Coolier - 新生・東方創想話

それじゃあ幸せにね、私の親友様。

2020/08/03 22:31:39
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 ――え? なんでも奢るって言ってるのに、ハンバーガー一つで良かったのかって?
 いいのいいの、私こういうところでだらだら喋るの好きなんですよ。
 だからお礼なんていいんです。私、勝手に楽しんで帰りますから。
 それにほら、お姉さん私と違って綺麗ですし。金髪の美人さんですし。
 それでええと、早苗の話でしたっけ?
 早苗、早苗、東風谷早苗。
 うん。懐かしい名前。
 親しかったのかって? ええそれはもう、大親友でしたとも。
 知り合ったのは中学の頃なんですけどね。当時は早苗と言ったら私、私と言ったら早苗って感じで有名だったんですよ?
 …………。
 ええ、はい。すみません。ちょっと盛りました。
 まあ大親友だったってのは本当です。交換日記もしましたし、夜遅くまで携帯からチャットしたりしましたし。
 あ、お姉さんはチャットってわかりますよね? LINEじゃなくて、個人サイトの奴。当時は色々種類があって何個もサイト立てたりしたなー。
 …………。
 あ、話が逸れましたね。
 とにかく私と早苗は親友でした。まあそれも、卒業前までのことでしたけどね。
 どうしてかって? あの子、進学も就職もしなかったんですよ。
 世間からずれてる子だけど、就職はすると思ってたんですけどね。何せあの子、巫女でしたから。
 あー、厳密には巫女じゃなくて――え、知ってる? へえ、詳しいですね。
 まあそういう訳で、高校卒業したら自分のところの神社で働くのかなーなんて思ってたんですよ。
 これからもたくさんお喋りして。
 私の好きな恋の話とか、早苗の好きなアニメや科学の話とか。
 大学帰りの私が神社に立ち寄って、立ち話を延々として、暗くなってから家に帰ってって。
 そんな毎日が続くって、思ってたんですけどね。
 でも、違ったんです。あの子は、遠いところに行ってしまったんです。
 ……そんなに話してしまって良いのかって? お姉さんが聴きたいって言ったんじゃないですか、もー。
 でもまあ、個人情報なんて気にしなくていいんですよ。
 なにせ早苗は、消えてしまったんですから。
 それは夏の日。夏休みの真ん中。進路にも勉強にも目をつぶり、最後の一遊びをしようと思っていた真夏の日。
 高校二年生の、忘れもしないあの夏に。
 彼女は、幻想となってしまったんです。
 それからは、一度もあの子とは会っていないんです。
 ――今頃、どうしているんでしょうね。

  ◇◇◇

「――うぐぐぐ、やっぱり私には日本酒は無理ですね」
「うーん、この銘柄なら甘口だし大丈夫と思ったんだけどね」
「甘くて食べやすいトマトとかタマネギとか、そういうのと同じですよそれー」
 割と違うと思うのだけど、と紫は思う。日本酒の甘いは米の養分から来る言葉で、野菜の甘いは糖の量によって分けられるものなのだから、と。
 しかしそれも、早苗本人が一緒と思っているならば関係ない話だ。
 ……味の好みばっかりは、客観的事実が存在しないものねえ。
「どれもこれも一口で駄目となると、日本のお酒は全滅ね」
「うう、面目ないです」
「気にしないの。どうせこれくらいの量なら、萃香が全部飲んでしまうわ」
 机の上には何本もの瓶が並び、どれも栓が開いていた。
 甘口、辛口、安物、高級品、材料に米しか使っていないもの、材料にいろんなものを使ったもの、明らかに合成着色料を使ったとしか思えない得体のしれないものまで、思いつく限りの酒がある。
 しかしその全てがひと口分しか減っていない。そんな瓶一本一本が、紫のスキマの中へしまわれていく。
「早苗、一口だけとはいえ結構飲んだでしょう? 少し休んだら?」
「も、もう少しだけお願いします。らって――」
 呂律の回っていない、紫にして可愛いと思える声が叫ばれる。
 酔いに任せた勢いのまま、早苗は紫に対してこう言った。
「――お酒をちゃんと飲めるよう、紫さんに付き合ってもらってるんですもん!」

 きっかけは偶然から始まった。紫と霊夢が今夜の宴会の話をしている時に、たまたま早苗が遊びに来たのだ。
 当然早苗は宴会に参加したい意向を示したが、そこで霊夢がこう言ったのだ。今日は萃香や華扇が来るし、もしかすると地底の鬼も来るかもしれない。だからいつも以上にお酒を飲む場になるだろうし、あんたには向いてないかもね、と。
 そこからは売り言葉に買い言葉だった。昔の因縁が再発したのか、ともかく結論から言うと早苗も宴会の場で飲み比べに参加することになったのだ。
「紫さんには感謝しております。わざわざ私の特訓に付き合って頂けるなんて」
「特訓というよりも、自分に合ったお酒を見つけられればと思っただけよ」
 紫は、早苗という人物が嫌いではない。それどころか、好ましく思うところもある。
 幻想郷に突如としてやってきて問題を起こしながらも、紆余曲折を経て霊夢の友人になってくれた子。好奇心の塊で、危うげなところはあれども楽しさを忘れない少女。好ましいと思いこそすれ、嫌いと思う理由は無い。
 守矢は何をしでかすかわからないが、彼女らのおかげで幻想郷が芳醇になったのもまた確かだ。
 色々な意味で、紫は早苗に良い感情を持っていた。早苗からは、どう見えているのかはわからないが。
 ……行動力の塊で、理系で、ってところ。好きなのよねえ。
 後はこれで聡明さがあればとは思うが、それは早苗に対して失礼というものだろう。
 ともかく。紫は早苗の悩みに対して付き合うことに対して何の苦も感じていなかった。もっとも、だからといって早苗の悩みが解決するとは限らないのだが。
「本当に大丈夫?」
「ええへっちゃらですとも。取り出したるは永遠亭印の飲み薬、これを飲むとたちまち酔いが吹っ飛ぶ優れものです!」
「……副作用がありそうなものだけど」
「さすが紫さんよくご存じで。詳しくは教えてくれなかったんですけど、一週間につき三回の使用を超えるとなんかすごい副作用が起こるので飲むなと言ってました!」
 ……ああ、実は副作用なんてないのでしょうねコレ。
 天才過ぎるのも考え物である。副作用が無い薬を発明してしまったからといって、副作用があるので回数制限があると教えて売るのは強引が過ぎる。
 恐らくこんな売り方をするのは古い方の地上の兎だろう。薬師の方は基本的に聡明で無茶をしない性格なのを紫は知っている。兎の方には一度注意してあげることとしよう。
「おーさすが永琳先生。一発で治りましたよ! ……あれ紫さんどうしたんですか、そんな怖い顔して」
「うーん、皮を剥ぐのは可愛そうだから、海水を山ほど浴びせるだけで許してあげようかしら」
「何か物騒な話が聴こえた気が」
 気のせい気のせい。妖怪としては残虐度は低いので気にすることではない。
 そんなことよりも、早苗の悩みの解決には時間が無い。宴会は夜から始まる。どんなに多く見積もったとしても、十時間も残されていないのだ。
「じゃあ早苗、次に行きましょうか」
「う、でもさっきは一口で全滅でしたよ?」
「ならこんなのはどう?」
 紫はそう言って指を振る。ゴトンと音付きで空間から落下したのは、小さな缶だった。
 表面にオレンジとピーチのイラストがプリントされたものを筆頭に、どれもがフルーツをベースとしたデザインが施されている。
「――ファジーネーブル、レモンや巨峰のサワー、パインにライム。フルーツベースのお酒なら飲めるのではなくて?」
「あ、カルピスもあるんですね」
 カクテルや、サワー類だった。幻想郷に缶の加工技術を伝播させるのは避けたいものの、早苗相手に出すならば有りだろう。気に入ったものがあれば、別の形で取り出せば良い話だ。
 へー、と。どこを見ているかわからない早苗に対し、紫は笑いながら言う。
「これなら度数が少ないものもあるし、何より甘くてジュース感覚で飲むことができるわ」
「あー、はい。そうですね。これ、友達がよく飲んでました。懐かしいなあ」
「……友達が?」
「あ、私は飲んでませんよ? 良い子でしたからね!」
 別に法律のことなんて気にしないのだけどとは思うが、本人が気にしているのならば尊重するに越したことはない。
「ささ、まずは一口飲んでみましょう?」
「そうですね! じゃあ久々にカルピスからもらおうと思います!」
 早苗が缶に指をかけ、直後にカシュッと爽やかな音を響かせる。
「友達も大好きだったんですよねこれ、ついに私も飲むときが来ましたよー!」

「早くもお薬があと一回になってしまうとは、この風祝の眼を持ってしても見抜けませんでした……!」
「予知能力とかないでしょう、貴方」
 風や雨を呼ぶ神様の力が、人間に宿った存在と言うべきものが風祝だ。当然未来予知はできないし、ましてや確率を無視した奇跡など起こせるはずもなかった。
「うう、どうして、どうして。これなら大丈夫と思ったのに……」
「こればっかりは身体の話だから、無理なものは無理なのかもしれないわね」
「くそう、くそう……」
 アルコールが残っているのかいないのか。泣きながら早苗は言う。
 ……難儀な子ねえ。
「はい水。……ちょっと飲み過ぎよ。水も飲み過ぎると身体に悪いわよ?」
「んくんく……いいんです、もうお薬も一回分しか残っていないことですし」
 水を飲んでも根本的な解決にはならないような気もするが、気休め程度には効果があるだろう。本人が良いのならばそれで良いことにする。
 しかし、
「そんなに、お酒が飲めるようになりたい?」
「……できれば」
「無理をすることはないわよ?」 
「うー。だってー」
 確かに、友人が騒いでる中に入れないことに対し寂しさを覚えることはあるだろう。それにしたって、早苗の拘り方は異様を感じる。
 もっとも、
 ……私の推測が当たっているならば、おかしい話ではないだろうけど。
「ねえ早苗」
「なんでしょう」
「貴方、霊夢のことが好きでしょう」
「……どうして人が秘めていることを、簡単に暴こうとするんですか」
 酒のせいかなんなのか、早苗の頬が赤く染まる。
「見ていればわかるわよ、それくらい」
「うー」
「貴方の丁寧語が外れたのも霊夢が最初だったし」
「うぐぐ」
「魔理沙ほどでは無いにしろ、遊びに来過ぎよ貴方」
「ううう」
 自分ではばれていないと思っていたらしい。恐らくは霊夢にはばれていないので安心してもらいたい。
 ……あの子、自分のことになると鈍感なのよね。
 鈍感なのは困る。色々と。勿論それで、紫自身も助かっていることだってあるのだけれど。
「好きな人と一緒に飲めないのは、辛いわよね」
「それもありますけど、それだけじゃないんです」
「それは――」
 早苗は、自分でもどうしようもないかのような笑いを浮かべて、
「私、こっちに来る前友達がいたんです。友達っていうか、親友というか」
 こっち、とは幻想郷のことだろう。
「それで?」
「その子とは中学からの友達で。学校に行く時も、休み時間も、放課後も、家に帰ってからだって、ずっとお喋りしていたんです」
「授業中も?」
「ええ、少しは」
 叱られた子供のように、早苗は微笑む。
 きっとそれは、ずっと誰かに語りたかったのだろう。すらすらと、言葉がでてきて止まらなかった。
「でも、その子には信じてもらえなかったんです。神さまのことも、幻想郷のことも、私が――奇跡を起こせるってことも」

  ◆◆◆

 ……うわ、喋り場ってやつですねこれー。
 早苗の中の冷静な部分がそう囁く。
 八雲紫という相手を捕まえて何をやっているのか。そう思いこそすれ、口からは言葉があふれて止まらない。
「私はその子のことが大好きで、きっと相手も私のことを好いてくれていて。だから、私のことも信じて欲しかったんです」
「信じてくれなくて、悔しかった?」
「悔しくはありませんでした。大体――私はその子を捨てたんだから、何を思えるはずもないです」
 そこまで言って、言葉が止まる。
 親友のことも、クラスメートのことも、先生だって、先輩だって後輩だって、学校も商店街もご近所も家族も何もかも、自分はあの世界のことが好きだった。
 それでも相手には信じてもらえなくて、私はこっちを選んで幻想の存在になったのだ。
 だけど、
「霊夢さんとは、全てを共有したいんです」
 好き嫌いや好みの差は誰にだってある。それは、個性として良いものだ。
 でもそうじゃなくって、
「幻想郷に来て、この世界は綺麗だと思いました。妖怪がいて、妖精がいて、神さまがいて――あ、博霊神社にはいませんでしたけど」
 じっと話を聞いてくれていた紫がくすりと笑った。
 つられて笑って、それでも顔を落としながら、
「おんなじ景色を綺麗だと、想いを共有できる相手がいたんだと、そう思いました」
 外の世界では、心から通じ合える相手がいたと思っていて、だけど共有できない世界があった。
 それじゃあ幻想郷では?
「霊夢さんが良いと思ってる世界を、私も見てみたいんです」
 言うだけ言うと、沈黙が場を支配した。
 喋っていたら流石に頭も冷えた。冷静な思考で考えてみるとこれは。
 ……私、我儘な十代の感情を恥ずかしげもなく吐露する恥ずかしい子になってませんこれ?
 相手が阿礼乙女じゃなくてセーフ。いやあと千年は生きそうな妖怪なのだからこれはアウトだろうか。
「ええとあのその、そうだ、今言った話はどうか一つ忘れて頂けると――」
「――馬鹿ねえ、考え過ぎよ貴方」
 伸びてきた長い腕が、自分の頭を優しく叩いた。
 ぽふ、と音がしそうな程の強さで掌が落ちてきて、そのまま左右に撫でられる。
「わ、わ。紫さんってば」
「お酒なんてね、気軽に飲むものなのよ。飲めなければそれでいいの」
「でも――」
「大体ね。お酒なんてなくったって……まあいいわ。ほうら、うりうりー」
「ちょっとちょっとー」
 わしゃわしゃと髪を撫でる紫に対して、しかし早苗は何もしない。
 ……まったくもー。
 思うが、何故か悪い気はしなかった。
「……他ならぬ紫さんがそう言うならそうなんでしょうけど、なんだかなあ」
「まあいいじゃない」
 良くないですよ、と言おうと思った。だけど、
 ……なんて顔を、してるんですか。
 目を細めて、口を弓の形に歪めた紫を見たら、何も言えなかった。
「しかしまあアレね。たかだかお酒のことでそんなに抱え込んでるなんて、まだまだ子供なのね」
「紫さんから見たら、私だって霊夢さんだって子供ですようだ」
「拗ねないの。でもまあ――」
 言って、紫が笑いの形を変えた。
 それはどこにでもいる活発な学生のような顔で、
「深く考えずに相談したりされたりするだけで楽しいものよ。――私だって今、楽しいもの」

  ◆◆◆

 紫はこう思った。
 ……やっぱり、良い子ね。
 お酒が飲めない程度のことでここまで考え込んでしまうとは。余程霊夢と、外の世界の親友のことが好きだったに違いない。
 大人からしたら他愛のないことでも、本人からしたら何よりも大切なことだってあるのだ。
「きっと早苗の親友も、早苗のことが大好きだったのね」
「……そうでしょうか」
「そうよ。だってその子の立場って、今の早苗と同じだもの」
「――――」
 お酒が飲めないことと、幻想を信じられないことを同列に語るのはどうかと思う。
 でもきっと、本人たちにとっては同じくらい重要なことなのだ。大切な人の世界を理解できないということは。
「仕方ないわね。私が裏技を教えてあげる」
「裏技、ですか?」
「ええ。ほら貴方、守谷の二柱に限ってならその力を身体に降ろせるのでしょう? ならば、酒気に関する耐性も上げられる筈」
「それだとお二方に失礼な気も……」
「あら、神様は人との交流を喜ぶものよ? まるで、子供が交友を広げることを喜ぶ親のようにね」
 そういうもんですかね、と早苗が言う。
 きっと、あの二柱の神様は、早苗のことを子供のように見ているんじゃないかと思う。それは他人の思い込みかもしれないが、けれど間違ってはいないはずだ。
「でも紫さん、そのお酒の席で大丈夫でも、翌日ひどいことになるんじゃあ」
「それなら大丈夫よ。まだ残ってるんでしょう? お薬」
「あー、なるほど」
 八意印の薬は、溜まった不調を無かったことにしてくれる。
 なら、その薬を飲むタイミングを限界まで遅らせるにはどうしたらよいか。
 答えは、早苗という人間を考えてみれば明白だった。
 ……本当、滅茶苦茶なくせして、変なところで信仰に対して律儀なのよね。
 それもまた、この子の美徳だろう。きっと二柱も霊夢も、そう思っているはずだ。
「ふわー、問題が解決したとわかったら一気に気が抜けましたよ。ほんと有難う御座います」
「お礼ならいいわ。最初から敵に塩を送る心づもりでしたので」
「えっと、どういうことですか?」
 問われ、しかし紫は何も言わない。こういうことは、胸に秘めておくのが一番なのだから。
「あ。もしかして紫さんも霊夢さんのことが大好きだとか? ……どうしたんですか紫さん椅子から転げ落ちたりして」
「貴方はそっちの方面には敏感なのね……」
 霊夢とは違うということだ。紫も早苗も、神社にいつも来る誰も彼も、苦労しているということか。
「あーはいはい。貴方の言う通りよ」
「わ、じゃあ私たちは同好の士ってことですね!」
 きゃいきゃいと言われるが、状況がわかっているのかどうなのか。そもそも、どういう意味での好きなのか。
 ……ま、それこそ各々の中に秘めるべきでしょうね。
「それじゃあまあ、貴方も神社に行って宴会の準備をしてきたら? 私はひと眠りしてから行くから」
「すみません紫さん。紫さんはたくさん眠らないといけないお年頃なのに、こんなに付き合わせてしまって……」
「誤解がありそうだけど、まあいいわ」
 うなだれながらスキマを開く。裂け目の先には、わたわたと料理の下ごしらえをする霊夢の姿があった。今日の料理担当は紅魔館のメイドと聞いていたが、どうやら予定が変更になったらしい。
 ……早苗が来ることになったから、だったりしてね。
「さあ行きなさい、今なら霊夢を独り占めよ」
「もう紫さんったら。じゃあ、行ってきます!」
 元気よく答えて、早苗はスキマの向こうに消えていく。
 霊夢の声が――驚きつつも、喜びを孕んだ声が――聞こえるが、意味のある言葉を耳が捉える前にスキマを閉じることにする。
 ……本当にもう。
 早苗には言わなかったけれど、
「お酒が飲めなくたって、貴方と霊夢はとっくに通じてるわよ。妬けちゃうくらいにね」
 それを伝えてあげなかったくらいの意地悪は、きっと許されると紫は思った。

  ◇◇◇

 ――まあきっと、いいや絶対、今も元気で楽しくやってますよ早苗は。
 ……どうしてそう思うのかって?
 だって早苗、いつも楽しそうでしたから。
 一緒に学校に行く時も、授業中も、休み時間も、放課後だっていつだって。
 そんな早苗が、新しく選んだ場所なんですもん。絶対、楽しくて、良い世界に決まってます。
 ……ねえお姉さん。もしかしなくても、今の早苗のことを知ってるんじゃないですか? それでひょっとすると、早苗に頼まれて私の様子を見に来たとか?
 違う? 別に早苗に頼まれたわけじゃない? 興味本位?
 なるほどなるほど。じゃあ、やっぱり早苗のことは知ってるんですね?
 ……ふっふっふ、私を一般人と見たのが甘かったですね。これでも早苗から、不思議な世界のことをずっと聴かされてたんですからね。
 ま、結局早苗のことは最後まで信じられなかったんですけど。
 …………。
 え、どこに行くのかって? 帰るんですよ。初めに言いましたよね? 勝手に楽しんで帰りますからって。
 それに、私の心配も晴れましたから。早苗、今はどうしてるのかなって心配が。
 え? なんで何も話してないのにわかったかって? いやいやだって、お姉さんの顔を見てたらわかりますもん。
 だって私、昔は毎日鏡で見てましたから、今のお姉さんみたいな顔。
 早苗と一緒にいて、早苗のことを思っていると、誰もが皆そんな顔になるんですよ。
 ……覚えがあるって? そういえばあの子もそんな顔をしていた?
 あーもう早苗ったら、相変わらず皆に愛されてるんだから。妬けるなあ、本当に。
 それじゃあお姉さん、さようなら。
 私の親友だった――私の親友を、よろしくお願いしますね。
ここまで読んで頂き有難う御座います。楽しんで頂けたら幸いです。
一度ちゃんと早苗さんの話を書いてみたかったので、幸せそうな塩梅で書いてみました。
外の世界が嫌なんじゃなくて、外の世界のことも好きだったけれど、それでもこっち側を選んできた早苗さん、いいですよね。
海景優樹
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コメント



0.400簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
愛され早苗さん概念好き
誰もが幸せを思わず願ってしまうような子なんですね
2.100終身削除
こういう早苗さんが2柱だったりとか紫だったりとかに何かやろうと思っても中々思うように出来なくて助けてもらったり助言をもらったりして見守られてる感じがする話本当に好きです ちょっとズレたところが有って変なところで真面目になって悩んだり抱えこんだりしてしまうのはそりゃ紫とかも色々と世話を焼きたくなるでしょうね… お酒の事もそうなんですが紫がわざわざ外の世界に行って親友が早苗のことをどう思っているのか聞きにいってるのもお節介ポイント高くてほんわかしました
3.90奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気で良かったです
4.100サク_ウマ削除
妙に二人とも勘の鋭いところ好きです。そういうところがこの二人の仲良くなった理由なんじゃないかなーって。「だった」を取って言い直すのも絆を感じられて良き。微かにさらっと蓮メリの波動を感じさせるのもずるいなあと思います。
良かったです。優しくて可愛い素敵な作品でした。
5.100名前が無い程度の能力削除
保護者ゆかりんいいね!
6.100めそふらん削除
霊夢と一緒に過ごしたいが為に頑張る早苗可愛い
そんな早苗を保護者目線で見守りながらも、妬いちゃったり早苗さんに見透かされて椅子から落ちちゃう紫さん可愛い
もう会わなくなった人に思いを馳せるって切ないけど凄く美しいものだと思います。哀愁さや寂しさを持ちながらも前を向いて各々の道を進もうとする早苗と親友ちゃん、良かったです。
7.100名前が無い程度の能力削除
お酒が全部砂糖水に変わりそうな空間美味しかったです
御馳走様でした
9.100ふさびし削除
離れ離れになっても想い合っている二人が素敵でした。紫を介して愛情が伝わっているなあと温かい気持ちになりました。
10.100名前が無い程度の能力削除
早苗さん愛されてるなぁ
11.100Actadust削除
とっても甘いのに、どこかほろ苦さを感じる、とても素敵な作品でした。
幻想郷に打ち解けようとする早苗さん、そんな彼女をそっと応援する紫さん。そして外で見送った——
みんな誰かを想ってる、そんな優しい世界に触れさせていただきありがとうございました。
12.100名前が無い程度の能力削除
エモすぎて感情になっちゃったわね。。。
13.100レッドウッド削除
ちゃんと愛し愛されている早苗さんを見て安心しました
14.100七草粥削除
いつまでも相手のことを親友と信じる二人の美しい姿に感動しました。とてもいい世界観の物語を味あうことができました。
15.100夏後冬前削除
好き。。。
16.100南条削除
とても面白かったです
親友ちゃんがいいキャラ過ぎてすごくよかったです
ただものじゃない感がすごい
17.100いさしろ通削除
心温まる作品でした。みんなが優しくって好きです。
早苗が、外の世界の親友、霊夢に対して心残りや心配を抱いている様子が、繊細で真っすぐな人間らしくて愛らしかったです。そんな早苗を見守る紫も、心配し続けていた親友も温かみがありました。
ほっと安心して読める、心地いい作品でした。
18.無評価名前が無い程度の能力削除
好き…
19.100シープネス削除
雰囲気がイイ!
早苗が愛されてるってのが丁寧に伝わってきて実に素晴らしかったです
20.90名前が無い程度の能力削除
好みの問題ですが外の世界の子のことをもっと読みたかった
すごくいい子だと思うし、早苗ともすごくいい関係だったんだろうし
22.100モブ削除
面白かったです。ご馳走様でした。
23.100水十九石削除
恋慕と友誼と愛情をずらっと並べながら早苗さんの内情に迫っていて、とてもほんわかな気持ちにさせて戴きました。外への未練を振り切って幻想郷に来ていると言うより、内では甲乙付け難くも選んだ道なのだろうなと思うと良いものです。
親友ちゃんのパートも考えさせられる何かがあって、本当に早苗の中では優劣も無いぐらいに外の世界も好きだったんだろうなというのが強調されている様に感じられます。あと変な所で洞察力が高いのも早苗と重ねてあるようで、『早苗と言ったら私、私と言ったら早苗』というのはまさにそうだったのだなと思わされてしまいました。
紫様も良い味出してますし、母子みたいな温かさを連想させてくるのも味がありました。ありがとうございます。
24.100fushiana削除
紫の行動は単なる興味本位なのかもしれないけど、早苗のことを良く話す親友に嬉しい表情も溢していたのかなと思うと早苗と紫は単なる話し相手に留まらない関係に感じてニヤニヤしてしまいました。とても幸せな気分になれました。
27.100ガニメデ削除
幻想少女に世話を焼く紫、とても好きです。わざわざ外の世界まで行って親友から早苗の話を聞いたり、優しさ溢れる姿が大変素晴らしいです。
30.100福哭傀のクロ削除
親友と早苗、早苗と霊夢とで
好きな人と世界を共有することを望む構造が綺麗でいいなと。
前者が共有できなかった幻想を後日談的にとは言え伝え、
後者が共有できなかったお酒に付き合ってあげる。
八雲紫はさすが境界を操る妖怪、2人の世界をあやふやにする
素敵でした
32.100きぬたあげまき削除
出てくる人々のやさしさが温かい話だと思いました。
それぞれ何らかのものをちょっとずつ譲歩している感覚が好みです。友人は早苗と再会できないという状況を受け入れ、紫は恋敵でもある早苗が先に宴会に向かうのを後押しし、早苗は霊夢に思いを伝えることを躊躇っている。
素敵な作品をありがとうございました。