Coolier - 新生・東方創想話

『暇で在る事 ~或る日の夕暮れ~』

2006/01/16 21:15:37
最終更新
サイズ
3.83KB
ページ数
1
閲覧数
492
評価数
3/26
POINT
810
Rate
6.19
* かなり短いです。





「…なあ、“暇”ってどういう事なんだろうな。」
「何よいきなり。―――っていうかそれ嫌味?」
黒の呟きに、いきなり食って掛かる紅白。
「待て待て、箒を構えるな。あとお札も。今から散らかすと終わらんぞ。」
「別に終わらせる必要なんて無いんだけどね。…で、何だっけ。」
「あー…ちょっと待て。調子が狂った。」
やれやれ、と冷や汗付きで漏らす。全く、冗談の通じない奴だ。
「そうそう、暇ってそもそもどういう状況を指すんだ? お前は毎日暇だ暇だって言ってるが、今だって境内の掃除をやってるじゃないか。このくそ寒いのに。」
「言われてみれば、木枯らしが身に染みる季節ね。あんたも厚着してるし。」
「私の事はいいから。…話ズレるけど、お前腋寒くないのか? その格好で。」
「寝る時は着替えるわよ。」
じゃあ日中はどうなんだよと言いたくなったが、コイツのアレは昔からの謎なのでもう深く追及しない事にする。
「…まあそれはいいか。とにかく、“掃除”っていうやる事があるのにお前は暇だと言う。それって矛盾してないか?」
気を取り直して本題に戻す。命題を追及することを生業とする私達魔法使いにとって、命題自体が矛盾を孕んでいては、その真理に辿り着く事など不可能だ。
なので、それが矛盾ではない事を証明しなければならないのだが―――
「矛盾してないわよ。だって暇だもの。」
この目出度い紅白の巫女は、たった一言で証明終了。QED。……どこぞの妹もこれ位簡潔だとありがたいのだが。

「クシュン!」ボゴォン!!
「風邪ですか、妹様? すぐにお粥とテーブルの替えをお持ちしますわ。」
「……吸血鬼って、風邪引くのかしら。」
「鳥インフルエンザって奴じゃないのか?」
「…お嬢様、うちに臆病者(チキン)はおりませんわ。」

「―――人の話聞いてたか? 現に今も箒で掃いてるじゃないか。する事してたら暇って言葉は当てはまらないぜ。」
呆れ全開でそう言うと、彼女はさも不可解そうな顔をして、
「あんたこそ私の言ってる事を聞いてないみたいね。暇なもんは暇なのよ。あんたみたいに暇そうな顔して忙しいのとは違うの。」
箒を持っていた右手の人差し指を立て、いい?と前置きした上で、
「例えば、あんたがこれから夕飯の支度をやるとする。もうすぐ日が落ちるし、そろそろ始めるべきね。」
「何だそれ。また私に押し付ける気か? 冗談じゃないぜ。」
「いいから黙って聞きなさい。―――まあ、そう思うのが普通よね。じゃあ逆に訊くけど、あんたは自分一人の時に食事の用意をする事が忙しいと思う?」
「そんなの決まってるじゃないか。作らなきゃ食えないんだから―――」
するのが当たり前だろ、と言う言葉を呑み込む。
……そうか。だって、それは。
「して当然の事だから。忙しくも何とも無い。つまり何もしてないのと同じ、って事か。」
「そういう事。私にとって境内を掃除するのも、幻想郷をそうじ妖怪退治するのも、縁側でお茶を飲むのも、朝起きて夜眠るのも、『博麗 霊夢』として在る事に変わりない。私が私で在る事は当たり前なんだから、何もしてないのに等しい。つまり、“暇”って事なのよ。」
勿論、あんたにこうして説教するのもね、と付け加えて、掃除を再開する霊夢。
……何というか、こいつのこの超然とした態度は正直凄いと思う。何物にも縛られず、己の思うがままに生きる彼女の生き様は、到底真似出来るものではない。
幻想郷の連中は皆寸分違わず勝手気ままだが、それでも誰かの影響を何かしらの形で受けてはいる。
だが霊夢は違う。どんな事があろうとも、絶対に己のスタンスを変えない。そうあろうと固執する訳でもなく、そうでしかないのだと自覚するでもない。
―――ただ、彼女は彼女で在るだけ。そこにそれ以上の意味は何一つ無い。
「……羨ましい奴だよな、お前って。」
「何が?」
背を向けたままの問いかけに、私は苦笑して、こう答えた。
「何でもないぜ。空耳じゃないのか?」
ふぅん、と素っ気無い返事が返って来た事に、小さく安堵の息を吐く。
と、思い出したように振り返る霊夢。そしていつもの微笑で、
「それじゃ、授業料代わりに夕飯の支度お願いね。」
「…まあ、そう来ると思ってたよ。」
やれやれ、とため息付きで立ち上がり、台所に向かうために襖を開ける。
そこでふと気付いて、振り返りながら訊ねた。
「なら、賽銭箱の中を探るのは暇潰しか?」
ぴたり、と動きを止める霊夢。…しまった、墓穴ったか。
そのまましばらく眉根を詰めた表情で固まっていた後、
「……あれほど辛い仕事も無いわよ。魔理沙、今度あんたもやってみなさい。虚しくなるから。」
心底苦々しい声で、そう呟いた。

終わり
どうも、始めての投稿と相成ります、Zug―Guyと申します。
永夜抄が出た頃から、こちらの投稿作品を拝見させて頂いてます。

東方に始めて触れたのはその年の4月と、まだまだ年は浅いですね。
シューティング好きなので、店頭のデモプレイだけ見て、
「おお、このレベルがこの値段で家で出来るなんてお得だなぁ」
なんて気軽な気持ちで購入したのが始まりです。
今はどっぷりはまってます。何より、ZUN氏のゲームに対する姿勢そのものに惚れてます。

一番好きなキャラは妖夢です。性格もそうですが、何より言葉遣いがいいですね。
「位」の高い相手には絶対敬語。幽々子様暴走時は例外ですが。
例を以って相対する時も敬語ですね。
この辺りは妖忌から従者の心得をきっちり仕込まれている所以でしょう。
鈴仙との違いは、敬意を表するか畏怖する(もしくはおどける、呆れる)か、ですかね。

さて、本題。今回のSSですが、コンセプトは「在り方」です。
旧作は直接プレイしてませんし、こんな事言う事自体おこがましいかもしれないですが、
霊夢はずーっと霊夢のままです。全く変わってません。
しかも変わってないと言う事実を知らないのは本人だけです。
魔理沙が新作第一弾である『紅魔郷』の冒頭で言っていた台詞がそれを証明してます。
「あいつなら、『気持ちいいわね』とか言うんだろうな」
霊夢の不変と魔理沙の変化が一言に現れたこの台詞こそ、二人の違いをはっきり示しています。
そして、二人の関係も。

霊夢の“暇”の基準は独自解釈ですが、諸処の発言や『文化帖』(本の方です)の文の記事から読み取るに、あながち間違いではないかと。
彼女にとっては全ての物事が等価値であり無価値なので、基本的に忙しいという概念がありません。宴の準備や片付け等も、本心で面倒と言ってる訳ではないのです。
ただ彼女の役割ゆえ、幻想郷全体に関わる異変に関しては嫌でも潰さないといけません。
でも嫌でも潰さないといけないという事は、裏返せば潰すのが当然という事であり、
やっぱり『当たり前』な訳です。
そんな彼女にとって唯一当たり前である事が納得いかないのが、件の賽銭箱です。
恐らく彼女をマジギレさせたのはてゐが初めてでしょう。
こちらにも文の新聞が原因でますます参拝客が減ったというネタのSSがありましたが、
世俗と隔離した世界の管理者が、最も俗っぽい悩みを抱くというのも皮肉なものです。
まあ、ご利益無いですからねぇ(神主自ら認めてますし:笑)

以上、私の勝手な見解でした。
勝手な事言っても許されるのが幻想郷の良い所です(核爆)
―――というのは冗談ですけどね。
ZUN氏の懐の広さがあってこその、現在の東方世界の広がりがあるわけですし。
私なりに、まじめに考察した結果の一つとして、この作品を読んで頂けたら幸いです。

では、今回はこの辺りで。
……そろそろあとがきの方が長くなりそうなので(ぉ

追記 修正しました。何という初歩的な・・・(汗)
Zug―Guy
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.640簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
博麗
11.60ムク削除
 おもしろいのですが、作者の見解や主張というものは作中にあってこそ力を出すもの。
あとがきをつづる前にそれを次回作への繋ぎにすべきでは。
17.50MIM.E削除
やって当然のことでも、あえてやらないでためればイロイロ大変なことになれますよね。そうすればもう暇なんて言ってられないので試してみてはいかがでしょう霊夢さん。さぼってひどい目に遭え、と言っているわけですが(笑)

暇の捉え方なるほどとおもうところがありました。
19.60れふぃ軍曹削除
咲夜、そのツッコミナイス。(笑)

それはさておき。
最後の賽銭箱オチが効いてますね。
妖怪退治を日常、賽銭を仕事と言い張る霊夢って一体…。
22.無評価Zug―Guy削除
初めての私にこんなに評価が…嬉しい限りです。

>ムクさん
 ご指摘ごもっとも。やはりヘタレ物書きでも文章で表現しないと駄目ですよね。
 後から付け加えても言い訳臭いですし。
 精進します。

>MIM.Eさん
 慧音から言わせたら既にさぼり魔扱いですけどね(笑)
 魔理沙と違って本気で努力してないわけですから。
 空気に何言っても無駄です。

>れふぃ軍曹さん
 時事ネタを一つでも入れようと思って苦心した所です。褒めてもらえて嬉しいです。
 中国ですら「背水の陣」ですから、チキンなど一人も居ない訳ですよ、はい。
 
 てゐ(嘘)と霊夢(不変)は相性最悪です。合い入れることはまずないでしょうね。