Coolier - 新生・東方創想話

Gothic Holic Chastic

2006/01/13 20:58:06
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(読む前に注意)

・演出の都合上、異常に改行が多いです。
・一部、キャラ破壊に近い状態になっている箇所があります。

「これ以上はちょっと・・・」と思った時点で一旦思い直す事をオススメします(ぉ
それではドゾーm(_ _)m




























それから、どれほどの時間を費やしたのだろう。
石畳の道を行ったり来たり、同じ店を行ったり来たり。
色んな店で色んな物を買って、色んな店で遊び回って。

人通りは徐々に減り、店も次々と畳まれ、終には全く人気のない夜道―――夜本来の姿に戻ってしまった。


「・・・・・そして誰もいなくなった、な」
「私たちが粘りすぎたんじゃないの?ていうか、今何時なのよ」

月が随分高い所にある。日付は既に変わっているかも知れない。
こんなに長く起きていられるのも特濃紅茶のお陰。これからは常用しよう・・・
・・・本来するべきではないのかも知れないけれど。


「どっかの歴史マニアに注意、とだけ言っておくか」
「何よそれ」
「聞いたままの意味だぜ」
「ふぅん・・・・・・・・・それにしても・・・・綺麗・・・・・・・・」

失礼を承知で神社の屋根に上がって腰を下ろし、見上げた夜空のなんと広く、深い事か。
『宝石を散りばめた様な』『まるで吸い込まれそう』などという比喩はまさにこの為にあるのだろう。
北極星に天の柄杓、その対極にカシオペア、天の川に織姫と彦星だってよく見える。
夜になっても灯りの絶えない紅魔館ではなかなかお目にかかれない星空だ。


「・・・・・魔理沙はこれを見せたかったのね」
「うん?んー・・・・厳密には違うっていうか・・・・・・」
「だって、こんなに素敵な星空じゃない。これに勝る物なんて早々ないわ」
「いやまぁ・・・素敵なモノなら他にもあるというか何というか」
「・・・・・・・・・・・・?」

魔理沙にしては珍しく、言葉のキレが悪い。
二人きりになったからといって大人しくなるような魔理沙ではない。それは私も重々承知している。
だが、この歯切れの悪さは何かある・・・彼女との付き合いが浅い者でもすぐに分かる。

・・・まるで、こんな時間にこんな場所で二人きりになるのを待っていたような・・・・・・?





「パチュリー・・・」



グッ



「ッ・・・・・・!?」
「横になった方が、身体が楽でいいぜ?」
「・・う、うん・・・・・」

遂にきた。何となく予想・・・否、密かに期待していたしていた事が、遂に始まった。
おもむろに私の手を握り、腰を浮かせて体半分。体半分だけ、魔理沙の吐息が近づいてくる。
月明かりに照らされて、魔理沙の顔がおぼろげに見える。太陽の下や、作られた灯りの下で見るのとはまた違う、魔理沙の表情。その表情は穏やかで、大人の艶があり・・・・・・そして、言葉の一つ一つが私の中に沁み込んでいく。

言われるがままに屋根に体を預け・・・・・首を痛めながら何とか見上げていた星空が、今度は私の視界一杯に飛び込んできた。屋根瓦のせいで少々寝心地は悪いけど、首を痛めるよりは随分マシだ。
瞬く星々は今にも落ちてきそうで、腕を伸ばせばそのまま掴めてしまいそう・・・
すぐ隣で同じように横になっている魔理沙も、同じ事を考えているのだろうか。

・・・今なら、魔理沙に何をされても許せてしまえそう・・・・・・





「ねぇ、魔理沙・・・・・・」
「ん?」
「魔理沙は『他に見せたい物がある』って言ってたけど・・・この星空も十分素敵よ・・・・・」
「・・・そうか、そりゃよかった」
「だから、ぁ・・・あ・・・・ありがとう・・・・・・・・」


ああもう。
たった五文字の感謝の言葉なのに、どもる必要なんて何もない。
どもる必要なんてない筈なのに、何故こんなに緊張するのだろう。

魔理沙が握ってきた手は、今や私の方が強く握っている有様。
この手を放したら、今夜見てきた物が全て嘘になってしまうような気がして。
この二人だけの世界が崩れ落ちてしまいそうな気がして。とてもとても放せない。

誰も来ない、音も立たない、静寂と光と闇の中に二人、残されて・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ガバッ!



「きゃ!?」
「パチュリー・・・・・・・今からもっといい物、見せてやるぜ」

繋いだ手が思い切り引っ張られる。踏ん張れずに1/4回転ほどして、止まった先には魔理沙の顔。
目と目が合った瞬間、まるで男の子のような誘惑的な目で微笑んできた。
鼻と鼻が触れてしまいそうなほど近い所で、こんな太陽のような微笑を向けられたら私は・・・私は・・・・・



「あっ・・・・・ま、魔理沙・・ぁ・・・・?」
「こんな時間までよく起きてたよな・・・偉いぜ、パチュリー」
「ぇ、だ・・だってぇ・・・・・」

近い。近い。魔理沙の顔がとても近い。
魔理沙と出会ってからそれなりの時間が経っているが、こんなに魔理沙の顔が近づいてきた事はなかった。

・・・・・・ひょっとしたらしてしまうのだろうか?
誰もいない場所、誰も来ない時間。周りから見えない闇の中で、私と魔理沙の二人きり。
男の子と女の子が交わす『アレ』を・・・・・・・・・
むしろ、ここまでお膳立てしておいて何もしない方がおかしい。


(魔理沙ぁ・・・・・・・・・ッ)


もう駄目、これ以上は魔理沙の顔を直視できない。
これ以上彼女の顔を見ていたら次のシーンを露骨に妄想してしまいそうで、私のいやらしい目つきの真っ赤な顔を魔理沙に見せてしまう事になる。
だから、私は何も言わず瞼を閉じた。何も見ず、ただ魔理沙を待った。
今のこの雰囲気なら、魔理沙の方から動くはず・・・・・・そう信じて。





「・・・・・・・・パチュリー」
(・・・来た!)
「目ェ、開けてろよ。そんなんじゃ何も見えないだろ?」
「・・・ぇ、で、でも・・・・・・」
「周りが見えてないと楽しめないぜ?ん?」
「うぅっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

魔理沙の囁きが聞こえてきた。
盗み聞きをする者などいないのだから普通に喋ってもいい筈なのに、意図的に囁きを使っていると見える。
しかも、 私 の 耳 元 で。絶対に確信犯だ。


恐る恐る瞼を開けてみる。
予想通りというか何というか、月明かりを背負って魔理沙が私の顔を覗きこんでいた。
頑なに目を閉じる私を見て楽しんでいたのかも知れないし、隙あらば何かしようとしていたのかも知れない。
いずれにせよ、魔理沙ならやりかねない。
そして、魔理沙も繋いだ手に力を込めているのが分かる。
私がそう思っているように、彼女もこの『私達だけの世界』が崩れてしまうのを恐れているのだろうか。
だがそんな事は億尾にも出さず、優しい瞳と優しい言葉で語りかけてくる。

「ふふっ・・・・・・かわいいぜ、パチュリー」
「・・・えっ、えぇっ・・・・・・・・!!?」
「月明かりのお陰もあるのかな、肌が真っ白でとても綺麗だ」
「・・・・・引き篭もってるからでしょ」
「・・そこで何故意地を張るのか分かんないなぁ・・・お前は十分かわいいよ、私が言うんだから間違いない」
「お、おだてが過ぎるわ、魔理沙・・・・・・・」

自分の容姿を褒められて悪い気はしない。だがその相手が魔理沙なら話は別だ・・・・・
いや、別というか次元が違ってくる。
新たな魔法を律する事に成功した時、難解な魔法書を完全に解読した時、何者にも邪魔されず(魔理沙除く)一日中本を読んでいられた時・・・そういう時と同じようにとても嬉しく、だがその度合いはそんな物ではない。
体の芯から熱くなり、胸の鼓動は激しくなり、息苦しささえ覚えてくる。
・・・・これが、世間一般で言う所の『告白された時』の状態なのだろうか?



「おだててなんかいないぜ?・・・・・だってさ、パチュは本当にかわいいんだって・・・」










ド ク ン










(ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・)


囁き声と共にウインクを飛ばされて。
私の中で何かが切れた。
足の爪先から頭の天辺まで、まるで炎天下にいるように熱くなり、鼓動はより一層激しくなり、震えが止まらない。

・・・ああ、駄目だ。今ので『堕ちて』しまった。

言葉を出したくても、唇まで震えていて口をパクパクと動かすのみ。
視線だって、魔理沙に合わせていいのかどうかも分からない。魔理沙とその周りに何となく焦点を合わせては外し、気を抜いたら緊張と一緒に意識まで夜の闇に飲み込まれてしまいそうだ。

この言葉はきっと、魔理沙なりの『OK』の合図なのかも知れない。
私が動こうが待とうが、彼女は喜んで受け入れてくれるのだろう。むしろ、そうであるはずだ。


ならば。





「んぅ・・・・魔理・・・・・・・・沙ぁ」


繋がれた手を決して放さず、唇を軽く突き出して魔理沙に迫る―――
我ながらとんでもない大冒険だと思う。流石に恥ずかしくて顔は直視できないし、破れてしまいそうなほど心臓は高鳴っているのに、それでも不思議と呼吸だけは整っている。
これで私の推測(というか、希望)が正しければ、魔理沙の方からも歩み寄ってくるはず・・・

・・・早く来て、魔理沙。



「・・・・・・・・おーい」

魔理沙の声が聞こえる。こんな時だと言うのに、全く場違いなほど呑気な声が。
この場の空気が読めないほど彼女は鈍感ではないはずなのに・・・

「だから目ェつぶるなって。もうすぐ始まるぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」
「何の為にこんな夜遅くまで出歩いてると思ってるんだよ・・・ほら、しっかり起きろ」


『もうすぐ始まる』とは何なのだろう?むしろ『そろそろ始める』のではないのだろうか?
再び目を開けると、真っ先に飛び込んできたのは夜空に散りばめられた星々と月。
魔理沙は一人上体を起こし、まるで咲夜のように懐中時計を握り締めながら空を見上げていた。
・・・・・その姿は、何かが起こるのを待ちわびているようにしか見えない。


そして。























ヒュゥッ


「あっ・・・・・・?」























ド・・・・・・・・・・・ォォォォォォォン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あぁ・・・・・・・・」























甲高い音と共に、『何か』が空高く昇っていくのが見えた。
それは何だったのかと思考をめぐらす間もなく、濃紺の空に花が咲いた。
それはまるで弾幕のようで、その一瞬の輝きを私の目に焼き付けて消えてしまった。

「・・・・鬼・・・・・・・・・・・・・・・?」
「おいおい、あの酔っ払いは関係ないぜ」
「でも、今の形・・・・・・」
「あれは普通の人間が創り出した見せ掛けの弾幕、打ち上げ花火さ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔理沙は夜空に咲いた花を見て瞳を輝かせている。
弾幕なら日頃から見慣れているはずなのに『見せ掛けの弾幕』とやらに見入ってしまうとはなんとも滑稽な話だが、その事で魔理沙を笑い飛ばす気にはなれなかった。なぜなら、私も弾幕が弾ける瞬間は完全に見入ってしまい言葉すら失っていたのだから。

「・・・ねぇ、魔理沙が見せたかった物って・・・・・・」
「あぁ、ご名答。打ち上げ花火もパチュは初めてだろ?」
「う、うん・・・・・・・・」
「手軽に紅魔館の屋根の上ってのも考えたんだが、あそこは周りが明るすぎるし何より邪魔が入りそうだったからな。ちょいと手間はかかったけど、ここを選んで正解だったよ」

にぱっと笑みを浮かべる魔理沙。その笑顔には邪な気持ちや打算のような物などは何一つなく、
『人気のない所に二人きり・・・』などと妄想に走っていた自分が恥ずかしい。


「さっき、お前は『素敵な星空』って言ってたけど・・・」
「・・・・・・・・・・うん、花火もすごく綺麗・・・・・・」
「・・・そっか!」

魔理沙の笑みが一段と眩しい物になった。
こうしている内にも花火は二発、三発と打ち上げられ、色とりどりの光が辺りを染め上げる。
魔理沙の顔も青から赤、緑から黄の光を受け、様々な色に変わっては消えていく。

「打ち上げ花火なんてこの時期にしか見れないからなぁ。忘れちまう前にお前を呼べてよかった・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここが特等席なんだぜ。そう何度も見れる物じゃないから、しっかり見とけよ」
「う、うん・・・・・・ありがとう、魔理沙・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・そら来た!いいか、こういう時は『たまや』って叫ぶのがマナーだからな」
「え?・・・・あ、あぁ・・・『たまや』ね」

「来たぞ来たぞ~・・・・・・・・それっ、たーーーまやーーーーーーーっ!!」
「た・・・・たまやーっ!」
「声が小さーい!」
「え!?も、もっと・・・・・?」
「デカい魔法をぶっ放すつもりで、腹の底から声を出せぇ!」
「た・・・・・・たーーまやーーーーーっ!」
「よーし!このまま息が続くまで!たーーーーーまやーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「たーーーまやーーーーーーっ!」
「たーーーーーーーーーーーーまやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「たーーーーまやーーーーーーーっ!!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


こんなに大声で叫んだのは生まれて初めてだ。
どんなに喘息の調子がよくても、とっておきの魔法を繰り出す時でも、ここまで声を張り上げた事はない。
魔理沙に促されるがままに声を絞り出し、喉は痛いし流石に息も切れてきた。
だが、逆にそれが何故か心地よくて、肩で息をするのも悪くないと思えてくる。

・・・でも館で大声を出すのは、私のキャラクターが崩れかねないので止めておこう。
魔理沙にもこの事はしっかり口封じをしておかなくちゃ。

・・・本当にありがとう、魔理沙。


今夜の花火は私達だけのもの。
そして、今夜の魔理沙は私だけのもの・・・・・・























「そういえばパチュ、意味ありげに目ェつぶってたり唇突き出してたり・・・・・・」
「!?・・・い、いやっ、アレは・・・・そのぉ・・・・・・・・・」
「ナ~~ニ想像してたんだかなぁ」
「うぅぅ・・・・・・・」

眩しい笑顔から一転。
いかにも彼女らしい、いたずらっ子のような視線が私に向かってきた。どう応えたらいいのか分からずもじもじする私を更に追い込むように、からかいを帯びた魔理沙の言葉が畳み掛けられる。

「・・・あ、ひょっとして『アレ』か?『アレ』を想像してたんだな?」
「ッ・・・・・!・・・・・・・・・」
「そうかそうか、パチュって意外とムッツリ・・・・・・・・」
「・・ち、違うわよッ!それは魔理沙が・・・・・・魔理沙が・・・・・・・・・・・・・っ」
「照れなくてもいいぜ。この時間、この場所を選んだのは確かに私なんだからな」


そう。
綺麗な花火を見るためという正当な理由はあるが、この状況を作り出したのは間違いなく魔理沙なのだ。
だがそこから妄想を勝手に走らせたのはこの私。だからロケーションの事で魔理沙に責任を求めようとは思わない。
そして当の魔理沙は全く悪びれもせず、ニヤニヤと笑みを浮かべるのみ。





「ほれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」





魔理沙の事だから、てっきり追い討ちにもう二言三言くらい言ってくるものかと思っていた。
だが彼女ときたらどうだろう。私がしたように静かに目を瞑り、上体を起こしたままそれっきり動かない・・・・・・
というより私を待っているようにも見える。こんな事、完全に私の想定の外だ。

「今度は私が・・・・・目ェつぶっててやるよ」
「え、ちょっと、あ・・・あの、魔理沙・・・・・?」
「もう何度も言わないけど、ここには誰もいないし誰も来ないぜ・・・?」
「・・・・えっ・・えぇぇっ・・・・・ちょ、待っ・・・・・・・!」


これも私をからかっているのだろうか・・・・?だとしたらあまりにも無防備すぎる。
いけない妄想を繰り返してしまうような私を前に、目を閉じてただ待つだけだなんて。
しかもご丁寧に顔はこちらを向き、穏やかな微笑を浮かべ唇も軽く結ばれている。
一旦離れて落ち着こうにも、手と手は未だ繋がれたまま。逃げる事も叶わない。

(・・・・か、か、かか、考えなさい、私・・・・・・・・!今私にできるベストは何か・・・・・・!)


もちろん、こんな切羽詰った状況でまともに考えがまとまるはずはない。
目の前の魔理沙の顔が離れず、考えれば考えるほど頭が真っ白になっていく。

・・・やっぱり、誘ってる・・・・・・?

・・・行かなきゃ・・・・・・・!?



そしていつの間にか私も身体を起こし、
魔理沙の背に恐る恐る腕を回し、
唇をゆっくり近づけていき・・・・・・・・・・・・・










カッ!


「えッ!?」





ちゅっ

「――――――――――ッッッ」























「・・・・・ははっ、あははははっ・・・・・・・・・!」
「な―――あ、ぇ・・・・・・!?」


まさにお互いの顔と顔、唇と唇が触れ合う直前の出来事だった。
ずっと閉じられていた魔理沙の瞳が突然カッと見開き・・・・・・・・・そして唇に柔らかな感触。
私からではなく、魔理沙の方から私に唇を――ほんの一瞬だけだが――重ねてきたのだ。

「はははっ、引っかかった引っかかった!」
「うぇ・・・・ちょ、ちょっ・・・何・・・・・・・?」
「お前らしくもないなぁ、油断大敵だぜパチュ!」

完全に虚を突かれてしまった。
唇に触れた温もりと感触は脳裏に焼きついてしまい、慌てて口元を拭っても離れない。
魔理沙は白い歯をにっかりと見せて笑い声を上げ、うまく私を驚かせた事が心底楽しかったらしい。
だが私はというと、起こった事に頭も身体もついて行けずにいた。何も考えられずただオロオロするばかり、何を言ったらいいのかも分からず、ただ何故か胸の底からこみ上げてくる物がある事だけ分かった。
そして目頭が熱くなり、意図せず嗚咽が漏れ・・・・・



・・・私、泣きたいの?ここで泣いちゃうの?

・・・悲しくもないのに、なんで泣きたくなるんだろう?

・・・なんで・・・・・魔理沙のせい?










「・・・・うぇ・・・ぇぇぇぇ・・・・・・・・ん」


ついに泣いてしまった。
記憶の限りでは、レミィや咲夜にも涙を見せた事はないはずなのに。
いや、泣いた記憶すら殆どないほどなのに。
彼女達よりずっと付き合いの短い魔理沙の前で、ついに私は涙を流してしまった。

「おぉっ!?ど、どうしたんだよパチュ・・・・・・?」
「うぇぇ・・・・・・魔理沙の・・・・ばかぁ・・・・・・・・・あんな事したらッ・・・・驚くじゃない・・・・・・・・・!」
「・・・・・・・あぁ・・・・・・・・・・・・・・・ご、ごめんな、パチュ・・・・・・・・・」
「うっ・・うぐぅっ・・・・・ぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」


魔理沙のエプロンを鷲掴みにして、小さな体に顔を押し付けて。
すぐに泣き止むつもりなんて毛頭ない。
魔理沙を困らせたいわけでもないが、今はただただ無性に泣きたかった。あるいは魔理沙にすがって泣いて、泣いて泣いて泣き腫らして、大声で叫んだ時のように心を晴らしたいのかも知れない。
その証拠に、悲し泣きにしては悪態をつこうとは全く思わず。嬉し泣きにしてはその勢いは衰えず。

自分はこんなにも声を出し続けられるのかと内心驚いてしまうほど、私は魔理沙の胸の中で泣き続けていた―――























「・・・・・・・ごめん。ごめんな、パチュ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一通り泣き通してようやく気が済んだ後。
私が大人しくなったのを見計らったように、私を受け止めたまま魔理沙が囁きかけてきた。
いつもの威勢のいい声ではなく、壊れ物を扱うように丁寧に、ゆっくりと。

「悪気はなかったんだ・・・本当さ。でもまさかあんなに驚くとは思わなくて・・・・・・ホント、ごめんな」

さんざん泣き腫らしたお陰か、心も頭もスッキリ軽い。今ならどんな言葉も色眼鏡なしに受け止められそうだ。
そして魔理沙の言葉・・・・・・今にも泣き出しそうな震え声でも、ましてや投げ遣りな反省の態度でもなかった。
私が泣き出した事、自分がした事、全てを理解して受け入れた末に出せる、優しい声だ。

魔理沙が頭を撫でてきた。
あの、小さくてもゴツゴツしたような感じの手が、今はとても柔らかく温かく、そして大きく感じる。
まるでお母さんに抱かれているみたい・・・私は親の顔も温もりも知らないはずなのに。
そんな魔理沙の小さな手が、私の髪を優しく撫で梳いてくれている。


今までさんざんこみ上げ続けていた剥き出しの感情が、穏やかになっていく・・・・・・



「魔理沙・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・パチュ?」
「私も・・・・・魔理沙の事、バカなんて言っちゃって・・・・・・・なんで泣いてたかも分からなくて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・ごめんね、魔理沙・・・・・・・・・・ごめんね、こんな言葉しか言えなくて・・・」


知識ばかりを追い求めていた自分がこんなに恨めしいと思った事はない。
レミィに言われるより前から本以外で見聞を広めておけば、自分の想いをうまく伝えられる言葉の一つでも見つけていたかも知れないのに。こんな時に『ごめんね』の一言では、まるで子どもと変わらない。

「いいんだよ、パチュ・・・・・・元はといえば私が悪いんだ。だからこの話は終わりにしようぜ・・・?」
「魔理沙・・・・・・・・・・・・」





ちゅっ





「――――――んッ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



言葉はうまく紡げなくても、行動を起こす事はできた。
自分の今の想いを、言葉よりも分かりやすく最もストレートに伝えてくれる手段。
顔から火符でも日符でも出せそうなほど恥ずかしいが、躊躇している場合ではない。
魔理沙が私にした不意討ちのように、私も反省しきりの魔理沙の隙を伺って・・・


「ん・・・・・・パ・・・パチュ―――」
「これで・・・・・これでおあいこ。これで本当におしまいでしょ?」

終わってみれば、意外なほど緊張はしなかった。
指先こそ震えてはいるが言葉にまでは及ばず、言葉もスラスラと口をついて出てくる。
私の方から触れた魔理沙の唇は小さくて柔らかくて・・・・・ほんの一瞬触れただけなのに、あたたかい。

そして最初の一瞬こそ目を丸く見開いて驚いていた魔理沙だったが、驚いたのは本当にその一瞬だけだったらしい。顔と顔が離れるとすぐに首を捻り、唇に手を当ててみたり、しまいには難しい顔をしてうんうん唸ってみたり。
一体何を考えているのか分からないが、その姿はどこか滑稽というかコミカルにも映る。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、そうだな!」
「・・・え?」
「色々考えてみたんだがな、もうラチが明かないっていうか・・・だからこれで終わり!すまんかった!」


やっと考え込むのを止めた魔理沙の最初の言葉がそれだった。
彼女らしいというか何というか、魔理沙は本当に切り替えが速い。ひょっとしたら何も考えていなかったかも知れない。大げさに悩むふりをして場の空気を和ませようとしていたのかも知れないし、自分の心の整理をつけるためにわざと時間を取ったのかも・・・・・・
だがそんな事はもはや瑣末な事。私と魔理沙が対等に立ち、重い空気を引きずっていなければそれでいい。

・・・ぺこりと頭を下げる魔理沙も、かわいらしい。


「・・・・・・・・・・・ぷっ」
「な、何だよ・・・笑うとこじゃないだろ」
「そうよねぇ・・・・・でも、なんだか可笑しくて・・・ぷくくっ」
「変な奴だなぁ。それとも、月の光にでも中てられちまったか?」
「月の光なんかじゃ私は狂わないわ。それに・・・・・・・」
「それに?」
「・・・・・・・うぅん、何でもない」
「ん~~・・・やっぱり変だぜ、パチュ」

笑いがこみ上げてくるのを抑え、一息ついた所でもう一度頭を魔理沙の胸へ。
今度は顔面から突っ伏する格好ではなく、魔理沙の鼓動を聞くように、魔理沙に寄り添うように。
今夜はさんざん歩き回った挙句に泣き疲れて、こうして身を預けていると本当に心地いい。

魔理沙のイタズラは、彼女の仕草と態度に免じてもう触れない事にしておこう。










「・・・・・『ドリズリィ』」
「ん?何だそりゃ?」
「この子に名前をつけてあげたの。ほら」

ほんの一時のドタバタのお陰で、魔理沙は忘れてしまっていたかも知れない。
最初に立ち寄った夜店で豪快に金魚を掬い上げた(?)事を・・・
小瓶の中のこの金魚、実は他のものと決定的に違う点があるのだ。
魔理沙の斬撃に巻き込まれる程度の運(良いのか悪いのかは分からない)もそうだが、体の色が全く違っていた。他の魚が皆橙色だったのに、この一匹だけは黒いのだ。
形も他とは違っている。種類からして違うのだろうが、これを掬い上げたのが偶然か必然かについては触れる必要はないだろう。
魔理沙からのプレゼント、という事が重要なのだから・・・

「あー、コイツか。そういや水をぶった斬ったりしたっけなぁ」
「思い出した?・・・名前をつけてあげた方が愛着が湧くものね」
「でも、なんだか肉食っぽい名前だぜ?」
「いいの。ちゃんと意味があるんだから」
「ほぉ・・・・・・で、それは何語かすら分からないんだが」
「うふふ・・・・・・・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

月の光のお世話にならなくても、私は既に魔理沙に酔っている。
きっと、彼女の為ならもっと積極的に外に出るしおめかしもするのだろう。
今夜は魔理沙におめかししてもらったけど、いつかは魔理沙を振り向かせるくらいに・・・・・・



「今度図書館に来たら、名前の意味を調べさせてあげる」

その為には、もっと魔理沙と一緒にいて彼女の事をよく知らなくては。
まずは図書館の前に今夜、この場所で。





狂気の光を振り撒く月と七色の弾幕の下で、魔法使いが二人。
見知る者など誰もいない・・・・・・・・・

(into the midnight...)
into the midnightっていうかend。


パチュリーって、本当に相当な事にでもならない限り全く泣かないイメージです。ましてや大泣き(*ノノ)
どこまでも涙を見せずにクールを装う方が彼女らしいのですが、でもどこかで鬱積した感情を晴らしているはず・・・
このSS内での大泣きは実験であり予想であり妄想でもあります。


パチュリーは『drizzly rain』から得た乙女的なイメージで書いてきましたが、乙女ってこんな感じでよかったっけ(ぉ
対する魔理沙はイタズラ好きな男の子。優しいんだけどイタズラ好き。何かしでかさずにはいられないw
ほら、男の子って好きな女の子には逆にちょっかい(ry

ていうかまた駆け足ですか俺。
これはもはや癖なのか(ノ∀`)
0005
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コメント



0.870簡易評価
7.80削除
英語くらい分かれよ霧雨、とあえて苗字で呼んでみたり。
つーか微妙に積極的なパチェ萌え。
19.90れふぃ軍曹削除
このだだ甘さ、私の中の理想郷です。
やはり「恋」は少女を乙女に変えるものなんですよね。(笑)
20.80hu削除
ラブラブですねw
まるで少女小説を読んでいるかのような気分です
24.40自転車で流鏑馬削除
ニヨニヨ・ニヨニヨ