Coolier - 新生・東方創想話

運命の操り人形 ~U・N・オーエン~

2006/01/13 21:20:39
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暗い――暗い――

闇の底、なんて物があるならここもそう呼ばれるかもしれない。

だって、光なんて入ってこないもの。あるのは魔法陣の放つ今にも消えそうな淡い光だけ。

でも光は消えない。あれは私の『鎖』であり『鍵』だから。

私を閉じ込めるものだから。

   =========

暗い中に閉じ込められ 気が狂いそうだわ

いいえ本当は私 狂ってしまってるのかも

   =========


         *


あそこに入ったのはいつごろだろう。多分生まれてからすぐかもしれない。
とにかく覚えているのは暗い部屋に一人きりだった事。
ずっとずっと一人で、ただ過ごしていた。でも、本当は一人じゃない。
私の中で『私』が話し相手になってくれた。だから寂しくなかった。
それに本当にたまにだけど誰かが来るし。
その中でも一番話し相手になってくれる人がいた。
よく私のところに来ては何か話の種を持ってくる。それだけで嬉しかった。

「久しぶり。元気にしてた?」
「うんっ、でもこんなところにいるのは元気も何も無い気がするけど。」
「そうなんだけどね。……さてと、今日は新しい話があるんだけど、聞きたい?」
「もちろん!面白い話だったらいっちばん聞きたい!」
「そうね。それじゃあ話すよ。
 最近ではね、魔力を弾に変えて撃ち合う遊びが流行っているの。」
「魔力を、弾に?」
「そう。……とはいっても、ちゃんと相手に当たっても危険がないような弾にしなくちゃいけないんだけど。」
「ふーん……」

今日は今外で流行ってる遊びの事らしい。
でも、それはかなり私の興味を引きつけた。
そんな遊びがあったなんて、知らなかったから。……まあ、知らなくて当たり前というか。
『弾幕ごっこ』と呼ばれるその遊びを、いつか私もやってみたいと思った。

「ねえ、私?」
『なあに、私。』
「外では、『弾幕ごっこ』って言うのが流行っているんだって。」
『ふぅん?楽しいのかな?』
「きっと楽しいよ。」

またいつものように私は『私』と話す。これはずっと、ずっと続けてきた事だ。
いつも『私』は私の望む答えを出してくれる。でもそれは私だから。
だけど今日はいつもの答えとは違った。

『ねえ、今度一人誘ってみようよ。そして一緒に遊ぼう。』
「うん。弾幕ごっこに誘おう。」
『遊びを楽しもう。』
「うん、楽しもう。」

そう言って『私』は笑った。
そうだ、誘うのはあの人にしよう。私と話してくれるあの人に。
誘おう。弾幕ごっこに誘おう。

「久しぶり。」
「うん、久しぶり。」
「今日は何を話そうか?」
「んっとね、今日はね、前に言ってたのやろう。弾幕ごっこ。」
「……いいよ。でも、弾は出せるの?」
「もっちろん。私、練習したんだから。」

じゃあいくよ、と私があの人に弾を投げつける。あの人は弾を避ける。
もう一回。弾を出して放つ。避けられた。
もう一回。弾を出して放つ。少し当たった。
もう一回。弾を出して放つ。避けようとして当たった。
もう一回。弾を出そうとして……

「あれ?どうしたの?」
『ああ、大丈夫だよ私。あの人は少し疲れてるだけだから。』
「そっか。」
『そうだ。また他の人も誘おう。』
「うん、誘おう。」

今日は別の人が来た。何故か慌てていた。
私の部屋に来て、あれからずっといたあの人を見て大声を出す。

『うるさい。』

『私』がそう言って、私に弾を投げさせた。大声を出した人は何かつぶやいて、あの人と同じように倒れた。
私はその人のところに行こうとしたけど『私』に止められた。
また、あの人のように疲れているのだと言われ、行くのをやめた。

そして、それから少し後の事だった。私の世界は闇に閉ざされ、魔法陣の光が淡く輝き始めたのは……


         *


でも、そんな事は無かった。たった二人の人間が私を解き放ち、そして、私を倒したから。

私は驚いた。こんなに強い人間がいるなんて初めて知った。その人間は私の全てを受け止め、そして返してくれた。

だって、人間なんてごはんかおもちゃ程度のものなんでしょう?凄く驚いたわ。

人間達が私を解放してからはあの淡い光がなくなった。『鎖』も『鍵』もなくなった。

   =========

でも私は狂ってない あの二人が来たから

二人の人間が 解き放ってくれた

   =========


         *


暗い世界の中で、私はさらに練習を続けた。
弾の集まりを一つの形として生み出し、放ち続ける事を覚えた。
魔力を一纏めにして放出し、振り回す事を覚えた。
闇の中に自分の姿を消し、その中で弾を撃つことを覚えた。
たまに来る人に手伝ってもらって、そうしていろんな事を覚えた。
……手伝ってもらった人は全部『疲れて』部屋のどこかに倒れているけれど、もうそんな事はどうでもよくなった。
だって、楽しいんだもん。弾幕ごっこってこんなに面白いものだったのね。
だからたまに人が来るのが楽しみで仕方がなかった。

「面白いね。」
『面白いでしょう。』
「楽しいね。」
『楽しいでしょう。』
「もっと楽しくならないかなぁ?」
『もっと楽しくなってほしいねぇ。』
「みんな疲れるのが早すぎるよ。」
『みんな疲れるのが早すぎるのね。』
「もっと頑張ってくれる人は来ないかなぁ?」
『もっと頑張ってくれる人が来ればいいのにねぇ。』

そして、いつか人は来なくなった。
つまんない。だって誰も遊んでくれないから。
つまんない。だって一人じゃ遊べないから。

『だったら、お外に出ましょう。』

『私』が言った。そうだ。お外に出ればいい。そうすればみんな遊んでくれる。
魔方陣の光は私が腕を振るえば簡単に消えた。蝋燭のように淡い光は本当に簡単に消えた。
お外に出た。みんながいた。だから私はこう言った。

「ねぇ、遊ぼうよ?」

みんなが走る。私が追いつく。
みんなが避ける。私が放つ。
みんなが倒れる。私が踏んじゃう。

『凄く楽しいね。』
「うん、凄く楽しい。」
『凄く面白いね。』
「うん、凄く面白い。」
『みんな弱いね。』
「……弱いね。」
『もっと強い相手はいないかな。』
「いないのかな?」

そして、私はその場で閉じ込められた。その壁は薄くて今にも壊れそうだった。
腕を振るえばやっぱり壊れる。誰がやったんだろう。
今度は何枚も重なっている。腕を振るえばまた壊れて……私に纏わりついた。
破片が刺さる。痛い。
そして、簡単な封印が何重にもされてまたあの部屋に押し込められた。
また、戻っちゃった。……つまんない。

「楽しかった?」
『楽しかった。』
「面白かった?」
『面白かった。』
「結局戻っちゃったね。」
『戻っちゃったね。』
「また遊びに行こう。」
『うん、遊びに行こう。』

そして、お外に行っては戻される事を何度か繰り返して。
一体何回目だろう。今度は別の人に出会った。

「やたらと殺気立ってるし、一体どうしちゃったんだ?この館。」
「確かに。こんなに攻撃が激しいのはあの時以来ね。」

白と黒の魔女?と赤と白の巫女?の二人。
つい話しかけちゃった。

「はぁい」
「あれ?前来た時は居なかったような気がするけど……」
「居たことは居たけど、見えなかったのね。」
「で。あんた誰?」
「人に名前を聞くときは……」
「ああ、私?……博麗霊夢、巫女だぜ。」
「あんたねぇ……霧雨魔理沙、魔法使いよ。」
「私はフランドールよ。ねえ、一緒に遊んでくれるのかしら?」
「何して遊ぶ?」
「弾幕ごっこ。」
「ああ、パターン作りごっこね。それは私の得意分野だわ。」
「それで、いくら出すんだ?」
「コインいっこ。」
「一個じゃ人命も買えないぜ。」

ふふ、久しぶりに楽しくなりそう。私は『私』と一緒に叫んだわ。

『あなたがコンティニュー出来ないのさ!』

コンティニューってなんだろう。『私』はわかってたみたいだけど私には教えてくれなかった。
二人の人間、霊夢と魔理沙は凄く強かった。一対二じゃなくても強かったと思う。
私の作った弾幕をかわしてくれたから。私に撃ち返してくれたから。

「凄い!凄いよ!」
『…………』
「ねえ、私の弾幕が全部かわされたよ?凄いよね!?」
『…………』
「私、すっごく楽しい!こんなに強い相手なんて今までずっと会わなかった!」
『…………』

けれどどうしてだろう。『私』はずっと黙っていた。
こんなに楽しいのに、こんなに面白いのに。

『…………つまんない。』

『私』がつぶやく。何でだろう。
こんなに楽しいのに。こんなに面白いのに。

『何で簡単に倒れないの?
 何で避けきれるの?
 何で撃ち返してくるの?
 ねえ、何で!?何でなのよ!!』

何でだかわからないけど『私』が怒っていた。
私達の弾を避けきった二人に。
私達に弾を撃ち返してくれた二人に。

『……もういいよ。
 もういい。あなた達なんか消えちゃえ。
 きえて、なくなれぇ!』

『私』が叫ぶ。私からたくさんの弾が出た。
それは二人に迫っていく。でも、二人は避けた。
弾は床や壁ではねかえり、また二人に飛んで――。

「『封魔陣』」

辺りが光に包まれて弾が消えた。
それは二人の片方、巫女の言葉。そして……

「マスター……スパァァァァク!!」

魔女の言葉。光が私を飲み込む。
でも、その中は暖かかった。それに包まれながら、私はこの二人に負けたと実感した。


         *


もう閉じ込められる必要はない。もう一人でいることもない。

だって、みんなは私を迎えてくれた。みんな私にやさしくしてくれた。

でも、もう一人の私はそれを嫌がった。

つまんない、たったその一言で。


         *


それからは私も外に出れるようになった。外に、といっても館の中だけだけど。
でも、それでも十分に嬉しい。
館の中ならいろいろな人と話せる。それだけでも嬉しいから。
……でも。
『私』は楽しそうじゃなかった。
むしろ嫌な顔をしていた。何でだろう。こんなに楽しいのに。
私と話すこともなくなった。『私』が話さなくなってしまった。
だから、久しぶりに私から話しかけた。

   =========

暖かい 日常を やっと手に 入れたのに

   =========

「ねえ。何で話さなくなったの?」
『…………』
「前みたいに話そうよ。」
『…………』
「ねえってば。」
『……うるさい。』
「えっ……」
『うるさいうるさいうるさぁいっ!
 こんなつまんない事なんて起こってほしくなかった!
 私はこんなの嫌なのよ!嫌いなの!
 あなたにはわからないわ!わかるわけない!』
「そ、そんなこと……」
『あなたもあの人間達もみんな消えればいいのよ!
 そうよ!みんな消えちゃえ!なくなっちゃえ!』

   =========

みんな 消えちゃうの?

   =========

『私』が叫ぶ。
私を消そうと叫ぶ。
私が、消える?
そう思った時、足元の感覚がなくなっていた。
下を見ると、私の足先がなくなっていた。
足元から始まって、だんだんと私の体は消えていく。
…………いやだよ。
……いやだ。

   =========

そんなの絶対に 嫌!

   =========

「……イヤァァァァァァァァァッ!!」


         *









 








         *


「……いやだよ、そんなの。」

私は消えてない。消えたくない。
私の手には光。暖かく、強く輝く光。

「絶対に、やだ。」

手にするこれは、私の願い。みんなの優しさ。そして、愛。
私がようやく手に入れられたモノ。

   =========

「消えるなんて絶対やだ! ようやく手に入れたものだから!
 優しくしてくれた人達を、けしてなくしたりするもんか!
 私が消えてしまうなんて、そんなことすれば許さない!
 私が私でいる限り、絶対、絶対に許さないから!」

   =========

私は手に持った光を『私』に向けて振るった。
『私』が光に斬られる。
私は『私』を壊した。そうしなければ私が壊れたから。

「……ごめんね……『私』……」

でも、悲しかった。『私』は私の初めての友達だった。
本当は壊したくなかった。でも。
……私は、消えてしまった最初のお友達にごめんね、ごめんねと繰り返しつぶやいた。

   =========

その無垢な光 神をも壊(ころ)せる

   =========


         *


あのあと、私は眠ってしまったらしい。

このまま目が覚めなくてもよかった。私にそんな必要なんてなかったから。

だって、壊した物は戻らないんでしょ?『私』はもう戻らないんでしょ?

でも、目覚めは必ず来てしまう。それが自然というモノ。

「よう、ねぼすけ。ようやくお目覚めかい?」

……魔女、いえ。魔理沙?

「おやおや。まだ頭が起きてないようですね、お嬢様。」

やっぱり魔理沙だ、何でここに?

「何でとはひどいぜ。この前約束しただろ?『もう一回弾幕ごっこで遊ぼう』って。」

……そう、だっけ?

「ああ、そうだぜ。それとな、久々にレミリアの奴も顔を出すらしいや。」

れみ……?

「……おーい、フーラーンー?お前の頭、異次元に飛んでったかー?」

うー、ひどいよ魔理沙ー……ただ頭がボーっとしてるだけなのに……

「いや、今のは……なあ。自分の姉忘れたのかと思ったぜ。」

……お姉様の顔なんて何回も見てないもん……

「そりゃそっか。最近だもんな、ここから外に出られるようになったの。」

魔理沙、今日はいじわるだ……

「あー、すねるなすねるな。私が悪かったから。」

じゃあ、一回勝たせてくれる?

「うぐ、それは……」

むー…………

「……お手柔らかに頼むぜ。」

うわーい!


         *


幻想郷の大きな湖のなかにある島。
そこに立つ館には、紅の吸血鬼が住むという。
その館の中に入り、少し歩くとどこからともなく聞こえてくる……声。
その館に昔住んでいた少女の亡霊の声だとか主の食料となるための人間の声だとかいろいろな説があるのだが、
決してその音の元に行ってはいけない。そう。決して音の聞こえるほう、地下への扉は開いてはならない。
そこにあるのは、そこに、あるのは……
























悲しみと嬉しさが混ざった不思議な狂気の声を上げる、一人の少女だから。
「どんなに素敵な物語が浮かんでも、描き表すことが出来るのはそのうちの何割かになってしまう」
ある漫画家の言葉です。

どうか、私の中で描かれた感動が、ほんの少しでも読者の皆様に届きますように。

蛇足:推奨BGM・真中あきひと氏のアレンジ曲「Luna Marionette」
まっぴー
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コメント



0.1030簡易評価
19.70れふぃ軍曹削除
淡々として、殺伐とした書き方が、良くフランの深層を表していると思います。
実のところ、私の中にあるフランのイメージとかなり近いモノだった為、かなり感情移入して読むことが出来ました。
29.100名前が無い程度の能力削除
良いフランのお話でした。