Coolier - 新生・東方創想話

馬鹿、ふたり

2020/08/06 00:22:56
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 何処かの居酒屋、カウンターの隅っこ2席、博麗霊夢と吉弔八千慧、見た目にしても性格にしても、絶対に相応しくないであろう2人が小さく「乾杯」をしていた。

 2人は冷えたビールを一気に飲み干して、2人ともおかわりを注文する。
 おかわりと一緒に枝豆、もろきゅう等のおつまみが運ばれてきた。少しツマんで、2人ともビールジョッキの3割ほど飲んだ。
 まず口を開いたのは霊夢からだった。

「文……じゃなかった、あのクソバカガラス! 勝手に私を文々。新聞で一面の記事にするどころか『博麗神社破綻寸前』なんて見出しのせいで、梅酒まつりは大失敗。参拝客はスカスカで大赤字、そのくせ存ぜぬ顔で神社にやってくる。あーもうあの顔を思い出すだけで、イライラしてきた。それにアイツが来ると羽の掃除が面倒なのよ」

 霊夢は、イライラに任せ、残りのビールを一気に飲み干した。ぶはぁ、と息をつく。
 次に八千慧が口を開いた。

「カラスではありませんが、私は驪駒早鬼というバカには困っています。理由も無く、組事務所にカチコミしてきますから困るどころではありません。それに脳筋で力だけはありますから、部下では対処できず、私が出向く羽目になるんです。それで私の顔を見るなり笑顔になって「ようやく出て来たか、喧嘩しようぜ喧嘩」と煽ってきます。当然、無視しますが、そんなの関係なく殴りかかって来ますから相手をするしかありません。そのせいで仕事は遅れ、シノギが潰れかけたたこともあります。手を焼くというレベルではありません。ああ、思い出すだけイライラします」

 八千慧もイライラに任せ、残りのビールを一気に飲み干していた。ぶはぁ、と息をつく。
 霊夢は梅酒のロックを注文し、八千慧も同じものを注文した。

 そう、見た目も性格も不釣り合いな二人には、たったひとつ共通点があった。
 それは“黒い羽のバカ”に悩まされているというところだ。

 博麗霊夢は射命丸文に、吉弔八千慧は驪駒早鬼に、今日は同じ“バカ”の悪口を言うために集まったのだ。

 梅酒をちびちび飲みながら霊夢は話始める。

「厄介ごとを押し付けて来るのは論外ね……それなら私のほうがマシね。ああ、でもアイツは人の昼寝姿を勝手に記事にしようとしたり、酔いつぶれた姿を記事にしたり、人の私生活までに乗り込んでくるのよね。それと嫌味が通じない、神社の来客には、いつもお茶淹れるけど、アイツだけは別、嫌がらせにバッタ、ミミズとか虫類を出すけど、嫌な顔ひとつせず、むしろ笑顔でバクバク食べる、それで「美味しい」とか、「また出してください」とか、平気な顔してるから、わけが分からなくなる。普通なら嫌われている思うはずよ」
「その虫は毎回用意するんですか?」
 八千慧が質問する。
「ええ、もちろん。アイツのためだけの嫌がらせよ」
 霊夢は、つっけんどん答えた。
「なるほど……」
 その回答で八千慧は、ニヤリと笑った。

 霊夢は残り少ない梅酒を喉に流し込み、もう1杯注文する。
 八千慧も梅酒をちびちび飲みながら話始めた。

「それにしても私生活に入りこむのはウザったいですね。私も同様の経験があります。タバコを吸いながら、事務処理をしている時のことです。いつもどおりバカが、カチコミにして来ました。部下に呼び出されて、仕方なく出向くと、殴りかかって来ず、私に歩いて近づき、吸っているタバコを奪い取りました。そして真面目なバカ顔で「お前、タバコやめた方が良いぞ」と言ってきました。あまりにも予想外の言葉に「はあ?」と返すのが精一杯でした「本で読んだんだ。身体に悪いんだぞ、それとこの距離だとお前タバコ臭いぞ」と言って、私の返事も聞かず「話したいことは話したから、じゃあな」と言い残して去りました。言葉を失うとか、怒るとか、そんなレベルではなく、ただただ呆れました。こんなことを伝えるためにカチコミ? 私を呼び出して? その日からタバコを吸うたびにバカを思い出して、吸えなくなりました。ストレス発散の1つだったのですがね」
「それでタバコ辞めたの?」
 霊夢が質問する。
「ええ、吸えなくなりました、もう匂いも嫌いです」
 八千慧は、呆れて答えた。
「なるほどねえ……」
 その回答で霊夢は、微笑んだ。

 八千慧も梅酒を飲み干したので、もう1杯注文する。

 そこから2人の悪口とお酒は加速して、バカの話で盛り上がった。「よく来るくせに賽銭は1円も寄越さない」「顔がムカつく」「神社に住み着いたツバメと勝手に喧嘩してる」「可愛い部下のカワウソをイジメてくる」「自分よりお酒強いのがなんとなく嫌」「自分より背が高いので嫌い」「のらりくらりとした態度が嫌い」「きっちょー、と気安く呼ばれるのが腹立つ」「変なシャツの柄が好きじゃない」「カウボーイハットが妙に洒落ているのが生理的に無理」などなど、2人の悪口が尽きることは無かった。
 あっというまに閉店時間前、お店に残っているのは霊夢と八千慧だけだった。

 最後にお冷を1杯いただき、割り勘でお会計を済ませ、店を出る。
 しばらく歩いて、それぞれの帰路につく前、霊夢から口を開いた。

「ねえ、今日アンタに思ったことあるから、ちょっと良いかしら?」
「あら、奇遇ですね私もあります」

 2人同時に相手の顔を指して、言葉を放つ。

「アンタ、あいつが好きなんでしょう?」
「あなた、アイツが好きなんでしょう?」

 2人の間で時間が止まった。5秒後、2人同時にまた口を開いた。

「えっ?」
「はぁ?」
 何処かのバー、カウンターの2席、黒い羽の2人が、ウイスキーのロックを飲んでいた。

「いやー、霊夢さん、バレバレなんですから素直になると良いんですけどねえ」

「あーわかるわかる。きっちょーのヤツ、いつも怒ってばかりで全然素直にならないからな」
KoCyan64
https://twitter.com/KoCyan64
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コメント



0.200簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
似た者同士な二人。良い。
思う存分ニヤニヤさせていただきました。
2.100名前が無い程度の能力削除
これは良いあやれいむとやちさき
3.90奇声を発する程度の能力削除
良い二人でした
4.100サク_ウマ削除
無自覚ノロケすき めっちゃぽかんとしてるのが見えて良きです
6.100終身削除
なんで皆んなこんなに面倒くさいの…毎回愚痴を言うたびに必ずくっついてくるエピソードが妙に具体的で細かいところまで言ってて笑いました 霊夢と吉弔がずっとカリカリしているのから後書きの2人の飲んでる余裕っぷりの落差面白かったです
7.100めそふらん削除
やちさきとあやれいむ可愛くて良かったです
自覚してないながらも惚気てるのをほんとすき
8.90名前が無い程度の能力削除
好き
9.60名前が無い程度の能力削除
のろけ!
10.100七草粥削除
リズム感のいい作品でした。
11.100Actadust削除
あー可愛いかよ。
お互い素直になれないのに他人が聞いたらばれっばれなのが最高にニヤニヤ出来て好きです。
12.90名前が無い程度の能力削除
甘い!
13.90海景優樹削除
良い惚気話でした。面白かったです。
14.100夏後冬前削除
しっかりと落ちてほしいところに落ちてニンマリしました。霊夢と八千慧さんの二人に共通項を見出したところも凄い。面白かったです。
15.100南条削除
面白かったです
その回答で八千慧は、ニヤリと笑った。
その回答で霊夢は、微笑んだ。
読んでた私も、ニチャァと笑った。
17.100保冷剤削除
「顔がムカつく」が鋭すぎて面白すぎる。どうやって同席するに至ったのかは解りませんが、そういった諸々を放り出して意気投合している様子がしっかり浮かぶのは流石です
18.100モブ削除
これは可愛いですね。ご馳走様でした。