Coolier - 新生・東方創想話

幽々子様は庭で遊びたい

2022/02/24 13:47:36
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 西行妖の下には誰かが封印されている。
 以前、そのことを知った西行寺幽々子によって起きたのが春雪異変である。

 それによって最も焦ったのは幻想郷の賢者、八雲紫ではあるが、なぜそんなに紫が焦ってるのかを幽々子は全く知らなかった。

 ところで、そんな異変のこともすっかり忘れて、西行寺幽々子は家庭菜園を始めていた。

「なかなか実らないわねぇ」

「やっぱりいわくつきの場所だからですかね?」

「自分たちが住んでる家をいわくつきって言わないでよ」

「だって亡霊と半霊がいるじゃないですか。あといっぱい浮いてるの」

「それはそうだけど」

 結局、家庭菜園は大体失敗し、食費の足しになることはなかった。思った以上に、野菜を育てるとは難しいことなのである。

「じゃあ卵を自分たちで確保しましょう」

「卵ですか?」

「ええ」

「ここにニワトリがいるわ」

「ええっ!? どこから連れてきたんですか!? もしかして盗んだんじゃ……」

「そんなわけないでしょ! もう、妖夢ったら!」

 ということで、そのニワトリに『おやこどん』と名付けて、育てることにした。もはやヒヨコではなく育ちきってるので、環境さえ整えれば大丈夫だと考えられたが……。

「待ってください、このニワトリ……霊じゃないですか!!」

「そりゃあ霊の管理してる私だもの」

「霊じゃダメですよ!!」

「盗んだりしてないわよ?」

「そうじゃなくて、そもそも霊じゃ卵産めないでしょ!?」

 ということで、夢叶わず。
 さて暇を持て余した幽々子が次に選んだのは。

「スイカ割りしましょ」

「今二月ですよ?」

「ここに紫に無理矢理頼んで持ってきたもらったスイカがあるわ! 外には季節外れの野菜を育てる技術があるらしいの」

「だとしても、二月にやるような風習ではないと思いますが……スイカ割りは」

「文句言わないっ! ほら、準備して!」

 幽々子、目隠しをする。
 妖夢、それを見守る。

「妖夢、教えて」

「幽々子様、右です」

「右ね」

「幽々子様、そっちは左です」

「次は左ね」

「いやそういうことじゃなくてですね……それに右行って左行ったら、ふりだしに戻るじゃないですか」

「次はふりだし、と」

「いやふりだしってどっち方向ですか!?」

「ふりだしというのは……上上下下左右左右BAじゃなかったかしら?」

「それは外のことなのであまり知りませんが、コナミコマンドというやつですよ……それに結局場所動いてないし、しかもBAって何なんですか」

「こっちね」

「聞いてないし……」

 目隠しをしてる幽々子の目の前にあるのは、あの妖怪桜、西行妖だった。

「えいっ!」

 ぺしんっ。

「おりゃっ!」

 ぺしんっ。

「堅いわね、このスイカっ!」

 ぺしんっ。

「いやそれ木ですし……」

 しかし、そこで思いもよらぬことが起こった。夏の風物詩を身に感じることで、西行妖、なんと季節を体感する。

 ヒラヒラ……ヒラヒラ……。

「ええっ!? 桜の花びら!? 二月に!?」

 なんと、春度を集めてもないのに、西行妖が咲きかけてるではないか!

「うなっバカな!?」

 そう声を妖夢が叫んだ瞬間、幽々子が殴ろうとしたその棒は瞬時に奪い取られ、いつのまにか幽々子はふりだしに戻っていた。

「あれ? 棒がどこかに行った?」

「……幽々子様、目隠しを取ってください!」

「えっ? あれ、最初にいた場所……?」

 スキマから彼女をいつも覗いてる……いや、見守っている、一人の妖怪。その妖怪がホッとしたような顔でスキマを閉じた。

「さて、次は何をしましょうか、暇を持て余してるフラストレーションだわ」

「ユガナイジーデイー、じゃないですよ幽々子様。目の前に安置ができるわけじゃないんですから」

「穴掘り合戦をしましょう」

「なんて言いました?」

「私があなたにとって大切なものを、この白玉楼のどこかに埋めて隠すわ。だから見つけなさい」

「大切なものを埋めないでくださいよ……」

「あれよ、外で言うタイムカプセルみたいなやつ」

「何十年も待てませんよ」

「とりあえず、さっきの目隠しをして、ここで待っててね。その間に準備するから」

「もう、分かりましたよ……幽々子様ったら」

 幽々子は、館の至る所を探し、『妖夢に怒られない範囲の、それでいてやる気になってくれる程度の、宝物』を探していた。

「これは……」

 そこにはかつて、幽々子が春雪異変の際、霊夢に負けて落ち込んでいた妖夢に元気を出すようにとあげたお守りが置いてあった。

「まだ大切に持っておいてくれたのね……しかもこんな綺麗な状態で……」

 しばらく余韻に浸る幽々子。
 しかし気付く。

「こんなに綺麗ってことは、つまり持ち歩いてないってこと?」

 お守りは持ち歩いてこそ。
 雑に扱われている気がしてムカッとした幽々子は、そのお守りを穴に隠すことにした。

「さて、どこに隠そうかしら」

 とりあえず、フェイクとして大量の穴を掘る。掘って、掘って、もぐらに挨拶できるくらい穴を掘る。土を掘りまくっていると、箱を見つけた。

「なにかしら、これ」

 それはかつて白玉楼に住んでいた、白玉楼の庭師であり、魂魄妖夢の祖父、魂魄妖忌の残した奥義の巻物であった。

「全然読めないわ……」

 西行寺幽々子は、もちろん古い時代からいる人間なので、昔の字体が読めないというわけではない。しかし、妖忌は妖夢にしか分からない言葉で、この『身につければどんな災厄からも幽々子を守れる究極の秘技』を残していた。

 幽々子は価値が分からなかったので、後日それを売ることになる。

「さて、変な巻物はともかく、とりあえず穴の数はこのくらいでいいかしら」

 新手の嫌がらせかというくらい、至る所にある穴。この遊びが終わった後は、妖夢が後処理をしないといけないと思うと、幽々子は爪楊枝くらい胸を痛めた。

「妖夢、そろそろいいわよ」

「了解しました……って、ええっ!? こんなにたくさん穴がある!?」

「見つけ甲斐があるでしょ?」

「ないですっ!!」

 ここから、隠された宝物とやらを見つけ出さないといけないと思うと、妖夢は胃が痛くなるような気持ちだった。

「ところで、何を隠したのです」

「……妖夢に前にあげたお守り」

「ええっ!? なんでですか!? 大切にしてたのに!?」

「だって随分前にあげたのに、全然使われてる感じじゃなかったんだもん。妖夢のバカっ」

「そ、そんな……」

 逆である。
 大切ゆえに、丁寧に、丁寧に、棚に飾っていたのだ。たまに眺めては思い出して、ニコニコしてる妖夢……残念ながら、幽々子には伝わってなかったみたいだ。

「なんとしても探し出さなくちゃ……!」

 一箇所、一箇所、丁寧に探す。
 一番最悪なのは、一度見たところに実は隠れていた場合である。ないと思った場所は、その先入観のためにもう一度探すことはない。なので点検は一度で済むように、一箇所を丁寧に探すのだ。

「うぅ、全然見つからない」

 探し回ってると、幽々子が掘った穴のもうちょっと下に、何か埋まってるのを発見した。

「これは……?」

 それはかつて白玉楼に住んでいた、白玉楼の庭師であり、魂魄妖夢の祖父、魂魄妖忌の残した幽々子へ宛てた手紙であった。

「うーん? 全然読めないなぁ」

 西行寺幽々子と魂魄妖忌は、昔の字体で手紙をやりとりしていた。しかし、そんなの妖夢は知らず、どちらかというと現代っ子なので、この『幽々子に宛てた感謝の言葉と、白玉楼の隠し部屋にある財宝のことを述べた手紙』は、全く読めなかったのである。

 なんだか価値がありそうということで、後日それを売ることになる。

「なら次はこの穴だ!」

 無数の穴を探し続け、ようやく終着へ辿り着いた妖夢。もう探してない穴はここだけだ。

「よし、見つけたっ!! 私のお守りだ!」

 しかし、そこで思いもよらぬことが起こった。そのお守りは西行妖のすぐ近くに埋められており、なおかつ春雪異変から丁寧に扱っていたお守りには、僅かながら春度が残っていたのである……!

 ヒラヒラ……ヒラヒラ……。

「ええっ!? また咲きかけてる!?」

 掘ったことにより、封印されていた誰かに近付いたことと、さっきのスイカ割りによって一瞬季節を取り戻したことにより、その僅かな春度は西行妖が咲くには十分な量だった。

「うなっバカな!?」

 そう声を妖夢が叫んだ瞬間、瞬時にそのお守りは地面から飛び上がり、妖夢の顔面に衝突した。

「妖夢、流石にもう少し気をつけなさい。主人の暴走を止めるのも、庭師の役目よ?」

 そんな声が聞こえたかと思いきや、お守りを顔から外し目を開けた頃には、西行妖はいつも通り花も一切咲いてないままで、静かな風景が残っていた……。

「今の声は、もしかして……」

「妖夢ー? 見つかったー?」

「幽々子様! 見つかりはしましたけど、この穴の片付けどうするんですか!? それに、このお守りは流石に許せません! 説教です!!」

「えぇ、説教?」

「ほら、早く部屋に戻りますよ。正座で説教です!」

「そんな説教だなんて、優しい妖夢らしくないわ」

「いいから!! 怒るのも優しさですっ!!」

 そう言って、無理矢理、幽々子を引っ張っていく妖夢。
 そんな二人を遠くから微笑みながら見守る存在がいた。

 こんなめんどくさいことになるなら、スイカ割りを始めた時に、穴掘りを提案した時に、止めればいいのに……つくづくそう思う。

 でも、少し負い目があるのか、それともただただあの二人のやりとりが微笑ましいのか……。つい、ギリギリまで見守ってしまうのだ。

「ふふ、私もバカね」

 スキマから彼女たちをいつも覗いてる……いや、見守っている、一人の妖怪。その妖怪がホッとしたような顔でスキマを閉じた。

 おわり
お後がよろしいようで。
どんな時も、誰かが見守ってくれるから、無我夢中になれるんですね。
Ryu
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめました
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楽しそうでした
3.70名前が無い程度の能力削除
読みました
5.100南条削除
面白かったです
妖夢が不憫で素晴らしかったです