Coolier - 新生・東方創想話

心温ま……冷え……温ま……らない話

2006/01/22 01:44:30
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今日は寒い。
超、寒い。
こんな日はおこたにこもって、みかん食べて、お茶飲んでだらだらするに限る。
こやつのように。


「はぁ~、あったかぁ~い、むぐむぐ」

彼の博麗神社において今、正にその少女はそのように過ごしていた。
「しゅゎせ~」
「温もってんじゃないわよ氷精っっ!」
ぼこん
「ぶゅだっ!!」
しかし噴き出すみかん。汚れる畳。
「汚っ!」
「ぁにすんのよー!」
お祓い棒でやられた頭を抑えながら、霊夢に文句をたれる青い少女、氷精チルノ。

「何勝手に人んちのコタツ引っ張り出して、しかも入ってんのよ、ていうかみかん拭け」
「えぇ~?だって寒いじゃん」
「寒がってんじゃないわよ氷精っっ!」
ぼこん
「あだっ!こっ、何でぶつのよ!」
「言ったって聞かないでしょう」
「何がよ」
「炬燵から出なさい」
「やだ」
ぼこん
「っだーー!何でぶつのよ!」
「で、あんた氷精でしょーが。何で寒がってしかも温もってんの」
このままでは同じ科白がリピートされると感じた霊夢は、チルノの文句をスルーして問う。
「えぇ?…あたいは確かに氷の精だけど、だからって寒がらないわけじゃないよ」
「うそつけ」
「嘘じゃないわよ!…なんていうのかな、冷たいと寒いは違うのよ」
「同じでしょ」
「違うの!」
「ああそう!」
まあ、冷たさと寒さの違いは後で辞書でも引くとしよう。覚えてたら。


「今日はなんかレティの機嫌がすごく良いみたいで、それではしゃいでるんだけど」
「うん」
「そのせいでいつもの8倍は寒いのよね」
「ふーん」
「だから寒いの!」
「そうね、寒いわ」
「だからあたいがコタツに入ってもいいのよ!」
「コタツに入るのはあなたの勝手だけど、ウチのコタツに入るのはあなたの勝手じゃない」
「いいじゃないの、減るもんじゃなし」
「減るわ、暖気が」
「減らないよ」
「減ってるのよ今現在この部屋が」
「それはレティのせい」
「ああそうね」

とりあえず、いつまでも立ちっぱなしでくだらない掛け合いしてても寒いわけだ。
そう思い、霊夢もコタツに入ることにした。ぬるい。
「…暖かくないわ」
「そう?」
「やっぱり減ってるわ、暖気、ちょっと出てみなさいよ」
「えぇー?しょうがないなぁ」
寒いのに…とぼやきながらも、霊夢が棒を構えていたのでチルノはコタツからもそもそと這い出る。
すると巫女は足元が急に暖まってくるのを感じた。
「あ、暖か………つか熱っ!熱っ!なにこれ!?」
コタツのスイッチ(スイッチ?)を見ると、『最凶』というサインがでていた。
「凶!?おかしいでしょそんなもん!不吉な!なにこのコタツ!どっからもってきたの!てかどんだけ冷やしてたのよあんた!」
「え、ここに来た時にはもうあったよ。あ、そういえば」
「…魔理沙ね…」
「そうそう魔理沙が来てたわ、なんか熱がってたけど。んで寒かったからあたいも入れてもらったの」
「なるほど、なんとなくわかったわ」

つまりこうだ。
おそらくこれは魔理沙が魔法を利用して造った炬燵、だが熱量調節がうまくいかなかったのだ。
原因を調べるために、自宅か紅魔館か、まあどこかに調べに行ったのだろう。
おそらく偶然そこに暖を求めてやってきたチルノを利用して冷やしておけば大事には至らないとでも思ったのか。
「…片してけよ」
自分の家ならともかく、人んちまで散らかすとはどういうつもりだ。魔理沙のつもりか。パキパキ。


「…?」


パキパキ


「…?うわ燃えてる!」
最凶の熱量、乾燥力をもって発火を促す炬燵。トラップにも最適です。
「何で燃えんのよこれ!あっ!チルノ!あんたなんとかして!」
これぞ博麗奥義『人任せ巫女』
「ん、え、何?」
そのチルノは雑巾で畳を擦っていた。
「あんた何やってんのこんな時に!?」
「いや、だってさっきみかん拭けって」
「どんだけ遅いのよ!もう畳乾いてるし(凶熱のせいで)!じゃなくて熱っ!火消せ!熱っ!」
あの世は音速が遅い、とは誰の言だったか。するとこいつはあの世の者か?
否、すなわちアレだ。
「うっさいわねー。えいっ!」
チルノが腕を一振りすると、氷の塊がドスドスと畳に突き刺さる。
「ああもう畳が……」
火は消えた。しかし畳はボロボロ。コタツもまだまだ熱くなりそうだった。





「やれやれ…よっと」
押入れから『博麗』と印の付いたコタツを取り出す。
何故かついてる星の模様は、以前魔理沙が勝手に魔法でつけたものだ。とれない。
むかついたのでもう一度今日は拭いてみよう。


とれない。


「…チッ」
思わず舌打ちするが、よくよく見るとこれはこれで悪くないか、とも思えた。
今は少しストレスが解消しているからか。

「ほら、火つけたわよ。あー寒い」
「わーい」
ゴソゴソとコタツに潜り込む二人。


魔理沙が作ったコタツ、略称マタツは、あのあとすぐにお庭にポイして夢想封印した。
直後に魔理沙が飛んで来て、
「よっしわかったぞ!これでいい具合になるぜ、よう霊夢、」
そこまで聞いて同じ場所にポイして夢想封印した。
そしたら魔理沙とマタツの区別がつかなくなった。



「あ、そうだ」
う~さむ、と呟きながらコタツから出ると神社の奥に引っ込む霊夢。少しして、なにやら埃かぶった書物を抱えて戻ってきた。
「何それ」
「あなたには永遠に縁のないものよ」
「む、なによ」
辞書である。霊夢は縁側に出て、寒い寒いと喚きつつそれをパンパンと叩く。
「そんなに埃が出るってことはあんたも使ってないんじゃないの?」
「よくわかったわね、でもあなたと私では縁の無さの意味が違う」
「また馬鹿にしてる!」
「えーっと」
無視してしばらく辞書を捲っていると、ある頁で手を止め、今度は指でなぞり始めた。
「さむ……い、あったわ」
「なになに」
チルノは霊夢がいる方に回り込んで覗き見る、顔が付く程。
「冷たっ!ちょ、離れなさいよ。うひ~」
『氷』精と呼ぶに相応しいその顔を押しのけ、自分の頬を手で擦りながら、指先の文を読み上げる。
「寒い、寒いこと、気温が低くて我慢できない状態、と。ふむ」
指はその場所に添え置いたままに再び頁を捲る。
「えと、つめ……たい、冷たい、そのものに肌が触れた時の温度が低く感じられる様子…」


霊夢はもう一度、自分の頬に手を当てた。


「うわぁ!なにすんのよいきなり!」
「あ、ごめん」
思わず謝ってしまった霊夢は、無意識の内に手がチルノの頬に伸びていたのに気付く。
ふうん、ともう一度二つの頁に目を通した後辞書を閉じると、コタツの隅にそれを置いて頬杖ついた。
「なんとなくわかったわ、あなたがさっき言ったこと」
「?なにが?」
「…」
まあ、どうせ説明したってアレな氷精にわかる訳ないか、とため息ひとつ。
そう思うのだけど何故か口をついて出る。彼女が冷気(の話?)を操る氷精だからか。

「…さっき読んだ通りの意味なんじゃないかなって」
「さっきの?よくわかんなかったんだけど、そのまんまって感じで」
そうね、と応えて続ける。
「今日が特別寒くてあなたが寒いと感じたってことは、あなたが『我慢できない程』今日は寒いってこと」
「??そうだよ?」
何を言ってるの?と問いかけるような彼女の顔に向けて、そっと手を伸ばし、その頬にまた触れる。
「ひゃ」

「わたしが触れると、あなたはすごく冷たい」

「……」

「わたしにはあなたが冷たい。あなたにはあなたが寒い。それは今日だけのことかもしれないけど」
わたしはどう?と問われる、青く冷たい少女。
「…暖かいよ」

「あなたにはわたしが暖かい、けどわたしにはわたしが寒い。わたしは当分の間こうだと思うけど」
と、霊夢は手をコタツの中に引っ込め、

「つまりはそういうことよ」

そう言って微笑んだ。
「ん~~…わかったような、わからないような……やっぱわかんない!」
「そうね」
「もっかいさわればわかるかも、ね、もっかい!」
「いやよ寒い」
コタツからは出ようとせずに必死で両腕を伸ばすチルノ、しかし短い。
しばらくそうしていたが、そのうち飽きたのかそのまま寝る体勢に入った。







「……………」
今日は寒い。
もうほんとマジで超、寒い。
「………おい」
「すやすや」
コタツに火をつけて随分経つというのになんだこの寒さは。
チルノにある程度冷やされることも考慮して相当な熱量が出るようにした筈だ。
「…」
中を覗いてみる。火は点いている。しかし寒い。なんだこれは。
今やぐっすり夢気分のチルノを叩き起こす。
「ん、んん?なによぅ」
「寒い」
「んぇ?だからそのためにコタツでしょう?」
眠そうに顔を擦りながらチルノが言う。
「大体ね、さっきから疑問に思ってたのよ」
「何よ」
「いくら寒いからっていったって、氷精がどうして熱の激しいとこにいられるのよ」
「…溶けるとでも思ってる?そんなだったらあたいは夏にはいられないよ」
「そうだけど」
「確かに熱いとこは苦手だし、まあ場合によっては溶けるかもしんないけど」



「でも『あたいに丁度良い温度』になるように、常に周囲を冷やしてるのよ」

「…」

「例えばどんだけ寒くたって、燃えるものさえあれば火は出るでしょ?」

「……」

「この火がどれだけ熱を出しても、所詮はコタツ。あたいの冷気であたいに丁度いい具合に調節できる」

「………」

「ただ今日はレティが普段のあたいよりずっとずっと寒くしちゃってるから、それを調節する為の熱が欲しかったのよ」

「…………」

「つまりはそういうことよ」

ぷち






そうだ、そうだったのだ。
簡単なことだった。
寒さと冷たさの違いとか、そんな事関係なかったのだ。
そもそも辞書なんて人間が作ったものだ。
それを物の怪の類が持つ概念に当てはめて考えたのが間違いだったのだ。
簡単なことだった。
要は『わたし』が寒いかどうかなのだ。
簡単なことだった。







こいつらが近くにいる以上

人間にとって

寒いも冷たいも一緒だったのだ




ぼこん
「あたっ!」
ずりずりずり…

「あ、あれ?ちょっとなにすんのよ、寒いんだってば外は、ねえちょっと」

ずりずりずりずり…

ススス…

ずりずり…



ポイ











「最初にわたしが言った通りじゃねーーーーーかーーーーーーー!!!!!!」











以下略

氷で冷やしたお茶っておいしいですよね(夏場に限る)
T/J
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コメント



0.4070簡易評価
11.80削除
一言もなしにマイナス点って。荒らしかよ。

実に温まらない話でした。むしろ寒い。部屋が寒い。あ、ストーブ付けてない。
レティとチルノの生態を克明に記録した偉大な作品。って言うと4割7分2厘ほど嘘になる。
猫舌なので冬場は氷で冷ましたお茶を飲みます。送り仮名一文字で変わる不思議な日本語。

でも、冬に食べるアイスは美味しいと思うんだ。
12.60まっぴー削除
でも外で食うと簡単に死ねるから買い食いは出来ない罠>アイス

つまりチルノが室温下げてた、と。
まあせいぜい寒がってくれ(非道

ちなみに、いつもの事だから気にしなくてもいいよ。>米なし-30
15.無評価てとら削除
個人的には「つまらない」とか一言書いて-30よりは、荒れなくていい。
18.70名前ガの兎削除
なんか普通、ほのぼ・・・の?
起伏が少ない話だけどこういう話好きよ。
28.80名前が無い程度の能力削除
こういうのスキです
33.70名前が無い程度の能力削除
チルノの生態(?)の考察がなかなか面白かったです。暑いのは彼女の能力で冷やせるけど、寒すぎるのはダメと。
40.70れふぃ軍曹削除
つまり…氷精というのは他の妖精より寒気(冷気)に強いだけで、限界はあるわけですな。

面白い考察…。勉強になりました…。
43.無評価名前が無い程度の能力削除
0点から50点は匿名で入れられるけどマイナス評価はそうもいかないし荒らしと
決め付けるのは個人的にどうかと
44.無評価名前が無い程度の能力削除
気に入らなければ、点数を入れなければいいのではないだろうか。
敢えてマイナス点を入れ他者の入れた点を無にするというならば、それなりに責任と覚悟を以て、なんらかの理由を書くべきだろう。
プラス点は匿名でできるが、マイナス点はできないという理由はそこにあるのではないだろうか。
個人的にはよいシステムだと思う。
81.80名前が無い程度の能力削除
いいなぁ。こういう話の流れ方は非常に幻想郷的で良い。