Coolier - 新生・東方創想話

百合の花が落ちた日

2006/01/06 07:50:00
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「慧音いる?」
 そう言いながら扉を開ける。まあ、いるとは分かっているのだけれども。
「ああ、妹紅か。………また派手にやりやったみたいだな?」
 慧音は私を見るなり顔を顰めつつそう言った。まあ、分からないでもない。自分の体を見る。服はぼろぼろで本来の役割を果たしているとは到底思えない。そして至る所に血がこびりついている。これではあまりいい気持ちにはならないだろう。いつもの事ではあるのだが。
「全く、ほらこっちに来るんだ」
 慧音はそう言いつつ私の手を取り風呂へと連れて行く。これもいつもの事だ。
「ありがとう慧音」
 そうして私がお礼を言う。殺し合いをしてきたものの身繕いをしてくれる友人などそうはいない。というか慧音しか友人いないな、そういえば。少しは他人と関わるべきなのだろうか。
「で、今日はどうだったんだ?」
「ん、負けた」
 負けた。完膚無きまでに。私の仇敵である蓬莱山輝夜。奴と何回やり合ったはもう定かではないが、とにかく何千回目かの殺し合いをして負けた。まあ、不死であるから死んでも生き返るんだけど。それでも痛い者は痛い。そしてそれ以上に負ける事が悔しい。
 慧音は飽きもせず殺し合いを続ける私に愛想も尽かさず接してくれている。本当に良い友人だと思う。ときたま口うるさく思える時もあるけれど。
「全く、いい加減お前達は仲良く出来ないのか?不毛な殺し合いを続けても仕方がないだろう」
「無理。あいつとは徹底的にそりが合わない。それに今までさんざん殺し合ってきたのに今更仲良くなんて出来ないよ」
 それに、私から折れるつもりはない。それはあちらも同じだと思う。だからこれは平行線。私たちはいつまでも殺し合いを続けそして慧音はそれを諫め続けるのだろう。不死でない慧音がいつまでそうしてくれるのか分からないけれど。いつかの終わりを想像すると震えが止まらなくなる。いつか慧音が死んだ時、私はどうするのだろう。そしてその時も殺し合いを続けているのだろうか。
「お邪魔するわよ」
 不意に。本当に突然に戸が開き誰かが入ってきた。いや、誰かではない。聞き慣れた声。聞くだけで殺意を覚える声。そう、この声の主は。
「輝夜、何しにきた?」
 視線に殺意を込めて入ってきた輝夜を睨み付ける。輝夜は先程まで殺し合いをしていたと思えないほどに綺麗な身なりをしていた。まあ、すぐに汚してやるから関係ないが。
「そんなに怖い顔をしないで欲しいわね。わたしはただ、慧音さんと話をしに来たのよ」
「慧音と?」
 一体こいつはなんの目的なのだろうか。輝夜の真意が掴めない。
「ふむ、まあ立ち話もなんだ。上がるといい」
「そうさせて貰うわ」
「慧音!」
 本当にこいつを入れる気かと視線で訴える。だが、慧音はただ微笑むだけで結局は輝夜を上げてしまった。
「とりあえずは茶でも飲むと良い」
 そう言って慧音はお茶をそれぞれの前に置く。私は手をつけることなく輝夜を睨み付けている。こいつがどんな行動に移ったとしても、すぐさま殺せるように。
「いただくわ」
 輝夜はそう言ってお茶を飲む。その所作はとても綺麗で無駄がなかった。思わず見とれてしまうほどに。私も貴族の出ではあるがこういった作法は苦手なため、とくにそう思えるのかもしれない。そしてそんな感情を抱いてしまった事に激しく嫌悪した。
「早速だけど良いかしら?」
「ああ、構わない。妹紅もそろそろ限界のようだからな」
「そうね。では、慧音」
 輝夜が真剣な顔で慧音を見つめる。まるでこれから告白でもするかのように。心なしか頬も赤い気がする。まさか?
「……妹紅さんを、私に下さい」
 は?今、こいつなんて言った?下さい?誰を?なんで?つか、妹紅さん?こいつって本当に輝夜か?そんな思考が一瞬で駆けめぐる。
「下さいとはどういう意味だろうか?」
 慧音が私の疑問を代弁するかのように輝夜にそう尋ねた。一体輝夜はどういった意味で言ったのだろうか。まるで結婚の許可を貰いに行くような………いや、止めよう。嫌な想像だ。
「言葉通り。まあ、分かりやすく言うと妹紅さんとの結婚の許可を下さいって事」
「ちょ、輝夜!お前何言って「ふむ許可しよう」は?」
 黙らせようと輝夜に手を伸ばした瞬間、慧音が返答をした。しかも、とてつもなく嫌な返答を。
「慧音、本気?」
 感情が態度に表れてしまう。手にした湯飲みが砕け散る音をどこか遠くに聞きながら、私は慧音を睨み付けていた。
「ああ、本当だ。結婚でもすれば、少しは仲良く出来るだろう?」
 それは矛盾だ。仲良くなるから結婚するのが普通だろうに仲良くなるために結婚するなんて。そして何故慧音が許可を出すのだろうか。いつの間に私は慧音の被保護者になったのだろうか。動揺のあまり、思った事を口に出す事が出来ない。
「ありがとう。それじゃあ、妹紅よろしくね?」
 先程までの真剣な表情が一変、輝夜は嬉しそうに笑ってそう言った。その笑顔は本当に楽しそうで、一瞬、本当に一瞬気が変わりそうになってしまった。だが、萎える心を奮い立たせる。そうだ、負けちゃいけない、ここで退いたら人生の墓場へ行ってしまう。そうだ「ちょっと痛いけど我慢してね?」痛っ。
 突然手に感じる鋭い痛み。手を見ればうっすらと切り傷がある。そして輝夜の手に握られたナイフ。ああ、切られたみたいだ。やはり今までのは油断させるための罠だったんだろうか。だが、それなら何故ひと思いに心臓を刺さない?
「はいっ、捺印完了」
 輝夜の嬉しそうな声に目を向ければ、婚姻届と書かれた紙を手に嬉しそうにしている様子が見られた。
「って、婚姻届って何やってるのよ、あんたらー!」
「慧音さん、妹紅が怒っているのですが」
「なに、恥ずかしがっているだけさ。ほら、よく言うだろ?嫌よ嫌よも好きの内、と」
「そうわかったわ。さあ、もこたん!一緒に愛の巣を作りましょう!」
「ちょ、待て。何いきなり服脱ぎ出してるのよ!止めてよ、そんないい笑顔でこっち近づいてこないで。何その手つきは!ごめんなさい止めてください本当、待ってこっち来ないでちょっと。慧音助けてーー!」
「良きかな良きかな」
「良くないーーーー!」
 その日、百合の花が一本落ちたとかどうとか。

「それでその後の結婚生活はどうだ?」
 永遠亭。その廊下を慧音と一緒に歩いていると、そう尋ねられた。
「結構楽しいわね。因幡達も良い子だし」
 そう、最初は嫌だったけど何年も暮らせば自然と情が湧いてきた。今では数多くの因幡の名前も全て覚えるほどに馴染んできていた。まさか、輝夜とこんな生活を送る事になるなんで全く想像も付かなかったけれど。
「輝夜いるー?慧音が来たわ………よ?」
 戸を開けると不可解なものを見た。昼なのに敷かれている布団。ばらまかれている衣類。そして。
「楽しかったわ」
「私もです」
 仲良く布団に入っている輝夜と永琳。
「か」
「か?」
「輝夜の馬鹿ー、死んじゃえーーーー!」
 その次の瞬間からの出来事をRさんは記者にこう語る。
「ええ、アレは凄かったですね。もう少しで永遠亭の全壊はおろか、因幡達も全滅してしまう所でした」
 それは壮絶な夫婦喧嘩であったという。それこそ幻想郷史上最高の。
 浮気は駄目という教訓を残しつつ終。
百合って良いよね?
どうもクーヤです。
初投稿がこんな作品で良いのだろうか。まあ、いいか。
それではまた次の作品でお会いしましょう。
クーヤ
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コメント



0.1130簡易評価
6.無評価名前が無い程度の能力削除
夢オチでもなく、歴史の改竄というオチでもなく。
いいのか。この思い切りようは。
10.60is削除
これはこれで良いんじゃあないでしょうか。
二人の新婚生活が気になるところです。
20.50ハッピー削除
脈絡なしひねりなしオチなし・・・いや、オチはあったか。
なんもせ、こんなネタを馬鹿正直に投稿するとわ・・・思い切りがいいなぁ・・・。

あ、褒め言葉ですよ?
俺は結構こういうネタも好きですし。
28.無評価名前が無い程度の能力削除
三つ下の名無しですが。
や、別に面白くなかったというのではないんです。
輝夜を支援するハクタクという図式は新鮮でしたし。
ただ、前半の面白さは、まともな感覚を持つ妹紅がいたからこその要素もあったのではないかと思うのです。それが後半、案外簡単に染まってしまった。
話の筋としても不自然さを感じてしまいますし、あのオチのためにしてもオチ自体も弱いかなと。
それなら周りに振り回され流され続ける妹紅を最後まで貫徹した方がよかったかもしれません。
いろいろ書いて、なんですが。次作、期待してます。
30.60れふぃ軍曹削除
>>妹紅さんを、私にください
 吹き出してモニタに頭を突っ伏しました。(笑)
 この二人の百合ネタは数あれど、ここまでストレートなのは珍しい。

この後、永琳と慧音も含めた「激情編」も期待してます。(まてぃ
31.50MIM.E削除
いっそ三人でデキテしまうというのはどうだらう