Coolier - 新生・東方創想話

幽雅に咲かせ、逆転の桜(後)

2005/12/19 01:00:42
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「……さて」
「南京玉すだれ?」
「分かりにくいボケをするな。
 じゃなくて、いつになったら再開するのかと思ってな」
「あのスキマ妖怪がおいでなすったら、でしょ?」
「まあ、そりゃそうなんだが……」

映姫が休憩を宣言してから早30分。
多少なりとも緊迫していた筈の空気もとっくに霧散しちまった。
幽々子は控え室でお昼寝中だし、咲夜は何やら編み物を始めていたりする。
で、私達はどうしてるかと言うと、今後の作戦について延々と議論を交わしていた。
決して漫才じゃないぞ。

真犯人は紫に違いないと宣言したのは良いが、改めて考えてみると極めて可能性は低いと言わざるを得ない。
と言うのも、状況的に紫にも出来た。というだけで実際に犯行に及んだかどうかは別の問題だからだ。
むしろ、これまでの流れからすれば言いがかりみたいなもんだ。
そこを突っ込まれる前に、召還に持ち込めたのは幸運かも知れないが……。

「でも、幽々子を信じるなら、犯行可能なのがアレくらいなのも事実よね」
「そうだ。むしろ、そうであってくれないと困る」
「どうにかして紫から証言を引き出さないと……と、その前に一つ疑問があるのよね」
「あ?」
「あいつ。呼ばれたからって素直に来るようなタマかしら」
「そりゃ来ないだろ。だからわざわざ映姫自身で……」



がこん!



「っと、来たようだ……な?」
「そ、そう……ね?」

お互い疑問系になってしまった。
と言うのも、壇上に現れた映姫の姿に若干の問題を感じたからだ。
早い話、ボロボロ。
帽子は何処かへ吹っ飛んでるし、服もあちらこちらが引き裂かれている。
卒塔婆に至っては折れて半分になってる始末だ。

……が、それ以上に酷いのが、証言台にいる何か。
どうして『何か』なんて回りくどい表現をするんだね? 
と問われても、そうとしか表現できないのだから仕方ないだろう。
白いようにも見えるし、ベージュであるような気もするし、金色っぽくもある。
だが、あえて一色を挙げるなら……赤か?
とにかく、そんな感じの塊が、証言台に鎮座召しましていた。

「静粛に。……お待たせしました、審理を再開します」
「……にゃに?」

再開?
それだと証言者が現れたって事になるんだが……。

「ねぇ、もしかしてあの塊って……」
「……紫、なんだろうな」

言われて見れば、そう見えない事も無いような気がする可能性が若干生じる思いを隠しきれない所存だ。
要は、ゴネシエーター紫を前に、痺れを切らした映姫が実力行使で連れてきたって訳か。
にしても、あの非常識妖怪をこうも原型が無くなるまで痛めつけるとは、
外見やらこれまでの言動やらで軽く見ていたけど、腐っても閻魔様だなぁ。
まぁ、出来るなら言葉で説得して欲しかったもんだけど。




「では証人、名前と職業を」
「……」
「聞いてますか? 名前と職業をお願いします」
「……」

映姫は何事もなかったかのように進行を始めてるが、どう見たって聞こえてないだろう、アレは。
というか、自分でボコっておいて、どうして気付かないんだ。


「証人、私に仮病は通用しませんよ。もう一度裁きを受けたいのですか?」
「……分かったわよ、もう」

げ。
塊がしゃべった。
……と思ったら、何時の間にか普段の格好に戻ってやがった。
どこまで演技だったのか、さっぱり分からんが、やっぱりこいつも普通じゃないな。



「えっとぉ、やくもゆかりん15歳、花も恥らうお年頃の乙女でーす」



「……」
「……」
「……」
「……」

「「「「「「…………」」」」」」




「……おほん、失礼したわ。私、八雲紫と申します。しがないスキマ妖怪やってます」

外した。と気が付いたんだろうか、紫は少し顔を赤らめていた。
いい年ぶっこいてアホな事を抜かすからだ。

「結構。では、証言をお願いします」
「……証言って、何の?」

って、おいおい。


『ちょっと待った!』


「どうしました弁護人?」
「どうしましたじゃないでしょ。貴方、何も説明せずに連れてきたの?」
「……ああ、そういえばそうですね。うっかりしてました」
「うっかりとか、そういう問題じゃないと思うんだけど……」

アリスの言ももっともだ。
何の理由も言わずに連行を試みたんなら、そりゃ紫じゃなくったって反抗するっての。
少しだけ上がったような気がした閻魔様の格も、都合五分で元通りか。

と、まぁそんなどうでもいい事は置いといて、
重要なのは、紫はまだ連れてこられた理由を知らないって点だ。
これは考えようによっちゃチャンスかもしれん。
映姫がアリスと問答している今のうちに、引き出せるだけ出しておくか。

「あー、紫。おまえ今日、白玉楼に行ったか?」
「何よ藪から棒に。行ったけど、それがどうかしたの?」

ヒット!

「そうか、んじゃ次だ。桜餅は好きか?」
「好きか嫌いかに分類するなら好きな方に入るわね。でも、安物はお断りよ」

2ヒット!

「よし、じゃあ最後だ。花瓶と『異議あり!』


「裁判長! 今は無駄な問答をしている時ではありません。
 早くこの証言を済ませるのが先決と思いますわ」

ちっ、気付かれたか。
仕方ない、こうなりゃ証言から引き出すしか無いな。

「そ、そうですね。失礼しました。
 では改めて……証人、今日白玉楼に行った際の出来事について証言をお願いします」

って聞いてたのかよ。
これが本物の地獄耳か。









<証言者3 八雲紫>
『白玉楼での行動について』

「証言ねぇ。まぁ良いけど。 
 んーと、着いたのが確か二時頃だったかしら。適当にスキマを展開した部屋で、丁度幽々子が昼食の真っ最中だったわ。
 あの子、食事中は何も目に入らないし、邪魔してもあまり面白そうに思えなかったから、仕方なく適当にぶらついてたわ。
 それで、食事が終わる頃を見計らって顔を出してみたんだけど、その時はもう誰もいなくてねぇ。
 どうしたものかと思ってたら、急にそこの死神さんご一行が現れたものだから、退散することにしたの。
 私、面倒に巻き込むのは好きだけど巻き込まれるのは嫌いだしね。
 で、これって結局何の騒ぎなのかしら?」






にわかに観衆がざわめき始めた。
証言を聞く限り、紫にアリバイはまったく無い。
というかそれ以前に、今だに事件の概要を知らないらしい。
……いや、もちろん全部知っていてとぼけている可能性もあるが。


がこん


「静粛に! それでは、弁護人は尋問をお願いします」
「おう」

ともあれ、これなら何とかなるかも知れないな。
……同じくらい嫌な予感もするけど。







<尋問開始>

「幽々子が食事中だったそうだが、妖夢はいなかったのか?」
「ええ。幽々子一人よ」

まぁ、あいつの事だから、色々と忙しかったんだろうとは思うが。
これは幽々子のアリバイと……はならないか。2時じゃなあ。


「適当にぶらついてたってのは、具体的にどの辺りかは証言できるか?」
「具体的って言われてもねぇ」
「あー、いや、この一点だけでいい。居間には入ったか?」
「居間? どうだったかしら。行ったような……行かなかったような」
「どっちだよ! つーか、ついさっきの事なのに何で覚えて無いんだ!」
「あら、貴方はこれまでに食べた米粒の数を覚えているの?」
「……」
パンなら答えようもあったが、流石にこいつは無理だ。
いや、洋食派だって無理だろうけど。
「ともかく重要な点なんだ、何とか思い出してくれ。
 ……それともアレか? 答えられない理由でもあるのか?」


『異議あり!』



「見ての通り、証人は少々年を召してますわ。
 よって、徘徊するのも当然ですし、その時の記憶が曖昧なのも致し方ないことかと」
「……かもなぁ」
「って、どうして納得しちゃうの!? というか見ての通りって何!?」


がこん!


「証人は少し冷静になりなさい。事実を指摘されて逆上するなどもってのほかです」
「うー……」

おーおー、またやり込められてやがる。
よっぽど閻魔様の恨みでも買ってるのかな、あいつ。

「それで、本当に何も覚えて無いのですか?」
「だからそう言ってるじゃないの。
 ……まったく、突然引きずり出されたかと思ったら、暴行に加えて質問攻め。
 たかがお菓子泥棒くらいで張り切っちゃって、夜魔天というのはよほど暇なのね」
「まぁ、その意見には激しく同意するが……ってオイ。紫、おまえ今何て言った?」
「へ?」
「ついさっき、『これは何の騒ぎなのかしら?』とか抜かしてたよな……。
 なのに、どうして本件がお菓子泥棒だと知っているんだ?」
「……あ」

……どうやら、映姫の強制連行が功を奏したらしいな。
でなきゃ、こいつがこうも簡単に口を滑らせたりする筈がない。

「……証人、これはどういう事ですか?」
「え、えーとねぇ、実は全部知ってた……とか言ったら許してくれるかしら?」
「……」

映姫が右、左、とゆっくり首を振った。

「全然許せませんね」
「そ、そう、やっぱり」
「……証人にはペナルティを与えます」
「その台詞、対象が違うー!」








何が起こったのかは、裁判にはあまり関係が無いので言わないでおく。
確かなのは、紫がもう一度偽証をした瞬間に、この裁判所は崩壊するだろうって点だけだ。
勘弁してくれ。

「……では、証人はもう一度証言をし直すように。
 念のために言っておきますが、次はありませんのでそのつもりで」
「……ふぁい」







 <証言者3 八雲紫>
『白玉楼での行動について・追加』

「ええっと、死神さんご一行を見るまではさっき言った通りよ。
 やっぱり何が起きたのかって気になるでしょ? 実際気になったのよ、暇だったし。
 で、妖夢を捕まえて問いただしてみたら、幽々子がついにやらかしたって言うじゃない。
 いつかやるとは思っていたけど、まさかそこまで飢えていたとはねぇ……。
 その後、妖夢も行っちゃったんで、仕方なく愛しのマイホームに帰ったわ。
 ま、結局こうして無理やり連れてこられた訳ですけど」






……むぅ。
あんまり重要そうな証言に思えないなぁ。
とりあえず、さっきの証言と重ねて揺さぶってみるか。



<尋問開始>

「食事が終わるのを見計らって顔を出したそうだが、正確な時間は分かるか?」
「んー、30分くらいかしら」

すると、2時半か。
丁度、妖夢が音を聞いた時間だな。

「で、誰もいなかったと。……確認するが、その部屋は居間じゃなかったんだよな?」
「ええ、そうよ。どうしてこんな離れで昼食なのかは疑問だったけど、まぁ幽々子のする事だし」

なるほど。
これでますます幽々子の疑いが強まったな。
……駄目じゃんか。



「そ、それでだ。小町たちが突然姿を見せたって?」
「小町?」
「そこのジャンボな死神の事だ」
「……ジャンボは余計だ」
「あー、そうよ。大勢引き連れて現れたかと思ったら、突然ドンパチ始めるもんだから驚いたわ」

嘘付け。
お前がその程度で驚くタマか。

「でも、それは少しおかしいな。小町が白玉楼に到着したのは大体2時50分頃だ。
 そして、お前が顔を出したのは2時半だと言う。
 ……いくら薄ぼんやりとしてても、20分も空白が出来るもんか?」
「そ、それくらい別に普通でしょ? 私みたいに永いこと生きている者にとっては、
 20分なんて瞬きのようなものなのよ」

……怪しい。
年齢について自分から口にする辺りが極めて怪しい。
それくらい余裕が無いと見るべきか?

「それと、もう一つ」
「な、何よ」
「実は、幽々子が連行される時、私とアリスも白玉楼にいたんだが。
 そこで妖夢は見かけたけど、お前の姿は確認していない。……何故だ?」
「な、何故って、そんなの偶然よ。白玉楼って言っても広いんだし、
 たまたま出会わなくっても不思議でも無いでしょ?」
「そうかな? 某八雲紫さんの証言によれば、彼女は妖夢がその場を離れるまでは一緒にいたそうだ。
 即ち、時間的にも位置的にも私達とバッティングしていたんだよ。
 よって、その偶然は有り得ないな」
「あー……うー……あー」


がこん!


「……証人。次は無いと言った筈ですが」
「い、嫌ですわ、そんな怖い目で睨まないで下さいな。
 ……そ、そう。これはちょっとした記憶違いよ。
 私が妖夢と話していたのは、魔理沙達が来る前の事だったのよ。
 で、少し目を離していた隙に、妖夢は行ってしまった。
 貴方が目撃したのは、丁度その時の事だったんじゃないかしら」
「ほう……ならお前はそれを証明できるのか?」
「妖夢に聞いて御覧なさい。事件発覚後に私と会っていたのは事実よ」
「むぅ、だったら早速確認を」


『異議あり!』


「その点については既に確認済みよ。
 大体、今の発言が偽りだったとして、本件と何か関係があるのかしら?」
「んなっ……!」
 
こ、こいつ……。
紫も容疑者の一人だって、最初っから知ってたのか!
さっき驚いて見せたのも演技かよ……陰険な奴め。

「確かに、その通りですね。弁護人はもう少し考えて発言するように」

お前が言うな!!



「魔理沙、落ち着いて。考えの方向性がずれているのは事実よ」
「んぁ?」
「いい? 今必要なのは、紫が犯人である事の証明だけ。
 なら、犯行後の出来事なんて関係無いわ」
「そりゃそうだが……こうやって突っ込むうちにボロが出るって可能性もあるだろう」
「さっきまでは私もそう思ってたわ。でも、こうして咲夜まで出張ってきた以上、
 紫はある程度考えを頭に入れてこの場望んでいると見て良いわ。
 偶然を期待するのは時間の無駄よ」
「……」
「事件が起こったのは、午後2時30分から45分の間。その時間だけに絞って探りを入れましょう」
「……分かったぜ」




「……あー、ともかく。お前は2時30分から50分の間の行動についてはアリバイはないんだな?」
「……」

答えないって事は、その通りなんだろう。

「そして、この事件が起こったのも、丁度その時間帯だ。
 ……偶然にしちゃピンポイント過ぎるな」
「私が犯人だって言いたいの?」
「有体に言うならそうだ」
「冗談は止めて頂戴。そりゃ私だって桜餅くらい食べるけど、
 わざわざこんな大事を起こしてまで貪り喰おうなんて思わないわよ」
「たまたま大事になっただけじゃないのか?」



『異議あり!!』



「魔理沙。法廷でものを言うのは証拠のみよ。
 当てずっぽうで探りを入れるのは止めなさい」
「……」

証拠、か。
確かに色々怪しい点こそあるが、まだこいつが居間に侵入したって事実は暴かれていない。
そこを何とか追求できれば良いんだが。

……一つ、やってみるか。

「あー、紫。こいつを見てくれ」

私が突きつけたのは、証拠品4。
意味が分からないって人は、前編を読み返してくれると有難い。

「写真まで使うだなんて、近代化の波はここにまで及んでるのね……で、これがどうかしたの?」
「いや、どうもしないさ。ただ何が映っているのかを答えてくれればいい」
「……? 戸棚でしょ?」

よっしゃ! かかった!

「ほう……お前にはこれが戸棚に見えるのか。
 不思議だな、私の目には花瓶としか映らないんだけどなぁ」
「……?」

……あれ?

「なぁアリス。普通なら、ここで焦りを見せてフラグ成立って場面じゃないのか?」
「普通ならそうかもしれないけど……アレ、どう見たって普通じゃないでしょ」
「いや、そりゃそうだが……」

どうもそういうレベルの問題じゃない気がする。
紫からは動揺がまったく見られないばかりか、むしろ困惑している節さえ見える。
あんた、何言ってるの? とか、そんな感じだ。

「あー、もう一度聞くが、お前はこいつが戸棚だと言うんだな?」
「何度も言わせないで。私が幽々子にあげたものを間違える筈が無いわ」
「!?」

悔しい事に、私のほうが動揺を見せてしまった。
そりゃ確かに、こんな不自然な物の出元なんて、こいつか香霖くらいだろうな……。
これで『まだ説明していないのに何故知っているんですか作戦パート2』は無意味になった。



がこん!



「これくらいで十分でしょう。証人、ご苦労様でした」
「え? もう良いの?」
「……必要とあらば、後ほど私と一対一でいくらでも証言する機会を与えますが?」
「おほほ、サイバンチョ様は冗談がお好きですこと。……では、失礼するわ」

額に汗を滲ませつつ、紫が証言台から降りる。
……って冗談じゃないぞ。
ここでこいつに帰られたら何にもならない。


『ちょっと待った!!』


「弁護人、どうしました?」
「あー、その、まだ尋問は終わってないというか」


『異議あり!!』


「揺さぶるだけ揺さぶっておいて、肝心な証拠との関連性については皆無。
 どう見ても貴方の時間稼ぎとしか映らなかったわ。終了を命じるのも当然でしょう。
 そうですわね? 裁判長」
「その通りです」
「い、いや、そんな事は無いぞ。
 現に、あいつには犯行時間内のアリバイが無かったじゃないか」

逆に言えば、はっきり分かったのはこれくらいだった。
……流石に苦しいか?

「……確かにそうね」
「へ?」

まさか、認めるとは思わなかったぞ……。
聞いてる内に心変わりでもしたのか?

「紫にも犯行は可能だった。そして、アリバイも証明できない。その点は認めましょう。
 ……でも、それが何だと言うの?」
「ああ?」
「依然として、一番犯人の疑いが強いのが幽々子である事に変わりは無いのよ。
 それとも貴方は、紫がやったという事を証明できるのかしら?」
「い、いいぜ。そんなもの簡単に……」
「……」
「……」
「……」

「「「「「「……」」」」」」


……駄目だ、出来ない。
どう言葉を並べた所で、すべては憶測に過ぎない。
それこそ紫が桜餅を平らげる瞬間を撮った写真でも無い限りは、断定など出来る筈がないんだ。

「な、なぁ、アリス。何か思いつかないか?」

藁にも縋る思いで問いかける。
情けない話だが、もう私では完全に手詰まりだ。

「私と魔理沙は合わせて九色。対して紫は所詮一色。
 その力は私達の一割一分一厘一毛に過ぎない……筈なんだけど」
「だけど?」
「……ごめん、無理」

爪を噛んでいた。
……使えない。
意味深な前振りには何の意味があったんだ。

「し、正直な話、紫が全力を挙げて事実を隠蔽しているのなら、もうこの場での解決は不可能だと思うわ」

送ってみた絶対零度の視線が功を奏したのか、アリスが慌てた様子で口を開いた。

「だから、私達に残された道は、まったく別のルート……。
 即ち、他の犯人がいると主張して、なおかつそれ証明することよ」
「んな無茶な……」
「分かってるわよ。紫でも幽々子でも無いなら一体誰なのかって、ね。
 ともかく、もう一度証拠品を洗いなおして、思いつく限りの容疑者を並べ挙げるしか……」

そこで急にアリスの動きが止まった。
まるで、何か見てはいけないものを見てしまったかのような、そんな表情で。

「お、おい、アリス?」
「……魔理沙」
「あ、ああ」
「もしかして、私達はとんでもない思い違いをしていたのかも知れないわ」
「な、なんだってー!?」

つい叫び返してしまう。
これは本能の成せる技だ。

「……突っ込まないわよ」
「……ああ、すまん。
 で、その思い違いって何だ?」
「質問、この事件を通報したのは誰?」
「あ? 妖夢だろ?」
「正解。次、桜餅の所在について知っていたのは、幽々子を除くと誰?」
「妖夢だな。もしかしたら紫も知ってたかもしれないが、これは憶測だ」
「正解。次、状況証拠について証言したのは誰?」
「何度も言わせるなよ。妖夢だ……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……分かった?」
「……ああ」

……馬鹿か私達は。
どうして今まで可能性を無視していたんだ。
幽々子でも紫でもないなら、ホシは妖夢以外にありえないだろうに。
他の目撃者がいない状況で、第一発見者かつ通報者なんて疑うのが当たり前じゃないか。

「多分、他の容疑者が怪しすぎたことで盲点になっていたんでしょうね」

違いない。
何しろ、幽々子に紫という幻想郷のはた迷惑ランキングを作れば、確実に上位にノミネートされる二人だ。
一位は私だろうって? 余計なお世話だ。
ともかく、そんな所に妖夢がいたところで、また巻き込まれたのか、くらいにしか思わないだろう。
実際、今まで私もそう思っていたからな。
……そうなると、妖夢はそこまで計算して、この事件をでっち上げたのか?
そんなに悪知恵の働く奴だったかな……いや、細かい動機なんざ後回しでいい。
道が見えたなら、あとは切り開くのみ!



「裁判長! 一つ提案がある!」
「あなたもしつこいですね……もう結果は見えています。
 それに、時間的に限界なのですが」
「分かってる。だからこれが最後だ。
 もう一度、妖夢に証言をさせてくれ!」


『異議あり!』


「今更彼女に何を証言させようと言うの? 無駄な時間稼ぎは止めなさい」

当然ながら、咲夜から異議の声がかかる。
でも、その行為によって更に確信は深まった。
異議を唱えるってことは、咲夜も私達と同じ結論に辿り着いているに違いない。
……いや、もしくは最初から知っていた上で、幽々子に罪を押し付けるって腹だったのかも知れないが。

「無駄かどうかは、直ぐに分かる。
 もし、この証言で何も出てこなかったなら、その瞬間に有罪判決を下して構わないぜ」
「……それはまた、大きく出たものね」

俄かに観衆がざわめき始めたのが分かる。
結局のところ、盛り上がれば何でも良いのかこいつらは。



がこん!


「良いでしょう、弁護人の要望を認めます。
 ただし、この証言が文字通り最後の機会です。良いですね?」
「ああ、それでいい」

躊躇う必要は無かった。
どの道、思惑が外れれば完全にお手上げなんだから、同じ事だ。
 







程なくして、妖夢が二度目の証言台に立った。
さっきのような怯えた様子こそ消えているが、内面の方はどんなもんだろう。
困惑しているか、憤りを感じているか。
私達の考えが正しいのなら、そのどちらでも無いだろうな。

「それで、彼女に何を証言して貰うのですか?」
「そうだな……」
「……」
「ええと……」
「……」
「その……」
「……」
「うーん……」
「……」

「ちょっと魔理沙! まさか何も考えてなかったの!?」
「し、し、し、失敬だなアリスM。私がそこまで考え無しだと思っているのか」
「どもってるじゃないの! というか誤解を招くような呼び方しないでよ!」
「誤解だぁ? ただの事実じゃないか」
「事実だからって人の性癖を暴露していいと思ってるの!?」
「性癖? お前のイニシャルと何の関係が……あ」
「え」
「……悪い。素で意識してなかった。そういう事ならこれからは考慮するぜ。
 いや、薄々は感付いていたんだけど、やっぱり衝撃だな……」
「っ……! 振ったのはあんたでしょう!!」
「……否定はしないのか」


『異議あり!』


「今の弁護人の発言は、仮にも神聖なる法廷の場に相応しいものとは思えません。
 後日改めて行わせるべきだと思いますわ」
「検察側の異議を認めます。弁護人、エロスは程々にしておきなさい」

ああ、良かった。
どいつもこいつも馬鹿ばっかりで助かったぜ。
「馬鹿の筆頭のくせに達観してるんじゃないの!」
はいはいノイズノイズ。

……さて、行くか。
お陰で考えをまとめる時間が稼げたからな。

「あー、それじゃ改めて。
 事件の前、最後に居間へと入った時の様子について証言して貰うぜ」
「事件の前?」
「ああ。それが何時何分だったかは知らないがな」
「はあ……それが何か重要なポイントなのですか?」


ばこん!


机をわざと大袈裟に叩き、映姫に向かって指を突き出す。

「当然! 重要も重要! 事件の鍵はすべてこの時間が握っていると言っても過言じゃない!
 今証言させなければ、我々は生涯後悔するに違いない!」

当然だが、ハッタリだ。
そんなものは聞いてみないと分からない。
が、ここで印象付けておくかおかないかは、後々大きく影響して来るだろう。
その為のネルフ……じゃなくて演技だ。

「……分かりました。では証人は証言をお願いします」
「……はい」






<証言者4 魂魄妖夢>
『事件前の居間の様子について』

「お昼頃にお掃除に入りましたけど……別に変わったことは無かったと思います。
 もともと、あまり物の置いてある場所でもありませんし。
 桜餅にしても、その時は思い出しもしませんでした」






「こんな短い証言から、何か引き出せるの?」
「……わからん。でも、やるしかないだろう」



<尋問開始>

「お昼頃ってのは、具体的に何時だ?」
「正午を回った辺りかしら」
「でもお前、さっき言ってたじゃないか。屋内の掃除に向かった時に物音を聞いたって。
 確かそれは二時半の事だった気がするんだが?」
「白玉楼の広さを知ってて言ってるの?
 屋内って一口に言ったけど、全部の部屋を掃いて回るだけで半日潰れるのよ。
 昼食を挟んで掃除するのがそんなにおかしい?」
「……悪い。その通りだな」

……アホか私は。
妖夢に言い負かされてどうするんだ。
突っ込むポイントはここじゃなくて……。


「物が置いてないってのは……」
「だから言葉通りよ。箪笥とか卓袱台とか、もともと備え付けてある物以外は何も無かったわ」
「例の戸棚も?」
「注視はしてないけど……多分、普通に置いてあったと思う」
「で、桜餅に関しては思い至らなかった……と。
 仮に、その時既に食べられていたって可能性は無いのか?」
「無いわ。昼食の時に幽々子様が言及していたもの。
 少なくともそれまでは確かに存在していた筈よ」

戦闘ならともかく、こういう場での妖夢は器用なタイプじゃない。
だから、こうしてすんなりと答えるってことは、全部事実なんだろう。
……でもな、妖夢。
それが落とし穴だとは気付いて無いだろ?



『異議あり!!』



「弁護人はただ無駄に時間稼ぎをしているに過ぎません。
 裁判長、一刻も早く判決を出す事を希望します」
「……一つ、弁護人に問います」
「何だ?」
「貴方は、何を望んで、彼女に証言をさせたのですか?
 私には到底意味があったとは思えませんが」
「それは……」

ったく、せっかちな連中だな。
こうなりゃ、勢いに任せるしかないか。


「決まってるだろう、私達……いや、この場にいる殆どの奴が気が付いているはずだ!
 この事件の真犯人が妖夢だからだ!」


言った。
言ってやった。
これでもう後戻りは出来ない。


「べ、弁護人! 突然何を言い出すのですか!」
「そうよ! 突拍子が無いにも程があるわ!」
「本当にそう思うのか?
 幽々子が行ったと思われる行動を、妖夢に照らし合わせて何か不具合が生じるか?」
「そ、それは……」
「あの妖夢が盗み食いをした上に、幽々子に罪を押し付けるなんて真似をする筈が無い。
 ……せいぜいが、そんな思い込みくらいだろ。
 でも、こうして裁判に掛けられた以上、こいつは事件だ。
 だったらそこに私情なんざ差し挟む余地は無いぜ」
「……」
「私の推理はこうだ。
 昼食が済んだ後、妖夢は居間へと向かった。
 そこで物音を聞いたってのは偽証だ。恐らくはその時に犯行に及んだんだろう。
 全部食べ終わってから事の重大さに気付いた妖夢は、この一件を幽々子の仕業にしてしまおうと思いついた。
 普段なら誤魔化しようが無いんだろうけど……何しろ今はこの法廷の存在があるからな。
 第三者が、犯人は幽々子だと断定してくれりゃそれで済む。
 白玉楼の住人が幽々子と妖夢だけだからこそ出来た、陳腐なシナリオだ。
 もっとも、そんなシナリオに今の今まで動かされてきたのも事実だけどな……」

うん、我ながら良く口が回る。
回りすぎて、自分が何を言ってるのかイマイチ分からんが、何とかなるだろう、多分。



がこん


「……私には分からなくなりました。犯人は一体誰なのか?
 弁護人の推理通りなら、確かに証人にも犯行は可能だったでしょう。
 ですがそれは、八雲紫についても同様です。
 また、被告の嫌疑が晴れたわけでもありません。
 ……そう、この事件には、決定的に証拠が不足しているのです」

即日判決なんて無茶な裁判を始めたあんたの責任じゃないのか。
と思ったけど、それは口には出さないでおく。

「弁護人に問います。
 貴方は何かしらの決定的な証拠を掴んだ上で、今の推理を展開したのですか?」
「ああ、勿論だ」

これは少し嘘だ。
しゃべっている内に思いついたのが正解だったりする。
まぁ過程はどうでもいい。
私の感が正しければ……全ては終わる。

「では、改めて伺います。
 魂魄妖夢が犯人であることを示す証拠品……それを提出してください」

私の感が正しいなら、これで全ては終わる。
と、いう訳で、最後まで決まりごとに乗っ取って行くとするか。



『くらえ!』



「これは……現場の写真ですね」
「もう何度も見たじゃないの、今更これに何があると言うの?」
「裁判長、もう一度この写真をよく見てくれ。
 戸棚がある箪笥の足元には、何が置かれてる?」
「……踏み台ですね」
「そう、踏み台だ。だが、こいつが昼には存在しなかったというのは、妖夢自身が証言している。
 とすると、これは犯人が持ち出したものって事になる」
「そうなりますね。でも、別におかしいことでは無いと思いますが。
 戸棚が高い位置にあるのだから、踏み台を必要とするのは当然ではないのですか?」
「あんたならそう考えても不思議じゃないだろう。
 ……でもな。知っての通り、幽々子は亡霊だ。意識することなく宙に浮いているような奴が……」



「踏み台なんて使うはずがない!!」
「……っ……」



言葉と同時に指を突きつけると、妖夢は呻くように唇を噛んだ。
分かりやすい奴だ。
そんな反応を見せたら、事実だと認めてるようなもんだってのにな。

「それともう一人、紫も例外なのは言うまでもなく分かるだろう。
 そもそも、あいつなら背丈からして、普通に手が届くしな。
 だが、残念なことに、白玉楼には若干発育の悪い奴が一人いるんだな、これが」
「発育じゃなくて成長……」
「更に決定的なのは、桜餅が昼食が終わるまでは存在していたのを、妖夢も幽々子も知っていたことだ。
 これで、第三者の犯行である可能性は消えた。
 重要な点にも関わらず誰も追求しなかったのが不思議だが……幸いにして本人が語ってくれたからな」


『異議あり!!』


「弁護人の推理は、すべて机上の空論に過ぎないわ!
 その踏み台にしても、幽々子がカモフラージュのために用意していたのかも知れないでしょう!」
 そんなものは確固たる証拠とは成りえない!」
「それなら最初から容疑者は妖夢になってただろう。
 だが、現実に幽々子は告発された側だ。これが事実なんだよ。
 ……まぁ、こうして言葉を並べるよりも、今の妖夢の様子のほうがずっと分かりやすいかな」

そして大袈裟に証言台へと視線を向ける。
握り締めた拳は震え、顔面は蒼白。
その姿が明確に真実を物語っている。

「だから何!? 表情で審判を下せるなら、役者はみんな無罪放免よ!
 何なら私が演じて見せてあげましょうか!?」
「無茶苦茶言いやがるなお前……」
「無茶は貴方のほうでしょう! 
 裁判長! こんな茶番で判決が覆るなど「もう、いいんです、咲夜さん」

勢い込む咲夜の言葉を遮る、か細い声。

「もう、いいんです。これ以上私に付き合う必要はありません」
「妖夢、貴方……」

「……魔理沙の言う通り、この事件の犯人は私です」

そして、終結を告げる音色だ。










「……何故、このような事を?」
「……」

妖夢は一瞬目を閉じ、そしてゆっくりと口を開いた。
長い、長い告白の始まりだった。




「昨晩は、お客様がいらしていた事もあって、深夜遅くまでどんちゃん騒ぎでした。
 と言っても、私は料理やら何やらで殆ど参加できませんでしたが。
 覚えている事と言えば、私の過去の失態を酒の肴にされていた事と、
 半霊に酒瓶をくくりつけられて昏倒しかかった事くらいです。
 結局お開きになったのは、朝日が出るような時間でした。
 それから幽々子様を部屋まで運び、更に宴会の後片付け、
 そして朝食と昼食の下ごしらえをしてから仮眠を取りました」


「目覚めは余り良くありませんでした。
 昨晩のアレのせいで二日酔い気味だったのもありますが、
 それ以上に仁王立ちする幽々子様が恐ろしかったんです。
 ……確かに寝過ごした私が悪かったんですけど、だからと言って朝食抜きは酷いと思います。
 幽々子様は二人分の朝食を平らげた後、私にお使いを命じられました。
 曰く、今日こそ春風堂の桜餅を入手して来なさい、と
 無論、私に拒否権はありませんので、一部のお掃除と昼食の準備を済ませた後、顕界へと下りました」


「結果は惨敗でした。丁度私の目前での完売……じゃなくて売り切れです。
 ですが、あまり悔しくはありませんでした。
 何故なら、昨晩のお土産があったからです」


「実のところ、あの桜餅は私個人が貰ったものだったんです。
 私も一応女の子ですから、甘いものはそれなりに好んで食します。
 以前にそれを話したからでしょうか、永琳さんが『幽々子には内緒にね』と下さったもの……それがあの桜餅です」
 

「でも、偶然とは言え、こうなっては独り占めする気にもなれません。
 私は、その桜餅を買ってきたものと偽って報告しました。
 幽々子様が喜んでくれるならそれで良い。と思ったんです、その時は」


「……でも、箱を手渡した時、幽々子様はこう仰られたのです。
 『ご苦労様妖夢。あ、これは希少なものだから妖夢は食べちゃ駄目だからね』と。
 そして、おやつの時間までお昼寝するから起こしてくれ、と」


「憤る心を何とか押さえつけて、台所へと向かってみると、空になった皿の山が私を出迎えてくれました。
 ……多分、一人分だと思われたのでしょう。
 それ自体は別段珍しい事でも無かったんです。
 むしろ皿を台所まで持って来て下さった事のほうが驚きなくらいです。
 ですが、昨晩から何も口にしていない身には流石に堪えました。
 運の悪いことに食料の備蓄も尽きていたので、買出しに行かない事にはどうにもなりません。
 そもそも、私には給金が与えられていないので、自由に使えるお金も無いんです」


「重なりすぎた状況は、私に邪な考えを抱かせました。
 どうして私ばかりがこんな目に合わなければいけないのかと。
 そして、白玉楼に残された食料は、例の桜餅のみ。
 ……私が居間の隠し戸棚へと手を伸ばすまでは、そう時間は掛かりませんでした。
 多分、その時は後の事なんて考えてなかったと思います。
 それともう一つ、春風堂の実力を甘く見ていた……というのもありました。


「我に返った時、箱の中身は空になっていました。
 後悔しても、もう後の祭り。桜餅は帰っては来ません。
 もし、この事実が幽々子様に知れたなら……想像もしたくありません。
 ……後は、魔理沙が推理した通りです」
 

「今だから分かります。きっと、これでよかったんだと。
 例えこのまま逃げ仰せたとしても、私は生涯後悔していたでしょう。
 己の我欲の為に事件を捏造し、数多くの方を巻き込み、あまつさえ主人に罪を擦り付けようとしたんですから。
 でも、最後の最後でやっと踏みとどまれた気がします」


「……ありがとう、魔理沙」












妖夢が係官に連れて行かれた後、法廷は沈黙に包まれていた。
余りにも下らない……そして悲しい事件だった。
せめてもの救いは、妖夢が最後に見せたのが笑顔だった事か。

「ようやく我々は真相へと辿りついたようですね。
 ……弁護人、お見事でした」
「それほどでもないわ」

って、おい。
何でそこでアリスが答えるんだ。
お前、後半一言も喋ってなかったじゃないか……。

「謙遜する必要はありませんよ。あなた方の機知こそが本件を真実へと導いたのは確かなのですから」

機知なのかなぁ。
どうも、全員が無駄に横道に逸れてた気がしないでも無いんだが。
特に裁判長が。

「何か言いました?」
「いや、何も」
「おほん……それでは、形式的なものではありますが、本件の判決を下したいと思います」
「……」

幽々子が伏目がちに証言台に立つ。
表情からは喜びの要素はほとんど感じ取れない。
……まぁ当然か。










がこん!



 「被告、西行寺幽々子を有罪とします!」












ワー……! ワー……!
 四季様……! 四季様……!


映姫が判決を述べた瞬間、観衆から一斉に歓声と拍手が沸きあがった。
いや、観衆だけじゃない。
咲夜も、小町も、紫も、皆がこの判決に心から賛同していた。
勿論、私とアリスもだ。
でもまぁ、どんな場所にも空気の読めない輩は存在するわけで。


『ちょっと待った!』


「な、何よその判決! 犯人妖夢だったでしょ!? 思いっきりシリアスに認めてたでしょ!?
 それなのに、どうして私が有罪になるの!? え? ギャグ?」

ただ一人、状況を飲み込めていなかった幽々子が、慌てて反論に走り始めた。
動揺の余りに、最後は反論ですら無くなってたけど。

「異議は認めません。上告もありません。控訴など口にするのもおこがましい。勿論ギャグでもありません。
 ……良いですか、被告人。貴方が犯した罪は軽く挙げるだけでも、
 暴行、器物破損、横領、公務執行妨害、殺人未遂、それに幼児虐待と労働基準法違反。
 しかも、態度を見る限りではまったく反省の色も見られないと来ました。
 情状酌量の余地は皆無、この判決は極めて妥当と考えます」
「よ、幼児って、いくら何でもそこまで幼くは……。
 じゃなくって、それって全部本件と関係無いじゃないの! そうでしょ!?」

激しいリアクションで周囲にアピールしているが、無駄なことだ。
今、この法廷の中で、あいつに好意的な視線を向ける奴なんているはずが無い。

「諦めろ幽々子。残念な結果だが、判決は絶対だぜ」
「そうね。私達も全力を尽くしたんだけど……」
「あ、貴方達図ったわね!?」
「図ったとは失敬だな。こいつは本能の成せる技だ」
「嫌だわ魔理沙ったら、それって認めちゃってるじゃないの」
「あ、そうか。いや失敗失敗」

「「HAHAHAHAHA」」

「アメリカン笑いなんかで誤魔化されて堪るものですか!
 やり直しを! やり直しを要求します! こんな事は許されないわ!
 悪しき前例を作ってはいけないのよ! きっと選手会から連絡が「では、これにて閉廷!」


がこん!












<弁護人控え室>


「はー疲れた疲れた。しかし、弁護人ってのも結構面白いもんだな」
「本来の法廷とはかけ離れてた気がするけど……ま、こういうのも偶には良いかもね」

結果的に上手く行ったからこんな事言えるんだろうな。
……敗訴だろうって? いいんだよ、形式的なものはどうでも。

「まさか咲夜を相手にするとは思わなかったけどな」
「そういえば彼女、なんで検事なんてしてたのかしら」
「さぁな、大方副業ってところじゃないか。確か紅魔館のメイドって無給だろ?」

そういえば、妖夢もそれが理由みたいなもんだったな。
あいつにお使いの代金を着服するくらいの度胸があれば、内輪の揉め事で済んだだろうに。
……だから咲夜もあんなにも庇おうとしたんだろうか。
同じ境遇の者同士、か。
鈴仙辺りが聞いたらどう思うのかな。
あいつが無給なのかは知らないけど、多分貰えてないだろうし。

「……夢じゃお腹は膨れない、か。現実はいつだって非情なのね」

遠い目をするなってば。
というかアリスが言うと、真実味がありすぎるぜ。

「何よその駄洒落」
「だから心の声を読むな、あと突っ込むポイントも違うぞ」



「それにしても……はぁ」
「どうした? ため息を付くと幸せが逃げる……って元々逃げるほど含有してないか」
「さり気なく酷い事言わないでよ!」
「違うぞ、堂々と言ったんだ」
「余計悪いわよ! ……じゃなくて、報酬の事よ。ちょっと、もったいなかったかなって」
「報酬?」
「そうよ。この結果って心情的には良かったと思うけど、
 幽々子が捕まった以上、約束はご破算じゃないの」
「あー? 何言ってるんだアリス。お前、気付いてなかったのか?」
「え? どういう事?」
「あのなあ、考えても見ろよ。あの幽々子が、わざわざ自分の手で蔵の管理なんてしてると思うか?」
「……あ……」
「やっと理解したか。妖夢を丸め込んだほうがむしろ手間が省けるんだよ。
 でなけりゃ、こんな判決に賛同するもんか」
「呆れた……でも、ある意味、魔理沙らしい気もするわ」
「褒めるなよ、照れるじゃないか」
「褒めてないわよ」


ま、こうして霧雨法律事務所の初日は終わった。
果たして二日目が訪れる時は来るのか? 
それは、誰にも分からない、ってな。


<完>




















<???>

「ふふふ、私の言った通りになったでしょう?」
「ええ、驚きました。でも、皆さんには悪い事をしてしまったような気もします」
「仕方ないわ。こうでもしないと幽々子は一生反省しそうにないもの。
 それに、結果には皆が満足していたんだから、貴方が気に病む必要なんて無いわ」
「そう言って下さるのは有難いです。……ただ」
「ただ?」



『ゆ、紫様!?』
『あら、ごきげんよう妖夢。お元気?』
『あ、はい、あまり元気ではありませんが……じゃなくて! 何をなさってるんですか!?』
『これがジルバを踊っているように見える? ……にしても美味しいわねコレ』
『希少品なんだから当たり前です! というか食べないでー!』
『もう、ケチ臭い事言わないの。ほら、あーん』
『あむあむ……道明寺の粒々感は一見粗野と思わせて実は繊細な仕上がり、
 甘さ控えめの餡と桜葉の風味が渾然一体となって……』
『ふふ、これで妖夢も共犯ね』
『……あ!!』



「……だと言うのに、どうして紫様だけがお咎め無しなんでしょうか」
「ま、あのお方の仕切る法廷なんてそんなものよ」
「……現実はいつだって非情なんですね」

どうも、YDSです。
後編お届けします。

逆転裁判をやってなくても楽しめる……そうなっていたら良いのですが、微妙です。
何もかもが微妙と言わざるを得ません。
やはりゲームという表現方法は凄いのだなぁと実感しました。

では幽々子様に謝りつつドロンさせて頂きます。
YDS
[email protected]
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コメント



0.3670簡易評価
6.80kt-21削除
>「被告、西行寺幽々子を有罪とします!」
あれーー?
って別件罪状かよ! 西行寺乙。
14.60K-999削除
幽々子様普通に非道いっス。
17.無評価名前が無い程度の能力削除
霧雨もMで、十六夜はSですね
あと主人とその妹にいじめられる中国とか
20.80名前が無い程度の能力削除
>外した。と気が付いたんだろうか、紫は少し顔を赤らめていた。
顔を赤らめたゆかりんを幻視して萌えた。

逆転裁判はなんか体験版っぽいのしかやったことないんですが、十分に楽しめましたw
22.90名前が無い程度の能力削除
逆転に次ぐ逆転で楽しめました。アバウトだなあ映姫様。
結局正義が勝ったーと思いきや紫様何やってんのさ。
45.80復路鵜削除
これはまた酷い幽々子様ですね。
逆転裁判は未プレイですが、それでも十分に楽しめました。
56.100名前が無い程度の能力削除
いやぁ笑った。ホントに笑った。 判決の部分で特に。
自分もゲームは未プレイですが楽しめました。
58.100ke削除
映姫様強いなあ。
前回ボコボコに痛めつけられてたのが嘘のようだw
76.100名前が無い程度の能力削除
ゆゆ様ひでぇ。
面白かったよ最高。
「……現実はいつだって非情なんですね」
この一言が全てな気がする。
80.100名前が無い程度の能力削除
えっと……とりあえずハッピ-エンド!!!
83.90名前が無い程度の能力削除
読みやすく面白い
何はともあれ・・・
紫wwwやっぱりお前が黒幕かww
85.80名前が無い程度の能力削除
ひでぇ
86.90名前が無い程度の能力削除
…四季様……四季様
……ワー……ワー

ナイス判決
89.100名前が無い程度の能力削除
この裁判なめてるようなアバウトさが逆裁の雰囲気を醸し出していて非常に良い。