の良い者ほどそっちの趣味に走りたがるというのは俗説では無かったようね」
「……」

永琳の瞳が、すう、と細められた。
途端に、店内の気温が、真冬のそれへと変貌を遂げる。

「……どうやら貴方には、再教育が必要なようね」
「出来るかしら? あの夜の私が、本当の私の実力と思わないほうが良いわよ」

二人は同時にニヤリ、と笑みを浮かべる。


「あー、荒事なら外でお願いするよ」
「「……」」

いたのか、とばかりに送られる鬱陶しげな視線。
もっとも霖之助のほうも深入りするつもりは無いのか、今は手元の本へと視線を落としていた。



「妖夢」
「は、はい?」
「誤解しないでね。別に貴方を陥れるつもりは無かったの。
 指導を済ませたら理由を説明してあげるから、少し待っていてくれるかしら」
「は、はぁ」 

永琳はにっこりと微笑みを浮かべると、扉の外へと姿を消した。
指導というのが何を指しているかは、聞くまでもなく理解出来てしまった。
教育と合わせて、効果だ。



「妖夢」
「は、はい」
「ナイフの力を、実戦で証明してきてあげる。
 だから、あのマッドの言う事を鵜呑みにしちゃ駄目よ?」
「は、はぁ」

そう言うと、咲夜も屋外へと歩みを進める。
表情こそ温和であったが、その背中からはビシビシと殺気が伝わってきていた。











数秒後。
香霖堂周辺に、ありとあらゆる騒音が鳴り響き出した。

「見に行かないのかい? そも、止める気は?」
「ありません。まったく」

卑怯と言うなかれ。
この状況ならば、どちらに肩入れしても角が立つ。
かといって、丸腰の妖夢に、二人の戦いを止められるような力はない。
となると放っておく以外の決断は在り得なかったのだ。
ちなみに、思考時間は約二秒である。

「……ま、賢い選択だと思うよ」
「同意するわ。慎みを失った女の姿なんて見るに耐えないもの」

誰もいない筈の空間からの声。
にも関わらず、二人とも驚きを表に出す事は無かった。
むしろ、妖夢辺りにとっては、普通に現れる方が余程意外だったろう。

「今日は千客万来だね。いらっしゃい紫さん」
「四人でも千客万来って言うのかしら」
「ははは、魔理沙も霊夢も来ていない事を思えば、新記録かもしれないよ」
「それもそうね。……こんにちは、お二人さん」
「その言い方止めて下さい」

紫の登場により、香霖堂の雰囲気はいくらか和やかなものへと戻っていた。
すぐ外では血を血で洗う陰惨な出来事が起こっているにも関わらずだ。
まこと図太い連中ではある。

「それで、どうしたの? 幽々子に愛想を尽かして家出でもしたの?」
「ええと……それは……その……」

妖夢は思わず言葉を詰まらせる。
咲夜や永琳相手ならまだしも、紫が相手だと少々事情は異なる。
何しろ、彼女と幽々子は『仕方ないわね、幽々子の頼みですもの』
という一言で世界を割ってしまうほどの関係である。
ここで顛末を語るのは、幽々子に語るのと同意義と言って良いだろう。

「あら、口篭るという事は、幽々子に知られたくない事象なのね」
「……う~……」

そんな事を考えている最中に、あっさりと第一波は突破された。
役者の違いというものを、あらためて実感する。
間違っても、年季の違いとは言わない。

「安心なさい。幽々子には黙っててあげるから」
「……」

素晴らしく信用出来なかった。
だが、こうなってはもう逃げ道は無い。
いくら黙秘権を主張したところで、強制的に言わされるのがオチだろう。
それならば、自分から言ってしまったほうが余程まし。というのが妖夢の結論だった。

「実は……」









「へぇー、ほぉー、ふぅん、確かに見事なまでの破壊っぷりねぇ。
 もしも妖忌が見たら泣きながら笑顔で怒りそうね」
「ううう……怖い事言わないで下さいよ……」

いかにも楽しげな様子の紫に対し、妖夢は今にも泣きそうな表情になっていた。
語っている内に落ち込んできたのだろうか。

「でも、ちゃんと直るんでしょう? なら良いじゃないの」
「それまでが問題なんです。幽々子様をお守りするにはやはり……」
「……別に幽々子なら自分一人で何とかしちゃうんじゃないかしら」
「……」
「……あ」

それは、決して触れてはならない事だった。

「う、うえええ……どうせ私なんか何の役にも立たない半人前ですよぉ……」

妖夢の瞳の堤防は即時決壊。たちまちのうちに大洪水となる。
これにはさしもの紫も拙いと思ったのか、慌てて言葉を紡ぎ出した。

「そ、そんな事は無いでしょう? 貴方がいなければ、幽々子なんて直ぐに餓死……。
 いえ、もう死んでるから成仏? ……ってのも何か違うわね。
 と、とにかく貴方の存在が無いと、幽々子はどうしようもないダメダメな存在に成り下がってしまうのよ。
 だからもう少し自信を……」
「幽々子様の事を悪く言わないで下さい」
「……」

どないせいっちゅうねん。
偽りの無い、今の紫の心境である。






「え、ええと、ともかく今の貴方に足りないものは武器。それでOK?」
「……はい」

妖夢はか細い返事を返す。
何故か紫からは苛立ちの様子が見受けられたが、心当たりがないので気にしないでおく。

「……そうね。それなら丁度良いものがあるわ」
「え?」

紫は手馴れた様子で小さなスキマを展開すると何かを取り出す。
それは、手の平ほどの大きさで、L字型に折れ曲がった金属製の棒。
何やら良く分からない装飾がごてごてと付いている。

「って、間違い! 今の無し! やり直し!」
「へ?」

慌ててそれをスキマへと放り捨てた紫は、立て続けにもう一つのスキマを展開。
そこから取り出されたのは、どこか見覚えのあるものだった。

「これよこれ。どう?」

というか、見覚えがありすぎた。

「どう? と言われましても……これって、私の目には日傘に見えるんですが」
「僕の目にもそう見えるな」
「奇遇ね、私もよ」

三者一致だった。
東方の三賢者が意見の一致を見た試しが無いのを思えば、正に奇跡である。
あなめでたや。

「って、そうじゃなくて……まさか、これで戦えと!?」

我に返った妖夢が疑問をストレートに口にする。
話の流れからして、何かしらの武器だと想像したのだから当然だろう。
確かに、これも武器であるといえない事も無い。
約二名ほど日傘を得物とした妖怪に心辺りがあるからだ。
が、それに関して言うなら、日傘を武器にしていると言うよりも、
その二人だからこそ、日傘でも戦えると言ったほうが正しいだろう。
ちなみに、その内の一人は、目の前にいる紫だ。

「そうだけど、何か問題でもあるかしら?」
「ありますよ! 私には日傘の先端からマスタースパークなんて撃てませんし、
 高速回転させて火炎を巻き起こす芸当も不可能です!」
「そうかしら、結構簡単なんだけど……」

そりゃあんただからだ。と言いたいが、やはり言えなかった。
ある意味、幽々子以上に恐ろしい存在であるからして、当然と言えよう。

「ともかく、これは私に扱いきれません。有難い話ですが、お断りします」

妖夢はきっぱりと言い放った。
色々と世話を焼いてくれているのに申し訳無いとは思ったが、実際問題形に出来るとは思えなかったのだ。
が、当の紫はと言うと、日傘を片手にニヤリという独特の笑みを浮かべていた。




「そう……これでも?」




正に、そう言い終わった瞬間だった。
まるで時間を切り取られたような感覚が、妖夢を襲う。
咲夜の仕業という訳ではなかろう。
彼女は今、外での荒行に精一杯に相違ない。


「……え?」

ぱちん、という硬い音が、妖夢の意識を覚醒させる。
視界には、例の日傘を手元に収めた紫の姿。
そして、宙を舞う幾多もの銀色の光。

「!?」

状況を認識した妖夢は、慌てて己の頭をぺたぺたと弄る。
が、違和感は無い。
心無い輩にキクラゲと称されしお気に入りのリボンも、普段どおりだ。
ならば……。

「……あ」
「……??」

勢い良く振り返ると、そこには表情に疑問符を浮かべた霖之助の姿。
そんな目で見つめないでおくれよベイビーちゃん。とでも言いたげだ。
が、妖夢は気付いてしまった。
何かが、足りないのだ。

「て、店主さん……け、けが……」
「怪我? いや、僕は至って健康体だが?」
「そ、そうじゃなくて、いつもの跳ねた毛が……」
「む?」

遅ればせながら、自らの頭部に手をやる霖之助。
そのまま数秒。
手を下ろす。
手をやる。


そのまま数秒。
手を下ろす。
手をやる。


そのまま数秒。
手を下ろす。
手をやる……。


淡々とした動作の繰り返し。
だが、繰り返されるごとに、場の空気がこれまでに感じたことのない奇妙なものへと変貌していくのが感じ取れた。

「ふふふ、これぞ藍謹製、仕込み日傘『河内屋菊水丸』よ。
 これなら妖夢にはもってこいの代物でしょう」

そんな霖之助を尻目に、再びニヤリと笑みを浮かべる紫。
河内音頭でも流れて来そうな銘だが、今はそれどころではない。
抜刀が妖夢の目にも止まらぬ神業だった気もするが、それもこの際どうでも良かった。

「それよりも紫様! 何を切っちゃってるんですか!?」
「え? ああ、あのアホ毛? うーん、なんとなく鬱陶しかったから」
「……」

聞いていたのかいないのか、霖之助から返答は無い。
先程までの動作は止まっており、今は備え付けの鏡とにらめっこに興じている。
まったくの無表情なのが、妙に恐ろしかった。


「……ね、ねぇ、妖夢。私ったらもしかして、とんでもない事を仕出かしてしまったのかしら」

ようやく空気の異常さに気が付いたのか、紫はぎこちない動作で妖夢へと向き直る。

「……そんな気がします」

何の根拠も無い。
だが、それでも妖夢は確信していた。
これは触れてはならなかった事象なのだと。














「なっ、何をするだァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」













絶叫では足りない、正にソウルクライ。
その叫びは香霖堂に留まらず、屋外は遠くまで、それも幻想郷全土へと響き渡った。
ありとあらゆる負の感情の付与されたそれは、屈強なる人妖の精神を歪めるに十分な代物だった。






時間を止めようとしていた咲夜は、衝撃の余りに己の頭髪の時間を進めてしまう。
そのせいで全面的に白髪となってしまうのだが、元が元なので、やはり誰も気が付かなかった。


ドーピングを試みていた永琳は、誤って正露丸を一瓶飲み干してしまい、
その後しばらくの間、永遠亭の住人全てから隔離措置を取られる羽目に陥った。


博麗神社でお茶を啜っていた霊夢は、気前良く卓袱台返しを慣行し、
吹き飛んだ湯飲みが、たまたま訪れていた参拝客を直撃。
実に400日振りの賽銭収入の機会を逃すという地味な不幸に遭遇していた。


魔法の森を散策していた魔理沙は、天啓に導かれて地面のキノコを咀嚼開始。
二頭身と八頭身の境界をさ迷いつつ、幻想郷縦断マラソンを開始する。


自宅にて研究中だったアリスは、勢い余って六身合体人形を製作。
この人形は後に、とある鈴蘭畑にて伝説となる戦いを繰り広げる事になるのだが、それはまた別の話。


歴史の編纂に励んでいた慧音は、突如として5+12の解答が分からなくなり、
その結果、向こう300年ほどの歴史が幻想郷から失われる羽目になったという。


珍しく仕事中だった小町は……川に落ちた。


他にも被害が上がる事数知れず。
60年に一度の変調とは、実はこの事だったのではないかと、まことしやかに囁かれる事になったとか。












閑話休題。

所は戻って香霖堂。


「……くぅ……よ、妖夢。平気?」
「……は、はい……なんとか……」

危機を察した紫が、瞬間的に展開した多重結界が功を奏したのか、二人に被害は無い。
それでも、残り一枚という所まで破られるというギリギリのものだった。
恐るべしは霖之助である。

「……ぁぁぁ……」

さて、その霖之助であるが、今はただ呆然と立ち尽くしては、呻きとも言えない声を漏らし続けるのみだった。
だが、油断は出来ない。
第二破がいつ訪れるとも限らないのだ。

「拙いわね……もしも次が来たら、博麗大結界が維持できるかどうかも怪しいわ……」
「そ、そんな……」

いつになく硬い表情から、紫が事実を語っているのが分かった。
たかだかアホ毛をちょん斬っただけで、幻想郷崩壊の危機を迎える等とは、夢にも思わなかったろう。

「……こうなれば、事が起こる前に元凶を断つ以外無いわ」
「……」

再び河内屋菊水丸を腰溜めに構える紫。
妖夢に答える言葉は無い。
元はと言えば紫のせいなのだが、今は責任を追及している場合では無いのだ。

「……っ……」
「!?」

霖之助の呻き声が止まる。
途端に高まる緊張。
動揺する妖夢を余所に、紫は迷うことなく動作を開始した。

抜刀が先か、それとも終焉の叫びが先か。
その答えは以外な形で、直ぐに出る事となった。






「……毛を……返し……くはっ……」





それが最後の言葉だった。
霖之助は盛大に喀血し、大の字になって倒れる。
残されたのは、中途半端に斬撃の体勢に入った紫と、今だ呆然と座り込む妖夢のみ。

戦いは、終わったのだ。



「……」
「……」
「……所詮、人の身には過ぎたる力だったのね……」
「……そうですね……本当に……」



彼女らは図らずして、同時に心へと誓った。

『アホ毛は危険、手を出すな』と。























「遅くなっちゃったな……」

太陽はその高度を大きく下げ、間もなく月が姿を見せようとする時間帯。
妖夢は一人、白玉楼階段を駆け上っていた。
飛べよ、と言いたい所だが、実際問題、彼女は飛ぶよりも地を駆ける方が速かったりするので問題は無い。
要は汎用性の問題という事だ。

「……あ……」

あと僅か、という所で足が止まる。
何者かの姿が、妖夢の視界に捉えられたからだ。
階段の終着点に立つ人物に心当たりは、どうあっても一人のみ。

「もぉ~、何やってたのよ妖夢。勝手にほっつき歩いたら駄目って言ったでしょう?」

普段どおりの口調。
だが、珍しくも腕組みをしつつ地面へと降り立っており、その瞳はいくらか細められていた。
白玉楼が主、西行寺幽々子である。

「ゆ、幽々子様、申し訳ありませんでした、その……」
「言い訳なら後で聞くわ。それよりも話があるの、早く入りなさい」
「は、はい……」

自然と語尾が小さくなる。
雰囲気から察するに、全部バレバレである。
幽々子を相手に隠し事をするのが、いかに無駄であるか実感した瞬間だった。

「(……お仕置きだけで済めば良いけど……首とか言われないかなぁ……)」

妖夢は極めて重くなった足取りで、幽々子の後へと続いた。










「……」
「……」
「……」
「……」

二人が居間へと入り、早十分。
今だに一つとして会話は無い。
最初は緊張に固まっていた妖夢だったが、今は別の意味で固まっていた。
正面に座る幽々子は、時折腕組をしては、ああではないこうでもないとぶつぶつと独り言を呟いている。
どうも、想像していたのとは違う流れのように感じられる。
永遠とも思える時間の中、意を決したかのように幽々子が口を開いた。

「妖夢、そこへ座りなさい」
「その……もう座ってます」

一瞬迷ったが、他に返す言葉が無いとの判断から、思った通りに口にする。

「そ、そうね。ええと……なら立ちなさい」
「へ? は、はい」

とりあえず言われた通りに立ち上がる。

「妖夢、そこへ座りなさい」
「……はぁ」

再び、言われるがままに正座。
まこと意味不明だ。

「カリスマ溢れる話の切り出し方……中々難しいものね」
「あ、あの、幽々子様?」
「っと、今のは無し!」
「……はぁ」

緊張感も何もあったものじゃない、との感想を抱こうとした瞬間。
幽々子の表情が真剣なものへと変貌し、空気がぎゅっと引き締められる。




「妖夢。貴方、楼観剣を壊してしまったわね?」
「!?」




質問ではなく、確認だった。
覚悟はしていたが、こうもきっぱりと言い当てられると、多少の動揺もあった。

「……はい、その通りです」
「それで、私に内緒でどうにかしようと動き回っていたと?」
「……はい」
「考え無しも良い所ね。それで、実際にどうにかなったのかしら?」
「……いえ」

ここに至り、ようやく妖夢は気が付いた。
別に、幽々子に隠し立てをする必要など無かったのだと。
だというのに、自分は無駄に右往左往し、幽々子のみならず、多くの人物へと迷惑を掛けたのだ。

「いい? 妖夢。貴方が事実を隠して誤魔化そうとしたのは悪い事よ。それは反省しなさい」
「……はい」

その通りだった。
自分の愚かさには、いくら反省してもし足りない。

「……でもね、私はこうも思ったの」
「え?」

途端、和らいだ空気に、妖夢は思わず顔を上げる。
険しかった幽々子の表情は、いつもの温和なものへと戻っていた。

「これは、貴方に与えられた休息の機会なんじゃないかって、ね」
「ゆ、幽々子様、それって……」
「ああ、違うわよ。別に首にするとか言ってるんじゃないの。そんな事したら一番困るのは私だし。
 あのね、楼観剣がそんな酷い状態になっていたという事は、それだけ酷使したという証拠でしょう?
 ……それこそ、手入れをする暇も無かったくらいね」
「……!」

さすがにこれには驚きを隠せなかった。
それは、妖夢の中でただ一つ燻っていたもの……しかし、言い訳に過ぎないと考え、決して表に出さなかったものだ。
だが、それに幽々子は気が付いていた。

「考えてみたら、あの春以来、貴方には殆どお休みも与えてなかったわね……。
 ごめんなさい、妖夢」
「そ、そんな! 幽々子様が謝られるような事ではありません!
 全ては私が望んでやった事です!」
「妖夢。謙虚なのは貴方の美徳だけど、度が過ぎると嫌味よ?
 ここは、はい分かりました。で済ませてちょうだい。でないと、私も引きどころが無いわ」
「……」
「……」
「……はい、分かりました」
「よろしい。……って、これは謝罪する側の態度じゃないわね」
「そうですね」
「あら、言うようになったじゃない」

そう言うと、二人は同時に笑い合った。
互いにわざとらしいとは思っていたが、それ以上に必要なものだったのだ。




「……と、いう訳で、白玉楼当主、西行寺幽々子として魂魄妖夢に命じます。
 両剣の修理が完了するまでの期間、貴方を警護役の任から解きます」
「えっ。でもそれでは……」
「命令と言ったでしょう。拒否は認めません。
 その間は、私が貴方を守ります。それで問題は無いでしょう?」
「は、はぁ……え? あれ?」

問題は無い……ような気がして、根本的な部分で何かが違う気がした。
だが、敵もさるもの。
妖夢が思考へと入る前に、次の一手を打ってきたのだ。

「それと、もう一つ。
 せっかく時間が空くのだから、貴方には少しお勉強の時間を用意するわ」
「お、お勉強、ですか?」

聞きなれない、というか幽々子からは初めて耳にする言葉だった。
それが一体どのようなものなのか、まったく想像が付かない。

「そうよ。だから、脱ぎなさい」
「……待って下さい。いくら何でも、前後の繋がりが無さ過ぎます」

流石にここは突っ込めた。
これをスルーするようでは、知的生命体として申し訳が立たないのだ。
だが、残念なことに、このお嬢様は生命体ですらなかった。

「それがあったりするのよねぇ……おらっ、キリキリ脱がんかい!」
「口調が!?」









「はい、かんせーい」
「……」

数十分後。
満足気に笑みを浮かべる幽々子と、疑問符の塊と化していた妖夢の姿があった。
先程までと大きく異なる点は、妖夢の服装。
今の彼女は、緑を基調とした和服姿となっていた。
サイズが丁度合っている事から、あらかじめ準備されていた物と推測される。

「ええと、幽々子様」
「なぁに?」
「その、この格好で何を?」
「決まってるじゃない。芸者ごっこ……というのは冗談で、これよ」

そう言うと幽々子は、両の袖から何かを取り出しては、妖夢へと手渡す。
彼女のトレードマークとも言える扇子である。

「有体に言うなら舞踊ね。どうせ習うなら、身体を動かすもののほうが妖夢も馴染み易いでしょう」
「それは、そうですが」
「しかも! 私独自の研鑽によって、舞踊は魅せる物のみならず、漢字を変えて武闘へと真価を遂げたのよ!
 これならば警護のスキルアップにも役立ち、まさに一石二鳥! あ、明日の晩は鳥鍋にしましょうね」
「……はあ」

それは言われないでも知っていた。
幽々子の扇を利用した接近戦は、それこそ妖夢の剣をもってしても、
対抗するのがやっとというほどの冴えを持っているのだ。
もっとも、あの動きが自分に真似出来るかと言われれば、甚だ疑問である。
背後に出現させる技に至っては、無理だと断言できよう。

「……何だか色々と不満のありそうな顔ね」
「い、いえ、そんな事は」

あった。
が、間違っても口には出せない。

「……ま、良いわ。その内、嫌でも分かるようになるでしょう。
 それじゃ、せっかく着替えたのだから、少しやってみましょうか」
「え、今からですか? そろそろ夕食の支度をしないと……」
「少しくらい遅れても構わないわよ。その分二倍作ってくれれば文句は言わないわ」

等と、さり気なく無茶な事を言ってのけた。
当然とばかりに反論に出んとした妖夢であったが、次なる幽々子の行動の前に言葉を失う。

「ゆ、幽々子様、そんなにぴったりとくっ付かれては……」
「手取り足取りって言うでしょう? 実際、こうするのが一番分かり易いのよ」
「で、ですが……」
「いいからいいから、ほら、手を上に向けて……」


しばらくは、油の切れた機械人形の如くぎこちない動きを見せていた妖夢だったが、
幽々子が至って真剣である事を理解すると、次第に形らしきものへと変わっていった。
無論、舞と呼ぶには遠い事にも程がある代物ではあるが、それも当然だろう。
何事も一朝一夕で上手く行く筈も無いのだから。

幸い、妖夢には、常人よりも遥かに長い時間に加え、
極みの域へと達して、ついには明後日の方向まで突き進んでしまった先生がいる。
ならば、こんな時間も悪くないだろう。

「(……でも、私が舞を身に付けられるとも思えないなぁ……)」


 



















「無駄足だった、か」

そんな二人の様子を、遠く上空から眺める一つの影。
只者ではない雰囲気を放っているのだが、それは妖力の大きさだとか九本の尾だとかは関係なく、
場に極めて似つかわしくない割烹着姿と、手に持つ歪に膨れ上がった袋が原因であった。

「あー……空しいな。これじゃ私が馬鹿みたいじゃないか」

と、誰ともなしに言葉を漏らす。
というかこの場には一人しかいないのだから、自然独り言しか出来ないのだが。
もっとも彼女……藍が愚痴るのも無理は無い。
紫から事情を聞いた藍は、日頃懇意にしてる妖夢を思い、
武器となりそうなものを色々と持ち出しては、届けにやって来たのだが、
いざ辿り着くと、展開されていたのはこのような微笑ましい光景。
出るに出れず、かと言って何も言わずに帰るのも何か癪という、複雑な心境に陥っていたのだ。
が、いつまでも眺めている時間は無い。
藍には八雲一家の終身名誉おさんどんとしての使命がある。
今も、夕食の準備の合間を縫ってやって来ているのだ。
放っておいてもどうにでもなりそうな主はともかく、愛する式は育ち盛り……と藍は思っている。

「……帰るか」

故に、決断はあっさりしたものだった。
今の二人に声をかけられるほど藍は野暮ではないし、また度胸を据わらせる必要性も感じてはいない。

「ま、連中は、あれくらいの方が良いんだろうな」

それだけをぼそりと言い残すと、藍は我が家の方向へと向け飛び立つ。
最後に送った視線の先には、ぎこちなく扇を操る妖夢と、微笑みを浮かべては妖夢の手を取る幽々子の姿が映っていた。










が、彼女は気付いていなかった。
手にした袋の重量が、微妙に減少していた事に。













「ほらほら、もっとわざとらしいくらい大仰に……ん?」
「あれ、何か落ちてきましたね。何でしょう、これ」
「見たこと無いわねぇ、果物かしら」
「まさか。確かにパイナップルみたいな形ですけど、妙に硬いで……」



妖夢が言葉を発せられたのは、そこまで。

白玉楼は、爆風と閃光に包まれた。















この日を境に、冥界とマヨヒガの間で千日戦争が勃発する事になるのだが、やはりそれは別の話。


どうも、YDSでおます。

しかし、この作品は一体何なんでしょうね。
お姉様キャラによる妖夢争奪戦?
の割りには妖夢がちと歪んでいるかも?
いやはや、自分でも良く分からんです。
リハビリのつもりだったのに、40KB超えてるのも良く分からんです。
むしろ、ネタの枯渇を増進させてる気がしてなりません。

えーと、某アレの最終話を待っている方、もしもいらっしゃいましたら申し訳ありません。
完結させる意思はありますので、今暫くお待ち頂きたく思います。
YDS
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.4010簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
>某アレの最終話
超待ってます。今一番楽しみ。
3.80翔菜削除
>某アレの最終話
ワクテカしながら待ってます。

にしてもアホ毛は大事なんだなー。
4.60吟砂削除
確かに少しお疲れ気味かなとも感じたかな・・・
でも、小ネタや切れ味はやはり上手いと感じました。
しかし妖夢が舞を舞うところを思い描こうとしてもイマイチピンとこない・・・
和服姿というか着物かな、そう言う姿もピンと来ない・・・不思議だ・・・

後、アホ毛はやはり魔界の神すら漏れることがないように、
最大の急所というか弱点なのですね・・・さらば香霖(ノ∀T)
7.90名前が無い程度の能力削除
>確かにパイナップルみたいな形ですけど
Mk.2A1破片手榴弾ですか。
幻想郷にあるだけにアンティオキアの聖なる手榴弾だったりして
11.100削除
六身何とかって聞くと六身分解ゴッドキャットが頭に浮かびます。
えぇ、某所に猫アルク投下したのは私ですよ。

>吟砂さん
いやいや吟砂さん。魔界神のアホ毛は弱点を通り越して着脱可能、しかも分離後は自律制御と無駄に高性能ですよ。
歩いて来て歩いて帰るくらいしかしませんけど。本体もアホ毛も。
19.80ルドルフ削除
バールのようなものでラーメン吹いて
シンノスケジョースターで決壊した
32.70名前が無い程度の能力削除
 とりあえず「竜殺し」で必要筋力24を思い浮かべた人、先生怒らないから手を挙げて?

ノシ



 ラスト、妖夢の着崩れ和服姿を想像して萌えたのは僕とキミだけの秘密な?
39.80BP削除
吹いた~ 面白い~
「バールのようなもの」が出てきた瞬間、次には「鈍器のようなもの」が出てくるのかと予想してしまいました。
40.70名無しな程度の名前削除
ラストのパイナップルに吹いた
あの竜殺しが使えるようになったら「白玉楼の重戦車」とか呼ばれるようになるのだろうか……
47.70おやつ削除
竜殺し来た!w
どちらかというと狂戦士風に感じたんですがどうなんですかね。
しかし、マヨヒガとの千日戦争も見たいw
54.70Mya削除
 元来よりその卓逸した着眼点は他の追随を許しませんでしたが、作品を重ねるごとに文章がより精練され磨き上げられているような気がします。お見事です。

>素早さが高すぎて使えませんよ……
 でぶぼっときて、

>マイガッ! ジェネレーションギャップ!
 でげはっときて

>って、間違い! 今の無し! やり直し!
 で沈没。紫様、チャカはまずいですけん。
 そして師匠、あなたの不感症は私が治してさしあげまs(密葬
61.60K-999削除
 そして始まるサウザントウォーズ。藍様は手榴弾なんぞ妖夢に提案しようと思ってたのですか^^

>必要筋力24
 そんな! 人間の最大値だなんて!

>六身合体
 ゴッドマーズやカルコブリーナを想像しました。
66.80名無し毛玉削除
幻想郷では『バールのようなもの』の出番が無さそうです、平和ですから。
…こっちの世界でも、耳にする事が無い方が良いのですがね。
87.100無を有に変える程度の能力削除
バールのようなもの、、、全てを破壊する程度の能力の原点が何故其処に・・・・
93.100名前が無い程度の能力削除
チェーンソーでかみをバラバラにー
98.90名前が無い程度の能力削除
座りなさい
立ちなさい
座りなさい

幽々子様最高www
99.80名前が無い程度の能力削除
鍛冶屋はおじいちゃんか?